サイト内検索|page:236

検索結果 合計:10329件 表示位置:4701 - 4720

4701.

脂肪萎縮症〔lipodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義脂肪萎縮症は、脂肪細胞機能の異常により、脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少・消失し、それに起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)および脂肪肝などを合併する疾患の総称で、エネルギー摂取不良による痩せとは区別される。■ 疫学脂肪萎縮症の有病率についての報告は少ない。わが国においては、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果、2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定される。米国では、100~500万人に1人と推定されている。■ 病因脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が減少・消失する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の身体領域に限局して脂肪組織が減少・消失する部分性脂肪萎縮症に大別される。原因として、遺伝子異常、自己免疫、ウイルス感染、薬剤などが知られている。主に、脂肪細胞の発生・分化や、脂肪組織における脂質蓄積に関わる遺伝子変異が原因であることが知られているが、その詳細は明らかではない。原因遺伝子としては、先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF遺伝子が、家族性部分性脂肪萎縮症ではLMNA、PPARG、AKT2、PLIN1、CIDEC、LIPE遺伝子が報告されている。遺伝性が疑われるが、原因遺伝子が特定されていない症例もある。また、脂肪萎縮を発症しやすい特定の自己免疫疾患やウイルス感染は解明されていない。薬剤性としては、ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬やプロテアーゼ阻害薬などのHIV治療薬による後天性部分性脂肪萎縮症がある。■ 症状先天性全身性脂肪萎縮症では、生下時より全身性の脂肪組織の減少・消失が認められるが、家族性部分性脂肪萎縮症では、乳幼児期の脂肪組織分布は正常で、小児期あるいは思春期に四肢の脂肪組織が減少・消失してくることが多い。また、後天的に脂肪萎縮症を発症する症例の中には、ウイルス感染を契機として、短期間に全身の脂肪萎縮に至る症例もある。脂肪萎縮症では、原因のいかんにかかわらず、糖尿病、高中性脂肪血症などの糖脂質代謝異常および脂肪肝を高頻度に合併する。脂肪萎縮の程度と、代謝異常の重症度は相関するとされている。脂肪萎縮に伴う糖尿病は、とくに「脂肪萎縮性糖尿病」とも呼ばれ、重度のインスリン抵抗性のために従来の経口血糖降下薬は無効であり、インスリンを大量に使用しても十分な血糖コントロールが得られないことがしばしばである。また、黒色表皮腫、女性症例では多嚢胞性卵巣を伴う月経異常が高頻度に認められる。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは著しく低下し、食欲は亢進する。まれに精神発達遅滞、下顎顔面異形成、早老症を合併することもある。■ 分類脂肪萎縮症は、脂肪萎縮の程度や部位により、全身性脂肪萎縮症あるいは部分性脂肪萎縮症に大別される。さらに脂肪萎縮の原因により、それぞれ先天性あるいは後天性に区別されることから、典型的には先天性全身性脂肪萎縮症、後天性全身性脂肪萎縮症、家族性部分性脂肪萎縮症、後天性部分性脂肪萎縮症の4つに分類される。薬剤の皮下注射や皮下脂肪織炎、圧迫などにより、狭い範囲に限局した脂肪萎縮が起こることがあるが、脂肪萎縮に起因する代謝異常の合併はない。■ 予後脂肪萎縮症は、糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などにより、平均寿命は30~40歳ともいわれる予後不良な疾患である。レプチン補充治療は、合併する代謝異常の改善に有効で、予後の改善が期待される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)〔診断基準〕■ 脂肪萎縮症の診断脂肪組織の萎縮の確認低栄養や消耗性疾患などによる痩せの除外病歴聴取による先天性、後天性の判断先天性→遺伝子解析により原因遺伝子に異常を認めた場合には確定後天性→発症原因が明らかである場合には確定インスリン抵抗性高中性脂肪血症脂肪肝※中尾一和・編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社; 2013. より引用■ 脂肪萎縮症を強く示唆する臨床的特徴脂肪萎縮症の主要臨床症候全身あるいは部分的な皮下脂肪の減少または欠損家族性部分性脂肪萎縮症の主要臨床症候思春期以降に発症する四肢や臀部の皮下脂肪の減少(頭頸部や腹部の脂肪は残存もしくは過剰に蓄積)脂肪萎縮症を示唆する臨床的症候1)重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病の存在(1)高用量のインスリン治療を必要とする糖尿病(200単位/日以上、2単位/体重kg/日以上、U-500インスリン製剤の使用など)(2)ケトーシスに陥りにくい糖尿病2)重度のインスリン抵抗性を示唆するその他の所見(1)黒色表皮腫(2)PCOSあるいはPCOS様の症候(高アンドロゲン血症、過少月経、多嚢胞性卵巣など)3)高中性脂肪血症の存在(1)重度の高中性脂肪血症(500mg/dL以上)(2)食事療法などの治療への反応が乏しい(250mg/dL以上)(3)高中性脂肪血症に起因する膵炎の既往4)脂肪肝や脂肪性肝炎の存在(1)明らかな原因(例: ウイルス感染)のない、肝腫大や血中トランスアミナーゼ値の上昇などの非アルコール性脂肪肝に合致する所見(2)脂肪肝の画像所見(超音波検査やCT)5)身体的症候や脂肪組織の減少に関する家族歴6)四肢の著明な筋肥大や静脈の怒張7)体格に見合わない過食(食事を止められない、空腹で目が覚める、食欲と葛藤しているなど)8)2次性の性腺機能低下(男性)、原発性あるいは2次性の無月経(女性)※米国臨床内分泌学会[AACE]のコンセンサスステートメントより引用3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脂肪萎縮症の治療は、脂肪萎縮に対する治療と脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療に大別される。最近承認されたレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する合併症を改善させる。■ 脂肪萎縮に対する治療現時点では、脂肪萎縮に対する根本的な治療法はない。後天性の脂肪萎縮については、原因疾患の治療、すなわち皮下脂肪織炎の治療、自己免疫異常の治療、HIV関連脂肪萎縮症ではHIV感染によるものと治療薬によるものを区別して治療する必要がある。脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγを活性化させるチアゾリジン誘導体は、全身性脂肪萎縮症では無効、部分性脂肪萎縮症では残存脂肪組織を肥大させたのみで脂肪分布異常を改善しなかったと報告されている。また、後述するレプチン補充治療によっても、脂肪萎縮は改善しない。■ 脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療従来は、低脂肪食を中心とした食事療法や運動療法のみであった。わが国ではIGF-I製剤による治療が試みられたが、その治療効果は限定的である。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンが欠乏しており、生理量のレプチン(商品名: メトレレプチン)を補充するレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)、脂肪肝などの合併症を改善させる。さらに、亢進した食欲を抑制し、食事療法を行いやすくする。レプチン補充治療は、2013年に世界で初めてわが国で承認され、2014年には米国でも承認された。4 今後の展望今後、脂肪萎縮に対する根本的な治療法の開発が期待される。とくに原因遺伝子が同定されている脂肪萎縮症については、脂肪萎縮の発症機序を明らかにすることで、脂肪の再生治療を含めた、新規治療法が開発される可能性がある。また、最近、少数例ではあるが、全身性あるいは部分性の脂肪萎縮とともに付随する特徴的な身体徴候(早老症様顔貌、皮膚病変、骨病変など)を呈する疾患群が報告されてきており、典型例とは区別する必要がある。5 主たる診療科内分泌代謝内科、糖尿病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脂肪萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)認定NPO法人日本ホルモンステーション 脂肪萎縮症委員会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Garg A. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:3313-3325.2)海老原健ほか.肥満研究. 日本肥満学会. 2011;17:15-20.3)中尾一和 編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社;2013.4)Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013;19:107-116.5)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.6)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:4500-4511.7)日本内分泌学会. 脂肪萎縮症診療ガイドライン. 2018;94:1-31.公開履歴初回2015年02月12日更新2020年02月03日

4702.

