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経口semaglutideがもたらした血糖降下薬のパラダイムシフト(解説:住谷哲氏)-780

 GLP-1は数十個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであり、インスリンをはじめとする他のペプチドホルモンと同様に経口投与では消化管で分解されてほとんど吸収されない。これまで経口インスリンの開発が進められてきたが残念ながら現時点では実用化に至っていない。本論文は経口GLP-1受容体作動薬である経口semaglutideが注射薬とほぼ同等の血糖降下作用および体重減少作用を有することを明らかにした点で、糖尿病治療におけるbreakthroughと考えてよい。 どのようにしてペプチドホルモンであるsemaglutideが吸収可能となったのだろうか?DDS(drug-delivery system)は薬剤開発の重要な1分野であるが、筆者の知らない間に急速な進歩をとげているようである。本論文のIntroductionに記載があるが、吸収促進剤であるsodium N-[8 (2-hydroxylbenzoyl) amino] caprylate (SNAC)とsemaglutideの混合物が胃に到達すると、SNACが胃粘膜局所のpHを上昇させることで胃液によるsemaglutideの加水分解を阻害し、かつsemaglutideの溶解度を上昇させる。その後、semaglutideは輸送蛋白を介さず、胃粘膜細胞間隙を通して吸収されるらしい1)。つまりsemaglutideは小腸ではなく胃粘膜から吸収されるようだ。この方法の優れた点は、注射ではなく経口投与であるのに加えて、薬剤が門脈を通して肝臓に達する点にある。インスリンもそうであるが、GLP-1は本来腸管から門脈を通して肝臓に達するのが生理的経路であり、経口semaglutideはそれを実現したといえるだろう。 26週の観察期間において経口semaglutideは注射薬と同等のHbA1c低下作用および体重減少作用を示した。SGLT2阻害薬が体重減少作用を有する経口血糖降下薬として処方数が増加している。しかしSGLT2阻害薬の体重減少作用は食事療法が守れないと期待どおりの効果が得られないことが明らかになりつつある。それに比べてGLP-1受容体作動薬であるsemaglutideには食欲抑制作用があるため、より確実な体重減少作用が実臨床において期待される。 注射または経口と投与経路は異なるが同じsemaglutideであり、SUSTAIN-6 2)で示されたsemaglutideの心血管イベント抑制作用はおそらく経口semaglutideでも再現されるだろう。しかし、これは今後米国において認可のために実施されると思われるCVOTの結果を待つ必要がある。いずれにせよ注射薬から経口薬へのパラダイムシフトが経口semaglutideによってもたらされたのは間違いない。

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経口GLP-1受容体作動薬で良好な結果/JAMA

 2型糖尿病患者において、GLP-1受容体作動薬の経口semaglutideはプラセボとの比較で、26週にわたり良好な血糖コントロールを示したことが報告された。英国・レスター大学のMelanie Davies氏らによる第II相無作為化試験の結果で、著者は「長期間および臨床的アウトカム、ならびに安全性を評価する第III相試験の実施を支持するものであった」とまとめている。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の有効な治療薬として、現在すべて注射剤での利用が可能となっている。研究グループは、開発中の経口semaglutideの有効性をプラセボと比較し(主要目的)、また非盲検下でsemaglutide皮下注と比較する(副次目的)検討を行った。JAMA誌2017年10月17日号掲載の報告。経口semaglutide各用量群、semaglutide皮下注群、プラセボ群に割り付け評価 検討は第II相の無作為化並行用量探索試験で、2013年12月~2014年12月に14ヵ国の100施設(病院クリニック、一般診療所、臨床研究センター)で行われた。試験期間は26週間+フォローアップ5週間であった。 1,106例がスクリーニングを受け、食事療法と運動療法または一定用量のメトホルミンで血糖コントロール不良な2型糖尿病患者632例が無作為化を受けた。無作為化ではメトホルミン使用による層別化も行われた。 被験者は、1日1回の経口semaglutide 2.5mg投与群(70例)、同5mg投与群(70例:当初4週は2.5mg)、同10mg投与群(70例:当初4週は5mg)、同20mg投与群(70例:当初4週は5mg、5~8週は10mg)、同40mgの4週漸増(標準漸増)投与群(71例:当初4週5mg、5~8週10mg、9~12週20mg)、同40mgの8週漸増(緩徐漸増)投与群(70例:当初8週5mg、9~16週10mg、17~24週20mg)、同40mgの2週漸増(急速漸増)投与群(70例:当初2週5mg、3~4週10mg、5~6週20mg)、プラセボ投与(経口)群(71例:二重盲検)、週1回のsemaglutide 1.0mg皮下注群(70例)に無作為化を受け、26週間の介入を受けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週時点のHbA1c値の変化であった。経口群のHbA1c値、プラセボと比べて有意に低下 ベースラインの被験者の特性は、全投与群とも類似していた。632例は、平均年齢57.1歳(SD 10.6)、男性395例(62.7%)、平均糖尿病罹病期間6.3年(SD 5.2)、平均体重92.3kg(SD 16.8)、平均BMI値31.7(SD 4.3)であった。583例(92%)が試験を完遂した。 経口semaglutide投与群のベースラインから26週時点までのHbA1cの平均変化値は、プラセボ群と比べて有意な低下が認められた。経口semaglutide投与群は-0.7%~-1.9%(用量依存的範囲)、semaglutide皮下注群は-1.9%、プラセボ群は-0.3%であった。経口semaglutide群とプラセボを比較した、用量依存的推定治療差(ETD)範囲は-0.4%~-1.6%であった(2.5mg投与群のp=0.01、すべての用量群のp<0.001)。 体重は、経口semaglutide群でより低下が認められた(用量依存的範囲:-2.1kg~-6.9kg)。semaglutide皮下注群は-6.4kg、プラセボ群は-1.2kgで、10mg以上の経口semaglutide投与群ではプラセボとの比較において有意差が認められた(用量依存的ETD範囲:-0.9kg~-5.7kg、p<0.001)。 有害事象は、経口semaglutide群63~86%(371/490例)、semaglutide皮下注群81%(56/69例)、プラセボ群68%(48/71例)で報告された。軽度~中等度の消化管イベントの頻度が最も高かった。

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エキセナチドの週1回製剤とリラグルチドの週1回製剤は異なる作用を持つのだろうか…?(解説:吉岡成人 氏)-743

 GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドとリラグルチドの週1回製剤であるセマグルチドは、LEADER(Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results)、SUSTAIN-6(Trial to Evaluate Cardiovascular and other Long-Term Outcomes with Semaglutide in Subjects with Type2 Diabetes)の2つの臨床試験により、心血管イベントに対して一定の抑制効果があることが示されている。「GLP-1受容体作動薬」そのものにGLP-1を介した心血管イベント抑制の効果があるのではないかと考えられていたのだが、エキセナチド徐放剤(商品名:ビデュリオン、エキセナチドをマイクロスフェアに包埋し持続的に放出する製剤)の週1回投与では心血管死、心筋梗塞、脳卒中を抑止する効果が認められなかったとする報告がなされた。 EXSCEL(Exenatide Study of Cardiovascular Event Lowering)と命名されたこの臨床試験は、心血管疾患の既往ないしは心血管疾患のリスクを有する2型糖尿病14,752人を対象に、糖尿病の標準治療にエキセナチド徐放剤を併用する群とプラセボを併用する群に割り付けて、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合エンドポイントを主要心血管イベントとして3.2年間追跡したものである。主要心血管イベントの発症率はエキセナチド徐放剤群で11.4%(3.7イベント/100人年)、プラセボ群で12.2%(4.0イベント/100人年)であり、ハザード比は0.91(95%信頼区間:0.83~1.00)で優越性を認めることができなかった(p=0.061)。EXSCELとSUSTAIN-6を比較すると、年齢(62.0 vs.64.6歳)、HbA1c(8.0 vs.8.7%)などは若干異なるものの、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合エンドポイントの発症頻度はセマグルチド群3.2イベント/100人年、プラセボ群4.4イベント/100人年であり、同じようなリスクの患者を対象とした試験であると想定される。患者の年齢についてはEXSCELではサブグループ解析が行われており、ベースライン時の年齢が65歳以上の集団ではエキセナチド徐放剤群における主要心血管イベントのハザード比が0.80(95%信頼区間:0.71~0.91)であり、リスクの減少は統計学的に有意であると記載されている。エキセナチドを追加投与し、観察期間中に中央値でHbA1cは0.53%低下し、体重は1.27kg減少している。有害事象としての膵炎、膵がんなどの発症率は同等であった。 これらの成績からEXSCELにおける安全性とサブグループ解析を重くみて、エキセナチド徐放剤は心血管疾患のリスクを増加させることなく安全に使用でき、とくに高齢患者では心血管イベントを抑制しうる効果が期待されるのではないかと受け止めることができるのか、エキセナチド徐放剤は他の薬剤を超える素晴らしい(exceed and excellent)薬剤とは言い難いと解釈するのか、LEADER、SUSTAIN-6とやや異なる結果が得られたことは悩ましい。

