膝の痛みが消えてもメンタルヘルスは改善しない

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/08/08

 

 膝が痛くて気分が滅入ることはあるが、その痛みが和らいでもメンタルヘルスは改善しないようだ。身体機能や痛みが大幅に改善すると、不安症状は軽減するが、抑うつ症状は軽減しないことが、米ワシントン大学医学部整形外科分野のAbby Cheng氏らの研究で明らかにされた。米国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に6月28日掲載された。

 背中や肩、股関節に痛みがある人が、イライラしたり、不安を感じたり、精神的に落ち込んだりするのは珍しいことではない。今回の研究では、ワシントン大学病院整形外科で筋骨格系の治療を、2015年6月22日から2022年2月9日の間に4〜6回受けた成人患者1万1,236人〔平均年齢(標準偏差)57(16)歳、女性64.2%〕を対象に、身体機能や痛みの影響が改善されることで不安や抑うつの症状も軽減するのかどうかが検討された。対象患者には、受診のたびに患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)と呼ばれる評価ツールに回答してもらい、これを基に不安と抑うつの症状、身体機能、痛みの影響のスコア化を行った。PROMISの質問には、「過去7日間で、痛みがどの程度、家事の妨げとなりましたか」「過去7日間で、痛みがどの程度、眠りにつく妨げとなりましたか」などの項目が含まれていた。

 その結果、身体機能の改善と痛みの影響の軽減はともに、不安症状の統計学的に有意な軽減と臨床的に意味のある改善と関連することが明らかになった。これに対して、抑うつ症状の軽減については、身体機能の改善や痛みの影響と統計学的に有意な関連を示したが、臨床的に意味のある改善ではなかった。

 Cheng氏は、「私にとって今回の結果の中で興味深かったのは、多くの患者で、身体的な健康の大幅な改善に伴い不安症状はいくらか軽減したのに、抑うつ症状は軽減しなかった点だ」と話す。同氏は、「医師として何よりも気になるのは、患者がどう感じるかだ。患者が、1マイル歩けるようになったことに満足するのなら良いが、1マイル歩けてもマラソンはもはやできないと思うのなら良いとはいえない。真に重要なのは患者の感じるウェルビーイングであり、痛みがなくなり身体機能が向上したからといって、ウェルビーイングが必ずしも改善するわけではない」と話す。

 その上でCheng氏は、「われわれの目標は、単に患者の股関節や膝を治すことではなく、患者自身を治療することだ。身体的な問題は、気分や不安、さらには抑うつ症状と関係するものだ。つまり、患者はさまざまな問題に同時に直面しているわけであり、そのような状況を考慮しない限り、良いケアを提供することなどできない」と主張する。

 一方、他の研究では、特定の筋骨格系の問題を治療することで、精神的な症状が幾分かは改善したという、今回の研究結果とは反対の結果が報告されている。Cheng氏は、「手術後6カ月間は不安をあまり感じていなかった患者でも、5年後には全く違う状態になっている可能性がある。不安の症状はしばしば再発するからだ。ただし、再発した時点では、不安の原因は、もはや股関節などの整形外科的問題とは関係ないかもしれない」と話している。

[2023年6月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら