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昨年までの高リスク大動脈弁狭窄症(AS)に対するTAVI(TAVR)と外科的AVR(SAVR)の比較検討では、早期成績(30日死亡および入院死亡率)および中期成績(3ヵ月~3年死亡率)に差はないとされてきた1)~4)。また、無作為化割り付け試験において、TAVIはSAVRに比較してstrokeや血管合併症、永久的ペースメーカー装着率、中等度以上の人工弁周囲逆流発生率が高い結果1)が出ている一方、出血の合併症はSAVRに比較してTAVIでは少ない結果が報告されている1),4)。 しかし、Heart Teamが初期のlearning curve を克服しTAVI手技に習熟するにつれ、またデバイスの改良が進むとともにTAVI治療成績が向上していくことは当然のことと予想されてきた。2013年になってTAVIの治療成績のほうが外科的AVRより優れていることを示唆する報告5)が発表され、また、死亡率や心筋梗塞やstroke合併症率は同等でも出血に関する合併症率が少ない点からTAVIのほうが優れているとする報告4)も発表されてきた。さらに、従来TAVIはSAVRより医療コストが高いとされてきたが、入院期間が短いことや再入院率が低いことから経済的にもTAVIの方が有利とする報告6)も出てきた。 今回コメントするAdams氏らの報告7)はそうした流れのなかで出てきたものである。2011年2月~2012年9月の期間に米国内45ヵ所の医療機関の795例を対象に行ったCoreValveを用いた無作為化比較試験の結果、1年死亡率はTAVI群が14.2%、外科群が19.1%とTAVI群で優れていた。また、階層的検定において、弁狭窄に関する心エコー指数、機能的状態、生活の質(QOL)についても、TAVI群の非劣性が示された。 しかしながら、本論文では795例の無作為割り付け後、TAVIに割り付けられた394例中390例(99%)がTAVIを受けたのに対し、SAVRに割り付けられた401例中357例(89%)しかSAVRを受けていない。SAVRで除外された主な理由は“patient withdrew consent”ということであるが、このあたりにかなりのバイアスが入り込む余地がある。また、The Society of Thoracic Surgeons Predictor Risk of Mortality (STS PROM) estimation of the rate of death at 30 daysで10%以上と評価された症例が、TAVI群で53例(13.6%)に対してSAVR群で66例(18.5%)と、重症例がSAVR群で5%多く割り付けられたこともこの結果に影響を与えた可能性があるため、この結果をそのまま一般化することはできない。 もちろん、TAVI手技の大きな流れとして初期のlearning curve を克服しTAVI手技に習熟するにつれ、またデバイスの改良が進むとともにTAVI治療成績が向上していくことは当然と予想されており、本報告はその前兆と考えてよいであろう。 しかしながらTAVI手技にはなお解決が困難な2つの大きな問題がある。【1】硬化狭窄した大動脈弁を切除することなく人工弁を強制的に大動脈弁位に挿入するため、人工弁周囲逆流の発生が避けがたく遠隔期心不全再発が危惧されること、【2】小柄な日本人高齢者では大腿動脈が細く、さらにASOを合併しているなどの理由で大腿動脈アプローチが困難な症例がかなりの確率で存在すること、などである。最近注目されてきた高リスクASに対するSAVR手技にsutureless人工弁を用いたAVRがある。TAVIと同様に高リスクASを対象とした手術手技で、体外循環下に最小限の時間で硬化狭窄した大動脈弁を切除しsutureless人工弁を用いてAVRを行う手技である8)。Santarpino氏はpropensity matched groupにおける検討で、1年半の経過観察で低侵襲手技によるsutureless AVRはTAVIに比較して人工弁周囲逆流発生(0% vs 13.5%)はまったくなく、生存率(97.3% vs 86.5%)も良好であったと報告9)している。 TAVIもデバイスと手技の改良によりさらに成績は向上していくものと期待されるが、一方、SAVRもデバイスと手術手技の改良によりさらに治療成績は向上するものと期待される。今後の展開が楽しみな領域である。(文献) 1.Christopher Cao, et al. Ann Cardiothorac Surg 2013;2:10-23. 2.Takagi H, et al. Ann Thorac Surg. 2013; 96:513-519. 3.Piazza N, et al . JACC Cardiovasc Interv. 2013;6:443-451. 4.Panchal HB, et al. Am J Cardiol. 2013;112:850-860. 5.Silberman S, et al. J Heart Valve Dis. 2013;22:448-454. 6.Awad W, et al. J Med Econ. 2014;17:357-364. 7. Adams DH, et al. N Engl J Med. 2014 Mar 29. [Epub ahead of print] 8.Sepehripour AH, et al. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2012;14:615–621. 9.Santarpino G, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2014;147:561-567