HER2陰性転移乳がん1/2次治療の健康関連QOL、エリブリンvs.S-1(RESQ試験)/日本乳癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/07/12

 

 HER2-の転移を有する乳がん(MBC)患者の1次/2次化学療法として、エリブリンと経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシル カリウム)の健康関連QOL(HRQOL)を検討した結果、エリブリン群のS-1群に対するHRQOLの非劣性は示されなかったものの、無増悪生存期間(PFS)は両群で差はなく、全生存期間(OS)はエリブリン群で延長する傾向にあったことを、虎の門病院の田辺 裕子氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 エリブリンは、HER2-のMBC患者の3次以降の化学療法としてOSを有意に延長することが報告されているが、1次/2次治療として投与された際のHRQOLや有効性については十分な知見がない。一方で、S-1は1次化学療法としてアントラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤と同等のOSと、アントラサイクリン系と同等でタキサン系を上回る良好なHRQOLが示されている。そこで、研究グループ(CSPOR-BC)は、HER2-MBC患者を対象に、1次/2次治療としてのエリブリンのS-1に対するHRQOLの非劣性、OSやPFSを検討するために、国内50施設における非盲検無作為化比較第III相試験(RESQ試験、PI:北海道大学病院 高橋 將人氏)を実施した。今回の発表は、サンアントニオ乳がんシンポジウムで2022年に発表したデータをアップデートした最終解析結果であった(データカットオフ日:2022年3月18日)。

・対象:HER2-のMBCで、MBCに対する化学療法が0または1回の患者 302例
・試験群(エリブリン群):1.4mg/m2を3週ごとに1・8日目に静脈内投与(増悪がなければ6サイクル以上継続) 152例
・対照群(S-1群):40~60mgを1日2回 14日経口投与後7日間休薬(増悪がなければ6サイクル以上継続) 148例
・評価項目
[主要評価項目]HRQOL(EORTC QLQ-C30の全般的健康[GHS]スコア)
[副次評価項目]OS、PFS、安全性

 2016年6月~2019年10月に302例を登録し、エリブリン群とS-1群に1対1に無作為に割り付けた。観察期間中央値は2.45年、質問票への回答率は85.6%であった。ベースライン時の患者特性はバランスがとれていて、エリブリン群/S-1群の年齢中央値は61.5歳/60.5歳、MBCに対する化学療法歴なしが68.7%/72.1%、周術期化学療法を含めたアントラサイクリン系+タキサン系の化学療法歴ありが33.6%/41.2%、2年以上の無再発期間が52.2%/50.7%であった。

 主な結果は以下のとおり。

・臨床的に意味のあるGHSスコアを10ポイントとし、10ポイント以上低下した場合を悪化と定義した。1年時のGHSスコアが悪化しなかった割合は、エリブリン群で33.8%(95%信頼区間[CI]:25.1~42.6)、S-1群で33.0%(95%CI:24.6~41.6)、1年時のリスク差は+0.66(95%CI:-12.47~11.16、p=0.077)で、事前に設定した非劣性マージンを超えたため、統計学的な非劣性は示されなかった。一方、GHSスコアの初回悪化までの期間や混合効果モデル解析によるGHSのベースラインから42週の平均変化差はほぼ同等であった。
・OS中央値はエリブリン群2.89年(95%CI:2.27~3.42)、S-1群2.32年(95%CI:2.06~2.56)で、エリブリン群でOSを延長した(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.54~0.96、p=0.026)。
・PFS中央値はエリブリン群7.57ヵ月(95%CI:5.61~8.30)、S-1群6.75ヵ月(95%CI:5.51~7.80)で、有意差は認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.68~1.18、p=0.350)。
・HRQOLにおけるサブグループ解析では、S-1群で身体機能と社会的機能は良い傾向で、エリブリン群で悪心と嘔吐の症状スコアは良い傾向であった。
・安全性は既報と同様であった。

 これらの結果より、田辺氏は「エリブリン群のS-1群に対するHRQOLの非劣性は示せなかったが、QOL悪化までの期間や、時点ごとのQOLスコア解析などを総合的にみると、両群のHRQOLに大きな差はないと考えられる。非劣性が示されなかった原因として、サンプル数不足による検出力低下が考えられる」としたうえで、「エリブリン群では既報の大規模ランダム化比較試験と同様にPFSは延長しなかったが、OSは延長する傾向にあった。これらの結果から、HER2-MBCに対してエリブリンは1次/2次治療の選択肢の1つとして検討しうる」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)