脱水気味の高齢者に水分補給させるコツ

提供元:ケアネット

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公開日:2017/08/10

 

 2017年7月24日、「教えて! 『かくれ脱水』委員会」は、夏季の脱水症のシーズンを迎え、とくに高齢者の脱水を防ぐための「かくれ脱水」対策啓発プレスセミナーを開催した。

高齢者の水分補給介助は難しい
 はじめに、同委員会が行った「高齢者の水分補給に関する意識調査」の速報が報告された。このアンケートは、65歳以上の男女高齢者(n=516)と65歳以上の親を持つ30・40代の男女(n=316)、30・40代の男女介護従事者(n=516)を対象に行われた。

 高齢者への「食事に含まれる水分以外で、1日にどれくらい水分を補給していますか?」という質問では、73.6%が1日の必要量(1,000~1,500mL)未満と答え、高齢者の日常での水分不足をうかがわせた。また、高齢者の子世代に「親に水分補給を勧めても飲まなかった経験がありますか?」と質問したところ、28.6%が「経験がある」と回答。そのほか、介護従事者で「高齢者の水分補給の介助は難しいと思いますか?」との質問に「難しい」と回答したのは「非常に」と「たまに」を含めて90.6%になり、多くが難しさを感じていることが明らかとなった。

 今後、調査の詳細はとりまとめられた後、あらためて発表される。

高齢者の脱水で起こる負のスパイラルを断ち切る
 次に「高齢者の脱水リスクとその弊害について」をテーマに、高瀬 義昌氏(たかせクリニック理事長)がレクチャーを行った。

 高瀬氏は、東京・大田区で約400名の患者を訪問診療する、在宅療養支援診療所を運営している。今回は、介護者を悩ませる「せん妄」に焦点を当て、脱水との関連を説明した。

 せん妄は突発的に起こる認知機能障害、行動不穏であるが、その発生については、認知症や高齢という素因に、脳神経疾患、薬剤(ベンゾジアゼピン系)、熱中症といった直接因子と、心理的ストレス、環境の大きな変化という促進因子が相まって起こる。とくに高齢者が在宅で注意すべきは、熱中症による脱水や薬剤でせん妄を起こし、転倒して骨折することであるという。転倒骨折はさらに認知機能を悪化させ療養介護を難しくさせるほか、脱水状態が認知機能を悪化させることもあり、脱水状態にしないことが負のスパイラルを断つために重要だと語る。そして、水分補給の際は水分だけでは不十分で、失われたナトリウムなども補給する必要があると、経口補水療法を例に説明した。そのためには、「診療で軽度~中等度の脱水状態を診たら、市販の経口補水液などを活用してもらいたい」とレクチャーを終えた。

高齢者の脱水を防ぐ水分補給のコツ
 続いて「水を向けても飲まない人へ ~誘い水としての経口補水ゼリーの効用~」をテーマに、秋山 正子氏(株式会社ケアーズ 代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長ほか)が、在宅看護の視点から高齢者への水分補給のコツを説明した。

 高齢者の脱水で危険な時期は、5月の大型連休明けからであり、季節の変わり目で前日が寒く、翌日気温や湿度が高い日は、とくに脱水になりやすいと指摘する。

 高齢者は、加齢により喉の渇きを感じにくくなっているほか、トイレを気にして水分補給をしないこともある。また、認知症であれば、自律神経の働きが落ちるため脱水を起こしやすく、脱水状態でも自覚することがないため、周囲が観察し、気が付くことが大切だという。

 そして、高齢者によっては嚥下機能の低下により、普通の水やお茶だとむせてしまい、これが水分補給をしない遠因となる場合がある。そんなときは、市販の経口補水液ゼリーが最適であり、失われた電解質も補給されることから、はじめにゼリーを使い、これを誘い水に水やお茶を飲んでもらうとスムーズな水分摂取ができると説明した。

 最後に「脱水は静かに進行するので、早め早めの対応が必要」と語り、レクチャーを締めくくった。

高齢者の脱水予防に水分補給の自験例
 最後に介護者の視点から「五感でお声かけすること」をテーマに北原 佐和子氏(女優・介護福祉士)が、高齢者への接遇について語った。

 介護で大切なことは、「高齢者が居心地いい」と感じることが大切だと語り、そのためには、介護者が豊かな明るい表情で五感に訴える(たとえば季節感などを出す)挨拶や会話をすることが求められるという。また、脱水予防では、拒水されないように被介護者の嗜好の把握や、ひと言飲み物の説明をすることで、スムーズに水分補給が進む場合があるなど自験例を述べた。さらに「介護者も脱水にならないように、こまめに休憩、水分補給することは大事」と注意を喚起し、講演を終えた。

(ケアネット 稲川 進)

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