高速道路の大気汚染は血圧を上昇させる?

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/01/08

 

 毎日の通勤で血圧を上昇させる要因は、高速道路の渋滞だけではないようだ。新たな研究で、自動車の排気ガスが乗車中の人の血圧を著しく上昇させ得ることが明らかにされた。排気ガスがもたらす血圧上昇は高塩分食摂取がもたらす影響に匹敵し、その影響は24時間続くことも示されたという。米ワシントン大学の医師で環境・職業健康科学分野教授のJoel Kaufman氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に11月28日掲載された。

 この研究では、22〜45歳の正常血圧の成人16人(平均年齢29.7歳)を対象にランダム化クロスオーバー試験を行い、路上での交通関連大気汚染(traffic-related air pollution;TRAP)曝露が血圧と網膜血管系に及ぼす影響を調べた。試験参加者は、シアトル市のラッシュアワーの時間帯に、外気が車内に取り込まれる車で2日間運転を行う群と、外気の微粒子などを取り除く高性能フィルターが装備された車で1日だけ運転を行う群にランダムに割り付けられた。その後、最初に運転した車とは反対の条件の車で運転を行った。血圧は、車の運転前と運転中、および運転後最長で24時間後に、3分間隔で14回測定された。また、運転の前後に画像検査で推定網膜中心動脈径(CRAE)も測定された。

 参加者の運転前の平均血圧は、収縮期血圧が122.7mmHg、拡張期血圧が70.8mmHgで、平均運転時間は122.3分だった。また、フィルターの装備により外気中の微粒子は86%減少していた。解析は、データが全てそろった13人を対象に行われた。

 その結果、運転前の血圧、割り当てられる車の順序、持ち越し効果を調整した後でも、外気がフィルターで濾過される車を運転した場合と比べて、外気が車中に入り込む車を1時間運転した場合には、拡張期血圧が平均で4.7mmHg(95%信頼区間0.9〜8.4mmHg)、収縮期血圧が4.5mmHg(同−1.2〜10.2mmHg)上昇することが明らかになった。24時間後の平均血圧も、外気が車中に入り込む車を運転した場合には、拡張期血圧が3.8mmHg(同0.02〜7.5mmHg)、収縮期血圧が1.1mmHg(−4.6〜6.8mmHg)上昇していた。CRAEは、外気が車中に入り込む車を運転した場合には平均で2.7μm(同−1.5〜6.8μm)拡張していた。

 Kaufman氏は、「体には、脳への血流を一定に保とうとするシステムが備わっている。TRAPは、非常に複雑で厳密に制御されたこのメカニズムのどこかに影響を及ぼしているようだ」と話す。

 Kaufman氏はさらに、「集団レベルでのこのような緩やかな血圧上昇は、心血管疾患の大幅な増加と関連していることが知られている。大気汚染が心血管疾患の一因であることは徐々に明らかにされつつあるが、車道の大気汚染という比較的低レベルの大気汚染がこれほどまで血圧に影響を及ぼし得るという概念は、われわれが解決しようとしているパズルの重要なピースとなる」と同大学のニュースリリースで述べている。

 論文の筆頭著者である、元ワシントン大学博士研究員のMichael Young氏は、「この研究の興味深い点は、TRAP曝露の健康への影響に関して、実験室での標準的な研究デザインを現実世界に適用して実証したことだ」と語る。また、「このテーマに関する研究では、多くの場合、公害の影響をストレスや騒音など他の路上曝露から切り離すのが難しいが、われわれのアプローチでは、運転時の違いを大気汚染濃度だけに絞ることができた。この研究結果は、何百万人もの人が毎日実際に経験している状況を再現するものであり、貴重だ」と述べている。

[2023年11月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら