医療裁判では、医師にどんな尋問が行われるのか? 医学部で模擬証人尋問を開催 提供元:ケアネット ツイート 公開日:2014/05/07 4月10日(木)、群馬大学医学部において、病棟実習が始まる同学部の5年生(約100名)を対象に「医療裁判の模擬証人尋問」が行われた。同大の医学教育の一環として、今回初めて開催されたもので、講師として医師資格をもつ3人の弁護士が指導にあたった。 始めに大磯 義一郎氏(浜松医科大学教授)が、今回取り上げる事案である「アルコール性肝硬変の患者が外来通院していたところ、肝細胞がんで死亡した」ケースについて、その概要説明と基本的な民事裁判の流れをレクチャーした。 講義では、ケースの内容について肝細胞がんの発生機序、疫学、検査、診断、標準的な治療法などの臨床的事項や訴訟に至るまでの経過、裁判開始から証人尋問までの裁判のプロセスを詳細に説明した。また、レクチャーの中では、ケースで問題となった点(例として、本人や家族への説明内容やカルテへの記載など)のほか、将来医学生が医師として臨床現場に出た場合、どのような訴訟リスクが想定されるのか(たとえばガイドライン推奨ではない治療の実施やカルテ不記載の責任など)といった、実践的な視点からも解説がなされた。 続いて、医師への模擬証人尋問となり、原告(患者)側代理人として富永 愛氏(富永愛法律事務所)が、被告(病院)の医師役として大磯氏が、被告(病院)側代理人として小島 崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、それぞれ役割を演じ、実際の医事裁判での証人尋問を再現した。 医師への証人尋問は、提出された証拠書面(カルテや陳述書など)に基づいて、原告側が被告側のさまざまな義務違反が今回の結果を招いたことを証明すべく、約1時間にわたり行われた。 今回のケースでの尋問内容は、「肝細胞がんの経過観察」「精密検査義務」「検査結果報告義務」についてであり、被告側がそれぞれの義務違反を行ったか、また行ったとすればその義務違反と患者死亡という結果に因果関係があったかが、尋問にて争われた。 尋問では、被告側代理人が事実の確認と前述の3つの義務違反の存在を払拭するような尋問を行うのに対し、原告側代理人は提出された証拠との食い違いや各義務違反の証明を導くような尋問を医師役に対して投げかけた。実際に医事裁判で医師にどのような内容の質問がなされるのか、と見守る医学生たちの緊張感漂う空気の中、真に迫ったやり取りが繰り広げられた。 証人尋問後には、聴講した医学生に自身が裁判官として判決を下す「判決シート」が配布された。これにより、模擬裁判を聴講して原告、被告どちらを勝訴とするか、そう考える理由が集計され、報告された。講師の講評の後に質疑応答となり、医学生からは「カルテに書いてはいけない内容はあるのか?」との質問に対して、「カルテには、診断の推論過程を除き、原則何でも書いたほうがよい。とくに患者さんやその家族への伝達は後々裁判になった場合、大切な経過証拠となる」などの具体的なアドバイスがなされ、模擬証人尋問を終えた。 同様のレクチャーは、今後も全国各地で医学生、医療機関で開催され、医師・医療従事者への訴訟リスクの教育・啓発が行われる。 ●ケアネットの医事裁判のコーナー MediLegal リスクマネジメント (ケアネット 稲川 進) 掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。) 関連記事 乳腺外科医への控訴審判決で日医・中川会長「身体が震えるほどの怒り」 医療一般(2020/07/17) このページを印刷する ツイート [ 最新ニュース ] 世界の疾病負担とリスク因子、1990~2023年の状況/Lancet(2025/10/27) 冠動脈バイパス術後の新規AF発症、術後30日以後はリスク低い?/JAMA(2025/10/27) ctDNA陽性のMIBC患者、術後アテゾリズマブ投与でDFS・OS改善(IMvigor011)/ESMO2025(2025/10/27) ALK陽性NSCLCへの術後アレクチニブ、4年OS率98.4%(ALINA)/ESMO2025(2025/10/27) 胃がん初のFGFR2b阻害薬、長期追跡では治療効果が減弱(FORTITUDE-101)/ESMO2025(2025/10/27) 寛解後の抗精神病薬減量は認知機能改善に寄与するか(2025/10/27) monarchE試験のOS結果が発表/ESMO2025(2025/10/27) アナフィラキシーへのアドレナリン点鼻投与の効果、エピペンと同等以上(2025/10/27) [ あわせて読みたい ] 第50回日本骨髄腫学会学術集会:独占インタビュー(2025/04/18) ASCO2025 まとめ(2025/06/02) かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ(2025/06/13) 医療・介護施設従事者のための転倒・転落事故へのアプローチ ~転倒・転落事故のメカニズム、予防、事故後フォローのすべて~(2025/02/27) 非機器的早期運動療法はDVT発生率を低減【論文から学ぶ看護の新常識】第1回(2025/02/05) トレンド・トーク『肺がん』(2024/06/11) 災害対策まとめページ(2024/02/05) Dr.大塚の人生相談(2024/02/26) IBD(炎症性腸疾患)特集(2023/09/01) 旬をグルメしながらCVIT誌のインパクトファクター獲得を祝福する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第63回(2023/08/29)