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院内心停止の生存率を左右する予後因子とは/BMJ

 院内心停止患者では、心停止前に悪性腫瘍や慢性腎臓病がみられたり、心停止から自己心拍再開までの蘇生時間が15分以上を要した患者は生存の確率が低いが、目撃者が存在したり、モニタリングを行った患者は生存の確率が高いことが、カナダ・オタワ大学のShannon M. Fernando氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。院内心停止は生存率が低く、臨床的知識の多くは院外心停止に関する豊富な文献からの推測だという。院内心停止と関連する心停止前および心停止中の予後因子の理解は、重要な研究分野とされる。心停止前・中の予後因子をメタ解析で評価 研究グループは、院内心停止後の生存に関わる心停止前および心停止中の予後因子を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年2月4日現在、医学関連データベース(Medline、PubMed、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews)に登録された文献を検索した。また、英国のNational Cardiac Arrest Audit(NCAA)データベースの未発表データを調査した。対象は、心停止前および心停止中の予後因子と、心停止後の生存の関連を評価した英語の文献とした。 データの抽出は、PROGRESS(prognosis research strategy group)の推奨と、CHARMS(critical appraisal and data extraction for systematic reviews of prediction modelling studies)のチェックリストに準拠して行った。バイアスのリスクは、QUIPS(quality in prognosis studies)のツールを用いて評価した。 主解析では、関連する交絡因子を補正したうえでデータを統合した。エビデンスの確実性の評価には、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)approachが用いられた。患者との予後や事前指定の話し合いに利用できるデータ 主解析には23件のコホート研究が含まれた。12件(52.2%)が北米、6件(26.1%)が欧州、4件(17.4%)がアジア、1件(4.3%)がオーストラリアの研究であった。13件(56.5%)が後ろ向き研究で、13件(56.5%)は多施設共同研究だった。 心停止前の因子のうち、院内心停止後の生存オッズを低下させたのは、男性(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.73~0.95、エビデンスの確実性:中)、年齢60歳以上(0.50、0.40~0.62、低)、年齢70歳以上(0.42、0.18~0.99、低)、活動性の悪性腫瘍(0.57、0.45~0.71、高)、慢性腎臓病(0.56、0.40~0.78、高)であった。 1件の研究のみのデータではあるが、うっ血性心不全(OR:0.62、95%CI:0.56~0.68、エビデンスの確実性:中)、慢性閉塞性肺疾患(0.65、0.58~0.72、中)、糖尿病(0.53、0.34~0.83、中)も、生存オッズを低下させた。 心停止中の因子では、院内心停止後の生存オッズを上昇させたのは、目撃者のいる心停止(OR:2.71、95%CI:2.17~3.38、エビデンスの確実性:高)、遠隔測定(テレメトリ)によるモニタリングが行われた心停止(2.23、1.41~3.52、高)、日中(病院に十分なスタッフがいる時間と定義、施設によりばらつきあり)の心停止(1.41、1.20~1.66、高)、初回ショック適応のリズムを伴う心停止(5.28、3.78~7.39、高)であった。 一方、挿管を要する心停止(OR:0.54、95%CI:0.42~0.70、エビデンスの確実性:中)および15分以上の蘇生時間(心停止から自己心拍再開までの時間)(0.12、0.07~0.19、高)は、生存オッズを低下させた。 著者は、「院内心停止後のアウトカムと関連する重要な予後因子が同定された。これらのデータは、院内心停止後に予測される予後や、心肺蘇生に関する事前指定について、患者と話し合う際に使用可能と考えられる」としている。

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知っておくべきガイドラインの読み方/日本医療機能評価機構

 日本で初となるGRADE Centerが設立された。これにより、世界とガイドライン(GL)のレベル統一が図れるほか、日本のGLを世界に発信することも可能となる。この設立を記念して、2019年11月29日、公益財団法人日本医療機能評価機構がMinds Tokyo GRADE Center設立記念講演会を実施。福岡 敏雄氏(日本医療機能評価機構 執行理事/倉敷中央病院救命センター センター長)が「Minds Tokyo GRADE Center設立趣旨とMindsの活動」を、森實 敏夫氏(日本医療機能評価機構 客員研究主幹)が「Mindsの診療ガイドライン作成支援」について講演し、GL活用における今後の行方について語った。そもそもGRADEとは何か 近年のGLでよく見かけるGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチとは、エビデンスの質と益と害のバランスなどを系統的に評価する方法で、診療ガイドライン(CPG)作成において世界的に広く受け入れられているものである。また、GRADE CenterはGRADEアプローチを普及させる国際的な活動組織であり、2019年現在、米国、カナダ、ドイツなどで設立されている。患者・市民を巻き込むガイドラインが主流に 今回の主催者であるEBM普及推進事業Minds(Medical Information Network Distribution Service)は、厚生労働省の委託を受け、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。単なる情報提供にとどまらず、CPGの普及などにも広く貢献するほか、4つの取り組み(1.CPG作成支援、2.CPG評価選定・公開、3.CPG活用促進、4.患者・市民支援[CPG作成・活用に関わる])を行っている。 1では、CPG作成のためのマニュアル作成(Minds診療ガイドライン作成マニュアルは2020年改訂版の発刊を予定)に力を入れている。2では、AGREE IIを利用した評価を複数人で実施、公開に際しては各ガイドラインの出版社などにも許可を得ている。3、4は現在の課題であり、福岡氏は「医師・医療者と患者・家族とのインフォームドコンセントをより効率的で安全に行えるように支援し、患者の願い、家族の思いやそれぞれの負担など患者視点を導入しなければガイドラインのレベルが向上しないと言われている」と現行GLの問題点について指摘。さらに「どうやってガイドラインに患者を取り入れていくか、現場で使用するなかで患者と協調していくのかが、国際会議でも重要なトピックとして語られている」と述べた。日本がGRADEで認められた意味とメリット 今回、世界13番目のGRADEセンターに認定された経緯について、同氏はCPG作成支援が評価された点を挙げ、「われわれはセミナー・ワークショップや意見交換会、そして、オンデマンド相談会などを行っている。この活動によって、GLの作成段階で患者視点を取り入れる例が増加している。これによりGLが現場で活用しやすく、患者・家族に受け入れてもらいやすくなる」と、説明した。 さらに、GRADE認定されたメリットについて、「GRADEで認められると海外GL作成チームとディスカッションが可能になるばかりか、日本のGL作成ノウハウを海外に輸出することもできる」と、日本がGRADEから情報を受けるだけではなく、日本人の努力が世界に発信できる状況になったことを喜び、「GRADE内では、未来のGL作成者のための世界共通プラットフォームやトレーニングコース開設の動きもある」とも付け加えた。 GRADEアプローチでは、推奨を“向き”(実施することを or 実施しないことを)と“強さ”(強く推奨する or 弱く[条件付きで]推奨する)で表す。これについて、CPG作成支援活動を行う森實氏は、「弱い推奨の場合、条件付きという語を“裁量的”や“限定的”と表現することも可能である。それゆえ“個別の患者さんに合わせた決断が必要”で、患者さんの価値観・好みに合わせた結論に到達することを手助けする必要がある。そのためには何らかの決断支援ツールが有用」と述べ、「その方法として、患者にシステマティックレビューの結果をわかりやすく提示することも重要」とコメントした。 最後に、福岡氏は「ガイドライン作成の目的は、より良い社会作りと市民の幸せを前提とするべきである。専門家のためのみの作成ではない」と強調しつつ、「GRADEの進化はすさまじく、少しでも見失うと議論はあっという間に進んでいる。世界のGRADEミーティングに参加することで最新情報をキャッチアップしたい」と、締めくくった。

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うつ病や統合失調症リスクに対する喫煙の影響

 統合失調症やうつ病の患者では、一般集団と比較し喫煙率が高い。英国・ブリストル大学のRobyn E. Wootton氏らは、ゲノムワイド関連研究(GWAS)で特定された遺伝子変異を使用して、この因果関係を調べることのできるメンデルランダム化(MR)法を用いて検討を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2019年11月6日号の報告。 統合失調症およびうつ病に対する喫煙の双方向の影響を調査するため、2つのサンプルにおけるMRを実施した。喫煙行動についてはGSCAN(GWAS and Sequencing Consortium of Alcohol and Nicotine use)コンソーシアムから喫煙開始のGWASを使用し、UK Biobankの46万2,690サンプルより生涯の喫煙行動に関する独自のGWASを実施した。肺がんなどのポジティブコントロールアウトカムを用いて検証した。統合失調症とうつ病には、PGC(Psychiatric Genomics Consortium)のGWASを使用した。 主な結果は以下のとおり。・喫煙は、統合失調症(オッズ比[OR]:2.27、95%信頼区間[CI]:1.67~3.08、p<0.001)とうつ病(OR:1.99、95%CI:1.71~2.32、p<0.001)の両方のリスク因子であることが示唆された。・この結果は、生涯の喫煙と喫煙開始の両方で、一貫して認められた。・うつ病に対する遺伝傾向が喫煙を増加させる可能性が示唆されたが(β=0.091、95%CI:0.027~0.155、p=0.005)、統合失調症では明らかではなく(β=0.022、95%CI:0.005~0.038、p=0.009)、喫煙開始に対する影響は非常に弱かった。 著者らは「喫煙と統合失調症やうつ病の関連性は、少なくとも部分的に、喫煙の因果効果であることが示唆された。このことは、メンタルヘルスに対する喫煙の有害な結果をさらに示すものである」としている。

