発症から間もないステージ3の1型糖尿病の若年患者において、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の2.5mg/kgおよび0.5mg/kgの投与はプラセボと比較して、β細胞機能の低下を有意に抑制することを、ベルギー・ルーベン大学のChantal Mathieu氏らが第II相試験「MELD-ATG試験」の結果で報告した。これは、低用量で安全、安価なATGがこの患者集団における疾患修飾薬となる可能性を示すものだという。研究の成果は、Lancet誌2025年9月27日号で発表された。
用量範囲を決定する無作為化プラセボ対照多群比較試験
MELD-ATG試験は、アダプティブデザインを用いてATGの用量範囲を検討する二重盲検無作為化プラセボ対照多群比較試験であり、欧州を中心とする8ヵ国14施設が参加した(欧州連合革新的医薬品イニシアチブ2共同事業体INNODIAの助成を受けた)。
2020年11月24日~2023年12月13日に、年齢5~25歳で、治療開始の3~9週間前にステージ3の1型糖尿病と診断され、Cペプチド濃度0.2nmol/L以上、少なくとも1つの糖尿病関連自己抗体(GADA、IA-2A、ZnT8)が陽性の患者117例(女性63例[54%]、5~9歳21例[18%]、10~17歳76例[65%]、18~25歳20例[17%])を登録した。
被験者を、プラセボ群(31例)、ATG 0.1mg/kg群(6例)、同0.5mg/kg群(35例)、同1.5mg/kg群(12例)、同2.5mg/kg群(33例)に無作為に割り付けた。試験薬は連続2日間で2回に分けて静脈内投与した。
主要アウトカムは、12ヵ月の時点における2時間混合食負荷試験(MMTT)中の刺激Cペプチド濃度の曲線下面積(AUC)の平均値(AUC C-peptide+1)とした。
中間解析により、0.1mg/kg群と1.5mg/kg群は試験から除外された。
12ヵ月時のCペプチド濃度平均AUCが高い
主要アウトカムである12ヵ月の時点におけるAUC C-peptide+1の平均値は、プラセボ群が0.411(SD 0.032)nmol/L/分であったのに対し、ATG 2.5mg/kg群は0.535(SD 0.032)nmol/L/分と有意に高(平均群間差:0.124nmol/L/分、95%信頼区間[CI]:0.043~0.205、p=0.0028)、β細胞機能の低下を抑制することが示された。
また、12ヵ月時のATG 0.5mg/kg群のAUC C-peptide+1の平均値は0.513(SD 0.032)nmol/L/分であり、プラセボ群に比べて有意に高く(平均群間差:0.102nmol/L/分、95%CI:0.021~0.183、p=0.014)、β細胞機能低下の抑制効果を認めた。
0.5mg/kgは有効で、安全性が高い
有害事象のほとんどはGrade1または2であり、Grade3が11例(ATG 0.5mg/kg群3例、同1.5mg/kg群4例、同2.5mg/kg群4例)、Grade4は2例(いずれも重度低血糖、プラセボ群1例、0.5mg/kg群1例)で発現した。リンパ球減少症が39例(34%)にみられ、用量が高くなるに従って発生率が上昇したが、感染症の発生率に群間の差はなかった。
サイトカイン放出症候群は、プラセボ群では認めなかったが、ATG 2.5mg/kg群で11例(33%)、同0.5mg/kg群で8例(24%)に発現した。血清病もプラセボ群ではみられなかったが、ATG 2.5mg/kg群で27例(82%)、同0.5mg/kg群で11例(32%)に発現した。また、緊急にマスキングの解除(非盲検化)を要する事象が2件(血清病の疑いによる入院[重篤な有害反応]1件、注射部位の皮下感染[重度有害事象]1件)発生した。
著者は、「本試験では、プラセボに比べ2.5mg/kgのATGは機能性β細胞量の減少を効果的に防止し、ATGの最小有効用量は0.5mg/kgであることが示された」「ATG 0.5mg/kgでは、プラセボと比較してHbA1c値が低く、2.5mg/kgと比較して副作用(とくにサイトカイン放出症候群と血清病)が少なかった」「これらの知見は、発症からの時間経過が長くないステージ3の1型糖尿病の小児・青年患者における安全な治療薬としてのATGの可能性を強化するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)