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服用薬剤調整支援料2が110点→1,000点に!? 求められる薬剤レビューとは?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第172回

2026年度の調剤報酬改定に関して、いくつかコラムを書いてきました。「今後の薬局の方向はこっち!」という明確な役割や方向性が打ち出された改定だったように思います。そして、薬剤師の方向性についても、今回の改定の目玉があります。それが「薬剤師による薬剤レビュー」です。薬剤レビューとは何か、どういう患者さんに算定できるのかなどをみていきましょう。今回の調剤報酬改定で、従来の「服用薬剤調整支援料2」の点数が、110点から1,000点に大幅に増えました。1,000点というと調剤報酬として1万円であり、3割負担で3,000円、1割負担でも1,000円の窓口負担になります。服用薬剤調整支援料2の算定要件が薬剤レビューです。薬剤レビューは、複数の診療科から内服薬6種類以上が処方されている、いわゆるポリファーマシーの患者さんが対象です。患者さんやご家族の求めに応じて、これまでの処方歴や検査値、診断名などの客観的データと、患者さんの生活環境や考えといった情報を薬剤師が網羅的に集めて科学的に評価し、医師へ薬剤調整の提案を文書で行います。これまでのこういった項目は減薬提案が目的であり、薬を減らすことが中心でしたが、今回は減薬がマストではありません。患者さんの薬物治療全体を見直して、追加や減薬を含めて最適化する「包括的評価+提案」業務といえます。残念ながらすべての薬剤師が服用薬剤調整支援料2を算定できるわけではなく、ポリファーマシー対策に関する研修を受けた「かかりつけ薬剤師」である必要があります。この場合の研修とは、日本老年薬学会の提供する老年薬学服薬総合評価研修会の修了、あるいは日本老年薬学会が定める老年薬学認定薬剤師の取得を指します。この日本老年薬学会の研修にも別途受講資格があり、ハードルは決して低くはありませんが、ぜひ日本老年薬学会のホームページなどを見てみてください。それだけでも意味があるとも思います。この加算は、医師に提案した時点で算定可能とされており、採用されなくても算定可能です。同一の患者さん1人につき6ヵ月に1回まで算定可能、また、かかりつけ薬剤師1人につき月4回まで算定可能です。なお、改定後の服用薬剤調整支援料2は2027年(令和9年)6月1日から適用されるため、2026年6月1日~2027年5月31日は算定できません。検査値や副作用、複数の医療機関受診やアドヒアランスなど、さまざまな問題が薬剤レビューのきっかけになるでしょう。すでに何人かの患者さんが頭の中に浮かんでいる人もいるのではないでしょうか。提案した後はもちろんフォローアップも必要で、患者さんだけでなく医師とのコミュニケーションも継続していくことになります。学会が絡むなどハードルの高さは否めませんが、本来の薬剤師業務に1,000点が付く大型加算です。点数は結果ですが、期待値とも受け取れると思います。あえて高い算定ハードルにして、どのくらい取り組む薬剤師がいるのか様子をみるのでは…とさえ思いますが、これができるようになると結果的に本来の薬剤師業務が楽しくなるのではとワクワクします。将来的にはすべての薬剤師ができる基本的業務になるといいなぁと思います。

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EGFR exon20挿入変異陽性進行NSCLCの初回治療、経口sunvozertinibが有効(WU-KONG28)/NEJM

 EGFR exon20挿入変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療として、sunvozertinibはプラチナベースの化学療法よりも有効性に優れることが示された。中国・Shanghai East HospitalのCaicun Zhou氏らWU-KONG28 Investigatorsが、15ヵ国154施設で被験者を募り実施した海外第III相無作為化試験の結果を報告した。sunvozertinibは、WU-KONG1B試験およびWU-KONG6試験の結果に基づき、米国および中国で、既治療のEGFR exon20挿入変異陽性の進行NSCLC患者に対する治療薬として迅速承認された経口薬。早期相の試験において、初回治療の選択薬としてもベネフィットをもたらす可能性が示唆され、有効性および安全性の検証が求められていた。NEJM誌オンライン版2026年5月29日号掲載の報告。主要評価項目はPFS 研究グループは、EGFR exon20挿入変異陽性の進行非扁平上皮NSCLC患者を、sunvozertinib群または化学療法群(カルボプラチン+ペメトレキセド)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの脳転移の有無で層別化した。 sunvozertinib群の患者には、プロトコールで定義した病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまで、sunvozertinibが1日1回300mg経口投与された。化学療法群の患者は、治験担当医師の判断で最長4または6サイクルのカルボプラチン(AUC5)+ペメトレキセド(500mg/m2)投与を受け、その後に病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまでペメトレキセドの投与を受けた。化学療法は3週ごとの静脈内投与とした。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)であった。化学療法群は、病勢進行確認後にsunvozertinibへのクロスオーバーが許容された。 副次評価項目は、全生存期間(OS)、治験担当医師評価のPFS、奏効率(ORR)、腫瘍径の変化、奏効期間(DOR)などとした。化学療法群よりも、PFSが有意に延長 2022年12月~2025年5月に449例がスクリーニングされ、324例が無作為化された(sunvozertinib群163例、化学療法群161例)。両群の人口統計学的および臨床的な特性は、sunvozertinib群で男性が多く、ベースラインで腫瘍病変を認める臓器数が4つ以上の患者が多かったことを除き、バランスが取れていた。被験者のうち約31%が、北米(米国、カナダ)または欧州からの登録であった。 sunvozertinib群では化学療法群よりも、PFSが有意に延長した(PFS中央値:10.3ヵ月vs.7.5ヵ月、病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.50~0.85、p<0.001)。 12ヵ月PFS率は、sunvozertinib群46.1%、化学療法群26.7%であった。OSのデータは未成熟であった(成熟度38.9%)。ORRは、sunvozertinib群58.9%、化学療法群31.1%。腫瘍径の最良変化率中央値はそれぞれ-42.1%と-24.7%、DOR中央値は11.2ヵ月と7.1ヵ月であった。 Grade3以上の有害事象は、sunvozertinib群75.5%、化学療法群56.7%の患者で報告された。sunvozertinib群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、血清クレアチンキナーゼ値上昇、下痢、貧血であった。治験担当医師がsunvozertinibに関連すると判定した死亡例はなかった。

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医師の早期離職、主因はバーンアウトや職場ストレス

 近年、医師が医療現場を離れる理由に変化が生じていることが、新たな研究で明らかになった。現代の医師は、燃え尽き症候群(バーンアウト)、慢性的な職場ストレス、煩雑な業務負担、患者からの非現実的な要求を、臨床を早期に離れる主な理由として挙げたことが示された。米国医師会の放射線腫瘍医兼診療継続支援部門ディレクターを務めるSea Chen氏らによるこの研究の詳細は、「The Permanente Journal」に5月7日掲載された。 Chen氏らは、これは2000年代後半とは異なる傾向だと指摘している。当時は、個人的な健康問題、医療過誤、保険料の上昇、煩雑な業務に対する不満、そして仕事に対する満足感の欠如などを離職理由にする医師が多かったという。Chen氏は、「医師らがなぜ臨床現場を離れたのかをより深く理解することで、医師の職務満足度や定着率の向上につながる有意義な示唆を得られることを期待している」とニュースリリースで述べている。 Chen氏らは、2000年から2022年の間に研修期間を終え、医師としてのキャリアが25年未満のあらゆる診療科の医師に対し、2024年5〜6月にアンケート調査を実施した。調査内容は、年齢・性別などの属性、教育歴、臨床研修歴、離職理由などだった。 調査に回答した971人(平均年齢45.8歳、女性63.9%)のうち、11.0%は研修修了後に一度も臨床医として働いた経験がなかった。解析の結果、離職理由として特に多かったのは、煩雑な業務負担(44.7%)とストレス過多(44.5%)で、その他に、患者からの非現実的な要求の増大(41.1%)、仕事に対する満足感の欠如(38.4%)なども多かった。自由記述から判明した離職理由のテーマとしては、過重労働、臨床以外への転向、医療システム(組織運営を含む)に対する不満、職業に関連する個人的事情(バーンアウト、精神的消耗、裁量の欠如など)の4つが浮上した。性差も見られ、女性医師は男性医師に比べて、他の家族の介護(7.9%対0.6%)、育児(21.7%対4.2%)、健康問題(13.8%対3.8%)、ストレス過多(31.7%対12.9%)を理由に離職する人が多かった。さらに女性医師は男性医師より短いキャリア期間で離職していた(中央値9年対12年)。 研究グループは、現代の医師が医療を離れる理由は、バーンアウトの構成要素と一致していると話す。バーンアウトとは、慢性的な職場ストレスに長期間さらされることで生じる反応であり、精神的消耗、離人感、達成感の欠如を特徴とする。 Chen氏は、「今回の研究では、女性医師は男性医師よりも早い段階で臨床現場を離れており、離職理由として育児や家族の介護などを挙げる割合が男性より高かった。育児支援の充実や柔軟な勤務制度、公平な待遇などを通じてこうした問題に対処することができれば、より多くの女性医師を医療現場にとどめる助けになる可能性がある」と述べている。 さらに、研究グループは、今回の結果は、医師を確保したいのであれば医療システム側が戦略を転換する必要があることを示していると指摘している。Chen氏は、「医療システムは新設医学部の開設や研修枠の拡大によって医師の数を増やそうとしているが、すでに訓練を受けた現役の医師の支援にも目を向けるべきではないかを問う価値がある」と述べている。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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EGFR遺伝子変異陽性肺がんの耐性機序と新規治療から見た今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療は、分子標的薬の登場によって大きく進歩してきた。一方で、治療経過で生じる薬剤耐性、EGFRエクソン20挿入変異やHER2変異をはじめとするuncommon変異への対応、さらに治療シークエンスや併用療法に伴う有害事象の管理など、なお多くの課題が残されている。 2026年3月26〜28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会のシンポジウム「EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療課題と新規治療の展望」では、EGFR変異陽性肺がん診療が直面する近年の課題を踏まえ、その解決に向けた最新のエビデンスや治療戦略について幅広い議論が交わされた。EGFR変異陽性肺がんの耐性機序と後治療開発 James Chih-Hsin Yang氏(台湾・国立台湾大学)は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)における一次治療後の耐性機序に着目し、第3世代EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるオシメルチニブ単剤、オシメルチニブ+化学療法、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であるアミバンタマブ+第3世代EGFR-TKIであるラゼルチニブでは、耐性化のパターンが異なることを示した。とくに、オシメルチニブによる治療ではMET増幅が重要な耐性機序となる一方、METも同時に抑制するアミバンタマブ併用では、その出現頻度が低い傾向が示された。初回治療の選択が、その後の腫瘍進化の方向性を規定しうる点は重要な示唆といえる。 また、MET関連耐性に対する治療戦略として、バイオマーカーに基づく症例選択の重要性を強調した。オシメルチニブによる一次治療後に病勢進行したEGFR変異陽性でMET過剰発現かつ/またはMET増幅を有するNSCLC患者を対象に、オシメルチニブ+新規MET阻害薬の併用療法を評価した国際共同第II相試験「SAVANNAH試験」では、MET過剰発現またはMET増幅を基準とした患者選択により、一定の奏効率と奏効期間が得られたことから、今後の第III相試験の結果が注目されるとした1)。 さらに、既治療EGFR変異陽性NSCLC患者に対する後治療として、抗TROP2抗体薬物複合体やPD-1/VEGF二重特異性抗体など、複数の新規薬剤の開発状況を紹介した。その中で、EGFRエクソン20挿入変異やその他の希少EGFR変異を標的とする低分子薬の開発も進んでいるが、薬剤ごとに活性に差があり、EGFR野生型への作用に伴う有害事象が治療強度を制限しうる点が課題として挙げられた。加えて、EGFRを分解させる抗体や、がん細胞に毒素を送達する抗体ベースの治療も有望視される一方、副作用への十分な配慮が必要だとした。Yang氏は、「EGFR変異陽性肺がんにおける二重標的治療やPD-1/PD-L1阻害薬の位置付けについても、なお活発な検討が続いている」とまとめた。EGFR変異陽性肺がんにおけるアミバンタマブの位置付け Byoung Chul Cho氏(韓国・延世がんセンター/延世大学医学部)は、アミバンタマブの臨床的意義を最新データとともに総括した。まず、本剤はEGFRとMETを同時に標的とするだけでなく、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や抗体依存性細胞貪食(ADCP)といった免疫学的作用も有する点を特徴として挙げた。このような作用により、単なるシグナル阻害にとどまらず、腫瘍微小環境にも働きかけうることが長期にわたる有効性の背景にあるとの見方を示した。 MARIPOSA試験については、一次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブが、無増悪生存期間(PFS)だけでなく全生存期間(OS)も改善した点を強調した2)。また、アジア人集団においても一貫したOSの改善が見られたことを重視し、EGFR変異陽性肺がんにおいてアジアは単なるサブセットではなく、世界的な中心集団として捉えることも可能かもしれないと論じた。さらに、本試験は脳MRIを全例で継続的に評価した唯一の第III相試験であり、頭蓋内PFSや頭蓋内奏効期間の持続性という観点からも高く評価できるとした。 加えて、アミバンタマブ併用ではMET増幅や二次EGFR変異が減少し、耐性機序の複雑化そのものを抑制しうることを示した。Cho氏は、「アミバンタマブベースの二次治療の有用性を評価した複数の臨床試験成績を踏まえると、こうした治療はcommon変異、EGFRエクソン20挿入変異、atypical変異にわたり幅広い有効性が示唆され、EGFR変異陽性NSCLC全体の治療を変える基盤となりうる」と述べた。EGFRエクソン20挿入変異とuncommon変異に挑む新規治療開発 EGFRエクソン20挿入変異は、EGFR変異の中で3番目に多いサブタイプでありながら、従来のEGFR-TKIの効果が乏しいことが課題となっている。宇田川 響氏(国立がん研究センター東病院)は、その分子構造的背景としてP-loopやαC-helixの位置変化により薬剤結合ポケットが狭くなり、TKIの結合が妨げられていることを解説した。 こうした課題に対し、EGFRエクソン20挿入変異に高い選択性を有する新規TKIの開発が進んでいる。前臨床試験では複数の薬剤が有望視されており、臨床試験でも一定の奏効率と奏効期間が報告されていることから、今後の第III相試験の結果に期待が寄せられるとした。 さらに、G719X、S768I、L861Qなどのuncommon変異については、PACC(P-loop αC-helix compressing)変異という構造分類の考え方が紹介された。これらに対しては第2世代EGFR-TKIであるアファチニブが標準治療とされる一方、変異ごとの立体構造に応じて薬剤感受性が異なるため、今後はより広い変異スペクトラムに対応した次世代TKIの開発が重要になるとの見解を示した。融合遺伝子、多ドライバー化で生じるTKI耐性の克服に向けて 小林 祥久氏(国立がん研究センター研究所)は、EGFR-TKI耐性克服に向けた基礎研究を取り上げた。CRISPRゲノム編集技術を用いてEGFR変異細胞にKRAS変異やALK、RET、BRAF、FGFR3融合を導入し、耐性化を人工的に再現することで併用療法の最適化を検討したところ、BRAF融合モデルではBRAF阻害薬よりもMEK阻害薬であるトラメチニブの併用が有効であり、この知見が実臨床への応用にもつながった経緯が紹介された。 一方で、がんは併用療法に対してもさらに耐性を獲得しうる。RET融合モデルではRET G810S変異やRET融合増幅、FGFR3融合モデルではKRAS点突然変異など、多様な二次耐性の出現が認められたという。小林氏は、「単一ドライバーではなく、複数の腫瘍ドライバーが同時に存在する“多ドライバー腫瘍”という視点は、今後の耐性克服戦略においてきわめて重要である」と述べた。

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ST合剤に「急性汎発性発疹性膿疱症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年6月16日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗菌薬のスルファメトキサゾール・トリメトプリム(商品名:バクタ配合錠、バクトラミン配合錠ほか、通称:ST合剤)の「重大な副作用」の項に「急性汎発性発疹性膿疱症」が追加された。急性汎発性発疹性膿疱症の発生状況と改訂の理由 急性汎発性発疹性膿疱症の症例を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本剤と事象との因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、国内症例は12例で、うち医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は4例(死亡0例)であった。その他、添付文書が改訂された薬剤 同日、ほかの医薬品についても使用上の注意の改訂指示が出されており、主な変更点は以下のとおり。◯炭酸リチウム 「禁忌」の項から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除された。これに伴い、「特定の背景を有する患者に関する注意」において、妊婦には「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」に改められ、新たに「生殖能を有する者」への注意喚起(催奇形性に関する十分な説明など)が新設された。◯カルボキシマルトース第二鉄、含糖酸化鉄 「重大な副作用」の項に「低リン血症、骨軟化症」が新設・追加された。また、重要な基本的注意として、投与開始前や投与中の定期的な血清リン値の測定と、骨軟化症を疑う症状が現れた際の処方医への相談を患者に指導する旨が追記された。◯バレメトスタットトシル酸塩 「重要な基本的注意」の項に、「急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの二次性悪性腫瘍が発現する可能性」について追記され、患者の状態を十分に観察することが求められている。

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タウPET検査、トレーサー選択がアルツハイマー病診断の精度に影響/Lancet

 アルツハイマー病の診断、進行ステージおよび治療の選択において重要なバイオマーカーとして注目されるタウPET画像について、検査で使用する放射性医薬品(トレーサー)の選択により、年齢やアルツハイマー病の進行段階を問わず、タウ病理の検出頻度に違いが生じることが、米国・ピッツバーグ大学のGuilherme Povala氏らによる「HEAD試験」の結果で示された。トレーサーとして、[18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)(商品名:タウヴィッド)と比較して、認知機能正常例および認知障害例のいずれにおいても、タウ病理を有する人をより多く特定した。著者らは、「この結果は、臨床試験における患者層別化やより精度の高い治療方針決定に、直接的な影響を与えるものである」とまとめている。Lancet誌2026年5月30日号掲載の報告。フロルタウシピル(18F)と[18F]MK6240の認知障害判別精度とMTL・大脳新皮質のタウ陽性頻度を評価 研究グループは、米国および欧州の臨床現場で現在使用されているフロルタウシピル(18F)と、開発段階のPETトレーサーである[18F]MK6240について、多施設共同前向き非無作為化被験者内比較試験を行った。 被験者は、北米の8施設で募集され、タウPET検査、アミロイドβ(Aβ)PET検査、および詳細な認知機能評価を受けた。両薬剤を用いたタウPET検査は、45日以内に実施された。 主要アウトカムは2つで、アルツハイマー病関連認知障害の判別精度と、内側側頭葉部(MTL)および大脳新皮質領域におけるタウ陽性の頻度であった。 2022年3月2日~2025年8月27日に775例が登録され、682例がすべての試験手順を完了した。 被験者は、女性373例(55%)、男性309例(45%)で、19~27歳38例(6%)、50~65歳214例(31%)、65~89歳430例(63%)であった。また、32例(5%)がヒスパニック/ラテン系、637例(93%)が白人、24例(4%)が黒人/アフリカ系米国人、16例(2%)がアジア人、5例(1%)がその他として、さらに49例(7%)が農村地域出身として特定された。[18F]MK6240のほうがアルツハイマー病と非アルツハイマー病の障害を区別する精度が高い  [18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)よりも、アルツハイマー病と非アルツハイマー病の障害を区別する精度が有意に高かった(曲線下面積[AUC]:0.93[95%信頼区間[CI]:0.89~0.95]vs.AUC:0.86[95%CI:0.75~0.91]、p<0.0001)。 高齢の被験者において、両トレーサーでタウ陽性/陰性判定が一致したのは、MTLでは560例(87%)、大脳新皮質領域では603例(94%)であった。また、認知障害のない被験者において、[18F]MK6240はフロルタウシピル(18F)よりも、MTLにおけるタウ陽性例を2倍以上多く特定した(54例[15%]vs.23例[6%])。Aβ陽性の有病率比(PR)は2.43(95%CI:1.50~3.94、p=0.0003)であり、100例につき23例の追加症例が同定された。 不一致症例において、[18F]MK6240のみ陽性であったのは75例(89%)であり、両トレーサーで陰性であった症例よりもAβ負荷(p<0.0001)、APOEε4保有(p<0.0001)、認知障害(p=0.0043)の割合が有意に高かった。 認知障害のある被験者では、大脳新皮質領域のタウ陽性の頻度は、[18F]MK6240がフロルタウシピル(18F)よりも高かった(80例[28%]vs.46例[16%])。Aβ陽性のPRは1.74(95%CI:1.32~2.29、p<0.0001)であり、100例につき15例の軽度認知障害例、21例の認知症例が新たに同定された。

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第320回 結局控訴取り下げへ、山梨県の対応が“迷走”した医学部修学資金訴訟、違約金条項廃止と制度大幅見直しで決着

控訴は取り下げず裁判継続の方針が1週間後に反転こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。サッカーのワールドカップが開幕しました。普段、サッカーを観ない私でも、これだけ世間が騒ぐと、日本代表の試合は気になります。それにしても、サッカー、野球含めスポーツ選手のけが(とくに膝、筋肉周り)の多さには驚きます。人間という動物がその限界を超えて体を動かした結果(コンタクトが原因の場合も少なくありませんが)ということなのでしょうが、ワールドカップのような大きな大会で怪我をしない、怪我を本番に持ち込まないという“運”も、スター選手の条件なのかもしれません(久保 建英選手の足の具合が気になります)。さて今回は、県の対応が“迷走”した山梨県の医学部修学資金訴訟を取り上げます。山梨県は6月4日、修学資金制度を見直すなど違約金を廃止する方針を明らかにしましたが、この時点でも1月の甲府地裁判決に対する控訴は取り下げず裁判を継続する考えでした。しかし、1週間後の6月11日、山梨県は突如控訴を取り下げる方針を明らかにしました。どんな判断が働いたのでしょうか。「最大約842万円の違約金を定めた契約条項は違法」と甲府地裁は判断医師免許取得後に9年間、山梨県内の医療機関で働く約束で大学医学部の修学資金返済が免除される同県の「地域枠等医師キャリア形成プログラム」事業を巡り、最大約842万円の違約金を定めた契約条項などが違法だとして、NPO法人「消費者機構日本」(東京)が県に条項の差し止めを求めた医学部修学資金訴訟。2026年1月20日の甲府地裁判決は、「山梨のように修学資金返還に加えて違約金の支払いを課す自治体はない」と指摘、県の損害は修学資金とその利息の返還で穴埋めされるとして違約金は違法との判断を下しました。この判決に対し山梨県の長崎 幸太郎知事は同日開かれた記者会見で「県民の皆さんの健康と命を守るために税金を使った制度。今の国の施策を前提とする上で、我々が考えられる措置は違約金で思いとどまってもらうしかない。県としては上級審で徹底的に議論していきたい」と話し、県は2月3日、請求通り差し止めた甲府地裁判決を不服として控訴しました。県との約束が消費者契約法で無効とされるものかどうかが争点に「地域枠等医師キャリア形成プログラム」は、山梨県が2019年からスタートさせた事業です。県内の医師確保を目的に、山梨大学医学部などの地域枠の学生に6年で総額936万円の修学資金を貸与する代わりに、医師免許取得後9年間は県内の病院で働く義務を負わせるというものです。約束を守れば返済が免除されますが、県内勤務義務を果たさなかった場合には修学資金全額と年利10%の利息に加え、最大842万4000円の違約金を課すという制度でした。訴訟では、県との約束が消費者契約法で無効とされるものかどうかが争われました。2月4日付の朝日新聞等の報道によれば、県は地域枠の医師は「事業者」であり消費者契約法は適用されないなどと主張していました。しかし、判決は県の主張を退け消費者契約法の適用を認めました。原告代理人の弁護士は「医師偏在の問題を個人に負わせるのはおかしいことが明らかになった。受験生にとって良い判決」とコメントしました。違約金廃止の一方、貸与額の引き上げや就業年数に応じた返還額の段階的免除などを導入へ山梨県は控訴したわけですが、実は判決に先立って県は1月16日、この制度の見直しを表明していました。そして先々週の6月4日、県は医学部「地域枠」制度の利用者が県内勤務義務を果たさなかった場合に課していた高額な違約金条項を廃止する方針を正式に明らかにしました。違約金は廃止する一方で、貸与額の引き上げや就業年数に応じた返還額の段階的免除などを導入する予定です。同日に開かれた長崎知事の記者会見によれば、今回の見直しでは、まず物価高騰などを背景に貸与額が引き上げられます。月額13万円だった修学資金を、山梨大学は月額20万円に、北里大学や昭和医科大学などの私立大学は月額25万円に増額されます。次に地域枠入試の一部を全国募集とし、さらに地域枠以外の修学資金についても対象を全国の医学生に広げ、地域医療への貢献意欲を持った医学生を幅広く確保していくとしています。そして、県内就業義務の履行確保対策を充実させるとして、受験生に対する県の面接をしっかりと行い、地域医療への志をしっかりと見極めるとしました。問題となった違約金は廃止となりますが、修学資金の返還利息の発生時期は貸与の翌日からになります。また県内の就業年数に応じて返還額を段階的に免除していく仕組みも導入するとのことです。全体として、違約金による懲罰的な抑止策から、地域枠学生の地域医療への貢献意欲の確認と、長期就業を促す仕組みへと制度を大きく転換したわけです。長崎知事はこの記者会見で、「裁判における問題意識を踏まえて我々として制度のあり方をしっかり議論し、質の高い医師をしっかり確保する、という観点からどうしていくのが良いか総合的に見直した結果」と述べました。ただ、違約金の仕組みが強過ぎたという認識はなく、「事実上違う法的構成を取ったということ。今は医師になってから利息が発生する仕組みだが、もっと早い段階から発生させる。辞めたら違約金を支払うということではなく、金利も含めて高い貸付金の水準を取って、それを就業年限に応じて減額をしていく。より長く地域の医師として働いていただければ、返済額はその分減っていくという形になる。真面目に当初の予定通り地域でしっかりと医療に携わろうという思いを持つ人が、約束を違えて早く辞めてしまった人よりも、経済的にマイナスになるようなことは止めようと考えた」と述べました。「新しい案について、議会で可決という判断になれば、裁判で争うこと自体、県にとってなんら実益がなくなる」と県知事6月4日のこの記者会見でも長崎知事は、控訴の選択は「ベストだった」と述べ、取り下げには言及しませんでした。しかし、6月11日の記者会見では修学資金に関する条例改正案を6月の県議会に提出し、可決されれば控訴を取り下げる方針を明らかにしました。この日の記者会見で長崎知事は、「この条例改正案の議会の議決が得られない現在では(離脱防止策がない状態になるので)控訴の取り下げはできない。今回出す新しい案について、議会で可決という判断になれば、裁判で争うこと自体、県にとってなんら実益がなくなるので、裁判を早期に解決する上でも取り下げをするべきだと考えている」と述べました。最終的に山梨県が折れる形で高額な違約金はなくなり、控訴も取り下げの方向となりました。医師を「罰則」で縛るのではなく、本当に地域医療に貢献したい医学生を集めることや、地域に残って働きたくなるような魅力的な勤務環境を整えることが重要であるという、ある意味当たり前の結論に山梨県もたどり着いたわけです。しかし、その「当たり前の結論」を現場で実行することほど難しいことはありません。国の「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」の各施策の決定力が今一つの中、地方自治体の医師確保に向けた戦いはまだまだ終わりそうにありません。

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高齢者におけるベンゾジアゼピン減量のための最適な戦略は?

 慢性的なベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の使用は、転倒、認知機能低下、機能低下、その他の有害事象に関する懸念があるにもかかわらず、65歳以上の高齢者において依然として一般的に行われている。BZRAの減薬を支援するための複数の戦略が提案されているが、高齢者におけるこれらの減薬介入の安全性と有効性は、介入の種類を問わず包括的に統合されていない。スペイン・Clinica Psicogeriatrica Josefina ArreguiのKevin O'Hara-Veintimilla氏らは、65歳以上の高齢者における慢性的なBZRA使用を減らすための構造化された戦略の安全性と有効性に関する入手可能なエビデンスを統合することを試みた。Age and Ageing誌2026年5月4日号の報告。 本システマティックレビューは、PRISMA 2020ガイドラインに従って実施された。データベースの創設時から2025年9月までに公表された研究をOvid MEDLINE、PubMed、Embase、PsycINFOの各データベースより検索した。高齢者を対象とし、構造化されたBZRA減量介入を評価したランダム化比較試験および非ランダム化比較試験を対象に含めた。バイアスのリスクは、研究デザインに適したツールを用いて評価し、結果の異質性が高いため、記述的な統合を行った。 主な結果は以下のとおり。・約1万1,000人の高齢者を対象とした30研究を分析に含めた。・介入には、構造化された薬物漸減、患者主導の教育戦略、臨床医主導のアプローチ、システムレベルの介入が含まれていた。・いずれの戦略においても、減量はおおむね安全であった。離脱症状は、通常、軽度かつ一過性であり、重篤な有害事象はまれであった。・構造化された段階的減量は、投与の中止または減量率が最も高かった。一方、他のアプローチでは効果にばらつきがみられた。 著者らは「高齢者における慢性的なBZRA使用の減量は、構造化された段階的かつ患者中心のアプローチを用いれば、実現可能であり、おおむね安全であることが示唆された。その効果は、介入の種類や状況によって異なるため、老年医学におけるBZRAの減量には、個別化されたエビデンスに基づいたアプローチが推奨される」と結論付けている。

