Apple Watchで不整脈を早期発見するAIモデル開発~慶大/日本循環器学会

Apple Watchなどのスマートウォッチは、無意識のうちに心拍数や活動量などのさまざまなヘルスケアデータを計測し、蓄積し続けることができる。2020年にはApple Watchの2つのアプリケーション「不規則な心拍の通知」と「心電図アプリケーション」が家庭用医療機器として厚生労働省の承認を受け、医療分野での活用が期待されている。
慶應義塾大学病院・慶應義塾大学医学部は、Apple Watchで心電図を記録する最適なタイミングを予測するための機械学習アルゴリズム構築を目的として、研究用iPhoneアプリケーションを構築し、Apple Watchが記録したヘルスケアデータを収集した。その分析結果について、木村 雄弘氏(慶應義塾大学医学部循環器内科専任講師)が、第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11日~13日)で発表した。
2017~18年に米国・スタンフォード大学が実施した大規模調査Apple Heart Studyでは、Apple Watchの一般ユーザー約42万人を対象に不整脈のモニタリングをした結果、対象者の0.52%(2,161例)がApple Watchアプリケーションによる不規則な心拍の通知を受けた。通知を受けた対象者に、ECGパッチを使って追跡調査をしたところ、心房細動が153例(34%)に認められた。
木村氏の研究チームはこの結果を受けて、さらに効率よく心房細動を検出するためには、心電図を記録するタイミングが重要であると考えた。本研究Apple Watch Heart Study(AWHS)は、Apple Watchで効率的に異常な心電図を記録し早期発見につなげる最適なタイミングを、個別化して予測する機械学習アルゴリズムを構築することを目的とした。心房細動のリスク因子や、Apple Watchが記録するヘルスケアデータ、睡眠不足、過度な飲酒、ストレスなどの主観的なアンケート回答を収集し、心房細動の発作との相関関係を分析した。
学会で発表されたのは、AWHS慶應義塾版で、慶應義塾大学病院に通院する100例の心房細動患者を対象に、2週間ホルター心電図の結果を教師データとして、携帯型心電計、Apple Watchから得られたデータを検証したものである。対象者は、平均年齢:63.9±12.4歳、平均CHADS2スコア:0.9±1、平均CHA2DS2-VAScスコア:1.7±1.5、平均BMI値:24.2±3.3kg/m2、平均左房径:40.8±7.9mm、平均BNP:98.7±117.7pg/mLであった。
まず、Apple Watchの不規則な心拍の通知は、1日2回と有症状時に記録した携帯心電計と同等の特性を持っており、無症状の心房細動の検知に有用であることが示された。
また、Apple Watchが記録したデータについて、心房細動発作に関する因子を解析した。結果は以下のとおり。
・Apple Watchが計測した心拍数は、発作時が平均76.36回/分、非発作時は61.05回/分(p<0.001)であり、有意な違いを認めた。
・1日の平均歩数は、発作のあった前日は7337.61歩/日、発作がなかった前日は5813.54歩/日(p=0.022)であり、心房細動の発作のあった日の平均歩数が有意に多かった。この結果は、疲労と心房細動発作の関連の可能性として考えることができた。
・対象者は睡眠時にApple Watchを装着するように指示されており、計測された睡眠時間から睡眠不足との関係を解析した。発作があった前日の平均睡眠時間(16617.49秒)は、発作がなかった前日に比べて(18646.32秒)短かったが、有意差はなかった(p=0.088)。
・飲酒に関しては、前日に飲酒した場合の発作割合は20.9%で、飲酒しない場合の12.0%より高い傾向にあったが、有意差はなかった(p=0.067)。
・睡眠の程度や飲酒の度合いなどに関してのアンケートへの回答結果は、Apple Watchが計測した睡眠時間や心拍数データに有意な差として現れており、主観的なデータを客観的に評価できることが示された。
・Apple Watchは血中酸素ウェルネスも計測する。睡眠時の血中酸素ウェルネスは、健常人と睡眠時無呼吸症候群治療中患者には差を認めないものの、いびきを指摘されたことのある患者で有意に低くなっていた。
研究結果について、心房細動とApple Watchで得られたヘルスケアデータには、さまざまな相関関係が認められたとし、木村氏は「ヘルスケアデータを用いることで、心房細動に直接関与する因子が抽出できたとともに、主観的事象を客観的に評価することもできた。Apple Watchが計測するライフログデータを解析する機械学習モデルを構築しており、個別化した早期発見ツールとして利用できるようにしたい」と述べた。また、本研究と並行して、日本全国のApple Watchユーザーが参加できる臨床研究も現在実施している1)。7日間、安静時と睡眠時にApple Watchを装着し、脈拍データと、睡眠、飲酒、ストレスとの関係を評価する。この研究は4月末にクローズし、データ分析を開始する予定。
木村氏は「病気の検出は記録時間が長いほどしやすい。Apple Watchは、常時モニタリングするものではないが、時と場所によらずいつでも心電図の記録ができることがメリットであり、知見を統合してこれを最大限に発揮し、新たな医療DXとして創出したい。同時に、検出された心房細動すべてに対して治療が必要とは限らず、患者背景を考慮して別途判断する必要があり、それをするのはAIではなく医師の役目である」と発表を締めくくった。
(ケアネット 古賀 公子)
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