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うつ病や不安症の予防に有効な飲み物を年齢別に分析

 メンタルヘルスには食習慣が関連しており、独立したリスク因子であることが示唆されている。しかし、飲料摂取とメンタルヘルスとの関連を年齢別に評価したエビデンスは限られている。中国・温州医科大学のJiali Xie氏らは、6種類の飲料とうつ病および不安症との関連を推定するため、UKバイオバンクのデータを用いて検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2025年2月15日号の報告。 食事に関するアンケートを1回以上回答したベースライン時にうつ病および不安症でなかった参加者18万8,355人をUKバイオバンクデータより抽出した。分析には、Cox比例ハザードモデルおよび置換分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・平均フォローアップ期間11.15年の間にうつ病を発症した参加者は5,884例(3.12%)、不安症を発症した参加者は6,445例(3.42%)であった。・60歳未満では、1日1杯以上の砂糖入り飲料(ハザード比[HR]:1.14、95%信頼区間[CI]:1.02〜1.28)および人工甘味料入り飲料(HR:1.23、95%CI:1.09〜1.38)の摂取は、うつ病リスク上昇と関連していた。・一方、純粋な果物/野菜ジュース(HR:0.81、95%CI:0.72〜0.92)およびコーヒー(HR:0.88、95%CI:0.81〜0.96)の摂取は、うつ病リスク低下と関連していた。・60歳以上では、純粋な果物/野菜ジュースおよびコーヒーの摂取量が多いほど、うつ病および不安症リスクの低下が認められた。・60歳未満では、砂糖入り飲料を純粋な果物/野菜ジュースまたはコーヒーに変更すると、うつ病および不安症リスクが軽減し、60歳以上では、ミルクを純粋な果物/野菜ジュースまたはコーヒーに変更すると、うつ病および不安症リスクが軽減した。 著者らは「飲料とうつ病および不安症との関係は、年齢により異なることが示唆された、メンタルヘルスのリスク軽減において、慎重な飲料選択が重要であろう」と結論付けている。

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添付文書改訂:SGLT2阻害薬にケトアシドーシス注意喚起/レキサルティにアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感など追加【最新!DI情報】第30回

SGLT2阻害薬<対象薬剤>選択的SGLT2阻害薬(商品名:スーグラ錠、ジャディアンス錠、カナグル錠/OD錠、フォシーガ錠、デベルザ錠、ルセフィ錠/ODフィルム)<改訂年月>2024年12月<改訂項目>[追加]重要な基本的注意本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと。<ここがポイント!>SGLT2阻害薬全般において、重要な基本的注意に「投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関する注意喚起」が追記されました。国内において、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積されています※。改訂前にも、SGLT2阻害薬の使用上の注意としてケトアシドーシスに関連する注意喚起がなされていましたが、遷延に関する事象は予測できないことから、今回追記が行われました。※投与中止後3日以上遷延するケトアシドーシスとして承認取得者ごとの基準により抽出された症例レキサルティ錠<対象薬剤>ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ錠1mg/2mg、OD錠0.5mg/1mg/2mg、製造販売元:大塚製薬)<改訂年月>2024年9月<改訂項目>[追加]効能・効果アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動[追加]用法・用量通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回0.5mgから投与を開始した後、1週間以上の間隔をあけて増量し、1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日1回2mgに増量することができるが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。[追加]効能・効果に関連する注意高齢認知症患者への抗精神病薬投与により死亡リスクが増加するとの海外報告がある。また、本剤の国内プラセボ対照試験において、治験薬投与との関連性は明らかではないが死亡例が本剤群のみで報告されている。本剤の投与にあたっては上記リスクを十分に考慮し、臨床試験における有効性及び安全性の結果等を熟知した上で、慎重に患者を選択すること。また、本剤投与中は患者の状態を注意深く観察すること。<ここがポイント!>本剤は2018年1月に「総合失調症」の効能で製造販売承認を取得し、2023年12月には「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」の効能が追加されました。さらに、2024年9月には「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動」の効能も国内において初めて追加されました。アルツハイマー型認知症の約半数の患者に過活動や攻撃的言動が認められ、これにより家族・介護者の負担が増大し、生活の質が低下します。本適応の追加により、アルツハイマー型認知症の患者と介護者の双方にとって、重要な転換点となることが期待されます。ヌーカラ皮下注<対象薬剤>メポリズマブ(遺伝子組換え)製剤(商品名:ヌーカラ皮下注100mgペン/シリンジ、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)<改訂年月>2024年8月<改訂項目>[追加]効能・効果鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)[追加]用法・用量通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを4週間ごとに皮下に注射する。[追加]効能・効果に関連する注意本剤は全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な患者に用いること。<ここがポイント!>100mgペンおよび100mgシリンジの適応症は、これまで「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」および「既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」でしたが、2024年8月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」※が追加されました。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者では、鼻閉や嗅覚消失、顔面圧迫、睡眠障害、鼻汁などの症状がみられ、身体的・精神的負担が大きい疾患です。治療はステロイド薬や内視鏡下副鼻腔手術などが行われていますが、再発が多く、長期間のコントロールも困難です。本剤の適応追加によって、手術や全身ステロイドに代わる新たな治療選択肢が増えました。※最適使用推進ガイドライン対象レボレード錠<対象薬剤>エルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード錠12.5mg/25mg、製造販売元:ノバルティスファーマ)<改訂年月>2024年11月<改訂項目>[追加]用法・用量(小児患者に対する追加)<慢性特発性血小板減少性紫斑病>通常、成人及び1歳以上の小児には、エルトロンボパグとして初回投与量12.5mgを1日1回、食事の前後2時間を避けて空腹時に経口投与する。なお、血小板数、症状に応じて適宜増減する。また、1日最大投与量は50mgとする。[追加]効能・効果に関連する注意診療ガイドライン等の最新の情報を参考に、本剤の投与が適切と判断される患者に使用すること。<ここがポイント!>慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の小児患者は多くが自然寛解しますが、重症化すると脳出血などの重篤かつ致死的な出血症状を引き起こすことがあります。本剤は海外では1歳以上の患者に使用が承認されていましたが、国内では成人のみに使用できる状況でした。しかし、国内の診療ガイドラインでは、副腎皮質ステロイド治療などに効果が不十分な小児患者の2次治療として本剤が推奨されています。このため、日本小児血液・がん学会から要望書が提出され、小児患者(1歳以上)に対する用法・用量の追加の公知申請※が行われました。この効能追加によって、ガイドラインで推奨される治療を添付文書上の適応症に沿って実施できるようになりました。※公知申請:医薬品(効能追加など)の承認申請において、その有効性や安全性が医学的に公知であるとして、臨床試験の全部または一部を新たに実施することなく承認申請を行うことができる制度

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各向精神薬の投与量は死亡リスクとどのように関連しているか

 抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピンの使用は、統合失調症患者の死亡リスクに影響を及ぼす可能性がある。しかし、多くの観察研究では、向精神薬投与患者が必然的に生存している期間(フォローアップ開始から薬物治療開始までの期間)がある場合の不死時間バイアス(immortal time bias:ITB)は考慮されておらず、ITBを考慮しないと、向精神薬と死亡率との関連の解釈を誤認する可能性がある。カナダ・ラバル大学のSebastien Brodeur氏らは、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピンの累積投与量と統合失調症患者の死亡リスクとの関連を調査し、ITBを考慮しない場合の潜在的な影響についても評価した。JAMA Network Open誌2024年11月22日号の報告。 対象は、カナダ・ケベック州の行政データより抽出した2002〜12年に統合失調症と診断された17〜64歳の患者3万2,240例。データ分析は、2022年6月22日〜2024年9月30日に実施した。主要アウトカムは、すべての原因による死亡率とし、2013〜17年または死亡するまでの期間、フォローアップを行った。抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピンの投与量で3群(低、中、高)に分類し、死亡リスクを評価した。ITB制御なしの時間固定曝露とITBを制御した時間依存曝露によるCox比例ハザード回帰モデルを行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は46.1±11.6歳、男性の割合は61.3%(1万9,776例)。・フォローアップ期間中に死亡した患者は1,941例(6.0%)であった。・時間固定法では、抗精神病薬と死亡率との間に用量反応関係は認められなかった。・しかし、高用量の抗精神病薬使用は、ITB補正後の死亡率上昇と関連が認められた(調整ハザード比[aHR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.07〜1.55、p=0.008)。・抗うつ薬に関しては、時間固定法では死亡リスクの減少が認められたが、ITB補正後では高用量のみで死亡リスクの減少がみられた(aHR:0.86、95%CI:0.74〜1.00、p=0.047)。・ベンゾジアゼピンに関しては、いずれの評価においても死亡リスク増加との関連が認められた。 著者らは「本結果は、統合失調症患者に対する抗精神病薬の有効性に異議を唱えるものではなく、長期的な死亡リスクに対する課題を提起するものである」としている。

