日本語でわかる最新の海外医学論文|page:729

慢性期脳梗塞に対するヒト神経幹細胞療法の安全性/Lancet

 ヒト神経幹細胞(hNSC)製剤であるCTX-DPの単回脳内投与(hNSC2,000万個まで)は、有害事象を発現することなく神経学的機能の改善をもたらすことが認められた。英国・グラスゴー大学のDheeraj Kalladka氏らが、CTX-DPの第I相first in man試験であるPilot Investigation of Stem Cells in Stroke(PISCES)試験の結果、報告した。CTX-DPは、ヒト胎児の大脳皮質神経上皮細胞に由来する不死化hNSC株であるCTX0E03から同種細胞療法のために開発された製剤で、先行研究においてラットに中大脳動脈梗塞後4週後にCTX-DPを投与した結果、用量依存的な感覚運動機能の改善が確認され、脳卒中患者におけるCTX-DP治療の安全性や忍容性の評価が望まれていた。著者は今回の結果を受け、「虚血性脳卒中患者に対するこの新たな細胞療法は実現可能かつ安全であり、今後、大規模な第II相試験が行われるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年8月3日号掲載の報告。

アーミッシュの生活環境が喘息リスクの低下に関与/NEJM

 アーミッシュとフッタライト(いずれもキリスト教の一派で、伝統的な生活様式で農業を営むコミュニティ集団)の子供たちは、生活様式や遺伝的系統が類似しているにもかかわらず喘息有病率が大きく異なっていた。その背景には自然免疫反応の形成や誘導の違いがあり、アーミッシュの生活環境は喘息に対して予防的に働くことが示唆されたという。米国・シカゴ大学のMichelle M. Stein氏らが、ヒトとマウスの研究から明らかにした。アーミッシュは畑仕事や移動に馬を使用するなど伝統的な農業を行っており、フッタライトは工業化された農業技術を用いるという点で、とくに違いがみられる。以前の研究でこの両集団の喘息発症率に顕著な違いがあることが示唆されていたが、その違いに関与する免疫反応については不明であった。NEJM誌2016年8月4日号掲載の報告。

急性心不全へのGLP-1受容体作動薬、第II相試験の結果/JAMA

 左室駆出率(LVEF)が低下した急性心不全入院患者に対し、GLP-1受容体作動薬リラグルチドを投与しても退院後のより高度な臨床的安定性には結び付かないことが、米国・ペンシルベニア大学のKenneth B. Margulies氏らによる第II相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、示された。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の状態にかかわらず、重症心不全患者の初期臨床試験で心保護作用を認めることが報告されていた。これを受けて研究グループは、急性心不全患者に対しGLP-1受容体作動薬を投与することで、退院後の臨床的安定性が改善するのかを検討したが、著者は「検討の結果は、そのような臨床効果を期待してのリラグルチドの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2016年8月2日号掲載の報告。

電子カルテの導入で短期入院患者のアウトカムは変わるか?/BMJ

 病院の新規の電子カルテシステム導入は、短期入院患者のアウトカムに影響を与えないとする所見を、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のMichael L Barnett氏らが、同導入17病院を対象に行った観察研究の結果、報告した。これまでに質とコストに関する長期的な検討は行われていたが、多面的に短期影響に注視した検討はほとんどなかったという。BMJ誌オンライン版2016年7月28日号掲載の報告。

大統領が医学雑誌に論文投稿する米国の驚き!(解説:綾部 健吾 氏/後藤 信哉 氏)-578

2008年にバラク・オバマ氏がアメリカ大統領に就任してから、8年が経過した。任期終盤のアメリカ大統領が、JAMAに論文を投稿することから、オバマ氏の医療への関心の高さがわかる。大統領が、積極的に自分の考えを科学的論文に投稿する米国の文化は、学ぶべきである。高齢化の進行、医療関連産業の際立った利益重視などは、米国だけの問題ではない。日本でも将来の医療制度の転換を見越した議論は、政府内で行われているはずである。政策を政府が非公開で決めるか、政策の骨子を公開の議論で決めるかが、日本と米国の文化の差である。

統合失調症の病態生理とBDNFの関連:産業医科大

 統合失調症の病態生理には、カテコールアミン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、サイトカインが関与するといわれている。産業医科大学の堀 輝氏らは、非定型抗精神病薬単独療法で治療された統合失調症患者における認知機能と血清BDNFレベル、血清カテコールアミン代謝物、サイトカインとの関連を検討した。The world journal of biological psychiatry誌オンライン版2016年7月13日号の報告。

高齢がん患者、認知機能障害だと2年死亡率が6倍

 高齢がん患者でがん治療開始時に認知機能障害であった場合、生存率にはどのくらい影響するのだろうか。ベルギー・ブリュッセル自由大学のYves Libert氏らは、縦断的な2年間の追跡調査により、認知機能障害のある高齢患者はそうでない患者に比べ、がん治療開始後の2年間で死亡するリスクが6倍であったことを報告した。著者らは、高齢患者の罹患率と死亡率を減らすための介入ができるように、がん治療開始時に認知機能障害についてスクリーニングすべきとしている。PLOS ONE誌2016年8月1日号に掲載。

