発熱外来設置の注意点と補助金を整理/日本医師会

提供元:ケアネット

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公開日:2020/10/19

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と季節性インフルエンザの同時流行に備え、厚生労働省では発熱外来設置の医療機関に対して補助金による支援事業を実施する。しかしその仕組みが非常に複雑であり、日本医師会では10月14日、定例記者会見で発熱外来設置の考え方と厚生労働省の補助金の概要について事例を交えて解説した。

発熱外来診療体制確保支援補助金の注意点

 厚生労働省は9月15日、インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金の交付について、通知1)を発出した。発熱患者の診療を担う医療機関は、厚生労働省に申請書を提出し、各都道府県から「診療・検査医療機関(仮称)」の指定を受ける2)

 中川 俊男会長は、医療機関側が診療を行うかどうかを検討する際の考え方、厚生労働省の補助金支給と「診療・検査医療機関」指定を受ける際の注意点について、以下のように解説した。

 各医療機関においては、まず(1)発熱患者の診療を担うかどうか、(2)インフルエンザの検査、(3)新型コロナウイルスの検査についてどのように対応するか、下記の点を踏まえて検討いただきたい。ただし、(1)(2)(3)すべてが求められるわけではなく、それぞれ可能な内容を選択して協力をお願いしたい:

・動線を分離するほか、1日のうちあらかじめ時間を設定し(時間的動線分離)発熱患者の受入れをすることも可能
・動線を分離し、発熱患者等専用の診察室を設ける場合は、プレハブ・簡易テント・駐車場等で診療する場合を含む
・従来通り臨床診断に基づく抗インフルエンザ薬の処方が可能
・感染リスクの低減を図るため、1)インフルエンザ抗原検査の検体として、鼻かみ液が利用可能なキットを選択すること、2)新型コロナ抗原迅速検査の検体として鼻腔(鼻前庭)ぬぐい液の自己採取(発症2日から9日)によることも可能(厚生労働省による採取方法の動画制作中)
・発熱したかかりつけ患者のみに対応することの表明も可能
・「診療・検査医療機関」に指定されたことの公表は、医療機関から希望のあった場合であって、かつ都道府県と地域医師会との協議と合意の上で行う
・公表の有無により後述の補助金支給額に差異は生じない
・発熱患者に対応する日にち・時間設定により、診療日・診療時間の変更届の提出は必要ない

 検討の結果、発熱患者に対する時間的・空間的動線分離が可能な時間帯を設定することができると判断した場合、自院の検査に対する対応を決めた上で、その内容に沿って「診療・検査医療機関(仮称)」として地域医師会等を通じて手を挙げ、都道府県による指定を受ける形となる。
 なお、別の診察室などを設ける方法(空間的分離)がとれず、時間で区切る(時間的分離)場合には、感染防止の観点から、その時間には、原則発熱患者のみ診察する。そのため、かかりつけの患者等に対しては、院内掲示や文書等により、あらかじめ一般外来の時間および発熱外来時間を案内する。

発熱外来の開設時間・実際の患者数に応じて、補助金は設定されている

 発熱外来診療体制確保支援補助金は、受け入れ体制を整備し厚生労働省の「診療・検査医療機関」指定を受けたにもかかわらず、想定した人数が受診しなかった場合のセーフティーネットとして設定され、受診者が想定を上回れば、その収入は診療報酬でまかなわれるとの考えに基づく:

・発熱外来時間帯中の実際の患者数分は、診療報酬を算定できる。
・発熱外来時間の長さに応じて、1時間2.9人~7時間20人まで、時間ごとの補助上限患者数(基準発熱患者数)が定められている(参考資料3)6ページ)。
・実際の患者数が基準発熱患者数未満だった場合に、「(基準発熱患者数-実際の患者数)×13,447円」が補助される。
・1ヵ月間1人も受診者が見られなかった場合には、補助額が1/2に減額される。
・通常の診療日・診療時間以外に発熱外来時間を別に設定した場合も、診療日や診療時間の変更届出の必要はない。

発熱外来の補助金は時間的分離と空間的分離、医師の数でどう変わる?

 釜萢 敏常任理事は「今回の補助金は空床確保の考え方と同じ位置付け」とし、発熱外来診療体制確保支援補助金は複雑な仕組みだが、理解と利用が広まることで、各地域での発熱患者への対応が十分なものとなることに期待感を示した。一般的な内科で考えられるケースとしていくつかのパターンを例示し、補助の仕組みについて解説した。

[例1]これまで1日7時間診療していたうち、5時間をこれまで同様に診療する一般外来時間とし、2時間を発熱外来時間とした場合:
2時間の間に実際に発熱患者を2名診療
 2時間分の発熱外来収入「発熱患者2人の診療報酬+2時間の基準発熱患者(5.7人)からの差し引き3.7人分の補助金=80,734円(診療報酬は一例として算出。詳細は参考資料3))」+5時間分の一般外来収入

2時間の間に発熱患者は0名(受診なし)
 2時間分の発熱外来収入「2時間の基準発熱患者5.7人分の補助金=76,648円」+5時間分の一般外来収入

2時間の間に発熱患者は0名、発熱以外の一般外来患者を2名診療
 発熱外来2時間の間にやむを得ずかかりつけの一般外来の患者2人が受診した場合、診察は可能だが、この場合も2時間分の基準発熱患者5.7人から2人を差し引いた3.7人分の補助になる。
 2時間分の発熱外来収入「発熱外来で診た一般患者2人の診療報酬+基準発熱患者からの差し引き3.7人分の補助金=59,534円」+5時間分の一般外来収入

[例2]医師1人の診療所で、1日7時間、一般外来と発熱外来を別々の診察室にして同一の医師が診療する(空間的分離)場合:
発熱外来の発熱患者10名、別の診察室の一般外来患者10名
 7時間分の発熱外来収入「発熱患者10人の診療報酬+7時間の基準発熱患者数(20人)から発熱患者数(10人)+一般外来患者数(10人×1/2=5人)を差し引いた5人分(20-[10+5])の補助金=222,135円」+7時間分の一般外来収入
※補助金算出において一般外来患者数は×1/2とする

[例3]医師2人の診療所で、1日7時間、1人が診察室Aで発熱外来のみ、もう1人が診察室Bで一般外来のみ診察する場合:
発熱外来の発熱患者0名
 7時間分の発熱外来収入「7時間の基準発熱患者20人分の補助金=268,940円」+7時間分の一般外来収入
※医師1人に対して独立してカウントされ、診察室Bの一般外来患者数にかかわらず、診察室Aでの患者数に応じて補助金が算出される
※なお、発熱患者を担当する診察室Aの医師が、診察室Bの医師不在時に診察室Bで一般外来を行った場合は、例2と同じ取扱いになる

(ケアネット 遊佐 なつみ)