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 1

今回のキーワード双極性障害遺伝率共通の遺伝因子ランク理論(社会的地位理論)前適応双極性障害起源説敏感さ(過敏性)創造性前回(後編・その3)、統合失調症が昔から世界中で100人に1人発症する謎、青年期に発症する謎、途上国や田舎で回復しやすい謎を、この記事で提唱する「集団統合仮説」から解き明かしました。しかし、まだ謎が残っています。それは…統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか? ヒントは、双極性障害との謎の関係です。今回(後編・その4)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、統合失調症と双極性障害の謎の関係から、「統合失調症は双極性障害から進化した」という仰天の仮説を立てます。そして、いよいよ統合失調症の起源に迫ってみましょう。統合失調症と双極性障害の謎の関係とは?まず、統合失調症と双極性障害の相違点と共通点をそれぞれ3つの項目に分けて、その謎の関係に迫ってみましょう。なお、双極性障害の詳細については、関連記事1をご覧ください。(1)疫学まず、疫学においてです。その相違点として、一番は繁殖成功率です。統合失調症は男性20%、女性50%でかなり低下しているのに対して、双極性障害は男性75%、女性85%で比較的に保たれています1)。一方の共通点として、遺伝率は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく約80%です。共通の遺伝因子は、双極性障害の発症因子全体の約40%を占めています2)。実際に、家族歴では、統合失調症と双極性障害は同じ家系に混在していることが多いです。ちなみに、うつ病の遺伝率は約40%で、ストレスとの関係の方が大きいことが指摘されています。発症率は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく約1%で、性差がない点も同じです。ちなみに、うつ病は、約10%程度と高く、男性よりも女性が2倍多いです。発症年齢は、統合失調症も双極性障害もほぼ同じく20歳台が多いです。ちなみに、うつ病の発症年齢は、ストレスとの関係から中高年も多く、幅広いです。つまり、疫学的に、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。(2)治療次に、治療においてです。その相違点として、統合失調症には抗精神病薬、双極性障害には気分安定薬を主に使います。一方の共通点として、統合失調症にも気分安定薬、双極性障害にも抗精神病薬を併用することが多いです。実際に、抗精神病薬に気分安定薬を追加することで増強効果が発揮されるため、統合失調症の治療にも有効です。また、昨今の抗精神病薬は、抗幻覚妄想作用だけでなく気分安定作用もあり、気分安定薬として代用できるため、双極性障害にも適応があります。ちなみに、うつ病への気分安定薬の効果は限定的です。逆に、双極性障害への抗うつ薬の効果は無効です。それどころか、抑うつ状態から躁状態に転じるリスクもあります。つまり、治療的にも、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。実際に、双極性障害は、うつ病と誤診されると治療薬が違うので問題になりますが、統合失調症と誤診されても治療薬がほぼ同じなのであまり問題にならないです。治療薬の詳細については、心療内科・精神科の薬(2024)をご覧ください。(3)経過最後に、経過においてです。その相違点として、統合失調症は陽性症状(敏感さ)と陰性症状(鈍感さ)を繰り返し、双極性障害は躁状態と抑うつ状態を繰り返します。症状の中身(内容)としてはもちろん違います。そして、統合失調症には残遺症状(後遺症)があるのに対して、双極性障害にはないです。一方の共通点として、統合失調症の陽性症状と双極性障害の躁状態、統合失調症の陰性症状と双極性障害の抑うつ状態はそれぞれ重なります。つまり、名称が違うだけで、実は統合失調症の経過(形式)は、双極性障害と同じく2つの相(エピソード)を繰り返す「双極性」(循環性)です。ちなみに、うつ病の経過は、再発する場合は反復性ではありますが、「双極性」(循環性)ではなく「単極性」です。つまり、経過的にも、実は双極性障害は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことがわかります。統合失調症と双極性障害は共通点が多すぎて、もはや同じ病態の症候群で、ただ表面的な症状だけで別々に分類されているにすぎないとも言えそうです。実際の脳画像の研究においても、統合失調症と宗教体験は同じ脳領域が過活動になっていることをその1で触れましたが、さらに双極性障害もこれらと同じ脳領域が過活動になっていることがわかっています3)。また、双極性障害とうつ病は同じ気分障害に分類されていながら、意外にもこの2つの正体はまったく別物であることもわかります。次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 2

統合失調症は双極性障害からどうやって生まれたの?統合失調症の起源は抽象的な思考が可能になった約10万年前であるとその2で説明しました。その後に人類がアフリカから大規模な拡散を始めたのは、約7万年前です。よくよく考えると、発症率をはじめ統合失調症の特徴は世界共通であることから、約7万年前にはすでに統合失調症は現在の形に「完成」されていたことになります。だとしたら、統合失調症は10万年前から7万年前の3万年間で進化したわけですが、単独で進化するには期間があまりにも短すぎます。一方で、先ほどの示した統合失調症と共通点の多い双極性障害の起源は、ランク理論(社会的地位理論)から、少なくとも人類が部族をつくるようになった約300万年前と推定できます。ランク理論の詳細については、関連記事2をご覧ください。以上を踏まえると、統合失調症の進化には双極性障害という土台(前適応)があった、つまり統合失調症は双極性障害から進化したという仮説を立てることができます。名付けて、統合失調症の「双極性障害起源説」です。それでは、統合失調症は双極性障害からどうやって生まれたのでしょうか? 次は、先ほどの経過の共通点と相違点から、大きく3つの段階で進化精神医学的に解き明かしてみましょう。なお、前適応の詳細については、関連記事3をご覧ください。(1)躁状態から敏感さが生まれたランク理論を踏まえると、約300万年前から人類は、躁状態によって「ボスザル」になり上がる種が現れていたでしょう。躁状態では、ハイテンションになり、興奮して怒りっぽくもなります。この易怒性は、躁状態の診断基準の1つです。そこから、被害的にもなりやすいことは容易に想像できます。これが、被害妄想の起源です。つまり、躁とは何かに敏感でもあるわけです。1つ目の段階は、躁状態から敏感さ(過敏性)が生まれたことです。わかりやすく言えば、過敏さは躁状態という「エンジン」によって生まれたということです。躁状態が、意欲だけでなく、思考や知覚、そして自我意識まで広がって活性化するイメージです。思考の過敏さは妄想、知覚の過敏さは幻覚です。ちょうど、ドラマ版のナタリーが動物と会話する状況が当てはまります。これは、精霊信仰(アニミズム)の起源でしょう。また、自我意識の過敏さは作為体験です。これは、自分を意識する感覚が過剰になると、自分ではない誰かが自分を意識している、つまり見られている感覚やコントロールされている感覚になることです。そして同時に、ないものをあるかのように感じて想像する能力でもあります。これが、いわゆる霊感(超越的な存在の実感)の起源です。ちょうど、ドラマ版で登場人物たちが「あの霧は私のことを知っている」と言い出し、霧の中で操られるシーンに重なります。もちろん、これはドラマの設定上の霧の仕業という演出ですが、あたかも作為体験のように描かれている点が興味深いです。なお、統合失調症の敏感さやそのメカニズムの詳細については、関連記事4、関連記事5をご覧ください。実際の臨床では、躁状態(双極性障害)による興奮と幻覚妄想状態(統合失調症)による興奮は、区別できないことが多いです。これらがそれぞれ極端になった病態は同じく緊張病と呼ばれます。また、統合失調症と双極性障害が合併した病態として、統合失調感情障害もあります。一方、幻覚妄想状態が一時的にだけ出てくる病態として、急性一過性精神病性障害があります。また、幻覚がなく妄想だけが出てくる妄想症という病態もあります。そして、明らかな幻覚や妄想がなく、もともと霊感が強いだけの統合失調型パーソナリティ障害という性格特性もあります。これらは、神のお告げを繰り返し聞くこと(幻聴)がないため、それができるリーダー(統合失調症)には負けるでしょう。そして、これらの病態は、統合失調症ほど「集団統合機能」として完成されていないからこそ、統合失調症のリーダーとの対立を引き起こさず、そのリーダーのフォロワーとしてサポート的な「集団統合機能」を発揮したでしょう。これらすべての病態を合わせて、統合失調症スペクトラム障害と呼んでいます。なお、統合失調症にまで発症していなくても、統合失調症スペクトラム障害の人がリーダーになる方法が、実はありました。それは、外的な影響(ストレス因子)によって、一時的に幻覚妄想状態になること、いわゆるトランスを繰り返すことです。たとえば、古くから多くのシャーマンがわざわざ幻覚作用のある毒キノコを食べて幻覚状態になっていたのは、このためです。また、夜通し同じお経(歌)を唱え続けたり、同じ仕草や振り付け(ダンス)を繰り返すのも、このためです。この時、疲れ果てて身体的なストレスから幻覚状態(せん妄)を引き起こしていました。これらは、原始の時代に、幻覚状態(統合失調症)になりきれない場合の「裏技」として発明された行動様式と解釈することができます。さらに、リーダーだけでなく、フォロワーも一緒に毒キノコを食べたり、一緒にお経(歌)や振り付け(ダンス)をすることで同調効果が高まり、集団がよりまとまったでしょう。(2)抑うつ状態から鈍感さが生まれた躁状態の「エンジン」は、アクセル全開で過敏性を生み出したわけですが、循環性であるため、一定期間で抑うつ状態というブレーキがかかります。つまり、敏感の真逆の鈍感にもなります。2つ目の段階は、抑うつ状態から鈍感さが生まれたことです。鈍感さとは、陰性症状として、感情鈍麻、無為自閉、認知機能障害などが挙げられます。これらは、抑うつ状態の抑うつ気分、興味・喜びの減退、思考制止に似ています。(3)敏感さが止められない状況で残遺症状が生まれた双極性障害に残遺症状がないことから、もともと統合失調症も残遺症状がなかったでしょう。しかし、躁状態の「エンジン」から生まれた敏感さは、とくに部族の危機が解決せずにリーダーシップを続ける必要がある状況では、ブレーキがかかりにくくなったでしょう。つまり、鈍感になるという休息ができない状況です。その代償が、脳の過活動による脳細胞の消耗です。簡単に言えば、「脳細胞の過労死」です。3つ目の段階は、敏感さが止められない状況(社会環境によるストレス)で残遺症状(後遺症)が生まれたことです。逆に、そのストレスがなければ、スムーズに陰性症状(鈍感さ)の時期を迎え、残遺症状は目立たないでしょう。これは、回復率への影響因子としてすでにその3で説明しました。実際に、かつてのアフリカのヌアー族という未開の部族社会についての調査研究によると、当時にやってきたヨーロッパ人やアラブ人たちの脅威によって、部族の団結を精力的に促す預言者(シャーマン)が出てきた一方、奇行が目立つ預言者(シャーマン)も出てきたとの報告がされています4,5)。まさに、この部族の危機は、その3で説明した先進国や都市部の生活環境のストレスに重なります。つまり、統合失調症の残遺症状については、うつ病と同じく社会環境によるストレスの要素が大きいと言えます。そして、この残遺症状が繁殖成功率を下げる要因にもなっているでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その4)【実は双極性障害から進化したの!?(統合失調症の起源)】Part 3

統合失調症の起源は創造性じゃなかったの?統合失調症の「双極性障害起源説」について説明してきました。従来から、統合失調症の起源仮説として、創造性が挙げられています。統合失調症は、人類が創造性という能力を進化させた時の副産物であるという仮説です。確かに、創造性と幻覚妄想は、紙一重です。創造性とは、まさにないものあるかのように感じて表現することであり、作為体験に通じます。しかし、創造性は起源ではないと考えられます。その理由は3つあります。1つ目は、創造性が生まれたのは、早くても約5万年前であり、7万年前の出アフリカよりもあとです。もしも創造性が起源だとしたら、統合失調症の発症率などに地域差が生まれることになってしまい、世界共通であることを説明できなくなるからです。2つ目は、創造性が起源だとすると、その3で説明した発症率、好発年齢、回復率の謎のどれも説明できなくなるからです。3つ目は、創造性が「集団統合機能」のように生存や生殖の適応度を直接高めることがなく、進化の選択圧(淘汰圧)としては弱いからです。つまり、創造性もまた「集団統合機能」の副産物と言えるでしょう。創造性の起源の詳細については、関連記事6をご覧ください。ボスザルからリーダーに約20万年前に人類が言葉を話すようになり、約10万年前に抽象的な思考(概念化)ができるようになってから、敏感さ(過敏性)を得た人は、その超越的な存在の実感を神と呼ぶようになったでしょう。しかも、もともと躁状態であったことから、確信して断定的に言ったでしょう。こうして、双極性障害のボスザルになる機能は、統合失調症のリーダーになる機能に拡張されていったのです。これが、その2で説明した「集団統合仮説」です。統合失調症と同じく双極性障害も発症率が1%であることから、おそらく100人の部族には最終的に双極性障害と統合失調症が1人ずついたことになります。おそらく、生活環境(社会環境)が安定している時はハイテンションの双極性障害がそのままボスとなり、逆に生活環境が不安定な時はカリスマ的な統合失調症がリーダーに台頭するという役割分担をしていたのかもしれません。現在の調査研究でも、感染症が蔓延して生活環境が不安定な亜熱帯の地域ほど、宗教の数が増えていくことがわかっています3,6)。そのような地域の人々は、まさに映画版のカーモディさんやドラマ版のナタリーのような教祖(統合失調症)にすがってしまうのでしょう。実際に、その時代の社会情勢が不安定な時にこそ、カルトを含む宗教が盛り上がるのは、日本も含め歴史から学ぶことができます。だからこそアフリカのサバンナからグレートジャーニーへよくよく考えると、約20万年前から私たち現生人類(ホモサピエンス)の脳は構造的にも遺伝的にも大きく変わっていないです。この点を踏まえると、人類の概念化の能力や一部の人(統合失調症)の霊感の能力(超越的な存在の実感)は、約20万年前の時点ですでに潜在的に備わっていたと考えられます。それらが、ようやく約10万年前になって言葉によって表現され共有され、顕在化したのでしょう。つまり、10万年前から7万年前(出アフリカ)の3万年間は、統合失調症が進化した期間ではなく、すでに進化していた統合失調症の歴代のリーダーたちが「集団統合機能」を言葉(伝承)によって文化的に発展させる、つまり原始宗教を確立する期間であったのでしょう。そして、この原始宗教が約7万年前にようやく確立したからこそ、その時点でアフリカからの大規模な拡散、つまりグレートジャーニー(大陸大移動)が始まったのでしょう。かつてのアフリカのサバンナのボスザルは、「約束の地」(神が約束した新天地)へと導くリーダーになっていった…統合失調症の起源に根気強く迫っていくなか、そんな人類史の壮大な歴史にまで思いを馳せてしまいます。参考記事なお、さらに20万年前よりも以前に遡った概念化の心理機能とは、そもそも目の前にないものを存在として認識する心理機能(象徴機能)が考えられます。この詳細については、お化けの起源として、関連記事7をご覧ください。確かに、神とお化けは同じく、姿がよくわからないし、何かされそう…実は神はもともとお化けだった…!?1)「進化精神病理学」p.195、p.214:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20232)「標準精神医学 第8版」p.306、p.329:医学書院、20213)「宗教の起源」p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、20234)「ヌアー族」pp.323-324:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、20235)「ヌアー族の宗教 下」p.231:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、19956)「友だちの数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」P127:ロビン・ダンバー、インターシフト、2011<< 前のページへ■関連記事映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 1映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 3NHK「おかあさんと一緒」(前編)【歌うと話しやすくなるの?(発声学習)】Part 1絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】ビューティフルマインド【統合失調症】ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 2絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子供にお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 1

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 1

今回のキーワード発症率ダンバー数好発年齢回復率集団分裂仮説オープンダイアローグ前回(後編・その2)、統合失調症の機能とは、原始の時代に部族集団をまとめることであるという仮説を立てました。そして、「集団統合仮説」と名付けました。この仮説によって解ける統合失調症の謎があります。今回(後編・その3)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、この「集団統合仮説」から、統合失調症の疫学的な謎を3つ解いてみましょう。なんで昔から世界中で100人に1人が発症するの?統合失調症になると、周りで誰も話していないのに声が聞こえてきたり、周りから何かされるのではないかと思い込んでしまい、社会生活が難しくなるわけですが、これほど症状がユニークであるにもかかわらず、このような人は、実は100人に1人はいます。皆さんが学校に通っていた時、その学校で同じ学年(100人程度)にいた知り合いのうち、1人はその後にこの心の病気を発症している計算になり、実はとても身近な病気です。この割合は、他の国でもだいたい同じです。しかも、100人に1人は、昔から大きく変わらないようです。1つ目の謎は、発症率(有病率)です。この答えは、原始の時代の部族集団の人数がちょうど100人程度だからです。その人数の集団に1人の統合失調症のリーダーが生まれるように進化したと考えることができます。この100人という数は、実際に原始の時代の部族集団の最終的な最大人数である150人以内に収まっています。この150人という数は、ダンバー数と呼ばれています。この「150人」を超えると、脳(認知機能)が集団のメンバー同士の人間関係を把握しきれなくなることがわかっています。この詳細については、関連記事1をご覧ください。よくよく考えると、この発症率の数値は絶妙です。その理由を、部族集団の人数が少ない場合、ちょうど良い場合、多い場合の3つに分けてそれぞれ考えてみましょう。(1)人数が少ない場合1つ目は、部族の人数が50人以下で少ない場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5人を下回り、生まれない可能性の方が高くなります。しかし、人間に最も近いチンパンジーの群れの平均頭数が60頭であることから、この人数なら人間もチンパンジーと同じように、統合失調症のリーダーがいなくても、集団はまとまることができます。(2)部族の人数がちょうど良い場合2つ目は、部族の人数が50~150人でちょうど良い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5~1.5人となり、ほぼ1人生まれることになり、当然ながら、集団はまとまります。(3)人数が多い場合3つ目は、部族の人数が150人以上で多い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が1.5人を上回り、2人生まれる可能性が高くなっていきます。これは、カーモディさんとナタリーが同じ集団にいるようなものです。この2人がすぐに対立するのは、容易に想像できるでしょう。そして、どちらかが自分の信者を引き連れて、「約束の地」(神が約束した新天地)を目指して出ていくでしょう。つまり、集団の人数が多くなりすぎたら、分裂を促す働きもあるわけです。そもそも150人を超えた時点で部族のメンバーたちの脳のキャパオーバーが起き始めます。この状況で、2人目のリーダーが現れて分裂が加速されるのは、集団の機能の維持としてとても適応的です。この点で、従来の統合失調症の起源仮説である集団分裂仮説が思い起こされます1,2)。ただし、集団分裂仮説は、統合失調症の人をあくまで「異端児」(アウトサイダー)として捉え、主流派から去っていく少数派グループと想定し、分裂することを優位な機能としています。また、先ほどの発症率やダンバー数を考慮していません。この記事で提唱する「集団統合仮説」というネーミングは、見てのとおり、この集団分裂仮説を文字っています。「集団統合仮説」では、統合失調症の人を主流派のど真ん中に想定し、まずまとまることを優位な機能としています。集団の人数が増えすぎた場合に限り、もともといる統合失調症のリーダーとさらに現れた2人目の統合失調症のリーダーによって半々に分裂が引き起こされ、引き続きそれぞれの集団がまとまると説明しています。なお、冒頭で1学年の人数が100人程度と想定しましたが、この記事をここまで読むと、そもそもダンバー数によって、無意識にも学年の人数や大学の学科の定員が100人程度になるように設定されているとも言えます。次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 2

なんで青年期に発症するの?統合失調症は、男女を問わず、その多くが20歳台で発症します。結婚には当然不利になり、子孫(遺伝子)を残しにくいのにです。実際に、統合失調症の繁殖成功率は、男性20%、女性50%です1)。それにもかかわらず、遺伝素因は全人口の約30%と推定され3)、遺伝の影響度(遺伝率)が約80%と算定されており4)、遺伝子を残し続けていることになります。2つ目の謎は、好発年齢です。この答えは、リーダーに適した年齢だからです。厳密には、発症平均年齢は、男性27歳、女性30歳です。ピーク年齢については、男性が20歳台であるのに対して、女性は二峰性であり、1つ目のピークは男性と同じく20歳台で比較的に大きく、2つ目のピークは30歳台後半で比較的に小さいです5)。女性のピークが二峰性である原因も、リーダーに適した状態かどうかで説明することができます。それは、妊娠出産のタイミングです。当然ながら、妊娠出産の一定期間は、リーダーシップを発揮することが難しいです。よって、本来、発症するはずの年齢で、先に妊娠してしまったら、いったん発症が抑制され待機状態になるメカニズムが進化した可能性が考えられます。その根拠として、実際に、すでに発症した後に妊娠した場合、妊娠中の精神状態は比較的安定していることが多いからです。一方、出産後は、産褥期精神病(産後発症の統合失調症)という言葉があるように、発症リスクが上がるからです。また、2つ目の小さなピークである30歳台後半は、妊娠率が下がり始める時期に一致しているからです。男性よりも女性の方が、発症平均年齢がやや高いことも、妊娠出産で発症が一時的に抑制されるメカニズムが働いていることから説明できます。これ以外で、納得できる説明は見当たりません。逆に言えば、リーダーシップを発揮する年齢は、当時の平均寿命を考慮すれば、児童期以前(12歳以下)では早すぎて、中年期以降(40歳以上)では遅すぎることから、説明することができます。なお、妊娠出産(妊娠率)と関係して発症する精神障害として、実は摂食障害が挙げられます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その3)【こんなにユニークなのに…だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!?(統合失調症の疫学)】Part 3

なんで先進国よりも途上国で回復しやすいの?統合失調症は、なんと先進国よりも途上国でより速く回復するというWHOの調査結果が出ています3)。3つ目の謎は、回復率(寛解率)です。この答えは、より原始の時代に近い生活環境(社会環境)だからです。統合失調症の発症率はだいたい同じですが、その後に良くなるかの経過には地域差があることがわかっています。実際に、回復率が高いのは、先進国よりも途上国であるだけでなく、都市よりも農村であることもわかっています3)。イメージだけですと、途上国の方が、貧しく、不便で、正直不潔です。ストレスはとても高そうで、回復しにくそうです。一方、先進国は豊かで、便利で、清潔です。しかし、よくよく考えると、それは先進国にいる側の、そして統合失調症を発症していない側の発想です。先進国にいる場合、合理主義的であるため、ルールが多く、不合理なことを言う統合失調症の人たちの言動はより悪目立ちします。また、個人主義的であるため、人とのつながりが乏しく、孤独になりやすいです。リーダーシップを発揮するチャンスなどいっさいありません。さらに、衛生観念が厳しいため、統合失調症が慢性化した後遺症によって不潔になりがちになると、ますます受け入れられません。つまり、逆でした。ストレスが高いのは、統合失調症の人たちにとっては先進国であり、都会なのでした。よって、統合失調症の人は、途上国に移住することは現実的ではないにしても、なるべく自然が多い田舎に移住し、その共同体の中で人と触れ合い、マイペースでなるべく自給自足の生活をして、のびのびと暮らすことが適応的であることがわかります。まさに、原始の時代の共同体(部族社会)のイメージです。これは、「自然化」と呼ばれています5)。タイトルで「ユニーク」と表現しましたが、実は統合失調症がユニークなのではなく、現代の社会構造が彼らにとって「ユニーク」であるとも言えます。また、統合失調症のリーダーシップ機能を擬似的に発揮させて安定を図る取り組みとして、オープンダイアローグが挙げられます。これは、統合失調症の人に積極的に(オープンに)おしゃべり(ダイアローグ)をさせて受け止めることで、最近注目されています。よくよく考えると、この取り組みも従来の宗教活動に似ており、理に適っています。なお、合理主義、個人主義、清潔主義がより求められる先進国や都市で増悪する精神症状として、認知症の周辺症状(BPSD)も挙げられます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。ただ、統合失調症は最近、軽症化しているのも事実です3)。遺伝素因の保因者は一定数いて発症率は変わらないとは言うものの、さすがに現代の社会構造のままでは、淘汰圧(選択圧)は免れないでしょう。つまり、遠い将来においては、発症率は下がっていくことが推定できます。その前兆として、軽症化していると解釈することができます。まだ残っている謎は?今回は、統合失調症の疫学をテーマに、その謎解きをしました。しかし、まだ謎が残っています。それは…統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか?1)「進化精神病理学」p.195、p.198:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20232)「臨床精神医学 こころの進化と精神医学」p.843:アークメディア、20113)「統合失調症」p.158、p.192、p.197、p.199:岡田尊司、PHP新書、20104)「標準精神医学 第8版」p.306:医学書院、20215)「統合失調症」p.5、p.169:村井俊哉、岩波新書、2019<< 前のページへ■関連記事映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】Part 2映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 1ペコロスの母に会いに行く【認知症】

