サイト内検索

検索結果 合計:166件 表示位置:1 - 20

1.

リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

2.

術前補助療法+ニボルマブが乳がん患者の病理学的完全奏効を改善

 乳がんのタイプとして最も多いのは、エストロゲン受容体陽性(ER+)/ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2−)乳がんであり、乳がん全体の70%を占める。このタイプの乳がん患者では、補助化学療法に対する病理学的完全奏効(pCR)の達成率が低いことが知られている。しかし、術前補助療法に免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)を追加することで、ER+/HER2−乳がん患者のpCR達成率が向上したとする第3相臨床試験の結果が発表された。オプジーボの製造元であるブリストル・マイヤーズ スクイブ社の資金提供を受けて米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのHeather McArthur氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「Nature Medicine」に1月21日掲載された。 多くのがん細胞は、PD-L1という分子を発現してT細胞表面のPD-1と結合することで、T細胞の攻撃から逃れることが知られている。抗PD-1抗体であるニボルマブは、T細胞のPD-1に結合してがん細胞との相互作用を阻害することで、免疫にかけられたブレーキを解除し、T細胞の免疫機能を活性化させる。 この試験では、新たに乳がんと診断された、腫瘍グレードが2または3でER発現率が1〜10%のER+/HER2−の原発性乳がん患者521人を対象に、術前補助療法にニボルマブを追加することで、患者のpCR達成率が向上するかどうかが評価された。対象者は、アントラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬をベースにした術前補助療法にニボルマブを追加する群(ニボルマブ群)とプラセボを追加する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。 ニボルマブ群では、最初の12週間は、ニボルマブ360mgを3週間ごとに、タキサン系抗がん薬のパクリタキセルを毎週投与した。その後、ニボルマブ(360mgを3週間ごと、または240mgを2週間ごと)を、アントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドと併用した。プラセボ群では、同様のプロトコルでニボルマブの代わりにプラセボを投与した。最終的に、有効性に関してはニボルマブ群257人とプラセボ群253人を対象に、安全性に関してはそれぞれ262人と255人を対象に評価された。 その結果、pCR達成率は、ニボルマブ群で24.5%であったのに対しプラセボ群では13.8%にとどまっており、前者のpCR達成率の方が有意に高いことが明らかになった(P=0.0021)。特に、PD-L1の発現率が1%以上と判定された患者でのpCR達成率は、ニボルマブ群44.3%、プラセボ群20.2%であり、ニボルマブ群で大きな効果が得られた。安全性に関しては、これまでに報告されていない有害事象は認められなかったが、ニボルマブ群では5人が死亡し、うち2人の死因はニボルマブの毒性であることが確認された。プラセボ群では死亡例は認められなかった。 McArthur氏は、「これらの結果が治療を決定する際の情報として役立ち、それにより乳がん患者の転帰が改善し、最終的には治癒率の向上につながることを期待している」と述べている。

3.

新たな慢性血栓症、VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症の特徴/NEJM

 ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症(またはワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)は、血小板第4因子(PF4)を標的とする抗体と関連し、ヘパリン非依存性であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンまたはアデノウイルス感染によって誘発される急性の血栓症を特徴とする。オーストラリア・Flinders UniversityのJing Jing Wang氏らの研究チームは、VITT様抗体と関連する慢性的な血栓形成促進性の病態を呈する患者5例(新規症例4例、インデックス症例1例)について解析し、新たな疾患概念として「VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症(VITT-like monoclonal gammopathy of thrombotic significance:VITT-like MGTS)」を提唱するとともに、本症の治療では抗凝固療法だけでなく他の治療戦略が必要であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月12日号に短報として掲載された。本研究は、カナダ保健研究機構(CIHR)などの助成を受けた。従来のVITTとは異なる病態の血栓症の病因か 対象となった5例すべてが慢性の抗凝固療法不応性血栓症を呈し、間欠性の血小板減少症を伴っていた。これらの患者はM蛋白の濃度が低く(中央値0.14g/dL)、各患者でM蛋白がVITT様抗体であることが確認された。 また、PF4上の抗体のクローン型プロファイルと結合エピトープは、ワクチン接種やウイルス感染後に発症する急性疾患で観察されるものとは異なっており、これは別個の免疫病因を反映した特徴であった。さらに、VITT様抗体は、一般的なヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の抗体とは異なり、ヘパリン非依存性に血小板を活性化することが示された。 VITT様MGTSという新たな疾患概念は、このような従来のVITTとは異なる病態を示す慢性的な抗PF4抗体による血栓症の病因として、ほとんどの抗PF4障害、および明確な原因のない異常や再発性の血栓症を説明可能であることが示唆された。抗PF4抗体、M蛋白が新たな治療標的となる可能性 新規の4例の中には、VITT様の特性を有する血小板活性化抗PF4抗体が検出されたため、MGTSを疑い、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブによる治療を行ったところ、血栓症が抑制された症例を認めた。 また、従来の抗凝固療法を含むさまざまな治療を行っても、血栓症と血小板減少症が再発したため、MGTSを疑ってボルテゾミブ+シクロホスファミド+ダラツムマブ療法を施行したところ、血小板数が正常化し、M蛋白および抗PF4抗体が検出されなくなり、血栓症が改善した症例もみられた。 著者は、「慢性血栓症患者の診断に抗PF4抗体およびM蛋白の検査を追加することで、VITT様MGTSの早期発見が可能になると考えられる」「既存のVITT治療に加え、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)やイブルチニブ、ボルテゾミブ+ダラツムマブなどを適用することで、より効果的な治療戦略を構築できるだろう」「これらの知見は、他の自己免疫性血小板減少症や血栓症における新たな治療標的としての抗PF4抗体およびM蛋白の役割を研究する基盤となる」としている。

4.

未治療CLLへの固定期間のアカラブルチニブ併用療法、PFSを改善/NEJM

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、BTK阻害薬アカラブルチニブとBCL-2阻害薬ベネトクラクスの併用療法は、抗CD20抗体オビヌツズマブの追加有無にかかわらず、化学免疫療法と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のJennifer R. Brown氏らAMPLIFY investigatorsが27ヵ国133施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「AMPLIFY試験」で示された。未治療CLL患者において、アカラブルチニブ+ベネトクラクスの固定期間併用投与が、化学免疫療法と比べてPFSが優れるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2025年2月5日号掲載の報告。アカラブルチニブ+ベネトクラクス併用療法と医師選択化学免疫療法を比較 研究グループは、18歳以上、ECOG PS 0~2で、17p欠失またはTP53変異のない未治療CLL患者(>65歳はCumulative Illness Rating Scale for Geriatrics[CIRS-G]スコアが>6の場合は除外)を、アカラブルチニブ+ベネトクラクス(AV)群、アカラブルチニブ+ベネトクラクス+オビヌツズマブ(AVO)群、または化学免疫療法群に1対1対1の割合で、無作為に割り付けた。 AV群では、1サイクル28日として、アカラブルチニブ(100mgを1日2回)をサイクル1~14に、ベネトクラクス(20mgを1日1回から開始し5週間をかけて400mgを1日1回に増量)をサイクル3~14に投与した。 AVO群では、上記のAVに加えてオビヌツズマブ(1,000mg)をサイクル2~7の1日目に静脈内投与した。 化学免疫療法群では、医師選択によるフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブまたはベンダムスチン+リツキシマブを標準投与プロトコールに従い、サイクル1~6に投与した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFSで、AV群と化学免疫療法群を比較した(ITT解析)。アカラブルチニブ+ベネトクラクスのPFSが有意に延長 2019年2月25日~2021年4月5日に、1,141例がスクリーニングを受け、867例が無作為化された(AV群291例、AVO群286例、化学免疫療法群290例[フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ群143例、ベンダムスチン+リツキシマブ群147例])。患者背景は、年齢中央値61歳(範囲:26~86)、男性64.5%、IGHV(免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子)変異なし58.6%であった。 追跡期間中央値40.8ヵ月において、36ヵ月PFS率推定値はAV群76.5%(95%信頼区間[CI]:71.0~81.1)、AVO群83.1%(78.1~87.1)、化学免疫療法群66.5%(59.8~72.3)であり、化学免疫療法群に対するAV群の疾患進行または死亡のハザード比は0.65(95%CI:0.49~0.87、p=0.004)であった(AVO群と化学免疫療法群の比較のp<0.001)。 重要な副次評価項目である全生存期間(OS)については、36ヵ月OS率推定値がAV群94.1%、AVO群87.7%、化学免疫療法群85.9%であった。 主な臨床的に関心のある有害事象のうち、Grade3以上の好中球減少症はAV群、AVO群および化学免疫療法群でそれぞれ32.3%、46.1%、43.2%に報告された。また、新型コロナウイルス感染症による死亡はそれぞれ10例、25例、21例報告された。

5.