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イベント発症後に後悔。糖尿病患者さんの本音

 9月29日は、ワールド・ハート・デー。世界心臓連合が2000年に定めた、地球規模の心臓血管病予防キャンペーン活動を行う日である。この日に先駆け2017年9月26日、都内で糖尿病のセミナーが開かれた(主催:ノボ ノルディスク ファーマ株式会社)。セミナーでは、心血管疾患既往の2型糖尿病患者さんを対象とした意識調査が紹介され、患者さんの2~3人に1人は、心血管疾患を糖尿病の合併症とは認識していなかったことなどが明らかになった。2型糖尿病が心血管疾患リスクになることは、医療者側はよく知っているが、患者さん自身は自分に心血管疾患リスクがあるとは認識していないのかもしれない。演者は、槇野 久士氏 (国立循環器病研究センター病院 動脈硬化・糖尿病内科 医長)。以下、セミナーの内容を記載する。調査対象者の3人に1人が「合併症に気を配るべきだった」と後悔 心血管疾患既往の2型糖尿病患者さん104例を対象としたインターネット調査において、患者さんの2~3人に1人が、心血管疾患発症前には、心・脳血管系疾患(狭心症、心筋梗塞、虚血性心不全、脳梗塞)を糖尿病の合併症だと認識していなかったことが明らかとなった。 また、「2型糖尿病が心血管疾患の死亡リスクを約2倍高める」ことを事前に認識していなかった患者さんの8割が「もし知っていたら何らかの対策を行いたかった」と回答した。さらに、調査対象となった患者さんの3人に1人が「2型糖尿病の合併症について、もっと気を配るべきだったと後悔した」「経済的な負担を心配した」と回答した。 このように、心血管疾患を発症した2型糖尿病患者さんの一部は、糖尿病と心血管疾患の関係について事前に知っていれば、よりよい選択をできたのではないか、と後悔していることが明らかになった。医療者側はどのように対応すべきか この調査結果について、演者の槇野氏は、「実際には、糖尿病による心血管疾患発症リスクの説明を聞いたことがない患者さんは少ないはずだ」と前置きしたうえで、「医療者側は診断時だけではなく、継続的に心血管疾患発症リスクを説明することが重要だ」と述べた。心血管疾患の発症予防のためには、こうした啓発とともに、患者さんの生活習慣の改善と定期的な受診の推進が求められる。しかし、糖尿病患者さんの指導には難しいことが多い。 患者さんの中には、「夏は暑いし、冬は寒いし、外に出て歩くなんて無理です」「仕事が忙しいのに運動する余裕なんてありません」とさまざまな理由をつけて、運動を拒否する方も多い。そのような場合、1日のテレビを見る時間が長いほど心血管疾患発症リスクが上がることなどを例に、特別な運動をせずとも、ごろごろしないで家の中を立って歩くよう心掛けるだけでもよいのだ、と伝えると効果的だという。 より高い効果を生み出すためにはチーム医療も重要だ。日本の診療システムでは医師が患者1人当たりに割ける時間は限られる。ここでチーム医療が力を発揮する。医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師がチームを組んで指導の個別化を行うことで、より高い効果が生み出されるだろう。可能な範囲での取り組みを推奨したい。 また、薬剤選択においては血糖値を下げるだけではなく、心血管疾患の発症予防を重視して薬剤を選ぶことも有用だ。最近では、LEADER試験をはじめ、いくつかの新薬で血糖値を下げるだけに留まらない、心血管疾患発症リスクを抑制する効果も示されてきている。 糖尿病治療では、血糖値を下げるだけではなく、心血管疾患の発症予防を見据えて治療に取り組むことが重要である。ワールド・ハート・デーをきっかけに、2型糖尿病患者さんの心血管疾患予防について、あらためて意識してみてはどうだろうか。

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GLP-1受容体作動薬は心イベントのみならず、腎イベントも抑制する(解説:吉岡成人 氏)-735

 2017年に公表された米国糖尿病学会のガイドラインでは、心血管疾患のハイリスク患者に対するGLP-1受容体作動薬の使用が推奨されている。その根拠となっている臨床試験がLEADER試験(Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results)であり、リラグルチドによって2型糖尿病患者の心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死的脳卒中)がわずかではあるが、統計学的に有意差をもって抑制される(ハザード比:0.87、95%信頼区間:0.87~0.97)ことが示されている。今回の報告は、LEADER試験の副次評価項目としての腎アウトカムについて分析したものである。 持続性顕性アルブミン尿の新規発症、血清クレアチニン値の持続的倍化、末期腎不全、腎疾患による死亡の4項目を腎アウトカムとして評価し、推定糸球体濾過量(eGFR)、アルブミン尿の推移についても検討を加えている。 9,340例の2型糖尿病を対象とした二重盲検プラセボ対照比較試験で、追跡期間の中央値は3.84年である。腎アウトカムの発生はプラセボ群7.2%(4,672例中337例、19.0/1,000人年)、リラグルチド群5.7%(4,668例中268例、15.0/1,000人年)であり、リラグルチド群で有意な減少を認めた(ハザード比:0.78、95%信頼区間:0.67~0.92、p=0.003)。腎アウトカムの4項目の中で有意に減少しているのは持続性顕性アルブミン尿の新規発症であり(4.6% vs.3.4%、ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.60~0.91、p=0.004)、その他のアウトカムでは差がなかった。さらに層別解析ではeGFRが60mL/min/1.73m2以上の群、すでに微量アルブミン尿、顕性アルブミン尿が認められる群でのハザード比の有意な低下が確認されている。 一方で、SGLT2阻害薬による大規模臨床試験であるEMPA-REGアウトカム試験やCANVAS試験で認められたeGFRの低下を防ぐことを示すことはできなかった。おそらく、SGLT2阻害薬の腎保護効果が腎血行動態やケトン体などによる複合的なものであるのに対し、リラグルチドの腎保護効果はアルブミン尿の排泄減少が主体であり、酸化ストレスや、糸球体における炎症の軽減によるものなのかもしれない。 日本において広く使用されているDPP-4阻害薬ではアルブミン尿の減少などの腎保護作用は臨床的に確認されておらず、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の差異を示す1つの臨床データとも受け止めることができる。

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パーキンソン病におけるエキセナチド週1回投与の効果(解説:山本康正 氏)-736

【目的】 2型糖尿病に使用されているglucagon-like peptide-1(GLP-1)の受容体作動薬であるエキセナチドには、げっ歯類において神経毒により作成されたパーキンソン病モデルで神経保護作用・神経修復作用があることが示されている。著者らは以前に、少数例のオープンラベル試験でエキセナチドがパーキンソン病患者の運動・認知機能障害を改善した結果を得ており、今回パーキンソン病患者に対するエキセナチドの効果を、single-centre, randomized, double-blind, placebo-controlled trialによって確認する試験を行った。【方法】 25~75歳のQueen Square Brain Bank criteriaで評価された特発性パーキンソン病患者で、ドーパミン治療がなされているがwearing offを有し、治療下においてYahl分類が2.5以下の患者を対象とした。通常のドーパミン系治療に加えて、エキセナチド2mgとプラセボの週1回皮下注射を48週間行い、12週間のwash out期間の後、評価を行った。患者は12週ごとに受診し、抗パーキンソン病薬服用後8時間以上あけたoff-medication stateにおいて、運動・非運動症状や認知機能、心理テスト等の総合的評価がなされた。最初と60週目にドーパミンの働きを見る検査であるDaTscan(ダットスキャン)を行った。1次エンドポイントは、60週目にMovement Disorders Society Unified Parkinson's Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)のmotor subscale part3を用いて評価したスコアの差である。【結果】 62例がエントリーされ、32例がエキセナチド、30例がプラセボに割り付けられた。最終60週目において、MDS-UPDRS-part3はプラセボ群で2.1点悪化し、エキセナチド群で1.0点改善した。調整後の差は-3.5点で、エキセナチド群で有意に改善した(p=0.031)。ちなみに48週目の時点では、-4.3点の差でエキセナチド群が勝っていた(p=0.0026)。認知機能、非運動症状、QOL、気分、ジスキネジア等に差はなかった。DaTscan imagingでは、1回目に比べて2回目は両群とも低下傾向にあったが、エキセナチド群で低下はより軽度であった。【考察】 48週目のみならず12週間のwash out期間の後もエキセナチドの効果が持続していたことは注目すべきであり、これはエキセナチド持続の長い症候改善作用を有するためなのか、あるいは、疾患の病態生理に影響を与えた結果なのかは今後の検討が待たれる。【解説】 パーキンソン病は年月とともに進行性で、進行期には、不随意運動、幻覚、起立性低血圧や頑固な便秘など自律神経障害も出現して難渋することが多い。ドーパミン受容体作動薬やモノアミン酸化酵素阻害薬に神経保護作用が期待されているが、さらに新規の神経保護作用を有する薬剤が待たれている。エキセナチドは2型糖尿病に使用されているGLP-1の受容体作動薬であるが、今回の試験では従来の抗パーキンソン病薬に追加することで、運動症状の改善のみならず12週間のwash out期間の後も効果が持続していた。このことは、単に持続作用が長いことを示しているのかもしれないが、疾患の病態生理に作用し神経保護作用を有する可能性があり期待される。

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ケアネット白書~糖尿病編2017

ケアネットでは今年3月、2型糖尿病患者を1ヵ月10例以上診察している医師を対象にアンケート調査を実施し、経口血糖降下薬の処方割合やその理由などを聞いた。その回答は、「ケアネット白書~糖尿病編2017」としてまとめているが、本稿では、主な質問項目とその回答について抜粋して紹介する。CONTENTS1.調査概要2.結果(1)回答医師の背景(2)薬剤の処方状況(1stライン)(3)薬剤の処方状況(2ndライン)(4)薬剤選択の際に重要視する項目