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抗精神病薬の多剤併用は50年間でどのように変化したのか

 抗精神病薬の多剤併用は、有害事象リスクが高く、単剤療法と比較し、有効性に関するエビデンスが少ないにもかかわらず、臨床的に広く用いられている。南デンマーク大学のMikkel Hojlund氏らは、精神疾患患者における抗精神病薬の多剤併用率、傾向、相関関係を包括的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Lancet Psychiatry誌2024年12月号の報告。 対象研究は、年齢や診断とは無関係に、精神疾患または抗精神病薬を使用している患者における抗精神病薬の多剤併用率を報告したオリジナル研究(観察研究および介入研究)。2009年1月〜2024年4月までに公表された研究をMEDLINE、Embaseより検索した。2009年5月以前の関連研究は、抗精神病薬の多剤併用率に関するこれまでの2つのシステマティックレビューより特定した。プールされた抗精神病薬の多剤併用率は、ランダム効果メタ解析を用いて推定した。抗精神病薬の多剤併用に関連する相関関係の特定には、サブグループ解析および混合効果メタ回帰解析を用いた。実体験を有する人は、本プロジェクトには関与しなかった。 主な結果は以下のとおり。・研究517件(個別時点:599件)、445万9,149例(平均年齢:39.5歳、範囲:6.4〜86.3歳、性別や民族に関するデータはまれ)をメタ解析に含めた。・ほとんどの研究には、統合失調症スペクトラム症患者が含まれていた(270件、52%)。・全体として、抗精神病薬の多剤併用率は24.8%(95%信頼区間[CI]:22.9〜26.7)、統合失調症スペクトラム症患者では33.2%(95%CI:30.6〜36.0)、認知症患者では5.2%(95%CI:4.0〜6.8)であった。・抗精神病薬の多剤併用率は、地域により異なり、北米では15.4%(95%CI:12.9〜18.2)、アフリカでは38.6%(95%CI:27.7〜50.6)であった。・全体的な抗精神病薬の多剤併用率は、1970年から2023年にかけて有意な増加が認められた(β=0.019、95%CI:0.009〜0.029、p=0.0002)。また、成人患者は小児および青年患者よりも高く(27.4%[95%CI:25.2〜29.8]vs.7.0%[95%CI:4.7〜10.3]、p<0.0001)、入院患者は外来患者よりも高かった(31.4%[95%CI:27.9〜35.2]vs.19.9%[95%CI:16.8〜23.3]、p<0.0001)。・抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法と比較し、次のリスク増加が認められた。【再発】相対リスク(RR):1.42、95%CI:1.04〜1.93、p=0.028【精神科入院】RR:1.24、95%CI:1.12〜1.38、p<0.0001【全般的機能低下】標準化平均差(SMD):−0.31、95%CI:−0.44〜−0.19、p<0.0001【錐体外路症状】RR:1.63、95%CI:1.13〜2.36、p=0.0098【ジストニア】RR:5.91、95%CI:1.20〜29.17、p=0.029【抗コリン薬使用などの有害事象の増加】RR:1.91、95%CI:1.55〜2.35、p<0.0001【副作用スコアの高さ】SMD:0.33、95%CI:0.24〜0.42、p<0.0001【補正QT間隔延長】SMD:0.24、95%CI:0.23〜0.26、p<0.0001【全死亡率】RR:1.19、95%CI:1.00〜1.41、p=0.047 著者らは「過去50年間で、抗精神病薬の多剤併用率は世界的の増加がみられ、その傾向は統合失調症スペクトラム症患者でとくに高かった。抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法よりも、疾患重症度が高く臨床アウトカム不良と関連しているが、これらの問題を解決するものではない。さらに、抗精神病薬の多剤併用は、全死亡率を含む副作用の増加と関連していることが示された」と結論付けている。

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口の中でグミを細かくできないと要介護や死亡のリスクが高い―島根でのコホート研究

 口の中の健康状態が良くないこと(口腔の不健康状態)が、要介護や死亡のリスクの高さと関連のあることを示すデータが報告された。また、それらのリスクと最も強い関連があるのは、グミを15秒間咀嚼してどれだけ細かく分割できるかという検査の結果だという。島根大学研究・学術情報本部地域包括ケア教育研究センターの安部孝文氏らが、島根県歯科医師会、国立保健医療科学院と共同で行ったコホート研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」に10月17日掲載された。 近年、口腔機能の脆弱状態を「オーラルフレイル」と呼び、全身の健康に悪影響を及ぼし得ることから、その予防や改善の取り組みが進められている。また75歳以上の高齢者に対しては、後期高齢者歯科口腔健康診査が全国的に行われている。安部氏らは島根県内でのその健診データを用いて、口腔機能の脆弱を含めた口腔の不健康状態と要介護および死亡リスクとの関連を検討した。 2016~2021年度に少なくとも1回は後期高齢者歯科口腔健康診査を受けた島根県内在住の後期高齢者から、ベースライン時点で介護保険を利用していた人とデータ欠落者を除外した2万2,747人(平均年齢78.34±2.89歳、男性42.74%)を死亡リスクとの関連の解析対象とした。介護保険を利用することなく死亡した人も除外した2万1,881人(同78.31±2.88歳、男性41.93%)を、要介護リスクとの関連の解析対象とした。なお、要介護の発生は、要介護度2以上と判定された場合と定義した。 ベースライン時に、13項目の指標(残存歯数、主観的および客観的咀嚼機能、歯周組織の状態、嚥下機能、構音障害、口腔乾燥など)により、口腔の不健康状態を評価。このうち、客観的咀嚼機能については、グミを口に含んで15秒間でできるだけ細かく咀嚼してもらい、分割できた数の四分位数により4段階に分類して評価した。22個以上に分割できた最高四分位群(上位4分の1)を最も咀嚼機能が優れている群とし、以下、13~21個の群、4~12個の群の順に、咀嚼機能が低いと判定。3個以下だった最低四分位群(下位4分の1)を最も咀嚼機能が低い群とした。 要介護または死亡の発生、もしくは2022年3月31日まで追跡した結果(平均追跡期間は死亡に関しては42.6カ月、要介護に関しては41.4カ月)、1,407人が死亡し、1,942人が要介護認定を受けていた。口腔の不健康状態との関連の解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、疾患〔高血圧、歯周病、脳血管疾患、肺炎、骨粗鬆症・骨折、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病など〕の既往歴、およびそれらに基づく傾向スコア)を統計学的に調整した。 その解析の結果、口腔の不健康状態に関する13項目の評価指標の全てが、死亡リスクと有意に関連していることが明らかになった。例えば残存歯数が28本以上の群を基準として、0本の群は63%リスクが高く(ハザード比〔HR〕1.63〔95%信頼区間1.27~2.09〕)、客観的咀嚼機能の最高四分位群を基準として最低四分位群は87%ハイリスクだった(HR1.87〔同1.60~2.19〕)。要介護リスクについても、口腔乾燥と口腔粘膜疾患を除く11項目が有意に関連していた。例えば残存歯数が0本ではHR1.50(1.21~1.87)、客観的咀嚼機能の最低四分位群はHR2.25(1.95~2.60)だった。 13項目の口腔の不健康状態の指標ごとの集団寄与危険割合を検討したところ、グミで評価した客観的咀嚼機能の低下が、要介護および死亡の発生との関連が最も強いことが分かった。例えば客観的咀嚼機能の最低四分位群の場合、死亡リスクに対する寄与割合が16.47%、要介護リスクに対する寄与割合は23.10%だった。 本研究により、口腔の不健康状態のさまざまな評価指標が要介護や死亡リスクと関連のあることが明らかになった。著者らは、「高齢者の口の中の健康を良好に保つことが、要介護や死亡リスクを抑制する可能性がある。研究の次のステップとして、歯科治療による介入効果の検証が求められる」と述べている。