早期TN乳がんへの術後アテゾリズマブ、iDFSを改善せず(ALEXANDRA/IMpassion030)/JAMA

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、術後化学療法へのアテゾリズマブ上乗せは、ベネフィットが示されなかった。ベルギー・Institut Jules BordetのMichail Ignatiadis氏らが無作為化試験「ALEXANDRA/IMpassion030試験」の結果を報告した。TNBC患者は、転移のリスクが高く、若年女性や非ヒスパニック系の黒人女性に多いことで知られている。さらにStageII/IIIのTNBC患者は、最適な化学療法を受けても約3分の1が早期診断後2~3年に転移再発を経験し、平均余命は12~18ヵ月である。そのため、化学療法の革新にもかかわらずアンメットニーズが存在する。直近では、TNBC患者の早期治療戦略の1つは術後化学療法であったが、免疫療法を上乗せすることのベネフィットについては明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年1月30日号掲載の報告。31ヵ国330施設超で行われた第III相国際非盲検無作為化試験、iDFSを評価 ALEXANDRA/IMpassion030試験は、31ヵ国330施設超で行われた第III相の国際非盲検無作為化試験であり、初回治療として手術を受けた18歳以上のStageII/IIIのTNBC患者を対象とした。被験者登録は2018年8月2日~2022年11月11日、最終フォローアップは2023年8月18日であった。 被験者は1対1の割合で、標準化学療法(20週間)に加えアテゾリズマブの投与(最長1年間)を受ける群(アテゾリズマブ群、1,101例)または標準化学療法のみを受ける群(化学療法群、1,098例)に無作為化された。標準化学療法は、パクリタキセル80mg/m2を週1回12サイクルに続き、アントラサイクリン(エピルビシン90mg/m2またはドキソルビシン60mg/m2)+シクロホスファミド600mg/m2を2週間ごと4サイクル投与した。アテゾリズマブは、840mgを2週ごと10サイクル、その後1,200mgを3週間ごととし、最長で計1年間投与した。 主要評価項目は、無浸潤疾患生存期間(iDFS)で、無作為化から同側または対側乳房の浸潤乳がん発生、遠隔転移、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義した。 予定被験者登録数は2,300例であったが、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき2,199例で登録は中止となった。全患者が、計画された早期中間解析および無益性解析の後にアテゾリズマブの投与を中止された。試験は、前倒しされた最終解析まで継続した。iDFSイベント発生、アテゾリズマブ群12.8%、化学療法群11.4% 登録被験者の年齢中央値は53歳で、自己申告に基づく人種/民族は、ほとんどがアジア人または白人であり、ラテン系またはヒスパニックはわずかであった。 iDFSイベントが発生したのは、アテゾリズマブ群141例(12.8%)、化学療法群125例(11.4%)であり(追跡期間中央値32ヵ月)、最終的なiDFSの層別化ハザード比は1.11であった(95%信頼区間:0.87~1.42、p=0.38)。 化学療法群と比較して、アテゾリズマブ群ではGrade3または4の治療関連有害事象が多かったが(54% vs.44%)、死亡に至った有害事象(0.8% vs.0.6%)および試験中止に至った有害事象の発現は同程度であった。化学療法曝露は両群で同等であった。

6.

骨髄線維症、移植後30日目の変異消失が予後に関連/NEJM

 骨髄線維症患者において、移植後30日目におけるドライバー遺伝子変異の消失は、その種類に関係なく再発および生存に良好な影響を及ぼすことを、ドイツ・ハンブルグ・ エッペンドルフ大学医療センターのNico Gagelmann氏らが明らかにした。同種造血幹細胞移植は骨髄線維症に対する唯一の治癒的治療法である。この疾患の病態生理学的特徴はドライバー遺伝子変異であるが、移植後の変異の消失の影響は不明であった。NEJM誌2025年1月9日号掲載の報告。ドライバー遺伝子変異をモニタリング、予後との関連を評価 研究グループは、2000~23年にハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターにて初回移植を受けた原発性骨髄線維症または二次性骨髄線維症(真性多血症または本態性血小板血症に続発)の患者324例を対象に、移植前および移植後30日目、100日目、180日目にドライバー遺伝子変異をモニタリングし、変異の消失と再発および生存に及ぼす影響を検討した。 全例、移植の前処置には低強度ブスルファン+フルダラビンを用い、移植片対宿主病の予防は移植前に抗Tリンパ球グロブリン、移植後にカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンAまたはタクロリムス)とミコフェノール酸モフェチルまたはメトトレキサートの併用投与を行った。 主要エンドポイントは、再発および無病生存期間(DFS)の2つとした。副次エンドポイントは全生存期間(OS)であった。移植後30日目の変異消失が予後に関連 患者背景は、年齢中央値が60歳、62%が原発性骨髄線維症であった。また、ドライバー遺伝子変異は、JAK2変異238例(73%)、CALR変異73例(23%)、MPL変異13例(4%)に認められ、58%の患者が移植前にJAK阻害薬による治療を受けていた。 移植後30日目には、JAK2変異の42%(101/238例)、CALR変異の73%(53/73例)、MPL変異の54%(7/13例)が遺伝子変異の消失を認めた。移植後100日目の変異消失はそれぞれ63%(117/185例)、82%(60/73例)、100%(13/13例)であり、移植後180日目はJAK2変異が79%(134/169例)、CALR変異が90%(62/69例)であった。 再発の1年累積発生率は、移植後30日目に変異が消失した患者で6%(95%信頼区間[CI]:2~10)、消失しなかった患者で21%(15~27)であった。 6年DFS率および6年OS率は、移植後30日目に変異が消失した患者でそれぞれ61%および74%、消失しなかった患者で41%および60%であった。 移植後30日目の変異消失は従来のドナーキメリズムよりも奏効の指標として優れ、再発や進行のリスク低下と独立して関連していることが示唆された(ハザード比:0.36、95%CI:0.21~0.61)。多変量解析の結果、移植後30日目の変異消失の影響は、ドライバー遺伝子変異の種類(JAK2、CALR、MPL)よりも大きいことが示唆された。

7.

ポラツズマブ ベドチン+R-CHPのDLBCL1次治療、5年追跡でも有効性確認 (POLARIX)/ASH2024

 未治療のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する、ポラツズマブ ベドチンとR-CHPレジメンの併用は5年追跡結果でも、引き続き無増悪生存期間(PFS)ベネフィットが示された。 中等度または高リスクのDLBCLにおいてPola-R-CHPレジメンとR-CHOPレジメンを比較するPOLARIX試験の5年追跡結果 (カットオフ2024年7月5日) が第66回米国血液学会(ASH2024)で報告された。・試験デザイン:国際無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験・対象:未治療の成人(18~80歳)DLBCL(IPI指標2〜5)・試験群:ポラスズマブ ベドチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾン +リツキシマブ→リツキシマブ (Pola-R-CHP、440例)・対照群:シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン+リツキシマブ→リツキシマブ(R-CHOP、439例)・評価項目:【主要評価項目】治験担当医評価のPFS【副次評価項目】治験担当医評価の無イベント生存期間(EFS)、PET-CTによる完全奏効(CR)割合、盲検下独立中央判定(BICR)評価の全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値54.9ヵ月における5年PFS割合はPola-R-CHP群64.9%、R-CHOP群59.1%と、引き続きPola-R-CHP群で有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.62~0.97)。・5年CR持続(DOCR)割合はPola-R-CHP群71.8%、R-CHOP群66.5%であった(HR:0.75、95%CI:0.57〜1.00)。・5年OS割合は、Pola-R-CHP群82.3%、R-CHOP群79.5%であった(HR:0.85、95%CI:0.63〜1.15)。・後治療を受けた割合はPola-R-CHP群38.3%、R-CHOP群61.7%だった。 拡大集団では中国の121例が追加され、合計1,000例(Pola-R-CHP群500例、R-CHOP群500例)が評価された。・拡大集団におけるPFSのHRは0.80(95%CI:0.65〜0.98)、無病生存率のHRは0.81(95%CI:0.63〜1.05)、OSのHRは0.83(95%CI:0.62〜1.10)であった。・拡大集団におけるGrade3~5の有害事象(AE)発現率はPola-R-CHP群98.0%、R-CHOP群98.6%、Grade3/4のAE発現はそれぞれ62.6%と60.2%、Grade5の発現はそれぞれ2.8%と2.0%で、Pola-R-CHP群とR-CHOP群で同等だった。 5年追跡データの結果でも、Pola-R-CHPは未治療の中または高リスクDLBCL患者に対する標準治療であることが確認された。

8.