スルホニル尿素(SU)薬と低血糖―essential drugとしてのグリクラジドを再考する―(解説:住谷 哲 氏)-577

世界保健機関(WHO)が発行している資料に、Model lists of essential medicines(EML)がある。WHOが認定した必須医薬品(essential drugs)のリストで、1977年に初版が発行され、その後2年ごとに改訂されている。最新の19版は2015年に発行された。

コンタクトレンズ vs.レーシック、視覚満足度を調査

 コンタクトレンズ装着者とレーシックを受けた人計1,800人に対し、年1回3年にわたる視覚改善に関する満足度調査を行った結果、レーシックは、夜間ドライブを容易なものに改善し、ドライアイ症状の有意な増大もなく、3回の調査とも満足度が高い結果であったことが報告された。米国・Cornea Research Foundation of AmericaのMarianne O. Price氏らが行った多施設共同の前向き並行群間比較調査の結果で、Ophthalmology誌2016年8月号掲載の報告。

クローン病に伴う肛囲複雑瘻孔、開発中のCx601が有用/Lancet

 クローン病に伴う肛囲複雑瘻孔の治療薬として開発中の同種異系脂肪由来幹細胞の懸濁剤Cx601について、第III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、有効性、安全性が確認されたことが、スペイン・Centro Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Hepaticas y DigestivasのJulian Panes氏らにより報告された。試験は、従来療法(抗菌薬、免疫修飾薬など)および生物学的製剤(抗TNF薬)治療で効果が認められない難治性の患者212例を対象に行われた。クローン病に伴う肛囲瘻孔は頻度が高く、診断後20年で最高推定28%の患者が症状を有するとされ、そのうち70~80%が複雑性であり、その治療には困難が伴う。Cx601は病変注入という新しいアプローチの治療薬である。Lancet誌オンライン版2016年7月28日号掲載の報告。

off-site中央モニタリングの有用性が明らかに/JAMA

 標準化された心臓テレメトリを電子的にオーダーするoff-site中央モニタリング法(CMU)は、緊急対応チーム(ERT)の発動よりも早く、発症から1時間以内に洞調律や心拍数変化を検知し、心停止イベントを増大することなく患者の減少に寄与したことが報告された。米国・クリーブランドクリニックのDaniel J. Cantillon氏らが非重症患者を対象とした検討で明らかにした。従来のon-siteモニタリングでは、重大なイベントを見逃す頻度が高く、死亡に至る場合も少なくないことから、研究グループはoff-site CMUとアウトカムの関連を評価する検討を行った。JAMA誌2016年8月2日号掲載の報告。

双極性障害で高率にみられる概日リズム睡眠障害:東医大

 最近の研究によると、双極性障害(BD)と概日リズム睡眠障害との間に病態生理学的関連が認められることが示唆されている。しかし、BD患者における概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD)の有病率を明らかにした研究はなかった。東京医科大学の高江洲 義和氏らは、BD患者におけるCRSWDの有病率と関連する要因を調査した。PLOS ONE誌2016年7月21日号の報告。

“身体不活動”が世界の大きな経済負荷に/Lancet

 罹患率や早期死亡率だけではなく、身体不活動(physical inactivity)はかなりの経済負荷を招いていることが、オーストラリア・シドニー大学のDing Ding氏らによる検討の結果、明らかにされた。著者は、「本報告は、世界中で非伝染性疾患を減らすための包括的戦略の一部として、定期的な身体活動の促進を優先すべき根拠となるものだ」と述べている。世界的に広がっている身体不活動は、慢性疾患の拡大および早期死亡に関連しているとされる。これまで疾病負荷については多数の報告がある一方、身体不活動の経済負荷について世界レベルでの定量化はされていなかった。Lancet誌オンライン版2016年7月27日号掲載の報告。

前立腺全摘除術、ロボット支援腹腔鏡 vs.開腹手術/Lancet

 ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術vs.開腹恥骨後式前立腺全摘除術のアウトカムを直接比較する第III相無作為化試験の術後早期12週時点の結果が発表された。オーストラリア・Royal Brisbane & Women's Hospital(RBWH)のJohn W Yaxley氏らによる検討で、機能的アウトカムについて有意差はみられなかったという。著者は、さらなる長期追跡が必要であるとしたうえで、「中間解析の時点では、患者は手術アプローチではなく、信頼を寄せている気心が通じた経験豊かな執刀医の選択を優先することを推奨する」と述べている。これまで両手術アプローチを比較した試験のデータはなかった。Lancet誌オンライン版2016年7月26日号掲載の報告。