急性冠症候群ガイドラインの改訂点は?/日本循環器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2019/04/17

 

 急性心筋梗塞や不安定狭心症、心臓突然死を含む急性冠症候群。これは、欧米での死因第一位であり、高齢化や食の欧米化が年々加速する日本でも他人事ではない。2019年3月29~31日、第83回日本循環器学会学術集会が開催され、『急性冠症候群診療ガイドライン(2018年改訂版)』の作成班長を努めた木村 一雄氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター)が、急性冠症候群診療ガイドラインの改訂ポイントについて解説した。

急性冠症候群診療ガイドラインは日本発祥

 『急性冠症候群診療ガイドライン』は、3つのガイドライン(「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン」、「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン」、「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」)を包括し、発行された。作成するにあたり、急性冠症候群診療ガイドラインがアジア諸国の参考となることを目指し英文ガイドラインも同時発表されたが、このような急性冠症候群(ACS)を包括したガイドラインは、米国や欧州でもいまだに作成されていない。

急性冠症候群診療ガイドラインの診断、治療における改訂点

◆クラス分類
 推奨クラスI~IIbについてはこれまで同様。クラスIIIについては、臨床的有用性を考えACC/AHAのガイドラインに準じ“No benefit”と“Harm”の分類も加わった。

◆心筋トロポニン測定
 「心筋トロポニンが測定できる条件下では、ACSの診断にクレアチンキナーゼ(CK-MB)やミオグロビンは推奨されない(クラスIII/No benefit)」

 診断において、心筋壊死のバイオマーカーとして従来用いられてきたCKに代わり、感度・特異度の高い心筋トロポニンが推奨された。その結果、定義上の非ST上昇型心筋梗塞が増加し、不安定狭心症は減少。長期予後では、CK上昇例と心筋トロポニンのみ上昇例で差がなかったため、心筋トロポニン測定導入の妥当性が示された。

◆初期治療時の酸素投与
 「酸素飽和度90%以上の患者に対して、ルーチンの酸素投与は推奨されない(クラスIII/No benefit)」

 低酸素血症のない急性心筋梗塞患者で酸素投与の有効性が否定されたことを受け、“すべての患者に対する来院後6時間の投与(クラスIIa)”から改訂された。低酸素血症や心不全がなければ、ルーチンで酸素を投与しなくて良くなった。

◆STEMIにおけるprimary PCI
 「発症12時間以内の患者に対し、できる限り迅速にprimary PCI(ステント留置を含む)を行う(クラスI)」

 「Primary PCIにおいて、ルーチンの血栓吸引療法を先行することは推奨されない(クラスIII/No benefit)」

 急性冠症候群診療ガイドラインではST上昇型急性冠症候群(STEMI)について、発症から再灌流までの総虚血時間の短縮が最も重要であるため、梗塞サイズの縮小を目指した早期再灌流の重要性をより強調している。アクセスについては、経験豊富な術者による撓骨動脈を使用することを、STEMIに関わらず推奨(クラスI)とした。また、血行動態の安定した多枝病変例で、非梗塞責任血管の有意狭窄病変へのPrimary PCIはルーチンに行うことは推奨されない(クラスIII/No benefit)が、心原性ショックを合併した例では、個々の症例において考慮する。また、年齢においても推奨度が異なり、75歳未満の心原性ショック患者にはPrimary PCIを行う(クラスI)、それに対し、75歳以上の場合は考慮する(クラスIIa)となっている。そのほか、薬剤溶出性ステント(DES)の使用、残存病変への対応、心電図による診断、薬剤投与方法ついての記載が変更されている。

急性冠症候群診療ガイドラインでの薬剤の推奨、改訂点は?

 急性冠症候群診療ガイドラインでは薬物治療について、一次予防のみならず二次予防の観点からも記載が充実。ステント植え込み例では、アスピリンに加えクロピドグレルのほかに、より抗血小板作用の強いプラスグレル投与を6~12ヵ月間併用投与することが推奨(クラスI)とされている。また、脂質異常症におけるLDL-C低下療法の有効性が確立したことから、ストロングスタチンを忍容可能な最大容量で投与することを推奨(クラスI)。糖尿病併存患者における血糖コントロールについては、心血管イベント抑制が示されているSGLT-2阻害薬の投与が初めて推奨されることとなった(クラスIIa)。

(ケアネット 土井 舞子)