早期/局所進行TNBCの術前補助療法、camrelizumab追加でpCR改善/JAMA

 早期または局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の術前補助療法において、化学療法単独と比較して化学療法に抗PD-1抗体camrelizumabを追加すると、病理学的完全奏効(pCR)の割合を有意に改善し、術前補助療法期に新たな安全性シグナルは発現しなかったことが、中国・復旦大学上海がんセンターのLi Chen氏らが実施した「CamRelief試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年12月13日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 CamRelief試験は、早期または局所進行TNBCの術前補助療法におけるcamrelizumab追加の有益性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年11月~2023年5月に中国の40病院で患者を登録した(Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、StageIIまたはIIIの浸潤性TNBCの女性(性別は自己申告)で、乳がんに対する全身治療を受けておらず、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。 これらの患者を、術前補助療法(24週間)として、化学療法(2週ごと)との併用でcamrelizumab(200mg、2週ごと)またはプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法は、最初の16週間はnab-パクリタキセル(100mg/m2)とカルボプラチン(曲線下面積[AUC]1.5)を28日間(1サイクル)の1、8、15日目に投与し、次の8週間はエピルビシン(90mg/m2)とシクロホスファミド(500mg/m2)を2週ごとに投与した。その後、手術を行い、術後補助療法として、camrelizumab群はcamrelizumab 200mgを2週ごとに最長1年間投与+標準治療、プラセボ群は標準治療のみを受けた。 主要評価項目はpCRで、両乳房とリンパ節に浸潤性腫瘍がない状態(ypT0/Tis ypN0)と定義した。副次評価項目のデータは不十分 441例(年齢中央値48歳[範囲:22~75]、StageIII 158例[35.8%]、リンパ節転移あり331例[70.5%])を、camrelizumab群(222例)またはプラセボ群(219例)に無作為に割り付けた。camrelizumab群の198例(89.2%)とプラセボ群の200例(91.3%)が手術を受けた。無作為化後の追跡期間中央値は14.4ヵ月(範囲:0.0~31.8)だった。 pCRを達成した患者は、プラセボ群で98例(44.7%)であったのに対し、camrelizumab群では126例(56.8%)と有意に達成患者割合が高かった(達成率の群間差:12.2%、95%信頼区間[CI]:3.3~21.2、片側p=0.004)。 データカットオフ(2023年9月30日)の時点で、副次評価項目である無イベント生存、無病生存、遠隔無病生存のデータは不十分であったが、18ヵ月無イベント生存率はcamrelizumab群86.6%、プラセボ群83.6%(ハザード比:0.80、95%CI:0.46~1.42)、12ヵ月無病生存率はそれぞれ91.9%および87.8%(0.58、0.27~1.24)、12ヵ月遠隔無病生存率は91.9%および88.4%(0.62、0.29~1.33)だった。 また、手術前の画像上の奏効は、camrelizumab群が194例(87.4%)、プラセボ群は181例(82.6%)で達成された(群間差:4.7%、95%CI:-1.8~11.1)。術後補助療法期にも新たな安全性シグナルは認めない 術前補助療法期に、Grade3以上の有害事象はcamrelizumab群198例(89.2%)、プラセボ群182例(83.1%)に発現した。両群とも血液毒性が主で、白血球数の減少がそれぞれ73.4%および67.6%、好中球数の減少が80.2%および77.2%、貧血が30.2%および21.9%に認めた。また、重篤な有害事象は、それぞれ77例(34.7%)および50例(22.8%)に発現し、camrelizumab群で致死的有害事象を2例(0.9%)に認めた。 camrelizumab群では、205例(92.3%)に免疫関連有害事象を認め、21例(9.5%)がGrade3以上であった。最も頻度が高かったのはreactive capillary endothelial proliferation(195例[87.8%])で、このうちGrade3以上は5例(2.3%)だった。 また、術後補助療法期のcamrelizumabの継続投与では、Grade3以上の有害事象、重篤な有害事象、免疫関連有害事象に関して、新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「これらの結果を先行研究と統合すると、とくに高リスクの患者における強力化学療法レジメンと併用した場合のcamrelizumabの有益性が示され、早期または局所進行TNBCの新たな治療選択肢となる可能性を支持する知見と考えられる」としている。

9.