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ケアネット白書~糖尿病編2017

インデックスページへ戻る1.調査概要本調査の目的は、糖尿病診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている糖尿病治療薬を評価することである。調査はインターネット上にてアンケート形式。2017年3月1~8日に、ケアネットの医師会員約13万人のうち、2型糖尿病患者を1ヵ月に10人以上診察している医師500人を対象に実施した。2.結果(1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科は、糖尿病・代謝・内分泌科が234人(46.8%)で最も多く、一般内科167人(33.4%)、循環器科42人(8.4%)などが続いた。医師の所属施設は、一般病院が190人(38.0%)で最も多く、以下、医院・診療所・クリニック134人(26.8%)、大学病院92人(18.4%)、国立病院機構・公立病院83人(16.6%)など。医師の年齢層は50代が159人(31.8%)で最も多く、次いで40代(135人、27.0%)、30代(128人、25.6%)が続いた。(2)薬剤の処方状況(1stライン)糖尿病治療薬をSU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、ビグアナイド(BG)薬、チアゾリジン薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド)、DPP-4阻害薬、インスリン、GLP-1、SGLT2阻害薬、その他に分類し、食事・運動療法に加えて薬物療法を実施する際の1stラインの処方状況を聞いた(図1)。図1を拡大する処方が最も多かったのはDPP-4阻害薬で、回答した医師全体の38.4%が1stラインで使っている。しかしながらその割合は、昨年と比べて6.1ポイント減少し、過去5年間において最も少ない。次いで多かったのはBG薬(26.3%)で、昨年(26.6%)とほぼ横ばいであった。<糖尿病・代謝・内分泌科での1stライン>回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科の場合、1stラインでの処方割合が最も多かったのはDPP-4阻害薬(35.9%)だが、これに続くBG薬が33.4%であり、割合は拮抗している。一方、SU薬とα-GIは過去5年の推移をみても一貫して減少傾向にあるようだ(図2)。図2を拡大する<その他の診療科(糖尿病・代謝・内分泌科以外)での1stライン>回答医師の属性がその他の診療科の場合、1stラインの処方割合はDPP-4阻害薬が最も多いものの、前年より7%減少し、その分、その他(併用など)が増加した。BG薬(20.1%)とSU薬(6.9%)は、前年と比べほぼ横ばいであった(図3)。図3を拡大する(3)薬剤の処方状況(2ndライン)DPP-4阻害薬単剤処方例からの治療変更1stラインでDPP-4阻害薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合、2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.GU薬を追加、5.チアゾリジン薬を追加、6.GLP-1を追加、7.インスリンを追加、8.SGLT2阻害薬を追加、9.他剤への切り替え、10.その他―の分類から処方状況を聞いた(図4)。図4を拡大する最も多かったのはBG薬の追加で、回答した医師の40.3%に上った。過去5年の推移を見ると一貫して増加傾向にありSGLT2阻害薬の追加も9.9%に増加した。一方、SU薬の追加やα-GIの追加は減少傾向にある。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医ではBG薬の追加が全体平均よりも高い傾向にあり、逆にSGLT2阻害薬の追加を選ぶ医師は少ない傾向があった。専門医以外では、SGLT2阻害薬の追加やα-GIの追加を選択する割合が多い傾向があるようだ(図5)。図5を拡大するBG薬単剤処方例からの治療変更また、1stラインでBG薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.チアゾリジン薬を追加、5.DPP-4阻害薬を追加、6.GLP-1を追加、7.インスリンを追加、8.SGLT2阻害薬を追加、9.他剤への切り替え、10.その他―の分類から処方状況を聞いた(図6)。図6を拡大する最も多かったのは前年に引き続きDPP-4阻害薬の追加(55.6%)であった。SGLT2阻害薬の追加(8.0%)を選択する医師の割合は、前年比で2.2ポイント増となり、SU薬の追加(8.3%)と拮抗する結果となった。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医で最も多かったのはDPP-4阻害薬の追加(56.4%)で、次いでSGLT2阻害薬の追加(9.3%)、SU薬の追加(8.3%)となっていた。その他の診療科と比べると、SGLT2阻害薬の追加が多かった(図7)。図7を拡大する(4)薬剤選択の際に重要視する項目本調査では、薬剤を選択する際に重要視する項目についても聞いている(複数回答)。最も多いのは昨年に続き「低血糖を来しにくい」で、75.2%の医師が挙げている。以下、「重篤な副作用がない」(68.48%)、「血糖降下作用が強い」(66.4%)などが続いた(図8)。図8を拡大する<糖尿病・代謝・内分泌科での重要視項目>回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科の場合も、薬剤選択で重要視する項目として最も多かったのは「低血糖を来しにくい」で、81.6%の医師が挙げている。次いで多かったのが、「体重増加を来しにくい」(73.5%)で、他科も含めた全体では56.4%だったのと比べると顕著に割合が高く、専門医に特徴的な傾向といえる。<その他の診療科(糖尿病・代謝・内分泌科以外)での重要視項目>回答医師の属性がその他の診療科の場合も、薬剤選択で重要視する項目として最も多かったのは「低血糖を来しにくい」であった(69.5%)。以下、「重篤な副作用がない」(65.4%)、「血糖降下作用が強い」(63.9%)などが続いた。インデックスページへ戻る

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第11回 GLP-1受容体作動薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第11回】GLP-1受容体作動薬による治療のキホン―どのような患者さんが良い適応になりますか?また導入の判断となる指標があれば教えてください。 食事から吸収された糖質などの刺激により、消化管から消化管ホルモンであるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)が血中に分泌されると、血行性に膵β細胞上のGIP受容体とGLP-1受容体にそれぞれ結合し、インスリン分泌が促進されます。その作用を応用したのがインクレチン関連薬と呼ばれるDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬で、GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞上にあるGLP-1受容体に結合して、インスリン分泌を促進させます。 インクレチン関連薬は、膵β細胞内で代謝されたグルコースによるインスリン分泌の惹起経路を増幅させることで、インスリン分泌を促進させます。つまり、グルコースによるインスリン分泌惹起経路が働いて初めて、インクレチンによる増幅作用が働くことになります。そのため、GLP-1受容体作動薬のインスリン分泌作用は、グルコース濃度依存性であり、単独では低血糖を起こさないという特徴があります。 GLP-1受容体作動薬のもう1つ大きな特徴は「体重減少」です。GLP-1受容体は食欲をつかさどる視床下部にもあり、GLP-1受容体作動薬により、食欲が抑制されることで、体重減少効果が得られます。また、胃内容物の排泄抑制作用もあり、それによる体重減少効果、さらには、食後血糖の上昇抑制も期待できます。GLP-1受容体作動薬は、非肥満、肥満のいずれでも血糖低下効果は得られますが、とくに「体重減少」については、他の薬剤を上回る効果が得られるため、肥満の患者さんが良い適応であると考えています。ただ、GLP-1受容体作動薬は注射薬であるため、抵抗を示す患者さんも少なくありません。高用量のSU薬を含むいくつかの経口薬を使用しているにもかかわらず、良好な血糖コントロールが得られない患者さんで、体重減少も期待したいような場合に検討するとよいのではないでしょうか。―DPP-4阻害薬との作用機序や適応の違いについて教えてください。 GLP-1受容体作動薬が、膵β細胞上にあるGLP-1受容体に結合してインスリン分泌を促進させる、直接的に作用する薬剤であるのに対し、DPP-4阻害薬は、GIPおよびGLP-1が分泌された後に、それらを急速に分解する酵素であるDPP-4の活性を阻害して、GIPとGLP-1の不活化を抑制する、すなわち、間接的に作用する薬剤です。いずれも、前述のように、グルコース濃度依存性であり、単独では低血糖を起こさない薬剤ですが、DPP-4阻害薬は“生理的レベル”で効果を発揮するのに対し、GLP-1受容体作動薬は“非生理的レベル”で効果を発揮するため、DPP-4阻害薬は「体重増加を来さない」という効果が得られ、GLP-1受容体作動薬は「体重を減少させる」という効果が期待できます。“体重増加を来さない”で血糖を低下させる、“体重を減少させて”血糖を低下させる、という目的で使い分けるのがよいと思います。 ただ、DPP-4阻害薬は経口薬で、GLP-1受容体作動薬は注射薬です。導入のしやすさという点でも違いはありますが、今は、週1回投与のGLP-1受容体作動薬もあります。「週に1回なら」「自分で打つのはいやだけど、医療従事者に打ってもらうのであれば」という患者さんもいらっしゃいます。週1回製剤の中には、針の取り付けが不要なものもあり、取り扱いが非常に簡便なものもありますし、「“週に1回だけ”ならどうですか?」「ご自分で打つのが難しければ、週に1回、病院に来て打つのはどうですか?」というやり方で導入するのも良い方法です。―投与量の調整方法について教えてください。 GLP-1受容体作動薬はインスリン製剤と同じ注射薬ですが、インスリン製剤のような細やかな投与量の調整をする必要はありません。ただし、副作用としてみられる下痢や便秘、嘔気などの消化器症状が投与初期に認められるため1)、1回の投与量が決められている週1回の製剤ではなく、1日1回もしくは2回注射の製剤の場合は、最小用量から始め、様子をみながら、各製剤の添付文書に従って、増量していくのがよいでしょう。―適切な併用薬について教えてください。 前述のように、GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に、体重減少効果が期待できます。さらなる体重減少という点で、体重減少効果のあるSGLT2阻害薬との併用※も効果的です。 (※2017年8月現在、日本でSGLT2阻害薬との併用が認められているのは、「リラグルチド(商品名:ビクトーザ)」、「リキセナチド(商品名:リスキミア)」と「デュラグルチド(商品名:トルリシティ)」のみ。) また、SGLT2阻害薬を使っていて、体重が増加してしまう場合に、体重減少を期待して、GLP-1受容体作動薬を上乗せするのもよいでしょう。実際に、海外で行われた、GLP-1受容体作動薬「エキセナチド(商品名:ビデュリオン)」と、SGLT2阻害薬「ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)」の併用の効果をみた「DURATION-8試験」で、それぞれの単独療法よりも、血糖低下および体重減少において効果が認められたことが示されました2)。 また、GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型と、半減期の短い短時間作用型があり、短時間作用型では、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少に加え、「食後高血糖の抑制作用」が期待できますが、空腹時高血糖の改善は得意ではないため、空腹時血糖値を低下させるSU薬やチアゾリジン薬、ビグアナイド(BG)薬、SGLT2阻害薬との併用が効果的です。一方、長時間作用型では、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。食後高血糖を改善する速効型インスリン分泌促進薬やα-グルコシダーゼ阻害(GI)薬との併用がよいでしょう。ただし、SU薬や速効型インスリン分泌促進薬のように、インスリン分泌を直接惹起する経路に働く薬剤とそれを増幅させるGLP-1受容体作動薬を併用することはより効果的ではありますが、SU薬や速効型インスリン分泌促進薬の効果を増幅させることで、低血糖リスクが増加する恐れがあるため、慎重に投与する必要があります。―長期使用における安全性について教えてください。 インクレチン関連薬は、SU薬など古くから使われる糖尿病治療薬に比べると比較的新しい薬剤ですので、長期の安全性を懸念される方も多いと思います。GLP-1受容体作動薬では、DPP-4阻害薬と同様、膵炎や膵がんといった膵疾患との関連がいわれていますが、現時点で、GLP-1受容体作動薬においても、これら膵疾患への関連について、前向きに検討した報告はありません。ただ、GLP-1の薬理効果について、まだ十分解明されていない部分も多いため、長期安全性を含め、今後、未知な生理作用や副作用について、みていく必要はあります。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017. 文光堂;2016.2)Frias JP, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:1004-1016.