アルポート症候群〔AS:Alport syndrome〕

1 疾患概要1-3)■ 概念・定義アルポート症候群(Alport syndrome:AS)は、古典的には進行性の遺伝性腎症(しばしば腎炎とも呼ばれる)に難聴を伴う症候群をさすが、近年ではIV型コラーゲン遺伝子バリアントによるものとするのが一般的である2、3)。■ 疫学約8割がX連鎖型であるが、常染色体劣性・優性のものもある。頻度は欧米の報告では1/5,000~1/10,000で、人種差や地域差はないと考えられている。また、約50,000出生に1例との報告がある。■ 病因1,3)ASの原因は、IV型コラーゲンの遺伝子バリアントである。1)IV型コラーゲンとα鎖IV型コラーゲンの網目状ネットワークを形成する基本分子はモノマーと呼ばれ、3本のα鎖がらせんを巻いた構造をしている。α鎖はN末端側のGly-X-Yの繰り返し構造をもつ約1,400残基のコラーゲンドメイン(collagenous domain)と、C末端側の約230残基の非コラーゲンドメイン(NC domain)からなる。IV型コラーゲンの構成鎖はαl〜α6鎖が知られているが、α6鎖は糸球体基底膜には存在しない。生体においてらせんを形成する3本のα鎖の組み合わせは、(1)αl-α1-α2、(2)α3-α4-α5、(3)α5-α5-α6の3種類である。2つのモノマーがC末端側の非コラーゲンドメインで結合してダイマー、4つのモノマーがN末端側のコラーゲンドメインで結合してテトラマーを形成する。モノマー、テトラマーが互いに絡み合い、かつ側面で結合しIV型コラーゲンのネットワーク構造を形成する。α1、α2鎖は糸球体基底膜以外にもメサンギウム基質、尿細管基底膜、血管基底膜など、腎組織に広範に存在する。一方、α3、α4、α5鎖は糸球体基底膜、ボーマン嚢、一部の尿細管基底膜に限局して存在する。α6鎖は糸球体基底膜には存在せずボーマン嚢に発現している。2)IV型コラーゲン遺伝子1,3)IV型コラーゲン遺伝子はいずれも非常に大きく約250kbある。αl、α2鎖をコードするCOL4A1、COL4A2遺伝子は13番染色体上に、α3、α4鎖をコードするCOL4A3、COL4A4遺伝子は2番染色体上に、α5、α6鎖をコードするCOL4A5、COL4A6遺伝子はX染色体上に存在する。したがって、大部分を占めるX連鎖型ではα5鎖、常染色体性ではα3またはα4鎖の遺伝子バリアントが原因である。これらの遺伝子バリアントにより、糸球体基底膜に存在するIV型コラーゲン分子のネットワークの破綻が引き起こされる。■ 症状3)病初期には血尿が唯一の所見となる。血尿は持続性の顕微鏡的血尿に、発熱時などに肉眼的血尿を伴うことが多い。タンパク尿は進行とともに増加していき、ネフローゼ症候群を呈することもよくある。発熱時の肉眼的血尿はIgA腎症でもしばしばみられることがよく知られているが、ASでも珍しくないことに留意が必要である。特徴的な難聴や眼病変がみられれば診断上有用である。難聴は神経性(感音性)難聴で、7~10歳頃両側性に出現し、まず高周波領域における聴力低下が起こり、進行性に増悪していく。患者の約1/3に難聴がみられるが、男児に多く、女児にはまれである。本人、家族に難聴がみられなくても、本症であることがしばしばあり、注意が必要となる。眼病変としてはanterior lenticonus、posterior subcapsular cataract、posterior polymorphous dystrophy、retinal flecksなどがある。びまん性平滑筋腫症(diffuse leiomyomatosis)の合併が認められることがある。本症は良性の平滑筋細胞の増殖で、食道での報告が多い。本症合併例ではCOL4A5遺伝子5'端とCOL4A6遺伝子5'端を含む欠失が報告されており、食道にはα6鎖が多く発現していることから、本症責任遺伝子はα6鎖遺伝子と考えられている。■ 分類先述の通り、遺伝形式は80%がX連鎖型であるが、常染色体劣性(15%)・優性(5%)のものもある。常染色体優性遺伝形式を示し、複数世代で血尿を認めるが腎不全に進行しない家系において、臨床的に良性家族性血尿と呼ばれてきた。しかし、遺伝子解析の進歩・普及により、これらにおいてIV型コラーゲン遺伝子バリアントが原因となることが明らかになり、これらの家系のバリアントがペアとなって遺伝した場合に、常染色体劣性型ASになる。さらに、片方のアリルのバリアントのみでもまれに末期腎不全に進行する場合があり、この患者は常染色体優性型ASということになる。したがって、近年ではASと良性家族性血尿の境界は曖昧である2,3)。■ 予後ASの重症度は、腎機能、難聴の程度、視力により規定される。本症候群は進行性の慢性腎症であるが小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至る例が多い。腎保護薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は、X連鎖型男性患者で25歳までに50%、42歳までに90%とされる。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは少ないと考えられていたが、近年ではX連鎖型女性患者でも中年期以降腎不全に進行することも珍しくなく、蛋白尿が持続する症例では注意がいる。X連鎖型女性に関しては、40歳までに12%、60歳以降に30~40%が末期腎不全に進行するということが判明している。一方、X連鎖型では原因遺伝子バリアントを有するが無徴候の女性例が約10%存在し、本人はまったく正常であっても子供に発症する場合がある。この場合、家系内で世代間に隔たりがあるようにみえるが、それにより本症候群を否定してはいけない。また、X連鎖型女性患者が男性と同様に重症で、10代後半に末期腎不全に進行することもある。このようにX連鎖型女性患者の重症度はバリエーションに富んでおり、胎児期早期に起きるX染色体の不活化によるものと推測されている。一方、男性患者の重症度は遺伝子バリアントパターンによるところが大きい。常染色体性ASでは、症状に男女差はなく予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)3)ASの診断基準を表に示す。血尿患者をみたときに、患者やその家族が積極的に家族の検尿異常を述べるとは限らないので、必ずできる限り詳細に家族歴を聴取し、家族性の尿異常をもらさないことが重要である。家族に尿異常者がある場合は、腎不全の有無を詳細に確認し、腎不全の家族歴がある場合は腎生検を施行する。表 アルポート症候群診断基準(平成27年2月改訂)●主項目に加えて副項目の1項目以上を満たすもの。●主項目のみで副項目がない場合、参考項目の2つ以上を満たすもの。※主項目のみで家族が本症候群と診断されている場合は「疑い例」とする。※無症候性キャリアは副項目のIV型コラーゲン所見(II-1かII-2)1項目のみで診断可能である。※いずれの徴候においても、他疾患によるものは除く。たとえば、糖尿病による腎不全の家族歴や老人性難聴など。タイトルI.主項目:I-1 持続的血尿 *1II 副項目:II-1IV型コラーゲン遺伝子変異 *2II-2IV型コラーゲン免疫組織化学的異常 *3II-3糸球体基底膜特異的電顕所見 *4III 参考項目:III-1腎炎・腎不全の家族歴III-2両側感音性難聴III-3特異的眼所見 *5III-4びまん性平滑筋腫症厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」班*1 3ヵ月は持続していることを少なくとも2回の検尿で確認する。まれな状況として、疾患晩期で腎不全が進行した時期には血尿が消失する可能性があり、その場合は腎不全などのしかるべき徴候を確認する。*2 IV型コラーゲン遺伝子変異:COL4A3またはCOL4A4のホモ接合体またはヘテロ接合体変異、またはCOL4A5遺伝子のヘミ接合体(男性)またはヘテロ接合体(女性)変異をさす。*3 IV型コラーゲン免疫組織化学的異常:IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型アルポート症候群の男性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜は一部が染色される。常染色体劣性アルポート症候群ではα3、4、5鎖が糸球体基底膜ではまったく染色されず、一方、ボーマン嚢と皮膚ではα5鎖が正常に染色される。注意点は、上述は典型的パターンであり非典型的パターンも存在する。また、まったく正常でも本症候群は否定できない。*4 糸球体基底膜の特異的電顕所見:糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化により診 断可能である。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意を要する。この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高い。また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できる。*5 特異的眼所見:前円錐水晶体(anterior lenticonus)、後嚢下白内障(posterior subcapsular cataract)、後部多形性角膜変性症(posterior polymorphous dystrophy)、斑点網膜(retinal flecks)など。ASがIV型コラーゲン異常によるものであることが判明し、特徴的な糸球体基底膜の電子顕微鏡所見やIV型コラーゲン異常が証明されれば、家族歴や難聴は診断に必須ではない。したがって、家族歴のない例ではASを念頭に置かないと正しく診断できないことがあり、注意を要する。すなわち、家族歴のない血尿症例においても突然変異例が含まれるので、原則的に血尿がみられる疾患はすべて鑑別疾患となる。したがって、非家族性血尿の症例においても腎生検をする場合には、電顕による糸球体基底膜の観察が重要である。小児期、特に10歳以下の症例では血尿が唯一の症状であることが多く、腎不全の家族歴が明らかでない場合、鑑別は困難である。家族性に血尿がみられるが腎不全の家族歴がない場合、その血尿患者の腎生検の適応は通常の腎生検の適応と同じであるが、経過中に腎不全の家族歴が確認された場合や本人に病的タンパク尿が持続するときは腎生検を施行し、糸球体基底膜の電顕による観察により鑑別することが重要である。1)ASの腎病理所見1,3)光学顕微鏡所見は非特異的である。泡沫細胞は高度タンパク尿によるもので、本症候群に特異的というわけではないが診断上参考になる。電子顕微鏡所見は特異的で、糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化がみられれば本症候群と診断できる。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ注意を要する。糸球体基底膜の厚さは正常では300nm以上あるが、良性家族性血尿や本症候群では150〜200nmと異常に薄い場合がみられ、糸球体基底膜が断裂して糸球体上皮細胞と内皮細胞が直接接触していることもある。本症候群の糸球体基底膜は、網目状変化のために肥厚した部分、異常に薄い部分、正常な部分が混在する。疾患の進行に伴い糸球体基底膜は肥厚し、薄い部分、正常な部分は減少していく。正確に評価された腎電顕所見により家族歴や難聴等の無い場合でも診断が可能である。2)免疫組織学的検索による診断1,3,4)IV型コラーゲン遺伝子バリアントの影響を蛋白レベル、すなわちα鎖の発現を検索し、本症候群の確定診断可能な場合がある。IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚上皮基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型ASの男性患者の糸球体、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、皮膚基底膜は一部が染色される。X連鎖型ASの男性患者の糸球体基底膜は正常では存在するα3鎖とα4鎖も欠損し、かつ疾患の重症度と関係を認める。注意を要する点は、上述は典型的パターンであり、非典型的パターンも存在する。また、抗α5鎖抗体を用いた染色が正常でも本症候群は否定できない。X連鎖AS男性患者の糸球体基底膜では、患者の一部にα5鎖が発現している例があり、これらの患者は非発現例と比較して、軽症例であることが明らかになっている5)。3)遺伝子診断1-3)確定診断のためα3〜α5鎖遺伝子のバリアントが検索されている。ゲノムDNAを用いてすべてのエクソンとプロモーター領域をPCRで増幅し、ダイレクトシークエンスを行うことで80%を超える遺伝子バリアントの検出率が得られる。さらに、RNAを使用する方法やMLPA法(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)などによりほぼ100%原因遺伝子バリアントが検出できる。近年では、次世代シーケンサを用いたパネル解析が有用である。ASの遺伝子診断について、原因遺伝子が大きくホットスポットもなく、現時点で労力とコストの面から考えて容易とは言えないが、遺伝子解析技術の進歩に伴い診断における意義が高まると考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)3)現時点では疾患特異的治療はなく、対症療法が中心である。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与により、腎機能障害進行阻止が可能となり、末期腎不全への進行年齢を遅らせられていることが報告されている。ただし、一般的にACEIやARB使用中は容易な脱水から腎機能低下を引き起こすので、水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。これまでの知見では、AS患者の透析導入後および腎移植後の予後は、他疾患に存在する腎予後に影響する併存合併症が少ないために良好であると考えられる。そのため、ASに対する腎代替療法を特別視することなく、他の慢性腎臓病と同様の腎代替療法導入基準・適応でよいと考えられる。各腎代替療法における注意事項としては、血液透析ではASに特異的な注意事項はないと考えられる。腹膜透析では血管基底膜への影響により被嚢性腹膜硬化症が増加するのではないかという可能性を論じた報告があるが推測の域を出ず、大規模データの予後結果を踏まえると、腹膜透析を避ける根拠にはならないと考えられる。腎移植においては、遺伝性疾患であるため生体腎移植時の腎提供者(ドナー)の問題、また、腎移植後の再発性腎炎(新規抗糸球体基底膜抗体腎炎)の問題が存在する。4 今後の展望■ 薬物療法近年、バルドキソロンメチルの治験がASで実施され、eGFRの改善において有効な結果が示されている(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03019185: A Phase 2/3 Trial of the Efficacy and Safety of Bardoxolone Methyl in Patients With Alport Syndrome – CARDINAL.■ 遺伝子治療遺伝子治療の1つとして、神戸大学小児科を中心にエクソンスキッピング療法の開発が進行中である(AMED:希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究薬事承認を目指すシーズ探索研究(ステップ0)「Alport症候群に対する新規治療法の開発」)。5 主たる診療科腎臓専門医(小児科、内科)、耳鼻科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 慢性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アルポート症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alport Syndrome Foundationホームページ(日本語の選択も可能)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nozu K, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:158-168.2)Kashtan CE, et al. Kidney Int.2018;93:1045-1051.3)日本小児腎臓病学会編集. アルポート症候群診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.p.1-85.4)Nakanishi K, et al. Kidney Int. 1994;46:1413-1421.5)Hashimura Y, et al. Kidney Int.2014;85:1208-1213.公開履歴初回2020年02月10日

4703.

ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

4704.

自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

4705.

全身性強皮症〔SSc:systemic sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は、指趾から左右対称性に中枢側へと及ぶ線維性皮膚硬化を主徴とし、しばしば内臓(肺、食道病変の頻度が高い)にも線維性硬化を伴う慢性疾患である。■ 疫学わが国では約2万人が特定疾患として認定されている。しかし、見逃されている症例や他の膠原病とされている症例、軽症例では患者自身が受診していないことも多く、正確な患者数は不明である。男女比は1:12で、30~50歳代の女性に好発する。まれに、幼児期~小児期、70歳以降の高齢者に発症することもある。■ 病因SScの病因は不明である。本症は、(1)線維性硬化(皮膚におけるコラーゲンの過剰蓄積。内臓病変では臓器傷害部位をコラーゲンが置換する)、(2)末梢循環障害(レイノー現象、指趾潰瘍など)、(3)免疫異常(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体などの自己抗体産生)の3要素によって特徴付けることができる。ただし、自己抗体そのものが疾患を惹起しているわけではなく、SSc特異的自己抗体を産生しやすい遺伝的背景とSScを発症させる疾患感受性の遺伝的背景とが密接にリンクしていると考えられる。■ 症状初発症状としてはレイノー現象(典型例では、寒冷刺激などによって手指が白色、紫藍色、赤色の3相性に変化する。図1)、手指の腫脹・こわばり(図2)が多い。その後、強指症に代表される皮膚硬化が明確となり、皮膚潰瘍・壊疽、肺線維症(図3)、逆流性食道炎をしばしば伴う。手指の屈曲拘縮、肺高血圧症、心外膜炎、不整脈、右心不全、腎クリーゼ(乏尿と高血圧)、関節炎、筋炎、偽性イレウス(腸閉塞)(図4)、吸収不良、便秘、下痢など合併することがある。図1 レイノー現象による手指の蒼白化画像を拡大する図2 手指の浮腫性硬化画像を拡大する図3 肺線維症画像を拡大する図4 偽性イレウス画像を拡大する■ 分類強皮症にはSScと限局性強皮症(Localized scleroderma)とがある。SScは皮膚硬化が肘・膝を超えるびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous type SSc)と肘・膝より遠位側に留まる限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とに分類される。びまん皮膚硬化型は内臓病変が重症である確率が高い。びまん皮膚硬化型では、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の陽性率が高く、内臓病変は重症化しやすい。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体の陽性率が高く、生命予後に関わる内臓病変として肺高血圧症がある。SSc特異的自己抗体の有無は病型判別に役立つ。なお、皮膚硬化が部分的に生じる限局性強皮症(localized scleroderma)とSScの限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とは別疾患であり、混同してはならない。■ 予後日本人の成人発症SSc患者の10年生存率は88%である。先に述べたように、びまん皮膚硬化型SScでは内臓病変が重症化しやすく、内臓病変が生命予後を左右する。内臓病変は慢性に進行するわけではなく、重症例は発症5、6年以内に急速に進行することが多い。このような症例を正確に見極め、できるかぎり早期に治療を開始して組織破壊を抑制し、組織損傷を軽減することが重要である。一方、限局皮膚硬化型SScでは、肺高血圧症以外に重篤な内臓病変を合併することは少なく、生命予後について過度の心配は不要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SScは、症例毎に多彩な症状を呈するため、診断に際しては皮膚病変、内臓病変の正確な評価が不可欠である。分類(診断)基準案として厚生労働省研究班(表1)のものと、欧米リウマチ学会のもの(表2)を示す。表2はポイント制であり、早期例の診断に有用性が高い。特に、爪上皮の出血、後爪郭部毛細血管異常は早期診断には重要である(図5)鑑別すべき疾患として、腎性全身性線維症(造影剤を使用された腎不全患者に発症)、汎発型限局性強皮症(斑状強皮症、帯状強皮症などの限局性病変が多発したもの)、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群などが挙げられる(表1)。表1 全身性強皮症診断基準(厚生労働省研究班,2014)◎大基準両側性の手指を超える皮膚硬化◎小基準(1)手指に限局する皮膚硬化*1(2)爪郭部毛細血管異常*2(3)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指尖潰瘍*3(4)両側下肺野の間質性陰影(5)抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の何れかが陽性◎除外基準以下の疾患を除外すること腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群【診断の判定】大基準、あるいは小基準(1)および(2)~(5)のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する【注釈】*1:MCP関節よりも遠位に留まり、かつPIP関節よりも近位に及ぶものに限る*2:肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる、またはcapillaroscopyあるいはdermoscopyで全身性強皮症に特徴的な所見が認められる*3:手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く表2 アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類(診断)基準(2013)画像を拡大する図5 後爪郭部の毛細血管拡張と爪上皮内の点状出血画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点でSScを完治させる、あるいは進行を完全に抑制できる薬剤はない。しかし、ある程度の効果が期待できる治療薬は揃いつつある。(1)皮膚硬化に対する副腎皮質ステロイド(少量内服、20mg/日以下)(2)肺線維症(間質性肺炎)に対するシクロフォスファミド・パルス療法(点滴静注を1回/月、6回)(3)逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬(内服)(4)末梢循環障害に対するプロスタサイクリンなど(5)肺高血圧症、手指潰瘍再発に対するエンドセリン受容体拮抗薬(内服)(6)腎クリーゼに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(内服)4 今後の展望強皮症を含む自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序は不明である。近年の研究成果からは、自然免疫(innate immunity)の制御異常が注目されている。自然免疫は獲得免疫(acquired immunity)が成立するまでの期間に働く生体防御システムであり、外来性病原体に由来する、あるいは我々自身の体細胞に由来する物質の刺激によって始動する。これらの物質は生体の恒常性を破綻させる可能性があるため、自然免疫システムは炎症を起こしてこれら物質を排除しようとする。この炎症が上手くコントロールされて適切な段階で終息すれば正常状態であるが、炎症が遷延化して臓器損傷が慢性に進行するのが異常状態であり、これこそが自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序ではないかと推測されている。したがって、最初にスイッチオンする物質の種類、その後の自然免疫による炎症の強弱によって患者さんごとの多様な病態が形成されると考えられる。根本治療薬の開発は、発症機序の解明を待たねばならないが、炎症制御に関わるさまざまな生体物質を制御する薬剤(分子標的薬)の探索へと向かうであろう。5 主たる診療科皮膚科、膠原病内科(SScを専門とする医師がいることが望ましい)。罹患臓器の重症度によって呼吸器内科、循環器内科、消化器内科などに診療する。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター全身性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)平成26年度厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診断ガイドライン作成事業」(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

4706.

「患者力」を上げるため、医師ができること

 ネット上の情報に振り回され、代替医療に頼ろうとする患者、自分で何も考えようとせず、すべてお任せの患者、どんな治療も拒否する患者…。本人がそう言うならば仕方がないとあきらめる前に、医師にできることはあるのか。2020年1月12~13日、「第1回医療者がリードする患者力向上ワークショップ」(主催:オンコロジー推進プロジェクト、共催:Educational Solution Seminar、アストラゼネカ)が開催された。本稿では、東 光久氏(福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)、上野 直人氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)、守田 亮氏(秋田厚生医療センター)による講演の内容を紹介する。まず患者の自己解決力を信じ、自信を与え、力をつける手伝いをする 「患者力を高める」、「患者をエンパワメントすべき」。近年よく耳にするようになったこれらの言葉だが、具体的に何を指すのか。東氏はまず、この2つの言葉について以下のようにまとめた。「患者力」とは 自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、いろいろな知識を習得したり、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢「Patient Empowerment」とは 患者が、患者力を自主的に発揮できるように、医療者が援助すること「前回何を話したか覚えていますか?」から診察をスタートしてみる 自身もがんを経験した上野氏は、「振り返ると私自身も決して高い“患者力”を持った患者ではなかった」と話す。専門医の自分でさえ難しかった感情のコントロールや後悔のない選択を、医療従事者はどうやってサポートしていけばよいのか。同氏は患者力を高めるために重要なスキルを、「コミュニケーション」「情報の吟味」「自己主張」の3つに分けて、患者力向上に向けて医療者ができることについて具体的に整理した。コミュニケーション・焦らせない、慢性疾患のスタンスで接する(決断を急がせない/急かす態度をとらない/パソコンをいじりながら話さない):同氏は、医師の中には「早く決めてほしい」という気持ちが顔に出ている人もいると指摘。・医師が話した内容を取得させる(録音・録画・同伴者と来院することを推奨):医師のほうから、録音の準備をしてきたらどうですか?と声がけする。・質問上手にさせる(質問をあらかじめ準備させる/質問のために別の時間を設定/質問を評価する):質問票を作ってくるように言って、質問が明確でないときはどこが明確でないのかを指摘する=ともにスキルアップ。情報の吟味・話す内容をできる限り分かりやすくする(専門用語は原則禁止だが、キーワードは専門用語と一般用語を両方伝える/図を多用):専門用語を正しく伝えることで、検索したときにヒットする情報が大きく変わる。・医師が話した内容を消化させる(医療者に説明してみてもらう←間違いや勘違いがあれば指摘/家族や友人に自分で説明してもらう):毎回診察のはじめに、前回何を話したか覚えているかを確認する。・標準治療の意味を理解させる(標準治療かそうでないかを説明/標準治療でない場合は、その理由をていねいに説明/臨床試験とは何かを説明):あらかじめ優良なサイトを紹介する、気になった情報があればプリントアウトして持ってきてほしいと伝えることも重要。自己主張・治療法を自分で選べるようにサポート(選択肢を数多く与えるだけではなく、優先順位とともに伝える):なぜその優先順位なのかを説明する。・自分の希望を伝えられるようサポート(価値観・職歴・趣味を知る努力):価値観は常に変化するので、治療開始直後の希望が変化していないとはかぎらない。医療者は常に患者から情報を引き出す努力が必要。・恐れないチャレンジをサポート(標準治療と臨床試験の違いを教育/臨床試験のオプションを提示/セカンドオピニオンについての教育と提示):ただし、人には詳しく聞きたい気分のときと聞きたくない気分のときがある。最初に「今日は詳しく聞きたいですか?」と尋ねるのも一手。劇的な治療効果が、医師の目を曇らせている? 「先生、皮膚にボツボツができて辛いです…」「この薬を使うと出る患者さんが多いんです。これだけ治療効果があるので、やめるのはもったいないですよ」。こんな診察風景に覚えはないだろうか。守田氏は、近年分子標的薬による治療の進歩が著しい肺がん領域を例に、医師と患者が感じる副作用のギャップについて講演した。 肺がん領域で使われるEGFR-TKIの副作用で多くみられるのが下痢や皮疹、爪の異常だが、生存に大きな影響は及ぼさないという点で医師は治療効果をどうしても優先させがちになる。しかし、がん患者が感じる副作用の“つらさ”についてのアンケート1)では、皮膚や爪の異常に対して感じるつらさは決して小さくなかった。さらにそのつらさを医療者に伝えたかという問いに対して、4割が伝えていないと答えていた。 また、同アンケートで約8割以上の人が「医療者に伝えられなかった」と答えたのが、“経済的なつらさ”だった。同氏が診療に従事する秋田県では農業従事者が多く、ある時期は集中的に働かないと年間収入が激減するので、その期間中は抗がん剤を休みたいという申し出があったという。治療効果という観点ではマイナスであっても、治療を続けていく患者自身にとっては譲れない点であるケースもありうる。そして、医師が真摯に「治すために」と強調するほど、経済的な問題点は言い出しにくくなってしまう。 医師は臨床試験における担当医判断による有害事象の発生状況を判断基準とすることが多いが、客観的評価であるCTCAEと患者自身の主観的な訴え(patient report)の間には差があることが報告されている2)。守田氏は、この隙間を埋めるために、医師のほか各職種がそれぞれの専門性を生かして患者力向上に取り組んでいくことが重要として、講演を締めくくった。

4707.

高齢患者に対するスボレキサントの安全性と有効性~使用成績調査のサブ解析

 スボレキサントの第III相国際共同試験において、高齢患者と非高齢患者との間で、スボレキサントの安全性および有効性プロファイルに明らかな変化は認められなかった。しかし、日常診療でみられる併存疾患を有する高齢患者に対して、スボレキサントの臨床プロファイルは評価されていなかった。MSD株式会社の竹内 裕子氏らは、日常診療での高齢不眠症患者に対するスボレキサントの安全性および有効性プロファイルをより明らかにするため、市販後の使用成績調査のサブグループ解析を行った。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2019年12月20日号の報告。 スボレキサントによる初回治療を受けた不眠症患者を対象に、65歳未満の(1)群(1,490例)、65~74歳の(2)群(730例)、75歳以上の(3)群(1,028例)に分類した。 主な結果は以下のとおり。・全体的な薬物有害反応の発生率は、(1)群で11.28%(168例)、(2)群で8.63%(63例)、(3)群で8.17%(84例)であった。・一般的に認められた薬物有害反応は、傾眠、不眠、めまいであり、安全性の新たな懸念や問題は認められなかった。・内科を受診した患者は、(1)群で690例(46.3%)、(2)群で521例(71.4%)、(3)群で793例(77.1%)であった。・患者の自己評価および医師の評価に基づき「改善」と見なされた患者の割合は、すべての群において70~75%であった。 著者らは「本結果により、日常診療における、さまざまな併存疾患を有する高齢患者に対してのスボレキサントの安全性および有効性プロファイルは、明らかにされたと考えられる」としている。

4708.