多発血管炎性肉芽腫症〔GPA:granulomatosis with polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の主要疾患の1つで、血清中に出現するANCAと小型血管(臓器内動静脈、細動静脈、毛細血管)の肉芽腫性炎を特徴とする。罹患血管には免疫複合体の沈着はほとんどみられない(pauci-immune)。■ 疫学GPAは国が定める指定難病で、2022年度末の指定難病受給者証所持者数は3,437人であり、登録患者数は徐々に増加している。世界的には100万人当たり96.8人の患者数が報告されている。GPAは、日本を含むアジアよりも欧州、とくに緯度が高い地域で多くみられる傾向がある。■ 病因GPAは他の自己免疫性リウマチ性疾患と同様に、遺伝的要因と環境要因が相まって発症すると考えられている。ヨーロッパおよび北米におけるヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連解析では、HLA-DPA1、DPB1遺伝子領域との関連が報告されており、臨床分類よりもPR3-ANCAとの関連がより強くみられる。日本人集団においてもDPB1*04:01の増加傾向が認められている。非HLA領域では、SERPINA1、PRTN3がヨーロッパ系集団で、ETS1の発現低下に関連する単塩基バリアントが日本人集団で関連することが報告されている。■ 症状GPAは発熱・倦怠感、体重減少、筋痛、関節痛などの全身症状と多彩な臓器症状を呈する疾患である。臓器病変は、眼(34~61%)、耳・鼻・咽喉頭(83~99%)、肺(66~85%)、心臓(8~25%)、消化管(6~13%)、腎臓(66~77%)、皮膚(33~46%)、中枢神経(8~11%)、末梢神経(15~40%)に出現する。眼病変、上・下気道病変、腎病変がとくに重要である。眼病変として、結膜炎、上強膜炎、強膜炎、眼球突出、鼻病変として鼻閉・膿性鼻汁・鼻出血、鼻粘膜の痂疲・潰瘍、鞍鼻、耳病変として滲出性または肉芽腫性中耳炎、咽喉頭病変として口腔内潰瘍、声門下狭窄による嗄声・呼吸困難がみられる。肺では肺肉芽腫性結節、肺胞出血、間質性肺炎がみられ、咳・息切れ・喀血などを呈する。腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎が典型的であり、しばしば急速進行性糸球体腎炎として発症する。■ 予後国内の前向きコホート研究では、治療開始後6ヵ月までの死亡率は1.9%で、治療開始後6ヵ月までに末期腎不全に至ったのは3.7%あった。中長期的には、治療に関連した副作用・合併症が問題となる。欧州における検討では、AAV患者を平均7.3年追跡すると65.6%の患者で治療に関連した副作用・合併症(高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、白内障など)がみられ、グルココルチコイドの早期減量・中止が重要と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国内における診断には指定難病の診断基準が広く用いられている。国際的には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で開発した分類基準(表1)を参考に診断することが多い。疾患特異的自己抗体として抗プロテイナーゼ3(抗PR3)抗体(PR3-ANCA)が知られている。活動期にはCRPが陽性となることが多い。GPAでみられる臓器病変を想定した問診と身体診察に血液検査と画像検査を組み合わせて診断および罹患臓器を検索し、活動性を評価する。表1 GPAの分類基準分類基準を使用する前に以下を考慮する。小・中型血管炎と診断された患者を多発血管炎性肉芽腫症に分類するために、本分類基準を適用すべきである。本分類基準を適用する前に、血管炎類似疾患の除外をすべきである。画像を拡大する10項目の中から該当項目のスコアを合計し、5点以上であれば多発血管炎性肉芽腫症に分類する。(難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班.多発血管炎性肉芽腫症の分類基準[2024年9月20日アクセス]より引用)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ANCA関連血管炎の中でGPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の標準治療は同一であり、難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班が作成した診療ガイドラインに示されている。標準治療は、寛解導入治療と寛解維持治療で構成される。さらに、長期予後を改善するために、合併症リスクを最小限に抑える必要がある。寛解導入治療ではリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかを、グルココルチコイドまたはアバコパン(商品名:タブネオス)またはその両者と併用する。リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体で、375mg/体表面積1m2を週に1回、4週連続で投与する。シクロホスファミドは15mg/kgを0、2、4、7、10、13週に点滴静注で投与するパターンが標準だが、投与量は年齢と血清クレアチニン濃度で調整し(表2)、投与回数と投与間隔は原疾患の重症度と安全性のバランスで調整する。シクロホスファミドは経口投与(1~2mg/kg/日)も可能だが、副作用の観点から点滴静注が望ましい。表2 年齢および腎機能によるシクロホスファミド投与量の調節画像を拡大する(Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.より引用)アバコパンは経口の補体C5受容体阻害薬で、1回30mgを1日2回朝・夕に内服する。アバコパンは原則的にグルココルチコイドと併用する。アバコパンは腎機能改善に有用である可能性が示されている。アバコパンの副作用として重症肝機能障害(胆道消失症候群を含む)が報告されているので、血管炎の治療に精通した施設での使用が望ましい。標準的な寛解導入療法で使用するグルココルチコイドの投与量は2つの臨床試験結果から、以前よりも大幅に減量された(表3)。表3 寛解導入治療におけるグルココルチコイド減療法画像を拡大する(Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.およびFuruta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.より引用)血清クレアチニン濃度が5.7mg/dLを超える最重症の腎障害を伴うGPAでは、グルココルチコイドとシクロホスファミドに血漿交換が併用される場合がある。MPAおよびGPAに対する血漿交換のメタ解析から、欧州リウマチ学会の推奨では血清クレアチニン濃度が3.4mg/dLを超える腎障害で血漿交換を考慮する場合があるとされている。リツキシマブにより寛解導入した場合には、治療開始後6ヵ月から寛解維持治療に移行し、シクロホスファミド点滴静注の場合には、最終投与後3~4週間で寛解維持治療に移行する。寛解維持治療はリツキシマブまたはアザチオプリンを用いる。寛解維持療法におけるリツキシマブ投与方法は、375mg/体表面積1m2を6ヵ月ごと、500mg/回を6ヵ月ごと、1,000mg/回を4ヵ月または6ヵ月ごとなどがある。アザチオプリンは1~2mg/kg/日を使用し、開始前にNUDT15遺伝子多型検査を実施する。寛解維持治療における有効性はアザチオプリンよりもリツキシマブが有意に優れている。GPAはMPAよりも再発しやすい。寛解維持治療中は症状および検査をモニタリングし、早期に再発の兆候を把握する。腎病変は症状なく再発することがあるため、尿検査を定期的に実施する。寛解維持治療期間は、リツキシマブでは1年6ヵ月よりも4年、アザチオプリンでは1年よりも2年6ヵ月以上が有意に再発を防ぐことが示されている。個々の患者における寛解維持治療期間は、治療開始前の疾患活動性、治療経過、再発歴、合併症を参考に検討する。4 今後の展望GPAの分類基準が改訂され、診断に関する検討は一段落したと考えられる。治療に関する課題として、アバコパンを寛解導入に使用する際に適切なグルココルチコイドの使用方法、リツキシマブの寛解維持療法の標準化、アバコパンの安全性、新規の抗B細胞治療などが挙げられる。5 主たる診療科膠原病リウマチ内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発血管炎性肉芽腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(患者とその家族および支援者の会)膠原病サポートネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)針谷正祥 責任編集. Evidence Base Medicineを活かす膠原病・リウマチ診療. メジカルビュー社.2020.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 針谷正祥ほか編集. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社.2023.3)Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 20242;83:30-47.4)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.5)Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.6)Furuta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.公開履歴初回2024年12月31日

10.

オンコタイプDX再発スコア≧31のHR+/HER2ー乳がん、アントラサイクリンによるベネフィット得られる可能性(TAILORx)/SABCS2024

 21遺伝子アッセイ(Oncotype DX)による再発スコア(RS)≧31の、リンパ節転移のないホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がん患者における術後療法として、タキサン+シクロホスファミド(TC)療法と比較したタキサン+アントラサイクリン/シクロホスファミド(T-AC)療法の5年無遠隔再発期間(DRFI)および無遠隔再発生存期間(DRFS)における有意なベネフィットが確認された。とくに明確にこのベネフィットが認められたのは、腫瘍径>2cmの患者であった。TAILORx試験の事後解析結果を、米国・シカゴ大学のNan Chen氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で報告した。 TAILORx試験では、Oncotype DXによるRSに基づき低リスク(RS:0〜10)、中間リスク(同:11〜25)、高リスク(同:26〜100)に分類している。今回の解析では中~高リスク患者のうち、T-ACまたはTCによる化学療法を受けた患者のデータが分析された。中間リスクの患者は内分泌療法のみまたは内分泌療法+医師選択による化学療法のいずれかに無作為に割り付けられ、高リスクの患者は内分泌療法+医師選択による化学療法を受けていた。 年齢、RS、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、エストロゲン/プロゲステロン受容体の状態による調整ハザード比(aHR)を使用して、T-AC群とTC群におけるDRFI率、DRFS率、および全生存期間(OS)を比較。結果はRS<31または≧31で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・本解析の適格条件を満たした2,549例のうち、438例がT-AC療法、2,111例がTC療法を受けていた。・患者特性は年齢中央値がT-AC群53.0歳vs.TC群55.1歳、閉経後が58.4% vs.64.4%、RS 11〜25が44.7% vs.73.6%/26〜30が15.8% vs.11.9%/31〜100が39.5% vs.14.5%であった。・T-AC療法群でのレジメンは、dose-dense AC-T療法が42.5%、標準的AC-T療法が25.1%、TAC療法が13.0%、その他のアントラサイクリン/タキサンレジメンが19.4%であった。・5年DRFI率は、RS<31の患者ではT-AC群97.0% vs.TC群97.6%(aHR:1.24、p=0.484)、RS≧31の患者では96.1% vs.91.0%(aHR:0.32、p=0.009)となり、RS≧31の患者においてT-AC群で有意に改善した。・RS≧31の患者における5年DRFS率はT-AC群95.4% vs.TC群89.8%とT-AC群で有意に改善し(aHR:0.47、p=0.031)、5年OS率は97.3% vs.93.5%とT-AC群で良好な傾向がみられた(aHR:0.546、p=0.167)。・RS≧31の患者における5年DRFI率およびDRFS率のサブグループ解析の結果、DRFI率はすべてのサブグループにおいてT-AC群で良好な傾向がみられたが、DRFS率については腫瘍径>2cmではT-AC群で良好(HR:0.23、95%信頼区間[CI]:0.08~0.69)であった一方、≦2cmではTC群で良好な傾向がみられた(HR:1.32、95%CI:0.51~3.43)。・RS≧31の患者において、閉経状態ごとに5年DRFI率をみると、閉経前の患者でT-AC群96.9% vs.TC群84.4%(aHR:0.20、p=0.032)、閉経後の患者で95.6% vs.93.4%(aHR:0.25、p=0.028)であり、閉経状態によらずT-AC群で良好な傾向がみられた。・スプライン回帰モデルによりTC療法と比較したT-AC療法のDRFIへの影響は、RS 20ではaHR:0.96(95%CI:0.53~1.75)、RS 30ではaHR:0.79(95%CI:0.45~1.39)、RS 40ではaHR:0.60(95%CI:0.34~1.05)、RS 50ではaHR:0.45(95%CI:0.21~0.96)と推定され、RSの増加に伴いアントラサイクリンによるベネフィットが増すことが示唆された。 Chen氏は、事後解析であるため今回のエンドポイントを評価するために設計されていないことなどを限界として挙げたうえで、多遺伝子アッセイで高リスク、リンパ節転移陰性のHR陽性HER2陰性乳がん患者では、アントラサイクリンの使用が検討されるべきではないかとしている。

11.

