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治療抵抗性統合失調症に対するECTの治療反応速度と臨床的有効性

 治療抵抗性統合失調症患者に対する電気けいれん療法(ECT)は、有効であることが示唆されているが、治療反応率、認知機能およびQOLのアウトカムに関するエビデンスは限られている。シンガポール・Institute of Mental HealthのChristopher Yi Wen Chan氏らは、治療抵抗性統合失調症患者を対象とした自然主義的レトロスペクティブコホート研究において、ECTの有効性および治療反応速度について検討を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2019年4月26日号の報告。治療抵抗性統合失調症へのECTで50%が治療反応 レトロスペクティブにデータベース分析を行った。主要な有効性アウトカムは、BPRS精神症状サブスケールに基づき、治療開始前スコアからの40%以上の改善と定義した。分析対象患者は、まずDSM-5で統合失調症と診断され、2016年7月1日~12月1日までに治療抵抗性統合失調症と診断された患者または統合失調症治療のために急性期ECTが開始された患者とした。 治療抵抗性統合失調症患者におけるECTの有効性を検討した主な結果は以下のとおり。・分析対象患者は、入院患者50例であった。・ECT完了後、治療抵抗性統合失調症患者の50%において、BPRS精神症状サブスケールスコアの40%以上減少が認められた。・ETCによる治療反応が認められた治療抵抗性統合失調症患者の割合は、最初の3セッションで16.7%、6セッションで39.3%、9セッションで46.4%、12セッションで50%であった。・BPRSスコアの最も大きな改善は、ECT治療3~6セッション間で認められた。・BPRSスコア、臨床全般印象度(CGI)、認知機能評価(Montreal Cognitive Assessment)、機能の全体的評定(GAF)の有意な改善が認められた。・QOLのアウトカムに有意な差は認められなかった。 著者らは「本研究は、治療抵抗性統合失調症患者における最新の技術を用いて、ECT治療を受けている患者のリアルワールドでの有効性および治療反応率を示している」としている。

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大腸がんの便潜血検査、アスピリンで感度は向上するか/JAMA

 アスピリンは免疫学的便潜血検査(FIT)による進行新生物の検出感度を、とくに男性において改善することが、観察研究で示されている。ドイツ・German Cancer Research CenterのHermann Brenner氏らは、この知見を検証するために、大腸内視鏡検査が予定されている40~80歳の男女を対象に無作為化試験を行った。その結果、FITの前にアスピリンを経口投与しても、進行大腸がんの検出感度は上昇しないことが示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年5月7日号に掲載された。FITは、大腸がんの検出において高い特異度を有するが、多くの大腸がんの前駆病変である進行腺腫(advanced adenoma)の検出能は十分でない。特異度を損なわずに感度を向上させることができれば、大腸がんのスクリーニングにおけるFITの検出能が改善される可能性があるという。2つのカットオフ値の検出感度を評価 本研究は、ドイツの18施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2013年6月~2016年11月の期間に参加者の登録が行われた(ドイツ連邦教育・研究省の助成による)。 対象は、年齢40~80歳、大腸内視鏡検査が予定され、アスピリンおよび他の抗血栓作用を有する薬剤を使用していない集団であった。被験者は、FITのための便検体採取の2日前に、アスピリン300mgを含む錠剤を1錠投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。FITの結果と大腸内視鏡検査所見を比較した。 主要アウトカムは、事前に規定された2つのカットオフ値(10.2および17μg Hb/g便検体)における、定量的なFITによる進行新生物(大腸がん、進行腺腫)の検出感度とした。2つのカットオフ値とも、感度に差はなく、特異度は低い 2,422例(平均年齢59.6[SD 7.9]歳、男性1,219例[50%])が無作為化の対象となり、このうち2,134例(アスピリン群1,075例、プラセボ群1,059例)が解析に含まれた。78%がスクリーニング大腸内視鏡検査、22%は診断的大腸内視鏡検査を受けた。 進行新生物は、224例(10.5%)で同定され、そのうち8例(0.4%)が大腸がんで、216例(10.1%)は進行腺腫であった。 定量的FITのカットオフ値10.2μg Hb/gにおける進行新生物の検出感度は、アスピリン群が40.2%と、プラセボ群の30.4%と比較して有意な差は認めなかった(群間差:9.8%、95%信頼区間[CI]:-3.1~22.2、p=0.14)。また、カットオフ値17μg Hb/gの感度は、それぞれ28.6%、22.5%であり、有意差はなかった(6.0%、-5.7~17.5、p=0.32)。 一方、カットオフ値10.2μg Hb/gの特異度は、アスピリン群が82.2%であり、プラセボ群の88.7%に比べ有意に低く(群間差:-6.4%、95%CI:-9.6~-3.2、p<0.001)、カットオフ値17μg Hb/gではそれぞれ91.7%、94.8%と、有意差が認められた(-3.1%、-5.4~-0.8、p=0.008)。 さらに、定性的な検査では、感度はアスピリン群が有意に高かったものの(34.7% vs.22.0%、群間差:12.7%、95%CI:0.1~24.7、p=0.048)、特異度は有意に低かった(83.8% vs.91.8%、-8.0%、-11.0~-4.9、p<0.001)。陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)にも、全体として有意な差はみられなかった。 重篤な有害事象は、アスピリン群で2例(急性虫垂炎、急性腎障害に伴う急性化膿性胆管炎)に発現し、いずれも入院を要したが、試験薬との関連はないと判定された。 著者は、「これまでの観察研究と本試験の結果を併せて考慮すると、アスピリンによるFITの検出能への影響を評価するには、より大規模で高い検出力を有するなど新たな試験研究が必要である。必要なアスピリンの用量、至適な投与時期、便検体の採取法なども重要な検討課題である」としている。

