PCI時の血栓吸引療法は有効か―TOTAL試験サブスタディの結果

提供元:ケアネット

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公開日:2016/05/13

 

 ST上昇心筋梗塞に対するプライマリPCI(経皮的冠動脈形成術)施行の際に行う血栓吸引療法は、遠位部塞栓の予防および微小血管の灌流の改善に有効と考えられてきた。TOTAL試験は、ST上昇心筋梗塞患者をルーチンの手動による血栓吸引療法とPCI単独とに分けた無作為化試験であり、昨年New England Journal of Medicine誌に発表された。血管造影を基に行われた今回のサブスタディは、微小循環が血栓吸引療法によって改善したかどうかを、心筋ブラッシュグレード(myocardial blush grade:MBG)を用いて評価した。European Heart Journal誌オンライン版2016年4月28日号に掲載。

プライマリPCI時の血栓吸引はMBGおよびTIMI分類を改善せず
 TOTAL試験の対象となった1万732例から1,610例の冠動脈を無作為に選択し、冠動脈コアラボで解析した。プライマリアウトカムはMBGとPCI後のTIMI分類。2次評価項目は遠位部塞栓、PCIによる合併症および各合併症の発生率。
 主要評価項目である最終のMBG[MBG 0/1:血栓吸引療法群221例(28%)vs. PCI単独群246例(30%)]およびTIMI分類[TIMI 3:血栓吸引療法群712例(90%) vs. PCI単独群733例(89.5%)]は両群で同等であった。
 一方、遠位部塞栓の発生は血栓吸引療法群で有意に減少した[血栓吸引療法群56例(7.1%)vs. PCI単独群87例(10.7%)、p=0.01]。梗塞関連冠動脈の突然閉塞は、PCI単独群と比べて血栓吸引療法群で有意に多かった[7例(0.9%)vs. 1例(0.1%)、p=0.02)]。
 多変量解析では、遠位部塞栓が独立した死亡の予測因子であった(HR 3.00、95% CI:1.19~7.58)が、MBGは独立因子ではなかった(HR 2.23、95% CI:0.94~5.3)。プライマリPCI時のルーチンの血栓吸引療法はMBGおよびPCI後のTIMI分類を改善しないという今回の結果は、血栓吸引療法が心血管イベントの改善に寄与しないというTOTAL試験の結果と一致するものであった。

遠位部塞栓の減少が血管イベントの減少に結び付かなかった原因は?
 遠位部塞栓が独立した死亡の予測因子であるにもかかわらず、TOTAL試験で遠位部塞栓を有意に減らす血栓吸引療法が血管イベント発生の改善に結び付かなかったのはなぜか? 原因として、遠位部塞栓がPCI単独群で10%しか発生しなかった一方で、血栓吸引療法群でも7%と3分の1しか減少しておらず、血管イベントの発生に至るまでの差が生まれなかったからではないか、と著者らは考察している。

(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)

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