バイオレットライト透過レンズで学童期の近視進行を抑制/近視研究会

提供元:ケアネット

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公開日:2022/11/16

 

 10月23日に近視研究会が開催された。鳥居 秀成氏(慶應義塾大学医学部 眼科学教室)が「近視進行抑制におけるバイオレットライトの可能性」と題し、学童期の近視増加への警鐘とその予防策について講演した(共催:株式会社JINS)。

バイオレットライトを含む短波長側の光は近視進行を抑制すると報告

 世界中で近視人口が増えているなか、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)流行による活動自粛が近視進行に拍車をかけている。鳥居氏が示した新型コロナによる活動自粛前後の6~13歳の6年間の屈折値の変化を調査した論文1)によると、とくに6~8歳での近視化が顕著だという。近視予防のためには、これまでも屋外の光環境が重要であることが示唆されてきたが、近年では高照度(10万lux)でなくとも1,000lux台でも効果があることが報告2)され、光の波長に注目が集まっている。たとえば、動物実験において、一部を除けばほとんどの動物種においてバイオレットライト(Violet light)を含む短波長側の光は近視進行を抑制し、長波長側の光は近視進行を進めるというレビュー論文が報告3)されている。近年、学童期の近視の進行抑制治療としてRed light therapyも注目を集め有効性の報告があるものの、効果を発揮するメカニズムが不明であり、中止後3ヵ月でリバウンドを認め、脈絡膜厚はベースラインにまで戻ってしまったという報告4)もあることから、光の波長と近視進行抑制については今後さらなる研究成果が待たれるところである。

 一方でバイオレットライトは近視進行抑制効果を発揮するメカニズムがOPN5ノックアウトマウスを用いた研究から明らかになってきており、非視覚光受容体OPN5を介すことで脈絡膜厚を維持し、眼軸長伸長を抑制することが報告5)された。さらには小児では水晶体の分光透過率で長波長側は変わらないものの短波長側の透過率が成人よりも高いことが報告6)され、屋外活動による近視抑制効果が低年齢児で得られやすいという疫学研究結果と矛盾しないことも報告された。

バイオレットライト透過眼鏡で近視の抑制効果を認めた

 近年の眼鏡は紫外線(UV)カットが多く、UVカットレンズはバイオレットライトも一緒にカットしてしまうため、UVはカットするもののバイオレットライトは透過させることで近視進行抑制効果を高めるレンズをJINSと共同開発。バイオレットライト透過眼鏡を使用することでバイオレットライト透過率が65%までに増加するという。この有効性を評価するために特定臨床研究として『バイオレットライト透過眼鏡によるランダム化比較試験』を実施した。本研究の対象者は近視(-1.50D~-4.50D)と診断された学童113例で、バイオレットライト透過眼鏡装用群と通常眼鏡装用群に割り付け、2年間の経過観察を行い有効性の検証をした。平均年齢(±SD)は9.4(±1.5)歳で、平均眼軸長は24.5mm、屈折値は約-2.7Dだった。バイオレットライトは室内にはほとんど存在しないため、本眼鏡が効果を発揮するには太陽光が存在する屋外に行かないと得られない。そのため全体では屋外活動時間が1時間未満のため、さらに必要症例数(140例)を満たすことができなかったため、バイオレットライト透過眼鏡装用群では近視進行抑制傾向ではあったが有意差を認めなかった。そこでサブグループ解析を実施したところ、屋外活動時間が1時間未満にもかかわらず、2年間で約20%の近視進行抑制効果を認めたことを報告7)した。

 最後に同氏は「バイオレットライトをより積極的に室内にいても享受する方法として、現在バイオレットライトを眼鏡フレームから照射することができる眼鏡『バイオレットライト照射眼鏡』を坪田 一男氏(坪田ラボ/慶應義塾大学眼科学教室 名誉教授)らと開発中である」と述べ、「現在はバイオレットライト照射眼鏡の探索治験が終了し、短期安全性については問題がなく、探索的に解析を行ったことで関連が期待される層があったことも報告8)したことから、さらに今後の検証治験で1年間以上の有効性・安全性を評価していく」と締めくくった。

■参考
1)Wang J, et al. JAMA Ophthalmol. 2021;139:293-300.
2)Wu PC, et al. Ophthalmology. 2018;125:1239-1250.
3)Thakur S, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021;62:22.
4)Chen H, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022 Aug 17. [Epub ahead of print]
5)Jiang X, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2021;118:e2018840118.
6)Ambach W, et al. Doc Ophthalmol. 1994;88:165-173.
7)Mori K, et al. J Clin Med. 2021;10:5462.
8)Torii H, et al. J Clin Med. 2022;11:6000.

(ケアネット 土井 舞子)