肝動脈化学塞栓療法(TACE)対象の切除不能な肝細胞がん(HCC)患者において、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブの併用療法が新たな標準治療となりうることが、スペイン・Clinica Universidad de Navarra and CIBEREHDのBruno Sangro氏らEMERALD-1 Investigatorsによる国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「EMERALD-1試験」の結果で示された。TACEは20年以上前に標準治療として確立されたが、TACEに関するガイドラインの記載は世界各地域で異なり、病期や腫瘍の大きさ、肝機能、合併症などが異なる多様な患者がTACEを受けている。無増悪生存期間(PFS)中央値は依然として約7ヵ月であり、研究グループは、ベバシズマブ併用の有無を問わずデュルバルマブの併用によりPFSを改善可能か評価した。著者は「最終的な全生存期間(OS)の解析および患者報告のアウトカムなども含むさらなる解析は、塞栓術が可能なHCCにおける、デュルバルマブ+ベバシズマブ+TACEの潜在的な臨床ベネフィットを、さらに特徴付けるのに役立つだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年1月8日号掲載の報告。
日本を含む18ヵ国157施設で試験、TACE単独療法と比較評価
EMERALD-1試験は、18歳以上のTACE対象の切除不能なHCCで、登録時ECOG PSが0または1、modified RECISTに基づく測定可能な肝内病変を少なくとも1つ有する患者を、日本を含む18ヵ国157施設(研究センター、総合および専門病院を含む)で登録して行われた。
適格患者を、TACEの手法、登録地域、門脈浸潤で層別化し、対話型音声応答またはweb応答システムを用いて、(1)TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(4週ごとにデュルバルマブ1,500mg静脈内投与、その後3週ごとにデュルバルマブ1,120mg+ベバシズマブ15mg/kgの静脈内投与)、(2)TACE+デュルバルマブ併用療法群(ベバシズマブに代えてプラセボを投与)、(3)TACE単独療法群(デュルバルマブとベバシズマブに代えてそれぞれプラセボを投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。被験者、治験担当医師、アウトカム評価者はデータ解析まで治療割り付けを盲検化された。
主要評価項目は、ITT集団(治療に割り付けられた全被験者)におけるTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づく盲検下独立中央判定[BICR]による)であった。副次評価項目は、TACE+デュルバルマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づくBICRによる)およびOS、患者報告アウトカムの悪化などであった。
なお、被験者は、OSに関して引き続きフォローアップを受けており、OSと患者報告アウトカムについては後日公表される予定となっている。また安全性の評価は、治療に割り付けられ、試験治療(すなわちデュルバルマブ、ベバシズマブ、あるいはプラセボのいずれか)を受けた被験者を対象に解析された。
TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群のPFSが改善
2018年11月30日~2021年7月19日に、887例がスクリーニングを受け、616例(ITT集団)がTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(204例)、TACE+デュルバルマブ併用療法群(207例)、TACE単独療法群(205例)に無作為に割り付けられた。年齢中央値は65.0歳(四分位範囲:59.0~72.0)、135/616例(22%)が女性、481/616例(78%)が男性。アジア人375例(61%)、白人176例(29%)、アメリカインディアン/アラスカ先住民22例(4%)、黒人/アフリカ系米国人9例(1%)、ハワイ先住民/他の太平洋諸島住民1例(<1%)、その他の人種33例(5%)であった。
データカットオフ時点(2023年9月11日、PFSに関する追跡期間中央値27.9ヵ月[95%信頼区間[CI]:27.4~30.4])のPFSは、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群15.0ヵ月(95%CI:11.1~18.9)、TACE+デュルバルマブ併用療法群10.0ヵ月(9.0~12.7)、TACE単独療法群8.2ヵ月(6.9~11.1)であった。
TACE単独療法群と比較したPFSのハザード比は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群0.77(95%CI:0.61~0.98、両側のp=0.032)、TACE+デュルバルマブ併用療法群0.94(0.75~1.19、両側のp=0.64)であった。
最も多くみられた最大Grade3~4の有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では高血圧(9/154例[6%])、TACE+デュルバルマブ併用療法群では貧血(10/232例[4%])、TACE単独療法群は塞栓後症候群(8/200例[4%])であった。死亡に至った治療関連有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では報告されなかったが、TACE+デュルバルマブ併用療法群では3/232例(1%)(動脈出血、肝損傷、多臓器不全症候群の各1例)、TACE単独療法群では3/200例(2%)(食道静脈瘤出血、上部消化管出血、皮膚筋炎の各1例)の報告があった。
(ケアネット)