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GLP-1製剤、パーキンソン病の運動機能を改善/Lancet

 GLP-1受容体作動薬エキセナチドを中等度のパーキンソン病患者に投与すると、運動機能が改善する可能性があることが判明した。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのDilan Athauda氏らが、62例を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で、Lancet誌オンライン版2017年8月3日号で発表した。エキセナチド2mgを48週間投与、60週後の運動機能変化を比較 Athauda氏らは2014年6月18日~2015年3月13日にかけて、25~75歳の中等度パーキンソン病の患者62例を無作為に2群に分け、通常服用している薬に加え、一方にはエキセナチド2mgを(32例)、もう一方にはプラセボを(30例)、それぞれ週1回48週にわたり皮下投与した。その後、試験薬を中止し12週間のウォッシュアウト後(60週時点)に最終評価を行った。 被験者は、Queen Square Brain Bank基準で特発性パーキンソン病の診断を受け、ドーパミン療法によるウェアリング・オフ現象を伴い、治療下の症状はホーン・ヤール重症度分類で2.5以下だった。患者および研究者は、治療割り付けについてマスキングされていた。 主要アウトカムは、実質的に非薬物治療下と定義される時点(60週)で評価したベースライン(0週)からの、国際運動障害学会が作成したパーキンソン病統一スケール「MDS-UPDRS」の運動機能サブスケール・パート3の変化値に関する両群間の補正後差だった。エキセナチド群で運動機能サブスケールは1.0ポイント改善 有効性解析には、無作為化後の追跡評価を完遂したエキセナチド群31例、プラセボ群29例が含まれた。 0~60週時のMDS-UPDRS・パート3スコアの変化値は、エキセナチド群が-1.0点(95%信頼区間[CI]:-2.6~0.7)と改善を示したのに対し、プラセボ群は2.1点(同:-0.6~4.8)と悪化が示された。両群の補正後平均差は-3.5点(同:-6.7~-0.3、p=0.0318)で有意差が認められた。 有害事象は、注射部位反応と消化器症状の発現が両群で最も頻度が高かった。重篤な有害事象は、エキセナチド群で6件、プラセボ群では2件報告されたが、いずれも試験による介入とは関連がないと判断された。 なお結果について著者は、「エキセナチドの陽性効果は、投与期間を過ぎてからも示されたが、エキセナチドがパーキンソン病の病態生理に影響を及ぼすのか、それとも単に持続的な症候性の作用が引き起こされただけなのかは不明である」と述べ、長期の検討を行い、エキセナチドの日常的な症状への効果を調べる必要があるとしている。

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インクレチン薬で死亡リスク上昇せず、189件のRCTメタ解析/BMJ

 中国・West China HospitalのJiali Liu氏らは、インクレチン関連薬の無作為化試験についてシステマティックレビューとメタ解析を行い、2型糖尿病患者に対するインクレチン関連薬による治療が死亡リスクを上昇させるというエビデンスは得られなかったと報告した。大規模無作為化試験(SAVOR-TIMI 53)において、サキサグリプチンはプラセボと比較して死亡率が高い(5.1% vs.4.6%)傾向が示され、インクレチン関連薬による治療と死亡リスク増加との関連が懸念されていた。BMJ誌2017年6月8日号掲載の報告。インクレチン関連薬の無作為化比較試験189件をメタ解析 研究グループは、GLP-1受容体作動薬またはDPP-4阻害薬と、プラセボまたは糖尿病治療薬(実薬)を比較した、2型糖尿病患者対象の無作為化試験について、Medline、Embase、the Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、ClinicalTrials.gov.を用いて検索した。収集と解析として、2人の研究者が独立して、引用文献のスクリーニング、バイアスリスクの評価、データ抽出を行った。189件の無作為化試験(合計15万5,145例)が解析に組み込まれた。 統合効果推定値はPeto法を用いて算出し、感度解析には他の統計法を使用した。また、事前に設定された6つの項目(ベースライン時の心血管疾患、インクレチン関連薬の種類、追跡期間の長さ、対照薬の種類、治療の形態、使用したインクレチン関連薬)について、メタ回帰分析にて探索的に異質性を検証した。エビデンスの質の評価にはGRADE法を使用した。インクレチン関連薬の死亡リスクは対照薬と同程度 189件の無作為化試験すべてにおいてバイアスリスクは低~中程度で、そのうち77件では死亡の報告がなく、112件(計15万1,614例)において3,888例の死亡が報告された。 189件をメタ解析した結果、インクレチン関連薬と対照薬の間で全死因死亡に差は認められなかった(1,925/8万4,136例 vs.1,963/6万7,478例、オッズ比:0.96、95%信頼区間[CI]:0.90~1.02、I2=0%、5年間のリスク差:-3イベント/1,000例[95%CI:-7~1]、エビデンスの質:中程度)。 サブグループ解析において、DPP-4阻害薬ではなくGLP-1作動薬で死亡リスクが低下する可能性が示唆されたが、信頼性は低かった。感度解析で効果推定値に重要な差は示されなかった。 著者は、「GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の間に効果の違いがあるかどうか、今後の検証が必要である」とまとめている。

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高齢者糖尿病診療ガイドライン2017発刊

 「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」による「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」(2016年5月)を受け、2017年5月開催の第60回 日本糖尿病学会年次学術集会において、『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』(編・著 日本老年医学会・日本糖尿病学会)が書籍として発刊された。高齢者糖尿病診療ガイドライン2017はCQ方式で15項目に分けて記載 『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』はクリニカルクエスチョン(以下「CQ」)方式でまとめられ、CQ一覧を冒頭に示し、これに対する要約、本文、引用文献(必要により参考資料)のフォーマットで記されている。そして、可能な場合はエビデンスレベル(レベル1+および1~4)、推奨グレード(AおよびB)を付している。 『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』の具体的な内容としては、I.高齢者糖尿病の背景・特徴、II.高齢者糖尿病の診断・病態、III.高齢者糖尿病の総合機能評価、IV.高齢者糖尿病の合併症評価、V.血糖コントロールと認知症、VI.血糖コントロールと身体機能低下、VII.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標、VIII.高齢者糖尿病の食事療法、IX.高齢者糖尿病の運動療法、X.高齢者糖尿病の経口血糖降下薬治療とGLP-1受容体作動薬治療、XI.高齢者糖尿病のインスリン療法、XII.高齢者糖尿病の低血糖対策とシックデイ対策、XIII.高齢者糖尿病の高血圧、脂質異常症、XIV.介護施設入所者の糖尿病、XV.高齢者糖尿病の終末期ケア、と大きく15項目に分けて記載されている。時間がないときは高齢者糖尿病診療ガイドラインの要約だけでも通読 高齢者糖尿病患者に特有の身体的特徴などを踏まえて、『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』では次のように示されている。たとえば「低血糖」について、「高齢者糖尿病の低血糖にはどのような特徴があるか?」のCQに対し、要約では「高齢者の低血糖は、自律神経症状である発汗、動悸、手のふるえなどの症状が減弱し、無自覚低血糖や重症低血糖を起こしやすい。低血糖の悪影響が出やすい」と端的に示されている。また、食事療法の「高齢者における食事のナトリウム制限(減塩)は有効か?」では、「高齢者においても減塩は血圧を改善する(推奨グレードA)」と記されており、運動療法の「高齢者糖尿病において運動療法は血糖コントロール、認知機能、ADL、うつやQOLの改善に有効か?」では、「高齢者糖尿病でも定期的な身体活動、歩行などの運動療法は、代謝異常の是正だけでなく、生命予後、ADLの維持、認知機能低下の抑制にも有効である(推奨グレードA)」と記載されている。 今後、さらに増えると予測される高齢者糖尿病患者の診療に、『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』をお役立ていただきたい。

