Long-COVID:専門医が語る新型コロナ後遺症の実態

提供元:ケアネット

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公開日:2020/12/10

 

 国立国際医療研究センターの研究チームが、COVID-19回復者を追跡調査し、後遺症に焦点を当てた論文が10月に発表された(新型コロナ後遺症、4ヵ月後も続く例や遅発性の脱毛例も/国際医療研究センター)。それによると、発症から120日超の時点でも依然続く呼吸苦や倦怠感、咳などを訴えたり、数ヵ月後になって脱毛を経験したりした人がいたことがわかった。国内においては、COVID-19感染者の増加数において3度目のピークを迎えているとみられる昨今。臨床では急性期への対応が間違いなく喫緊の課題だが、感染症専門医らが「きわめて特異的」と評するCOVID-19回復後に長く続く後遺症、いわゆる“Long-COVID”はどのようなものなのか。冒頭論文の責任筆者である森岡 慎一郎氏(国際感染症センター)に話を伺った。

倦怠感、呼吸苦、脱毛…回復者外来での多種多様な訴え

 Long-COVIDという言葉は包括的な概念で、10月ごろに英国から出てきたと記憶している。世界的なトレンドとしては、7月あたりからCOVID-19の後遺症にフォーカスした研究が出始めていた。ただ、先駆けた1~2本目の研究論文では、発症から14日や21日、もしくは60日経過した時点におけるピンポイントの聞き取り調査だった。

 一方、われわれの研究のきっかけは、回復者外来で罹患後かなり経過しても症状が続いているという訴えが少なくなかったこと。エボラやデング熱でも一部後遺症はあるが、COVID-19ではどうなのか、正確なデータを客観的に収集しようということになった。

 インフルエンザならば、「2週間前は大変だった」という感じで、症状が出ている時期と回復後は大きく異なる。しかしCOVID-19の場合は、症状が長く後を引き、倦怠感や呼吸苦があって仕事に行けないなど日常生活に影響を及ぼす症状が多く、大きな社会的問題にもなりうるので、その点は懸念していた。その中でも、「髪が抜ける」という訴えで来院する患者さんが相当数確認されていた。患者さんの多くは、脱毛がCOVID-19罹患と関係があるとは思っていない様子だった。われわれ医療者側も、当初は脱毛とCOVID-19とがすぐには結び付かなかった。しかし、そういう人が増えてくるにつれて、COVID-19の晩期症状の1つとしてあり得るのではないかという考え方にシフトしていった。そこで、晩期症状としての脱毛を検証しようという方針になった。

 本研究をまとめたのは8月上旬だったが、その時点ではまだCOVID-19の後遺症としての脱毛に焦点を当てた論文はなかった。ところが、査読結果が出た9月中旬時点では、すでに脱毛についてはかなり認知されていて、具体的にどういう症状なのか(円形脱毛症か、AGA型かなど)、どの程度なのかという点まで深堀りしなければ、論文として新規性がないと指摘された。7月下旬の時点ならば世界に先駆けていたのに、わずか1ヵ月半で当たり前になっている。これが世界のCOVID-19を巡る研究のスピードなのかと痛感した。

 研究に着手する段階で、これまでのCOVID-19の診療経験から仮説を立ててカプランマイヤーを描き、共同研究者たちにもイメージを共有していたが、おおむね研究前に思い描いていた通りの結果が得られた。ただ、仮説と大きく異なるレベルではないが、研究対象者の24.1%、ほぼ4人に1人という割合で脱毛が見られたのは、個人的には予想以上の頻度であり、驚きであった。また、罹患後120日経っても嗅覚障害を訴える人が10%程度いたのも、長引く後遺症の1つとして注目すべき点である。

 今回の研究では、120日時点でひとまず調査を打ち切っている1)。そのため、インタビュー時にも継続していた症状が、その後どのくらいの期間続いたのかは不明である。もし、調査を継続していたらカプランマイヤーがどのようなカーブになったのか―。それについては、追加調査でより多くの患者さんの協力を得て、年明け(2021年)以降に開始する予定で、おおむね1年間の追跡期間で、後遺症がどれだけ続くかという観点でより深い調査を実施したいと考えている。

「正しく知り、正しく恐れる」森岡医師が提言するLong-COVIDとの付き合い方

 COVID-19を巡っては、人によってこれほど多様な症状や期間の後遺症が出てくるという意味で、非常に特異的である。私自身の実感としては、COVID-19は、まさに100年に1度現れるかどうかの社会を揺るがす感染症であり、恐らくほかの医療者たちにも共通した認識だと思う。SARSやMERSのようにほぼすべての感染者が発症する感染症であれば、封じ込めも可能であろう。だが、COVID-19は無症状であるケースも多く、水際で100%防ぎきれない。どれだけ症状を詳しく聞き、発熱に注意したとしても、ウイルス排泄は発症の2日前から始まり、0.8日前にはピークを迎えている。そういう意味で、COVID-19はきわめてたちが悪く、感染対策という点で対応しづらいウイルスであることを実感している。

 開業医の先生方は今後、後遺症フォローという観点でいかに急性期病院と連携し、ケアを進めるかというフェーズが重要になってくると思われる。まずは患者さんの話をよく聞いていただき、そういう症状や後遺症もあるということを認めてあげるというのが大事なポイントになってくる。当初は、われわれも回復者外来で患者さんが訴える症状について、「気のせいではないか」という受け止めだった。具体的には、COVID-19回復後のうつ症状や記銘力低下、無気力などだが、さまざまな知見の蓄積により、徐々にそれらがLONG-COVID-19の概念として認知されつつある。

 また、コロナに罹患した方は、経済的、社会的、家庭的にかなり追い込まれている。そこに加えて後遺症が重なると、最悪のケースとして自殺も懸念される。そうしたことも踏まえ、まずは「大変でしたね」と患者さんを受容することは非常に重要である。

 メディアなどでは、元気だった人がCOVID-19感染や後遺症によって何もできなくなったという極端なケースが象徴的に報じられることがある。いたずらに恐怖を煽るようなニュース番組も散見されるので、実際にどのくらいの人が、どの程度、どんな後遺症がどのくらいの期間続くのかという客観的データを収集し、エビデンスに基づいた情報提供をすることがわれわれの使命だと思っている。医療者側も患者側も、「正しく知り、正しく恐れる」ことが非常に重要。患者さんがメディアの情報などに惑わされ過度に恐れている場合には、客観的なデータを示し、できる限り不安を取り除いていただきたい。

(ケアネット 鄭 優子)