CLEAR!ジャーナル四天王|page:36

AFIRE試験が世界に投げかけたこと(解説:香坂俊氏)-1281

AFIRE試験がNEJM誌に発表された。そのデザインや主要な結果に関しては、さまざまな学会や研究会で議論がなされており、その解釈に関しても広く議論がなされている。AFIREのデザインと主要な結果・心房細動を持つ安定冠動脈疾患の患者さんを対象に「リバーロキサバン(経口抗凝固薬)単独」と「リバーロキサバン+抗血小板薬併用」との比較を行ったわが国の多施設共同のランダム化比較研究。・2017年9月末までに2,240例が登録され、2年以上の観察期間を予定していたが、データ安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了。

交叉するKaplan Meier曲線を巡って:皮下植込み型除細動器(S-ICD)の場合(解説:香坂俊氏)-1280

突然心停止の原因となる不整脈(心室細動等)の発生時に心臓にDCショックを送り、正常な心拍に戻す機器としてICD(植込み型除細動器)が知られている。このICDはペースメーカーとは若干位置付けが異なることに注意されたい。図. ペースメーカーとICDの違い。ペースメーカーがSick Sinus(洞不全症候群)やAV Block(房室ブロック)のような徐脈性不整脈に対して弱い電流を断続的にピシピシと流して心臓を拍動させるのに対し、ICDはVF(心室細動)等の頻脈性不整脈に対して強い電流を一度だけドカーンと流して心臓の拍動をリセットする。

重症の胆石性急性膵炎に対する緊急ERCPと保存的治療:多施設共同無作為化比較試験(解説:上村直実氏)-1277

オランダ発の本論文は、発熱を伴う総胆管結石、総胆管の拡張、進行性の胆汁うっ滞により定義される明確な胆管炎を認めない重症の胆石性急性膵炎(以下、本症)を有する患者を対象として、6ヵ月以内の死亡または主要な合併症(多臓器不全、胆管炎、菌血症、肺炎、膵臓壊死、膵機能不全)の発症を検討し、24時間以内の括約筋切開を伴う緊急ERCPを施行するERCP/ES群と保存療法から開始する対照群を比較した結果、本症の改善に対する有用性および安全性に統計学的な差を認めなかったことから緊急ERCP/ESを施行しない保存療法を支持する結論となっている。

チカグレロルのDAPTからSAPTへの移行時期:3ヵ月vs.12ヵ月の比較試験(解説:上田恭敬氏)-1276

急性冠症候群症例を対象として、PCI後にチカグレロルとアスピリンによるDAPTを3ヵ月で終了してチカグレロルの単剤療法へ移行する群と12ヵ月間DAPTを継続する群に無作為に割り付け、12ヵ月間のnet adverse clinical event(出血と脳心血管イベント)を主要評価項目として比較したRCTの結果である。出血はTIMI major bleeding、脳心血管イベントは死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的血管再血行再建としている。登録症例数は、DAPT 3ヵ月群が1,527症例、12ヵ月群が1,529症例であった。

うつを予防する方法(解説:岡村毅氏)-1278

ビタミンDにうつ病を予防する効果はないという残念な結果であった。これを深掘りしてみよう。まず、前提としてさまざまなビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸等がうつ病を予防するのではないかという小さなエビデンスは集積されている。ビタミンDでも同様である。ただし、たとえばビタミンDを摂っている健康な人は、運動もするし、友人も多いし、健康情報もよく知っているのでうつになりにくい可能性はあるだろう(これらを交絡因子という)。したがってうつ病の人と、そうでない人を比べるとビタミン摂取量に差がある可能性はある。

抗血小板薬単剤療法はアスピリン単独かP2Y12阻害薬単独か?(解説:上田恭敬氏)-1275

脳心血管疾患患者の2次予防としての抗血小板薬単剤療法は、アスピリン単剤とP2Y12阻害薬単剤のいずれが優れているかを、メタ解析によって検討した研究が報告された。1989年から2019年までに報告された9個のRCTが解析に含まれており、P2Y12阻害薬としてはチクロピジン、クロピドグレル、チカグレロルが含まれている。観察期間は3〜36ヵ月のものが含まれている。心筋梗塞の発生率については、P2Y12阻害薬単剤群で低くなったが、全死亡、心血管死亡、脳卒中、出血イベントについては、群間差がなかった。結果は、P2Y12阻害薬の種類によらず同じであった。よって、2次予防としては、アスピリン単剤よりもP2Y12阻害薬単剤のほうがやや優れているという結果となった。ただし、sensitivity analysisとして、解析に含まれた9個のRCTの1つであるCAPRIE試験を除外すると、心筋梗塞発生率についての差はなくなるとしている。