慢性膵炎の疼痛緩和、早期外科治療vs.内視鏡/JAMA

 慢性膵炎患者の治療では、早期の外科治療は内視鏡による初期治療と比較して、1.5年の期間を通じて疼痛の緩和効果が優れることが、オランダ・アムステルダム大学のYama Issa氏らDutch Pancreatitis Study Groupが行った「ESCAPE試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年1月21日号に掲載された。疼痛を伴う慢性膵炎患者では、薬物治療および内視鏡治療が不成功となるまで、外科治療は延期される。一方、観察研究では、より早期の外科治療によって、疾患の進行が抑制され、より良好な疼痛管理と膵機能の保持が可能と報告されている。疼痛緩和効果を評価するオランダの無作為化試験 本研究は、オランダの30施設が参加した無作為化優越性試験であり、2011年4月~2016年9月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構などの助成による)。 対象は、膵管拡張を伴う閉塞性慢性膵炎による重度の疼痛がみられ、非オピオイド鎮痛薬では疼痛の進行を抑制できないため、オピオイド鎮痛薬の使用(強オピオイド≦2ヵ月、弱オピオイド≦6ヵ月)を開始した成人患者であった。 被験者は、無作為割り付けから6週間以内に外科的ドレナージ術を行う早期外科治療群、または至適な薬物療法が無効または許容できない有害事象が発現したため、内視鏡による初期治療を行う群(必要に応じて、体外衝撃波結石破砕術や外科治療を併用)に割り付けられた。 主要アウトカムは、18ヵ月間の追跡期間におけるIzbicki疼痛スコア(0~100点、点数が高いほど疼痛の重症度が高い)とした。副次アウトカムは、追跡期間終了時の疼痛消失、介入・合併症・入院の回数、膵機能、QOL(36-Item Short Form Health Survey[SF-36])、死亡であった。18ヵ月間の平均Izbicki疼痛スコア:37点vs.49点 88例(平均年齢52歳、女性21例[24%]、早期外科治療群44例、内視鏡治療群44例)が登録され、85例(97%)が試験を完遂した。ベースラインの平均年齢は早期外科治療群が7歳若かった(49歳、56歳)。全体の膵管径中央値は8mm(IQR:6~10)であり、16%で膵石と膵管狭窄が、74%で膵石のみ、10%で膵管狭窄のみが認められた。 早期外科治療群の44例中41例が手術を受けた(割り付けから手術までの期間中央値40日[IQR:32~65])。一方、内視鏡治療群の44例中2例で薬物療法が成功し、42例は成功しなかった。このうち39例(89%)が内視鏡治療を受け(施行回数中央値3回[1~4])、24例(62%)は不成功であった。22例で体外衝撃波結石破砕術が行われ、13例(30%)が外科治療を受けた。 18ヵ月の追跡期間中の平均Izbicki疼痛スコアは、早期外科治療群が37点と、内視鏡治療群の49点に比べ有意に低かった(群間差:-12点、95%信頼区間[CI]:-22~-2、p=0.02)。 追跡期間終了時に、疼痛の完全消失(Izbicki疼痛スコア≦10点)または部分消失(同>10点、かつベースラインに比べ50%以上の低下)は、早期外科治療群が40例中23例(58%)、内視鏡治療群は41例中16例(39%)で達成され、両群間に有意な差はなかった(群間差:19%、95%CI:-4~41、p=0.10)。 介入の回数は早期外科治療群で少なかった(群間差:-2回、95%CI:-3~-1、p<0.001)。一方、死亡(0%、0~0)、入院回数(0、-1~0、p=0.15)、膵外分泌機能不全(3、-10~15、p>0.99)、膵内分泌機能不全(-16、-36~4、p=0.12)、QOL(身体機能:3、-2~8、p=0.21、心の健康:3、-2~8、p=0.21)には、両群間に有意な差はみられなかった。 有害事象は、早期外科治療群で12例(27%)、内視鏡治療群では11例(25%)に認められた。早期外科治療群の有害事象はすべて術後の合併症であり、内視鏡治療群は7例(16%)が内視鏡治療後の合併症で、5例(38%)は外科治療後の合併症だった。 著者は、「この差の長期の持続性を評価し、これらの知見の再現性を確認するために、さらなる検討を行う必要がある」としている。

4709.

治療方針が明確に、「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」

 2019年12月、日本皮膚科学会は「皮膚真菌症診療ガイドライン」を10年ぶりに改訂した。日本において、真菌感染症のなかでも、足白癬の有病率は人口の約21.6%、爪白癬では10.0%と推計される。この10年間に外用剤(クリーム、液剤、スプレー)や新たな内服薬が発売され、治療状況も変化しつつあるため、改訂した皮膚真菌症診療ガイドラインのポイントを紹介する。「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」改訂のポイント 皮膚真菌症診療ガイドライン2019によれば、“保険診療上認められていない治療法や治療薬であっても、すでに本邦や海外において医学的根拠のある場合には取り上げ、推奨度も書き加えた。保険適用外使用についても記載した”と記され、各疾患の治療についてはClinical question(CQ)が設定されている。 CQは1~21まで作成され、足白癬や爪白癬をはじめとする真菌症治療に対して、外用・内用療法、各薬剤の有用性について推奨度が示されている。この推奨度は、GRADE分類を参考にしつつも日本皮膚科学会編「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版」で採用されたエビデンスレベル分類と推奨度の分類基準に準拠している。併用注意や投与時の注意事項を簡潔に記載 第1章の「疾患概念と診断・治療の原則」には、手・足白癬治療の中心は外用の抗真菌薬(CQ1)を、角化型や接触皮膚炎を合併しているような難治例に対しては内服の抗真菌薬で治療を行うのも良い(CQ2)旨が記されている。また、手・足白癬の爪白癬合併例や爪白癬単独症例では、経口抗真菌薬を第1選択とすべき(CQ5、6、7)とも記載されている。 皮膚真菌症診療ガイドライン2019中盤では各CQの解説がなされており、CQ1では足白癬に対する外用抗真菌薬の有用性が各薬剤の研究報告とともに書かれているほか、皮膚真菌症診療ガイドライン2019発刊時点で発売されている外用薬の一覧表が公開されている。爪白癬治療については、外用薬だけによる完全治癒率は低いものの、経口抗真菌薬が服用できない患者や希望しない患者に使用される、などの注意点が盛り込まれている。<主なCQを抜粋>*CQ8~21については、ガイドラインを参照。CQ1: 足白癬に抗真菌薬による外用療法は有用か(推奨度:A)CQ2: 足白癬に抗真菌薬による内服療法は有用か(推奨度:A)CQ3: 爪白癬にエフィナコナゾール爪外用液は有用か(推奨度:B)CQ4: 爪白癬にルリコナゾール爪外用液は有用か(推奨度:B)CQ5: 爪白癬にテルビナフィンの内服は有用か(推奨度:A)CQ6: 爪白癬にイトラコナゾールの内服は有用か(推奨度:A)CQ7: 爪白癬にホスラブコナゾールの内服は有用か(推奨度:A) なお、皮膚真菌症診療ガイドライン2019は日本皮膚科学会のホームページ上でも公開されている。

4710.

