血液検査が双極性障害の診断に有用か

双極性障害に関連するバイオマーカーを検出できる簡単な血液検査の開発に関する報告が、「JAMA Psychiatry」に10月25日発表された。論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学のJakub Tomasik氏は、この検査法により双極性障害の診断が容易になる可能性があると話している。
Tomasik氏は、「双極性障害は、気分が落ち込むうつ状態(うつ病エピソード)と気分が高揚する躁状態(躁病エピソード)を繰り返す精神疾患だ。ただ、双極性障害患者はたいていの場合、うつ病エピソードのときにしか医師の診察を受けない。そのため、間違って大うつ病性障害(以下、うつ病)と診断されている患者は少なくない」と説明する。一方、論文の上席著者であり同大学ニューロテクノロジー分野教授のSabine Bahn氏は、「双極性障害とうつ病は別の疾患として扱う必要がある。双極性障害患者に、気分安定薬を加えずに抗うつ薬のみを処方すると、躁病エピソードを誘発してしまう可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。
双極性障害は精神医学的評価により正確に診断することができるが、評価を受けるまでの待ち時間が長くなる可能性がある。Tomasik氏は、「精神医学的評価は極めて有効だが、簡単な血液検査で双極性障害を診断できるようになれば、患者が最初から適切な治療を受けられるようになり、専門の医師にかかるプレッシャーも軽減されるだろう」と話す。
Tomasik氏の研究では、過去5年以内にうつ病の診断を受け、現在抑うつ症状を経験している患者を対象に2018年4月27日から2020年2月6日の間に英国で実施された研究(デルタ試験)の検体と患者データを用いて、うつ病エピソード期間中の双極性障害患者をうつ病患者と区別するための代謝バイオマーカーを特定できるかが検討された。患者のデータは、635項目の質問から成るオンライン調査により収集した。また、患者から集めた乾燥した血液検体に含まれる630種類の代謝物質について、特定の分子を標的とする質量分析ベースのプラットフォームを用いて分析した。
発見コホートの総数は241人(平均年齢28.1歳、女性70.5%)で、このうちの67人(27.8%)は後にComposite International Diagnostic Interviewにより双極性障害の診断を受け、174人(72.2%)はうつ病と確定診断された。Tomasik氏らは、発見コホートの代謝物質データを解析し、最終的に双極性障害とうつ病を区別するための17種類のバイオマーカーから成るパネルを構築した。このバイオマーカーパネルを、検証コホート(30人、平均年齢25.4歳、女性53%)で検証したところ、PHQ(Patient Health Questionnaire)-9スコアやMood Disorder Questionnaire(MDQ)スコアなどのオンライン調査で得た患者情報を組み合わせることで診断性能が有意に向上することが確認された。決定曲線分析からは、この血液検査を使用することで、最大30%の双極性障害患者を追加で特定できる可能性が示された。
こうした結果を受けて研究グループは、「まだ概念実証段階の研究ではあるが、この血液検査は、最終的には既存の診断ツールを補完することになるかもしれない。また、研究者が精神疾患の生物学的起源を理解するのにも役立つだろう」との見方を示している。Bahn氏は、「全体として、オンラインアセスメントの方が診断には有効ではあるが、バイオマーカーを用いた血液検査も性能が良く、結果が出るまでにかかる時間がはるかに短い。この2つのアプローチは相補的であるため、両者の併用が理想的だ」と述べている。
なお、同大学の商業部門であるケンブリッジ・エンタープライズは、この研究に関連する特許を申請している。
[2023年10月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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