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インフルワクチン、感染後も心血管イベントリスクを抑制

 ワクチンを接種していてもインフルエンザに感染してしまうことがある。しかし、たとえ感染したとしても、感染に伴う心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントのリスク上昇が抑制されることを示すデータが報告された。欧州疾病対策センター(ECDC)のRoberto Croci氏らの研究によるもので、詳細は「Eurosurveillance」4月号に掲載された。 研究者らによると、インフルエンザ感染によって引き起こされる全身性の炎症が、短期的に心血管イベントのリスクを高める。それに対してワクチン接種は、感染リスクを抑制することを介して心血管イベントのリスクも抑制することが既に知られていた。しかし、ワクチンを接種してもインフルエンザに感染することがあり、その場合の心血管イベントへの影響についてはこれまで明らかでなかったという。 Croci氏らは、2014~2025年にデンマークでインフルエンザ感染が確認され、かつ、心筋梗塞または脳卒中の治療を受けた40歳以上の入院患者1,221人(1,231件)のデータを解析に用いた。この集団の主な特徴は、年齢中央値が75歳(四分位範囲66~82歳)、男性54%で、35%が心筋梗塞、65%が脳卒中であり、全体として半数(50%)がワクチン接種済みの患者だった。 解析の結果、インフルエンザの感染が確認された後1週間以内の心血管イベントのリスクは、その他の期間(感染前または感染から1週間以上経過後)に比べて有意に高いことが確認されたが、ワクチン接種済みの場合はそのリスクの上昇がほぼ半減することが示された。具体的には、季節の影響を調整後、ワクチン未接種の場合はインフルエンザ感染から1週間以内の心血管イベントリスクがそれ以外の期間に比べて4.7倍に上るのに対して(調整発生率比〔aIRR〕4.7〔95%信頼区間3.3~6.6〕)、ワクチン接種済みの場合は2.4倍だった(aIRR2.4〔同1.5~3.8〕)。 研究者らは、「今回の研究結果は、インフルエンザワクチンの接種が心血管イベントの予防に有効だとするエビデンスを支持するものだ」としている。Croci氏らも、「この結果が別の環境での追試で確認されたなら、心臓病や脳卒中のリスクが高い人たちに対するインフルエンザワクチンの接種を優先すべきだという考え方が、より強固なものとなるだろう」と述べている。 なお、研究の限界点の一つとして、ワクチンのインフルエンザ感染抑制効果はシーズンごとに異なり、その有効性の違いが心血管イベントリスクの差につながる可能性があるが、その点を考慮できていないことが挙げられるという。また、患者の性別やワクチン接種のタイミングが、心血管イベントのリスクにも影響を及ぼすのかといった点も、残された検討課題としている。

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麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」【最新!DI情報】第65回

麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」今回は、「乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(商品名:ミムリット皮下注用、製造販売元:第一三共)」を紹介します。乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンに、おたふくかぜワクチンを混合することで、接種回数が減少して非接種者の負担軽減につながることが期待されています。<効能・効果>麻しん、おたふくかぜおよび風しんの予防の適応で、2026年5月11日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、その0.5mLを1回皮下に注射します。生後12月以上の者であれば性、年齢に関係なく接種できます。接種年齢は、学会などの最新の情報を考慮して総合的に判断します。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、免疫性血小板減少症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、けいれん(熱性けいれんを含む)、無菌性髄膜炎、難聴、精巣炎、急性膵炎(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、発熱(33.6%)、注射部位の紅斑(22.5%)、腫脹、疼痛(いずれも注射部位、5%以上)、内出血、硬結(いずれも注射部位)、嘔吐、湿疹、発疹、上咽頭炎(いずれも0.5~5%未満)、注射部位のそう痒感、下痢、鼻漏、上気道の炎症、紅斑、丘疹、斑状丘疹状皮疹、蕁麻疹(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例> 1.このワクチンは、麻しん、おたふくかぜ、風しんの混合ワクチンです。麻しんウイルスとムンプスウイルス、風しんウイルスを弱毒化した生ワクチンで、接種後に体の中でワクチンウイルスが増え、それぞれの抗体ができます。 2.生後12月以上の者であれば性別、年齢に関係なく接種できます。 3.ワクチン接種に伴う副反応として、接種部位が接種直後から数日中に赤くなる、硬くなる、腫れることがありますが、通常、一過性で消失します。 4.妊婦は接種できません。 5.妊娠可能な女性は、あらかじめ約1ヵ月間避妊した後に接種します。また、ワクチン接種後約2ヵ月間は妊娠しないように注意してください。 <ここがポイント!>麻しんは、麻しんウイルスによって引き起こされる感染症で、「はしか」とも呼ばれています。感染後、10〜12日の潜伏期間を経て、38℃前後の発熱、発疹、咳、鼻汁などの症状が現れます。重症化した場合には、肺炎や脳炎を引き起こすこともあります。流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症で、「おたふくかぜ」とも呼ばれています。感染後、2〜3週間の潜伏期間を経て、片側または両側の耳下腺部に炎症や疼痛が生じ、発熱、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。通常は1~2週間で軽快しますが、合併症として無菌性髄膜炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎、難聴などを引き起こすことがあります。とくに難聴は高度となることが多く、発症すると不可逆的な聴覚障害が残ることがあります。従来はまれな合併症とされていましたが、近年では0.1〜0.25%程度の発症率という報告があります。風しんは、風しんウイルスによって引き起こされる感染症です。感染後、2~3週間の潜伏期間を経て、発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。風しんに対する免疫力が不十分な妊婦が感染すると、出生児に心疾患、白内障、感音性難聴、精神運動発達遅延などの先天性異常が認められることがあります。妊娠中は弱毒生ワクチンを接種できないため、抗体を持たない、あるいは抗体価の低い妊婦は、風しん流行時における感染に十分注意することが重要です。ミムリットは、麻しん/おたふくかぜ/風しん(measles/mumps/rubella:MMR)ワクチンであり、麻しん、おたふくかぜおよび風しんの各原因ウイルスを弱毒化した生ウイルスを含む3種混合ワクチンです。本邦では、1989年から4年間にわたってMMRワクチンが小児の予防接種に使用されていましたが、当時のおたふくかぜワクチンの副反応として発熱、嘔吐、けいれんなどを伴う無菌性髄膜炎が高頻度に発生し、大きな社会問題となりました。そのため、MMRワクチンは使用が中止され、以降は麻しんおよび風しんの予防には単独ワクチンまたはMRワクチンの定期接種が、おたふくかぜの予防には単独ワクチンの任意接種が行われてきました。しかし、その結果、国内のおたふくかぜワクチンの接種率は30〜40%程度にとどまり、数年ごとにおたふくかぜの流行が繰り返されてきました。こうした状況を受け、2013年12月に厚生労働省から一般社団法人日本ワクチン産業協会に対して安全性の高いMMRワクチンの開発要請が出されました(健感発1216第1号)。さらに2018年5月には、予防接種推進専門協議会から「おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望」が厚生労働省健康局(現健康・生活衛生局)に提出されました。このような背景から、MMRワクチンの開発が進められ、弱毒生麻しんウイルス(AIK-C株)、弱毒生風しんウイルス(高橋株)および弱毒生ムンプスウイルス(RIT4385株)を混合した本剤が承認されました。なお、RIT4385株は、無菌性髄膜炎の発現頻度が低いムンプスウイルス株として、海外では小児の定期接種に用いられるMMRワクチンに広く使用されています。 日本人健康小児を対象とした国内第III相臨床試験(VN0102-A-J301試験)において、主要評価項目である治験薬接種42日後の麻しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.8%(95%信頼区間[CI]:98.7~100.0)および対照群100.0%(95%CI:99.1~100.0)で、群間差は−0.2%(95%CI:−1.3~0.7)でした。また、風しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.5%(95%CI:98.3~99.9)および対照群99.5%(95%CI:98.3~99.9)で、群間差は0.0%(95%CI:−1.3~1.3)でした。麻しんウイルスおよび風しんウイルスに対する抗体保有率は、群間差の95%CIの下限値(いずれも−1.3%)が非劣性マージンである−10%を上回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性が検証されました。一方、ムンプスウイルス(Genotype D)に対する抗体保有率は、本剤群80.6%(95%CI:76.5~84.4)および対照群88.1%(95%CI:84.6~91.0)で、群間差は−7.5%(95%CI:−12.5~−1.9)でした。群間差の95%CIの下限値(−12.5%)が非劣性マージンである−10%を下回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性は検証されませんでした。しかしながら、本剤のムンプスウイルスに対する抗体保有率は80.6%であり、おたふくかぜの発症予防効果が確認されている海外MMRワクチンの試験成績と比較しても遜色のない結果でした。また、J302試験(低力価および高力価製剤の国内第III相臨床試験)およびJ303試験(ワクチンを1回接種したことが明らかな小児を対象とした国内第III相臨床試験)におけるムンプスウイルスに対する抗体保有率はいずれもおおむね95%以上でした。