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新生児アトピー予防戦略、ビタミンD補給よりも紫外線曝露

 ビタミンDとアトピー性疾患の関連はさまざまに取り上げられている。オーストラリア・西オーストラリア大学のKristina Rueter氏らは、新生児におけるビタミンD補給による湿疹および免疫能への効果を明らかにするため、二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施。その結果、ビタミンD補給と湿疹罹患率との間に有意な関連はみられなかった。一方で、一部の対象児について行った紫外線曝露量との関連評価(非無作為の探索的解析)から、その曝露量が多い児では湿疹罹患率が低く、炎症誘発性免疫マーカー値が低値であったことを報告した。著者は今回の検討は紫外線量と湿疹罹患率などの関連を初めて明らかにしたものだとしたうえで、「生まれて間もない時期のアレルギー予防策として、紫外線曝露がビタミンD補給よりも有益と思われることを示すものである」とまとめている。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌2019年3月号掲載の報告。 試験は西オーストラリア州の州都パース(南緯32度[日本では鹿児島県が北緯32度])で、第一度近親者(両親・兄弟)がアトピー性疾患を有し、37週以降に生まれた生後28日未満の児を集めて行われた。 被験児は、ビタミンD(介入)群(400IU/日)またはプラセボ(ココナッツおよびパーム核油)群に無作為に割り付けられ、生後6ヵ月まで投与が行われた。 また、非無作為に選択した一部の被験児にパーソナルUV線量計を割り当て、生後3ヵ月までの紫外線(290~380nm)曝露量を測定した。 ビタミンDレベルを生後3ヵ月と6ヵ月時点で、湿疹および喘息ならびに免疫機能については6ヵ月時点で評価した。 主な結果は以下のとおり。・2012年10月9日~2017年1月23日の期間に計195例(介入群97例、プラセボ群98例)が参加し、そのうち紫外線曝露量の測定は86例に行われた。・ビタミンD値は、介入群がプラセボ群よりも、生後3ヵ月(p<0.01)、6ヵ月時点(p=0.02)いずれにおいても有意に高値だった。・いずれの評価時点においても、湿疹罹患率に差は認められなかった(3ヵ月:介入群10.0% vs.プラセボ群6.7%、6ヵ月:21.8% vs.19.3%)。・紫外線曝露量が測定された被験児において、湿疹を呈した児は呈さなかった児よりも、紫外線曝露量が有意に少量であった(中央値555J/m2[四分位範囲:322~1,210]vs.998J/m2[676~1,577]、p=0.02)。・また、TLRリガンドを介したサイトカイン(IL-2、GM-CSF、eotaxin)産生と紫外線曝露量に逆相関の関連が認められた。

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IV期NSCLCにおける放射線療法とICIの相乗効果:筆頭著者 山口央氏に聞く 【肺がんインタビュー】 第25回

第25回 IV期NSCLCにおける放射線療法とICIの相乗効果:筆頭著者 山口央氏に聞く お詫び:当コンテンツの表題の一部に誤植がございました。ご迷惑をかけ申し訳ございませんでした。出演:埼玉医科大総合医療センター 呼吸器内科 山口 央氏放射線療法の治療歴が免疫CP阻害薬の治療効果や予後に影響を与えるかを、 IV期非小細胞肺がん(NSCLC)で後方視的に解析した結果が発表された。筆頭著者の埼玉医科大学国際医療センターの山口央氏に研究の背景などについて聞いた。Yamaguchi O, et al.Radiotherapy is an independent prognostic marker of favorable prognosis in non-small cell lung cancer patients after treatment with the immune checkpoint inhibitor, nivolumab. . Thorac Cancer. 2019;10:992-1000.記事本文はこちら

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第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

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孤立性の三尖弁閉鎖不全への開心術、長期予後改善せず?【Dr.河田pick up】

 中等度から重症の三尖弁閉鎖不全症の患者は米国では160万人以上おり、その予後は一般的に不良である。現在のACC/AHAガイドラインでも三尖弁閉鎖不全症に対する開心術は、重症で、症状があり、弁周囲の拡大と右心不全がある患者に推奨されているが、エビデンスは乏しい。 左心系の弁膜症のない孤発性の三尖弁閉鎖不全症患者に対しては、長い間保存的な薬物治療が行われてきた。この論文では、孤発性の三尖弁閉鎖不全症に対する外科的弁修復および弁置換の効果を検証している。米国・マサチューセッツ総合病院のJason H. Wasfy氏らによる、Journal of American College of Cardiology誌オンライン版5月3日号への報告。心エコーのデータベースから3,276例の孤発性の三尖弁閉鎖不全症を解析 2001年11月から2016年3月までの心エコーの経時的なデータベースを用いて、3,276例の孤発性の三尖弁閉鎖不全症を有する患者を後ろ向きに解析した。開心術を受けた症例と受けなかった症例における全死亡率を、コホート全体およびプロペンシティスコアを用いてマッチングされたサンプルにおいて比較した。死亡バイアス(エコーで三尖弁閉鎖不全症の診断がついてから開心術を受けるまでの期間に死亡が発生しない)の可能性を評価するために、診断から手術までの時間を時間依存共変量として、解析が行われた。三尖弁閉鎖不全症に対する弁修復・弁置換は予後を改善せず 3,276例の孤発性の重症三尖弁閉鎖不全症患者のうち、171例が三尖弁に対する手術を受け、143例(84%)が弁修復術、28例(16%)が弁置換術を受けていた。残りの3,105例(95%)には保存療法が行われていた。手術を時間依存性の共変量として考慮し、プロペンシティスコアをマッチングさせたサンプルと比較した結果、内科的に保存療法を受けた患者の全生存率は、開心術を受けた患者の全生存率と有意な違いは認められなかった(ハザード比 [HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:0.78~2.30、p=0.288)。開心術を受けたサブグループにおいて、弁修復と弁置換を受けた患者間でも違いは認められなかった(HR:1.53、95% CI:0.74~3.17、p=0.254)。 孤発性の重症三尖弁閉鎖不全症患者において、生存バイアスを考慮した上で解析を行った結果、外科手術は内科的保存療法と比較して、長期の生存率を改善しなかった。 開心術について無作為化するのは困難であり、単施設の後ろ向き解析ではあるが、本解析は三尖弁閉鎖不全症に対する論文の中でも大規模なものと言える。ただ、プロペンシティスコアを用いてもさまざまなバイアスを排除するのは難しい。今後、カテーテルによる三尖弁閉鎖不全症に対する治療がより一般的になっていくと考えられ、三尖弁閉鎖不全症に対する侵襲的治療の効果を評価する前向き無作為化試験の実施が期待される。(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)

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統合失調症患者の同意能力と認知機能との関係

 同意の意思決定能力は、倫理的および法的な新しい概念であり、重要な医学的決定や臨床研究への参加に直面している患者において、自己決定と密接に関連するものである。国立精神・神経医療研究センターの菅原 典夫氏らは、統合失調症患者における同意の意思決定能力と認知機能との関係について、Frontiers in Psychiatry誌2019年4月12日号で報告した。 主な内容は以下のとおり。・近年、意思決定能力を評価するため、4つの側面(理解、感謝、推論、選択の表現)からなる半構造化インタビューのMacArthur能力評価ツール(MacCAT)が開発された。・MacCATで測定された統合失調症患者群の意思決定能力は、健常対照群と比較し、損なわれていることが示唆されている。・このことは、統合失調症患者の意思決定能力が、必ずしも低下していることを意味するものではない。・リアルワールドでは、統合失調症患者からインフォームドコンセントを得ることが求められるが、そのためには、精神病理学的特徴と疾患における意思決定能力との関係を評価することが重要である。・統合失調症患者では、陰性症状が、意思決定に関連する情報を理解する能力、合理的な理由、状況の理解、その結果と関連していることが証明されている。・一方で、幻覚や妄想などの陽性症状は、低い能力との一貫した相関はみられていない。・いくつかの研究では、統合失調症の中核症状の1つである認知機能障害が、陽性症状や陰性症状よりも、意思決定能力に対し、より大きく関与している可能性が示唆されている。 著者らは「統合失調症患者の認知機能を強化し、同意や自主性を促進する能力を向上させることは、医学的治療や臨床研究への参加において合理的であると考えられる。このことや関連する問題を解明するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?