青少年および若年成人1型糖尿病患者の血糖管理においてもCGMは有効である(解説:住谷哲氏)-1274

成人1型糖尿病患者において自己血糖測定(BGM)に比べてCGMを使用するほうがHbA1cを低下させることはこれまでに報告されていた。しかし血糖管理が最も困難とされる青少年および若年成人1型糖尿病患者においてCGMが有効であるか否かはこれまで不明であった。この問題に答えたのが本試験である。本試験で使用されたCGMはDexcom G5であり最新のG6よりも1つ前の機種である。G6は出荷時に校正が済んでいるのでBGMによる補正は必要ないが、G5は1日2回のBGMによる補正が必須となっている。またセンサーの交換は1週間ごとであり、アプリをダウンロードすることによりスマートフォンでリアルタイムに血糖値を確認することができる。CGMの受け入れは個人差があり、24時間常にセンサーが装着されていることに対する違和感で途中脱落する患者も少なくない。

血液検査で認知症診断をする深い理由(解説:岡村毅氏)-1273

血漿リン酸化タウ217(血液検査)によりアルツハイマー型認知症の診断ができる可能性を報告している。ここではその臨床的背景について深掘りしよう。そもそもアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等は、症状は大きく異なるものである。教科書だけ見ていたら、こんなもの診断は簡単だろうと思うかもしれない。一方、臨床は教科書通りにいかない。長い人生を歩んできた方はいろいろ複雑であるので、(1)脳梗塞などの血管性要因の併存、(2)たとえば特異な家族環境であるといった外的要因、(3)その人の生活歴やパーソナリティなどの内的要因、(4)いくつかの認知症性疾患の合併、(5)実は薬剤を飲んでいるが申告しない、といったことが起きる。するとアルツハイマー型なのに前頭側頭型的な症状が出る、みたいなことが起きる。もちろん診断困難な事態は多くはないし、だいたいが専門病院に来る(紹介してよいです)。

幸いな術後管理への道(解説:今中和人氏)-1272

せん妄、いわゆるICU症候群は実に頭が痛い。心を込めて説得してもダメ、抑制してももちろんダメ、あれこれ鎮静薬を使っても硬い表情に異様にギラギラしたまなざしは去ることなく、「あんなに苦労して入れたA-ラインが、こんなにもアッサリと…」と激しく萎えた経験は、多くの先生にとって一度や二度ではあるまい。幻覚で大暴れしている患者さんも気の毒には違いないが、医師もナースも負けず劣らず気の毒。もちろん、臨床経過にも悪影響が及ぶ。せん妄の克服こそは、幸いな術後管理の鍵を握っている。

侮れない中国の科学力(解説:後藤信哉氏)-1271

筆者は免疫学者でもウイルス学者でもない。ランダム化比較試験による有効性、安全性検証をリードするclinical trialistであるとともに一人の臨床医である。免疫の仕組みに詳しいわけではない。それでもウイルス表面に存在する細胞への侵入を担う蛋白を標的とした抗体ができれば感染予防ができるのではないかとの仮説は持てる。本研究は新型コロナウイルスの表面に発現しているスパイク蛋白をアデノウイルスの一種であるAd5に発現させたワクチンを用いた臨床試験の結果である。エビデンスレベルの高い二重盲検のランダム化比較試験である。対照群をプラセボとしている。タンパク質を注射すれば副反応として疼痛などが起こるのは一種当然である。プラセボとの比較は安全性比較にはハードルが高いと思う。

コロナウイルスワクチンへの期待(解説:後藤信哉氏)-1270

新興感染症と人類との戦いにおいてワクチンは強力な武器であった。コロナウイルスは感冒のウイルスであるが、現時点までに感冒への有効なワクチンが開発されていない。COVID-19へのワクチン開発には期待が大きい。コロナウイルスの細胞への感染にはウイルスのスパイク様蛋白が寄与する。タンパク質に対する抗体をワクチンとするのであれば、北里柴三郎の破傷風抗毒素血清療法以来実績がある。本研究はチンパンジーのSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白を発現したチンパンジーのアデノウイルスベクターを用いたワクチン(ChAdOx1 nCoV-19 vaccine)と髄膜炎菌のワクチンを比較したphase 1/2試験である。ウイルスの表面抗原を標的としたワクチン開発は一般的に最初に思い付く方法だと思う。液性、細胞性免疫により細胞侵入前にウイルスの細胞侵入を防げるとは想定されるが、細胞内に入ってしまったウイルスに対する効果には疑問が残る。

ツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術:既存の経尿道的前立腺切除術とのランダム化比較試験(解説:宮嶋哲氏)-1269

現在、前立腺肥大症(BPH)に対して薬物治療抵抗性ないしは尿閉を来した症例に対する治療法として経尿道的前立腺切除術(TURP)は、ゴールドスタンダードの1つである。本研究は2014年から2016年にかけて英国の7病院においてBPHによる下部尿路症状を来した410症例を対象に、BPHに対するTURPとツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術(ThuVARP)を比較検討したRCTである。主要評価項目は術後12ヵ月目における最大尿流率(Qmax)と国際前立腺症状スコア(IPSS)の改善である。TURP術後Qmax(平均23.2mL/s)はThuVARP術後Qmax(平均20.2mL/s)より優れていたが、IPSSの改善は同等な結果であった。術後在院期間は両群ともに48時間で差を認めず、合併症の頻度も同等であった。

出生前母体ステロイド治療はルーチンで行うのではなく、症例ごとに合わせた早産リスクの判断を(解説:前田裕斗氏)-1268

周産期診療における副腎皮質ステロイドの出生前投与は、前期破水や切迫早産の胎胞脱出症例など1週間以内に分娩が強く予想される症例に対して、胎児の臓器成熟を促す目的で行われる。この治療法自体は古くから行われておりデータの蓄積も多く、2017年のメタアナリシスでは妊娠34~35週未満の症例への投与により新生児呼吸窮迫症候群を有意に低減(相対リスク:0.66)するほか、脳室内出血(相対リスク:0.55)、壊死性腸炎(相対リスク:0.50)、さらには新生児死亡率(相対リスク:0.69)をも低減すると報告された。 ステロイドの出生前投与は元々妊娠34週(肺が完成するといわれる週数)未満での使用が推奨されていたが、近年は34週以降37週未満の症例への投与でも新生児における各種呼吸器合併症の発症低減などが報告されており、投与を推奨する国が出てきている。 ステロイド投与の合併症については母体でさほど目立ったものはなく、新生児の短期予後については出生後すぐの低血糖の報告がある(低中所得国での新生児死亡率上昇の報告もあるが、この原因は判然としていない)。一方長期予後については不明瞭な部分が多く、今回の論文はその1つとして神経学的予後への影響を確かめた大規模観察研究になる。

新型コロナ感染症、ARDSの新たな機序の発見?(解説:山口佳寿博氏)-1265

本論文は、新型コロナ(SARS-CoV-2)に罹患し肺炎、ARDSを基礎とした重篤な呼吸不全のために死亡した7症例の肺組織を用いて病理・形態像(光顕、走査電顕、微小CT画像、免疫組織化学)ならびに血管増生に関与する323個の遺伝子の発現動態を解析したものである。比較として、A型インフルエンザ(AH1N1)で死亡した症例の肺(7例)と正常肺(10例、肺移植に使用されなかった肺)を用いて上記と同様の解析が施行された。SARS-CoV-2、AH1N1肺の基本病理像はDADであったが、肺重量はAH1N1で重くSARS-CoV-2肺の1.4倍であった。すなわち、AH1N1肺では血液成分の漏出に起因する肺水腫がより著明であることが示唆された。

新しく出てくるTAVI弁は使えるか?(解説:上妻謙氏)-1264

重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、その低侵襲かつ有効な治療のため世界中で急速に普及し、一般的な医療となってきた。今まで世界で市販され使用されてきた人工弁はバルーン拡張型と自己拡張型に分かれるが、新規で市販されてくる人工弁は自己拡張型ばかりである。先行するメドトロニック社のコアバルブシリーズの人工弁はsupra-annularタイプといって元々の自己弁輪部よりも大動脈の上部に新規の人工弁が存在するようになり、石灰化の強いAS患者において自己弁部の石灰化で人工弁が変形した影響を受けにくくなるメリットがある。