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ddTC療法、上皮性卵巣がんの1次治療でPFS改善せず/Lancet

 上皮性卵巣がん患者の1次治療において、毎週(weekly)投与を行うdose-dense化学療法は施行可能であるが、標準的な3週ごと(3-weekly)の化学療法に比べ無増悪生存(PFS)期間を改善しないことが、英国・マンチェスター大学のAndrew R. Clamp氏らが行った「ICON8試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2019年12月7日号に掲載された。上皮性卵巣がんの標準的1次治療は、従来、カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル(PTX)の3週ごとの投与とされる。一方、日本のJGOG3016試験(Katsumata N, et al. Lancet 2009;374:1331-1338.、Katsumata N, et al. Lancet Oncol. 2013;14:1020-1026.)では、dose-dense weekly PTX+3-weekly CBDCAにより、PFSと全生存(OS)がいずれも有意に改善したと報告されている。2つのweeklyレジメンと標準治療を比較する無作為化試験 本研究は、6ヵ国(英国、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、韓国、アイルランド)の117施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2011年6月6日~2014年11月28日の期間に患者登録が行われた(Cancer Research UKなどの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、組織学的に上皮性卵巣がん、原発性腹膜がん、卵管がんが確認され、国際産婦人科連合(FIGO)の1988年分類でStageIC~IV、全身状態(PS)が米国東海岸がん臨床試験グループ(ECOG)基準の0~2の新規診断患者であった。 被験者は、1群(CBDCA[AUC5または6]+PTX[175mg/m2]を3週ごとに投与する群[3-weeklyレジメン]、対照群)、2群(CBDCA[AUC5または6]を3週ごと+PTX[80mg/m2]を毎週投与する群[weekly PTXレジメン])、3群(CBDCA[AUC2]+PTX[80mg/m2]を毎週投与する群[weekly CBDCA+PTXレジメン])のいずれかに、無作為に割り付けられた。これら3週を1サイクルとする治療が、6サイクル行われた。 手術は次の2つの方法で行われた。(1)割り付け前に即時的な初回腫瘍減量手術(IPS)として施行し、術後に6サイクルの化学療法を行う方法、(2)術前化学療法を3サイクル行った後、計画された遅延的な初回腫瘍減量術(DPS)として施行し、術後にさらに3サイクルの化学療法を行う方法。 主要アウトカムは、PFSとOSの2つとし、intention-to-treat解析が行われた。ddTC療法は3-weeklyレジメンに比べPFS期間中央値を改善しなかった 1,566例が登録され、1(対照)群に522例、2群に523例、3群には521例が割り付けられ、それぞれ72%(365例)、60%(305例)、63%(322例)がプロトコールで定められた6サイクルの治療を完遂した。PTXの用量強度は、weeklyレジメンで高かった(総投与量中央値:1群1,010mg/m2、2群1,233mg/m2、3群1,274mg/m2)。 全体の年齢中央値は62歳(IQR:54~68)で、1,444例(93%)がECOG PS 0~1、1,073例(69%)が高Grade漿液性腺がん、1,119例(72%)がStageIIIC以上であった。また、746例(48%)がIPS、779例(50%)がDPSを受けた。 2017年2月20日の時点(追跡期間中央値36.8ヵ月)で、1,018例が病勢進行または死亡した(1群337例、2群338例、3群343例)。2つのweeklyレジメンは標準的な3-weeklyレジメンに比べ、いずれもPFS期間中央値を改善しなかった。境界内平均生存時間(restricted mean survival time:RMST)は、1群24.4ヵ月(97.5%信頼区間[CI]:23.0~26.0)、2群24.9ヵ月(24.0~25.9)、3群25.3ヵ月(23.9~26.9)であり、PFS期間中央値は同17.7ヵ月(IQR:10.6~未到達)、20.8ヵ月(11.9~59.0)、21.0ヵ月(12.0~54.0)であった(log-rank検定:2群vs.1群のp=0.35、3群vs.1群のp=0.51)。2年OS率は、1群が80%、2群が82%、3群は78%だった。 事前に計画されたサブグループ解析では、IPSコホートのRMSTは1群が32.6ヵ月、2群が33.0ヵ月、3群は33.3ヵ月、DPSコホートではそれぞれ18.6ヵ月、19.1ヵ月、19.6ヵ月であり、手術アプローチとweekly dose-dense治療に交互作用は認められなかった。 Grade3/4の毒性作用は、weeklyレジメンで頻度が高い傾向がみられた(1群42%、2群62%、3群53%)。発熱性好中球減少(4%、6%、3%)およびGrade2以上の感覚性ニューロパチー(27%、24%、22%)の頻度は3群でほぼ同等であった。Grade3以上の貧血は、2群(13%)が1群(5%)に比べ高頻度であった(p<0.0001)。 著者は、「本研究は日本のJGOG3016試験から着想を得たが、欧州人を中心とする集団ではweekly dose-dense PTXの生存利益は再現されなかった」としている。

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HR+乳がんへの術後化療、ゲノム解析結果に年齢も加味すべきか(MINDACT)/SABCS2019

 ホルモン受容体(HR)陽性乳がんにおいて、多重遺伝子解析を用いた術後化学療法の適応有無の判断に、年齢も考慮に入れる必要がある可能性が示唆された。サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)で、ベルギー・ブリュッセル自由大学のMartine J. Piccart氏らによるMINDACT試験の計画外サブグループ解析の結果が発表された。 多重遺伝子解析結果と年齢、化学療法の適応の関係については、TAILORx試験の2次分析からの報告がある1)。MINDACT試験で定義された臨床リスクとの統合に基づく解析が行われ、21遺伝子アッセイ(Oncotype DX)による高再発スコア(高RS;26〜100点)は、40〜50歳の女性における高臨床リスクおよびRS16~20、または臨床リスクとは独立してRS21~25に相当する可能性が示唆され、9年時の遠隔再発リスクにおける化学療法追加の無視できないベネフィットが示された。 今回の報告は、上記の結果を受けて計画外に実施されたMINDACT試験のサブグループ解析による。MINDACT試験は、HR陽性HER2陰性乳がん患者を対象に、術後補助化学療法の対象の選択において、Adjuvant! Onlineに基づく臨床リスク(c)と70遺伝子アッセイ(Mammaprint)に基づくゲノムリスク(g)の臨床的有用性を前向きに評価する無作為化第III相試験。本解析は無作為化によって割り当てられた治療群(化学療法ありまたは化学療法なし)ごとに行われ、MINDACT試験の主要評価項目が使用された(5年時の無遠隔転移生存率[DMFS])。 主な結果は以下のとおり。・登録された乳がん患者6,693例のうち、HR陽性は5,402例(81.7%)。・そのうち、臨床リスクが高く(cH)/ゲノムリスクが低い(gL)のは1,358例で、年齢別の内訳は40歳未満が53例、40~50歳が411例、50歳超が894例であった。・40歳未満のグループはイベント発生が少なく(2例)、結果は示されなかった。・40~50歳の399例、50歳超の865例が化学療法ありまたは化学療法なしの両群に無作為に割り付けられた。・腫瘍サイズの中央値は、両年齢層で2.2cmであった(T1/T2は40~50歳:35.9%/58.4%、50歳超:41.2%/55.5%)。リンパ節転移の有無は、両年齢層の約半数で陰性であった(40~50歳:50.9%、50歳超:51.8%)。大多数の患者がグレード2またはグレード3の腫瘍を有していた(40〜50歳:グレード2が63.9%/グレード3が26.6%、50歳超:66.6%/26.9%)。・40~50歳では、化学療法ありの203例中8例でイベントが発生し、Kaplan-Meier法による5年DMFSは96.2%(95%信頼区間[CI]:91.5~98.3)。化学療法なしの196例中16例でイベントが発生し、5年DMFSは92.6%(95%CI:87.7~95.7)であった。・50歳超では、化学療法ありの425例中23例でイベントが発生し、5年DMFSは95.2%(95%CI:92.4~97.0)。化学療法なしの440例中23例でイベントが発生し、5年DMFSは95.4%(95%CI:92.8~97.1)であった。 研究者らは、閉経後の患者は主にアロマターゼ阻害薬が投与されており、若い女性では補助内分泌療法として主にタモキシフェンが投与され、LHRHアナログが投与されていたのは7.0%のみであったことを明らかにした。本解析のイベント数の少なさと信頼区間の幅の広さ、計画外のサブグループ解析であることの限界に触れたうえで、それにもかかわらずTAILORx試験と同様の傾向が示され、(おそらく閉経前に分類される)40〜50歳およびcH/gLリスクの患者において、タモキシフェン単独では過小治療となる可能性が示唆されたと結論づけている。 また、化学療法を追加することによるベネフィットが年齢依存性となる理由として、卵巣機能抑制(OFS)によるものである可能性を指摘。ただし、最適な内分泌療法(すなわち、OFS+タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬など)の場合の化学療法の付加価値は、MINDACTまたはTAILORx試験の結果で評価することはできず、さらなる研究が必要としている。

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術後管理は手術を救えるか?―CABG編(解説:今中和人氏)-1156