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ASCO2026 レポート 消化器がん

レポーター紹介[目次]RASolute 302試験FIGHT-302試験BREAKWATER Cohort3試験EPISODE-III/JCOG1503C試験欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験ONO-4578-08試験PANKU-Esophagus01試験膵がんRASolute 302試験:daraxonrasibが膵がん薬物療法の地図を塗り替える可能性RASolute 302は、前治療歴を有する転移のある膵管腺がん(PDAC)を対象に、経口RAS(ON) multi-selective inhibitorであるdaraxonrasibと医師選択化学療法(GnP、mFOLFIRINOX、Nal-IRI+5FU/LV、FOLFOX)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。主要評価項目はRAS G12変異例における全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)で、全体集団500例のうち91.8%がRAS G12変異例であった。RAS G12変異例では、OS中央値が13.2ヵ月vs.6.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.40)、PFS中央値が7.3ヵ月vs.3.5ヵ月(HR:0.45)と、daraxonrasib群で有意に改善した。全体集団でもOS中央値13.2ヵ月vs.6.7ヵ月(HR:0.40)、PFS中央値7.2ヵ月vs.3.6ヵ月(HR:0.49)と一貫した効果が示され、RAS G12以外やRAS変異未同定例を含めた広い集団で有効性が確認された。客観的奏効率(ORR)もRAS G12変異例で33.2%vs.11.8%(p<0.0001)、全体集団で31.6%vs.11.2%(p<0.0001)と改善した。QOLも改善し、有害事象は発疹(全Grade:85%、Grade3以上:14%)・口内炎(全Grade:53%、Grade3以上:12%)などが中心である。臨床的インパクトは非常に大きく、主要評価項目であるOSの有意な結果が報告されたタイミングでスタンディングオベーションが起き、発表と同時にNEJM誌にも掲載された1)点も注目される。daraxonrasibはFDAからBreakthrough Therapy designationおよびOrphan Drug designationを受けており、膵がんで長く創薬困難とされてきたRASを、G12C単独ではなくG12D/V/Rを含む広いRAS変異に対して標的化できることを第III相試験で示した意義は大きく、PDACの治療体系を大きく変えると思われる。RAS阻害薬はほかにも多数の薬剤が開発中であり、初回治療例を対象にdaraxonrasib単剤vs.daraxonrasib+GnP vs.GnPを検証するRASolute 303試験をはじめ、術後補助療法におけるエビデンス創出など、今後の拡大が期待される。1)O'Reilly EM, et al. N Engl J Med. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る胆道がんFIGHT-302試験:FGFR2融合・再構成陽性胆管がんで1次治療FGFR阻害の可能性を検証FGFR2融合・再構成陽性胆管がんでは、既治療例を対象とした第II相FIGHT-202試験でペミガチニブの有効性が示され、最終解析ではORR 37.0%、PFS中央値7.0ヵ月、OS中央値17.5ヵ月、奏効期間(DoR)中央値9.1ヵ月であった2)。これを背景に、ペミガチニブは既治療のFGFR2融合・再構成陽性胆管がんで承認されており、FIGHT-302試験では1次治療への前倒しが検証された。FIGHT-302は、未治療の切除不能・転移FGFR2再構成陽性胆管がんを対象に、ペミガチニブ単剤とゲムシタビン+シスプラチン(GC)を比較した国際共同非盲検第III相試験である。希少な分子サブタイプを対象とするため登録は難航し、4,000例超を事前スクリーニングしたものの、最終的なランダム化例数は167例で、試験は早期終了となった。主要評価項目のPFS中央値は8.3ヵ月vs.6.8ヵ月(HR:0.58、nominal p=0.0078)とペミガチニブ群で延長し、ORRも47.0%vs.15.5%、DoR中央値も14.2ヵ月vs.6.3ヵ月と良好であった。一方、OS中央値は24.4ヵ月vs.25.0ヵ月と同程度であった。化学療法群では進行後に42例がペミガチニブへクロスオーバーしており、OS解釈には注意を要する。本試験は、FGFR2陽性胆管がんで1次治療から標的治療を用いる可能性を示した点で重要であり、同時にJournal of Clinical Oncology誌にも掲載された3)。とくにORRはペミガチニブ群47.0%と、胆道がん全体を対象としたTOPAZ-1/KEYNOTE-966のGC+免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)におけるORRが約27~29%であったことを踏まえると、クロストライアル比較ながら腫瘍縮小を重視するFGFR2再構成陽性例では魅力的に映る。一方で、FIGHT-302の対照群はGC単独であり、現在の1次治療標準であるGC+ICIsとの直接比較ではない。また、OS非改善、早期終了による検出力の限界、クロスオーバーの影響、FGFR阻害薬後の耐性変異を踏まえると、ただちに1次治療を置き換えるというより、診断時からFGFR2検査を行い、FGFR2陽性例における1次治療・2次治療の最適なシーケンスを考えるデータと整理するのが妥当である。2)Abou-Alfa GK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:671-684.3)Bekaii-Saab TS, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がんBREAKWATER Cohort3試験:FOLFIRIバックボーンでも良好な治療効果BRAF V600E変異陽性転移性大腸がんは予後不良な分子サブタイプであり、1次治療からBRAF/EGFR阻害を組み込む治療開発が進められてきた。第III相BREAKWATER試験では、エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)+mFOLFOX6が標準治療に対し、ORR:65.7%vs.37.4%、PFS中央値12.8ヵ月vs.7.1ヵ月、OS中央値30.3ヵ月vs.15.1ヵ月と良好な結果を示した。これを受け、本邦でも2025年11月にエンコラフェニブが1次治療へ適応拡大され、FOLFOX+ECはBRAF V600E変異陽性切除不能進行・再発大腸がんにおける初回治療の標準的選択肢として位置付けられている。一方、ASCO GI 2026では、BREAKWATERの別コホートとして、EC+FOLFIRIをFOLFIRI±BEV(ベバシズマブ)と比較した成績が報告され、BICR評価のORRは64.4%vs.39.2%(片側p=0.0011)と有意に改善していた。今回のASCO 2026ではPFSおよびOS解析が発表され、PFS中央値は15.2ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.44、片側p=0.0002)と有意に延長した。OS中央値も、未到達vs.20.3ヵ月(HR:0.56)であり、OSも良好な傾向を示した。本結果はASCO 2026で発表されるとともに、Annals of Oncology誌に同時掲載された4)。FOLFOX+ECが本邦でも1次治療標準として位置付けられた一方、今回のFOLFIRIコホートは、オキサリプラチン不適例や末梢神経障害を避けたい症例における将来的な代替バックボーンとしての可能性を示した。ただし、EC+FOLFIRIの国内実装には薬事・ガイドライン上の位置付けの整理が必要である。4)Kopetz S, et al. Ann Oncol. 2026 May 31. [Epub ahead of print]目次に戻る大腸がん・日本発EPISODE-III/JCOG1503C試験:アスピリン補助療法は“全例投与”から“分子選択”か?術後大腸がんに対するアスピリン/COX阻害薬は、非選択集団では明確な上乗せ効果に乏しい一方、PI3K経路異常例では有望な可能性が示されている。非選択大腸がんを対象としたASCOLT試験では、アスピリン200mgを3年間投与しても5年DFSは77.0%vs.74.8%(HR:0.91)で主要評価項目は未達であった5)。また、PI3K経路異常を有する局所大腸がんを対象としたALASCCA試験では、アスピリン160mg・3年間によりPIK3CA exon 9/20変異例、その他PI3K経路異常例のいずれでも再発リスク低下が示された6)。COX-2阻害薬セレコキシブについても、CALGB/SWOG 80702試験の解析でPIK3CA gain-of-function変異例におけるDFS/OS改善が報告されている7)。EPISODE-III/JCOG1503Cは、下部直腸がんを除くR0切除後StageIII大腸がん882例を対象に、標準的な術後補助化学療法へ低用量アスピリン100mgを3年間上乗せする意義を検証した、日本発の二重盲検プラセボ対照第III相試験である。ASCO 2026では、国立がん研究センター中央病院の高島 淳生氏により、主要解析結果がLate-Breaking Abstract(LBA3508)として発表された。主要評価項目の3年DFSは、アスピリン群78.8%vs.プラセボ群75.4%と数値上はアスピリン群で良好であったが、HR:0.84、片側p=0.0987で統計学的有意差には至らなかった。RFSも79.5%vs.77.2%(HR:0.87)と同方向の傾向にとどまり、OSは未成熟であった。安全性はおおむね許容範囲であったが、下部消化管出血はアスピリン群でやや多かった(全Grade:2%vs.0.2%)。アスピリンによる再発抑制機序としては、COX-1/COX-2阻害を介したプロスタグランジン産生低下、血小板凝集抑制による循環腫瘍細胞の転移形成阻害、炎症性腫瘍微小環境の抑制などが想定される。JCOG1503Cは、非選択のStageIII大腸がん全例にアスピリンを追加する方針を支持する結果ではなかった。一方で、本試験は当時のエビデンス状況を踏まえた重要な全例対象試験であり、今後のPI3K/PIK3CA解析により、COX阻害薬を分子選択的な術後補助療法として再評価する足掛かりになる可能性がある。5)Chia JWK, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025;10:198-209.6)Martling A, et al. N Engl J Med. 2025;393:1051-1064.7)Meyerhardt JA, et al. JAMA. 2021;325:1277-1286.目次に戻る大腸がん欧州CIRCULATE/日本発GALAXY試験:本邦におけるMRD元年大腸がん術後のctDNA/MRD検査は、再発リスクを高精度に層別化する手法として期待されており、ASCO 2026ではctDNAを単なる予後予測マーカーにとどめず、術後補助化学療法(ACT)の要否や期間を決める“治療設計ツール”としての可能性が示された。StageII pMMR/MSS結腸がんを対象とした欧州CIRCULATE(AIO-KRK-0217/ABCSG)試験では、tumor-informed型のアカデミックMRDアッセイを用い、術後ctDNA陽性例をACT群と観察群にランダム化した。本試験はドイツ・オーストリアで実施された前向きランダム化第III相試験で、ctDNA陽性例は41例、ITT解析対象はACT群26例、観察群15例であった。主要評価項目の3年DFSは、ACT群61%vs.観察群38%(HR:0.55、p=0.12)で、統計学的有意差には至らなかった。一方、事前規定のper-protocol解析では、ACT群に割り付けられたものの治療を開始しなかった5例を除外し、実際にACTを受けた21例と観察群15例を比較した。その結果、3年DFSは77%vs.38%(HR:0.31、p=0.021)、3年再発率はACT群19%vs.観察群62%(HR:0.23、p=0.009)と、ACT群で良好であった。本試験ではctDNA陽性率が2.9%と低く、早期終了により検出力が限られた点には注意が必要であるが、ctDNA陽性StageII結腸がんにおいて、術後補助化学療法による再発抑制が期待できることを示した前向きランダム化データとして意義は大きい。さらに日本発のCIRCULATE-Japan/GALAXY解析では、SignateraによるACT中のctDNA変化とACT期間との関係について、九州大学の沖 英次氏により報告された。対象は、ACTを受け、術後6ヵ月以内に2回以上ctDNA測定が行われた1,028例であり、ACT期間は90日以上をlong ACT、90日未満をshort ACTとして比較された。ctDNAが一貫して陰性であった症例では、long ACTによる明確なDFS改善は認められなかった(HR:0.71、95%CI:0.46~1.09)。また、ACT治療中にctDNAが陰転化した症例でも、ACT延長の上乗せ効果は明確ではなかった(HR:1.06、95%CI:0.57~1.97)。一方、ctDNAは低下したものの陽性が残るpartial molecular response例では、DFS中央値がlong ACT群5.9ヵ月vs.short ACT群1.7ヵ月と、long ACT群で良好であった(short vs.long:HR:3.64、95%CI:1.33~9.97、p=0.008)。この結果から、ctDNAが残存する一部の症例では、ACT期間の延長が有益となる可能性が示された。ただし、本解析は観察研究であり、現時点ではctDNA動態のみでACT期間を決定する段階ではなく、今後の前向き試験による検証が求められる。CIRCULATE-Japan/GALAXYではNatera社のSignateraが用いられており、術後ctDNAは再発リスクや補助化学療法効果の予測に有用であることがすでに報告されている。2026年5月に本邦でMRD検査の薬事承認が了承された8)ことで、2026年は「MRD実装元年」ともいえる局面を迎えたが、実臨床での普及には、保険適用時期、算定要件、測定タイミング、MRD陽性例に対する介入の整理が今後の課題と考える。8)日経バイオテク(2026年6月3日付)目次に戻る胃がんONO-4578-08試験:EP4阻害でPD-1阻害薬+化学療法の効果を高める新戦略ONO-4578は、PGE2受容体の1つであるEP4を阻害する経口EP4拮抗薬で、腫瘍微小環境における免疫抑制を解除し、PD-1阻害薬の効果を高めることが期待される。ONO-4578-08試験は、HER2陰性の未治療切除不能進行・再発胃がん/食道胃接合部がんを対象に、ONO-4578+ニボルマブ+SOX/CAPOXを、プラセボ+ニボルマブ+SOX/CAPOXと比較した、日本・韓国・台湾の多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第II相試験であり、ASCO 2026での発表に合わせてJCO誌オンライン版に掲載された9)。主要評価項目である治験担当医評価PFS中央値は9.0ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.67、p=0.040)と、事前規定の統計設定で有意に延長した。OS中央値は未到達vs.12.7ヵ月(HR:0.60)と未成熟ながらONO-4578群で良好であり、ORRも62.0%vs.48.7%と上回った。とくにPD-L1 CPS≧1集団では、PFS中央値9.9ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.52)、OS HR:0.44、ORR:70.9%vs.50.9%と、より明瞭なベネフィットが示された。一方で、CPS<1/判定不能例では明確な上乗せ効果は示されておらず、今後の患者選択が重要となる。安全性ではGrade3以上の有害事象が79.2%vs.69.3%とONO-4578群で多く、下痢、貧血、低アルブミン血症、消化管潰瘍などには注意を要する。消化管潰瘍の予防目的でPPI投与が推奨され、ONO-4578群内ではPPI使用例で消化管潰瘍が少なかった(3.4%vs.10.0%)。第II相試験であり、ただちに標準治療を変える段階ではないが、PD-1阻害薬+化学療法が標準となったHER2陰性胃がん1次治療に、免疫微小環境制御を上乗せする新しい戦略として重要である。今後は、PD-L1陽性例を中心とした第III相試験での検証が注目される。9)Nakayama I, et al. J Clin Oncol. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print]目次に戻る食道扁平上皮がんPANKU-Esophagus01試験:中国発新規EGFR×HER3二重特異性ADCizalontamab brengitecan(iza-bren/BL-B01D1)は、EGFRとHER3を標的とする二重特異性抗体薬物複合体(ADC)である。ASCO 2026では、再発・転移性食道扁平上皮がんを対象とした中国の第III相PANKU-Esophagus01の中間解析結果が報告された。対象は、1次治療のPD-1/PD-L1阻害薬+プラチナ系化学療法後に進行した患者で、iza-bren群249例もしくは医師選択化学療法(イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル)群248例に割り付けられた。主要評価項目であるOS中央値は9.8ヵ月vs.7.2ヵ月(HR:0.64)、PFS中央値は4.2ヵ月vs.2.0ヵ月(HR:0.50)と、いずれもiza-bren群で有意に改善した。ORRも35.3%vs.13.1%と良好であった。安全性では、Grade3以上の治療関連有害事象は85.1%vs.60.2%とiza-bren群で多く、主に血液毒性が中心であった。一方、治療関連有害事象による中止は2.0%vs.3.3%、治療関連死亡は1.2%vs.1.6%であり、間質性肺疾患の頻度も低かった(全Grade:1.6%vs.0.4%、Grade3以上:0.8%vs.0%)。1次治療で免疫チェックポイント阻害薬+化学療法が標準化した後の食道扁平上皮がんでは、2次治療の選択肢が限られており、iza-brenは新たな標準治療候補として注目される。ただし、中国の試験の結果であり、医師選択化学療法の詳細も未発表である。今後、日本を含むグローバルでの開発・承認動向を見極める必要がある。目次に戻る