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高齢者における潜在性甲状腺機能低下症への対応(解説:吉岡 成人 氏)-673

潜在性甲状腺機能低下症とその頻度 血中サイロキシン(T4)あるいは遊離サイロキシン(FT4)値は基準範囲にありながら、血中TSHのみが基準値上限を超えて高値を示している場合が潜在性甲状腺機能低下症である。血清TSHが10μU/mLを超え、血清FT4が基準値を下回っている場合は顕性甲状腺機能低下症と診断される。潜在性甲状腺機能低下症の診断には血清TSHの測定が最も重要であるが、TSH値の基準値の上限は加齢に伴い変化し、40歳以上では10歳ごとに0.3μU/mL上昇すると報告されており1)、日本人においても同様の傾向が確認されている2)。 日本における潜在性甲状腺機能低下症の疫学を検討した聖路加国際病院予防医療センターの成績によれば、頻度は、健診受診者のうち4.03%(38万6,846人中1万5,540人、男性1.99%、女性2.03%)、男女とも加齢とともに頻度が増加することが報告されている3)。潜在性甲状腺機能低下症の治療 潜在性甲状腺機能低下症であることのデメリットとしては、倦怠感などの自覚症状の出現、脂質代謝への悪影響、動脈硬化の進展、心機能の低下、妊婦においては流・早産の増加、児の精神発育遅延などが挙げられる。しかし、潜在性甲状腺機能低下症を治療することに対しての十分なエビデンスは確立しておらず、一般的には、TSHが10μU/mL以上の場合に甲状腺ホルモンを補充することが多いものの、TSHが10μU/mL未満の「軽症」患者にどのように対応するかについては意見の一致をみていない。日本甲状腺学会の「Subclinical hypothyroidism潜在性甲状腺機能低下症:診断と治療の手引き」にはTSHが10μU/mLを持続して超える場合に補充を行うとしながらも、甲状腺ホルモンを補充することの有用性と危険性を勘案し、個々の患者の状況を総合的に判断して補充の適応を考慮すべきとしている4)。一般に、抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体が陽性の場合には顕性甲状腺機能低下症に移行しやすいことが知られており、慢性甲状腺炎などの疾患が背景に隠れていないかどうかを判定することも重要である。また、甲状腺ホルモンを補充することの有害性としては、潜在性冠不全の顕性化、心房細動の誘発、骨粗鬆症の進行などが挙げられ、80歳以上の高齢者では慎重に治療の適否を判定すべきである。高齢潜在性甲状腺機能低下症患者への対応 NEJM誌オンライン版2017年4月3日号に65歳以上の高齢潜在性甲状腺機能低下患者を対象として甲状腺ホルモンを投与することの有用性を検討した無作為二重盲検プラセボ対照試験の結果が掲載されている5)。737名(女性396名)、平均年齢74.4歳の潜在性甲状腺機能低下症患者に甲状腺ホルモンを投与しても、甲状腺機能低下症の症状や甲状腺関連QOLに関した質問票の疲労感のスコアには差を認めないという結論が示されている。甲状腺ホルモンを補充することの有害事象である、心房細動や心不全、骨粗鬆症の出現についても差はなかったという。甲状腺自己抗体の測定は実施しておらず、慢性甲状腺炎患者の頻度などは勘案されていない。この臨床試験の結果を日常診療の現場に即座に置き換えることの有用性についてはさらなる検証が必要である。とはいえ、顕性の甲状腺機能低下症患者はもちろん治療の対象となるが、TSHの異常のみを指摘された潜在性甲状腺機能低下症の高齢者に対しては、慌てることなく、十分な経過観察を行い、甲状腺ホルモンの補充の必要性についても慎重に考えてよいといえる。参考文献1)Boucai L, et al. Thyroid. 2011; 21: 5-11.2)Yoshihara A, et al. Thyroid. 2011; 58: 585-588.3)武田京子.日本甲状腺学会誌.2015;6:95-98.4)網野信行ほか.ホルモンと臨床.2008;56:705-724.5)Stott DJ, et al. N Engl J Med. 2017 Apr 3. [Epub ahead of print]

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第9回 SGLT2阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第9回】SGLT2阻害薬による治療のキホン―どのような患者さんに適しているのでしょうか。 健康成人では、1日に約180gのグルコースが腎臓の糸球体でろ過され、一旦、尿中に排泄されますが、尿中に排泄されたグルコースは、近位尿細管の細胞膜上に発現しているトランスポーター(共輸送体)であるSGLTを介して再吸収され、血液中に運ばれます。SGLTには1~5の5つのサブタイプがあり、腎臓にはSGLT1およびSGLT2が発現していますが、近位尿細管におけるグルコースの再吸収は、約90%はSGLT2が、残りの約10%をSGLT1が担っています1)。 SGLT2阻害薬は、選択的にSGLT2を阻害し、近位尿細管におけるグルコースの再吸収を阻害して、そのまま尿中に排泄させることで、血糖を低下させます。インスリン分泌を介さずに血糖を低下させるという特徴に加え、血糖低下以外にも、尿糖排泄によるエネルギー漏出の代償として、体重減少が期待できるという特徴があります(約65~80g程度のグルコースが排出され、1日当たり260~360kcalのエネルギー消費に相当2))。尿糖排泄は血糖依存性で、血糖値が高ければ高いほど尿糖排泄量は増加するため、食後の高血糖改善に適しているように思えますが、尿細管での再吸収阻害による尿糖排泄速度が、食後の腸管からの糖の吸収速度には追いつかないため、どちらかというと食後よりも空腹時に対する効果が期待できます。そのため、空腹時血糖値が高く、肥満があり、高インスリン血症を来しているような患者さんが適しています。 単独、併用、いずれにおいても血糖低下効果は期待できますが、これまでのインスリン分泌やインスリン感受性に働きかけて血糖を低下させる薬剤とまったく異なる作用機序であるため、第1選択薬として用いるよりも、第2、第3の薬剤として用いることで、他の薬剤との併用による上乗せ効果を得やすいという特徴があります。 SGLT2阻害薬は、インスリン分泌を介さずに、尿中への糖の排泄を促進することで、強力、かつ速やかに血糖を低下させるため、糖毒性が軽減できることが明らかになっています3)。他の経口血糖降下薬を使っていても血糖コントロール不良で、高血糖が持続し、糖毒性を来していると考えられる患者さんに上乗せすることで、膵β細胞を休ませながら、速やかに血糖を低下させ、糖毒性を解除するという使い方ができます。 糖毒性が解除されると、それまで使っていた薬剤の効果が増強されます。例えば、DPP-4阻害薬を使っていても血糖コントロール不良な患者さんの場合、高血糖状態の持続により、膵β細胞のGLP-1受容体の発現が低下してしまいます。そのため、DPP-4阻害薬の効果が十分発揮できていない可能性があります。そこにSGLT2阻害薬を上乗せすると、インスリン分泌を介さない速やかかつ強力な血糖低下作用により、急速に糖毒性が解除され、ブドウ糖応答インスリン分泌(食後のインスリン追加分泌)が回復します。加えて、低下していたGLP-1受容体の発現が増加し、それにより、高血糖状態が持続していた時に効きの悪かったDPP-4阻害薬の効果が増強されるようになります。実際に、フロリジンを投与した膵切除高血糖ラットで、膵臓β細胞におけるGLP-1受容体の増加がみられたことが報告されています4)。 糖毒性が解除され、既存の薬剤の効果が増強されると、急激に血糖値が下がってくる恐れがあるため、低血糖を惹起しやすいSU薬などを併用している場合は注意が必要です。高用量のSU薬を使っている場合は、SGLT2阻害薬を併用する際には、減量を検討したほうがよいでしょう。 SGLT2阻害薬については、血糖低下作用以外に、体重減少が期待でき、体重についても、血糖低下と同様、投与初期から効果がみられるため、それを期待して肥満の患者さんに投与することがありますが、前述したように、尿糖排泄により、エネルギーが漏出するため、最初は体重が減少するものの、しばらくするとエネルギーの枯渇により空腹感が増したり、甘いものが食べたくなるなどして、体重が増加してしまうケースがあります。実際に、自由摂餌下でSGLT-2阻害薬を投与した食餌性肥満ラットにおいて、摂餌量の増加が認められたことが報告されています5)。SGLT2阻害薬を投与した患者さんでは、定期的に食事療法をチェックし、問題があれば見直す必要があります。 SGLT2阻害薬を使っていて、体重が増加してしまうような患者さんに対して、食欲抑制効果を有するGLP-1受容体作動薬を併用するのも良い方法です※。実際に、海外で行われた、GLP-1受容体作動薬エキセナチド(商品名:ビデュリオン)と、ダパグリフロジンの併用療法の効果をみたDULATION-8試験で、それぞれの単独療法よりも、血糖低下および体重減少において効果が認められたことが示されています6)。 ※現在、日本でSGLT2阻害薬との併用が認められているのは、1日1回投与のリラグルチド(商品名:ビクトーザ)と週1回投与のデュラグルチド(商品名:トルリシティ)のみ。―各製剤の特徴について教えてください。 2014年に最初のSGLT2阻害薬が発売され、今では6種類7製剤のSGLT2阻害薬が臨床使用できるようになりました(2016年3月現在)。これらSGLT2阻害薬の血糖低下作用はおおむね同等と思っていますが、私は、腎でグルコースの再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 前述したように、腎における糖の再吸収の約90%はSGLT2阻害薬が主にターゲットとしているSGLT2によりますが、残り10%はSGLT1が担っています1)。SGLT1は主に小腸上部に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています7)。SGLT2に選択性が高いSGLT2阻害薬の場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追いつかない、つまり食後の高血糖を十分是正できない、という問題が出てきます。これがSGLT2阻害薬の弱点でもあるのですが、SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、そのような薬剤では、食後の小腸における糖の吸収遅延による食後高血糖の改善が期待できます。実際に、健康成人を対象に、SGLT2に対する選択性が低いカナグリフロジン(商品名:カナグル)とプラセボを投与した無作為化二重盲検比較試験で、カナグリフロジンで、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したという報告があります8)。また、健康成人を対象に、カナグリフロジンと、カナグリフロジンに比べてSGLT2に対する選択性が高いダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の薬力学的効果を比較した無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、カナグリフロジンで食事負荷試験後の血糖上昇を抑制したことが報告されています9)。これは、小腸における糖の吸収遅延により食後高血糖を改善するα-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。―尿路感染症や性器感染症が心配です。実際、どのくらいの頻度で発生するのでしょうか。 SGLT2阻害薬では、尿糖排泄作用により、尿中の糖が増えることで、尿路および生殖器が易感染状態となり、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなる可能性があります。発現頻度については、各薬剤の治験および市販後調査の結果が発表されていますので、そちらを参考にしていただければと思います。 SGLT2阻害薬を処方する際には、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなることをあらかじめ患者さんに伝えたうえで、尿意を我慢しないこと、陰部を清潔に保つことを心掛けてもらい、排尿痛や残尿感、陰部のかゆみ、尿の濁りなどがあればすぐに受診するよう、伝えます。また、適宜、問診や検査を行って発見に努めるようにします。―高齢者における安全性はどのように考えればよいのでしょうか。 尿糖排泄を促進するSGLT2阻害薬では、浸透圧利尿作用が働き、頻尿・多尿になり、体液量が減少するために、脱水症状を起こすことがあります。この循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されているため、脱水には十分注意する必要があります。高齢者は特に脱水を起こしやすいため、高齢者への投与は無理をせず、慎重に行います。 日本糖尿病学会による「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」10)では、高齢者に対するSGLT2阻害薬の使用については、「75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する」としています。 SGLT2阻害薬の尿糖排泄促進作用は、血糖に依存します。つまり、血糖値が高ければ高いほど、尿へ排泄される糖の量が多くなるため、尿量も増加します。そのため、血糖値が高い投与初期は、とくに注意する必要があります。患者さんには、SGLT2阻害薬で脱水を生じる可能性があることを伝えたうえで、意識して水分を多く摂取するよう指導します。尿量が指標になるため、尿量が多いと感じたら、いつもより水分を多めに摂取するように、というのもよいでしょう。また、夜に糖質の多い食事をたくさん食べてしまうと、夜間の尿量が増え、排尿のために睡眠が妨げられてしまうことがあります。快適な睡眠のためにも、夜は糖質の多い食事を控えるのもよいでしょう。発熱や嘔吐・下痢などがあるとき、食欲がなく、食事が十分とれないときには(シックデイ)、脱水の原因にもなりますので、休薬してもらいます。 SGLT2阻害薬を投与しているときは、血液検査所見で脱水がないかどうかを定期的に観察します。脱水の代表的な指標はヘマトクリット(Ht)値ですが、腎に作用するSGLT2阻害薬では、腎から分泌され、赤血球の産生を促すホルモンである、エリスロポエチンに影響を及ぼす可能性が指摘されていますので、合わせてBUNやCreでみるのがよいと思います。1)Fujita Y, et al. J Diabetes Investig. 2014;5:265-275. 2)羽田勝計、門脇孝、荒木栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.3)Bailey CJ. Trends Pharmacol Sci. 2011;32:63-71.4)Gang Xu et al. Diabetes 2007; 56: 1551-15585)Devemy J et al. Obesity 2012; 20(8):1645-16526)Frias JP, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:1004-1016.7)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014.8)Polidori D, et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.9)Sha S, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:188-197.10)SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」