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38種類の抗うつ薬と自殺リスク、小児に対するブラックボックス警告はいまだに有効か

 米国食品医薬品局(FDA)は、研究スポンサーを有する独自の臨床試験のデータに基づき承認を行うが、抗うつ薬については、小児や若年成人における自殺リスク増加に関するブラックボックス警告が、いまだに維持されたままである。米国・Larned State HospitalのAndy Roger Eugene氏は、抗うつ薬のブラックボックス警告が、現在でも有益であるかを評価するため、最近の医薬品安全性データを用いて検討を行った。Frontiers in Psychiatry誌2024年11月1日号の報告。 2017〜23年の米国FDAの有害事象報告システム(FAERS)より、市販後の抗うつ薬有害事象データを収集した。症例対非症例法および交絡因子で調整したのち、ロジスティック回帰分析を用いて検討を行った。調整因子には、性別、年齢層、医薬品使用目的(主薬、副薬、相互作用、併用薬)、初回報告年、抗うつ薬と年齢層の相互作用を含めた。本分析で使用した年齢層は、8〜17歳(小児)、18〜24歳(若年成人)、25〜64歳(成人)、65〜112歳(高齢者)とした。 主な結果は以下のとおり。・多変量解析では、fluoxetineにおいて、25〜64歳の成人患者と比較し、小児、若年成人では自殺リスクの増加との関連が認められたが、高齢者では認められなかった。【小児】調整報告オッズ比(aROR):7.38、95%信頼区間[CI]:6.02〜9.05【若年成人】aROR:3.49、95%CI:2.65〜4.59【高齢者】aROR:0.76、95%CI:0.53〜1.09・fluoxetineと比較し、esketamineは、小児における自殺傾向が最も高かったが、若年成人ではリスク低下と関連し、高齢者では有意な差が認められなかった。【小児】aROR:3.20、95%CI:2.25〜4.54【若年成人】aROR:0.59、95%CI:0.41〜0.84【高齢者】aROR:0.77、95%CI:0.48〜1.23・国別の結果では、米国と比較し、スロバキア、インド、カナダの自殺傾向リスクが最も低かった。・研究対象集団全体では、自殺傾向リスクの低下と関連していた抗うつ薬は、desvenlafaxine(aROR:0.61、95%CI:0.46〜0.81)とvilazodone(aROR:0.56、95%CI:0.32〜0.99)のみであった。 著者らは「米国において、小児や若年成人に抗うつ薬を使用する際の自殺リスク増加に関するブラックボックス警告は、現在においても有効であることが示唆された。しかし、米国と比較し、他の15ヵ国では自殺傾向リスクが有意に低く、16ヵ国において38種類の抗うつ薬使用とリチウムによる自殺傾向の報告リスクが高かった」と結論付けている。

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統合失調症発症後20年間における抗精神病薬使用の変化

 統合失調症に対する抗精神病薬の短期的な治療は、有益であることが証明されている。しかし、抗精神病薬の長期的な治療に関しては議論の余地が残っており、自然主義的な研究は不十分である。デンマーク・Mental Health Center CopenhagenのHelene Gjervig Hansen氏らは、初回エピソード統合失調症患者における20年後の抗精神病薬使用状況の変化を調査するため、本研究を実施した。Psychological Medicine誌オンライン版2024年11月18日号の報告。 本研究は、初回エピソード統合失調症患者496例を含むデンマークOPUS試験(1998~2000年)の一部である。対象患者には、20年にわたり4回の再評価を行った。主要アウトカムは、投薬日数、クロザピン使用歴、精神科入院、雇用とした。 主な結果は以下のとおり。・20年間のフォローアップ期間中に、71%の患者が脱落した。・フォローアップが継続可能であった143例のうち、20年目に抗精神病薬を必要としない精神症状寛解が51例(36%)で認められた。・これらの患者群では、20年間の投薬日数が最も少なかった(平均:339±538日)。・使用された抗精神病薬に関する登録ベース分析では、416例のデータが入手可能であった。・20年間のフォローアップ調査において抗精神病薬治療を継続していた患者120例は、抗精神病薬を中止した患者296例よりも、治療日数の長さ(平均日数:5,405±1,857日vs. 1,434±1,819日、p=0.00)、クロザピン使用歴を有する(25% vs.7.8%、p=0.00)において、有意な差が認められた。・さらに、治療を中止した患者は、20年間フォローアップ期間中の就業率が有意に高かった(28.4% vs.12.5%、p=0.00) 著者らは「脱落率が高いため、本研究結果は過大評価されている可能性がある」としながらも「初回エピソード統合失調症患者の36%において、抗精神病薬治療を中止した精神症状寛解を達成していた。また、脱落のない登録ベース分析では、70%の患者が抗精神病薬を中止していた。抗精神病薬治療を継続している患者は、アウトカムが最も不良であり、より重度であることが示唆された」と結論付けている。

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その2)【なんで統合失調症は「ある」の?(統合失調症の機能)】Part 1

今回のキーワードお告げ(幻聴)罰当たり(被害妄想)集団統合機能集団統合仮説伝承の心理イデオロギー前回(後編・その1)、宗教体験と統合失調症は表裏一体であることがわかりました。そして、宗教体験は、統合失調症と同じ心理現象(幻覚妄想)のプラス面を見ているだけであることもわかりました。そして、統合失調症は、宗教に関連した何らかの存在理由があることをご提示しました。それでは、なぜ統合失調症は「ある」のでしょうか?今回(後編・その2)は、前回に取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、進化精神医学の視点から、統合失調症の機能に迫ります。統合失調症の機能って何?映画版に登場するカーモディさんについても、ドラマ版に登場するナタリーについても、注目する点は、お告げ(幻聴)によって結果的に使命感に目覚め、自らを導いていることです。そして、罰当たり(被害妄想)の断定によって結果的に周りに言うことを聞かせ、集団を導いていることです。ここで重要なことは、幻覚は幻視ではなく、幻聴である必要があります。幻視だと、言語化する手間がかかるため、お告げほど効果的に集団を導くことが難しくなるからです。だからこそ、統合失調症の典型的な幻覚は、幻視ではなく幻聴だと言えます。つまり、彼女たちは、幻聴と被害妄想を主症状とする統合失調症を発症していることで、結果的にみんなの気持ちを1つにして、ある意味リーダーシップを発揮していることになります。ただし、これは現代のリーダーシップ(マネジメント)ではなく、あくまで原始の時代のリーダーシップです。この原始の時代とは、人類が抽象的な思考(概念化)をするようになった約10万年前から、文明社会が生まれる約1万数千年前までの期間に遡ります。この原始の時代の生活環境は、まさに「ミスト」の世界観です。そこは、現代と違って、猛獣がうろつき、飢餓や災害に無力です。現代のように科学の知識によって、自然の仕組みを理解して、その先を予測して、コントロールすることができません。このような自然の脅威の中で生き残って子孫を残すには、より多くの人たちがまとまって協力する必要があります。そんな時に現れたのが、カーモディさんやナタリーのような統合失調症を発症した「救世主」(リーダー)だったでしょう。彼らこそが、より多くの人数の部族集団をまとめることができたでしょう。これが、統合失調症が存在する理由であり、統合失調症の起源であると考えられます。進化精神医学的に考えれば、統合失調症は原始の時代にこの集団の統合という特別な役割を担うために進化した心理機能であるという仮説が立てられます。名付けるなら、この機能は「集団統合機能」、この仮説は「集団統合仮説」です。つまり、神のお告げ(幻聴)と罰当たりの境地(被害妄想)は、部族をまとめるために必要であったというわけです。もちろん、カーモディさんやナタリーのように、神の怒りを鎮めるという口実で生け贄を差し出そうとするなど、とんでもない人権侵害であり、まったくもって不合理です。しかし、結果的にその集団はこれ以上なくまとまっていきました。そもそも、原始の時代に人権などありません。人権尊重は、個人主義が広がった現代ならではの発想であり、価値観です。次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その2)【なんで統合失調症は「ある」の?(統合失調症の機能)】Part 2

