初期研修修了後、十分な専門研修を経ないまま美容医療に従事する、いわゆる「直美(ちょくび)問題」が社会問題化する中、現場の医師が主導する新たな取り組みが動き出した。近畿大学 医学部皮膚科学教室 主任教授の大塚 篤司氏らは大学発ベンチャーを立ち上げ、AIと専門医の知見を組み合わせた美容医療予約プラットフォーム「美肌コネクト」の開発を主な目的とした、クラウドファンディングをスタートした。
専門研修不足と医師偏在、双方への危機感
大塚氏は「直美問題は、患者側、医師側の両方に不幸をもたらしている」と言う。患者にとっては、十分なトレーニングを受けていない医師の施術によって満足な治療効果が得られないだけでなく、皮膚がんの見落としや術後合併症などの深刻な医療事故につながる可能性もあり、実際に国民生活センターへの相談件数も急増している。
一方、医師側の問題としては、自由診療の美容に若手が流れることで保険診療を担う医師が減少し、診療科や地域偏在にも拍車をかける、といった点が挙げられる。「2022年に政府が行った調査では約200人が直美に進んだというデータが出た。これは実に医大2校の卒業生に相当する数で、深刻な問題です」。医師偏在を助長しかねない問題への危機感が、今回の構想の出発点となった。
広告・SNS頼みの美容医療を変える「美肌コネクト」
現在、消費者が美容医療情報を探す方法は、テレビCMやウェブ広告、SNSに大きく依存しており、施術医の専門性を客観的に判断することは難しい。「形成外科や皮膚科関連の専門医資格を持ち、美容医療を適切に行える医師は実際に存在します。しかし、宣伝だけが上手な施設に患者が集まり、技術を持つ医師のもとには集まらない、という逆転現象が起きている」と大塚氏は懸念する。
「美肌コネクト」では、専門医資格を有する医師を中心としたネットワークを構築し、患者が安心して専門家にアクセスできるアプリの開発を進める計画だ。登録医師については、当初は運営側が専門医に声をかけ、質を担保した上で、登録制などで拡大する方針としている。大塚氏は「きちんとした専門性を持つ医師が、正当に選ばれる仕組みを作りたい」と強調する。すでにアプリのベータ版は完成しており、今後はクラウドファンディング支援者に試用してもらうステップなどを経て、正式版をリリースする予定という。
クラウドファンディングは「仲間集め」
今回クラウドファンディングという形を選択した理由について、大塚氏は「スタートアップの資金調達目的と同時に、同じ問題意識を持つ仲間を集めたかったため」と語る。研修医が一般病院での保険診療を経ずに、自由診療や開業に進む問題は美容業界に限らず、精神科などの他科にも共通する構造的な問題となっている。大塚氏は「一部の医師だけで解決できる問題ではない。課題意識を持つ人とつながり、連帯して取り組みたい」とする。
実際、クラウドファンディング開始後には医療従事者から多くの応援メッセージが寄せられており、1月のスタートから1週間で500万円の目標に対して200万円が集まるなど、好調な出足となっている。「直美問題を何とかしたいと思っていた医療者が多いことを実感しています」と大塚氏は手応えを口にする。まずは医療者にプロジェクトを認知してもらったうえで、募集期間の後半には消費者側にもリーチする計画を立てているという。
教育プラットフォームづくりも視野に
「美肌コネクト」は、患者向けマッチング機能に加え、将来的には医師向けの教育コンテンツ開発も視野に入れる。現状、大学病院では美容医療を学ぶ機会が限られており、「独学に頼らざるを得ない現状がある」と大塚氏は指摘する。大塚氏が主宰する近畿大学の皮膚科学教室では、美容医療を体系的に学ぶ体制が整っており、この知見を使った医師が継続的に学べる教育プラットフォームづくりを見据える。
直美問題に対し、現場の医師が主体となって提示した1つの解。クラウドファンディングを起点とした「美肌コネクト」は、美容医療と保険診療の健全な関係を模索する試みとして、注目を集めそうだ。
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【クラウドファンディングの詳細】
・実施プラットフォーム:READYFOR(
https://readyfor.jp/projects/bihada-ai-connect)
・募集期間:1月20日(火)20時〜3月31日(火)23時終了(70日間)
・目標金額:500万円
・資金の使い道:プラットフォームの開発費(審査システム、検索・予約機能、レビュー管理機能、AI診断機能)、医師へのリサーチ費用・監修費用、教育啓発コンテンツの制作費用、医師と専門家による審査員・監修員の人件費、サービス運営費など
・リターン:支援金額に応じて、デジタルレポートや教育セミナーの招待、医療監督者限定セミナーへの参加券、Founding Doctor/Supporterとしての称号などを用意
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(ケアネット 杉崎 真名)