新規HIV感染者ゼロを目指して(解説:岡慎一氏)-1267

ワクチンのない現在、HIV感染を確実に防ぐ方法は2つある。1つは、感染者が治療を受けウイルス量を検出限界以下にすること(Undetectable equals Untransmittable:U=U)と、もう1つは感染リスクのある人が性行為の前に予防薬を飲むこと(Pre-Exposure Prophylaxis:PrEP)である。U=UとPrEPが実行されれば新規感染者はゼロになる、はずである。この論文は、PrEPに関する大規模RCTの結果である。もちろん世界のどんな地域でもHIV感染者より感染リスクのある人(非感染者)のほうが、圧倒的に人数が多い。したがって、PrEPへの注目度は、非常に高い。

COVID-19抗体検査の診断精度(解説:小金丸博氏)-1266

COVID-19の感染拡大を制御するためには、迅速かつ精度の高い診断検査が求められる。COVID-19の診断検査には主にPCR検査、抗原検査、抗体検査があるが、今回、抗体検査の診断精度をシステマティックレビューとメタ解析により検証した研究がBMJ誌に報告された。本研究の要点は、(1)抗体検査法の感度は検査法によって差があること、(2)市販の検査キットは施設内検査(in-house assay)と比べて感度が低いこと、(3)抗体検査の感度は発症後1週間以内で低く発症後3週以上で高いこと、の3点である。ELISA法の感度は84.3%(95%信頼区間:75.6%~90.9%)、LFIA法は66.0%(同:49.3%~79.3%)、CLIA法では97.8%(同:46.2%~100%)だった。プール解析した特異度は、ELISA法が97.6%、LFIA法は96.6%であり、CLIA法はプール化に適さず評価できなかった。LFIA法の感度は他の検査法より低く、特異度に関しては大きな差は認めなかった。診断精度は検査法によって差があるため、抗体検査の結果を評価する際にはどの検査法を用いたかを考慮する必要がある。

“do処方”を見直そう…?(解説:今中和人氏)-1263

誰しもが駆け出しとして医師人生をスタートする。医療におけるさまざまな処置や処方には、往々にして歴史的な変遷や患者限定の根拠があったりして実に奥深く、駆け出しがすべてを理解して対応するのは事実上不可能だが、何でもかんでも先輩に尋ねるわけにもゆかない。まして「これは本当に必要なんですか?」なんて、一昔前の「仕分け」のような質問をすればうっとうしがられること必定だから、いわゆる“do処方”の乱発が起きる。もちろん、自分なりに意味付けをしてのことだが、世の中には実はほとんどアップデートされておらず、もはや伝統芸能の域に達しているような処置や処方も存在する。

ダウン症候群とアルツハイマー型認知症の深い関係(解説:岡村毅氏)-1262

ダウン症候群の人(通常は2本ある21番染色体を3本持っている人)は比較的早期からアルツハイマー型認知症になりやすいことは昔から知られていた。アルツハイマー型認知症の病理の中核にある「アミロイドβ」の前駆体の遺伝子は、まさに21番染色体に存在するので、理論上も合致する。家族性アルツハイマー型認知症も21番染色体に連鎖することが知られている。ダウン症候群とアルツハイマー型認知症は、21番染色体が鍵という点でつながっている。この論文では、多数のダウン症候群の人に詳細な認知機能検査を行うと同時に、さまざまなバイオマーカー(血液、脳脊髄液、脳機能画像、脳構造画像)を測定し、ダウン症候群の人々におけるアルツハイマー型認知症の病理の進展を分析したものである。

COVID-19感染拡大予防に対するフィジカルディスタンスの有効性をグローバルな観点から統計学的に証明(解説:桑島巌氏)-1261

最近、WHOは“ソーシャルディスタンス”を“フィジカルディスタンス”に言い換えた。“社会的距離”では、心理面も含めた距離を含むと誤解されやすいので、単に“物理的”な接触を避けるという適切な用語の変更であろう。そのフィジカルディスタンスが新型コロナ感染拡大を本当に予防できるのかを統計学的に分析したのがこの論文である。「そんなこと当たり前だろう」と誰もが思っていることはしばしば実は違っていたというのはままあるので、そこは科学発祥の地、英国である。武漢や香港などでの局地的な調査報告はあったが、今回はグローバルに149ヵ国でのPD政策とcovid-19抑制効果との関連をoxford covid-19 government response tracker(OxCGRT)のデータを元に統計学的に検証した成績である。