腎ドナーの死亡リスク、過去最低に

腎臓提供者(ドナー)が死亡するリスクは、これまでになく低下していることが新たな研究で明らかになった。腎ドナーの死亡率はすでに10年前から低かったが、現在では、さらにその半分以下になっていることが示されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部Center for Surgical and Transplant Applied Research Quantitative CoreのAllan Massie氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月28日掲載された。
臓器調達・移植ネットワークによれば、毎年およそ6,000人の米国人が腎臓の提供を志願している。Massie氏らは今回、1993年から2022年までの生体腎ドナーに関するデータを用いて、腎臓提供後90日以内のドナー死亡率を算出した。データは1993~2002年、2003~2012年、2013~2022年の3つの期間に分類して解析した。
研究対象期間中に16万4,593人が腎臓を提供しており、36人が提供後90日以内に死亡していた(ドナー1万人当たり2.2人の死亡)。期間別に死亡数と死亡率(ドナー1万人当たりの死亡数)を比較すると、1993〜2002年では13人(1万人当たり3.0人)、2003〜2012年では18人(1万人当たり2.9人)であったのが、2013〜2022年には5人(1万人当たり0.9人)と、統計学的に有意に減少したことが明らかになった。さらに、男性では女性よりも、また、提供前に高血圧の既往があった人ではなかった人よりも、腎臓提供後90日以内の死亡率が統計学的に有意に高かったが、年齢、人種/民族と死亡リスクとの間に有意な関連は認められなかった。
Massie氏は、「腎臓提供が安全であることは分かっていたが、今回の調査結果は、ドナーが死亡することは極めてまれであり、その処置はかつてないほど安全なことを示唆している」と話す。
Massie氏は、このような死亡率改善の背景には、手術方法の向上があるとの見方を示す。同氏によると、1990年代以降、手術方法は劇的に変化したという。例えば、以前は腎臓の摘出には6〜8インチ(約15〜20cm)の切開が必要だったが、現在では、より侵襲性の低い腹腔鏡手術による臓器の摘出が主流となり、切開創はかなり小さくなったと同氏は説明する。また研究グループは、医師によるドナー希望者の健康状態の確認や手術後のドナーに対するケアの向上も、死亡率低下に寄与しているとしている。
NYUグロスマン医学部の外科副部長であるDorry Segev氏は、「これらの結果は、腎臓提供の可能性があるドナーにリスクを知らせるために使用されている現行のガイドラインを、過去10年弱の間に成し遂げられた安全性の向上を反映した内容に更新する必要があることを示している」と述べている。
一方、2009年に従兄弟に自身の腎臓を提供した経験を持つ、論文の共著者でNYUグロスマン医学部のMacey Levan氏は、「腎ドナーとして、またこの分野の専門家として、進歩を目の当たりにするのは心強いことだ」とNYUのニュースリリースの中で述べている。
[2024年8月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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