体験ルポ・新型コロナワクチン接種(2)新たなワクチンに臨むために必要なこと

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2021/01/12

 

 国内では、連日のように過去最多の感染者数が確認されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。行動を変え、消毒を徹底するなどの地道な自助努力が、現時点ではわれわれにできる唯一の感染防止策であり、ワクチン接種の開始が待ち望まれるところである。

 感染者数世界最多の米国では、世界に先駆け2020年12月14日からワクチン接種が実施されている。本稿は、米国・ワシントンDCの病院に勤務する日本人医師の安川 康介氏がケアネットに寄せたワクチン接種の体験ルポ第2弾である。安川氏は、2020年12月16日に1回目のワクチン接種を経験し、今回は、2回目となる1月5日の接種の際に経験した体調変化や周りの接種者の反応、日本が新たなワクチンに臨むために必要なことについてレポートしている。

2回目接種時に体調変化を経験、ナースでは接種忌避傾向も

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数増加を受け、日本では1月7日に2度目の緊急事態宣言が発出された。Pfizer社は2020年12月18日、日本におけるmRNAワクチンの製造販売承認を申請し、今年2月には承認される見通しである。日本における収束に向け、ワクチンへの期待が高まる。

 米国では、FDAが2020年12月11日、Pfizer社とBioNTech社が開発したmRNAワクチン(BNT162b2)の緊急使用を認めた。これを受けて、わたしが勤務するワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにおいても、12月16日から医療従事者を対象にワクチン接種が始まり、同日に受けることができた。ご存じの通り、本ワクチンは2回接種が必要であり、年明けの1月5日に2回目を接種した。

 前回接種時は、主に接種部位の痛みがあったのみで、それも2~3日後にはほぼ消失した。2回目の接種では、前回と同様に接種部位の痛みが生じたのに加え、前回と違ったのは、翌日にやや強い倦怠感を経験したことである。体温が37.2度程度と少し高くなり、体がだるく、いわゆる風邪を引いた時のような倦怠感が夜まで続いた。接種を受けた同僚の中には、初回はほとんど全身性の反応が出なかったが、2回目の接種では、当夜に眠れないくらいの発熱・悪寒・頭痛を経験した人もいた。2回目の接種時に全身性の症状が出やすいことは臨床試験でも報告されており、16~55歳では、2回目接種後の発熱は16%、倦怠感は59%、頭痛は52%と報告されている。逆に、初回接種後に発熱・悪寒・倦怠感が強かったものの、2回目ではそれほど全身性の反応が出なかった人もいた。わたしが勤務する病院では、医師やナースプラクティショナーの多くがワクチン接種を受けた一方、看護師やナースアシスタントではワクチン接種を躊躇する人も多く、わたしはコロナ病棟の看護師を対象にmRNAワクチンに関する教育も担当した。

 Pfizer/BioNTech社ワクチンでは、2回目接種後7日以降の発症予防効果は95%、モデルナ社のワクチンでは2回目接種後14日以降の発症予防効果は94.1%といずれも高い。ただし、無症状の感染や2次感染をどれだけ予防できるかは今のところ不明で、感染予防対策は引き続き必須である。一部施設では、ワクチンの無症状感染についての予防効果を調べるため、接種後毎週PCRを行うという臨床試験も開始されているようである。モデルナ社のワクチンの臨床試験では、2回目接種前にPCR検査をしており、PCR陽性は1万4,134人中14人、プラセボ群では1万4,073人中38人と、無症状の感染の予防効果も期待されている1)

大規模接種の円滑実施のカギはプロトコル作成と周到なシミュレーション

 米国では2020年12月18日、モデルナ社のmRNAワクチンの緊急使用も認められ、急ピッチで、Pfizer/BioNTech社およびモデルナ社のワクチン接種が進んでいる。実際に接種が始まった12月16日から、すでに500万人以上(1月7日執筆時、対象は主に医療従事者・高齢者施設の入居者)がワクチン接種を受けた。しかしこの数は、米政府が2020年末までの目標に掲げていた2,000万人には遠く及ばず、進行の遅れに対する批判の声が上がっている。実際に各州に供給されているワクチン量に比べ、接種された数は大幅に下回っており、大規模なワクチン接種をいかに効率的に行うか、各州で調整が進められている段階である。CDC(米国疾病予防管理センター)はワクチンの接種について、phase1aでは高齢施設入居者と医療従事者、phase1bでは消防士や警察官、グローサリーストアの従業員などのエッセンシャルワーカー、75歳以上の高齢者、などと優先順位を設定したものの2)、実際はphase1a全員の接種が終わる前にでも次のフェーズでの接種を開始する州が増えている状況である3)

 翻って日本においても、大規模なワクチン接種をいかに効率的に実施できるか今から綿密に計画しておくことが重要である。Pfizer/BioNTech社ワクチンは保管温度が−70℃、モデルナ社ワクチンは−20℃であり、コールドチェーンの確立はもちろんのこと、効率的に接種を行っていくためには、接種者の登録および説明は、接種会場ではなく事前に済ませられるような形で行うことも必要かもしれない。わたし自身、ワクチン接種の登録はオンラインシステムで済ませ、ワクチンに関する説明はFDAが作成した説明書4)および医療機関が個別に作成した資料を渡され、読むように指示されただけである。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンは、これまで接種した約190万人中21人に強いアレルギー反応が確認されており5)、CDCではワクチン接種後15~30分観察することを推奨している。接種会場では、アナフィラキシーをどのようにモニターし、治療するかをプロトコル化しておく必要もあるだろう。

 日本に限らず世界的にもCOVID-19の感染者数増加に伴い、医療施設に負荷がかかっている。したがって、具体的に誰がどのように接種を進めていくのか、人材調整も喫緊の課題だ。たとえば米国では、州によってはCVSやWalgreensなどの薬局と提携を結び、薬剤師が高齢者施設での接種を担っている6)。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンの場合、解凍した後、冷蔵保存(2~8℃)が5日間と短い(モデルナ社は30日)。そのため、ワクチンを無駄にしないためにはいつ、どこに配給し、ワクチンが余った場合には誰に回すのか、あるいは他施設に輸送するのか、といったことを周到にシミュレーションしておくべきである。

 日本では、ワクチンを忌避する人も少なからずいる。世界に先駆けて新型コロナワクチンを接種した国々からは、メディアを通じてネガティブな情報も届いていることだろう。HPVワクチンの二の舞にならないように、メディアや国民に向けて、ワクチンの正しい科学的知識、予期される局所反応・全身性反応に関する教育等を行うことが、この新たなワクチンを経験するに当たっては何よりも重要であると考える。先行して大規模接種が開始された米国の情報などを参考に、接種開始早期から円滑に進行できることを願っている。

【安川 康介氏プロフィール】
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を修了後渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。現在は、ワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにて、ホスピタリストとして勤務。

参考文献・参考サイトはこちら
1)https://www.fda.gov/media/144453/download
2)https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/vacc-specific/covid-19/evidence-table-phase-1b-1c.html
3)https://www.cnn.com/2021/01/06/health/covid-19-messy-roll-out-state-expand-priorities/index.html
4)https://www.fda.gov/media/144414/download
5)https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm?s_cid=mm7002e1_w
6)https://www.gov.ca.gov/2020/12/28/governor-newsom-announces-partnership-with-cvs-and-walgreens-to-provide-pfizer-vaccines-to-residents-and-staff-in-long-term-care-facilities/

(編集・構成/ケアネット 鄭 優子)