スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

提供元:ケアネット

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公開日:2023/05/04

 

 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。

 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。

 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。

 主な結果は以下のとおり。

・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。
・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。
・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。
・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。
・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。
・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。

 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

(ケアネット 森 幸子)