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リラグルチドの糖尿病発症予防効果は160週にわたって持続する(解説:住谷 哲 氏)-660

 リラグルチドが、肥満合併前糖尿病患者の糖尿病への進展を56週にわたって抑制することはすでに報告されていた1)。本論文は、その試験の160週にわたる結果であり、56週でみられた糖尿病発症予防効果は、160週にわたって持続することが明らかとなった。肥満合併前糖尿病患者は年々増加しており、生活習慣への介入のみでは減量に難渋することが多い。わが国でもリラグルチドがこの目的で使用可能となれば朗報であろう。 リラグルチドがどのようなメカニズムで前糖尿病から糖尿病への進展を抑制したのかは本試験からは明らかではない。1つには体重減少による内臓脂肪量の減少がインスリン抵抗性を改善した可能性、もう1つはGLP-1受容体作動薬の主作用であるインスリン分泌能の改善による可能性が考えられる。しかし、現実的には両者が相互に作用した結果と考えるのが妥当だろう。 本試験でのリラグルチドの投与量は3.0mgであり、現在のわが国での投与上限の約3.3倍に相当する。当然のことながら種々の副作用が生じることが予想される。以前から指摘されている胆石を含む胆道疾患もリラグルチド群で増加していた。その他の注意すべき副作用としては、リラグルチド投与群で乳腺悪性腫瘍の発症が有意ではないが増加傾向にあった点であろう。 最後に医療費についても考慮する必要があるだろう。本試験でもリラグルチド投与を中止すると12週で体重が増加していた。つまり、糖尿病発症を予防するためにはリラグルチドを半永久的に投与しつづける必要があることになる。これは、cost-benefitを考えると非現実的といわざるを得ない。この点では、手術が成功すれば長期間にわたり糖尿病発症予防が期待できるbariatric surgeryに分があるように思われる。 肥満の治療は難しい。摂取カロリーを減らすか、消費カロリーを増やすかすれば肥満は解消できるという単純な物理法則が日常臨床で現実化しないのがもどかしい。ここに薬物療法やbariatric surgeryの介入する余地があることになる。しかし副作用もなく、費用もかからないのはやはり食事運動に注意して定期的に体重計(SCALE)に乗ることだろう。

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GLP-1アナログ製剤で乳がんリスクは増大するか/BMJ

 英国のプライマリケアデータベースを用いたコホート研究の結果、GLP-1アナログ製剤の使用と乳がんリスク上昇との関連性は確認されなかった。カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M Hicks氏らが、2型糖尿病患者の乳がん発症リスクとDPP-4阻害薬あるいはGLP-1アナログ製剤の使用との関連を解析し、報告したもの。GLP-1アナログ製剤のリラグルチドでは、無作為化試験においてプラセボと比較し乳がん発症が多くみられたことが報告されていたが、この安全性について分析する観察研究は、これまでなかった。著者は、「検討では、使用期間2~3年ではリスク上昇が観察されたが、GLP-1アナログ製剤使用患者の乳がん検出率が一時的に増加したためと考えられる。ただし、発がんプロモーターの影響を排除することはできない」と述べている。BMJ誌2016年10月20日号掲載の報告。DPP-4阻害薬またはGLP-1アナログ製剤を投与された約4万5,000例について解析 研究グループは、英国のプライマリケアの診療記録が登録されたClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用い、1988年1月1日~2015年3月31日の間に非インスリン血糖降下薬を初めて処方された(初回処方以前に最低1年の治療歴があること)40歳以上の女性を特定し、このうち2007年1月1日~2015年3月31日にインクレチン製剤の投与が開始され1年以上記録のある4万4,984例を対象に、2016年3月31日まで追跡した。 解析には時間依存型Cox比例ハザードモデルを用い、DPP-4阻害薬(シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン)使用とGLP-1アナログ製剤(エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド)使用による、乳がん発症について比較した。DPP-4阻害薬と比べGLP-1アナログ製剤で乳がんリスクの増大は確認されず 平均追跡期間3.5年(標準偏差2.2年)において、549件の乳がん発症が認められた(粗発生率3.5/1,000人年、95%信頼区間[CI]:3.3~3.8)。 DPP-4阻害薬使用患者と比較し、GLP-1アナログ製剤使用患者で乳がんリスクの上昇は認められなかった(発生率はそれぞれ1,000人年当たり4.4 vs.3.4、ハザード比[HR]:1.40、95%CI:0.91~2.16)。HRは使用期間が長いほど増大し、GLP-1アナログ製剤累積使用期間が2~3年で最も高値を示した(HR:2.66、95%CI:1.32~5.38)。しかし、3年超ではその傾向は消失した(HR:0.98、95%CI:0.24~4.03)。GLP-1アナログ製剤の初回使用からの経過期間別の解析でも、同様の傾向が確認された。 なお、著者は今回の結果について、「乳がんの家族歴などの残余交絡因子や、追跡期間が短いといった点で限定的なものである」と指摘している。

