CLEAR!ジャーナル四天王|page:29

高齢1型糖尿病患者における低血糖の抑止とCGM(持続血糖モニター)(解説:吉岡成人氏)-1253

35年前の本邦における疫学調査では、1型糖尿病の患者は進展した網膜症や末期腎症などの合併症の頻度が高く死亡リスクが高いと報告されている(糖尿病.1985;28:833-839.)。しかし、近年、インスリン製剤や注入器の進化、さらにはCGMなどの導入により血糖コントロールが改善し、合併症や併発症の早期発見、早期治療が可能となったことも相まって、1型糖尿病のQOLや生命予後が良好なものとなっている。その一方で、罹病期間が長く、高齢となった1型の糖尿病の患者が徐々に増加しており、加齢に伴って引き起こされる無自覚低血糖、認知機能の低下、転倒骨折、不整脈による突然死などが臨床の現場で大きな問題となっている。

進行性前立腺がんに対する経口レルゴリクスによるアンドロゲン除去療法(解説:宮嶋哲氏)-1250

GnRHアゴニストの皮下注射薬リュープロリドは、視床下部-下垂体系に作用して男性ホルモンを去勢域まで低下させ、現在のところ前立腺がんに対するアンドロゲン除去療法(ADT)の標準治療薬である。GnRHアゴニストの作用機序は初期段階で男性ホルモンを上昇させ、そのネガティブフィードバックによって男性ホルモンを去勢域に低下させる。わが国における前立腺がん治療薬としては、皮下注射薬リュープロリドは1ヵ月から6ヵ月製剤まで普及している一方で、皮下注射薬GnRHアンタゴニストも普及しつつある。作用機序もシンプルでありGnRHアゴニストのような一過性の男性ホルモンの上昇はない。

新型コロナウイルスの感染伝播防止に有効な対策(解説:小金丸博氏)-1252

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は人と人との密な接触で広がっていく。本稿執筆時点では、有効性が示された治療薬や予防ワクチンはなく、感染拡大をいかにして防止するかは重要なテーマである。今回、COVID-19、SARS、MERSの原因ウイルスの伝播防止に、身体的距離、マスクの着用、眼の防護が有効な対策となりうることを示したシステマティックレビューとメタ解析がLancet誌オンライン版より報告された。これまでのメタ解析は、季節性インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスに関するランダム化試験や不正確なデータを基にし、医療施設内での予防効果に焦点を合わせたものであったが、本論文ではSARS-CoV-2を含むコロナウイルスのデータに絞り、医療施設内のみでなく市中での感染予防効果に関するデータを含んでいることが特徴である。

著者ら自身が不満なのではないのか?(解説:野間重孝氏)-1251

患者アドヒアランスは単純に何かの実施率(この場合リハビリテーション実施率、服薬率)で評価できるものなのだろうか。まず少し理屈っぽくなってしまうが、コンプライアンス(compliance)とアドヒアランス(adherence)の違いを考えてみたいと思う。コンプライアンスもアドヒアランスもいずれも規則や指示に従うことを意味するが、コンプライアンスが言われたことを守るという受け身の意味合いが強いのに対して、アドヒアランスは興味を持って積極的に参加しようという意味合いが強い言葉である。近年は医師・薬剤師に言われたことを守るだけでなく、患者自身が積極的に治療に参加することが重要視されるようになり、数年前までは服薬についていえば「服薬コンプライアンス」といわれていたものが、昨今は「服薬アドヒアランス」と呼ばれるように変わってきた。

エイズ患者の結核治療:始めに検査?始めから治療?(解説:岡慎一氏)-1248

エイズ患者に対する結核治療というのは、いまだに根が深い問題が残っている。とくに、結核が蔓延しているアジアやアフリカでは、結核はエイズ患者の死亡原因のトップにくる。免疫不全の進行したエイズ患者の場合、大きく2つの問題がある。1つは、結核の症状が非典型的となり診断が難しいこと。もう1つは、HIVの治療で免疫が回復すると、免疫再構築症候群(IRIS)と呼ばれる激しい炎症反応が起こり、IRISで死亡することもあるのである。少し前までは、エイズ患者の結核治療は、IRIS予防のために一定期間結核治療を先行させるか、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始するかということが議論になっていた。現在、多くのRandomized Controlled Trial(RCT)の結果から結核治療を先行させるのではなく、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始することが推奨されている。

新型コロナウイルス感染症の重症化リスク解析について(解説:小林英夫氏)-1249

新型コロナウイルス感染症はWHOによるICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改訂)ではCOVID-19とコードされ、その和訳は「コロナウイルス感染症2019」とする案、つまり「新型」が付記されない方向で厚労省にて現在審議中とのことである。さて、日本と欧米や東アジア間ではCOVID-19への対応状況が異なるが、死亡者数・感染者数に明らかな差異が報告されている。その差異の理由はいかなるものかを解明していくことは今後の必須テーマで、京都大学の山中 伸弥教授はこの因子にファクターXと名付けている。現状では実態不明のファクターXであるが誰にでも予想できる要素として、人種別の遺伝的要素、ウイルス遺伝子変異、などは当然の候補となろう。そこで本論文では重症化、呼吸不全化のリスクについてゲノムワイド関連解析を行っている。その方向性は適正であろう。本論文の和訳は別途本サイトで掲載されるが、血液型によるリスク差に関する結果の一部だけを切り取ってマスメディアが過剰に喧伝しそうで気掛かりである。本論文はあくまでイタリアとスペインというラテン系民族が対象であり、日本人に該当するかどうかは未定である。もちろん、感染症に対して遺伝的素因・体質的素因が関与することは予想される事項であり、本邦でも罹患リスクや重症化リスクへのゲノム解析への取り組みに期待したい。

転移のない去勢抵抗性前立腺がんに対するエンザルタミドの有効性(解説:宮嶋哲氏)-1247

経口アンドロゲン受容体阻害薬であるエンザルタミドの有効性に関する第III相PROSPER試験の最終報告である。非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者(1,401例)を対象に、アンドロゲン除去療法(ADT)とエンザルタミド併用群を、ADTとプラセボ併用群と比較検討している。主要評価項目である無転移生存期間(metastasis free survival:MFS)に関しては2018年にすでに報告されているが、ADT+エンザルタミド併用群でADT+プラセボ併用群と比較して有意に低い転移および死亡のリスクを示していた(HR:0.29、95%CI:0.24~0.35、p<0.001)。

抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。

降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連―システマティックレビュー、メタ解析(解説:石川讓治氏)-1245

中年期の高血圧が晩年期の認知症の発症と関連していることがいくつかの観察研究において報告されてきた。しかし、降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連を評価した過去の研究においては、降圧治療が認知症の発症を減少させる傾向は認められたものの、有意差には至っていなかった。本論文では14の無作為介入試験の結果を用いてメタ解析を行い、平均年齢69歳、女性42.2%、ベースラインの血圧154/83.3mmHgの対象者において、降圧治療によって、平均49.2ヵ月間の追跡期間で7%の認知症もしくは認知機能障害の相対的リスク減少、および平均4.1年の追跡期間の間で7%の認知機能低下の相対的リスク減少があり、これらが有意差をもって認められたことを報告した。

血栓溶解療法のドアから針までの時間が短いほど1年後の死亡と再入院は少ない(解説:内山真一郎氏)-1244

この高齢者向け医療保険制度(Medicare)の受益者を対象とした全米の後方視的コホート研究は、発症後4.5時間以内のtPAの静注療法を行った65歳以上の脳梗塞患者において、病院への到着(ドア)から注射(針)までの時間が短いほど1年後の死亡率と再入院率が低いことを明らかにした。これまでも、ドアから針までの時間が短いほど、院内死亡、出血性梗塞、90日後の転帰不良が少ないことはわかっていたが、1年後という長期の転帰との関係が明らかにされたのは初めてである。

女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。

HFrEF患者の死亡率はこの20年で半分になった!(解説:絹川弘一郎氏)-1242

HFrEFの治療薬は2000年くらいにはACE阻害薬とβ遮断薬が基礎治療薬で、数年のうちにARBとMRAが出そろった。エナラプリルとカルベジロールが第1世代のHFrEF治療薬であろうか。ARBはやや遅れてスタートしたので1.5世代薬くらいの印象である。ただACE阻害薬に優るエビデンスはなく多くは咳が出たときの代替薬なので、大きなインパクトではない。MRAについては古くからスピロノラクトンがあるもののunderuseが続き、2011年により忍容性の高いエプレレノンが登場したが、現在の実臨床でもファーストラインで投与される率はまだ低い。しかし、ARNIが2014年にPARADIGM-HF試験1)でHFrEFに対しACE阻害薬を上回る効果を示し、2019年にはSGLT2阻害薬が非糖尿病HFrEFでも有効と証明してみせた。対象は限定的であるが2010年にイバブラジンも予後改善効果を示した。このように2010年代はHFrEF治療の第2世代薬(ARNI、SGLT2阻害薬、イバブラジン)が登場したまさにパラダイムシフトのdecadeであった。それを総括する論文がこのLancet誌である。

ダパグリフロジンはHFrEF治療薬で決定だが、いまだメカニズムはわからない(解説:絹川弘一郎氏)-1241

DAPA-HF1)の衝撃はすでに10ヵ月も前の話で、ただ昨年8月の時点ではまだデータ不足と仰っていた先生方も11月のAHAのころにはBraunwald先生の総説2)が出て、あっさりSGLT2阻害薬をHFrEFのファーストラインドラッグとして容認しはじめた。そして、2020年にはどんどんSGLT2阻害薬のデータが心不全領域で出てくるかと期待に満ちあふれていた矢先、新型コロナの蔓延で本家本元の感染パンデミックの最中には、心不全パンデミックという用語も軽々とは使用し難い雰囲気である。また、学会やイベントが中止になるだけで研究がここまで減速するのかと感慨深い。このJAMAの論文は本年3月に発表されたものでそもそも旧聞に属する時期外れの感想文であるが、なにぶん4〜5月は私の地方でもそこそこコロナで騒然としていて、毎日対策会議なるものを開いていたため、今になってご紹介することをお許しいただきたい。

