左室駆出率の軽度低下または保持心不全、ダパグリフロジンが有効/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2022/09/12

 

 左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保持された心不全(HFpEF)患者の治療において、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるダパグリフロジンはプラセボと比較して、心不全の悪化または死亡のリスクを有意に低減させるとともに、症状の負担を軽減し、有害事象の発現状況は同程度であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のScott D. Solomon氏らが実施した「DELIVER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年8月27日号で報告された。

20ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験

 DELIVER試験は、左室駆出率が軽度低下または保持された心不全患者の治療における、ダパグリフロジンの有効性と安全性の評価を目的とするイベント主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年12月の期間に、日本を含む20ヵ国353施設で参加者のスクリーニングが行われた(AstraZenecaの助成による)。

 対象は、年齢40歳以上、安定期の心不全で、左室駆出率が過去に40%以下に低下したが試験登録時には40%以上に上昇しており、2型糖尿病の有無は問わず、構造的心疾患を有し、ナトリウム利尿ペプチド値の上昇が認められる患者とされた。

 被験者は、通常治療に加え、ダパグリフロジン(10mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。

 主要アウトカムは、心不全の悪化(心不全による予定外の入院または心不全による緊急受診と定義)または心血管死の複合とされ、time-to-event解析で評価された。また、左室駆出率が正常範囲の患者で薬剤の効果が減弱する可能性が指摘されていたため、60%未満の患者の解析も行った。

糖尿病の有無や左室駆出率を問わずに使用の可能性

 6,263例が登録され、ダパグリフロジン群に3,131例(平均年齢71.8±9.6歳、女性43.6%、平均左室駆出率54.0±8.6%、2型糖尿病44.7%)、プラセボ群に3,132例(71.5±9.5歳、44.2%、54.3±8.9%、44.9%)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.3年だった。

 主要アウトカムの発現率は、ダパグリフロジン群が16.4%(512/3,131例、7.8件/100人年)と、プラセボ群の19.5%(610/3,132例、9.6件/100人年)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.92、p<0.001)。これは、左室駆出率60%未満の患者でも同程度だった(0.83、0.73~0.95、p=0.009)。

 主要アウトカムの個々の項目の発現率は、心不全の悪化はダパグリフロジン群が11.8%(368例)、プラセボ群は14.5%(455例)であり(HR:0.79、95%CI:0.69~0.91)、心血管死はそれぞれ7.4%(231例)および8.3%(261例)であった(0.88、0.74~1.05)。また、全死因死亡にも、心血管死と類似の傾向がみられた(0.94、0.83~1.07)。これらの結果は、左室駆出率60%未満の患者でも同程度であった。

 主要アウトカムに関するダパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無を含め事前に規定されたほとんどのサブグループで認められた。

 また、副次アウトカムである心不全の悪化(初発、再発)と心血管死の総件数は、ダパグリフロジン群で少なく(HR:0.77、95%CI:0.67~0.89、p<0.001)、ベースラインから8ヵ月時までのカンザスシティ心筋症質問票スコア(KCCQスコア、0~100点、点数が高いほど症状や身体制限が少ない)の変化量でみた心不全症状に関しても、ダパグリフロジン群で優れることが示された(win ratio:1.11、95%CI:1.03~1.21、p=0.009)。

 有害事象の発生率には2つの群で差はなかった。重篤な有害事象は、ダパグリフロジン群が43.5%、プラセボ群は45.5%で報告され、試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、両群とも5.8%で認められた。

 著者は、「本試験では、左室駆出率に関して不均一性は認められず、60%未満と60%以上で全体として同様の治療効果が認められた」とし、「今回の結果から、左室駆出率40%以下の心不全を対象とした先行試験(DAPA-HF試験)と同様に、左室駆出率40%以上の患者においてもダパグリフロジンは心不全の悪化または心血管死のリスクを改善することが明らかとなった。これらのデータは、2型糖尿病の有無や左室駆出率の値にかかわらず、心不全患者における必須の治療法として、SGLT2阻害薬の使用を支持する新たなエビデンスを提供するものである」としている。

(医学ライター 菅野 守)