1年間の減塩食、心不全の予後を改善するか/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2022/04/20

 

 心不全患者では、1年間の減塩食(ナトリウム目標値1,500mg未満/日)の摂取は塩分制限食に関する一般的な助言を含む通常治療と比較して、全死因死亡、心血管関連の入院、心血管関連の救急診療部受診から成る複合アウトカムの発生を減少させないものの、生活の質(QOL)やNYHA心機能分類の改善効果がわずかに良好であることが、カナダ・アルバータ大学のJustin A. Ezekowitz氏らが実施した「SODIUM-HF試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2022年4月2日号で報告された。

6ヵ国26施設の実践的な無作為化対照比較試験

 本研究は、心不全患者への減塩食による食事療法は将来の臨床イベントの発生を抑制するかの検証を目的とする実践的な非盲検無作為化対照比較試験であり、2014年3月~2020年12月の期間に、6ヵ国(オーストラリア、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ニュージーランド)の26施設で参加者の登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。

 対象は、年齢18歳以上、慢性心不全(NYHA心機能分類のII度とIII度)で、ガイドラインで規定された至適な薬物治療を受けている患者であった。駆出率やナトリウム利尿ペプチドによる選択基準や除外基準は設けられなかった。

 被験者は、ナトリウム100mmol未満/日(=1,500mg未満/日)の減塩食を摂取する群、または各地域のガイドラインに準拠した通常治療(日常診療と共に塩分制限食に関する一般的な助言を行う)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、12ヵ月間の介入が行われた。

 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における12ヵ月以内に発生した心血管関連の入院、心血管関連の救急診療部受診、全死因死亡の複合とされた。

6分間歩行距離に差はない

 806例が登録され、減塩食群に397例、通常治療群に409例が割り付けられた。全体の年齢中央値は67歳(IQR:58~74)、268例(33%)が女性であった。551例(68%)が登録の1年以上前に心不全を発症し、270例(33%)が12ヵ月以内に心不全による入院歴を有していた。ベースラインの中央値はそれぞれ、駆出率36%(IQR:27~49)で、BNPは197pg/mL(IQR:83~492)、NT-proBNPは801pg/mL(IQR:335~1,552)だった。

 ナトリウム摂取量中央値は、減塩食群ではベースラインの2,286mg/日(IQR:1,653~3,005)から12ヵ月後には1,658mg/日(1,301~2,189)に、通常治療群では2,119mg/日(1,673~2,804)から2,073mg/日(1,541~2,900)に、それぞれ減少した。

 ベースラインから12ヵ月後までに、主要アウトカムを構成するイベントは、減塩食群が15%(60/397例)、通常治療群は17%(70/409例)で発生し(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.63~1.26)、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.53)。

 主要アウトカムの各項目については、全死因死亡(減塩食群6%[22例]vs.通常治療群4%[17例]、HR:1.38、95%CI:0.73~2.60、p=0.32)、心血管関連の入院(10%[40例]vs.12%[51例]、0.82、0.54~1.24、p=0.36)、心血管関連の救急診療部受診(4%[17例]vs.4%[15例]、1.21、0.60~2.41、p=0.60)のいずれにおいても、有意差はみられなかった。

 また、QOLの指標であるカンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)の総合要約スコア(補正後群間差:3.38ポイント、95%CI:0.79~5.96、p=0.011)とKCCQの身体制限スコア(3.77ポイント、0.67~6.87、p=0.017)は、ベースラインから12ヵ月後までの変化量の差の平均値がいずれも減塩食群で有意に良好であった。

 一方、12ヵ月後の6分間歩行距離に差はなかった(補正後群間差:6.60m、95%CI:-9.0~22.2、p=0.41)が、NYHA心機能分類の1度の改善(オッズ比:0.59、95%CI:0.40~0.86、p=0.0061)は減塩食群で有意に良好だった。

 試験関連の安全性(各施設で評価し、有害事象の特定の判定基準は使用されなかった)のイベントは、両群とも報告がなかった。

 著者は、「減塩食による食事療法は、利益の蓄積に長い時間がかかる可能性があるため、12ヵ月を超える長期の追跡を行えば、主要アウトカムの発生により大きな差が生じる可能性もある」とし、「食事の塩分をどの程度削減すれば臨床イベントの低下が得られるかはいまだ明確ではないため、臨床医と患者は、食事療法を他の薬物療法と同様に検討し、個々の患者で潜在的な利益の均衡を保つようにすべきである」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 石川 讓治( いしかわ じょうじ ) 氏

東京都健康長寿医療センター 循環器内科 部長

J-CLEAR推薦コメンテーター