電子タバコ/vaping製品の安全性が担保されていないこと/急増する電子タバコ関連肺損傷を周知し、安易に手を出すことを慎もう!(解説:島田俊夫氏)-1240

紙巻きタバコが有害なことはこれまでの多くの研究から生活習慣病の悪習の一因として周知されており、紙巻きタバコはあらゆるがんの発生や動脈硬化の促進に関与していることは周知の事実である。さらに、心血管障害の大きなリスク因子としてのみならず、感染症に対して免疫力の低下をもたらすこともわかってきており、生活習慣病の大きな病因と見なされるようになっている。喫煙者が禁煙したいと思う気持ちをもてあそび、禁煙のために紙巻きタバコ代替品に安易に飛び付くように仕向けられた誇大広告により電子タバコ/vaping製品を使用する禁煙志願者が増加している。

漫然とした多剤併用に一石!(解説:桑島巖氏)-1239

高齢者におけるpolypharmacy(多剤併用)が社会問題化している。確かに高齢者では複数の疾患が多くなり薬剤数が増えることはある程度やむを得ないかもしれない。しかし効果のない薬を漫然と処方することはぜひ避けなければならない。英国から発表されたOPTIMISE研究は臨床に即した重要な論文である。収縮期血圧が150mmHg未満で2種類以上の降圧薬を服用している80歳以上の症例(平均84.8歳)を、1種類降圧薬を減らす群(介入群)282例と従来どおりの治療群(対照群)に非盲検化にランダム化して12週後の血圧に差がないことを確認する非劣性試験である。  その結果、12週後の収縮期血圧が150mmHg未満を維持していた症例は、介入群86.4%、対照群87.7%で両群に有意差はなかった。

COVID-19に対するレムデシビルによる治療速報―米中のCOVID-19に対する治療薬・ワクチンの開発競争(解説:浦島充佳氏)-1238

COVID-19に対して各国で治療薬・ワクチンの開発が進められている。エイズの治療薬であるカレトラは期待が持たれたが、ランダム化臨床試験でその効果を否定された。4月29日、レムデシビルは武漢のランダム化臨床試験で、明らかに治療薬群で有害事象による薬剤中止例が多く、途中で中止された。したがって十分な症例数ではないが、レムデシビル群の死亡率は14%、プラセボ群のそれは13%であり治療効果を確認することはできなかった。

「複合的減塩」のすすめ―まずは、カリウム代用塩の活用を!(解説:石上友章氏)-1237

高血圧と食塩摂取との間には、緊密な関係が証明されており、高血圧の生活習慣指導の中心は「減塩」とされている。日本高血圧学会も、「減塩」に力を入れており、減塩サミット・適塩フォーラムといったイベントや、学会推奨の減塩食品の開発を行っている。したがって、公衆衛生的な取り組みが、高血圧ならびに、高血圧に起因する心血管病の制圧に有効とされている。英国では、国家的に食品(主にパン)中の食塩を減らすことで、血圧の低下、心血管イベントの抑制に成功している。中国では、パンに代わり、主要な食塩源が卓上塩であることから、卓上塩をカリウム代用塩に置き換えることで、同様の効果が期待できる。

ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。

転移性尿路上皮がんに対するアテゾリズマブの1次治療としての有効性:第III相多施設ランダム化比較試験(IMvigor130)(解説:宮嶋哲氏)-1235

本邦において現在、転移性尿路上皮がんに対する1次治療はゲムシタビンとシスプラチン併用療法(GC療法)であるが、治療中に再発を来すことはまれではない。2次治療として免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が期待されているが、本邦ではペンブロリズマブが唯一承認されている。アテゾリズマブは、転移性尿路上皮がんに対する2次治療としてICIの中で初めて有用性が示され、2018年にFDAに承認されたICIである。本研究は、2016年からの2年間に転移性尿路上皮がんを対象に1次治療としてアテゾリズマブの有効性について検討を行った第III相国際多施設ランダム化比較試験(IMvigor130)である。1,213例を対象に、アテゾリズマブ+プラチナ製剤併用、アテゾリズマブ単剤、プラセボ+プラチナ製剤併用の3群にランダム化している。

心不全で突然死はどのくらい起こるのか?(解説:香坂俊氏)-1234

天気予報の精度が年々上がってきていることに皆さんはお気付きだろうか? とくにこの数年その進歩は著しく、翌日の天気であればほぼ時間単位での予測が可能になっている。これは実は「アルゴリズムの勝利」とも言うべきものであり、これまで集積されてきた情報をデータ化し、そこにAIを用いた数理モデルを駆使して予測を立てることができるようになってから飛躍的に進歩した分野なのである。そして、心不全の領域においても、そのイベントの発生の予測はだいぶできるようになってきた。これも天気予報と同様に数理モデルを応用して、危険因子をはじき出し、個々の患者さんの状況に当てはめるというやり方が成果を出しつつある(米国のフラミンガムリスクスコアや日本の吹田スコアなどはその好例だ)。