最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会

提供元:ケアネット

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公開日:2025/04/08

 

 今春のスギ・ヒノキの花粉総飛散量は、2024年の春より増加した地域が多く、天候の乱高下により、飛散が長期に及んでいる。そのため、外来などで季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)を診療する機会も多いと予想される。花粉症診療で指針となる『鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2024年 改訂第10版』(編集:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)が、昨年2024年3月に上梓され、現在診療で広く活用されている。

 本稿では、本ガイドラインの作成委員長である大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)に改訂のポイントや今春の花粉症の終息の見通し、今秋以降の花粉飛散を前にできる対策などを聞いた。

医療者は知っておきたいLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念

 今回の改訂では、全体のエビデンスなどの更新とともに、皮膚テストや血清特異的IgE検査に反応しない「LAR(local allergic rhinitis)血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が加わった。また、図示では、アレルギー性鼻炎の発症機序、種々発売されている治療薬について、その作用機序が追加されている。そのほか、「口腔アレルギー症候群」の記載を詳記するなど内容の充実が図られている。それらの中でもとくに医療者に読んでもらいたい箇所として次の2点を大久保氏は挙げた。

(1)LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念の導入:
 このLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎は、皮膚反応や血清特異的IgE抗体が陰性であるにもかかわらず、鼻粘膜表層ではアレルギー反応が起こっている疾患であり、従来の検査や所見でみつからなくても、将来的にアレルギー性鼻炎や気管支喘息に進展する可能性が示唆される。患者さんが来院し、花粉症の症状を訴えているにもかかわらず、検査で抗体がなかったとしても、もう少し踏み込んで診療をする必要がある。もし不明な点があれば専門医へ紹介する、問い合わせるなどが必要。

(2)治療法の選択の簡便化:
 さまざまな治療薬が登場しており、処方した治療薬がアレルギー反応のどの部分に作用しているのか、図表で示している。これは治療薬の作用機序の理解に役立つと期待している。また、治療で効果減弱の場合、薬量を追加するのか、薬剤を変更するのか検討する際の参考に読んでもらいたい。

 実際、本ガイドラインが発刊され、医療者からは、「診断が簡単に理解でき、診療ができるようになった」「『LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎』の所見をみたことがあり、今後は自信をもって診療できる」などの声があったという。

今春の飛散終息は5月中~下旬頃の見通し

 今春の花粉症の特徴と終息の見通しでは、「今年はスギ花粉の飛散が1月から確認され、例年より早かった一方で、寒い日が続いたため、飛散が後ろ倒しになっている。そのために温暖な日が続くとかなりの数の花粉が飛散することが予測され、症状がつらい患者さんも出てくる。また、今月からヒノキの花粉飛散も始まるので、ダブルパンチとなる可能性もある」と特徴を振り返った。そして、終息については、「例年通り、5月連休以降に東北以外のスギ花粉は収まると予測される。また、東北ではヒノキがないので、スギ花粉の飛散動向だけに注意を払ってもらいたい。5月中~下旬に飛散は終わると考えている」と見通しを語った。

 今秋・来春(2026年)の花粉症への備えについては、「今後の見通しは夏の気温によって変わってくる。暑ければ、ブタクサなどの花粉は大量飛散する可能性がある。とくに今春の花粉症で治療薬の効果が弱かった人は、スギ花粉の舌下免疫療法を開始する、冬季に鼻の粘膜を痛めないためにも風邪に気を付けることなどが肝要。マスクをせずむやみに人混みに行くことなど避けることが大事」と指摘した。

 最後に次回のガイドラインの課題や展望については、「改訂第11版では、方式としてMinds方式のCQを追加する準備を進める。内容については、花粉症があることで食物アレルギー、口腔アレルギー症候群(OAS)、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)など複雑に交錯する疾患があり、これが今問題となっているので医療者は知っておく必要がある。とくに複数のアレルゲンによる感作が進んでいる小児へのアプローチについて、エビデンスは少ないが記載を検討していきたい」と展望を語った。

主な改訂点と目次

〔改訂第10版の主な改訂点〕
【第1章 定義・分類】
・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類
・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加
【第2章 疫学】
・スギ花粉症の有病率は38.8%
・マスクが発症予防になる可能性の示唆
【第3章 発症のメカニズム】
・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要
・アレルギー鼻炎(AR)はタイプ2炎症
【第4章 検査・診断法】
・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始
・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示
【第5章 治療】
・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギ舌下免疫療法(SLIT)の効果を追加

〔改訂第10版の目次〕
第1章 定義・分類
第2章 疫学
第3章 発症のメカニズム
第4章 検査・診断
第5章 治療
・Clinical Question & Answer
(1)重症季節性アレルギー性鼻炎の症状改善に抗IgE抗体製剤は有効か
(2)アレルギー性鼻炎患者に点鼻用血管収縮薬は鼻噴霧用ステロイド薬と併用すると有効か
(3)抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻漏・鼻閉の症状に有効か
(4)抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2(PGD2)・トロンボキサンA2(TXA2薬)はアレルギー性鼻炎の鼻閉に有効か
(5)漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か
(6)アレルギー性鼻炎に対する複数の治療薬の併用は有効か
(7)スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か
(8)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の効果は持続するか
(9)小児アレルギー性鼻炎に対するSLITは有効か
(10)妊婦におけるアレルゲン免疫療法は安全か
(11)職業性アレルギー性鼻炎の診断に血清特異的IgE検査は有用か
(12)アレルギー性鼻炎の症状改善にプロバイオティクスは有効か
第6章 その他
Web版エビデンス集ほかのご紹介

(ケアネット 稲川 進)