 2019年5月13日、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、腰痛診療ガイドライン策定委員会)が発刊された。本ガイドラインは改訂第2版で、初版から実に7年ぶりの改訂となる。いまだに「発展途上」な腰痛診療の道標となるガイドライン 初版の腰痛診療ガイドライン作成から現在に至るまでに、腰痛診療は大きく変遷し、多様化した。また、有症期間によって病態や治療が異なり、腰痛診療は複雑化してきている。そこで、科学的根拠に基づいた診療(evidence-based medicine:EBM)を患者に提供することを理念とし、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』で推奨されるガイドライン策定方法にのっとって腰痛診療ガイドライン2019は作成された。腰痛診療ガイドライン2019は9つのBackground Questionと9つのClinical Question 腰痛診療ガイドライン2019では、疫学的および臨床的特徴についてはBackground Question (BQ)として解説を加え、それ以外の疫学、診断、治療、予防についてはClinical Question (CQ)を設定した。それぞれのCQに対して、推奨度とエビデンスの強さが設定され、益と害のバランスを考慮して評価した。推奨度は、「1.行うことを強く推奨する」、「2.行うことを弱く推奨する(提案する)」、「3.行わないことを弱く推奨する(提案する)」、「4.行わないことを強く推奨する」の4種類で決定する。エビデンスの強さは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」、「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」、「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」、「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」の4種類で定義される。腰痛診療ガイドライン2019では腰痛の定義がより明確に 腰痛診療ガイドライン2019において、腰痛は「疼痛の部位」、「有症期間」、「原因」の3つの観点から定義された。疼痛の部位からの定義では、「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも1日以上継続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある」とされた。有症期間からは、発症から4週間未満のものを急性腰痛、発症から4週間以上3ヵ月未満のものを亜急性腰痛、3ヵ月以上継続するものを慢性腰痛と定義した。原因別の定義では、「脊椎由来」、「神経由来」、「内臓由来」、「血管由来」、「心因性」、「その他」に分類される。とくに「悪性腫瘍」、「感染」、「骨折」、「重篤な神経症状を伴う腰椎疾患」といった重要疾患を鑑別する必要がある。腰痛診療ガイドライン2019では運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨 腰痛診療ガイドライン2019では、運動療法については「急性腰痛」、「亜急性腰痛」、「慢性腰痛」のそれぞれについて評価され、そのうち「慢性腰痛」に対しては、「運動療法は有用である」として強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。それに対して、「急性腰痛」、「亜急性腰痛」に対してはエビデンスが不明であるとして推奨度は「なし」とされた。腰痛診療ガイドライン2019では各薬剤の推奨度とエビデンスの強さを評価 腰痛診療ガイドライン2019が初版と大きく異なる点は、推奨薬の評価方法である。まず、腰痛診療ガイドライン2019では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。そのうえで、腰痛を「急性腰痛」、「慢性腰痛」、「坐骨神経痛」に区別して、各薬剤についてプラセボとのランダム化比較試験のシステマティックレビューを行うことでエビデンスを検討し、益と害のバランスを評価して推奨薬を決定した。オピオイドについては、過量使用や依存性を考慮して弱オピオイドと強オピオイドに分けられている。 腰痛診療ガイドライン2019での各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおり。●急性腰痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さA<筋弛緩薬> 推奨度2、エビデンスの強さC<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さC<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC●慢性腰痛に対する推奨薬<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さA<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さA<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度2、エビデンスの強さB<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<強オピオイド>(過量使用や依存性の問題があり、その使用には厳重な注意を要する) 推奨度3、エビデンスの強さD<三環系抗うつ薬> 推奨度なし*、エビデンスの強さC(*三環系抗うつ薬の推奨度は出席委員の70%以上の同意が得られなかったために「推奨度はつけない」こととなった)●坐骨神経痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さB<Caチャネルα2δリガンド> 推奨度2、エビデンスの強さD<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さC

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労作ではあるがnegative studyである(解説:野間重孝氏)-1051

 評者は多くの読者がこの論文を誤解して読んだのではないかと危うんでいる。つまり、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)による心停止から回復した患者に対する治療方針として、血管インターベンション(PCI)を前提とした緊急冠動脈造影を行うのが望ましいのか、待機的冠動脈造影とするのが望ましいのかを検討した論文として読んだ方が多いのではないだろうか。また、ある方はもっとストレートに、NSTEMIを基礎として起こった心停止例の治療に対して緊急PCIが望ましいのか、待機的PCIが望ましいのかを検討した成績として読んだ方もいらっしゃるかもしれない。確かに、この論文の筆致から致し方がないようにも思われるのだが、もう一度この論文の題名を確かめていただきたい。“Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation”となっており、NSTEMIといった言葉は入っていないことに気付かれると思う。論文評としてはいささか妙な書き出しになったのは、実は評者自身一読した段階で誤解しそうになったからだ。 重篤な不整脈による心停止の原因として圧倒的に虚血発作が多いことは、いくつもの観察研究ですでに明らかになっている。しかし、ER到着時にST上昇がない症例については、多少のST-T変化があったとしても虚血性心疾患とは断定できない場合が多い。発生からの時間により心筋逸脱物質もまだ上昇していない場合もあれば、ある程度上昇していてもそれが冠動脈疾患によるものなのか、心停止による心筋障害なのか区別がつかない場合も多い。重症心不全もなく、本研究の除外基準であるショック、治療抵抗性の不整脈の発生もない症例で、ただ心停止回復後で意識が戻らないという症例をみたときにどうするのか。そういった症例に対して、確定診断+場合による治療の目的で緊急冠動脈造影をすることが正しいのか、それとも内科的至適治療をしながら意識が戻るのを待ち、待機的に造影をすることが正しいのか、これが本研究の問い掛けなのである。後者を考える場合“意識が戻る”というのが重要で、脳死状態に移行していってしまう患者に対して、それ以上の検査・治療行為は無駄であるからである。その結論が、「緊急冠動脈造影とその結果による緊急PCIを行うか行わないかは、90日生存率に影響を与えない」、つまり緊急冠動脈造影を行う必要はないというものだったのである。この場合NSTEMIであるのかどうかは関係がない。実際、冠動脈造影の1/3の症例で冠動脈は正常だったし、血栓性閉塞だったと考えられた症例は両群を合わせても22例しかいなかったことからも明らかだろう。 本研究で重要な点は上記に加えて、心停止後の生命予後の決定因子としては、神経損傷の程度が心筋損傷の程度に比べて圧倒的に重要であることを示したことである。しかし残念ながら、現行の医学のレベルにおいては神経損傷の程度を急性期に正確に評価する方法はなく、また予後不良であることが予測できた場合でも、積極的にインターベンションを加える方法は確立されていない。本研究では低体温療法における目標体温までの到達時間に差があったことを論じているが、低体温療法自体がどの程度の効果があるのか結論が出ていない今、多少の時間の違いを論じてもあまり意味がないだろう。なお、著者は目標体温到達まで時間を要してしまったことが、緊急血管造影の潜在的ベネフィットを弱めた可能性があると付け加えている。おそらくどれも有意差が出なかった中でこの項目だけ差が出てしまったため、著者らとしては言及せざるを得なかったのだろうが、これは神経損傷因子を修飾する付加的因子であるので、両群間で神経損傷による死亡率に差が出たのならそれも言えるが、そうではない以上、この議論は不要であると考えられた。 こうした臨床研究に出会ったときにいつも述べることなのだが、普段私たちがあまり疑問に思わないでいるような事柄も、実は検証してみないとわからない場合が多い。そういう意味でこの研究にも敬意を表するものではあるのだが、では、こうした患者を診たときにお前は造影をするのかしないのかと聞かれれば、やはりすると答えてしまうのはカテ屋の性のようなものだろうか。というのは素直でない表現になってしまったが、実臨床では害がないのならば早い時期に確定診断を付けて、できる治療はやってしまいたいと考える実地医家は少なくないのではないかと思う。著者らの意図とは別に意見の分かれるところではないだろうか。これは問題の冠動脈造影の時期については結局negative studyであったのだから、致し方がないと思う。 苦言を呈するとすれば、appendixにではなく、本文中のMethodsの項に対象の基準、除外基準を書き込み、統計法についてももう少し詳しく言及し、appendixを読まなくても独立した論文として読める体裁にまとめてほしかったと感じた。実際、本論文では除外基準が重要であるのだが、全体像はappendixを読まないとわからない。近年論文の長さに制限を設け、細かな内容についてはappendixを付けてそちらに書き込むように指導する雑誌が増加しているようだ。細かなCOIに関する項目やプロトコールの詳細、フローチャート、統計にしても細かな数式上の問題などはappendixに書き込んでいただいたほうが本文は読みやすくなって助かるが、それも程度の問題であり、本文がそれだけでは独立性がなくなってしまうようでは本末転倒であると思う。この部分は論文評とは言えないが、各誌にご一考を求めたいと思う。

