日本の頭部外傷の実態/脳神経外傷学会

提供元:ケアネット

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公開日:2019/03/29

 

 日本の頭部外傷診療の現状の把握を目的に、1998年より重症頭部外傷患者を対象とした疫学研究を開始。現在まで、日本頭部外傷データバンク(JNTDB)Projectとして1998、2004、2009、2015が行われ、Project2015(P2015)の結果がまとまり、第42回日本脳神経外傷学会にて、その結果が報告された。P2015の登録対象症例は2015年4月1日~2017年3月31日に、搬入時あるいは受傷後48時間以内にGlasgow Coma Scale(GCS)8以下、あるいは脳神経外科手術を施行した頭部外傷症例(0歳を含む全年齢)。Project2015の参加施設は32施設1,345例が登録された。

転機は改善するも、高齢者の転倒、歩行者事故による頭部外傷が増加
 仙台市立病院 加藤 侑哉氏はシンポジウムの中で、重症頭部外傷の年齢構成の推移についてJNTDB2015と過去のデータの比較を発表した。分析対象は6歳以上、GCS8以下などの規準を満たした重症頭部外傷患者で、P2015の1,345例中924例が検討対象となった。

 JNTDBの4回のProjectの結果、若年者層での重症頭部外傷減少、高齢者層での増加を経時的に認めている。P2015では、80~84歳がピークとなり、過去の統計と比べ、さらに高齢者側にシフトした。

 受傷機転をみると、交通事故は経時的に減少しているが、転倒・転落・墜落は増加しており、どちらもP2015では65歳以上で大幅に増加した。転帰については、GOS(Glasgow Outcome Scale)でGR(good recovery:日常生活に復帰)、MD(moderate disability)の転帰良好群は横ばい、SD(severe disability)、VS(vegetative state)の機能的転帰不良群は増加、死亡は減少していた。

増加する高齢者頭部外傷の割合
 わが国における高齢者重症頭部外傷の変遷について、日本医科大学 横堀 將司氏が発表した。4回のJNTDB Projectの合計4,539例のうち、高齢者(65歳以上)を対象に分析した。

 結果、わが国の頭部外傷における65歳以上の高齢者の割合は半分以上であり、P2015では、とくに75歳以上の増加が顕著であった。積極的治療を受けている高齢者頭部外傷の割合は7割であった。死亡率は低下していたが、P2015ではSD、VS群は増加していた。機能的転帰不良患者の予測因子は、年齢75歳以上、ISS(injury severity score)25以上、GCS8以下、外傷性くも膜下出血、脳室内出血の存在であった。

交通外傷による頭部外傷の変化
 千葉県救急医療センター 脳神経外科 宮田 昭宏氏は、4回のJNTDBの集積データを振り返り、頭部外傷の原因として大きな比重を持つ、交通外傷の変遷について発表した。分析対象は、4回のデータベースの中から交通外傷を原因とする患者2,192例(48.3%)。

 頭部外傷において、交通外傷の占める割合は減少している。年齢構成別にみると45歳以下が大きく減少する一方、65歳以上の高齢者で増加、とくに80歳以上では大きく増加している。内訳をみると4輪車事故によるものが減り、歩行者事故が大幅に増加。その傾向は80歳以上で顕著で、P2015における80歳以上の交通事故での頭部外傷の中で、歩行者事故の割合は60%を占めた。

 転帰について、P2015では死亡率が顕著に下がった(33.2%)。年齢別にみると、若年者44歳以下でGR、MD群が大きく増加した反面、高齢者では、SDやVS群が増加していた。

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(ケアネット 細田 雅之)