米国国立衛生研究所(NIH)・国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のPeiying Ye氏らの研究チームは、ZAP70遺伝子に病的な変異を認め、β-ヒトパピローマウイルス(β-HPV)のゲノム組み込みを伴い、再発を繰り返す切除不能な浸潤性皮膚扁平上皮がん(SCC)を含む、良性および悪性のHPV関連疾患を呈する34歳の女性患者について報告した。本研究はNIHの助成を受けて行われ、NEJM誌2025年7月31日号に掲載された。
ZAP70変異による免疫不全と、β-HPV19のゲノム組み込みを伴う
皮膚SCCは、皮膚がんの中で最も一般的なもので、主に紫外線による体細胞DNA変異が原因で、がん遺伝子の活性化と腫瘍抑制遺伝子の機能不全が引き起こされて発生する。β-HPVはこれまで、皮膚SCCの維持に不可欠ではなく、初期段階における単なる促進因子として間接的な役割を果たすと考えられてきた。
本症例(34歳、女性)は、クリプトコッカス髄膜炎と神経眼科的病変の既往歴があり、皮膚および粘膜のHPV関連疾患が進行性に悪化し、口腔コンジローマ、びまん性の疣状病変を認め、日光曝露皮膚表面の、生検で確認された43ヵ所の病変または部位に、多発性再発性皮膚SCCを呈していた。
また、T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達に必須のアダプター分子である
ZAP70に、生殖細胞系列の病原性の遺伝子変異がみられ、これに起因するTCRシグナル伝達の欠損による免疫不全状態を確認した。さらに、この浸潤性で切除不能な高リスクの皮膚SCCは、β-HPV19のゲノム組み込みを伴っていた。基盤にあるTCRシグナル伝達欠損のため根治的治療に抵抗性を示したため、遠隔転移がないことを確認したうえで、統合的な管理計画を立案した。
HLA半合致造血幹細胞移植でTCRシグナル伝達の完全性が回復
治療は、セツキシマブ+5-フルオロウラシル+シスプラチン併用療法に続き、皮膚SCCの予防としてカペシタビン+ニコチンアミドを投与し、根本的な免疫不全の治療としてHLA半合致造血幹細胞移植(HCT)を行った。この治療過程において臨床的な合併症は発生しなかった。
HCTによりTCRシグナル伝達の完全性が回復し、すべてのHPV関連皮膚疾患が安定的に解消した。この良好な状態は、最新のフォローアップの時点(HCT後35ヵ月)まで維持されていた。
これらの知見により、T細胞の適応免疫応答が不完全な免疫不全状態においては、β-HPVは単なる補助的な因子ではなく、皮膚の発がんに直接関与していることが示唆された。
著者は、「本研究は、腫瘍の維持におけるβ-HPVの関与を直接的に証明した。HCTによるTCRの機能回復が進行性SCCの根治をもたらした例はきわめてまれである」「今後、β-HPV関連SCC患者に対する免疫療法の検討と共に、TCRシグナル解析によるSCCの進行リスクの評価や、HPV特異的T細胞応答を標的とした治療戦略の開発が進むと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)