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貧血/鉄欠乏の心臓手術患者、術前日の薬物治療で輸血量減少/Lancet

 鉄欠乏または貧血がみられる待機的心臓手術患者では、手術前日の鉄/エリスロポエチンアルファ/ビタミンB12/葉酸の併用投与により、周術期の赤血球および同種血製剤の輸血量が減少することが、スイス・チューリッヒ大学のDonat R. Spahn氏らの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年4月25日号に掲載された。貧血は、心臓手術が予定されている患者で高頻度に認められ、赤血球輸血量の増加や、死亡を含む有害な臨床アウトカムと関連する。また、鉄欠乏は貧血の最も重要な要因であり、鉄はエネルギーの産生や、心筋機能などの効率的な臓器機能に関与する多くの過程で中心的な役割を担っている。そのため、貧血と関連がない場合であっても、術前の鉄欠乏の治療を推奨する専門家もいるという。術前の超短期間の薬物併用治療による、輸血量削減効果を評価 本研究は、術前の超短期間の薬物併用投与による、周術期の赤血球輸血量の削減と、アウトカムの改善の評価を目的に、単施設(チューリッヒ大学病院臨床試験センター)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験であり、2014年1月9日~2017年7月19日に患者登録が行われた(Vifor Pharmaなどの助成による)。 対象は、貧血(ヘモグロビン濃度が、女性は<120g/L、男性は<130g/L)または鉄欠乏(フェリチン<100mcg/L、貧血はない)がみられ、待機的心臓手術(冠動脈バイパス術[CABG]、心臓弁手術、CABG+心臓弁手術)が予定されている患者であった。 被験者は、手術の前日(手術が次週の月曜日の場合は金曜日)に、カルボキシマルトース第二鉄(20mg/kg、30分で静脈内注入)+エリスロポエチンアルファ(40,000U、皮下投与)+ビタミンB12(1mg、皮下投与)+葉酸(5mg、経口投与)を投与する群(併用治療群)またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、手術施行日から7日間の赤血球輸血とした。赤血球輸血コストは低いが、総コストは高い 修正intention-to-treat集団は484例であった。243例(平均年齢69歳[SD 11]、女性35%)が併用治療群に、241例(67歳[12]、34%)はプラセボ群に割り付けられた。 手術日から7日間の赤血球輸血中央値は、併用治療群では0単位(IQR:0~2)であり、プラセボ群の1単位(0~3)に比べ、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.036)。また、術後90日までの赤血球輸血も、併用治療群で有意に少なかった(p=0.018)。 輸血された赤血球の単位が少なかったにもかかわらず、併用治療群はプラセボ群に比べ、術後1、3、5日のヘモグロビン濃度が高く(p=0.001)、網赤血球数が多く(p<0.001)、網赤血球ヘモグロビン含量が高かった(p<0.001)。 新鮮凍結血漿および血小板輸血量は、術後7日および90日のいずれにおいても両群で同等であったが、同種血製剤の輸血量は術後7日(0単位[IQR:0~2]vs.1単位[0~3]、p=0.038)および90日(0[0~2]vs.1[0~3]、p=0.019)のいずれにおいても併用治療群で有意に少なかった。 術後90日までの赤血球輸血の費用は、併用治療群で有意に安価であったが(中央値0スイスフラン[CHF、IQR:0~425]/平均値370 CHF[SD 674]vs.231 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p=0.018)、薬剤費を含む総費用は、併用治療群で有意に高額であった(682 CHF[682~1,107]/1,052 CHF[674]vs.213 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p<0.001)。 副次アウトカムは、重篤な有害事象(併用治療群73例[30%]vs.プラセボ群79例[33%]、p=0.56)および術後90日までの死亡(18例[7%]vs.14例[6%]、p=0.58)を含め、そのほとんどで両群に有意差はみられなかった。 著者は、「待機的心臓手術を受ける患者では、ヘモグロビンと鉄のパラメータをルーチンに測定し、手術前日であっても貧血/鉄欠乏への併用薬物治療を考慮する必要がある。この点は、急性心イベントから数日以内に行われる待機的心臓手術の割合が増加している現状との関連で、とくに重要と考えられる」としている。

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APT試験のHER2陽性乳がん、術後パクリタキセル+トラスツズマブの長期転帰/JCO