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第6回 DPP-4阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第6回】DPP-4阻害薬による治療のキホン―DPP-4阻害薬の長期投与の安全性について教えてください。 最初のDPP-4阻害薬が海外で臨床使用されるようになってから約10年、国内で使用されるようになってから約7年が経過し、今では国内外で多くの糖尿病患者さんに使われています。しかし、古くから使われているSU薬やビグアナイド(BG)薬などに比べると使用期間が長くないため、長期投与の安全性について懸念される先生方も多いと思います。 DPP-4阻害薬については、心不全による入院リスクの増加が指摘されており、それを受け、1万4,671例の心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象に、通常治療へのシタグリプチン追加の心血管に対する安全性を検討した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験「TECOS(Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after treatment with Sitagliptin)」が行われました1)。その結果、追跡期間中央値3年(四分位範囲2.3~3.8年)で、主要評価項目である心血管疾患死、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の複合エンドポイントにおいて非劣性が示されており、これら有害事象のリスク上昇はみられなかったという結論に至っています※。また、類薬でも心血管に対する安全性を検討した試験が報告されています2)。 ※本試験でのシタグリプチン投与量は「100mg/日(30mL/分/1.73m2≦eGFR<50mL/分/1.73m2例は50mg/日)」となっており、国内での用法・用量は「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」です。 しかし、DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPおよびGLP-1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することで血糖値を下げる薬剤で、DPP-4は、免疫応答調節に関与するCD26などの活性化T細胞をはじめとし、さまざまな器官の細胞に存在するため、GIPおよびGLP-1以外の物質やホルモンなどに影響を及ぼす可能性があると考えられています。そのため、さらに長期的な安全性については、より多くの実臨床における使用成績が蓄積されることで、現時点で確認されていない有害事象を含め、わかってくることと思います。―DPP-4阻害薬の膵臓がんとの関連について教えてください。 DPP-4阻害薬の膵疾患との関連については以前より議論されており、さまざまな解析が行われ、多くの専門家がそれらを考察していますが、現在のところ、膵臓に対する安全性として、米国糖尿病学会(ADA)および欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は、情報が十分でないため、DPP-4阻害薬による治療に関する推奨事項を修正するには至らないという合同声明を発表しています3)。 国内では、保険会社の医療費支払い申請のデータベースを基に、DPP-4阻害薬における急性膵炎の発症を検討した後ろ向き解析で、急性膵炎のリスクを高めないという報告もありますが4)、現時点で、膵炎や膵臓がんなどへのDPP-4阻害薬の関与について、十分な症例数で、十分な期間、前向きに検討した試験はありません。しかし最近、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、CNODES試験5)で確認されました。CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン関連薬とその膵がんリスクの関連を検証した国際的な他施設共同コホート研究であり、カナダ、米国、英国の6施設が参加し2007年1月1日~2013年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2384例が解析の対象となりました。DPP-4阻害薬では、リナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬ではエキセナチド、リラグルチドが含まれました。SU薬と比較したインクレチン関連薬の膵がん発症の補正ハザード比[HR]は、1.02(95%信頼区間[CI]: 0.84~1.23)であり、有意な差を認めませんでした。また、SU薬と比べて、DPP-4阻害薬(補正HR: 1.02、95%CI: 0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(補正HR:1.13、95%CI:0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等でした。治療開始後の期間についても、インクレチン関連薬の膵がんリスクに有意な影響はありませんでした。この論文では、インクレチン関連薬に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要はあるものの、今回の知見によりインクレチン関連薬の安全性が再確認された、と結論付けています。 DPP-4阻害薬の中には、重要な基本的注意として「急性膵炎が現れることがあるので、持続的な激しい腹痛、嘔吐などの初期症状が現れた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう患者に指導すること」とされているものもあります。なお、糖尿病患者さんでは、健康成人に比べて急性膵炎や膵がんの発症率が高いので6)、DPP-4阻害薬使用の有無にかかわらず、注意して観察する必要があります。―1日1回、1日2回、週1回の製剤はどのような基準で選べばよいのか、教えてください。 投与回数はアドヒアランスに影響しますので、まずは患者さんの服薬状況やライフスタイルによって選ぶとよいと思います。アドヒアランスは効果に反映します。毎日きちんと服薬できているような患者さんでは問題ありませんが、仕事が忙しく、どうしても飲み忘れてしまうという患者さんや、勤務時間がバラバラだったり、夜勤などもあって、服薬が習慣化できないような患者さんでは、1日2回より1日1回、1日1回よりは週1回のほうが飲み忘れが少なくなるかもしれません。―DPP-4阻害薬の各薬剤間に大きな違いはあるのでしょうか。どのように使い分けをすべきか、教えてください。 DPP-4阻害薬の使い分けについては、第2回 薬物療法のキホン(総論)―同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。をご覧ください。1)Green JB, et al. N Engl J Med. 2015;373:232-242.2)Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1317-1326.3)Egan AG, et al. N Engl J Med. 2014;370:794-797.4)Yabe D, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:430-434.5)Azoulay L, et al. BMJ. 2016;352:i581.6)Ben Q, et al. Eur J Cancer. 201;47:1928-1937.

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GLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑止しうるか(解説:吉岡 成人 氏)-603

はじめに  いくつもの大規模臨床試験により、糖尿病治患者の心血管イベントを抑制するためには、発症早期からの集約的な代謝管理が有用であることが確認されている。一方、罹病期間が長く、心血管イベントを発症するリスクが高い患者やすでに心血管疾患の既往がある患者では、インスリンを中心とした薬剤で厳格な血糖管理を目指すことは、低血糖のリスクが高まり、心血管イベントを抑止しえないことも広く知られている。このような背景を基に、インクレチン製剤はGLP-1やGLP-1の代謝産物を介して心保護作用が期待され、心血管イベントに対する有用性を臨床的にも示すデータが待ち望まれていた。しかし、DPP-4阻害薬であるサキサグリプチン、アログリプチン、シタグリプチンを用いたSAVOR-TIMI53、EXAMINE、TECOSの各試験においては、プラセボと比較して心血管イベントに対する非劣性を示すにとどまった。一方、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンがEMPA-REG試験で心不全の減少を介すると思われる心血管イベント抑制の効果を証明し、その後の解析によって腎保護作用を持つことも示唆されている。GLP-1受容体作動薬と心血管イベント 2016年の米国糖尿病会議において、リラグルチドによって2型糖尿病患者の心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死的脳卒中)が一定の割合で抑制される(ハザード比0.87、95%信頼区間、0.87~0.97)ことを示したLEADER試験(Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results)は大きな話題となったが、有意差はないもののリラグリチド投与群で13例、プラセボ群で5例の膵臓癌の発生(p値0.06)というデータが気にかかった。さらに、急性心不全で入院した患者を対象としてリラグルチドを投与したFIGHT 試験(Functional Impact of GLP-1 for Heart Failure Treatment1))では、リラグルチドによって心不全の予後は改善せず、糖尿病患者に限定すると、予後を悪化しかねないことも示された。リキシセナチドを用いたELIXA試験(Evaluation of Lixisenatide in Acute Coronary Syndrome)でも心血管疾患に対する保護効果はなく、GLP-1受容体作動薬の心血管イベントに対する臨床効果に懸念が持たれた。GLP-1受容体作動薬、週1回製剤の場合 現在、日本において週1回投与が可能なGLP-1受容体作動薬はビデュリオン(エキセナチドをマイクロスフェアに包埋し持続的に放出する製剤)とトルリシティ(デュラグルチド、アミノ酸を置換したヒトGLP-1アナログ2分子にIgG4のFc領域を融合し、吸収速度と腎排泄を低下させ作用時間を延長させる製剤)が発売され、毎日の自己注射が難しい高齢者などを中心に使用が広まっている。 このような背景のもと2016年9月15日号のNEJM誌にノボノルディスクファーマで開発中のGLP-1受容体作動薬、週1回投与製剤であるセマグルチドの心血管イベントに対する影響を検討した研究(SUSUTAIN-6:Trial to Evaluate Cardiovascular and other Long-Term Outcomes with Semaglutide in Subjects with Type2 Diabetes)の報告が掲載された。 20か国230施設にて、50歳以上で心血管疾患の既往がある慢性心不全または慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上、または60歳以上で心血管リスク因子(心血管疾患の既往、50%以上の冠動脈病変、運動負荷試験で陽性など)を有するHbA1c7.0%以上の糖尿病患者3,297例を対象としている。対象患者の糖尿病の平均罹病期間は13.9年、平均HbA1cは8.7%、平均体重は87.2kgで、観察期間(中央値2.1年)中に、セマグルチド投与群で6.6%、プラセボ群で8.9%に心血管複合イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)が認められ、ハザード比は0.74(95%信頼区間:0.58~0.95、非劣性p<0.001)であった。セマグルチド0.5mg、1.0mg投与群でHbA1cはそれぞれ1.1%、1.4%低下し、体重も3.6kg、4.9kg低下した。膵癌の発生はセマグルチド群1例、プラセボ群4例と報告されている。 個々のイベントでは、心血管死についてはセマグルチド群2.7%、プラセボ群2.8%と差はなかったが、非致死性心筋梗塞と非致死性脳梗塞の発症はそれぞれ2.9% vs.3.9%(ハザード比0.74、95%信頼区間:0.51~1.08、p=0.12)、1.6% vs.2.7%(ハザード比0.61、95%信頼区間:0.38~0.99、p=0.04)と、セマグルチド群での低下傾向が認められた。細小血管障害についてはセマグルチド群の3.0%に網膜症の悪化(硝子体出血、光凝固、硝子体内注射など)が認められプラセボ群では1.8%であった(ハザード比1.76、95%信頼区間:1.11~2.78、p=0.02)。おわりに セマグルチド群では嘔気、嘔吐などの消化管の副作用が多いものの、より良好な代謝管理が得られ、心血管リスクが高い患者では心血管イベントに対する有用性も示唆される成績と考えられる。しかし、GLP-1受容体作動薬で今まで指摘されていなかった網膜症の増悪が示唆される点は不気味な印象を覚える。 いずれにしても、諸手を挙げて「GLP-1受容体作動薬は心血管イベントの抑制に有用」と結論付けるには難しい状況が続いている。【お知らせ】本文内の表記を一部変更いたしました(2016年11月7日)。