「がん免疫」ってわかりにくい?【そこからですか!?のがん免疫講座】第1回

はじめに約1世紀前にW. Coleyが「感染症によりがんが縮む」と報告したことが「がん免疫」の最初とされています1)。その後、20世紀初頭にP. Ehrlichが「免疫ががんから生体を防御している」という考えを唱え、M. BurnetとL. Thomasにより「がん免疫監視機構」としてまとめられました2)。がん免疫療法は期待されつつも長らく臨床応用されないままで、懐疑的に見られた時代もありましたが、近年ついに免疫チェックポイント阻害薬の効果がさまざまながんで証明されたことから、がん治療にパラダイムシフトをもたらしています3,4)。従来の抗がん剤やEGFR阻害薬といった分子標的薬は、一部の薬剤を除き、がん細胞を直接標的にすることでがん細胞の増殖を止めたり殺したりしています。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、薬剤ががん細胞に直接作用するわけではなく、免疫細胞に作用することでがんを治療しています。さらに免疫細胞にもさまざまな種類が存在しており、これらのことががん免疫療法の理解を難しくしてしまっています。本連載では、あまり「がん免疫」に詳しくない方にも理解しやすい内容で、5回にわたってがん免疫の基礎から今後の展望まで紹介します。そもそも免疫って何しているの?「がんに対する免疫」について書く前に、「普通の免疫」について簡単に触れたいと思います。現在の死因第1位は皆さんご存じのように「悪性新生物」ですが、過去には死因第1位は「感染症」でした。これは、感染症が生物の生きていくうえで大きな問題になってきたことを示しています。現代でも肺炎は死因として大きなウエイトを占めていますし、悪性新生物という死因であっても最終的には感染症が原因で亡くなる方は非常に多く、常に問題になっています。その感染症の原因となる細菌やウイルスといった病原体から、自分の身を守るために身体に備わっているシステムが「免疫」です。つまり免疫とは、細菌やウイルスといった自分とは違う外来の異物(非自己)を排除し、自分の身体(自己)を守るためのシステムです。皆さんがインフルエンザにかかれば高熱が出ますが、あれは免疫が頑張ってインフルエンザウイルスを排除しようとしている証拠です。「自然免疫」と「獲得免疫」があるヒトの免疫は、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられます(図1)。画像を拡大する自然免疫とは、病原体をいち早く感知し、それを排除する仕組みで、身体を守る最前線に位置しています。主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といったものがこの役割を担っており、獲得免疫へ情報を伝達する橋渡しの役割も果たしています。獲得免疫とは、病原体を特異的に見分け、それを「記憶」することで同じ病原体に出会ったときに効率的に病原体を排除できる仕組みです。自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は数日と長いですが、一度病原体を「記憶」してしまえば効率よく反応することができます。主にT細胞やB細胞といったリンパ球がこの役割を担っています。自然免疫は特定の病原体に繰り返し感染しても増強することはなく、この点が獲得免疫と異なります。「自己」を免疫が攻撃すると大変なことになる免疫は細菌やウイルスのような「非自己」を攻撃して自分の身体である「自己」を守る、と述べました。ですので、免疫はさまざまな仕組みで「自己」を攻撃しないようにしています。たとえば、われわれの身体ではT細胞ができてくる過程で「自己」を攻撃するようなT細胞を身体の中に極力残さないようにしています。さらに、万が一そういったT細胞が身体の中に残ってしまっても、それらが「自己」を攻撃しないようにする「免疫寛容」というセーフティーネットの仕組みを持っていたりもします。もし、これらの仕組みが働かず、免疫が「自己」を攻撃してしまうと、関節リウマチやSLEに代表される「自己免疫疾患」になってしまいます。このことはがん免疫療法特有の副作用につながってきますので、また次回以降に述べたいと思います。がん細胞も「非自己」として認識されれば免疫系が作用するさて、話をがんに戻します。段々おわかりかと思いますが、がん細胞も細菌やウイルスなどと同じように「非自己」として認識されれば、免疫にとっては排除の対象となるわけなのです。それが「がん免疫」です。「高齢の方は免疫系が落ちていてがんになりやすい」だとか「免疫抑制薬を使用している患者さんはがんになりやすい」といった事実から、「がん細胞に対しても免疫系が働いている」というのは感覚的には理解できるかと思います。それを証明したのがマウスの実験です。遺伝子改変で免疫不全状態になったマウスは、普通の野生型マウスに比べて、明らかに発がんしやすいことが報告されました。一時はがん免疫に対して懐疑的な時代もありましたが、これにより「やはりがん免疫は存在する」ということが徐々に受け入れられ、ついにはがん免疫療法の効果が証明されたのです。がん免疫に大事な「がん免疫編集」という考え方われわれ人間の身体では、1日3,000個くらいのがん細胞ができているといわれます。それが、そう簡単に「がん」になってしまったら大変です。今まで述べてきたように、免疫系が正常に働き、がん細胞を「非自己」として認識して排除することで臨床的な「がん」にはならないとされ、その段階を「排除相」と呼んでいます。一方で、がん細胞の中でも排除されにくいものが残ってしまい、完全には排除されていないものの進展が抑制されている平衡状態の「平衡相」になり、最終的には生存に適したがん細胞が選択され、積極的に免疫を抑制する環境を作り上げて免疫系から逃避してしまう「逃避相」として、臨床的な「がん」になるといわれています。がん細胞と免疫系の関係性をこの「排除相」「平衡相」「逃避相」の3つにまとめた考え方は「がん免疫編集」と呼ばれ5)、現代のがん免疫・がん免疫療法を考えるうえで非常に重要な概念です(図2)。英語ではそれぞれ“exclude”、“equivalent”、“escape”となるので、頭文字をとって“3E”とも呼ばれています。画像を拡大する基本的な話はこの辺にして、次回以降はもう少し臨床に近い話をしたいと思います。1)Wiemann B, et al. Pharmacol Ther. 1994;64:529-564.2)BURNET M. Br Med J. 1957;1:779-786.3)Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2454.4)Brahmer JR, et al. N Engl J Med. 2012;366:2455-2465.5)Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570.

4711.

ClinicalTrials.govへの結果報告、順守率は4割/Lancet

 ClinicalTrials.govへの試験結果の報告に関するコンプライアンスを評価したコホート研究の結果、2007年FDA改正法(Food and Drug Administration Amendments Act of 2007:FDAAA)の順守率は低いままで改善はされていないことが、英国・オックスフォード大学のNicholas J. DeVito氏らにより報告された。臨床試験の結果報告の不履行は、臨床診療のエビデンスの基礎を歪曲する可能性があり、被験者に対する研究者の倫理的義務違反や、重要な研究資源を無駄にすることを意味する。FDAAA 2007では、臨床試験のスポンサーが試験完了1年以内にClinicalTrials.govへ直接結果を報告するよう求めており、今回の改正のFinal Ruleの対象となる最初の試験は、2018年1月に結果報告書を公開することとなっていた。Lancet誌オンライン版2020年1月17日号掲載の報告。FDAAA 2007に基づく結果報告について分析 研究グループは2018年3月~2019年9月の間、毎月、ClinicalTrials.govに登録された全臨床試験のデータをダウンロードした。2019年9月16日にClinicalTrials.govから抽出したデータに関して横断分析を実施し、2018年3月~2019年9月の期間で毎月15日に最も近いアーカイブデータを使用して毎月の傾向分析を行った。 本研究では、FDAAAに基づき結果を報告すべきすべての臨床試験を組み入れ、該当しない臨床試験、報告期限前の臨床試験および報告延期の許可証明が与えられた臨床試験は解析から除外した。試験結果が提出され、ClinicalTrials.govで公開または品質管理審査中の場合は、報告されたものと見なした。法律に準じて主要な試験の完了日から1年以内に結果が提出された場合は、FDAAA 2007 Final Ruleを順守しているものとした。期限である試験完了後1年以内に結果報告がなされた臨床試験は40.9% 結果を報告すべき臨床試験は4,209件で、このうち1,722件(40.9%、95%信頼区間[CI]:39.4~42.2)は1年の期限内に結果を報告しており、2,686件(63.8%、62.4~65.3)は随時結果を提出していた。 順守率は2018年7月から改善していなかった。企業がスポンサーの場合は非企業や米国政府がスポンサーの場合に比べ(オッズ比[OR]:3.08、95%CI:2.52~3.77)、同様に多くの臨床試験を実施しているスポンサーは小規模のスポンサーに比べ(11.84、9.36~14.99)、順守する傾向が有意に高かった。提出期限の主要な試験の完了日から提出日までの期間は、中央値424日(95%CI:412~435)であり、法的報告要件である1年よりも59日遅れていた。 本研究はFDAAA 2007 Final Ruleの順守率を詳細に評価した最初の研究であり、著者は、「順守率の低さは、規制当局による強制力の欠如を反映しているものと考えられる。スポンサーの実効と行動が必要であり、各スポンサーがコンプライアンスに関する監査を公開することが有用であろう」としたうえで、「各スポンサーおよび臨床試験に関するコンプライアンスデータを、ウェブサイトfdaaa.trialstracker.net.で更新し続けていく予定である」と述べている。

4712.

卵巣がん初回治療後の維持療法でオラパリブ+ベバシズマブはPFSを延長も、日本の臨床現場への適応は一部施設に限るか(解説:前田裕斗氏)-1173

 進行期IIIまたはIVの進行卵巣がんにおける、初回治療(腫瘍減量術などの手術+プラチナ・タキサン[TC]・ベバシズマブ[以後Bevと表記])後の維持療法について、Bev単独とBev+オラパリブ(以後Olaと表記)を比較したRCTである。結果はprogression-free survival(無増悪生存期間、PFS)についてBev+Ola群で有意に長いという結果が出た(中央値、22.9ヵ月vs.16.6ヵ月)。 現在日本での進行卵巣がん初回治療における化学療法としては、dose-dense TC(TC療法のやり方の1つ)またはTC+Bevが行われることが多い。一方、初回治療後に行う維持化学療法には従来はBevという選択肢しかなかったが、SOLO1試験においてプラチナ製剤使用後にBRCA遺伝子に異常がある群でOlaのPFS改善効果が非常に高かったことから、日本でも初回治療の際にBRCA遺伝子変異を調べ、陽性の場合TC→Olaを行う施設も増えてきている。つまり、維持療法まで視野に入れると現状日本ではTC+Bev→BevまたはTC→Olaの2つの選択肢があることになる。 こうした日本の現状を考えると、今回のPAOLA-1試験はTC+Bevに対するOlaの上乗せ効果をみたものであり、TC→Olaを行った群がないことから日本の臨床現場において今回の結果がどのように利用されるかは未知数である。少なくともTC+Bev→Bevを採用している施設ではOlaを上乗せする選択肢を検討することになるだろう。その場合の注意点として、あくまで延長しているのはPFSであり、Overall Survival(全生存期間、OS)でないこと、そして新規薬剤の上乗せによくある話だが、医療費がかかることは考慮する必要がある。 また、BRCA変異が陰性でhomologous-recombination deficiency(相同組み換え修復異常、HRD)も陰性またはステータス不明の群ではBev+OlaのPFS延長効果は認められなかった。HRDについては臨床現場ベースで使用にたえうる検査は少なくとも日本では存在せず、一般に利用不可能であることを考えると、HRDの日本における頻度を調査する研究か、実際に日本でTC+Bev→Bev+Olaの効果をみた研究が待たれる。PARP阻害剤には今回のOlaparibの他にも多様な薬剤が存在するほか、免疫チェックポイント阻害剤を用いた臨床試験も進んでおり、薬剤によってはHRD陰性のサブグループでも疾患増悪または死亡リスクが有意に低くなるという結果も報告されている。上記のように卵巣癌の化学療法は現在研究が進むホットな分野である一方、OSの延長効果はなく、副作用や、医療費の問題があり、バランスをとることも求められる。今後も展開に目が離せない領域と言えるだろう。

4713.