 Adjuvant Paclitaxel and Trastuzumab(APT)試験は、腫瘍径が小さなHER2陽性乳がんに対する術後化学療法としてのパクリタキセル・トラスツズマブ併用療法について検討した第II相試験。これまでに主要解析の3年無病生存率(DFS)は98.7%であることが示されていたが、今回、長期追跡(7年)の結果が米国・ダナ・ファーバーがん研究所のSara M. Tolaney氏らにより発表された。長期予後はきわめて良好であったこと、また、腫瘍径が小さなHER2陽性乳がんの内因性サブタイプは腫瘍径が大きなHER2陽性乳がんと類似していることや、パクリタキセル誘発性末梢神経障害(TIPN)に関連する一塩基多型(SNP)について明らかになったという。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年4月2日号掲載の報告。APT試験におけるHER2陽性乳がん7年DFSは93.3% 研究グループは、APT試験の長期予後について解析するとともに、腫瘍径が小さなHER2陽性乳がんの生物学ならびにTIPNの発症と関連する遺伝要因を明らかにする目的で探索的解析を行った。APT試験の対象は腫瘍径3cm以下、リンパ節転移陰性のHER2陽性乳がん患者で、パクリタキセル(80mg/m2)+トラスツズマブを12週間、その後トラスツズマブを9ヵ月間投与された。 主要評価項目はDFS、副次評価項目は無再発率(RFI)、乳がん特異的生存率および全生存率(OS)であった。探索的解析として、保存組織を用いnCounterシステムによるPredictor Analysis of Microarray 50(PAM50)遺伝子解析(Prosigna法)を行い、内因性サブタイプの分類と再発リスクスコア(ROR)を算出するとともに、TIPNに関連するSNP遺伝子型判定を行った。 APT試験のHER2陽性乳がんについて解析した主な結果は以下のとおり。・2007年10月~2010年9月に、計410例が登録された。・追跡期間中央値6.5年において、DFSイベント発生は23件であった。・7年DFSは93.3%(95%CI:90.4~96.2)で、4例(1.0%)は遠隔再発であった。・7年OSは95.0%(95%CI:92.4~97.7)、7年RFIは97.5%(95%CI:95.9~99.1)であった。・PAM50解析(278例)では、HER2 enrichedが65.5%と大半を占め、luminal Bが13.7%、luminal Aが12.6%、basal-likeが7.9%であった。・遺伝子型判定(230例)の結果、Grade2以上のTIPN(10.4%)患者においてTIPNのリスク増加と関連するSNP、rs3012437が同定された。

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再発/難治性多発性骨髄腫でCAR-T療法が有望/NEJM

 再発または難治性多発性骨髄腫患者において、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であるbb2121の、安全性と抗腫瘍効果が確認された。米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのNoopur Raje氏らが、bb2121の第I相臨床試験(CRB-401試験)の結果を報告した。bb2121は、前臨床試験において、多発性骨髄腫の治療薬として有望であることが示されていた。NEJM誌2019年5月2日号掲載の報告。bb2121の安全性を33例で評価 研究グループは、2016年1月31日~2018年4月30日の期間に、プロテアソーム阻害薬および免疫調整薬を含む3レジメン以上の治療歴がある、または両方の薬剤に治療抵抗性の再発/難治性多発性骨髄腫患者を登録した。 患者の末梢血単核細胞を採取してCAR-T細胞bb2121を作製し、用量漸増期にはbb2121をCAR-T細胞数として50×106個、150×106個、450×106個または800×106個を、用量拡大期には150×106個、450×106個を単回注入した。主要評価項目は、安全性である。 36例が登録された。全例でbb2121の作製に成功したが、3例はbb2121注入前に疾患進行のため試験中止となり、33例がbb2121の注入を受けた。データカットオフ日は、最後の注入日から6.2ヵ月後であった。bb2121のGrade3以上の有害事象の発現率は97%、ORRは85%、CRは45% bb2121の注入を受けた33例中32例(97%)にGrade3以上の有害事象が発現した。Grade3以上の有害事象で最も頻度が高かったのは血液毒性で、発現率は好中球減少症85%、白血球減少症58%、貧血45%、血小板減少症45%などであった。25例(76%)にサイトカイン放出症候群が認められ、Grade1/2が23例(70%)、Grade3が2例(6%)であった。神経毒性は14例(42%)に発現し、うち13例(39%)はGrade1/2で、1例(3%)は可逆的なGrade4であった。 bb2121の奏効率(ORR)は85%で、完全奏効(CR/sCR)は15例(45%)で認められた。完全奏効が得られた15例のうち6例は再発した。無増悪生存期間中央値は、11.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.2~17.8)であった。 奏効(部分奏効以上)が得られ微小残存腫瘍(MRD)を評価しえた16例全例が、MRD陰性(有核細胞≦10-4個)であった。CAR-T細胞の増加は、奏効と関連しており、注入1年後まで持続していることが確認された。■「CAR-T療法」関連記事CAR-T療法が臨床へ、まずは2~3施設でスタート

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第22回 患者と医療者の認識にはこんなに大きなギャップがある【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 薬局で得られる患者さんの情報は病院と比べると限られているため、患者さんが病院で聞いた情報や、知らないことの確認がしばしばコミュニケーションの入り口となります。今回は、患者さんが何を理解していて、何を医療者に伝えていないのか示唆を与えてくれる米国の論文を2つ紹介します。なお、米国には、患者経験価値(PX:Patient eXperience)から医療サービスを評価し、それが金銭的なインセンティブに結び付くHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)という患者評価指標があるため、PXを調査した研究が豊富にあり参考になります。1つ目は医療者側と患者側の認識の齟齬について調査した研究です1)。コネチカット州にある367床の病院で行われたアンケート調査で、2008年10月10日~2009年6月23日に入院した患者の経験を評価しています。合計89人の患者と43人の医療者が参加し、患者の多くが高卒以上という教育水準で、平均年齢は57.3歳、平均在院日数は5.4日(範囲:2.0~36.0日)でした。結果をみると、患者と医療者の認識のギャップが浮き彫りになっています。たとえば、医療者の77%が患者は診断名を理解していると考えていますが、実際には退院日に自分の診断名を正しく回答している患者は57%でした。また、患者の67%が入院中に薬剤を新規処方されていますが、そのうち25%は医療者から新しい薬の処方があることについて説明を受けていないと回答しています。薬剤の有害事象については90%の患者が説明を受けたことがないと回答していますが、有害事象について一度も話したことがないと回答した医療者は19%でした。心理的ケアについては、患者の半数である46人が入院中に不安や恐怖を感じており、うち25人(54%)は医療者とそのことについて話し合ったことがないと回答している一方で、98%の医療者が少なくとも1回は患者と不安や恐怖について話し合っていたと回答しています。薬局においても、自分はきちんと伝えた、患者さんも理解しているはず、と思わずに、新規薬剤や有害事象の説明や不安のケアを、より丁寧に行うことの重要性を再認識させられる結果です。患者の70%超は医療者にあえて話していないことがある続いて、患者が治療上重要な情報をどれだけ医療者に開示しているかについて、米国の成人4,510例を対象としたオンライン調査の研究を紹介します2)。患者情報を得ることは、正しい診断や指導、禁忌薬投与の回避などに大切ですが、70%超が何らかの重要な事項を医療者へ伝えていないという結果が出ています。2015年3月16~30日にクラウドソーシングのAmazon Mechanical Turk (MTurk)を用いた調査(n=2,096)と、2015年11月6~17日にアンケート調査会社のSurvey Sampling International(SSI)による調査(n=3,011)から参加者を募り、2018年9月28日~10月8日にデータ解析が行われました。無効回答を除いた最終的なサンプルサイズは、2,011例(MTurk)+2,499例(SSI)の計4,510例でした。プライマリアウトカムとして、医療者への7タイプの情報の非開示が設定され、各アウトカムにおける患者の割合は以下のとおりでした。全体では、MTurkで1,630人(81.1%)、SSIで1,535人(61.4%)が少なくとも1つ以上の情報開示をしていません。その理由をみていくと、多い順に「行動について判断や指導をされたくない(MTurk 81.8%、SSI 64.1%)」「その行動がいかに悪いか聞かされたくない(MTurk 75.7%、SSI 61.1%)」「認めるのが恥ずかしい(MTurk 60.9%、SSI 49.9%)」「難しい患者だと思われたくない(MTurk 50.8%、SSI 38.1%)」「医療者の余計な時間を取りたくない(MTurk 45.2%、SSI 35.9%)」「問題だと思っていない(MTurk 38.6%、SSI 32.9%)」「ばかだと思われたくない(MTurk 37.6%、SSI 30.6%)」「記録に残されたくない(MTurk 34.5%、SSI 30.6%)」などと続きます。中には「医療者がその問題を解決できると思わないから(MTurk 27.7%、SSI 28.9%)」のような溝を感じさせる回答もあり、こうした心情への配慮の大切さを物語っています。1つ目の文献において、医療者がしばしば自己紹介していないことが言及されていますが、相手が自己開示しなければ自分も情報提供しづらいという心理は返報性の原理から納得のいくことです。私が以前勤めていた薬局では、まずあいさつして名乗ることが手順化されていましたが、改めて大切なことであったと思います。弊社の電子薬歴システムユーザーで在宅患者数が急速に伸びている薬局があり、秘訣を聞いた際の回答はこうでした。「自分たちや自分たちができることを患者さんに伝える努力をしました」。1)Olson DP, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1302-1307.2)Levy AG, et al. JAMA Netw Open. 2018;1:e185293.

