認知機能が低下している高齢者は、抗コリン作用を有する薬剤の累積使用による副作用の影響を受けやすいとされている。しかし、このような患者における入院リスクに関する研究は依然として限られており、入院の具体的な原因に焦点が当てられていない場合が多い。マレーシア・University MalayaのRenuka Rahoo氏らは、軽度認知障害(MCI)または認知症の高齢者における抗コリン薬の負担とその役割、さらに入院リスクおよび入院理由との関連を調査した。Clinical Interventions in Aging誌2025年9月25日号の報告。
本後ろ向き研究は、2022年に物忘れ外来を受診したMCIまたは認知症の高齢者を対象に実施した。社会人口学的情報、併存疾患、認知機能評価、機能評価、神経精神症状、服薬歴に関するデータを電子カルテから収集した。抗コリン薬による負担は、抗コリン作用負荷(ACB)スコアを用いて評価した。ACBスコアと入院リスクとの関連を評価するため、Cox比例ハザード分析を用いた。入院の根本原因は、異なるACBスコア群間で比較した。
主な結果は以下のとおり。
・解析対象となった高齢者は合計657例、平均年齢は80.66±7.39歳。
・抗コリン薬の使用率は35.5%、ACBスコアの平均値は0.8±1.3であった。
・ACBスコアが高い高齢者は、抗コリン薬による負担のない場合と比較し、介護施設入居、神経精神症状の発現、認知機能および身体機能の低下、処方薬数の増加との関連が認められた。
・単変量解析では、ACBスコアが1~2の高齢者は、入院リスクが高かった(ハザード比:1.84、95%信頼区間:1.17~2.90)。しかし、交絡因子を調整後、この関連性は減少した。
・入院理由は、肺炎(5.7%)が最も多く、次いで急性腎障害(3.8%)、せん妄(2.6%)、転倒(2.6%)であった。
・とくに、重篤な心血管イベントまたは褥瘡感染で入院した高齢者は、ACBスコアが有意に高かった。
著者らは「MCIまたは認知症の高齢者の3人に1人は抗コリン薬を使用しており、これは健康状態を悪化させる可能性がある」とし「これらの知見は、この脆弱な集団における抗コリン薬の負担を最小限に抑えるために、定期的な服薬レビューと減薬戦略の重要性を強調している」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)