マッチング参加まであと一息!最後に試される“異様”な集中力【臨床留学通信 from NY】第6回

第6回:マッチング参加まであと一息!最後に試される“異様”な集中力今回はStep2CKおよびStep3についてです。構成上、CKについての話をCSより後にしておりますが、実際には、私はCKを先に受けました。Step2CKは臨床医学からの出題であり、アドバイスとしては、研修医として働いてからの受験をお勧めします。というのも、どんなに最短で留学するとしても、将来日本で働くことがないわけでないのであれば、日本の研修は終えておくべきです。そういった意味でも、CKの受験は臨床的な感覚が得られた研修医以降が良いかと思います(もちろん医学生でも受けられますが、短時間での準備で、ある程度点数が見込めるという観点で研修医以降がお勧め、という意味です)。かくいう私は、医師5年目での受験で、出題範囲の広い内科については難しくなかったのですが、すでに小児科や産婦人科といった診療科の国家試験の内容を完全に忘れてしまっていたので、可能な人はもう少し早いほうがいいでしょう。ただCKに関しては、いつ受けても恐らくそれほど難しいとは感じないと思います。とにかくFirst AidとUSMLE worldの問題集をひたすら解いて、受験に臨みました。試験は日本で受けました。試験時間はStep 1より長く、8時間のテストを合計9時間で行われます。異様な集中力が求められます。私の場合、点数は243点(99点)でした。マッチング参加は目前、気力で長時間試験に臨めStep1、2CK、2CSをクリアできれば、ECFMG certificationが取得でき、晴れてマッチングに参加することができます。最後のStep3については、渡米してからの受験でもいいのですが、Step1から7年以内に受けておく必要があります。また、「Hビザ」を取得したい人は、渡米前にあらかじめStep3を受けておかなければいけないので要注意です。Step3も、CSと同様に点数は不問で、とにかく合格すればいいので、勉強はUSMLE worldで勉強する程度です。また、Step3もオンライン試験ですが、米国内でなければ受けられません。私は、日本から時差の少ないグアムに行き、2日かけて試験を受けて来ました。この段階まで来ると、すでにECFMG certificateは取得しているので、余力(あるいは気力)で2日間の試験をこなすのみです。2日間で計16時間のオンライン試験は非常にハードで、頭がパンク寸前になりながらも、終わった後はタモン湾にプカプカ浮かんで束の間の解放感に浸りました。そうはいっても、試験が目的でグアムに行っているのに、遊びと見なされて、“夏休み”扱いとされたのがつらかった思い出です……。改めてUSMLEについてまとめます。First AidとUSMLE worldをとにかく活用する英会話が得意でない方は、受けると決めた時から最難関のCSを見据えて徹底的に英語力の底上げを図る(私はここで大変苦労しました)1回の受験で確実に合格するStep1と2CKは高得点が必要(とにかく受かればいいと思っていましたが、低い点数は後々尾を引きます)「情報戦+英語」を制する者がUSMLEを制す!私の経験談は、あくまで一例です。USMLEは情報戦でもありますから、各個人に見合った最新の勉強の仕方を、さまざまなサイト等でupdateするのが何より重要です。私の場合、医師3年目で試験勉強を始めて1年でStep1を取得、医師4年目は循環器研修に忙殺されてまったく試験対策ができず、5年目にようやくStep2のCKとCSを受け、ECFMG certificateを取得、医師6年目でStep3を取得したわけですが、振り返ってみると、受験どころではなかった医師4年目でも、英語(とくに英会話)の勉強くらいはやっておくべきだったと反省しています。それだけ当時はCSの試験のレベルを甘く見ており、自身の英語レベルを客観視できていなかったのが、苦労した要因でした。次回は、私なりの英語の勉強の仕方をご紹介したいと思います。Column画像を拡大するこちらニューヨークは、冬はマイナス15度になることもあり、休日もなかなかおいそれとは出掛けづらいのですが、そんな時は美術館で作品鑑賞です。市の居住者であれば、所定の手続きを踏むことで、世界三大美術館に無料で出入りできるのもニューヨークならではの魅力です。写真は、先日訪れたメトロポリタン美術館。今年で開館150周年を迎えるようです。

4714.

アルツハイマー病へのスタチンの効果~RCTのメタ解析

 アルツハイマー病の治療としてのスタチンの使用について広く議論されている。中国・Anhui Medical UniversityのKun Xuan氏らは、アルツハイマー病治療におけるスタチンの効果について無作為化比較試験(RCT)のメタ解析を行ったところ、短期間(12ヵ月以内)のスタチン投与がMMSEスコアに有益な効果をもたらすことが示された。また、スタチンはアルツハイマー病患者の神経精神症状の悪化を遅らせ、日常生活能力を有意に改善した。一方、ADAS-Cogスコアの変化において効果はみられなかった。Neurological Sciences誌オンライン版2020年1月13日号に掲載。 本研究では、2019年3月31日までのPubMed、Embase、Cochraneライブラリ、OvisdSP、Web of Science、Chinese Nation Knowledge Infrastructure(CNKI)、Chinese Biomedical Database(CBM)のデータベースから対象となるRCTを検索。Mini-Mental State Examination(MMSE)、Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive(ADAS-Cog)、Neuropsychiatric inventory(NPI)、日常生活動作(ADL)のスコア、その他の情報を抽出した。統合された加重平均差(WMD)と95%信頼区間(95%CI)は、ランダム効果モデルまたは固定ランダム効果モデルで計算した。 主な結果は以下のとおり。・1,489例(スタチン群742例、対照群747例)を含む合計9件のRCTを解析した。・MMSEを使用した研究が9件、ADAS-Cogを使用した研究が5件、NPIを使用した研究が4件、ADLを使用した研究が6件あった。・MMSEを使用した9件の研究のメタ解析では、スタチン群が対照群と比較して有意な効果がないことが示された(統合されたWMD:1.09、95%CI:-0.00~2.18、p=0.05、I2=87.9%)。・ADAS-Cogを使用した5件の研究のメタ解析でも、スタチン群が対照群と比較して有意な効果がないことが示された(統合されたWMD:-0.16、95%CI:-2.67~2.36、p=0.90、I2=80.1%)。・NPIを使用した4件の研究のメタ解析では、スタチンによる治療がNPIスケールスコアの増加を遅らせることができることが示された(統合されたWMD:-1.16、95%CI:-1.88~-0.44、p=0.002、I2=45.4%)。・ADLを使用した6件の研究のメタ解析では、スタチンによる治療が患者の日常生活能力を改善することが示された(統合されたWMD:-4.06、95%CI:-6.88~-1.24、p=0.005、I2=86.7%)。・サブグループ解析の結果から、短期間(12ヵ月以下)のスタチン使用がMMSEスコアの変化に関連することが示された(統合されたWMD:1.78、95%CI:0.53~3.04、p=0.005、I2=79.6%)。・感度分析と出版バイアス検定はどちらもネガティブであり、結果は比較的信頼性が高く安定していた。

4715.

小児双極性障害患者の不安症合併率~メタ解析

 不安症は、成人の双極性障害への合併や経過に対し影響を及ぼすことが知られている。しかし、小児の双極性障害における不安症の合併に関する研究は限られている。トルコ・コチ大学のHale Yapici Eser氏らは、小児双極性障害と不安症合併に関するメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2020年1月3日号の報告。 PRISMAガイドラインの定義に基づき、2019年5月までに公表された関連文献をシステマティックに検索した。不安症の関連する特徴および有病率を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・データ分析に用いた研究は、37件であった。・不安症の生涯合併率は44.7%であった。各不安症の内訳は以下のとおり。 ●パニック症 12.7% ●全般不安症 27.4% ●社交恐怖 20.1% ●分離不安症 26.1% ●強迫症 16.7%・小児期の研究では、全般不安症と分離不安症の合併率が高かった。・青年期の研究では、パニック症、強迫症、社交恐怖の合併率が高かった。・小児双極性障害と各不安症の合併には、発症年齢、性別およびADHD、物質使用障害、反抗挑発症、素行症の合併が異なる影響を及ぼしていた。 著者らは「小児双極性障害は不安症が合併していることが多く、早期発症患者では、不安症リスクが上昇する。合併や経過の生物心理社会的側面についてのさらなる評価が求められる」としている。

4716.