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CIDPの病態は再発と寛解の繰り返し…患者のQOLを変えるハイゼントラ

 2019年4月10日、CSLベーリング株式会社は、都内で慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)に関するメディアセミナーを開催した。セミナーでは、最新のCIDPの知見のほか、患者実態調査の報告などが行われた。CIDPの典型的な症状として急に箸が持てない、手がピリピリする はじめに「CIDPの多様性と治療戦略 患者さんのQOLを維持するために」をテーマに、祖父江 元氏(名古屋大学大学院医学系研究科 特任教授)を講師に迎え、診療の概要が説明された。 CIDPとは、進行性または再発性の経過で、2ヵ月以上にわたりびまん性の四肢の筋力の低下やしびれ感を来す末梢神経疾患である。典型的な症状としては、左右対称性に腕があがらなくなる、箸が使えないほどの握力低下、階段に登れないなどがある。また、手足のしびれ感やピリピリ感などの違和感を認めることもあるという。免疫の関与が指摘されているが、くわしい原因はいまだ不明でわが国には、約5,000人の患者がいると推定されている。 診断は、主に臨床所見と電気生理所見に基づいて行われ、とくに“European Federation of Neurological Societies/Peripheral Nerve Society(EFNS/PNS)”の診断基準が世界的に使用されている。典型的CIDPでは「2ヵ月以上進行する四肢における対称性・びまん性の筋力低下と感覚障害」「深部腱反射の全般性減弱もしくは消失」が、非典型CIDPでは「典型的CIDPとは異なる臨床像」「深部腱反射の異常は障害肢のみに限定される」が臨床基準として受け入れられている。疫学的には典型的CIDPが6割を占めるという。CIDP治療、ピリヴィジェンやハイゼントラの有用性 CIDPの治療では、第1選択療法として、免疫グロブリン静脈内投与(IVIg)療法、副腎皮質ステロイド療法、血漿浄化療法があるが、血漿浄化療法は専門性が高く、専用機器を必要とすることから前二者が主に行われている。 IVIg療法は、急性期と維持療法の両方で行われ、同療法による再発抑制と長期予後の有効性は“ICE study”で報告されている。27週のプラセボ群との再発率の比較で、プラセボ群45%に対し、同療法群は13%と有意な結果を示した1)。また、製剤の進歩もあり、近年では急性期でも維持療法でも使用できるIVIg製剤ピリヴィジェン(商品名)や維持療法で高濃度のIVIg製剤が皮下注射で投与できるハイゼントラ(商品名)が登場している。 これら製剤の国際共同第III相試験である“PATH試験”について、ハイゼントラについて言及すると、26週時点で再発抑制に有用なだけでなく、より少ない投与量(0.2/kg/week)での有効性も示された。安全性については、注射部位の膨張・紅斑・疼痛、頭痛、疲労は報告されたものの死亡などの重篤なものはなかった2)。 同氏は、CIDPの病態は再発と寛解の繰り返しと説明し、「なかでも再発の前に治療介入することが重要だ」と指摘した。ハイゼントラについては、「国内初の皮下注製剤であること、在宅でも注射できること、投与後の血中IgG濃度が安定していること、自己注射のため患者の自律性と自由度が高いこと」を理由に、これからの維持療法への活用に期待をにじませた。また、今後の展望として「患者ニーズに合わせた、適切な治療の普及のほか、難治症例への治療法の研究・開発が今後の課題」と語り、レクチャーを終えた。CIDP治療、時間に拘束されない治療法を望む患者の思い 次に「CIDP患者としての思い」をテーマに、患者会の代表である鵜飼 真実氏(全国CIDPサポートグループ 理事長)が登壇し、患者実態調査(n=200)の報告を行った。 報告によると、「患者歴」では5~10年未満(32%)が1番多く、ついで10~15年未満(23%)、5年未満(22%)などの順だった。「確定診断までに要した病院数」では2ヵ所(32%)が1番多く、ついで1ヵ所(23%)、3ヵ所(22%)などの順だった。「確定診断までに要した期間」では6ヵ月以上1年未満(16%)が1番多く、約6割が1年以内に確定診断がされていた。また、診断では、整形外科、内科、脳神経内科の順で受診が多いという。 CIDPの治療では、急性時、再発時ともに約8割でIVIg療法が実施され、維持療法では経口ステロイド療法(42%)が1番多かった。同氏は、患者の声として、「多くの患者は治療だけでなく介護も必要としており、体力の問題、治療費用など経済問題も抱えて生きている。治療では、病院で過ごす時間が長く、患者は疲弊している。自宅で治療できる治療薬が普及すれば、さまざまな問題も解決できると考える」と思いを語った。■参考文献1)Hughes RA, et al. Lancet Neurol. 2008;7:136-144.2)van Schaik IN, et al. Lancet Neurol. 2018;17:35-46.■参考ピリヴィジェン(R)10%点滴静注(液状静注用人免疫グロブリン[IVIG]製剤)、慢性炎 症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の治療薬として製造販売承認を取得ハイゼントラ(R)20%皮下注(皮下注用人免疫グロブリン[SCIG]製剤)、慢性炎症性脱 髄性多発根神経炎(CIDP)の治療薬として効能追加の承認を取得