高リスクHR+/HER2-早期乳がんの術前療法、HER3-DXd単独vs.内分泌療法併用(SOLTI VALENTINE)/SABCS2024

 高リスクのHR+/HER2-早期乳がん患者の術前療法として、HER3-DXd単独、HER3-DXdとレトロゾール併用、化学療法を比較した第II相SOLTI VALENTINE試験の結果、HER3-DXdによる治療はレトロゾールの有無にかかわらず化学療法と同程度の病理学的完全奏効(pCR)を示し、Grade3以上の有害事象の発現は少なかったことを、スペイン・Vall d’Hebron University HospitalのMafalda Oliveira氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で発表した。 高リスクのHR+/HER2-早期乳がんでは、化学療法と内分泌療法の両方が有効であるにもかかわらず、再発リスクが長期にわたって持続するため、転帰を改善するための新たな戦略が必要とされている。HER3-DXdは、HER3を標的とするファーストインクラスの抗体薬物複合体で、複数の乳がんサブタイプに活性を示す可能性がある。そこで研究グループは、術前療法としてのHER3-DXd(±レトロゾール)の有効性と安全性を評価することを目的として研究を実施した。 なお、2022年の欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2022)で発表されたSOLTI TOT-HER3試験において、HR+/HER2-早期乳がん患者に対するHER3-DXdの術前単回投与が、pCRの予測スコアとして開発されたCelTILスコアの有意な増加および臨床的奏効と関連していたことが報告されている。<SOLTI VALENTINE試験>・試験デザイン:並行群間非盲検無作為化非比較試験・対象:手術可能なStageII/IIIで高リスク(Ki67≧20%および/または高ゲノムリスク[遺伝子シグネチャーで定義])のHR+/HER2-早期乳がん患者・試験群1(HER3-DXd群):HER3-DXd 5.6mg/kgを21日ごとに6サイクル・試験群2(HER3-DXd+LET群):HER3-DXd(同上)とレトロゾール2.5mgを1日1回(±LH-RHアゴニスト)・比較群(化学療法群):ECまたはAC療法(エピルビシン90mg/m2またはドキソルビシン60mg/m2+シクロホスファミド600mg/m2を14日または21日ごと)を4サイクル→パクリタキセル80mg/m2の毎週投与を12週間・評価項目:[主要評価項目]手術時のpCR(ypT0/is ypN0)率[副次評価項目]全奏効率(ORR)、CelTILスコアの変化、Ki-67値の変化、PAM50サブタイプの変化、再発リスクスコア(ROR)、安全性、無浸潤疾患生存期間・データカットオフ:2024年4月22日 主な結果は以下のとおり。・2022年11月~2023年9月に122例の患者が2:2:1にHER3-DXd群(50例)、HER3-DXd+LET群(48群)、化学療法群(24群)に無作為に割り付けられた。・全体の年齢中央値は51(29~82)歳、女性が99.2%、閉経前が52.9%であった。cT3/4はHER3-DXd群が42.0%、HER3-DXd+LET群が39.6%、化学療法群が29.2%、リンパ節転移陽性が76.0/77.1/75.0%、StageIIIが36.0/39.6/29.2%、Ki67中央値が35/37/35、HER3-highが80.6/83.8/88.2%、PAM50によるLuminal Bが54.0/60.4/47.8%であった。・主要評価項目である手術時のpCR率は、HER3-DXd群4.0%(95%信頼区間[CI]:0.5~13.7)、HER3-DXd+LET群2.1%(0.1~11.1)、化学療法群4.2%(0.1~21.1)であった。・ORRはHER3-DXd群70.0%(95%CI:55.4~82.1)、HER3-DXd+LET群81.3%(67.4~91.1)、化学療法群70.8%(48.9~87.4)であった。・Ki67中央値の低下は、HER3-DXd+LET群で最も顕著であった。・PAM50によるLuminal BからLuminal A/Normal-likeサブタイプへの変化は3群ともに2サイクル目の1日目に観察され、手術時にはさらに増強した。・CelTILスコアの有意な増加はHER3-DXd群およびHER3-DXd+LET群では認められたが、化学療法群では有意ではなかった。・ROR-high/mediumからROR-lowへの変化は3群ともに認められた。・治療有害事象(TEAEs)はHER3-DXd群96.0%、HER3-DXd+LET群97.9%、化学療法群95.8%に発現し、うちGrade3以上は14.0/14.6/45.8%であった。減量や治療中断・中止に至るTEAEsはHER3-DXd群で少なかった。間質性肺疾患や治療に関連する死亡は報告されなかった。・HER3-DXd群およびHER3-DXd+LET群で多く報告されたTEAEsは、悪心、脱毛、疲労、下痢などであった。 これらの結果より、Oliveira氏は「SOLTI VALENTINE試験は、HER3-DXdの早期乳がんにおける有効性および高リスクのHR+/HER2-乳がんにおける可能性を支持するものである」とまとめた。

12.

重症βサラセミアへのbeti-cel、89%が輸血非依存性を達成/Lancet

 重症βサラセミアを引き起こす遺伝子型(β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110)を有する輸血依存性βサラセミア(TDT)患者において、betibeglogene autotemcel(beti-cel)の投与により約90%の患者が輸血非依存状態になったことが示された。米国・ペンシルベニア大学のJanet L. Kwiatkowski氏らが、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、米国の8つの医療施設で実施した第III相非無作為化非盲検単群試験「HGB-212試験」の結果を報告した。TDTは、生涯にわたる輸血、鉄過剰症および関連合併症を伴う重篤な疾患である。beti-celによる遺伝子治療は、BB305レンチウイルスベクターで形質導入した自己造血幹細胞および前駆細胞を使用するもので、輸血非依存性を可能にする。著者は、「beti-celは、重症TDT患者においてほぼ正常なヘモグロビン値を達成する可能性があり、同種造血幹細胞移植のリスクや限界がなく、治癒を目指す治療選択肢になると考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年11月8日号掲載の報告。主要アウトカムは輸血非依存状態 HGB-212試験の対象は、β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型を有し、登録前2年間に100mL/kg/年以上の濃厚赤血球(pRBC)輸血歴または年間8回以上のpRBC輸血歴がある臨床的に安定した50歳以下のTDT患者であった。 HSPC動員ならびに用量調整ブスルファンを用いた骨髄破壊的前処置を行った後、beti-celを静脈内投与し、24ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、輸血非依存状態(pRBC輸血なしでHb濃度加重平均9g/dL以上が12ヵ月以上持続)の患者の割合で、beti-celの投与を受けたすべての患者(移植対象集団)を解析対象集団とした。安全性は、試験の治療を開始したすべての患者(ITT集団)を対象に評価した。89%が主要アウトカムを達成 2017年6月8日~2020年3月12日に、20例がスクリーニングされた。1例は進行性肝疾患を有しており適格基準を満たさず、1例はHSPC動員およびアフェレーシス後に試験同意を撤回したため、beti-cel投与患者は18例であった。 男性が10例(56%)、女性が8例(44%)で、同意取得時に18歳未満が13例(72%)、18歳以上が5例(28%)であった。また、β0/β0遺伝子型が12例(67%)、β0/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)、β+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)であった。 beti-celを投与された18例全例が、主要アウトカムの評価対象となった。2023年1月30日時点(追跡期間中央値47.9ヵ月[範囲:23.8~59.0])において、18例中16例(89%)が輸血非依存状態を達成した(推定効果量:89.9%[95%信頼区間:65.3~98.6])。 有害事象は、18例全例に認められたが、beti-celとの関連が疑われる重篤な有害事象は認められず、死亡例も報告されなかった。 全例が第III相試験を完了し、現在進行中の13年間の長期追跡試験「LTF-303試験」に登録された。

13.

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

14.