なんで現代では統合失調症はリーダーシップを発揮できなくなったの?それでは、現代ではなぜ統合失調症はリーダーシップ(集団統合機能)を発揮できなくなったのでしょうか?その答えは、社会構造(環境)の変化です。統合失調症自体はほとんど何も変わっていないでしょう。変わったのは、社会構造の方です。どういうことでしょうか?約1万数千年前の農耕牧畜革命で文明社会が生まれ、合理的なものの考え方(合理的思考)が芽生えていきした。すると、その分、統合失調症の集団統合機能は、不合理であるため、通じにくくなっていったでしょう。それでも、シャーマンや巫女など特別な立場で、社会に溶け込んでいました。さらに時代は進み、約200年前の産業革命で科学が発展し、合理主義が広がっていきました。当時の哲学者ニーチェが言ったように、神は死んだのでした。すると、統合失調症を発症した人たちは、もはや「神のお告げが聴こえる」「悪魔が囁いている」とは言わなくなり、代わりに「頭の中のスピーカーが命令してくる」「怖い人たちの話し声が聞こえてくる」と言うようになりました。また、もはや「罰を受ける」「悪魔に操られる」とは言わなくなり、代わりに「闇の組織に狙われている」「電磁波で攻撃される」と言うようになりました。つまり、当時の社会構造(文化)の変化によって、統合失調症の幻覚妄想の表現も変わってしまったのでした。これは、語られる内容は、その時代のその社会(文化)によって、より適応的な意味づけや解釈がされ、変化していくという伝承の心理からも説明ができます。社会をまとめるのは、もともと神の存在(原始宗教)という伝承だったわけですが、現代では合理主義や個人主義がもととなった民主主義というイデオロギー(これもまた伝承)に取って変わってしまったというわけです。この詳細については、関連記事1をご覧ください。実際に、未開の部族の原始宗教においては、部族の長が預言者(シャーマン)を兼務し、宗教儀式を行っていることが多かったという調査結果が報告されています1,2)。ただ、よくよく考えれば、実はこの状況はその長がシャーマンそのものであり、統合失調症を発症していた可能性も示唆されます。古代日本の卑弥呼が呪術に長けていたことからもわかるでしょう。このことからも、もともと宗教、リーダーシップ(集団統合機能)、そして統合失調症はともに密接に関わっていることがわかります。つまり、宗教とは、もともとは統合失調症の集団統合機能が伝承によって体系化され、現代的にアレンジされたものであると言えます。宗教の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。現代の社会構造では、統合失調症の集団統合機能は、もはや完全に不合理なものとして「心の病」と見なされるようになりました。ただし、宗教体験として語られる場合に限っては社会的に受け入れられ続けました。ちなみに、この集団統合機能のメカニズムが現代で悪用されたものが、マインドコントロールです。この詳細については、関連記事3をご覧ください。実は、今回の「集団統合仮説」によって解ける統合失調症の謎があります。そして、その謎解きは、同時にこの仮説の根拠にもなります。どういうことでしょうか?次回に、詳しく解説します。1)「日本大百科全書(ニッポニカ)「原始宗教」の意味・わかりやすい解説」:小学館2)「ヌアー族の宗教 下」p.223、p.230、p.232:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、1995<< 前のページへ■関連記事昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 2ミスト(前編)【信じ込む心(宗教)】ミスト(中編)【マインドコントロール】

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うつ病、不安症、ADHD患者における双極症への移行率の比較

 一般的にみられる双極症の診断遅延は、アウトカム不良につながる可能性がある。ほとんどの研究では、主な前駆症状としてうつ病に焦点を当てているが、不安症や注意欠如多動症(ADHD)も、診断初期に高頻度で認められる。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のKevin Li氏らは、これらの前駆症状から双極症への移行率を調査し、相関関係を定量化するため、大規模な電子健康記録(EHR)を用いて、検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2025年2月号の報告。 多様な都市医療センターであるジョンズ・ホプキンス・メディスンの10年間の包括的なEHRデータセットを分析し、うつ病、不安症、ADHDから双極症への移行率および相関関係を評価および比較した。移行のリスク因子は、比例ハザードモデルで時間変動変数として評価した。 主な結果は以下のとおり。・最初に対象となった2万1,341例のうち、1,232例が双極症に診断が移行した。・調整後1年診断移行率は、うつ病で4.2%、不安症で3.4%、ADHDで4.0%。・調整後10年診断移行率は、うつ病で11.4%、不安症で9.4%、ADHDで10.9%。・すべての前駆診断において双極症への移行と関連していた因子は、年齢(19〜29歳)治療環境(救急および入院)、向精神薬であった。・重度およびうつ病診断は、双極症への移行リスクの最も強力な因子の1つであった。・診断移行リスク因子は同様であったが、小児では移行率がより低く(とくにADHD)、成人ではより高かった。 著者らは「双極症への移行リスクが最も高いのは、最初にうつ病と診断された患者であったが、不安症やADHDと診断された患者においても、有意なリスクが認められた」と結論付けている。

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向精神薬誘発性尿閉リスクの高い薬剤は〜国内医薬品副作用データベース

 向精神薬は、抗ムスカリン作動性およびその他のメカニズムにより尿閉を引き起こすことが報告されている。しかし、尿閉は致死的な問題ではないため、あまり気にされていなかった。東邦大学の植草 秀介氏らは、国内医薬品副作用(JADER)データベースを用いて、向精神薬に関連する尿閉の発生率を調査した。Drugs-Real World Outcomes誌2024年12月号の報告。 JADERデータベースを用いて、74種類の向精神薬における尿閉のレポートオッズ比を算出した。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、尿閉に対する性別、基礎疾患、年齢の影響を調整した。変数選択には、性別、年齢、前立腺肥大症、うつ病、各薬剤の段階的選択を含めた。 主な結果は以下のとおり。・88万7,704件の報告のうち、尿閉は4,653件(0.52%)であった。・尿閉は、男性で0.79%(42万9,372例中3,401例)、女性で0.43%(41万5,358例中1,797例)。・年齢に関しては、60歳未満で0.31%(28万8,676例中892例)、60歳以上で0.68%(50万6,907例中3,463例)。・基礎疾患では、前立腺肥大症ありが8.22%(1万1,316例中930例)、なしが0.43%(87万6,388例中3,723例)。・さらに、うつ病ありが1.99%(1万6,959例中337例)、なしが0.50%(87万745例中4,316例)。・全体として、検出基準を満たした向精神薬は38種類であった。・ロジスティック回帰分析には、識別可能な年齢および性別の患者78万3,083例を含めた。・選択された変数は、性別、年齢、前立腺肥大症、うつ病および23種類の薬剤であった。主な薬剤の調整されたレポートオッズ比(ROR)の95%信頼区間は、次のとおりであった。【クエチアピン】1.46〜2.81【クロルプロマジン】1.29〜3.13【エチゾラム】1.47〜3.09【マプロチリン】1.99〜8.34【ミルタザピン】1.37〜2.88【デュロキセチン】2.15〜4.21 著者らは「多くの向精神薬は、尿閉を誘発することが明らかとなった。これは、薬理学的効果に起因する可能性がある。とくに尿閉のリスク因子を有する患者では、適切なモニタリングが求められる」と結論付けている。

