LGBTQ患者の診療、困った経験は?/医師1,000人アンケート

提供元:ケアネット

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公開日:2024/01/19

 

 わが国にはLGBTQの人は3~10%程度いるとされている。「患者のほとんどが高齢者のためLGBTQは関係ない」と思われるかもしれないが、高齢者にもLGBTQの人は存在し、日常接している患者さんの中にも少なからずLGBTQ患者がいると考えられる。CareNet.comでは、会員医師1,029人を対象に、LGBTQ患者の診療経験に関するアンケートを実施した。その結果、多くの医師が今後の対応の必要性を認識しているものの、現状では診療体制が不十分であることが多く、今後の診療に影響が生じかねないケースもあったことが明らかになった(2023年12月25日実施)。

過去にLGBTQ患者を診療した経験がある医師は43.9%

 Q1では、過去にLGBTQ患者を診療した経験があるかどうかを聞いた(単一回答)。その結果、「ない」と回答した医師は44.2%で最も多く、「ある」が43.9%、「わからない」が11.9%であった。

 通常の診療では目の前の患者さんがLGBTQ患者かどうか意識しないことが多いと考えられるため、「わからない」が最も多いのではないかと予想していたが、はっきりと「ない」と回答した医師が多いのは意外であった。

LGBTQ患者とわかった理由は「自己申告」が最多

 Q2では、上記Q1で「ある」と回答した場合、LGBTQ患者だとどうやってわかったかを聞いた(複数回答)。多いものから自己申告、雰囲気や外見からの推測、問診表、保険証に記載されている名前や性別、治療・投薬内容、他の人からの伝聞などであった。

 フリーコメントでは、「やはり自己申告をしていただかないといかんともしがたい」「本当にLGBTQかどうか確かめる方法がないのが困る」「本人がカミングアウトしていないが、保険証の性別や外見などからLGBTQとわかった場合の対応が難しい」などの声が寄せられた。

LGBTQ患者の診療で困った医師は少数

 Q3では、LGBTQ患者の診療で困ったことはあるかどうかを聞いた(単一回答)。その結果「ある」が16.3%、「ない」が83.7%と大差が付いた。

 フリーコメントでは、困ったこととして「男性と申告した患者の腹部CTの際、放射線科の読影で子宮を腫瘍と読影され精査を追加した」「使用しているホルモン剤の影響を判断できる情報がない」「紹介先がわからない」など、今後の診療に影響しうる内容も多かった。

LGBTQ患者を診察する際の不安は「プライバシーの保護」

 Q4ではLGBTQ患者を診察する際の不安や懸念について聞いた(複数回答)。最も多かったのは「プライバシーの保護」であった。次いで、使用するトイレや入院時の病棟の決め方、LGBTQ患者に特有の治療(ホルモン剤や性別適合手術後のケアなど)、患者とのコミュニケーション、パートナーによる手術の同意/看取りの立ち合い/病状説明/面会の可否、患者がカミングアウトした場合の受け止め方、などが続いた。

 フリーコメントではトイレや更衣室、入院病棟に関するコメントが圧倒的に多く、「共通トイレがなく困った」「トイレ使用に関してクレームがきた。やはり化粧はしていても髭の生えた人が女性トイレに入れば問題になる」「外来はプライバシーが守られたらよいと思うが、入院となると大部屋は悩ましいなと思う」など、ほかの患者さんとの関係を危惧するコメントが多く寄せられた。

 Q5ではフリーコメントとして、LGBTQ患者の診療で困った経験、行っている取り組み、あるとよいと思う制度や仕組み、聞きたいことなどを聞いた。

診察や治療に関するご意見
・あまり最初から身構えずに、カルテの性別を基本にとして対応しています。
・もちろん時に特別なことも必要かもしれませんが、通常はほかの患者さんとまったく同様の手順と気持ちで普通に診察できるようになるべきだと思います。
・直接関わりがない部分はあまりむやみに聴取しないほうがよいと思ってはいるが、逆に遠慮して正しい診断に至らない可能性もあり、そもそもLGBTQなのか、どこまで聞いてよいのかなどほかの診療でどうやっているのか聞きたい。
・妊娠の有無は教えてほしい。
・医療に関しては遺伝子での性別に限定してほしい。

施設に関するご意見
・トイレが最大の問題だと思います。
・施設利用(とくにトイレの使用)における法的な解釈や社会共通のコンセンサスがほしい。
・トイレなどの施設的な問題はすぐには改善できないことが不安。
・大部屋に入院させるときの対応について、ほかの施設の経験を知りたい。
・当院での診療対応はできないのが実際。

院内ルール、法整備に関するご意見
・公文書の性別が男女の2択になっている現状を変えてほしい。
・病院としての指針を作っておいてほしいです。
・どこまで配慮すべきなのか基準が知りたい。
・パートナーの同意で医療行為を行ってよい法的補償。
・法規制の隙間に入ることが多いので、社会的な保護と義務について対応できる窓口がほしい。

その他のご意見
・今のところ診察したことないですが、これからのことを考えると対策を早急に考えるべきですね。
・専門性があるので、ある程度、専門医療機関での診療に統合したほうがよいと思います。
・患者側への啓発をする医療団体があればよいと思う。
・もっと病気を周知してほしいです。
・周囲のスタッフ間で情報の共有が難しい。

アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。
https://www.carenet.com/enquete/drsvoice/cg004543_index.html

(ケアネット 森 幸子)