早期TN乳がん、多遺伝子シグネチャー活用で予後改善/BMJ

 切除可能なトリプルネガティブ(TN)乳がんの予後は満足のいくものではなく、術後補助化学療法の最適化が必要とされている。中国・復旦大学上海がんセンターのMin He氏らは、開発した多遺伝子シグネチャーを用いてリスク層別化を行い、それに基づく高リスク患者に対してアントラサイクリン/タキサンベースの治療にゲムシタビン+シスプラチンを組み合わせた強化レジメンが、無病生存期間(DFS)を改善し毒性は管理可能であったことを示した。BMJ誌2024年10月23日号掲載の報告。統合mRNA-lncRNAシグネチャーを用いてリスク層別化、DFSを評価 研究グループは2016年1月3日~2023年7月17日に、中国の7つのがんセンターで、切除可能なTN乳がん患者に対して多遺伝子シグネチャーを用いることで、最適な個別化補助療法の提供が実現可能かを評価する多施設共同第III相無作為化試験を行った。 被験者は、早期TN乳がんで根治手術を受けた18~70歳の女性。研究グループが開発した、統合されたmRNA-lncRNAシグネチャー(3つのmRNA[FCGR1A、RSAD2、CHRDL1]、2つのlncRNA[HIF1A-AS2、AK124454])を用いてリスク層別化を行い、高リスク患者を強化補助化学療法(ドセタキセル+エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル後、ゲムシタビン+シスプラチンを4サイクル)を受ける群(A群)、または標準療法(エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル後、ドセタキセルを4サイクル)を受ける群(B群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。低リスクの患者はB群と同様の補助化学療法を受けた(C群)。 主要評価項目は、A群vs.B群についてITT解析で評価したDFS。副次評価項目は、B群vs.C群のDFS、無再発生存期間(RFS)、全生存期間(OS)および安全性などであった。強化補助化学療法vs.標準療法、3年DFS率のHRは0.51 504例が登録され(A群166例、B群170例、C群168例)、498例が試験の治療を受けた。追跡期間中央値45.1ヵ月の時点で、3年DFS率はA群90.9%、B群80.6%であった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.28~0.95、p=0.03)。 3年RFS率は、A群92.6%、B群83.2%(HR:0.50、95%CI:0.25~0.98、p=0.04)。3年OS率は、A群98.2%、B群91.3%(0.58、0.22~1.54、p=0.27)であった。 同様の化学補助療法を受けたB群vs.C群の評価では、C群のほうがDFS率が有意に高率であり(3年DFS率:C群90.1% vs.B群80.6%、HR:0.57[95%CI:0.33~0.98]、p=0.04)、RFS率(3年RFS率:94.5% vs.83.2%、0.42[0.22~0.81]、p=0.007)、OS率(3年OS率:100% vs.91.3%、0.14[0.03~0.61]、p=0.002)もC群が有意に高率であった。 Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、A群で64%(105/163例)、B群で51%(86/169例)、C群で54%(90/166例)であった。治療に関連した死亡は報告されなかった。

15.

多発性骨髄腫におけるCAR-T細胞の製造不良の要因/京都大学

 CAR-T細胞療法は、再発難治多発性骨髄腫の管理を大幅に改善した。しかしCAR-T細胞には、製造過程で一部に発生する細胞増殖不良による「製造不良」という問題がある。製造不良は治療の大きな遅れや、その間の病勢進行につながるため、治療計画に重大な影響を与える。製造不良の実態把握とリスク因子の同定が急務とされていた。 そのようななか、骨髄腫患者におけるCAR-T細胞製造不良リスクを特定するため、日本でide-cel(商品名:アベクマ)治療を受けた患者の全国コホート研究が実施された。対象はide-cel投与のための白血球アフェレーシスを受けた患者である。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は154例で、そのうち13例(8.4%)で製造不良が発生した。・製造不良例では成功例に比べ、診断時の17p欠失率が高く(38.5% vs.14.9%)、アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤治療が多く(53.8% vs.23.4%)、またアフェレーシス前の化学療法ライン数が多かった(中央値6 vs.5)。・製造不良例では成功例に比べ、ヘモグロビン値(8.6 vs.10.0g/dL)、血小板数(5.9 vs.13.8x104/μL)、CD4/CD8比(0.169 vs.0.474)が有意に低かった。・アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤使用は、血小板数とCD4/CD8比低下に関連していた。

16.

急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

17.

レトロウイルス感染症-基礎研究・治療ストラテジーの最前線-/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が京都市で開催され、12日のPresidential Symposiumでは、Retrovirus infection and hematological diseasesに関し5つの講演が行われた。本プログラムでは、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発がんメカニズムや、ATLの大規模全ゲノム解析の結果など、ATLの新たな治療ストラテジーにつながる研究や、ATLの病態解明に関して世界に先行し治療開発にも大きく貢献してきた日本における、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連疾患の撲滅といった今後の課題、AIDS関連リンパ腫に対する細胞治療や抗体療法の検討、HIVリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法など、最新の話題が安永 純一朗氏(熊本大学大学院生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学)、片岡 圭亮氏(慶應義塾大学医学部 血液内科)、石塚 賢治氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 人間環境学講座 血液・膠原病内科学分野)、岡田 誠治氏(熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 造血・腫瘍制御学分野)、白川 康太郎氏(京都大学医学部附属病院 血液内科)より報告された。ATLの発がんメカニズムに関与するHTLV-1 bZIP factor(HBZ)およびTax HTLV-1はATLの原因レトロウイルスであり、細胞間感染で感染を起こす。主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞クローンを増殖させる。HTLV-1がコードするがん遺伝子にはTaxおよびHBZ遺伝子が含まれ、Taxはプラス鎖にコードされ一過性に発現する。一方、HBZはマイナス鎖にコードされ恒常的に発現する。これらの遺伝子の作用により、感染細胞ががん化すると考えられる。HBZはATL細胞を増殖させ、HBZトランスジェニックマウスではT細胞リンパ腫や炎症が惹起される。また、HBZタンパクをコードするだけでなく、RNAとしての機能など多彩な機能を有している。HBZトランスジェニックマウスではHBZが制御性Tリンパ球(Treg)に関連するFoxp3、CCR4、TIGITなどの分子の発現を誘導、TGF-β/Smad経路を活性化してFoxp3発現を誘導し、この経路の活性化を介し、HTLV-1感染細胞をTreg様に変換し、HTLV-1感染細胞、ATL細胞の免疫形質を決定していると考えられる。 ATL症例の検討では、TGF-β活性化により、HBZタンパク質は転写因子Smad3などを介しATL細胞核内に局在し、がん細胞の増殖が促進される。HBZ核内局在はATL発症において重要であり、TGF-β/Smad経路はATL治療ストラテジーの標的になりうると考えられる。Taxはウイルスの複製やさまざまな経路の活性化因子であり、宿主免疫の主な標的であり、ATL細胞ではほぼ検出されない。ATL細胞株のMT-1はHTLV-1抗原を発現するが、MT-1細胞ではTaxの発現は一過性である。また細胞発現解析では、Tax発現が抗アポトーシス遺伝子の発現増加と関連し、細胞増殖の維持に重要であることが示された。ATL症例では約半数にTaxの転写産物が検出され、Taxの発がんへの関与が考えられる。発がんメカニズムに関与するHBZおよびTax遺伝子の多彩な機能の解析がATLの治療ストラテジーの開発につながると考えられる。ATLの全ゲノム解析―遺伝子異常に基づく病態がより明らかに ATLは、HTLV-1感染症に関連する急速進行性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL:peripheral T-cell lymphoma)であり、ATL発症時に重要な役割を果たす遺伝子異常について、全エクソン解析や低深度全ゲノム解析など網羅的解析が行われてきた。しかし、構造異常やタンパク非コード領域における異常など、ATLのゲノム全体における遺伝子異常の解明は十分ではなかった。 今回実施された、ATL150例を対象とした大規模全ゲノム解析は、腫瘍検体における異常の検出力がこれまでの解析より高い高深度全ゲノム解析(WGS)である。タンパクコード領域および非コード領域における変異、構造異常(SV)、コピー数異常(CNA)を解析した結果、56個のドライバー遺伝子が同定され、56個中CICなど11個の新規ドライバー遺伝子があり、このうちCIC遺伝子はATL患者の33%が機能喪失型の異常を認め、CIC遺伝子の長いアイソフォームに特異的な異常(CIC-L異常)であり、ATLにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能していた。さらに、CIC遺伝子とATN1遺伝子異常の間には相互排他性が見られ、CIC-ATXN1複合体はATL発症に重要な役割を果たすと考えられた。また、CIC-LノックアウトマウスではFoxp3陽性T細胞数が増加しており、CIC-LがT細胞の分化・増殖を制御するうえで選択的に作用すると考えられた。 また、ATL新規ドライバー遺伝子RELは、遺伝子後半が欠損する異常をATL患者の13%に認め、遺伝子の構造異常はATL同様、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)でも高頻度に認められた。REL遺伝子の構造異常はREL発現上昇やNF-κB経路の活性化と関連し、腫瘍化を促進すると考えられた。 ATLにおけるタンパク非コード領域、とくにスプライス部位の変異の集積が免疫関連遺伝子を中心に繰り返し認められ、ATLのドライバーと考えられた。今回の解析で得られたドライバー遺伝子異常の情報をクラスタリングし、2つのグループに分子分類した結果、両群の臨床病型や予後が異なることが示された。全ゲノム解析研究はATLの新たな診断および治療薬の開発につながると考えられる。ATL治療の今後 ATLは、aggressive ATL(急性型、リンパ腫型、予後不良因子を有する慢性型)とindolent ATL(くすぶり型、予後不良因子を有さない慢性型)に分類され、それぞれ異なる治療戦略が取られる。aggressive ATLの標準治療(SOC)は多剤併用化学療法であり、VCAP-AMP-VECP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン―ドキソルビシン+ラニムスチン+プレドニゾロン―ビンデシン+エトポシド+カルボプラチン+プレドニゾロン)の導入により、最終的に生存期間中央値(MST)を1年以上に延長することが可能となった。同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)はHTLV-1キャリアの高齢化に伴い、全身状態が良好な70歳未満の患者におけるSOCとして施行される。2012年以降、日本ではモガムリズマブ、レナリドミド、ブレンツキシマブ ベドチン、ツシジノスタット、バレメトスタットの5剤が新規導入され、初発例に対するモガムリズマブおよびブレンツキシマブ ベドチン+抗悪性腫瘍薬の併用や、再発・難治例に対する単剤療法として使用されている。indolent ATLに対しては日本では無治療経過観察であるが、海外では有症候の場合IFN-αとジドブジン(IFN/AZT)の併用が選択される。しかし、いずれもエビデンス不足であり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は両群の治療効果を確認する第III相試験を進行中であり、結果は2026年に公表予定である。 日本の若年HTLV-1感染者は明らかに減少し、新規に診断されたATL患者は高齢化し、70歳以上と予測される。この動向は2011年から開始された母乳回避を推奨し、母子感染を抑止する全国的なプログラムによりさらに推進されると考えられる。今後は高齢ATL患者に対するより低毒性の治療法の確立と、全国プログラムの推進によるHTLV-1感染、およびATLなどHTLV-1関連疾患の撲滅が課題である。AIDS関連悪性リンパ腫の現状 リンパ腫はAIDSの初期症状であり、AIDS関連悪性リンパ腫はHIV感染により進展し、AIDS指標疾患として中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)および非ホジキンリンパ腫が含まれる。悪性腫瘍は多剤併用療法(cART)導入後もHIV感染者の生命を脅かす合併症であり、リンパ腫はHIV感染者の死因の最たるものである。HIV自体には腫瘍形成性はなく、悪性腫瘍の多くは腫瘍ウイルスの共感染によるものである。 エプスタイン・バーウイルス(EBV)およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)はAIDS関連リンパ腫の最も重要なリスクファクターであり、HIV感染による免疫不全、慢性炎症、加速老化、遺伝的安定性はリンパ腫形成を亢進すると考えられている。AIDS関連リンパ腫ではEBV潜伏感染が一般的に見られ、EBV感染はDLBCL発症と深く関連するが、予後不良な形質芽球性リンパ腫(PBL)、原発性滲出性リンパ腫(PEL)との関連は不明である。バーキットリンパ腫(BL)、およびPBLは最近増加している。BLおよびホジキンリンパ腫(HD)の治療成績と予後はおおむね良好である。 AIDS関連悪性リンパ腫の治療はこれまで抗腫瘍薬と、プロテアーゼインヒビター(PI)のCYP3A4代謝活性阻害による薬物相互作用の問題があった。近年、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の導入によりCYP3A4阻害が抑えられ、AIDS関連悪性リンパ腫患者の予後は非AIDS患者と同等になっている。 高度免疫不全マウスにヒトPEL細胞を移植したPELマウスモデルでは、PELにアポトーシスが誘導された。AIDS関連リンパ腫に対する細胞療法や抗体療法の効果が期待される。リザーバー細胞を標的としたHIV根治療法 抗レトロウイルス療法(ART)により、HIVは検出不可能なレベルにまで減少できるが、ART中止数週間後に、HIVは潜伏感染細胞(リザーバー)から複製を開始する。HIV根治達成には、HIVリザーバーの体内からの排除が必要である。 HIV根治例は2009年以来、現在まで世界で7例のみである。全例が白血病など悪性腫瘍を発症し、同種造血幹細胞移植(SCT)を受け、数年はARTなしにウイルス血症のない状態を維持した。最初のHIV根治例はCCR5Δ32アレルに関してホモ接合型(homozygous)であるドナーからSCTを受けた症例であり、5例がこのSCTを受けた。 キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法はHIV感染症領域への応用が期待されている。そこで、アルパカを免疫して作製したVHH抗体をもとに、より高効率にHIVに対する中和活性を示す抗HIV-1 Env VHH抗体を開発した。新たなHIV感染症の治療として、CAR-T療法への応用などを試みている。 HIVリザーバー細胞を標的として排除するアプローチとして、latency reversal agents(LRA)によるshock and killが提唱され、HIV根治のためのLRA活性を有するさまざまな薬剤の研究、開発が進められている。HIV潜伏感染細胞モデル(JGL)を用いたCRISPRスクリーニングにより、4つの新規潜伏感染関連遺伝子、PHB2、HSPA9、PAICS、TIMM23が同定され、これら遺伝子のノックアウトによりHIV転写の活性化が誘導され、潜伏感染細胞中にウイルスタンパクの発現が認められた。また、PHB2、HSPA9、TIMM23のノックアウトにより、ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)が誘導された。Mitophagy activatorのウロリチンA(UA)およびその他のマイトファジー関連化学物質は、潜伏細胞実験モデルにおいてHIV転写を再活性することが示され、in vivoにおけるHIV再活性化の誘導についての臨床試験が検討されている。 ウイルス酵素をターゲットとする最近のART療法ではHIV根治は望めず、ウイルス産生が可能なリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法が求められている。 本プログラムでは、ATLやAIDS関連リンパ腫などの病態解明や治療法について最新の話題が報告され、今後の治療ストラテジーの開発につながることが期待される。

18.

「永遠の化学物質」PFASが睡眠障害を引き起こす可能性も

 血液中の「永遠の化学物質」とも呼ばれる有機フッ素化合物の「PFAS」が、若年成人の睡眠障害と関連していることが、米南カリフォルニア大学(USC)のグループによる研究で示された。PFASは有機フッ素化合物のペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称で、この研究からはPFASのうち4種類の物質の血中濃度が睡眠障害と関連していることが明らかになった。詳細は、「Environmental Advances」10月号に掲載された。 PFASは、テフロン加工された調理器具やシャンプーなど、さまざまな製品に使用されているが、何十年もの間、環境中に残留する可能性がある。また、食品や水と一緒に体内に摂取される可能性も考えられる。研究グループによると、米国人の大多数において、血中のPFAS濃度は検出可能レベルであるという。 この研究は、USCの別の研究で数年前に血液採取を受けた19~24歳の男女136人(試験開始時の平均年齢19.45歳)を対象に実施された。研究参加者は睡眠時間と睡眠の質に関する情報も提供しており、136人中76人は追跡調査も受けていた。対象者の7種類のPFASの血中濃度を測定し、「低」から「高」までの3つのカテゴリーに分けた。 その結果、7種類のPFASのうち、4種類(PFDA、PFHxS、PFOA、PFOS)が睡眠障害に関連していることが明らかになった。具体的には、ベースラインからPFDA濃度のカテゴリーが1段階上がることは、毎晩の睡眠時間の平均0.39時間の短縮と関連していた。また、追跡調査の結果からは、PFHxSとPFOAの濃度のカテゴリーが1段階上がることは、平均で0.39時間と0.32時間の睡眠時間の短縮と関連していた。一方、PFOS濃度のカテゴリーが1段階上がることは、睡眠障害スコアの2.99点の増加、睡眠関連障害スコアの3.35点の増加と関連していた。 論文の筆頭著者で、USCケック医学校のShiwen Li氏は、「われわれが検出した血液中のPFASは、おそらく出生後の曝露によるものだが、出生前の胎児期の曝露に起因している可能性もある」と述べている。 研究グループは、これら4種類のPFASについて分析するため、化学物質と疾患、遺伝子発現の変化の関連についての研究をまとめたデータベースを使用し、PFASの影響を受ける遺伝子と睡眠障害に関与する遺伝子の重複を調べた。 その結果、600を超える遺伝子候補のうち、PFASによって活性化される7つの遺伝子候補が睡眠に影響を与えると推定された。その一つは、コルチゾールというホルモンの産生を助ける免疫系のタンパク質(HSD11B1)をコードする遺伝子だった。コルチゾールは睡眠覚醒リズムの調節で重要な役割を果たしている。また、カテプシンBをコードする遺伝子もPFASの睡眠への影響に関与していることが示された。カテプシンBは、記憶力や思考能力に関係し、アルツハイマー病患者の脳に存在するアミロイドβの生成に関与することが示唆されている。一方で、アルツハイマー病自体も睡眠障害に関連している。 Li氏は、「睡眠の質はほとんど全ての人に関わる問題だ。そのため、今回の研究で示された睡眠に対するPFASの影響には政策的な対応を考慮する必要がある」と話す。また、同氏は、「長期的に見ると、質の悪い睡眠は神経学的な問題や行動面の問題、2型糖尿病、アルツハイマー病などに関連していることが指摘されている」と同大学のニュースリリースで付け加えている。

