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配置が手厚いICUは本当に「コスパ」がよい? 日本の比較研究人員配置が手厚いICU(特定集中治療室管理料1および2)は、死亡率を下げるだけでなく、費用対効果の面でも優れていることが、井汲 沙織氏らの研究で示されている。Journal of intensive care誌2023年12月4日号に掲載の報告を紹介する。集中治療科専門医の配置に関連するICU死亡率と費用対効果:日本全国観察研究研究チームは、集中治療専門医らの配置が手厚い「特定集中治療室管理料1および2(ICU1/2)」と、それ以外の「特定集中治療室管理料3および4(ICU3/4)」において、臨床アウトカムと費用対効果を比較するため、後ろ向き観察研究を行った。日本の全国的な行政データベースを使用し、2020年4月から2021年3月の間にICUに入室した患者を特定し、ICU1/2群とICU3/4群に分類した。ICU死亡率と院内死亡率を算出するとともに、質調整生存年(Quality-adjusted Life Year:QALY)と医療費の差から増分費用対効果比(Incremental cost-effectiveness ratio:ICER)を算出し、比較した。ICERが500万円/QALY未満の場合を費用対効果が高いと判断した。主な結果は以下の通り。ICU1/2群(n=7万1,412、60.7%)は、ICU3/4群(n=4万6,330、39.3%)と比較して、ICU死亡率(2.6%vs. 4.3%、p<0.001)および院内死亡率(6.1%vs. 8.9%、p<0.001)が低かった。患者1人あたりの平均費用は、ICU1/2で224万9,270±195万5,953円、ICU3/4で168万2,546±158万8,928円であり、差額は56万6,724円であった。ICERは71万8,659円/QALYであり、費用対効果の閾値(500万円/QALY)を下回っていた。ICU1/2における治療は、ICU3/4と比較して、死亡率が低かった。また、費用対効果が高く、ICERは500万円/QALY未満であった。専門家やマンパワーが多いICUって良い医療ができそうですよね?でもそれって科学的な事実なのでしょうか?また質が上がるとしても、医療費を無制限に投じてよいのでしょうか。今回はこうした疑問に答える論文を紹介します。研究当時のICUの管理料は、人員配置が手厚い「1および2」と、標準的な「3および4」に分かれていました(2024年診療報酬改定以降は6区分になっています)。「1および2」は専門医や経験豊富な看護師の配置が義務付けられ、質の高い医療環境が整っている分、1日あたりの費用も高く設定されています。研究結果から、実際にICU管理料1・2ではICU内・院内死亡率が低く、質の高い医療が提供できていると考えられます。一方で、質の高い医療を提供するために、多くの人材を雇い、医療費を使いすぎては医療を継続的に提供することはできません。この研究の面白い点は、死亡率だけでなく、費用対効果を評価していることです。ICU管理料1・2とICU管理料3・4の治療成果を、患者の生存期間にQOLを加味した指標「QALY」と、1QALYを上げるためのコストの差「ICER」で比較しました。日本では、ICERの費用対効果の基準として「500万円/QALY未満」が一般的に用いられます(ドルやユーロでは額が異なります)。つまり「1QALYを上げるのに500万円以下なら“コスパがよい”」ということになります。今回の結果(約72万円/QALY)は、この閾値を大きく下回っています。これは、ICU管理料1・2の医療は、コストが増加したとしても、それに見合った、あるいはそれ以上の救命とQOLの改善をもたらしている、すなわち極めて費用対効果が高いことを示しています。看護配置の視点でみると、ICU管理料1・2は認定・専門看護師の配置を要件としており、本研究の知見は、認定看護師のような専門的なスキルを持つ看護師の存在が、死亡率の低減に貢献している可能性を示唆しています。これは、単に看護師の数だけでなく、看護の質の高さが患者アウトカムに直結することを意味し、認定・専門看護師が現場で提供する高度なケアの価値を裏付けるものです(もちろん、看護の力だけでなく、専門医が2名以上勤務していること、院内に臨床工学技士が常駐していること、病室の広さなど複数の項目に違いがありますので、何がどの程度影響しているかは本研究ではわかりません)。今目の前の患者だけでなく、未来の患者を救うために、「Evidence-Based Medicine:EBM(根拠に基づく医療)」だけでなく、継続した医療を提供するための「価値」を測る「Value-Based Medicine:VBM(価値に基づく医療)」の考え方を持つことが、今後の日本の看護・医療により必要になっていくかもしれません。論文はこちらIkumi S, et al. J Intensive Care. 2023;11(1):60.