スタチン投与時の筋症状、9割以上が関連なし/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2022/09/12

 

 スタチンは動脈硬化性心血管疾患の予防に有効で、広く処方されているが、筋肉痛や筋力低下を引き起こす可能性が高いとの懸念が消えない。英国・オックスフォード大学のChristina Reith氏らCholesterol Treatment Trialists’(CTT)Collaborationは、大規模臨床試験の有害事象データを用いてスタチンの筋肉への影響について検討し、スタチン治療はプラセボと比較して、ほとんどが軽度の筋症状がわずかに増加したものの、スタチン治療を受けた患者で報告された筋症状の90%以上はスタチンに起因するものではなく、スタチンによる筋症状のリスクは心血管に対する既知の利益に比べればはるかに小さいことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年8月26日号に掲載された。

23件の大規模無作為化試験のメタ解析

 研究グループは、スタチンの筋肉への影響の評価を目的に、スタチン治療の大規模で長期の二重盲検無作為化試験で記録された、個々の参加者における筋肉の有害事象のデータを用いてメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。

 対象は、1,000例以上を登録して2年以上の治療を行い、スタチンとプラセボ、またはより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した二重盲検試験とされ、それぞれ19件および4件の試験が解析に含まれた。

 事前に規定されたプロトコルに基づき、スタチンによる筋肉のアウトカムへの影響について、標準的な逆分散法によるメタ解析が行われた。

筋症状の多くは治療開始から1年以内に

 19件のプラセボ対照比較試験(12万3,940例)のうち、1件(6,605例)は低強度スタチンレジメンとプラセボ、16件は中強度スタチンレジメンとプラセボ、2件は高強度スタチンレジメンとプラセボの比較であった。これら19試験の参加者の平均年齢は63(SD 8)歳、3万4,533例(27.9%)が女性で、5万9,610例(48.1%)が血管疾患の既往歴を有し、2万2,925例(18.5%)が糖尿病だった。

 重み付け平均追跡期間中央値は4.3年であった。この間に、少なくとも1件の筋肉痛または筋力低下が発現した患者は、スタチン群が1万6,835例(27.1%)、プラセボ群は1万6,446例(26.6%)であり、スタチン群で相対的に3%増加していた(率比[RR]:1.03、95%信頼区間[CI]:1.01~1.06)。スタチンの影響は、さまざまな筋症状(筋肉痛、筋肉の痙攣や攣縮、四肢痛、その他の筋骨格系の痛みなど)で同程度であった。

 治療開始から1年以内では、スタチン群で筋肉痛または筋力低下が相対的に7%増加していた(14.8% vs.14.0%、RR:1.07、95%CI:1.04~1.10)。これは、1,000人年当たり11件(95%CI:6~16)の過剰絶対リスクに相当し、スタチン群の筋肉関連の報告のうち、実際にスタチンに起因するものは約15分の1([1.07-1.00]÷1.07で算出)に過ぎないことを示している。

 これに対し、1年目以降は、筋肉痛または筋力低下の初発の報告に、有意な超過は認められなかった(14.8% vs.15.0%、RR:0.99、95%CI:0.96~1.02)。これは、1,000人年当たり0件(95%CI:-2~1)の過剰絶対リスクに相当した。

 全期間では、プラセボとの比較において、高強度スタチン(アトルバスタチン40~80mgまたはロスバスタチン20~40mg、1日1回)は低または中強度スタチンよりも筋肉痛または筋力低下の発現のRRが大きく(1.08[95%CI:1.04~1.13]vs.1.03[1.00~1.05])、1年目以降にも高強度スタチンでわずかながら超過が認められた(RR:1.05、95%CI:0.99~1.12)。

 一方、2件の高強度スタチンレジメンとプラセボを比較した試験と、4件のより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した試験(3万724例、追跡期間中央値:4.9年、平均年齢:62[SD 9]歳、血管疾患の既往歴:100%)のデータを用いてスタチンの種類別の解析を行ったところ、個別のスタチンや、臨床的状況の違いによって、筋肉痛または筋力低下の発現のRRに差があるとの明確な証拠は得られなかった。

 また、スタチン治療により、クレアチニンキナーゼ値中央値は、臨床的に重要でない、わずかな増加(基準値範囲の上限値の約0.02倍)を示した。

 著者は、「これらの結果は、スタチン治療時に患者が筋症状を訴えた場合に、それが実際にスタチンによって引き起こされた確率は低い(10%未満)ことを示唆する。それゆえ、筋症状の管理に関する現行の推奨事項は見直す必要がある」と指摘し、「Heart Protection Study(HPS)のエビデンスに基づくと、筋肉痛または筋力低下のリスクのわずかな増加は、通常は治療中止に至らないイベントによるものと考えられ、クレアチニンキナーゼ値の臨床的に有意な変化をもたらさなかった。これは、スタチンに起因する筋肉痛または筋力低下のほとんどは臨床的に軽度であることを示唆する」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事