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うつ病に対する対人関係療法と抗うつ薬治療の比較〜IPDメタ解析

 成人うつ病に対する第1選択介入は、抗うつ薬治療と対人関係療法であるが、長期的および抑うつ症状以外に対するアウトカムにおける相対的な有効性は、不明である。個別被験者データ(IPD)を用いたメタ解析は、従来のメタ解析よりも、より正確な効果推定値を算出可能である。米国・アリゾナ大学のZachary D. Cohen氏らは、対人関係療法と抗うつ薬治療における治療後およびフォローアップ期間中のさまざまなアウトカムを比較するため、IPDメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌オンライン版2024年11月4日号の報告。 2023年5月1日にシステマティックな文献検索を行い、成人うつ病患者を対象に対人関係療法と抗うつ薬治療を比較したランダム化試験を特定した。匿名化されたIPDをリクエストし、混合効果モデルを用いて分析した。事前に指定した主要アウトカムは、治療後の抑うつ症状の重症度とした。副次的アウトカムは、2つ以上の研究で評価された治療後およびフォローアップ期間中の指標とした。 主な結果は以下のとおり。・特定された15件の研究のうち、9件よりIPDが収集された(1,948例中1,536例、78.9%)。・治療後の抑うつ症状(d=0.088、p=0.103、1,530例)および社会的機能(d=0.026、p=0.624、1,213例)の指標では、有意な差が認められなかった。・より小規模なサンプルでは、抗うつ薬治療は、対人関係療法よりも、治療後の一般精神病理(d=0.276、p=0.023、307例)、機能不全(d=0.249、p=0.029、231例)の指標で、わずかに優れていたが、その他の副次的およびフォローアップ期間中のアウトカムでは、違いが認められなかった。 著者らは「対人関係療法と抗うつ薬治療の急性期および長期的な有効性を幅広く評価した初めてのメタ解析である本試験において、対人関係療法と抗うつ薬治療との間に有意な差は認められなかった」と報告し「うつ病治療に関する試験では、複数のアウトカム測定およびフォローアップ評価を含める必要がある」としている。

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抜歯時の抗凝固療法に介入してDOACの休薬期間を適正化【うまくいく!処方提案プラクティス】第64回

 今回は、歯科治療に伴う直接経口抗凝固薬(DOAC)の休薬期間について、最新のガイドラインに基づいて介入した事例を紹介します。適切な周術期管理によって、経過は良好なままDOACの服用継続が実現しました。患者情報80歳、女性(施設入所中)基礎疾患認知症、統合失調症、心房細動(CHA2DS2-VAScスコア※:4点[年齢2点、女性1点、高血圧1点])※CHA2DS2-VAScスコア:範囲0~9点、点数が高いほど梗塞リスクが大きい処方内容1.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後2.リスペリドン錠1mg 1錠 分1 夕食後3.トラゾドン錠25mg 1錠 分1 就寝前4.酪酸菌製剤錠 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは歯科治療(単純抜歯1本)の予定があり、施設看護師より「訪問診療医から1週間のDOACの休薬指示が出たので抜薬の対応をしてほしい」と連絡がありました。しかし、抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン1)では、出血時の対応が可能な医療機関で行うことを前提に、DOAC単剤による抗凝固薬投与患者に対して、休薬下の抜歯よりもDOAC継続下で抜歯をすることが推奨されています。また、Steffelらの報告2)によると、DOACの周術期管理において、低出血リスク手術では24時間の休薬で十分とされています。アピキサバンの薬物動態データ3)では消失半減期が約12時間であることからも、7日間の休薬は過剰と考えられます。医師への提案と経過そこで、医療機関に電話で疑義照会し、看護師を介して医師に情報提供を行いました。まず、CHA2DS2-VAScスコアは4点で塞栓リスクが高く、認知症による活動性低下および向精神薬併用による鎮静作用もあるため、休薬により血栓リスクがさらに高まることが懸念されます。一方で出血リスクはあるものの、単純抜歯1本(低リスク処置)であり、抗血小板薬は非併用であることから、局所止血処置は可能と考えられることを伝えました。そのうえで、抜歯は病院ではなく診療所で行うことや、アピキサバンの血中濃度ピーク時(服用後3~3.5時間)3)に抜歯が行われて出血リスクがあることも懸念事項として伝えしました。医師からは、アピキサバンの半減期が約12時間である程度効果が残ることから、処置当日のみの休薬が妥当と判断されました。施設看護師にも変更内容について情報共有し、抜歯後の止血状況や口腔ケア時の出血状況で問題があれば相談するように伝えました。その後の経過を看護師と連携をとりながら確認したところ、抜歯時の出血は問題なく、血栓症状の発現もなく、術後の経過は良好なままDOACを服用継続できていました。本事例を通じて、(1)周術期管理における過剰な休薬の危険性、(2)エビデンスに基づく介入の重要性、(3)薬剤師による能動的な情報提供の意義を感じました。まとめ1.エビデンスに基づく評価:ガイドラインの適切な活用、患者個別のリスク評価、薬物動態データの考慮2.多職種連携の実践:医師との情報共有、歯科医師との連携、施設スタッフへの情報提供1)日本有病者歯科医療学会ほか編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版.学術社;2020.2)Steffel J, et al. Eur Heart J. 2018;39:1330-1393.3)エリキュース錠 医薬品インタビューフォーム(第13版)

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統合失調症患者における21の併存疾患を分析

 統合失調症とさまざまな健康アウトカムとの関連性を評価した包括的なアンブレラレビューは、これまでになかった。韓国・慶熙大学校のHyeri Lee氏らは、統合失調症に関連する併存疾患の健康アウトカムに関する既存のメタ解析をシステマティックにレビューし、エビデンスレベルの検証を行った。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年10月18日号の報告。 統合失調症患者における併存疾患の健康アウトカムを調査した観察研究のメタ解析のアンブレラレビューを実施した。2023年9月5日までに公表された対象研究を、PubMed/MEDLINE、EMBASE、ClinicalKey、Google Scholarより検索した。PRISMAガイドラインに従い、AMSTAR2を用いて、データ抽出および品質評価を行った。エビデンスの信頼性は、エビデンスの質により評価および分類した。リスク因子と保護因子の分析には、等価オッズ比(eRR)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・本アンブレラレビューには、19ヵ国、6,600万人超の参加者を対象とし、21の併存疾患の健康アウトカムを評価した88件の原著論文を含む9件のメタ解析を分析に含めた。・統合失調症患者は、以下の健康アウトカムとの有意な関連が認められた。【喘息】eRR:1.71、95%信頼区間[CI]:1.05〜2.78、エビデンスのクラスおよび質(CE):有意でない【慢性閉塞性肺疾患】eRR:1.73、95%CI:1.25〜2.37、CE:弱い【肺炎】eRR:2.63、95%CI:1.11〜6.23、CE:弱い【女性患者の乳がん】eRR:1.31、95%CI:1.04〜1.65、CE:弱い【心血管疾患】eRR:1.53、95%CI:1.12〜2.11、CE:弱い【脳卒中】eRR:1.71、95%CI:1.30〜2.25、CE:弱い【うっ血性心不全】eRR:1.81、95%CI:1.21〜2.69、CE:弱い【性機能障害】eRR:2.30、95%CI:1.75〜3.04、CE:弱い【骨折】eRR:1.63、95%CI:1.10〜2.40、CE:弱い【認知症】eRR:2.29、95%CI:1.19〜4.39、CE:弱い【乾癬】eRR:1.83、95%CI:1.18〜2.83、CE:弱い 著者らは「統合失調症患者は、呼吸器、心血管、性機能、神経、皮膚に関する健康アウトカムに対する広範な影響が認められており、統合的な治療アプローチの必要性が明らかとなった。主に、有意ではなく、エビデンスレベルが弱いことを考えると、本知見を強化するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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