小児インフルエンザ治療でのタミフル使用の実態とは

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/12/15

 

 米国では、インフルエンザに罹患した小児にはタミフルなどの抗ウイルス薬を処方することが推奨されているにもかかわらず、その処方率は低く、特に2歳未満の小児では5人に3人が同薬を処方されていないことが新たな研究で明らかになった。米ヴァンダービルト大学モンロー・カレル・ジュニア小児病院の小児科医であるJames Antoon氏らによるこの研究の詳細は、「Pediatrics」に11月13日掲載された。

 この研究は、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseを用いて、米国の50州での民間保険に関連する取引データの中から2010年7月1日から2019年6月30日の間の外来または救急外来での18歳未満の小児に対する処方箋の請求データを収集し、小児インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬処方の動向を調査したもの。抗ウイルス薬の処方は、オセルタミビル(商品名タミフル)、バロキサビル(商品名ゾフルーザ)、またはザナミビル(商品名リレンザ)が処方された場合と定義された。主要評価項目は、小児インフルエンザ患者での抗ウイルス薬の処方箋受取率(抗ウイルス薬の薬局請求数を対象小児の総数で割ったもの)、副次評価項目は、インフルエンザの診断を受けた患者のうち抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合と、物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬のコストとした。

 その結果、研究対象期間中における治療用・予防用を合わせた抗ウイルス薬の処方件数は141万6,764件であり、そのほとんど(99.8%)がオセルタミビルであることが明らかになった。研究対象期間全体で、1インフルエンザシーズン当たりの抗ウイルス薬の平均処方件数は小児1,000人当たり20.6件であり、インフルエンザシーズンにより4.35件から48.6件の変動が見られた。

 抗ウイルス薬により治療された患者の割合は、年齢層では12歳以上、インフルエンザシーズンでは2017/2018年シーズン、地理別では東南中央地域で特に高かった。これに対して、インフルエンザ合併症のリスクが高い2歳未満のインフルエンザ患者のうち、ガイドラインに則った抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合は40%未満(1,000人当たり367件の処方)と低かった。

 物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬の総コストは2億845万8,979ドル(1ドル150円換算で312億6884万6,850円)であり、1処方当たりのコスト(中央値)は111ドル(同1万6,650円)から151ドル(同2万2,650円)の間であった。

 Antoon氏は、「ガイドラインでは、インフルエンザの小児患者に対しては、年齢を問わず抗ウイルス薬による治療が推奨されているにもかかわらず、われわれの研究から、2歳未満の小児で同治療が施されたのは40%に満たないことが明らかになった。また、全ての年齢層で抗ウイルス薬の使用率が低かったことも気に掛けるべき重要な結果だ」と話す。

 また、インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の使用状況は、地域により大きく異なることも示された。この点についてAntoon氏は、「この結果は、特に最も弱い立場にある小児でのインフルエンザの予防と治療に改善の余地があることを浮き彫りにするものだ」との見方を示す。研究グループは、このような地域差が生じる原因として、小児に対する抗ウイルス薬の使用を推奨する国のガイドラインが周知されていない可能性や、副作用への懸念、あるいは薬効に対する信頼不足が存在する可能性があると推測している。

 研究グループは、「今回の研究結果は、小児患者でのインフルエンザの管理の質を向上させる必要性を強調するものだ」と結論付けている。Antoon氏は、「外来で小児のインフルエンザ患者を治療することで、症状の持続期間、家庭内感染、抗菌薬の使用、中耳炎などのインフルエンザ関連の合併症が減少することが報告されている」と補足している。

[2023年11月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら