アデノ随伴ウイルス(AAV)を介した遺伝子治療は、血友病Bの有望な治療法である。米国・セントジュード小児研究病院のUlrike M. Reiss氏らは、2014年に、scAAV2/8-LP1-hFIXcoを単回静脈内投与した重症血友病Bの患者において、この遺伝子治療が成功したことを報告した。しかし、臨床的ベネフィットの持続性については不確実性が残っており、またAAVを介した遺伝子導入の長期安全性は不明であった。研究グループは、治療に成功した患者集団について入手できた追跡期間中央値13.0年のデータを解析し、第IX因子の発現は持続しており、臨床的ベネフィットは維持され、遅発性の安全性に関する懸念は認められなかったことを報告した。NEJM誌2025年6月12日号掲載の報告。
患者10例に低用量、中用量、高用量のいずれかで遺伝子治療
研究グループは2010年3月~2012年12月に、重症血友病Bの男性患者10例(年齢範囲22~64歳)に対して、3用量群(低用量:2×10
11ベクターゲノム[vg]/kg体重、中用量:6×10
11vg/kg、高用量:2×10
12vg/kg)のいずれかで、scAAV2/8-LP1-hFIXcoの単回静脈内投与を行った。
低用量で2例、中用量で2例、高用量で6例がそれぞれ遺伝子治療を受けた。
有効性のアウトカムは、第IX因子活性、年間出血率、第IX因子製剤使用などであった。安全性は、臨床イベント、肝機能、画像検査などで評価した。
第IX因子活性は3用量群すべてで安定
2023年12月31日の追跡期間中央値13.0年(範囲:11.1~13.8)の時点において、第IX因子活性は3用量群すべてで安定していた。平均値は、低用量群1.7 IU/dL、中用量群2.3 IU/dL、高用量群4.8 IU/dLであった。
10例中7例は、補充療法を受けていなかった。
年間出血の中央値は、14.0件(四分位範囲[IQR]:12.0~21.5)から1.5件(0.7~2.2)へと9.7(IQR:3.7~21.8)分の1に減少していた。
第IX因子製剤の使用は、12.4(IQR:2.2~27.1)分の1に減少していた。
ベクター関連の有害事象は、計15件発現し、主にアミノトランスフェラーゼ値の一時的な上昇であった。第IX因子インヒビター、血栓症または慢性肝障害は、いずれの被験者でも発現が報告されなかった。
2件のがんが確認されたが、試験担当医師と専門多職種チームによって、ベクターとは無関係であると判断された。
被験者1例で、遺伝子治療10年後の肝生検において、肝細胞中に転写活性のある導入遺伝子の発現が認められたが線維化や異形成は伴っていなかった。
追跡期間中AAV8に対する中和抗体価は高いままであり、ベクターの再投与は阻害される可能性があることが示唆された。
(ケアネット)