19.

北海道大学 血液内科学教室【大学医局紹介~がん診療編】

豊嶋 崇徳 氏(教授)白鳥 聡一 氏(助教)杉村 駿介 氏(後期研修医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちの使命は、1人ひとりの患者さんの診療を大切にし、地域の医療を守りながら、同時に世界的な医療の発展に貢献するような高いレベルの臨床研究、基礎研究を推進していくことです。そのために、患者さんの味方として、心・人生を支える確固たる姿勢を持ち、同時に疾患を科学的に徹底して分析する姿勢を持ち、尊敬され感動を与える医師を育てたいと考えています。臨床研究にあたっては、北大の40床では世界に太刀打ちできません。そこでスケールメリットを生み出すために北日本血液研究会を設立し、500床以上の大規模な臨床研究を実施し、世界に対しエビデンスを創出しています。血液疾患ではほかの多くの疾患と異なり、診断・治療の大部分が血液内科医1人の双肩にかかってきます。責任重大ですが、患者さんとの強い信頼感、連帯感が生まれ、医師としての達成感、生きがいを強く感じることができます。 さらに最も高いレベルでの全身管理、トータルケア能力が要求され、臓器別診療の垣根を越えた総合内科医としての実力も身に付きます。 また分子標的療法、移植療法など、基礎研究の成果の臨床応用を目の当たりできるのも血液内科ならではです。明るく、自由度が高く、外に開かれ、1人ひとりのスタッフの夢を実現できるような“新生”血液内科を目指しています。若き情熱にあふれた皆様の教室への参加を心よりお待ちしています。力を入れている治療/研究テーマ当科では、基礎、臨床共に精力的に研究を行っています。臨床研究の分野では、「同種造血幹細胞移植」を主なテーマとして取り組んでおり、代表的な研究として、移植後の重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の新たな予防法を開発してきました。「移植後シクロホスファミド法」は、GVHDのリスクが高いHLA半合致移植(親子間移植等)における有効性が、当科を中心とした全国試験で証明され、国内のガイドラインで推奨されるに至り、現在では保険診療下で使用可能となりました。また「低用量抗ヒト胸腺細胞グロブリン法」も、当科を中心とした全国試験で高いGVHD予防効果が証明され、こちらもガイドラインへの掲載に至りました。さらに、同じく重篤な移植後合併症である「肝類洞閉塞症候群」に対し、当院の超音波センターとの共同研究で、超音波検査を用いて早期に診断する「HokUS-10スコアリングシステム」を開発しました。こちらのシステムも、国内のガイドライン、さらには最新の国際診断基準に掲載される等、国内外から高い評価を得ています。医局の魅力、医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種造血幹細胞移植やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や治験等、最先端の血液内科診療に触れる環境が整っており、研究への高いモチベーションにつながっています。当科はフロンティア精神に溢れた教室で、これからも活気ある教室を目指して臨床、教育、研究を精力的に進めていきますので、興味のある方はいつでもご連絡をお待ちしています。カンファレンス風景入局した理由私が北海道大学病院血液内科に入局した理由は、学生時代に受講した臨床講義で血液内科に強い興味を持ち、全身管理を必要とする内科的診療に魅力を感じたからです。さらに、道内各都市に関連施設があるため、地域との強いネットワークが構築されており、地域医療に貢献する意義を実感できることも大きな動機となりました。現在学んでいること大学病院における最先端の医療技術や、地域医療でのリアルワールドな診療を通じて、血液内科疾患について幅広く学んでいます。これらの経験は、理論と実践を結びつける貴重な機会となり、医療の多様な側面を理解する助けとなっています。また、上級医からの指導を受けることで、最新の治療法や研究動向について常に学び、日々成長を実感しています。今後のキャリアプラン来年度からは院生として研究活動にも取り組む予定です。臨床と研究の両面から血液内科を学ぶことで深みのある医師を目指しています。将来的には、専門医としての知識を深め、教育や地域医療への貢献も視野に入れたキャリアを築いていきたいと考えています。北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室住所〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目問い合わせ先s.shiratori@med.hokudai.ac.jp医局ホームページ北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本検査血液学会日本血栓止血学会日本臨床検査医学会日本エイズ学会研修プログラムの特徴(1)同種造血幹細胞移植、CAR-T療法等、最先端の血液内科医療に携わることができます。(2)チームによる診療体制を組んでおり、常に上級医からの指導・サポートを受けることができます。(3)北海道全域に関連病院を有しており、幅広い血液内科診療を経験できます。

20.

早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブ、最終OS結果(KEYNOTE-522)/NEJM

 高リスク早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、ペムブロリズマブ+化学療法による術前補助療法およびペムブロリズマブ単独による術後補助療法は、術前化学療法単独と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長した。英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のPeter Schmid氏らKEYNOTE-522 Investigatorsが、21ヵ国181施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「KEYNOTE-522試験」の結果を報告した。KEYNOTE-522試験では、プラチナ製剤を含む化学療法にペムブロリズマブを追加することで、病理学的完全奏効(pCR)率と無イベント生存期間(EFS)が有意に改善することが示されており、今回はOSについての最終結果が報告された。NEJM誌オンライン版2024年9月15日号掲載の報告。術前・術後ペムブロリズマブ併用の有効性をプラセボ併用と比較 研究グループは、未治療の高リスク早期TNBC患者(T1c N1-2またはT2-4 N0-2、ECOG PS 0~1)を、ペムブロリズマブ+化学療法群とプラセボ+化学療法群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 術前補助療法として、ペムブロリズマブ+化学療法群では、ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル、その後ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごと4サイクル投与し、プラセボ+化学療法群ではペムブロリズマブの代わりにプラセボを上記化学療法とともに投与した。 根治手術後は術後補助療法として、適応があれば放射線療法を行うとともに、それぞれペムブロリズマブまたはプラセボを3週ごと9サイクル投与した。 主要評価項目は、pCR率およびEFS、副次評価項目はOSで、ITT解析を行った。5年OS率は86.6% vs.81.7% 2017年3月~2018年9月に計1,174例が無作為化された(ペムブロリズマブ+化学療法群784例、プラセボ+化学療法群390例)。 計画されていた今回の第7回中間解析(データカットオフ日:2024年3月22日)における追跡期間中央値は75.1ヵ月(範囲:65.9~84.0)で、死亡はペムブロリズマブ+化学療法群で115例(14.7%)、プラセボ+化学療法群で85例(21.8%)に認められた。 5年OS率は、ペムブロリズマブ+化学療法群が86.6%(95%信頼区間[CI]:84.0~88.8)、プラセボ+化学療法群は81.7%(95%CI:77.5~85.2)であり、ペムブロリズマブ+化学療法群においてOSの有意な延長が認められた(p=0.002、層別log-rank検定、有意水準α=0.00503)。 有害事象については、これまでに報告されているペムブロリズマブおよび化学療法の安全性プロファイルと一致していた。

検索結果 合計:166件 表示位置:1 - 20