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がん生存率に降圧薬が影響するか

 降圧薬のがん生存率に対する影響について結論は出ていない。米国ヴァンダービルト大学医療センターのYong Cui氏らは、主な降圧薬と乳がん、大腸がん、肺がんおよび胃がんの全生存(OS)・がん特異的生存(DSS)との関連について、潜在的な交絡因子を包括的に調整し、時間依存Cox回帰モデルにより検討した。その結果、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、Ca拮抗薬が、消化器がんの生存を改善する可能性が示唆された。American Journal of Epidemiology誌オンライン版2019年5月7日号に掲載。 本研究の対象は、中国の上海で実施されたShanghai Women's Health Study(1996~2000)およびShanghai Men's Health Study(2002~2006)の参加者で、2,891例の乳がん、大腸がん、肺がん、胃がんの患者が含まれた。降圧薬の使用は電子カルテから調べた。 主な結果は以下のとおり。・がん診断後の追跡期間中央値3.4年(四分位範囲:1.0~6.3)において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用していた大腸がん患者(OSの調整HR:0.62、95%CI:0.44~0.86、DSSの調整HR:0.61、95%CI:0.43~0.87)および胃がん患者(OSの調整HR:0.62、95%CI:0.41~0.94、DSSの調整HR:0.63、95%CI:0.41~0.98)、β遮断薬を使用していた大腸がん患者(OSの調整HR:0.50、95%CI:0.35~0.72、DSSの調整HR:0.50、95%CI:0.34~0.73)でアウトカムが改善した。・さらに、Ca拮抗薬(DSSの調整HR:0.67、95%CI:0.47~0.97)および利尿薬(OSの調整HR:0.66、95%CI:0.45~0.96、DSSの調整HR:0.57、95%CI:0.38~0.85)を使用していた胃がん患者においてもアウトカムが改善した。

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論文をトイレで読んでみた、失敗した!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】 第11回

第11回 論文をトイレで読んでみた、失敗した!「論文・見聞・いい気分」も11回目を迎えました。幸いにもCareNet.com編集部から連載企画中止の宣告もありません。皆さまありがとうございます。これまでの10回の中で、もっとも多くの方々に読んでいただいたのが「第4回 論文は風呂で読むべし、試してみなはれ!」だそうです。他の9回を大きく引き離す人気のようです。この第4回を読んだ方から、「俺はトイレで本を読む」、「私はトイレでマンガを読むのが至福の時間」、「風呂よりトイレでしょ!」などの声を頂戴しました。自分の感想は、「えっ?トイレ?」でした。自分は、人生でのトイレ滞在時間のすべてを排泄作業のみに集中してきたからです。そこで挑戦です。論文をトイレで読むぞ!論文の選択も大切です。敬意を表してNEJM誌から「PARTNER 3試験」を選んでみました。これは、低手術リスクの大動脈弁狭窄症の治療で、経カテーテル的な大動脈弁置換術が、従来の外科的手術よりも術後1年時の死亡・脳卒中・再入院によって定義されるエンドポイントに優れることを示した研究です。2019年3月に開催された、ACC(米国心臓病学会)2019という大規模な国際学会のLate-breaking Sessionで公表されました。発表直後に大会場が聴衆総立ちの拍手喝采となったものです。すぐに情報やコメントがネット上にあふれ、発表スライドも公開されています。そのため、試験デザインや結果の概要についてはすでに把握しています。しかし、詳細な内容を理解するには論文を読む必要があります。論文のDiscussionの部分で、どのような論点が挙げられているのかに興味がありました。読むべき論文を紙に印刷したものを手にして、トイレに入ります。職場ではなく自宅のトイレです。一般的にトイレに長居すると家族に怒られると思います。皆に緊急の必要性がないことを確認のうえで、籠城に入りました。さあ、読むぞ! えっへん! 手にした英文に目を通していきます。「だめだ!」全く読めません。苦労して文字を追っても頭に入りません。そのうえ、肝心の作業である用足しもできないのです。最悪です。すべてが快調な風呂とは大違いです。下品な話をします。人間の生理的現象である、排便・排尿は快感をともなうものです。不要な老廃物を身体から出してスッキリすれば、論文の情報はサクサクと頭に入ると期待していました。期待は裏切られました。出るモノもなく、入るモノもありません。悪あがきせずに作戦終了です。トイレ本来の目的に集中し、一定の結果を得て撤収しました。運気? を吸った論文はゴミ箱にサヨナラしました。NEJMの神様(紙様?)、お許しください。この失敗の原因を考えてみました。大動脈弁に関する論文を、排便作業をしながら読むという戦略に無理があったのかもしれません。ベンベン!論文を堪能するのは、やっぱり風呂ですね。

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新インフルワクチンで毎年の接種不要に? P1試験開始/NIH

 インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。 この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は? インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。 HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。 VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。 H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。健康な成人における抗原性、安全性と忍容性を調べる第I相試験 第I相臨床試験には、18~70歳までの健康な成人少なくとも53人が、段階的に組み入れられる。最初の5人の参加者は18~40歳で、H1ssF_3928(20µg)の筋肉内注射を1回受ける。残りの48人は、H1ssF_3928(60 µg)を16週間間隔で2回受ける予定となっている。 参加者は年齢によってそれぞれ12人ずつ4つのグループに層別される予定である(8~ 40歳、41~49歳、50~59歳、60~70歳)。研究者らは、H1ssF_3928に対する免疫反応が、年齢およびさまざまなインフルエンザ変異型への曝露歴に基づいてどのように変化するかを明らかにしたいと考えている。参加者は、接種後1週間、体温およびあらゆる症状を記録するよう求められる。また、12~15ヵ月の間に9~11回フォローアップ受診し、血液サンプルを提供する。研究者らはそのサンプルにより、インフルエンザに対する免疫を示す抗インフルエンザ抗体のレベルを特徴付けて測定する。なお、参加者が試験中にインフルエンザウイルスに曝露されることはない。 VRCでは、この臨床試験を長年の関連研究開発の集大成と位置付けている。2019年末までの登録完了、2020年はじめの結果報告開始を予定している。■参考NIHニュースリリースNCT 03814720(Clinical Trials.gov)

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オバマケア、低出生時体重/早産の転帰を改善/JAMA

 米国の低所得者を対象とする公的医療保険制度であるメディケイドの受給資格の拡大(Medicaid expansion)に関連して、これを導入した州と未導入の州で、新生児の低出生時体重および早産のアウトカムに差はないものの、導入州は未導入州に比べ黒人と白人の新生児の間にみられたアウトカムの相対的な差が改善されたことが、米国・University of Arkansas for Medical SciencesのClare C. Brown氏らの調査で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年4月23日号に掲載された。米国では、低出生時体重および早産は、新生児の死亡や新生児~成人の慢性疾患のリスク増大などの有害な結果をもたらすが、黒人の新生児は白人の新生児よりも早産の可能性が高く、死亡や慢性疾患にも差がみられる。一方、1990年の包括財政調整法(OBRA)下では、メディケイドの適用は妊娠が条件であったため、各州の貧困の基準を満たさない低所得の母親は、産後60日で保険適用を失う場合があったが、医療費負担適正化法(ACA、オバマケア)下では、一部の州でメディケイド拡大が導入され、貧困基準の緩和とともに、妊娠の有無にかかわらず低所得の女性も継続的な医療の利用が可能となり、これによって母親の健康および出産前の早期ケアの受診機会が改善された可能性が示唆されていた。導入州と未導入州で、出生アウトカムを比較 研究グループは、メディケイド受給資格の拡大が、全体および人種/民族別の双方において、低出生時体重と早産のアウトカムに変化をもたらすかを評価する目的で検討を行った(Arkansas Center for Health Disparities[ARCHD]などの助成による)。 2011~16年の米国国立衛生統計センター(National Center for Health Statistics:NCHS)出生データファイルの人口ベースのデータを使用した。メディケイド拡大を導入した州の多くは、2014年1月1日から導入を開始した。 メディケイド拡大の導入州と未導入州の乳児の出生アウトカムを比較し、19歳以上の女性の単胎生児出産における人種/民族的に少数の集団の相対的な差の変化を評価するために、多変量線形確率回帰(multivariable linear probability regression)を用いて、差分の差分(DID)および差分の差分の差分(DDD)モデルを推定した。 主要アウトカムは、早産(在胎期間37週未満)、超早産(同32週未満)、低出生時体重(2,500g未満)、超低出生時体重(1,500g未満)とした。導入州で、4つのアウトカムの人種間の差がいずれも縮小 1,563万1,174件の出産が解析に含まれ、新生児は白人824万4,924例、黒人220万1,658例、ヒスパニック系394万4,665例であった。このうち、メディケイド拡大の導入州(ワシントンD.C.と18州)が853万751例、未導入州(17州)は710万423例だった。 DID解析では、メディケイド拡大導入の前後で、導入州と未導入州の間に早産の発生率の変化に有意な差は認められなかった(導入前から導入後の変化:導入州6.80%から6.67%[差:-0.12]vs.未導入州7.86%から7.78%[-0.08]、補正後DID:0.00ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.14~0.15、p=0.98)。 同様に、超早産(導入前から導入後の変化:導入州0.87%から0.83%[差:-0.04]vs.未導入州1.02%から1.03%[0.01]、補正後DID:-0.02ポイント、95%CI:-0.05~0.02、p=0.37)、低出生時体重(5.41%から5.36%[-0.05]vs.6.06%から6.18%[0.11]、-0.08ポイント、-0.20~0.04、p=0.20)、および超低出生時体重(0.76%から0.72%[-0.03]vs.0.88%から0.90%[0.02]、-0.03ポイント、-0.06~0.01、p=0.14)にも有意差はみられなかった。 一方、白人新生児に比べ黒人新生児で不良であった4つのアウトカムはいずれも、メディケイド拡大未導入州よりも導入州において、その差が有意に小さくなった(早産:負の補正後DDD係数:-0.43ポイント、95%CI:-0.84~-0.02、p=0.05、超早産:-0.14、-0.26~-0.02、p=0.03、低出生時体重:-0.53、-0.96~-0.10、p=0.02、超低出生時体重:-0.13、-0.25~-0.01、p=0.04)。ヒスパニック系におけるアウトカムの相対的な差には、有意な変化はみられなかった。 著者は、「導入州における、黒人新生児の低出生時体重および早産の、白人新生児との相対的な差の縮小は、黒人の乳児死亡率の大幅な低下の説明となる可能性がある」としている。

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内容充実!『がん免疫療法ガイドライン』の第2版が発刊

 2019年3月29日、日本臨床腫瘍学会が編集した『がん免疫療法ガイドライン第2版』が発刊。2016年に初版が発行されてから2年。非常にスピーディな改定が行われた。今回の改定では、この間に明らかとなった各疾患での治療エビデンスや副作用管理などが集約化された。解説内が細分化され読みやすく 本ガイドラインの構成についての大幅なリニューアルはないが、各項の解説が「発症の頻度」、「臨床症状と診断」、「治療方針」に細分化されたことで、実臨床に役立てやすくなっている。 免疫チェックポイント療法の副作用については、“心筋炎を含む心血管障害”が追加。また、これまで甲状腺や副腎などの副作用は、 機能障害として大きなくくりで記載されていたが、それぞれ甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症へと記述が変更されている。これに伴い、「発症の頻度」に市販後調査の報告が追加され、副作用出現時の管理方法などが充実した。同様に記述が変更した下垂体機能低下症の項には、CTCAE Grade評価の追加。これまで投与中止となっていた重症例は、Grade3、4に区分され、投与可否についても“投与休止”へと変更されている。このように、細かい変更点があるため、第2版の副作用管理について熟読されることをお薦めする。 各がん種別エビデンスについては、初版発刊時には推奨される免疫療法がなかった「胃がん」「大腸がん」「小児腫瘍」などへの推奨が加わった。肺がんは、悪性胸膜中皮腫の記載が盛り込まれたことから、「胸部悪性腫瘍」の項に収められた。そのほか、「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)を有する切除不能・転移性の固形癌」の章が追加されている。 ガイドライン作成委員長の中西 洋一氏(九州大学大学院胸部疾患研究施設教授)は、本ガイドラインの冒頭で、「非がん領域の専門家の力も借り、徐々に集積してきた知見も織り込んで、しっかりとした内容に仕上がっている」と述べている。

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ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率を日本の精神科外来患者で調査

 ベンゾジアゼピンとアルコールの併用は、一般的に認められる。慶應義塾大学の内田 貴仁氏らは、精神科外来患者におけるベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率、併用と関連する臨床的特徴および因子、併用に関する精神科医の意識について調査を行った。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2019年4月15日号の報告。ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率は39.8% ベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与を受けている統合失調症、うつ病、不眠症の外来患者を対象に、睡眠薬とアルコールの使用も記録可能な睡眠日誌を7日間連続で記入するよう依頼した。臨床的特徴を評価し、併用に関連する因子を調査するため、ロジスティック分析を実施した。さらに、担当精神科医に対し、患者がベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールを併用したと思ったかどうかを調査した。 主な結果は以下のとおり。・ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用率は、39.8%(93例中37例)であった。・CAGE(アルコール依存症スクリーニング尺度)スコアが、併用と有意な正の相関を示した(オッズ比:2.40、95%信頼区間:1.39~4.16、p=0.002)。・精神科医によってベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用が疑われた患者は、併用患者のうち32.4%のみであった。 著者らは「これらの結果は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とアルコールの併用は一般的であり、これを精神科医は見過ごしている可能性があることを示唆している。このような潜在的な危険性を有する患者をスクリーニングするために、CAGE質問票が役立つであろう」としている。

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