2022年2月、RET遺伝子異常を有する甲状腺がんに対しRET阻害薬セルペルカチニブの適応が承認された。甲状腺がんにおける新たな治療選択肢セルペルカチニブの役割について、日本医科大学 内分泌外科学分野の杉谷 巌氏が紹介した。
甲状腺がんの大半は予後良好だが、予後不良な高リスク群の存在が明らかに
甲状腺がんの多くは予後良好だが、低分化がんや髄様がんの一部は良好ではない。また近年、甲状腺がんの約90%を占め、従来は予後良好とされていた乳頭がんの一部に予後の悪い高リスク群が存在することが明らかになった。
分子標的薬の登場で甲状腺がんの治療は進化した
高リスク群の治療は、甲状腺全摘を主体とした隣接臓器の切除やリンパ節郭清である。全身療法としては放射性ヨウ素内用療法(RAI)とTSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制療法があるが、分化がんのみが対象で、未分化がんや髄様がんには適応がない。
そのような中、2010年代に分子標的薬が臨床導入される。いずれも血管阻害作用を主体とするソラフェニブ、レンバチニブ、バンデタニブの3剤である。
分子標的薬は、対処方法がなかった根治切除不能、RAI抵抗性の進行症例に適用され、甲状腺がんの治療を進化させる。ただし、これら分子標的薬が使えるのはいずれも治療後期であり、根治切除、RAIの使用が前提となる。
甲状腺がんの遺伝子解明によりドライバー遺伝子であるRETの異常発見
ゲノム研究の進化により、甲状腺がんの遺伝子異常が解明される。その結果、甲状腺がんのドライバー遺伝子として
RET遺伝子が同定された。
甲状腺がんにみられる
RET遺伝子異常は、点突然変異と融合遺伝子の2種である。遺伝性髄様がんでは90%に生殖系列の
RET変異があり、通常の髄様がんでは60%以上に
RET変異が認められる。乳頭がんの10〜20%に
RET融合遺伝子が発現する。
RET遺伝子異常がある甲状腺がんは、異常がない腫瘍に比べ、有意に予後が良くない。
期待されるセルペルカチニブの臨床導入
2021年に登場したRET阻害薬セルペルカチニブは、点突然変異と融合いずれの
RET遺伝子異常においても細胞内のシグナル伝達を阻害する。
RET遺伝子異常を有する甲状腺がんでのセルペルカチニブの有効性は、2020年に発表された国際共同第I/II臨床試験「LIBRETTO-001試験」で示されている。この試験で、セルペルカチニブは、標準的な1次治療歴のない
RET融合遺伝子陽性の分化がんでは100%、同じく標準的な1次治療歴のない
RET遺伝子変異陽性の髄様がんでは63.3%と優れた奏効率を示した。
RET遺伝子異常を有する甲状腺がんへのセルペルカチニブの保険適応は、今年(2022年)2月に承認された。
RET遺伝子異常の発見と治療薬セルペルカチニブの臨床導入は、血管新生阻害薬に続き、甲状腺がん治療に進歩をもたらすと期待される。
(ケアネット 細田 雅之)