AZ製ワクチン、血小板減少症を伴う血栓症5例の共通点/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2021/06/12

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の接種により、まれではあるが重篤な血栓症が発生する。ノルウェー・オスロ大学病院のNina H. Schultz氏らは、ChAdOx1 nCoV-19初回接種後7~10日に血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例について詳細な臨床経過を報告した。著者らは、このような症例を「vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT):ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症」と呼ぶことを提案している。NEJM誌2021年6月3日号掲載の報告。

初回接種後、血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例の臨床経過

 ノルウェーでは、ChAdOx1 nCoV-19の接種が中止された2021年3月20日の時点で、13万2,686例が同ワクチンの初回接種を受け、2回目の接種は受けていなかった。ChAdOx1 nCoV-19の初回接種後10日以内に、32~54歳の健康な医療従事者5例が特異な部位の血栓症と重度の血小板減少症を発症し、そのうち4例は脳内大出血を来し、3例が死亡した。

【症例1】
37歳女性。接種1週間後に頭痛を発症、翌日救急外来受診。発熱と頭痛の持続、重度の血小板減少症が確認され、頭部CTで左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓を認めた。低用量ダルテパリンの投与を開始、翌日に小脳出血と脳浮腫を認め、血小板輸血と減圧開頭術を行うも、術後2日目に死亡。
【症例2】
42歳女性。接種1週間後に頭痛発症、3日後の救急外来受診時には意識レベル低下。横静脈洞とS状静脈洞の静脈血栓症と、左半球の出血性梗塞を認めた。手術、ダルテパリン投与、血小板輸血、メチルプレドニゾロン、免疫グロブリン静注が行われたが、2週間後に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡。
【症例3】
32歳男性。接種1週間後に背部痛を発症し救急外来受診。喘息以外に既往なし。重度の血小板減少症と、胸腹部CTで左肝内門脈および左肝静脈の閉塞と、脾静脈、奇静脈および半奇静脈に血栓を認めた。免疫グロブリンとプレドニゾロンで治療し、12日目に退院。
【症例4】
39歳女性。接種8日後に腹痛、頭痛で救急外来受診。軽度の血小板減少症、腹部エコー正常により帰宅するも、2日後に頭痛増強で再受診。頭部CTで深部および表在性大脳静脈に大量の血栓と、右小脳出血性梗塞を確認。ダルテパリン、プレドニゾロン、免疫グロブリンで治療し、10日後に退院(退院時、症状は消失)。
【症例5】
54歳女性。ホルモン補充療法中であり、高血圧の既往あり。接種1週間後、左半身片麻痺等の脳卒中症状で救急外来受診。造影静脈CTでは全体的な浮腫と血腫の増大を伴う脳静脈血栓症を認め、未分画ヘパリン投与後に血管内治療により再開通したが、右瞳孔散大が観察され、ただちに減圧的頭蓋骨半切除術を行うも、その2日後にコントロール不能の頭蓋内圧上昇がみられ治療を中止。

全例、ヘパリン投与歴はないがPF4/ヘパリン複合体に対する抗体価が高い

 免疫学的検査および血清学的検査等の結果、5例全例に共通していたのは、血小板第4因子(PF4)-ポリアニオン複合体に対する高抗体価のIgG抗体が検出されたことであった。しかし、いずれの症例もヘパリン曝露歴はなかった。

 そうしたことから著者は、これらの症例を特発性ヘパリン起因性血小板減少症のまれなワクチン関連変異型として、VITTと呼ぶことを提案。そのうえで、「VITTは、まれではあるが健康な若年成人に致命的な影響を与える新しい事象であり、リスクとベネフィットを徹底的に分析する必要がある。なお、今回の研究結果からVITTは、ChAdOx1 nCoV-19の安全性を評価した過去の研究結果よりも頻繁に起こる可能性があることが示唆される」と述べている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事