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週1回の新規GLP-1受容体作動薬、心血管リスクを低下/NEJM

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、プラセボと比較しsemaglutideの投与により心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の発生リスクが26%有意に低下し、プラセボに対するsemaglutideの非劣性が確認された。米国・Research Medical CenterのSteven P. Marso氏らが「SUSTAIN-6試験」の結果、報告した。規制ガイダンスの規定によりすべての新規糖尿病治療薬は心血管系への安全性を立証する必要があるが、約1週間という長い半減期を持つGLP-1受容体作動薬semaglutideの心血管への影響はこれまで不明であった。NEJM誌オンライン版2016年9月15日号掲載の報告。心血管リスクの高い2型糖尿病患者3,297例を対象、プラセボと比較 SUSTAIN-6試験は、semaglutideの心血管安全性を評価する二重盲検無作為化比較対照並行群間試験で、20ヵ国230施設にて実施された。 対象は、50歳以上で心血管疾患(CVD)の既往のある慢性心不全または慢性腎疾患(CKD)ステージ3以上、または60歳以上で1つ以上の心血管リスク因子を有する、HbA1c 7.0%以上の2型糖尿病患者3,297例で、2013年2月~12月に、semaglutide(0.5mgまたは1.0mg)週1回皮下投与を標準治療(運動・食事療法、経口血糖降下薬、心血管系治療薬)に追加する群(semaglutide 0.5mg/週群および1.0mg/週群)と、プラセボ群(プラセボ0.5mg/週群および1.0mg/週群)に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。治療期間は104週間、追跡期間は5週間であった。 主要評価項目は、心血管複合イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中)の初回発生で、プラセボに対するsemaglutideの非劣性マージンは、ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限1.8とした。心血管複合イベントのリスクは26%、非致死的脳卒中リスクは39%、有意に低下 観察期間中央値は2.1年で、ベースライン時の、2型糖尿病平均罹患期間は13.9年、HbA1c平均値は8.7%、2,735例(83.0%)がCVDまたはCKDの既往があった。 心血管複合イベントは、semaglutide群で1,648例中108例(6.6%)、プラセボ群1,649例中146例(8.9%)に発生した(HR:0.74、95%CI:0.58~0.95、非劣性p<0.001)。非致死的心筋梗塞の発症率はそれぞれ2.9%および3.9%(HR:0.74、95%CI:0.51~1.08、p=0.12)、非致死的脳卒中は1.6%および2.7%(HR:0.61、95%CI:0.38~0.99、p=0.04)であった。また、心血管死亡率はsemaglutide群2.7%、プラセボ群2.8%であり、両群で類似していた。 新規腎症発症または悪化率はsemaglutide群で低下したが、網膜症関連合併症(硝子体出血、失明、硝子体内注射または光凝固術などの治療を要する状態)は有意に高値であった(HR:1.76、95%CI:1.11~2.78、p=0.02)。semaglutide群では有害事象による投与中止(多くは胃腸障害)が多かったが、重篤な有害事象はみられなかった。 なお著者は、研究の限界として「他の患者集団や治療期間がより長期的になった場合にも今回の結果が当てはまるかどうかは不明で、semaglutide群で確認された血糖値の低下がどの程度心血管イベントの抑制に寄与しているかも不明である」と述べている。

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トルリシティ週1回注射で糖尿病患者の負担軽減

 8月31日、日本イーライリリー株式会社は、同社の持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)の投薬制限期間が、9月1日に解除されることから、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響」をテーマにプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、糖尿病治療への新しい選択肢を示すとともに、患者の注射に対する意識アンケート調査結果も公表された。トルリシティは簡単な操作で週1回の注射 じめに岩本 紀之氏(同社研究開発本部 糖尿病領域)が、トルリシティの製品概要について説明した。 GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用があり、グルカゴン分泌抑制作用も併せ持つ。胃内容物排出抑制作用があり、空腹時と食後血糖値の両方を低下させ、食欲抑制作用は体重を低下させる作用がある。また、単独使用では、低血糖を来す可能性は低いとされる。 トルリシティは、ヒトGLP-1由来の製剤で、血中濃度半減期は4.5日。1週間にわたり、安定した血中濃度を示すという。 26週の単独使用の国内第III相試験では、HbA1c推移はプラセボ(n=68)がベースラインから+0.14に対し、デュラグルチド(n=280)は-1.43であった。また、HbA1c 7.0未満の達成率(26週後)は、プラセボが5.9%だったのに対し、デュラグルチドは71.4%であった。また、副作用の発現率は29.7%(272/917例)で便秘、悪心、下痢の順で多く、重篤な副作用は報告されていない。低血糖症(夜間・重症含む)の発現は、プラセボ(n=70)で1例、デュラグルチド(n=280)で6例、リラグルチド(n=137)で2例だった。 なお、トルリシティのデバイスであるアテオスは、1回使い切りのデバイスで、わずか3つのステップで使用することができる。インスリンと異なり、針の付け替え、薬剤の混和、空打ちは不要で、訓練を要せずに簡単に使用できるという。 対象は2型糖尿病患者で、週1回、朝昼晩いつでも0.75mgを注射するだけで、優れた血糖低下を発揮する。DPP-4阻害薬はいい治療薬だけれど… セミナーでは、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響~最新の研究結果から、注射に対する抵抗感の現状と未来を考える~」と題して、麻生 好正氏(獨協医科大学 内分泌代謝内科 教授)が、望まれる糖尿病治療薬の在り方と患者アンケートの概要について解説を行った。 糖尿病の概要と現状について、生活環境の変化(身体活動の低下)と食生活の変化(動物性脂肪の摂取の増加)などにより、患者数が50年前と比較し約38倍になっていること、そして、わが国では新しい血糖コントロール目標が2013年より導入され、個別化による目標血糖値に向けて治療が行われていることが説明された。 次に糖尿病の治療薬に望まれることとして、「低血糖を起さない」「治療に伴う体重増加がない」「血糖低下作用が十分ある」の3点を示すとともに、長期血糖コントロール維持と効果の持続性、膵β細胞機能低下抑制、障害のある腎・肝臓でも使用可能、心血管系に悪影響を及ぼさない、長期の安全性なども望まれると説明した。 現在、使用できる糖尿病治療薬の中でも、体重増加を避け、低血糖リスクの低い薬としては、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3種が挙げられる。とくにインクレチン関連薬の「DPP-4阻害薬」はアジア人に効果が高く、わが国でも広く使用されているが、最近増えている欧米型肥満の患者には効果に限界があり、また、経口血糖降下薬だけでは約6割の患者しかHbA1cを7.0%以下に下げることができず、次の治療オプションの模索がされているという。週1回注射のトルリシティは患者のアドヒアランスを向上 もう1つのインクレチン関連薬の「GLP-1受容体作動薬」は、注射薬のために臨床現場では使用へのハードルが高いものであった。しかし、GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬の効果に加え、食欲低下、胃排出能の低下、体重減少効果もあり、抗動脈硬化作用1)も報告されている。他剤との併用では、基礎インスリンが一番効果を発揮し、基礎インスリンの良好な空腹時血糖コントロール、低血糖リスクが少ない、体重増加が少ない、肝糖新生抑制などの特性とGLP-1受容体作動薬の特性とが相まって効果を発揮することで、優れたHbA1cのコントロールをもたらすと期待されている。 先述のように注射というハードル故に、使用に二の足を踏まれていたGLP-1受容体作動薬について、患者へのアンケート調査(糖尿病治療薬[注射製剤]に関する患者調査2))で、次のようなことが明らかになった。 「患者が重視した薬剤属性」では、投与頻度(44.1%)、投与方法(26.3%)、吐き気の頻度(15.1%)、低血糖の頻度(7.4%)と回答が寄せられた。 「投与の度に注射が必要な糖尿病の治療薬を使用したいと思うか?」については、89.5%の患者が使用したくない/あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい/いくらか使用してみたいと回答した患者はわずか1.7%だった。 「トルリシティをどの程度使用してみたいか?」については、37.9%の患者が依然として使用したくない・あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい・いくらか使用してみたいと回答した患者は42.9%となり、上記の1.7%と比較して急伸した。 週1回の注射という患者のアドヒアランスを考慮したGLP-1受容体作動薬の出現は、アンケートにみられた注射への心理的ハードルを越え、たとえば忙しい社会人や在宅治療中の高齢者には、利便性が高く、経口薬だけではない治療の選択肢の幅が拡がるという。 最後に麻生氏は、「これから注射薬の早期導入がしやすくなることで、糖尿病患者の個別化治療の促進や予後の改善が期待される」とレクチャーを終えた。【訂正のお知らせ】本文内の表記を一部訂正いたしました(2016年9月21日)。■参考日本イーライリリー(糖尿病・内分泌系の病気)■関連記事ケアネットの特集「インクレチン関連薬 徹底比較!」

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