米国疾病管理予防センター(CDC)は、体温を上昇させる可能性があるとして、摂氏32度を超える温度での扇風機の使用を推奨していない。一方、モデル化によると、扇風機は湿度に応じて体温を低下させる可能性があるという。カナダ・モントリオール心臓研究所およびオーストラリア・シドニー大学の研究チームは、高齢者58例を対象に、扇風機の使用が高温多湿の環境下で心臓への負担を軽減する一方で、非常に高温で乾燥した環境下では心臓への負担を3倍に増加させることを報告している1)。今回、同チームが、扇風機使用が体温、発汗、暑さの感じ方、快適度にどう影響するかを検証した結果が、JAMA Network Open誌2025年7月29日号Research Letterに掲載された。
参加者は、高温多湿(38度・湿度60%)または非常に高温で乾燥(45度・湿度15%)の環境下に置かれた。高温多湿環境では、全参加者は72時間以上の間隔を空けて、「介入なし」「扇風機使用」「肌を濡らす」「扇風機使用と肌を濡らすの組み合わせ」の環境下にランダムに置かれた。非常に高温で乾燥した環境では、冠動脈疾患(CAD)を有する被験者は「介入なし」「肌を濡らす」のみを受けた。事前に設定された二次アウトカムは直腸温度の変化(自己挿入型サーミスタ)、発汗率(体重変化)、および熱感覚と快適度の変化で、それぞれ7段階と4段階のスケールで測定された。
主な結果は以下のとおり。
・58例(CADなし31例、あり27例、男性67%、平均年齢68歳)が解析に含められ、計320回の曝露を受けた。
【38度・湿度60%/高温多湿】
・扇風機の使用により、直腸温度が低下(-0.1度)した。肌を濡らす単独、扇風機+肌を濡らすは体温との関連は認められなかった。
・発汗量は、扇風機の使用で増加(57mL/h)し、肌を濡らす単独で減少(-67mL/h)した。扇風機+肌を濡らすは発汗量に影響しなかった。
・熱感覚は、扇風機の使用(-0.6)、肌を濡らす(-0.4)、扇風機+肌を濡らす(-1.1)で改善した。
・快適度は、扇風機の使用(-0.6)、肌を濡らす(-0.4)、扇風機+肌を濡らす(-0.7)で改善した。
【45度・湿度15%/非常に高温乾燥】
・扇風機の使用により直腸温度が上昇(0.3度)した。肌を濡らす単独、扇風機+肌を濡らすは体温との関連は認められなかった。
・発汗量は、扇風機の使用(270mL/h)、扇風機+肌を濡らす(205mL/h)でそれぞれ増加したが、肌を濡らす単独では減少(-121mL/h)した。
・熱感覚は、扇風機の使用で悪化(0.5)し、肌を濡らすで改善(-0.4)した。扇風機+肌を濡らすは熱感覚に影響しなかった。
・快適度は、扇風機の使用で悪化(0.5)し、肌を濡らす、扇風機+肌を濡らすは快適度に影響しなかった。
研究者らは「CDCの助言とは対照的に、38度・湿度60%の湿度下で扇風機を使用しても、CADの有無にかかわらず高齢者の体温は上昇せず、むしろ体温をわずかに低下させ、感覚を改善した。一方、非常に高温で乾燥した熱環境では、扇風機の使用はすべてのアウトカムを悪化させており、これらの条件下では扇風機の使用を控えるべきだろう。一方、肌を濡らすことは両方の環境下で発汗を減少させ、感覚を改善させており、脱水リスク低減策として推奨される可能性がある」とした。
(ケアネット 杉崎 真名)