肺高血圧症へのソタテルセプト、中リスク以上なら追加検討を/MSD

提供元:ケアネット

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公開日:2025/09/22

 

 肺動脈性肺高血圧症(PAH)において、肺血管リモデリング(細胞増殖)抑制を標的とする世界初のアクチビンシグナル伝達阻害薬(ASI)ソタテルセプト(商品名:エアウィン)が2025年8月18日に発売された。この疾患領域については2025年3月に診療ガイドラインが改訂1)されており、ソタテルセプトは推奨表25(p.91)や治療アルゴリズム(p.92、図18)にも掲載され、4系統目の薬剤としての期待が記されている。9月2日には発売を記念したMSDメディアセミナーが開催され、福本 義弘氏(久留米大学医学部内科学講座 心臓・血管内科部門 主任教授)が「肺動脈性高血圧症(PAH)治療 新規作用機序の新薬『エアウィン』への期待」と題し、PAHの現状や新薬の日本人における治療効果について解説した。

PAHを疑ったらまずは心電図とX線を

 肺高血圧症(PH)は原因や病態などにより第1~5群に分類される。PAHは第1群に位置し、典型的なPHの臨床像を示す疾患群とされ、特発性(原因不明)のものが国内外で最も多く臨床的に重要である。初期症状として息切れ、動悸、めまいなどがあり、進行すると右心不全の症状(むくみ、咳、失神、チアノーゼなど)を来す。福本氏は病態進展や背景について、「筋肉に負荷をかけるとボディビルダーの筋肉が巨大化するように、PAHでは右心室の筋肉に負荷が生じ、心室壁の肥厚に伴い右心室肥大となる。これまでの疫学調査によれば男女比1:2で20~40代の女性に多いと言われていたが、近年では高齢者や男性での診断率が増加傾向にある」と説明した。実際、国内での指定難病の受給者証所持数は2004年の約750例から2023年の4,682例に増加している。

 その一方、PAHの疾患概念の普及率はいまだに低く、同氏は「確定診断に至る期間は平均20.2ヵ月を要する。若年者の息切れに対するエコー検査実施率は50.4%にとどまる。確定診断前にすでに心不全や基礎疾患の診断がついていることも早期診断・治療開始の足かせとなっている」と指摘。「発見するには身体所見による診断に心音(II音の亢進)が有用であるが、判断は難しい。心電図とX線の実施を推奨しているので、息切れの訴えがあれば、心エコー検査をせずともこの2つは経時的に実施してほしい」とコメントした。

治療の変遷とソタテルセプトの有効性・安全性

 次にPAHの治療法について、「新たな作用機序のソタテルセプトの登場により、患者のなかでもとくに予後の長い若年層の生命予後の延長が期待されている」と話した。日本では1999年にプロスタサイクリン製剤(PGI2)の発売を皮切りに、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)、ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬が用いられるようになった。その結果、今では5年生存率が約74~90%に向上しているが、PAHの疾患進行の初期は血管収縮の要素が大きく、進行すると肺血管リモデリングが進展する傾向にある。「既存の治療薬は作用機序が異なるもののいずれも血管収縮を抑制するもの。一方でソタテルセプトは細胞増殖を抑えることで肺血管リモデリングを抑制する。PAHの治療は、症状・活動制限を改善し、肺血管病変を抑制し、右心負荷を軽減させることを目的とするため、まずは既存の肺血管拡張薬で治療を開始し、改善が不十分な場合にはソタテルセプトを上乗せしていくことになる」と説明した。

 PAH治療効果判定に重要な生命予後決定因子は5項目(平均肺動脈圧[mPAP]、肺血管抵抗[PVR]、WHO肺高血圧症機能分類[自覚症状・身体活動]、6分間歩行距離[運動能力]、NT-proBNP)があり、海外第III相STELLAR試験でも主要評価項目のPVR、平均mPAPを大きく改善していた。治療効果が高い反面、毛細血管拡張、頭痛、鼻出血などの副作用が認められたが、死亡例はなかった2)。本結果を踏まえて行われた実薬群のみの国内第III相020試験でも「同様の結果が得られていた」という。また、前述の試験よりWHO肺高血圧症機能分類の重症度が高い患者を対象とした海外第III相ZENITH試験においては、複合エンドポイント(全死亡、肺移植、PAH悪化による入院)のリスクが有意に低下した3)。「これらの結果がガイドラインにも反映され、中リスクや高リスク患者への積極的な追加が推奨されている(推奨クラスIIa)1)」とコメントした。

新薬への期待と課題

 最後に同氏は「PAHは肺血管拡張薬の登場により生存期間の改善がみられたが、疾患進行は止めることができていなかった。今回、新たな作用機序の薬剤の発売により疾患進行を根本から抑えることを目指せる新しい時代が到来した。PAH患者の生命予後のさらなる延長と社会生活上の負担軽減・QOL向上が図られることを大いに期待する。そのためには、診断・治療開始までの期間短縮、適切な医療連携を課題とし、それらの発展に寄与していきたい」とし、「ソタテルセプトの取り扱いに関する施設基準などはないが、適切な施設での治療を望む」と締めくくった。

<製品概要>
製品名:エアウィン皮下注用45mg、60mg
一般名:ソタテルセプト(遺伝子組換え)
効能又は効果:肺動脈性肺高血圧症
用法及び用量:通常、成人にはソタテルセプト(遺伝子組換え)として初回に0.3mg/kgを投与し、2回目以降は0.7mg/kgに増量し、3週間ごとに皮下投与する。
薬価:108万2,630円/瓶(45mg)、144万1,677円/瓶(60mg)
製造販売承認日:2025年6月24日
薬価基準収載日:2025年8月14日
発売日:2025年8月18日
製造販売元:MSD株式会社

(ケアネット 土井 舞子)