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第98回 ターゲット・トライアル・エミュレーションとは?【統計のそこが知りたい!】

第98回 ターゲット・トライアル・エミュレーションとは?近年、医療分野における因果推論の手法として「ターゲット・トライアル・エミュレーション(Target Trial Emulation:TTE)」が注目を集めています。これは、「観察研究のデータを用いてランダム化比較試験(RCT)の結果を模倣し、因果関係を明らかにしよう」とするアプローチです。今回は、なぜこの手法が注目されているのか、具体的にどのようなものかについて解説します。■なぜTTERCTは、治療や介入の効果を評価するうえで最も信頼性の高い方法とされています。しかし、倫理的・時間的・金銭的な制約から、すべての臨床疑問に対してRCTを実施することは現実的ではありません。その一方で、観察研究は既存のデータを活用できるため、これらの制約を回避できますが、交絡因子やバイアスの影響を受けやすく、因果関係の推定には限界があります。このような背景から、観察データを用いてRCTのような厳密な因果推論を可能にするTTEが注目されるようになりました。■TTEとはTTEとは、「観察研究において、理想的なRCT(ターゲット・トライアル)を仮想的に設計し、その試験を模倣する形でデータ解析を行う手法」です。具体的には、以下の手順で進められます。1)仮想RCTの設計研究者が明らかにしたい因果関係に基づき、適格基準、治療戦略、割り当て手順、追跡期間、アウトカムの設定、効果の種類、分析計画などを明確に定義します。2)観察データでの模倣1)で設計した仮想RCTに対応する形で、観察データから適切な対象者を選び出し、治療群と対照群を設定し、解析を行います。この方法により、観察研究であってもRCTに近い形で因果関係を推定することが可能となります。■TTEで何ができるのかTTEの手法を用いることで、以下のことが可能となります。(1)因果関係の推定観察データから、交絡因子やバイアスの影響を最小限に抑えつつ、因果関係を推定することができる。(2)倫理的・実践的制約の克服倫理的にRCTが難しい場合や時間・費用の制約がある場合でも、観察データを活用して効果の推定が可能となる。(3)既存データの有効活用電子カルテや保険データなど、既存の大規模データベースを活用して、新たな知見を得ることができる。■TTEのメリットTTEの手法には以下のメリットがあります。(1)柔軟性:観察データを用いるため、さまざまな状況や集団に適用可能。(2)コスト効率:新たなRCTを実施するよりも、費用や時間が節約できる。(3)リアルワールドデータの活用:日常診療で収集されたデータを活用することで、より一般化可能な結果が得られる。■注意すべきポイントTTEの手法を用いる際には以下の点に注意が必要です。(1)バイアスの可能性観察データには未測定の交絡因子や選択バイアスが存在する可能性があり、結果の解釈には慎重さが求められる。(2)時間依存交絡時間とともに変化する交絡因子の影響を適切に調整しないと、推定結果にバイアスが生じる可能性がある。(3)モデルの適切性統計モデルの選択や仮定が結果に大きく影響するため、適切なモデル設定が重要。TTEは、観察研究の限界を克服し、因果関係を推定するための有力な手法として注目されています。しかし、その適用には慎重な設計と解析が求められます。論文を読む際には、この手法の利点と限界を理解し、結果の解釈に役立ててください。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション4 仮説検定の意味と検定手順セクション12 t検定の種類と選び方統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第32回 推定の落とし穴とは?第45回 因果関係とは?

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完全切除NSCLCへのニボルマブ、DFSを改善せず(EA5142/ALCHEMIST)/JAMA

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の治療では、抗PD-1抗体ニボルマブによる術前および周術期(術前・術後)の補助療法は無イベント生存期間(EFS)を改善することが知られているが、初回手術後の補助療法におけるニボルマブの役割は明らかにされていない。米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのJamie E. Chaft氏らは「ECOG-ACRIN EA5142試験」において、切除術を受けたNSCLC患者に補助化学療法または放射線療法(あるいは両方)を行った後にニボルマブを投与したところ、無病生存期間(DFS)は改善しなかったと報告した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年6月1日号に掲載された。米国の無作為化第III相試験 ECOG-ACRIN EA5142試験は、全米臨床試験ネットワーク(NCTN)に加盟する378施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(米国国立がん研究所の助成を受けた)。2016年5月~2019年9月に参加者を登録した。 対象は、切除腫瘍径4cm以上またはリンパ節転移陽性(N1/N2)、あるいはこれら両方の要件を満たし、予定された標準的な術後補助療法(化学療法または放射線療法、あるいはこれら両方)を完了した腺がん(EGFRおよびALKに感受性変異がない)または扁平上皮がんの患者であった。 被験者を、ニボルマブ(480mg、4週ごと、最長1年間)を静脈内投与する群、または標準治療で経過観察を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要複合評価項目は、ITT集団およびPD-L1を発現した腫瘍の割合が50%以上の患者集団におけるDFS(無作為化から再発、新規肺がん、全死因死亡のいずれかが発生するまでの期間)とした。 本試験は、75%のデータが収集された時点で、中間解析の結果に基づき無効中止となった。全生存期間にも差はない 935例を登録し、ニボルマブ群に466例(年齢中央値66歳、男性241例[52%])、経過観察群に469例(67歳、245例[52%])を割り付けた。 追跡期間中央値72.6ヵ月(範囲:0.03~109)の時点でのITT集団におけるDFS中央値は、ニボルマブ群が71.3ヵ月、経過観察群は68.8ヵ月であり、両群間に有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.97[97%信頼区間[CI]:0.79~1.20、95%CI:0.81~1.17]、片側p=0.39)。 また、同時点での腫瘍の50%以上にPD-L1の発現がみられる患者におけるDFS中央値は、ニボルマブ群が89.8ヵ月、経過観察群は78.5ヵ月だった(HR:0.86[98%CI:0.55~1.34、95%CI:0.59~1.25]、片側p=0.22)。 全生存期間中央値は、ITT集団ではニボルマブ群が95.9ヵ月、経過観察群は未到達であり(HR:1.02、95%CI:0.82~1.26)、腫瘍の50%以上にPD-L1の発現がみられる患者ではそれぞれ95.9ヵ月および未到達であった(HR:0.82、95%CI:0.53~1.28)。25%でGrade3~5のニボルマブ関連有害事象、術後補助ICI療法の有益性に疑問 ニボルマブに関連するGrade3~5の有害事象は116例(25%)で報告された。内訳は、Grade3が103例(22%)、Grade4が11例(2%)、Grade5が2例(1%未満)であった。 Grade5の2例は、いずれも呼吸器系のものであった。1例は肺切除術および術後補助化学療法を受けた患者で、もう1例は術後放射線療法から4週間未満で無作為化が行われたため、後に不適格とみなされた患者であった。 著者は、「両群ともDFSの目標値(54ヵ月)を上回ったが、これは術前病期分類の改正、あるいは登録前に再発した高リスク例の除外を含むその他の患者選択基準を反映している可能性がある」としている。 また、「先行研究におけるデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)による術後補助療法に関する否定的な結果や、ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)およびアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)の術後補助療法で観察された一貫性のない結果を踏まえると、本研究の結果は、NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法の有益性について疑問を投げかけるものである」と指摘している。

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肥満治療のついでにアルコール使用障害も治せる時代が来る? セマグルチド第III相試験の衝撃(解説:永井聡氏)

 肥満症や糖尿病治療の日常臨床では、アルコール使用障害(AUD)の患者にも多く遭遇する。“非”アルコール性である“代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)”では、GLP-1関連薬の効果が期待されている一方、アルコール関連肝疾患(ALD)では「お酒を控えて…」などの一言二言では、まず効果は期待できない。ALDの背景にあるAUDについて治療施設へ受診を勧めても受診が進まず、日常診療でもうまくいかないことが多い。 しかし、セマグルチド投与により「自然と飲酒量が減った」「酒への強い欲求がなくなった」といった事例が報告され、セマグルチド1.0mgのAUDに対する第II相臨床試験(48例、9週間投与)では、アルコール消費量や飲酒に対する「飲酒渇望(craving)」が減少することが報告されていた1)。 今回セマグルチド2.4mgを用いた第III相試験である26週のRCTがLancet誌に報告され、主要エンドポイントである「大量飲酒の日数」が有意に減少し、総アルコール摂取量、飲酒日当たりの飲酒量、飲酒渇望なども減少していた。  この効果は単なる「胃排泄遅延による物理的な飲酒量低下」ではなく、セマグルチドが脳内のドパミン報酬系(腹側被蓋野や側坐核など)に直接抑制的に作用し「飲んでもおいしくない」状態をつくり、アルコールへの強烈な「渇望」が抑制される中枢神経作用が関与していることが基礎研究を含め指摘されている。肥満症治療での「脂っこいものを食べたくなくなる」ことと同様の分子メカニズムと考えられている。 主要エンドポイントのNNTは4.3であり従来のAUD治療薬のNNT>7よりも高く、AUD治療に新たな選択肢として期待される。では、内科でもAUDが肥満症の“ついでに”治療できるようになるのか? というとそれは、まだ時期尚早である。本研究がAUD治療施設で標準的な認知行動療法とともにセマグルチドの投与が行われており、“単に”セマグルチドだけが投与されたわけではない。肥満症でも認知行動療法が重要であることと同様である。また、本研究は、BMI≧30が対象であり、非肥満AUD患者でも安全に同様の治療効果があるのかは明らかではない。26週の投与終了後も、大量飲酒が長期に抑制されるのかについても今後の検証が必要である。 肥満症においては薬物治療中止後の体重のリバウンドは、認知行動療法プログラム中止後よりもはるかに早いことが知られている2)。自由診療での“肥満”治療が、認知行動療法や食事・運動療法を欠いたGLP-1関連薬に“薬物依存”する“危うい現実”を踏まえれば、AUDに対する“安易な”GLP-1関連薬の展開は新たなGLP-1関連薬“依存症”を招きかねない。まさに“元の木阿弥”となってしまうであろう。 GLP-1関連薬は、AUD以外にも喫煙やその他さまざまな依存症への治療が期待されている。しかし野放図に処方されれば、新たな社会問題を来しかねない。肥満症も依存症治療も医学的社会的寛解を達成しうる妥当なパラダイムシフトを願うばかりである。

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HR+/HER2-/PIK3CA変異型進行乳がん、gedatolisibベース治療でPFSが倍に延長(VIKTORIA-1 Study 2)/ASCO2026

 CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA変異型の進行乳がんを対象に、PI3K/AKT/mTOR(PAM)経路を包括的に阻害するgedatolisib+フルベストラント±パルボシクリブ併用療法と、α特異的PI3K阻害薬alpelisib+フルベストラント併用療法を比較した第III相VIKTORIA-1試験コホート2の結果を、米国・ワシントン大学のSara A. Hurvitz氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表した。gedatolisibベースの併用療法は無増悪生存期間(PFS)の中央値を2倍に延長し、かつ有害事象による治療中止率は低かったことが示された。 VIKTORIA-1試験は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬投与中または投与後に進行したHR+/HER2-の進行乳がん患者を対象とした第III相ランダム化試験。PIK3CAの状態に基づいてコホート1(PIK3CA野生型)とコホート2(PIK3CA変異型)に分けられている。これまでのPIK3CA野生型コホートの報告では、フルベストラント単独群と比較して、gedatolisib+パルボシクリブ+フルベストラント併用群(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.17~0.35、p<0.0001)およびgedatolisib+フルベストラント併用群(HR:0.33、95%CI:0.24~0.48、p<0.0001)は、PFSにおいて統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらしたことが報告されている。 コホート2では、PIK3CA変異を有する患者(362例)は、gedatolisib+パルボシクリブ+フルベストラント併用群(gedatolisib3剤併用群、155例)、gedatolisib+フルベストラント併用群(gedatolisib2剤併用群、52例)、alpelisib+フルベストラント併用群(alpelisib併用群、155例)に3:1:3で無作為に割り付けられた。スケジュールは28日間サイクルで、gedatolisibは180mgを3週投与1週休薬(週1回静脈内投与)、パルボシクリブは125mgを3週投与1週休薬(連日経口投与)、フルベストラントは500mgを1・15日目、その後4週ごと(筋肉内投与)、alpelisibは300mg(連日経口投与)とした。 主要評価項目は、gedatolisib3剤併用群vs.alpelisib併用群の盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSであった。重要な副次評価項目は全生存期間(OS)、その他の副次評価項目はgedatolisib2剤併用群vs.alpelisib併用群のPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性などであった。データカットオフは2026年3月9日。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性は3群間でバランスがとれていた。gedatolisib3剤併用群、gedatolisib2剤併用群、alpelisib併用群の年齢中央値は60歳/62歳/60歳、閉経後が81.3%/86.5%/81.3%、肝または肺転移ありが78.7%/76.9%/72.9%、前治療における病勢進行までの期間が6ヵ月以下だったのが14.2%/11.5%/17.4%であった。前治療のCDK4/6阻害薬は大部分がパルボシクリブまたはribociclibであった。・追跡期間中央値12.8ヵ月時点のPFSにおいて、gedatolisib3剤併用群vs.alpelisib併用群のHRは0.50(95%CI:0.37~0.68、p<0.0001)、gedatolisib2剤併用群vs.alpelisib併用群のHRは0.51(95%CI:0.33~0.79、p=0.0013)であり、gedatolisibベースの治療により統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらした。PFS中央値は下記のとおり。 -gedatolisib3剤併用群 11.1ヵ月(95%CI:9.0~16.7) -gedatolisib2剤併用群 11.3ヵ月(95%CI:9.1~22.1) -alpelisib併用群 5.6ヵ月(95%CI:5.2~7.4)・OSデータは未成熟であるものの(成熟度45.8%)、データカットオフ時点でOSイベントはgedatolisib3剤併用群30.4%、gedatolisib2剤併用群27.1%、alpelisib併用群34.6%に発生した。gedatolisib3剤併用群vs.alpelisib併用群のHRは0.76(95%CI:0.50~1.14、p=0.0908)、gedatolisib2剤併用群vs.alpelisib併用群のHRは0.93(95%CI:0.55~1.6、p=0.4026)であった。OS中央値は下記のとおり。 -gedatolisib3剤併用群 NR(95%CI:21.5~NE) -gedatolisib2剤併用群 22.8ヵ月(95%CI:17.6~NE) -alpelisib併用群 31.1ヵ月(95%CI:20.0~NE)・ORRは、gedatolisib3剤併用群48.9%、gedatolisib2剤併用群35.7%、alpelisib併用群26.0%であった。・DOR中央値は、gedatolisib3剤併用群15.7ヵ月(95%CI:9.2~20.6)、gedatolisib2剤併用群24.2ヵ月(95%CI:7.4~NE)、alpelisib併用群7.5ヵ月(95%CI:5.5~15.8)であった。・治療関連の有害事象(AE)による治療中止率は、gedatolisib3剤併用群2.6%、gedatolisib2剤併用群3.8%、alpelisib併用群7.1%であった。gedatolisib3剤併用群で多く認められたAEは、好中球減少症(63.4%[Grade3:47.7%、Grade4:11.1%])と口内炎(61.4%[Grade3:16.3%])であった。・全Gradeの高血糖は、gedatolisib3剤併用群15.0%(Grade3:2.6%)、gedatolisib2剤併用群11.5%(いずれもGrade1/2)、alpelisib併用群57.9%(Grade3:13.8%、Grade4:0.7%)に発現した。 これらの結果より、Hurvitz氏は「gedatolisib+フルベストラント±パルボシクリブ併用療法は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA変異型の進行乳がんの新たな標準治療となる可能性がある。コホート1の結果と組み合わせることで、VIKTORIA-1試験はPIK3CA変異の有無にかかわらずHR+/HER2-進行乳がんにおけるドライバー遺伝子としてのPAM経路の重要性を検証した」とまとめた。

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調剤報酬改定で門前・医療モール薬局が狙い撃ちに【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第171回

2026年度の調剤報酬改定が6月1日から施行されました。今回、全体的にみるとプラス改定といわれていますが、そのほとんどが賃上げや物価対応分であり、医科・歯科・調剤についてはほとんど横ばいと言えるのではないかと思います。調剤基本料については、多くの薬局が算定していた調剤基本料1は45点→47点にという感じで、他の調剤基本料も1~2点引き上げられました。その一方で、「門前薬局等立地依存減算」(▲15点)という厳しい減算項目が新設されています。2015年に「患者のための薬局ビジョン」が策定され、10年以上が経ちましたが、特定の医療機関からの処方箋が集中する門前薬局が都市部で増え続けている問題は解消されていません。今回の減算は、処方箋の枚数をさばくことに重点を置いた、立地に依存する経営構造からの脱却と薬剤師の職能発揮を促進する観点から新設されました。減算対象が気になるところですが、これは「新規開設する保険薬局」を対象としており、都市部における門前薬局や医療モールなどへの新規出店に対して適用されます。ゾッとした人も少なくないかもしれませんが、措置期間が設けられており、2026年5月末時点ですでに保険薬局の指定を受けている薬局については、「当面の間、門前薬局等立地依存減算の対象外」としています。「当面の間」がどのくらいを指すのかはわかりません。1枚につき15点(150円)のマイナスというと、1日100枚の薬局では25日稼働で37万5,000円、1日200枚の薬局では75万円のマイナスになります。これが、どの程度の抑止力になるのか、動向を見守りたいと思います。減算なしの場合はプラス算定になるわけですから、今回の基本料の設計については、面分業に取り組む薬局には加算、立地に依存する薬局には減算、という明確なメリハリがつけられた形となります。薬局の場所を変更することは難しいとしても、今のうちから面の処方箋を獲得するなどして集中率を低下させる取り組みや対人業務の強化に取り組むことなどが重要です。また、かかりつけ薬剤師機能、在宅業務の仕組み化、地域支援・医薬品供給対応体制加算など機能評価型の加算で収益基盤を強化するなど、措置期間が解除となった場合の収益を確保する工夫も必要かもしれません。

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精神疾患の疾病負担、その世界的現況:GBD 2023/Lancet

 「疾病、傷害、リスク要因に関する世界疾病負担(GBD)研究」2023年版では、375の疾病・傷害について調査が行われ、このうち12が精神疾患であった。オーストラリア・Queensland Centre for Mental Health ResearchのDamian F. Santomauro氏らMental Disorder Collaboratorsは、2023年の時点で、利用可能な医療資源の有無を問わず、すべての国・地域で精神疾患が大きな健康上の負担をもたらし、場合によっては、この負担は時間とともに増大し、人口集団間で不均等に分布していることを示した。研究の成果はLancet誌2026年5月23日号に掲載された。1990~2023年の有病率、疾病負担を評価 研究グループは、1990~2023年に、21の地域と204の国・領地、および社会人口統計学的指標(SDI:国や地域が開発段階のどこに位置するかの要約指標)の五分位別に、性別および年齢層ごとの精神疾患の有病率と疾病負担に関して評価を行った(ゲイツ財団などの助成を受けた)。 対象となった12の精神疾患は、不安障害、大うつ病性障害、気分変調症、双極性障害、統合失調症、自閉スペクトラム障害、行為障害(素行症)、注意欠如・多動症、神経性やせ症、神経性過食症、特発性発達性知的障害、その他のカテゴリーの精神疾患であった。 また、障害生存年数(YLD:健康損失を伴いながら生存した年数)と損失生存年数(YLL:早期死亡により失った年数)を評価し、障害調整生存年(DALY:早期死亡および障害により失われた健康年数)を算出した。1990年以降、全精神疾患が増加 2023年の世界の精神疾患の有病者数は11億7,000万例(95%不確実性区間[UI]:10億6,000万~13億1,000万)、人口10万人当たりの年齢調整有病率で1万4,210.7例(1万2,849.5~1万5,940.1)と推定され、1990~2023年に、有病者数が95.5%(95%UI:75.0~121.2)、年齢調整有病率が24.2%(11.4~41.4)増加したことが示された。 また、1990~2023年に、すべての精神疾患で有病者数が増加したが、年齢調整有病率が著しく上昇した疾患として、不安障害、大うつ病性障害、気分変調症、神経性やせ症、神経性過食症、統合失調症、行為障害(素行症)が挙げられた。2023年の全死因によるDALYの6.1%が精神疾患 2023年に世界全体で、性別および年齢を問わず精神疾患に起因するDALYは1億7,100万(95%UI:1億2,700万~2億2,800万)、年齢調整DALY率(/10万人)は2,070.5DALY(1,519.1~2,750.5)と推定された。 2023年に精神疾患は、全死因によるDALYの6.1%(95%UI:4.8~7.6)を占め、世界のDALYの5番目に多い原因となった(1990年の12位から上昇)。DALYはほぼ完全にYLDで構成されていた。また、2023年に精神疾患はYLDの最大の原因となり(1990年の2位から上昇)、全世界の全死因によるYLDの17.3%(95%UI:14.8~20.6)を占めた。 精神疾患によるDALYの主な原因は、不安障害(GBD原因階層レベル4の304の疾病・傷害のうち11位)、大うつ病性障害(同15位)、統合失調症(同41位)であった。全地域で精神疾患によるDALY率上昇 2023年の世界全体において、精神疾患の年齢調整DALY率(/10万人)は、男性(1,900.2、95%UI:1,399.8~2,510.8)よりも女性(2,239.6、1,643.7~3,014.1)で高く、年齢層別では15~19歳(2,617.3、1,850.6~3,696.8)でピークに達した。 2023年には、すべての地域で1990年と比較して精神疾患によるDALY率(/10万人)が上昇しており、国・地域別では、ベトナムの1,302.4(95%UI:952.7~1,683.7)から、オランダの3,555.8(2,661.9~4,715.0)までの幅があった。 また、SDIの五分位別のDALY率(/10万人)は、中SDIの1,853.0(95%UI:1,352.1~2,469.3)から、高SDIの2,184.1(1,606.1~2,890.3)の範囲であった。 これらのデータを踏まえて著者は、「とくに低所得国と中所得国において、より強力なサーベイランス体制が求められる。さらに、地域ごとの性別や年齢の違いに応じた早期治療や予防を通じて負担を軽減するために、より協調的で包括的な施策が必要である」と指摘し、「世界の人々、とりわけ最も脆弱な人たちの精神衛生上の要望に応えることは、選択ではなく義務である」と結んでいる。

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つなぐべきか、つながざるべきか、それが問題だ(解説:山地杏平氏)

 弁膜症の外科手術を行う際には、左主幹部病変であれば50%以上、その他の主要冠動脈であれば70%以上の狭窄を合併している場合、冠動脈バイパス術(CABG)を同時に施行することが推奨されます。また、中等度大動脈弁狭窄症など、本来であれば単独では手術適応とならない弁膜症であっても、CABGが必要な症例では同時手術が検討されることもあります。 開胸するのであれば、冠血行再建も同時に行うという考え方はリーズナブルだと思います。とくに内胸動脈グラフトや、近年良好な成績が報告されている静脈グラフトを用いることで、将来的な冠動脈イベントの抑制が期待されます。 一方で、せっかく作成したグラフトも長期的には閉塞することがあります。グラフトを冠動脈遠位部へ吻合すると、ネイティブ冠動脈近位部の病変が進行し、完全閉塞へ至ることも少なくありません。そのような状況でグラフトが閉塞すると、慢性完全閉塞病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が必要になったり、場合によってはグラフトそのものへの治療が必要になったりすることもあります。そのため、「どの病変にグラフトをつなぐべきか」という問題は、長期予後を考えるうえできわめて重要です。 このような背景の下、弁膜症手術時に冠動脈病変を認めた場合、冠動脈造影による解剖学的狭窄度に基づいてバイパスを行うべきか、それともangiography-derived fractional flow reserve(FFR)による生理学的評価に基づいてバイパスを行うべきかを検討したFAVOR IV-QVAS試験が、2026年にLancet誌に報告されました。 本試験では、angiography-derived FFRを用いた群において、作成されるグラフト数が減少し、人工心肺時間および大動脈遮断時間が短縮されました。さらに、30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外血行再建、透析導入を含む主要複合エンドポイントは、FFR群で7.8%、冠動脈造影群で13.4%と有意に低下しました。 この結果はどちらかというと当たり前かとは感じます。CABGは周術期リスクを伴う一方で、遠隔期の冠動脈イベントを抑制することを目的とした治療です。そのため、短期成績のみを評価した場合には、介入を減らした群のほうが有利な結果を示す可能性があります。本試験の意義を正しく評価するためには、グラフト開存率や5年以上の遠隔期成績に関する今後の解析を待つ必要があります。 PCI領域ではFFRをはじめとする生理学的評価が広く普及しており、FAME試験やFAME 2試験をはじめとする多くの研究によって、解剖学的評価のみに基づく治療戦略よりも優れた臨床成績が示されてきました。現在の日本の保険診療においても、PCI施行前には何らかの虚血評価を行うことが求められています。しかし、重症三枝病変に対してCABGを行う際、「どの冠動脈にグラフトを吻合するべきか」という問題については、依然として議論の余地があります。たとえ病変がFFR陽性であっても、ネイティブ冠動脈の血流が比較的保たれている場合には、グラフト閉塞のリスクが高くなる可能性があります。実際、経験豊富な心臓外科医の中には、「FFR陽性であっても、この程度の狭窄であればグラフトは長期的に開存しにくい」と判断する場合があります。 PCIにおいては「その病変を治療すべきか」が主な論点であるのに対し、CABGでは「その病変にグラフトをつないだ際に長期的に機能するか」という別の視点が加わります。そのため、PCIの適応判断に有用であるFFRを、そのままCABGの吻合部位選択に応用できるかどうかについては、まだわかっていないように思います。FFRは虚血の有無を評価する指標としてきわめて優れていますが、グラフトの長期開存性を規定するのは、むしろ実際の血流需要かもしれません。その意味では、将来的にはFFRだけでなく、冠血流予備能(CFR)や冠血流量そのもの、さらには術中のエコーでのグラフト血流評価など、より「流量」に着目した指標の重要性が明らかになる可能性があるかもしれません。 FAVOR IV-QVAS試験の、長期予後やグラフト開存率に関する追加データ次第では、冠動脈バイパス術においても「狭窄があるからバイパスする」のではなく、「実際に虚血や血流障害を生じている血管のみを治療する」ということになるかもしれません。

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