日本初のMASH治療薬、MASLD/MASH診療は新たな局面に/ノボ

提供元:ケアネット

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公開日:2026/07/10

 

 代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)および代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の診療は、近年病名変更や非侵襲的診断法(NIT)の進歩によって様変わりした。一方で、肝線維化の進展を抑制する薬物療法は長らく存在せず、生活習慣改善が治療の中心であった。そのような中、2026年6月、すでに肥満症治療薬として広く用いられているGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:ウゴービ)が、日本で初めてMASHを適応症とする追加承認を取得し、国内のMASLD/MASH診療は新たな局面を迎えた。

 ノボ ノルディスク ファーマは6月30日にプレスセミナーを開催し、国際医療福祉大学 消化器内科統括教授の中島 淳氏が「日本初MASH治療薬がもたらす未来」をテーマに講演を行った。同氏は「これまでMASH患者が肝硬変や肝細胞がんへ進展していくのをみているしかなかったが、ようやく治療薬を手にすることができた」と述べた。

「脂肪量」ではなく「線維化」が予後を決める

 MASLDは、かつてNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていた疾患概念で、2023年に国際的なコンセンサスを得て名称が変更された。現在では代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患として位置付けられ、その中で肝炎を伴う病態がMASHと定義されている。

 日本ではMASLD患者は約2,500万例に達すると推定され、MASH患者も100万例規模に上ると考えられている。健康診断データでは脂肪肝の有病率は25.8%と4人に1人を超え、さらに進行線維化が疑われる症例も約1%存在するなど、肝疾患の中で患者数が最も多い疾患となっている。

 MASLDは自覚症状に乏しい「サイレントキラー」である。線維化はF0からF4(肝硬変)へと数十年かけて進行するが、その速度は線維化の進展とともに加速する。F0~F1から肝硬変までは30年以上を要する一方、F2では約20年、F3では約6年で肝硬変に至るとされる。さらに肝硬変へ進展すると肝細胞がんや非代償性肝硬変のリスクが急激に高まる。

 中島氏は、「疾患が悪化するかは脂肪肝であること自体ではなく、線維化がどこまで進んでいるかによるところが大きい」と説明した。実際、約9,700例を20年間追跡した解析では、脂肪量や炎症よりも線維化の有無が無イベント生存期間を最も強く規定する因子であることが示されている。

 また、日本人MASLD患者を対象としたCLIONE試験では、線維化ステージの進展に伴い全死亡、肝関連イベント、肝細胞がんの発症率が段階的に上昇することも報告されている。死亡原因は肝疾患だけでなく、心血管疾患や他臓器がんも多く認められ、MASLDが全身性疾患であることも改めて示されている。

診療のカギはF2以上のハイリスク患者をいかに拾い上げるか

 一方で、近年は診断法も大きく進歩した。従来の肝生検に代わり、FIB-4 indexやM2BPGi、ELFスコアなどの血液バイオマーカーに加え、VCTE(FibroScan)やMRエラストグラフィなど非侵襲的検査が普及している。

 2026年4月に改訂された「MASLD診療ガイドライン」では、FIB-4 indexを用いた1次リスク評価を起点とし、中間・高リスク例ではエラストグラフィや線維化マーカーを組み合わせて評価する診療アルゴリズムが推奨された。中島氏は、「最も重要なのはF2以上の患者を早期に見つけることであり、かかりつけ医と肝臓専門医との連携が不可欠になる」と述べた。

 さらに同氏は、近年の肝細胞がんの原因も大きく変化していると指摘した。C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬の普及によりC型肝炎由来の肝細胞がんは減少した一方、MASLD/MASH由来の肝細胞がんは増加を続けている。「都市部では肝切除症例の大部分がMASLD由来となっている」と述べ、今後の肝臓診療ではMASLD対策が重要課題になるとの認識を示した。

ESSENCE試験で2つの主要評価項目を達成

 今回の適応追加の根拠となったのは、F2またはF3線維化を有するMASH患者800例(日本人116例を含む)を対象とした国際共同第III相ESSENCE試験である。

 被験者は標準治療+セマグルチド2.4mgまたはプラセボに2対1で無作為化され、72週時点で肝生検による組織学的評価が行われた。主要評価項目は、「線維化悪化を伴わないMASH消失」と「MASH悪化を伴わない線維化改善」の2項目であった。

 その結果、「線維化悪化を伴わないMASH消失」はセマグルチド群62.9%、プラセボ群34.3%で達成され、「MASH悪化を伴わない線維化改善」もそれぞれ36.8%、22.4%となり、いずれも統計学的有意差を示した。

 また、副次評価項目ではALT、AST、γ-GTPの改善に加え、CAPによる肝脂肪量、VCTEによる肝硬度、線維化関連バイオマーカーの改善も確認された。組織学的にも脂肪化や炎症、肝細胞風船様変性の改善が認められ、線維化改善を示唆する結果となった。

 安全性については、新たな重大な懸念は認められなかったものの、悪心、下痢、便秘などGLP-1受容体作動薬に特徴的な消化器症状はプラセボ群より高頻度で認められた。実臨床では漸増投与や副作用マネジメントが重要となる。

早期診断・早期介入の時代へ

 中島氏は、「これまでは薬がなかったため、糖尿病医やかかりつけ医から専門医へ紹介されない患者も多く、腹水や巨大肝がんを契機に初めて紹介されるケースも少なくなかった」と振り返る。その上で、「今後はF2~F3の段階で患者を拾い上げ、治療介入することで、肝硬変や肝細胞がんへの進展を防げる可能性がある」と述べ、今回の適応追加を「MASLD/MASH診療におけるゲームチェンジャー」と位置付けた。

 薬物療法の選択肢が加わったことで、MASLD診療は「経過観察」から「積極的治療」へと大きく転換しつつある。今後はFIB-4 indexをはじめとする非侵襲的評価を活用したハイリスク患者の早期抽出と、適切な専門医紹介、薬物療法を含めた包括的な管理体制の構築が、国内のMASH診療における重要な課題となりそうだ。

【最適使用推進ガイドライン抜粋】

・適応:「肝硬変を伴わないMASH。ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る」
→肝線維化ステージがF2又はF3に線維化が進行した患者であることを、生検によって確認すること。なお、「肝生検ガイダンス」(日本肝臓学会編)19の禁忌の項を参考に、生検の実施が適切ではないと判断された場合には、非侵襲的検査(NIT)に基づき判定すること。
・用法及び用量:成人には0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg及び2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。
・施設要件:消化器内科、肝臓内科、内科のいずれかを標榜している保険医療機関
・医師要件: MASH又はNASHの診療を5年以上行っていること

(ケアネット 杉崎 真名)