 「人間、左前下行枝さえ保たれていれば何とかなる」とはいうものの、冠動脈バイパス手術の中・長期的便益は、ひとえに開存グラフトによってもたらされるのであり、グラフトの開存維持はまさに死活問題。その重要因子の1つは内服薬で、何をどのくらい処方すべきか、いろいろと考案されてきた。古くはアスピリン、ビタミンK拮抗薬と、それらの併用に始まり、近年ではチエノピリジン系(クロピドグレル、チカグレロル)やOACの中でもリバーロキサバンの、単剤ないし併用といったところである。 大伏在静脈グラフト(SVG)の開存性と内服薬に関するメタ解析である本論文は、3,266の候補論文を1979年から2018年の間に発表されたランダム化試験21本に絞り込み、1次アウトカムをSVG閉塞と出血イベント、2次アウトカムを全死因死亡と遠隔期心筋梗塞と定義して解析している。対象患者数は4,803例で、年齢は44~83歳、男性が83%、待期手術が83%、SVG本数は1患者当たり1.14~3.60本であった。 40年もの期間から容易に想像できるように、プロトコル、つまり処方薬剤・投与量・コンビネーション・投与期間はまったくバラバラだし、placebo対照の研究もあれば投与薬剤間の比較研究もある。この恐ろしく不統一なプロトコルを、薬剤とそのコンビネーションのみに基づいて群分けし、群間比較をしているのだが、絞りに絞った21論文とはいいながら、とくに2次アウトカムは書かれていない論文も多く、さらにたとえば流量が乏しかったのでDAPTに変更したが、群分けは当初のplacebo群のまま、といったintention to treat法に伴うbiasなどが目立ち、科学的公正性が高いのはわずか5論文とのことである。そのため、結果の信頼性はmoderate・low・very lowに3区分(highがない!)され、図表を見ると緑・黄色・赤に塗り分けられてキレイといえばキレイだが、めまいがするほど複雑である。読む側でさえそう感じるのだから、書いた側の苦労がしのばれる。 結論は、SVG閉塞に関しては、対placeboで、クロピドグレル単剤を除くすべての薬剤(単剤・併用)で有意に良好、アスピリン単剤に比し、アスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロルの併用が有意に良好で、その他の出血イベント、全死亡、遠隔期心筋梗塞は有意差がなかった。著者らはこの知見を本メタ解析の収穫として強調している。その他、SVG閉塞に関して、アスピリンへのリバーロキサバンの併用は、クロピドグレル、チカグレロルを併用した症例に有意に劣るという結果が出ているが、あまり詳述されていない。この薬剤については他の疾患や治療でも多様な結果が出ているようで、なかなか難しい。なお、古い論文も多く、スタチンをはじめ血液凝固関係以外の薬剤は検討対象外となっている。 読者として注意を要すると思われるのは、SVG閉塞の評価時期がとても早く、全4,800例のうち、3ヵ月以内の評価が600例もおり、平均観察期間が1年を超えているのは1論文216例のみであること、薬剤投与期間が観察期間未満で、やはりとても短いことである。とくに1ヵ月や50日後のSVG評価が250例もいて、これでは薬剤の効果をみているのか、吻合の質をみているのか、はたまた「術後管理は手術を救えるのか」をみているのか、かなり疑問である。ところが、これら観察期間の短い論文の多くが、著者らが収穫と強調するチエノピリジン併用に関する論文なので、どうも釈然としない。いずれにせよ、もっと長期の観察でないと、薬剤の効果をみたことになりにくいと考える。 もう1つは単剤でも併用でも、どの薬剤も対placeboで出血を有意に増やさない、という結論である。実はオッズ比2.53~5.74ながら95%信頼区間が恐ろしく広く、有意差なしということだが、理論的に大いに疑問である。ちなみにこれらのデータの信頼度はvery lowだそうで、図表は真っ赤っ赤。対placeboの疑義はともかく、アスピリンに上述の諸薬剤を併用しても、アスピリン単剤に比して出血イベントはさして増えていないようだが、何せ観察期間が短い論文ばかり。安全と鵜呑みにするのは危険である。 引き続き、あまり術後管理頼みにならない手術を心掛けて参りましょう。

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小児および青年期のうつ病の評価と治療

 米国では、小児や青年におけるうつ病の有病率が増加している。米国・オレゴン健康科学大学のShelley S. Selph氏らは、小児および青年期のうつ病の評価や治療に関するレビューを行った。American Family Physician誌2019年11月15日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・2016年には、12歳の約5%、17歳の約17%が過去12ヵ月間でうつ病エピソードを経験していることが報告されている。・12歳以上の青年に対するうつ病のスクリーニングは、10代向けPHQ-9などの検証済みの評価尺度を用いて、毎年実施する必要がある。・診断確定後は、中等度および重度のうつ病では、継続的な治療を開始する必要がある。・軽度のうつ病では、積極的なサポートやモニタリングで十分な可能性がある。・重度のうつ病では、心理療法(認知行動療法など)と抗うつ薬治療を併用することで、いずれかの単独療法よりも治療反応が良好であることを示すエビデンスが報告されている。・小児および青年のうつ病治療に対し米国FDAに承認されている抗うつ薬は、fluoxetineとエスシタロプラムのみである。・fluoxetineは8歳以上、エスシタロプラムは12歳以上での使用が推奨されている。・薬物療法中の小児および青年期うつ病患者では自殺念慮のモニタリングが必要であり、その頻度は、各患者のリスクに基づき決定する必要がある。・治療法の変更(治療薬の併用、増量、変更または心理療法の併用)は、治療開始の約4~8週間後に行う必要がある。・治療にもかかわらず症状が悪化または改善しない場合や、自己または他者に対するリスクとなる場合には、メンタルヘルスのサブスペシャリストへの相談または紹介が必要である。

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転移性脊髄圧迫への放射線療法、単回照射vs.分割照射/JAMA

 固形がん患者のがん転移に伴う脊柱管圧迫に対する放射線療法において、単回照射は5日間分割照射と比較し、主要評価項目である8週時の歩行に関して非劣性基準を満たさなかった。ただし、信頼区間の下限が非劣性マージンと重なっており、単回照射の臨床的重要性の解釈には留意すべき点もあることが示された。英国・Mount Vernon Cancer CentreのPeter J. Hoskin氏らが、多施設共同非劣性無作為化臨床試験「The single-fraction radiotherapy compared to multifraction radiotherapy trial:SCORAD試験」の結果を報告した。がんの骨転移等による脊髄圧迫は、可動性の維持や痛みの軽減のため放射線療法で管理されるが、これまで標準照射レジメンはなかった。JAMA誌2019年12月3日号掲載の報告。約690例を単回照射と5分割照射に無作為化、8週時の歩行状態を比較 研究グループは、英国42施設およびオーストラリア5施設の放射線治療センターにおいて、脊髄または馬尾圧迫を有する転移のあるがん患者で平均余命が8週超あり同部位に放射線治療歴がない686例を、単回照射群(8Gy単回照射、345例)または分割照射群(20Gyを5分割連続5日間照射、341例)に無作為化した。登録期間は2008年2月~2016年4月、最終追跡調査は2017年9月であった。 主要評価項目は、治療後8週時の歩行状態で、4段階のうちGrade1(補助具なしで歩行可能および筋力スケールが5段階のうちGrade5)またはGrade2(補助具ありで歩行可能または筋力スケールがGrade4)とし、群間差の非劣性マージンを-11%に設定した。また、副次評価項目として、1、4および12週時の歩行状態と全生存期間などを評価した。8週時の歩行状態がGrade1/2の割合は69.3% vs.72.7%、非劣性基準を満たさず 無作為化された686例(年齢中央値70歳[四分位範囲:64~77]、男性503例[73%]、前立腺がん44%、肺がん19%、乳がん12%)のうち、主要評価項目の解析対象は342例(49.8%)であった(255例が8週の評価前に死亡)。 8週時に歩行状態がGrade1またはGrade2を達成した患者の割合は、単回照射群69.3%(115/166例)、分割照射群72.7%(128/176例)であった(群間差:-3.5%、片側95%信頼区間[CI]:-11.5~∞、非劣性のp=0.06)。 一方、副次評価項目である各評価時の歩行状態がGrade1またはGrade2を達成した患者の割合は、単回照射群と分割照射群でそれぞれ、1週時63.9% vs.64.3%(群間差−0.4%、片側95%CI:-6.9~∞、非劣性のp=0.004)、4週時66.8% vs.67.6%(群間差−0.7%、片側95%CI:-8.1~∞、非劣性のp=0.01)、12週時71.8% vs.67.7%(群間差4.1%、片側95%CI:-4.6~∞、非劣性のp=0.002)であった。また、12週時の全生存率は単回照射群50%、分割照射群55%であった(層別化ハザード比:1.02、95%CI:0.74~1.41)。 解析された他の副次評価項目は、群間差が有意差なしまたは非劣性基準を満たさなかった。

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再発/難治性のB細胞リンパ腫、ペムブロリズマブの奏効率45%以上

 米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPhilippe Armand氏らは、再発または難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(rrPMBCL)について、予後不良であり、その治療は喫緊のアンメットニーズとなっているが、PMBCLは9p24領域の遺伝子異常およびPD-L1の過剰発現と関連していることから、PD-1阻害薬が効果を発揮する可能性があると仮定した。第Ib相「KEYNOTE-013試験」および第II相「KEYNOTE-170試験」の結果、ペムブロリズマブはrrPMBCLに対し高い奏効率と奏効の持続を発揮し、安全性プロファイルは管理可能であることを明らかにした。Journal of Clinical Oncology誌2019年12月1日号掲載の報告。 研究グループは、第Ib相KEYNOTE-013試験(NCT01953692)および第II相KEYNOTE-170試験(NCT02576990)において、rrPMBCL成人患者にペムブロリズマブを疾患進行または許容できない毒性発現まで、あるいは最長2年間投与した。 主要評価項目は、KEYNOTE-013試験が安全性および奏効率(ORR)、KEYNOTE-170試験がORR。副次評価項目は奏効期間、無増悪生存(PFS)期間、全生存(OR)期間および安全性、探索的評価項目がバイオマーカーとペムブロリズマブ活性との関連であった。 主な結果は以下のとおり。・ORRは、KEYNOTE-013試験の21例において48%(完全奏効[CR]:7例、33%)、KEYNOTE-170試験の53例において45%(7例、13%)であった。・追跡期間中央値はKEYNOTE-013試験が29.1ヵ月、KEYNOTE-170試験が12.5ヵ月で、いずれも奏効期間は中央値に到達しなかった。・CRが得られた患者に増悪例はなく、うち2例はCR後1年以上治療を行わなかった。・治療関連有害事象の発現率はKEYNOTE-013試験群が24%、KEYNOTE-170試験が23%で、治療に関連した死亡はみられなかった。・評価が可能であった42例において、9p24遺伝子異常はPD-L1発現と関連しており、さらにPFSと有意に関連していた。

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今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた(解説:野間重孝氏)-1154

 至適内科治療(optimal medical treatment:OMT)という言葉がある。冠動脈疾患は代表的な複合因子的な疾患である。喫煙、血圧、糖尿病、高脂血症等さまざまな因子が複合的に作用して疾病が形成される。こうした疾病に対しては、関係すると思われる諸因子を逐次徹底的にコントロールすることにより、疾病の1次・2次予防を図るやり方が考えられ、OMTと呼ばれた。冠動脈疾患に対しては大体90年代の半ばに確立されたといえる。冠動脈疾患に対するOMTの確立は、境界域の冠動脈疾患においては、場合により外科的治療や血管内治療の代替えとされるまでに発展した。一方、大変皮肉なことに、一旦OMTが確立した後はこれにプラスして何か新しい治療法を加えようとした研究は、ことごとくnegative studyに終わったといってよい。そんな中、今回のコルヒチンによる心血管系疾患の2次予防に関する成績は、研究法に対して多少の不満はあるものの、久しぶりに快音を響かせたヒットとなったのである。 動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は、1976年にRossらが「障害に対する反応」仮説を提出したことに始まる(N Engl J Med. 1976;295:369-377., 420-425.、二部構成)。以後さまざまな仮説が提出された。この論文評は動脈硬化炎症説を解説することが目的ではないので深入りはしないが、近年は自然免疫の障害説なども提出され議論が続いているものの、結局決定的なメカニズムの解明には至っていない。これはちょうどレセプターの研究をしようとするならブロッカーが開発されなくてはならないのと同じことで、炎症のあるプロセスを強力かつ永続的にブロックするような薬剤が開発されなかったことが大きな理由だったと考えられる。 コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで、単離されたのは1820年まで下るが(それでも十分昔!)、イヌサフランそのものはローマ時代から痛風の薬として使用されていた。主な作用として、細胞内微小管(microtubule)の形成阻害、細胞分裂の阻害のほかに、好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。皮肉なことに、この辺にコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは、動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ、免疫系細胞には注目するが、好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球、多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は、現在コルヒチン以外に知られていない。結局、今世紀に至るまでコルヒチンが心動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。 しかし意外な方面から突破口が開かれる。ニューヨーク大学のリウマチ研究室の研究者たちが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである(Crittenden DB, et al. J Rheumatol. 2012;39:1458-1464.)。 この結果にいち早く注目したのがHeartCare Western AustraliaのNidorf SMらのグループだった。彼らは通常の治療に加え、コルヒチン錠を1日当たり0.5mg投与する治療群(282例、66歳、男性率89%)とコントロール群(250例、67歳、男性率89%)の計532例を中央値で3年間フォローアップした結果(主要アウトカムは、急性冠症候群、院外心停止、非心臓塞栓性虚血性脳卒中)、ハザード比(HR)は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.60)、NNT 11で2次予防が可能であるという驚くべき結果を得た(LoDoCo試験、Nidorf SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:404-410.)。この結果はケアネットにおいても2013年1月15日に報道されたが、残念ながらわが国ではあまり注目されなかった。この試験は登録数が少ないこと、PROBE法で検討されていることからあくまでpilot studyだったのだが、一部の関係者の注目を集めるには十分だった。 今回の研究はLoDoCo試験に注目したカナダ・モントリオール心臓研究所のグループが計画したものである。プロトコールはきわめてシンプルで、心筋梗塞後平均13.5日後の患者4,745例を、コルヒチン0.5mgを服用する群とプラセボを服用する群に二重盲検し、中央値22.6ヵ月の追跡を行ったのである(複合エンドポイント:心血管死、心停止による蘇生処置、心筋梗塞の再発、脳卒中、血行再建)。この結果、HR:0.77、95%CI:0.61~0.96でコルヒチン群が優れているとの結果が得られたのである。 ただし、この研究にまったく問題がなかったわけではない。複合エンドポイントのうち、心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞には両群で差がなく、差が出たのは脳卒中と血行再建術を要した緊急入院のみであったからだ。数字から見るならば、脳卒中で差がつかなければこの研究はかなり際どい結果になっていた可能性もあるのである。ここで問題なのは、冠動脈疾患と脳卒中ではその発生のメカニズムを同じ土俵で論じてよいか議論があることである。文頭でOMTを話題としたが、冠動脈疾患が典型的な複合因子的疾患であるのに対し、脳卒中は血圧のコントロールに対する依存度が大変に高く(つまり単因子的な色彩が強く)、その予防法も冠動脈疾患でいうOMTとはやや趣が異なるのである。 論文中のlimitationの項で、筆者らは4,745例という数が少ないのではないかと述べているが、統計的に不十分な数であるとは考えられない。むしろその後半で述べているように、対象患者を心筋梗塞罹患後の患者に限定したことにこそ問題があったのではないかと考える。冠動脈疾患の2次予防の検定をするならば、さまざまなレベルの有症状、無症状の冠動脈疾患患者から心筋梗塞罹患患者までもっと広い患者層から対象を集めるべきだったのではないだろうか。こういった心血管系疾患の予後に関する研究をするとき、どうしても複合エンドポイントを冠動脈関係イベントのみに絞るというわけにはいかず、脳卒中を入れざるを得ないことが避けられない弱点になる以上、患者層は冠動脈疾患患者からできるだけ広く集めるべきだったのではないかと考えるのである。それにしても平均年齢が60.6歳の患者集団としては、コルヒチンを飲む飲まないにかかわらず、脳卒中の発生率がやや高いように感じられることも気になる点ではあった。 一方、LoDoCo試験を行ったオーストラリアのグループは、その後コルヒチン投与が安全に行えることが確かめられた5,522例の安定狭心症を対象としてコルヒチン0.5mgによる二重盲検試験を行った。この結果は本年発表されたが( Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56. )、30%のendpoint reductionを報告している。もっともこのグループも複合エンドポイントにはpilot studyと同様に脳卒中を入れざるを得なかったが、今回論評している研究ほど脳卒中の結果が結果に影響は与えていない。やはり対象の選択の問題ではないだろうか。論文評としてはいささか穏やかでない言い方になるが、率直に言って、評者はこのグループの研究のほうを評価したいと感じている。 いずれにしても、これらの研究は今後臨床面だけでなく、動脈硬化炎症説の研究にも大きな影響を与えていくものと推察される。今までの研究方向に大きな軌道修正がかけられる可能性もある。研究者たちの奮起を期待するものである。臨床面では、コルヒチンは家族性地中海熱などの研究を通じて生涯安全に飲み続ける方法がすでに確立されており、かつ値段は1錠8円前後なのである。本邦でも早急に研究が進められることが望まれる。 冠動脈疾患の予後改善に関して、確かに今、一石が投じられたのである。

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治療抵抗性となった転移性去勢抵抗性前立腺がんへの次なる治療は?(解説:宮嶋哲氏)-1155

 CARD trialは、ドセタキセルやアンドロゲン経路標的薬の治療歴を有するmCRPC患者を対象に、カバジタキセル(129例)またはアンドロゲン経路標的薬(アビラテロンまたはエンザルタミド、126例)を割り付けたランダム化比較試験である。1次評価項目である画像診断に基づくPFS(腫瘍の増大、骨病変の進行、がん死)に関しては、カバジタキセル群8.0ヵ月、アンドロゲン経路標的薬群3.7ヵ月であった(HR:0.54、p<0.001)。OSではカバジタキセル群13.6ヵ月、アンドロゲン経路標的薬群11.0ヵ月であった(HR:0.64、p=0.008)。2次評価項目であるOS、PFS、PSA response、腫瘍の反応などにおいてもカバジタキセル優位の傾向を示していた。なお、Grade3以上の有害事象は両群で同等であった。 転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対してはドセタキセルかアンドロゲン経路標的薬が選択されるが、この両者間に交差耐性の可能性が示唆されていることから、次の治療薬の選択は悩ましい。CARD trialのアンドロゲン経路標的薬群の患者背景で有転移症例と高リスクがんの割合が若干高いのが気になるところだが、ドセタキセルかアンドロゲン経路標的薬の治療歴がある場合の次なる候補としてカバジタキセルの優位性が示されたことは重要である。ただし、今後PSMA-PET等のnext generation imaging modalityの導入に伴い転移巣への積極的なmetastasis-directed therapyが適用されていくことから、mCRPCの治療法も薬物療法のみならず、腫瘍量によって層別化されていくことが予想される。

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non-HDL-C高値はCVD長期リスク上昇と関連/Lancet

 血中non-HDLコレステロール(non-HDL-C)値は、アテローム硬化性心血管疾患の長期リスクと強い関連があることが明らかにされた。ドイツ・University Heart & Vascular Center HamburgのFabian J. Brunner氏らが、欧州、オーストラリア、北米の19ヵ国、計44の住民ベースコホート(総被験者数52万4,444例)を含む「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データを基に行ったリスク評価・モデリング試験で明らかにした。これまで血中脂質値と心血管疾患の長期発生の関連、および脂質低下治療と心血管疾患アウトカムの関連については明らかとはなっておらず、研究グループは、心血管リスクとnon-HDL-C値(全範囲)の関連について調べ、長期的な心血管イベントに関連するnon-HDL-C値を推定するのに役立つツールを作成し、さらに脂質低下治療によるリスクの低下をモデル化する検討を行った。Lancet誌オンライン版2019年12月3日号掲載の報告。52万例超のデータを基に、non-HDL-C値とCVDの関連を評価 研究グループは「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データの中から、ベースラインで心血管疾患がなく、心血管疾患のデータを確実に入手可能な被験者を対象に試験を行い、non-HDL-C値と心血管イベントとの関連を検証した。 主要複合エンドポイントはアテローム硬化性心血管疾患で、冠動脈性心疾患イベントまたは虚血性脳卒中の発生と定義した。欧州の臨床ガイドラインに基づくnon-HDL-C分類を用いて、年齢、性別、コホート、従来の修正可能な心血管リスク因子で補正後に、性特異的多変量解析を行った。さらに、開発・検証デザイン法により、75歳までの心血管イベントの可能性を、年齢別、性別、リスク因子別に推定し、さらにはnon-HDL-C値を50%低下した場合のリスク低下を推定するツールを作成した。2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上への上昇でCVDイベント有意に増加 52万例超のうち、38コホートに属する39万8,846例を包含し検討した。被験者のうち女性は48.7%、年齢中央値は51.0歳(IQR:40.7~59.7)だった。開発コホート群には19万9,415例を、検証コホート群には19万9,431例を包含した。 中央値13.5年(IQR:7.0~20.1)、最長43.6年の追跡期間中に、5万4,542件の心血管エンドポイントが発生した。発生曲線解析において、30年心血管イベント発生率は、non-HDL-C値の増加に伴い上昇することが示された。non-HDL-C値が2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上に増加することで、同イベント発生率は女性では7.7%から33.7%へ、男性では12.8%から43.6%へと有意に増加した(p<0.0001)。 Coxモデルを用いた多変量解析の結果、non-HDL-C値が2.6mmol/L未満を基準とした場合、2.6~3.7mmol/L未満の女性の心血管イベントリスクは1.1倍(ハザード比[HR]:1.1、95%信頼区間[CI]:1.0~1.3)に、5.7mmol/L以上では1.9倍(1.9、1.6~2.2)に増加することが示された。男性についても、それぞれ1.1倍(1.1、1.0~1.3)、2.3倍(2.3、2.0~2.5)に増加することが示された。 開発したツールは、smooth calibration curves分析を反映した発生コホートと検証コホートの高度な比較で、特異的non-HDL-C値で心血管イベントが起きる可能性を二乗平均平方根誤差1%未満の確率で推定可能であることが示された。 non-HDL-C値が50%低下した場合、75歳までの心血管イベントリスクは低下することが認められ、そのリスク低下は、早期にコレステロール値が低下するほど大きかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「われわれが開発した単純なツールは、個々人の長期的なリスク評価と、早期の脂質低下治療による潜在的ベネフィットに資するものである。また今回示されたデータは、1次予防戦略に関する医師-患者のコミュニケーションに役立つだろう」とまとめている。

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乳がん患者の肥満、化学療法のRDIに影響/JAMA Oncol

 化学療法は体表面積や体重で投与量を決定することが多いが、筋肉や脂肪組織の量および分布といった体組成が耐性やアドヒアランスと関連すると考えられている。今回、米国Kaiser PermanenteのElizabeth M. Cespedes Feliciano氏らは、体組成がアントラサイクリンおよびタキサンベースの化学療法のRelative Dose Intensity(RDI)や血液毒性と関連しているかどうかを評価した。その結果、内臓や筋肉内の脂肪過多が低RDIと関連し、さらにRDIの低下が肥満と乳がん生存率低下との関連を一部媒介することが示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2019年12月5日号に掲載。 著者らは、Kaiser Permanente Northern Californiaで電子医療記録データを前向きに収集して観察コホート研究を実施した。本研究の参加者は、2005年1月1日~2013年12月31日に乳がんと診断され、アントラサイクリンおよびタキサンベースの化学療法で治療された転移のない乳がん女性1,395例。データ解析は2019年2月25日~9月4日に行った。診断時にCTスキャンにより、筋肉内脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪および骨格筋を調べた。主要評価項目は低RDI(0.85未満)で、RDIは点滴記録から化学療法のレジメン用量に対する実際の注入量の割合から算出した。血液毒性は臨床検査値から評価した。全死亡および乳がん死亡との関連は、年齢および体表面積で調整されたロジスティック回帰モデルと、年齢、人種/民族、肥満、チャールソン併存疾患指数スコア、腫瘍Stageとサブタイプで調整されたCox比例ハザードモデルを用いた。媒介割合は差分法で計算した。 主な結果は以下のとおり。・参加した乳がん女性1,395例の診断時の平均(SD)年齢は52.8(10.2)歳であった。・内臓脂肪(SD当たりのオッズ比[OR]:1.19、95%CI:1.02~1.39)および筋肉内脂肪(SD当たりのOR:1.16、95%CI:1.01~1.34)が増加すると、低RDI(0.85未満)のオッズが上昇した。・筋肉量が多いと血液毒性のオッズが低下した(SD当たりのOR:0.84、95%CI:0.71~0.98)。・RDIが0.85未満の場合、死亡リスクが30%上昇した(HR:1.30、95%CI:1.02~1.65)。・低RDIは、肥満と乳がん死亡率との関連を部分的に説明した(媒介割合:0.20、95%CI:0.05~0.55)。 著者らは「化学療法の有効性を減少させうる血液毒性およびそれによる投与延期や投与量減少がおこりやすい患者の特定に、体組成が役立つかもしれない」と考察している。

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日本人うつ病患者に対するボルチオキセチンの有効性、安全性

 日本において、うつ病は大きな影響を及ぼす疾患である。東京医科大学の井上 猛氏らは、日本人うつ病患者に対する抗うつ薬ボルチオキセチンの有効性および安全性を評価するため、検討を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2019年11月14日号の報告。 本研究は、再発性うつ病およびMontgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS)スコア26以上の日本人うつ病患者(20~75歳)を対象とした、8週間の二重盲検プラセボ対照ランダム化第III相試験である。対象患者は、ボルチオキセチン10、20mg群またはプラセボ群にランダムに割り付けられた。主要エンドポイントは、ベースラインからのMADRS合計スコアの変化とした。副次的エンドポイントは、MADRSの治療反応と寛解率、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D17)、臨床全般重症度(CGI-S)、臨床全般印象度(CGI-I)、シーハン障害尺度(SDS)の変化とした。認知機能は、Digit Symbol Substitution Test(DSST)スコア、Perceived Deficits Questionnaire-5 item(PDQ-5)スコアを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・MADRS合計スコアは、プラセボ群(161例)と比較し、ボルチオキセチン10mg群(165例)で2.66、ボルチオキセチン20mg群(163例)で3.07の減少が認められた(各々p<0.01)。・MADRSの治療反応と寛解率は、プラセボ群と比較し、ボルチオキセチン10、20mg群で有意な改善が認められた(各々p<0.05)。・ボルチオキセチン10、20mg群では、8週間後のHAM-D17スコア、CGI-Iスコア、SDS合計スコアの有意な改善が認められた。・ボルチオキセチン群では、PDQ-5スコアの有意な改善が認められたが、DSSTスコアでは有意な差は認められなかった。・ボルチオキセチン群の忍容性は、良好であった。 著者らは「日本人うつ病患者に対し、ボルチオキセチン10mg/日および20mg/日による治療は、抗うつ効果が期待でき、8週間にわたる忍容性も良好であった」としている。

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爆発的流行中のエボラ出血熱に、MAb114とREGN-EB3が有効/NEJM

 2018年8月に発生したコンゴ共和国におけるエボラウイルス病(EVD)の爆発的流行(outbreak)中に行われた治療において、MAb114とREGN-EB3はいずれも、ZMappに比べ死亡率が有意に低かったことが、同国Institut National de Recherche BiomedicaleのSabue Mulangu氏らが行ったPALM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月27日号に掲載された。2018年8月、同国北キブ州とイトゥリ州において、同国で10回目のEVDの爆発的流行が発生し、2番目に大きな規模に達した。EVDの実験的な治療法がいくつか開発されており、最も有望な治療法に関する無作為化対照比較試験の実施が求められていた。爆発的流行中に4薬を比較する無作為化試験 研究グループは、2018年8月のコンゴ共和国におけるEVDの爆発的流行中に、4つの治療薬を比較する無作為化試験を行った(米国国立アレルギー・感染症研究所[NIAID]などの助成による)。 対象は、年齢を問わず、RT-PCR法でエボラウイルス(EBOV)の核タンパク質RNAが陽性の患者であった。妊婦も含まれ、母親のEVDが確認されている場合は、生後7日以内の新生児も含まれた。 全例が標準治療を受け、ZMapp(3種類のモノクローナル抗体製剤、対照)、remdesivir(抗ウイルス薬)、MAb114(1種類のモノクローナル抗体製剤)、REGN-EB3(3種類のモノクローナル抗体製剤)のいずれかを静脈内投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。REGN-EB3群は、プロトコルの後期のバージョンで加えられたため、ZMapp群のうちREGN-EB3群の登録開始以降に登録された患者(ZMapp群サブグループ)と比較した。 主要エンドポイントは、28日の時点での死亡とした。28日死亡率:MAb114(35.1%)vs.REGN-EB3(33.5%)vs.ZMapp(49.7%) 患者登録は、2018年11月20日に開始された。681例が登録された2019年8月9日の時点で、データ安全性監視委員会は499例のデータの中間解析を行った。その結果、死亡率に関して、MAb114群とREGN-EB3群は、ZMapp群とremdesivir群よりも優れたため、同委員会はZMapp群とremdesivir群への割付を終了するよう勧告を行った。 673例(平均年齢 28.8±17.6歳、女性 55.6%)が、今回の解析の対象となった。ZMapp群に169例、remdesivir群に175例、MAb114群に174例、REGN-EB3群には155例が割り付けられた。ZMappサブグループは154例だった。 28日死亡率は、MAb114群が35.1%(61/174例)と、ZMapp群の49.7%(84/169例)に比べ有意に低かった(群間差:-14.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-25.2~-1.7、p=0.007)。また、REGN-EB3群の28日死亡率は33.5%(52/155例)であり、ZMappサブグループの51.3%(79/154例)と比較して、有意に良好であった(-17.8ポイント、-28.9~-2.9、p=0.002)。remdesivir群とZMapp群の差は、3.4ポイント(-7.2~14.0)だった。 RT-PCR測定で最初の陰性結果が示されるまでの期間は、MAb114群(中央値16日)およびREGN-EB3群(15日)が、ZMapp群(27日)よりも短かった。 予後因子の解析では、入院前の有症状期間が長い患者は予後不良であった。症状発現から1日以内に治療施設を受診した患者の死亡率は19%であったが、5日以上を要した患者は47%が死亡した。 また、ベースラインのウイルス量が少ない患者(オッズ比[OR]:0.66、95%CI:0.62~0.71)は予後良好で、血清クレアチニン値が高い患者(1.43、1.31~1.56)、AST値が高い患者(1.15、1.11~1.20)、ALT値が高い患者(1.43、1.33~1.54)は予後が不良であった。 重篤な有害事象が3例(いずれも死亡)で4件認められ、いずれも試験薬に関連する可能性があると判定された。 著者は、「EVDの爆発的流行中にも、科学的で倫理的に健全な臨床研究の実施は可能であり、爆発的流行への対応に関する情報を得るのに役立つ可能性がある」としている。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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第17回 本当に過換気症候群?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)過換気症候群の満たすべき条件を知ろう!2)過換気症候群と誤診しやすい疾患を知ろう!3)過換気症候群の対応を知ろう!【症例】24歳女性。仕事中に息が吸えないような感覚に陥り、その後両手の痺れを自覚した。苦しそうにしていたため同僚が心配し、救急要請。病着時にはだいぶ落ち着き症状は改善傾向にあった。担当した研修医は、過換気症候群だったのだろうと判断し、とくに精査せずに帰宅可能と考えたが…。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧122/76mmHg脈拍100回/分(整)呼吸22回/分SpO299%(RA)体温36.0℃瞳孔2.5/2.5mm+/+既往歴虫垂炎(18歳時に手術)内服薬定期内服薬なし過換気症候群の定義と診断基準臨床現場で過換気症候群を疑うことは難しくありません。呼吸回数が非常に多く、それに伴い手足の痺れ、助産師の手などを認めれば、誰もが疑うことでしょう。しかし、過換気だろうと思ったら実は…という経験がある方も少なくないはず。過換気になるには何かしらの理由があるのですから。過換気症候群とは、「代謝的な要求を超える不適切な分時換気量がもたらす呼吸性アルカローシスが、明らかな臓器障害を伴わずに、さまざまな症候をもたらす病態」とされます1)。「明らかな臓器障害を伴わない」ここが大切です。以下、過換気症候群は原発性のものとして話を進めます。確立された診断基準は存在しませんが、臨床症状による診断基準として表を頭に入れておくとよいでしょう。「(2)自然に、または何らかの処置による症状の急速な改善」、「(3)過換気を生じる器質的疾患の除外」の2点からもわかるように、救急外来など初療の際に、比較的速やかに症状が改善すること、その原因が過換気症候群以外に存在しないことを確認する必要があるのです2)。表 過換気症候群の診断画像を拡大する過換気症候群の疫学どのような患者さんが過換気症候群になるのでしょうか。これは、みなさんが現場で感じていることだと思いますが、女性に多く、年齢は20歳代が最多、平均36.5歳といわれ、高齢者初発はまれです3)。約50%に精神疾患があり、パニック障害の方が最多です。3人に1人には過換気症候群の既往があります3)。過換気症候群の症状とバイタルサイン主訴では不安、恐怖が最多、その他、痺れなどの感覚異常やめまいを訴えます。胸痛を訴えることもありますが、それのみで来院することはまれです。バイタルサインは、呼吸数の増加以外に頻脈や意識障害を認めることもありますが、速やかに改善します。改善しない場合や、意識消失を認める場合には、二次性を考え精査するようにしましょう。呼吸を促し、止めることができれば過換気症候群の可能性が高いとされます。二次性ではない、原発性の過換気症候群であれば、通常SpO2は95%を切ることはありません。成人であればほぼ100%です。過換気症候群の検査来院時に症状が治まっていれば、検査不要なことも多いですが、症状が残存している場合には、血液ガスがもっともらしさを評価できるでしょう。過換気症候群の患者244例の解析では、pH7.47、pCO228.91mmHg、pO297.41mmHgが平均値でした。当たり前ですが通常酸素化は落ちません。もし、酸素化が低下している場合には、何らかの疾患が原因で呼吸が苦しくなり、過換気様になっていると考えましょう。低酸素血症であれば、呼吸性アルカローシスになりえますから。過換気症候群と誤診されやすい疾患正確なデータはありませんが、代表的な疾患は肺血栓塞栓症です。以前に連載で取り上げましたね(第12回 意外に多い呼吸困難の原因とは?)。見逃さないためのポイントは、高齢者では過換気らしくても、背景に精神疾患や既往がなければ通常起こり得ないと心得ておくこと(ただしゼロではありません)、そして、普段と同様のADLで症状の再燃がないかを確認することです。ストレッチャーや車椅子で安静にしている状態では、呼吸数や酸素化は改善し、酸素は不要であっても、通常どおり歩行してみると、労作時呼吸困難や頻呼吸が再燃する場合には、過換気ではありません。その他、くも膜下出血、妊娠(異所性妊娠)、薬物乱用、急性冠症候群、髄膜炎など多岐にわたりますが、過換気症候群であれば、症状は速やかに改善するはずですから、その後にどうしてそのようになったのか、病歴をきちんと確認すれば見逃しは防げるでしょう。さいごに過換気症候群の患者を診療する際、医療者は陰性感情をぐっとこらえ、きちんと会話をしながら対応しましょう。会話をしながら病歴やバイタルサイン、身体所見を評価していれば、呼吸を何度もする暇を与えず、症状はだんだん落ち着きます。「ゆっくり呼吸しましょう」、「そんなにハァハァしたらつらくなってしまいますよ」と声をかけても、患者さんは「(わかっているよ! でも、できないんだ)」と思っていることでしょう。過換気症候群の予後は良好ですが、時に過換気後無呼吸(post-hyperventilation apnea)といって、呼吸が止まり低酸素になることがあります4)。過換気と判断しても、きちんと症状が改善するまでは経過を確認し、場を離れる場合にはモニタリングなどを怠らないようにしましょう。低酸素を回避すれば基本的に予後は良好です。1)Lewis RA, et al. Bull Eur Physiopathol Respir. 1986;22:201.2)廣川豊ほか. 日胸疾患会誌. 1995;33:940-946.3)Pfortmueller CA, et al. PLoS One. 2015;10:e0129562.4)Munemoto T, et al. BioPsychoSocial Medicine. 2013;7:9.

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コーヒーや紅茶、牛乳など飲料別の胃食道逆流リスク~初の前向き研究

 胸焼けなどの胃食道逆流症状を軽減するために、コーヒーや紅茶、炭酸入り飲料を避けることが推奨されるが、この推奨をサポートする前向き研究データはなかった。今回、米国マサチューセッツ総合病院のRaaj S. Mehta氏らが、前向き研究のNurses' Health Study IIで検討した結果、コーヒーや紅茶、炭酸入り飲料の摂取により胃食道逆流症状のリスクが26~34%増加し、水や牛乳、ジュースの摂取ではリスク増加がみられないことが示された。Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2019年11月28日号に掲載。胃食道逆流症状のハザード比はコーヒーで1.34、紅茶で1.26 著者らは、Nurses' Health Study IIで「習慣的な胃食道逆流症状がない」「がんではない」「プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬を服用していない」の条件を満たした42〜62歳の女性4万8,308人のデータを収集した。飲料摂取と胃食道逆流症状リスクとの関連は多変量Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。 コーヒーや紅茶、牛乳などの飲料摂取と胃食道逆流症状との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・26万2,641人年の追跡期間中に、胃食道逆流症状を週1回以上報告した7,961人の女性を特定した。・多変量調整後、各飲料について摂取量が最も多い女性(1日6杯以上)の最も少ない女性(1日0杯)に対する胃食道逆流症状のハザード比(HR)は、コーヒーで1.34 (95%CI:1.13~ 1.59、傾向のp<0.0001)、紅茶で1.26(95%CI:1.03~1.55、傾向のp<0.001)、炭酸入り飲料で1.29(95%CI:1.05~1.58、傾向のp<0.0001)であった。・カフェインの有無で層別化しても同様の結果が得られた。・水、牛乳、ジュースの摂取と胃食道逆流症状リスクとの関連は認められなかった。・1日2杯のコーヒー、紅茶、炭酸入り飲料を水に置き換えた場合、胃食道逆流症状のHRはコーヒーで0.96(95%CI:0.92~1.00)、紅茶で0.96(95%CI:0.92~1.00)、炭酸入り飲料で0.92(95%CI:0.89~0.96)であった。

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EGFR変異陽性NSCLCの1次治療、オシメルチニブがOS延長/NEJM

 上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を有する未治療の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療において、オシメルチニブは他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に比べ、全生存(OS)期間を有意に延長することが、米国・エモリー大学のSuresh S. Ramalingam氏らが行った「FLAURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月21日号に掲載された。第3世代の不可逆的EGFR-TKIであるオシメルチニブは、EGFR活性型変異およびEGFR T790M抵抗性変異の双方を選択的に阻害する。本試験の主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間はすでに報告されており、オシメルチニブ群で有意に延長した(18.9ヵ月vs.10.2ヵ月、ハザード比[HR]:0.46、p<0.001)。主な副次評価項目であるOSの結果を報告 本研究は、日本を含む29ヵ国132施設が参加した二重盲検無作為化第III相試験であり、2014年12月~2016年3月の期間に患者の割り付けが行われた(AstraZenecaの助成による)。今回は、主な副次評価項目であるOSの結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上(日本は20歳以上)、EGFR変異陽性(エクソン19欠失変異、L858R変異)の局所進行または転移を有する未治療のNSCLC患者であった。中枢神経系への転移が確認または疑われる患者も、神経学的に病態が安定している場合は組み入れられた。 被験者は、オシメルチニブ(80mg、1日1回、経口)または他の経口EGFR-TKI(ゲフィチニブ[250mg、1日1回]、エルロチニブ[150mg、1日1回])を投与する群(比較群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行、許容できない毒性または患者の同意が撤回されるまで継続された。比較群は、病勢が進行した場合、非盲検下にオシメルチニブへのクロスオーバーが許容された。死亡リスクが20%低下、アジア人では有意差なし 556例が登録され、オシメルチニブ群に279例、比較群には277例(ゲフィチニブ183例[66%]、エルロチニブ94例[34%])が割り付けられた。治療期間中央値はオシメルチニブ群20.7ヵ月(範囲:0.1~49.8)、比較群11.5ヵ月(範囲:0.0~50.6)であった。データカットオフの時点で、それぞれ22%、5%の患者が治療を継続していた。 データカットオフ時に321例が死亡していた。OSの追跡期間中央値は、オシメルチニブ群35.8ヵ月、比較群27.0ヵ月であった。OS期間中央値は、オシメルチニブ群が38.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:34.5~41.8)と、比較群の31.8ヵ月(26.6~36.0)と比較して有意に延長した(死亡のHR:0.80、95.05%CI:0.64~1.00、p=0.046)。 1年OS率は、オシメルチニブ群が89%、比較群は83%、2年OS率はそれぞれ74%、59%、3年OS率は54%、44%であった。また、試験薬の投与を継続していた患者の割合は、1年時がオシメルチニブ群70%、比較群47%、2年時はそれぞれ42%、16%、3年時は28%、9%であった。 OSのサブグループ解析では、事前に規定されたサブグループのほとんどで、オシメルチニブ群の利益が一貫して大きかった。アジア人(1.00、95CI:0.75~1.32)と非アジア人(0.54、0.38~0.77)は、HRの差が最も大きかった。 治療中止後の1回目の後治療は、オシメルチニブ群が48%、比較群は65%が受けていた。比較群の治療中止例の47%(85/180例)がオシメルチニブの投与を受けており、これは全体では31%(85/277例)に相当した。 Grade3以上の有害事象の発生率は、オシメルチニブ群が42%、比較群は47%であった。重篤な有害事象は両群とも27%で認められた。駆出率低下がオシメルチニブ群14例(5%)、比較群5例(2%)で、心電図上のQT延長がそれぞれ40例(14%)、14例(5%)で報告された。前回の解析以降に、新たな間質性肺疾患および肺臓炎の報告はなかった。致死的有害事象は、オシメルチニブ群9例(3%)、比較群10例(4%)に認められ、このうち担当医が治療関連と判定したのはそれぞれ0例、2例だった。 著者は、「比較群の約3分の1が、オシメルチニブへクロスオーバーしたにもかかわらず、オシメルチニブ群でOS期間中央値が6.8ヵ月延長し、死亡リスクが20%低下した。また、治療期間はオシメルチニブ群のほうが長かったにもかかわらず、安全性プロファイルは両群でほぼ同等であった」としている。

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第34回 「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第34回:「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~“壊死して機能しなくなった心筋の存在を示唆する心電図波形”と言えば「異常Q波」であり、前回は12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて診断する手法を学びました。今回はDr.ヒロが用意した2症例を用いて、その知識が定着しているかを確認してみましょう。早速、チャレンジ!症例提示174歳、男性。糖尿病と高血圧症に対し内服加療中である。心筋梗塞の既往があり、何度かカテーテル治療(PCI)を受けている。以下に外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:I、aVL、(V1)V2~V4梗塞部位:(左室)前壁、前壁中隔、高位側壁解説はこちら心電図(図1)を見ると、前壁誘導(V1~V4)の「ST上昇」と「QS型」(QS complex)が目を引くでしょう。それだけに目を奪われたら“半人前”ですよ。Dr.ヒロ流の語呂合わせ(第1回)では、“クルッと”の“ク”が「異常Q波」を抽出するプロセスです。前回は「V1~V3」と「それ以外」で読むことをお伝えしましたよね。「それ以外」では、肢誘導を上からI→II→III、そして、aVRは除外してaVL、aVF、そして右方に目を移して胸部誘導の下半分(V4→V5→V6)を読んで、初めてコンプリートです。『“ジグザグ運動”とほとんど同じだから、ST変化と同時にチェックしたら一気にできるなぁ』そう思う方、ブラボーです。“慣れ”もさることながら、Dr.ヒロの世界観にだいぶ染まった証拠です(笑)。“「異常Q波」を拾い出そう! 周囲を見渡すのが吉”さぁ皆さん、今回のメインテーマはズバリ「異常Q波を探せ」。“名探偵”になった気分で「Q波」を探し出し、病変(心筋梗塞)の場所を推測するという練習です。これは実臨床においても非常に役立つテクニックだと思います。前回紹介した「異常Q波」の“最新定義”を覚えていますか? 12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて考えるのでした。さらに、前者では「存在」、後者では「幅・深さ」の“1mm基準”(または“1ミリの法則”)、そして隣接誘導での連続性(“お隣ルール”)がキーでしたね。早速、問題の心電図(図1)を眺めてみましょう。まず「V1~V3」から。V2、V3はちゅうちょなく完全に「QS型」ですが、V1はちょびっと「r波」があるように見えます。でも、“一昔前”の「1mmなかったらr波が“ない”のと同じ」の考え方を拝借し、“見なしQ波(QS型)”として悪くないレベルでしょう。つまり、V1~V3すべてに「異常Q波」があるということ。次に「それ以外」の誘導。肢誘導では、I、aVLが陰性波から始まっているので「q波」です。そして、胸部誘導ではV1~V3に連続する形でV4に「QS型」がありますね。aVLは“1mm基準”を満たし、V4もかなり幅広な「QS型」ですから、どちらも文句なく「異常Q波」と考えられます。ではIのほうはどうでしょう? こちらは「幅1mm・深さ1mm」と、ともに微妙だなぁと思いませんか? こういう場合には鉄則があります。■「異常Q波」か悩んだら■視点をずらして同じ誘導の「ST-T変化」の有無を見よボクの流儀では「“周囲”を見渡せ」―これが鉄則です。言うなれば“周囲確認法”でしょうか。工事現場のように、常に周りの様子に気を配ることが大事なので、単視眼的にQ波を眺めていても正解は見えてこないのです。心筋梗塞の“爪痕”的な所見として、「異常Q波」以外に「ST-T変化」が知られています。ST変化は「ST上昇」、T波は「陰性T波」が主なものです。通常は同一の誘導で見られますから、悩ましいQ波でも「ST-T変化」を伴っていたら「異常Q波」なほうにbetするのです。心電図(図1)のaVL同様、I誘導にも「陰性T波」がありますね? そして、この2つはイチエル(I・VL)を構成し、肢誘導界では“お隣”の関係です。I誘導は幅も深さも微妙ですが、陰性T波を伴い、かつ隣接するaVLでのQ波の存在を総合的に考慮すると、“合わせ技”1本で「異常Q波」と判定できるのです! ちなみに、先ほど若干悩んだV1についてもST-T部分がV2~V4に類似しており(ST上昇、2相性[陽性-陰性]T波)、その意味でも異常Q波「あり」とボクは考えます。この単一の波形要素だけで考えず、そのほかの部分も合わせて考えることは、Q波に限らず心電図を読む上で大事だと思っています。“Q波の分布パターンから梗塞部位がわかる!”以上のことから心電図(図1)では、I、aVL、そしてV1~V4に「異常Q波」があると判明しました。次にすべきは「どこの心筋梗塞か?」…つまり“梗塞部位”を考えることです。心電図のスゴイところは、「異常Q波」の分布から、心筋梗塞を起こした部位が推定できることです。次の表1は拙著からの引用です。(表1)異常Q波分布と梗塞部位の関係画像を拡大するここでは、心臓を水平面で切ったCT画像を“宇宙人”が眺めている様子で解説した図を復習しましょう(第17回)。まず、V1~V4誘導には「前壁誘導」という別称がありましたね。細かく言うと、V1は「前壁中隔*」、V2~V4が真の「前壁」なので、この領域の心筋梗塞が疑われます。*:ここでは「前壁+心室中隔」ではなく、「“前側の”心室中隔」という意味。では、I、aVLのほうはどうでしょう? これは、イチエルの組み合わせでエルを含むので、心臓の「左」、すなわち「側壁」と考えて下さい。表を見ると、「高位側壁」(high lateral)となっていて、“上のほう”の「側壁」という意味です。ですから、今回の異常Q波の分布様式からは(前側の)「心室中隔」「前壁」、そして「高位側壁」が梗塞領域だと推定されます。ここまででお腹いっぱいかもしれませんが、最後の最後。われわれ循環器のプロは、ここからもう一歩先の「冠動脈のどこがつまったのか?」(梗塞責任血管)を考えています。「前壁中隔・前壁・高位側壁」のパターンでは、冠動脈閉塞部位は左冠動脈前下行枝の近位部でほぼ決まりです。循環器お得意の“番地”で言うと“6番”(LAD#6)ね。非専門医でこんな事が言えるならば、それはもはや“セミプロ”の証拠です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波(I、aVL、[V1]V2~V4)ST上昇(V1~V4)陰性T波(I、aVL、V2~V5)時計回転では、この調子でもう一問やってレクチャーを終わりましょう。症例提示254歳、男性。心筋梗塞の既往あり。虚血性心筋症による慢性心不全でフォロー中。冠動脈造影(CAG)のため入院時検査として行った心電図を示す(図2)。(図2)検査入院時の心電図画像を拡大する【問題2】心電図(図2)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:II、III、aVF、V5、V6梗塞部位:(左室)下壁、側壁解説はこちらこれも前問とまったく同じ考え方で臨みましょう。「V1~V3」は陽性波から始まっていて「Q波」はないですが、「それ以外」にはたくさんのQ(q)波が…どれが「異常」で、どれが「セーフ」なのでしょう? ここでも幅・深さの“1mm基準”と“周囲確認法”、そして”お隣ルール”をフル活用すれば正解は見えてくるでしょう。“知識の総ざらいをしましょう―Q波の仕分け”この問題で「異常Q波」の知識の総ざらいをして、今回は終わりましょう。心電図(図2)では「V1~V3」にはQ波はなく、「それ以外」では、I、II、III、aVF、V4~V6と、実に7つの誘導でQ(q)波が認められます。こういう時、まずは隣接誘導ごとに仕分けることから始めましょう。「異常Q波」は常にグループで考えていくことが大事です。すると…まずはニサンエフ(II、III、aVF)そしてブイゴロク(V5、V6)に気付くでしょう。残るIとV4は“宙ぶらりん”状態となっています。このうち、V4誘導は“玉虫色”なので注意して下さい。というのも「V1~V4」と「前壁誘導」のメンバーになったり、症例によっては「V4~V6」で「側壁誘導」を形成したりするのです。いるでしょ、こういう人って周りにも(笑)。でも、こういう時に役立つのが“周囲確認法“です。「ST-T変化」はどうでしょうか? V5、V6には「ST低下」と「陰性T波」があるのに、V4にはありません。『ブイゴロクに比べてQ波の幅も深さも軽めだなぁ…これは“除外“と考えよう』そう思えたアナタはボクと気が合います。ではIのほうはどうでしょう? すぐ“お隣”のエル(aVL)にはQ波がないですが、より広い視点でイチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)の側壁誘導なら4つ中3つだから「隣接2つ以上」という基準にも該当するかもしれません。でも、やはり決め手は「ST-T変化」です。ST部分は基線上で「陰性T波」もありません。ですから、これは「なし」でいいと思います。単純に「Q波」だけを見ているとわかりませんが、このように考えると、最終的にはII、III、aVF、V5、V6が「異常Q波」で、表1を参考にすると梗塞巣は左室の「下壁」と「側壁」となるでしょうか。ところで、イチエルは「高位側壁」でしたが、ブイゴロクについては“低位”側壁とは言わず、単に「側壁」でOKです。個人的には言ってもいい気がしますが…「側壁」の正式な呼称は“前”や“下”という枕詞が付くため、かなりわかりづらいと思っています。(主に心エコーや核医学[RI]での呼び方で、心電図の世界ではあまりこの言い方は好まれません)なお、閉塞血管についてはマニアックなので簡単に触れるに留めますが、「下壁+側壁」のパターンの責任血管が右冠動脈か左冠動脈回旋枝かを区別するのはなかなか難しいとされます。この方は立派な右冠動脈近位部閉塞による陳旧性心筋梗塞でした。冠動脈の解剖・走行を熟知した人であれば、右冠動脈が高位側壁領域を灌流することはかなり稀と思われますから、その意味でもI誘導のq波は異常「ではない」と言えます。循環器専門医は、このように臨床的にさまざまな洞察を加えて一枚の心電図を眺めているんです。いや、もちろん慣れたら別にたいしたことじゃないんですけどね(笑)。最後はちょっとだけ難解な話もしましたが、“Q波探偵”の推察の基本がわかってもられば十分です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波・陰性T波(II、III、aVF、V5、V6)ST上昇(V1~V3)Take-home Message微妙なQ波は、同誘導のST-T変化の有無と隣接誘導の様子から「異常」と言えるか判定する。「異常Q波」の誘導分布から心筋梗塞の部位診断ができる!杉山裕章. 『心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.【古都のこと~常照皇寺】就寝前、ベッドで庭園の写真集を見るのがボクのお気に入りの一つ。関西に移住してだいぶと日が経ちましたが、京都の良所は、歴史が育んだ名庭を実際に自分の目で楽しめることだと思います。常照皇寺(右京区)もその一つ。皆さんはこの寺をご存じですか? 周囲の京都人に聞いても「YES」はあまり多くない印象です。そもそも何と読むのでしょう? …正解はジョウショウコウジ*1。京都の庭園を紹介しているたいがいの書籍で、この寺が市内中心から最遠と書かれています。初秋の休日に訪れて最初の感想は、“最果て”かと思うほど山奥にあるなぁ、でした。山門から長い石段を登り、静寂が支配するその空間を進むと、方丈の間の向こう側にお目当ての庭が! 裏山を借景してデザインされた庭の存在感に圧倒され、寂しさの中に見え隠れする荒々しさ・力強さを言葉で表現するのはボクにとって容易ではありません(ぜひとも本物をご覧いただきたい!)。秋の紅葉時期はもちろん、天然記念物の九重桜など、春にも訪れたい“かくれ里”*2です。皆さんも京都の“秘密の山寺”を訪れてみませんか?*1:漢字4文字も珍しいが、詳名は「大雄名山万寿常照皇寺」とさらに長い。臨済宗京都嵯峨天龍寺派に属する。「常照寺」と呼ばれていた時期もある。南北朝の動乱期の貞治元年(1362年)、この地に隠棲した光厳天皇(北朝初代)の開創と伝わる。*2:白洲次郎の妻で随筆家の白洲正子の『かくれ里』にも常照皇寺が登場する。

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