高血圧合併のAF再発患者に腎除神経術は有効か/JAMA

 高血圧症を有する発作性心房細動患者に対して、肺静脈隔離術に加えて腎除神経術の施行で、肺静脈隔離術単独と比べて12ヵ月後の心房細動無発症の確率が有意に増大したことが示された。米国・ロチェスター大学のJonathan S. Steinberg氏らが、302例を対象に行った研究者主導型の国際多施設共同単盲検無作為化試験「ERADICATE-AF」の結果、明らかにした。腎除神経術は、心臓交感神経活性を抑制し、心房細動に抗不整脈性効果をもたらす可能性が示されていた。JAMA誌2020年1月21日号掲載の報告。肺静脈隔離術単独vs.肺静脈隔離術+腎除神経術 試験は、ロシア、ポーランド、ドイツの5ヵ所のカテーテルアブレーション専門センターで被験者を集めて行われた。 2013年4月~2018年3月に、降圧薬を1種以上服用しているものの高血圧症が認められ、発作性心房細動があり、アブレーションが予定されている患者302例が登録された。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には肺静脈隔離術のみを(148例)、もう一方の群には肺静脈隔離術と腎除神経術を行い(154例)、2019年3月まで追跡した。 肺静脈隔離術では、全肺静脈電位の消失を確認した。腎除神経術は、イリゲーションカテーテルを用いて高周波エネルギーにより両腎動脈を遠位から近位にらせん状に分離した。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点における心房細動・心房粗動・心房頻拍の無発症とした。副次エンドポイントは、30日以内の施術に関連した合併症、6ヵ月および12ヵ月時点の血圧値などだった。12ヵ月後の再発リスク、肺静脈隔離術+腎除神経術群のハザード比0.57 被験者302例は、年齢中央値60歳(四分位範囲:55~65)、男性が182例(60.3%)で、283例(93.7%)が試験を完了した。なお、全例の割り付け処置が成功裏に行われた。 12ヵ月時点の心房細動・心房粗動・心房頻拍の無発症の割合は、肺静脈隔離術単独群148例中84例(56.5%)に対し、肺静脈隔離術+腎除神経術群は154例中111例(72.1%)だった(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.38~0.85、p=0.006)。 事前に規定した5つの副次エンドポイントの中で報告がされた4つのうち、3つで群間差が認められた。ベースラインからの平均収縮期血圧値の変化は、肺静脈隔離術単独群では151mmHgから147mmHgへの低下に対し、肺静脈隔離術+腎除神経術群では150mmHgから135mmHgへとより大幅に低下した(群間差:-13mmHg、95%CI:-15~-11、p<0.001)。 施術に関連する合併症の発生は、肺静脈隔離術単独群7例(4.7%)、肺静脈隔離術+腎除神経術群7例(4.5%)だった。 なお結果について著者は、「シャム対照の腎除神経術を行っていないことを考慮して解釈する必要がある」としている。

4717.

第17回 メタボ対策からフレイル対策へシフトするタイミング【高齢者糖尿病診療のコツ】

第17回 メタボ対策からフレイル対策へシフトするタイミングQ1 食事療法を“個別化”するときの指針とは? どの時点でメタボ対策からフレイル対策へシフトしますか?栄養成分の予後に及ぼす影響は年齢によって異なってきます。一般住民の縦断調査では65歳以下ではタンパク質摂取が増えるほど死亡リスクが高くなりますが、66歳以上ではタンパク質摂取が少ないほど死亡リスクが上昇しています1)。また、メタ解析で健康的な食事パターンは65歳以上でのみ、フレイルのリスクを減らすことが報告されています2)。J-EDIT研究では、75歳以上の高齢糖尿病患者でのみ、野菜や魚が多い“健康食事パターン”は、肉や脂肪の摂取が多い“肉食食事パターン”と比べて死亡が少ないという結果が得られています3)。また、75歳以上の糖尿病患者では、地中海食のアドヒアランスが良好になるにつれて歩行能力やバランスの能力が改善するのに対して、60~74歳ではその関連が認められないという報告もあります4)。したがって、高齢糖尿病患者の食事療法は高齢期のどこかの時点で、メタボ対策からフレイル対策にシフトする必要があります。メタボ対策からフレイル対策へシフトする目安としては(1)後期高齢者、(2)低栄養、(3)フレイル・サルコペニアがあります。低栄養はBMI低値、体重減少、食事摂取量低下などで判断します。フレイルの評価にはJ-CHS基準(3項目以上)か基本チェックリスト(8点以上)を用います。サルコペニアはAWGS2019に基づいた筋力、骨格筋量などの評価によって診断します。認知機能やADLを同時に評価できるDASC-8も使用できます(第7回参照)。DASC-8の11点以上のカテゴリーIIが、フレイル対策の食事療法を行う患者の候補となります。フレイル対策のための高齢糖尿病患者の食事療法では、十分なエネルギー量、タンパク質、緑黄色野菜の摂取を勧め、低栄養を防ぐような食事を勧めます。2020年には高齢者のフレイル検診が始まり、地域の自治体や医師会によるフレイル対策が計画されています。運動療法とともに食事療法においてもフレイル対策を行うことで、健康寿命の延伸とQOLの維持・向上につながることが期待されます。Q2 認知症合併の場合、どのような対策を立てたらよいでしょうか?認知機能障害を合併した糖尿病患者の場合、低栄養を防ぎ、バランスを重視した食事療法を行います。低栄養は前臨床期を含めたさまざまな認知症の段階で認知機能を悪化させます。体重減少やBMI低値は糖尿病における認知症発症の危険因子になっています5)。また、食品の多様性が乏しくなり、その結果、低栄養となって、認知機能が悪化することに注意する必要があります。過度の食事制限は興奮や易怒性などの行動・心理学的徴候(BPSD)をきたしやすくします。間食などを無理にやめさせるのではなく、できるだけカロリーの少ない食品を用意して食べてもらう方がいいように思います。認知機能障害のある糖尿病患者では炭水化物に偏り、タンパク質や野菜の摂取が低下しやすくなります。調理しないで済む菓子パンなどが多くなる傾向があります。生活のリズムが乱れ、朝食または昼食の欠食がみられることもあります。介護者に対してこうした食事指導を行うことも必要ですが、介護保険などのサービスを利用し、ヘルパーによる調理や買い物などの援助を得ることも大切です。宅配食の利用などもいいですが、デイサービス・デイケアを利用することが、介護者の負担を軽減し、規則正しい生活リズムを保ち、昼食を確保することにつながり、食事療法の面からも大切であると思います。1)Levine ME, et al. Cell Metab 19:407-417, 2014.2)Fard NRP, et al. Nutrition Reviews 77:498–513, 2019.3)Iimuro S, et al. Geriatr Gerontol Int 12 (Suppl. 1): 59-67, 2012.4)Tepper S, et al. Nutrients 10: E767, 2018.5)Nam GE et al. Diabetes Care 42:1217-1224, 2019.

4718.

日本人統合失調症患者に対するブロナンセリン経皮吸収型製剤の52週間長期投与試験

 ブロナンセリン経皮吸収型製剤は、日本において統合失調症治療に使用可能な薬剤であり、錠剤とは異なるいくつかの利点をもたらす可能性がある。藤田医科大学の岩田 仲生氏らは、日本人統合失調症患者におけるブロナンセリン経皮吸収型製剤の長期安全性および有効性の評価を行った。CNS Drugs誌オンライン版2019年12月27日号の報告。 日本の37施設において、成人の統合失調症患者を対象としたオープンラベル試験を実施した。対象患者は、コホート1またはコホート2のいずれかに登録された。コホート1は、ブロナンセリン錠8~16mg/日を6週間投与した後、ブロナンセリン経皮吸収型製剤40~80mg/日を52週間貼付した。経皮吸収型製剤の用量は、錠剤の用量に従って決定した。コホート2は、ブロナンセリン経皮吸収型製剤を40mg/日より開始し、40~80mg/日で52週間貼付した。両コホートともに、1~2週間のフォローアップを行った。 安全性のエンドポイントは、有害事象(AE)、治療関連AE、錐体外路系AE(DIEPSSスコアの変化量として評価)の発生、抗パーキンソン薬の併用、皮膚刺激を含む皮膚関連AEの発生とした。血清プロラクチン濃度、バイタルサイン、体重、心電図(ECG)の変化、補正QT(QTc)間隔などの検査値も評価した。自殺念慮は、コロンビア自殺重症度評価尺度(Columbia-Suicide Severity Rating Scale:C-SSRS)スコアを用いて評価した。有効性は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計およびサブスケールスコア、臨床全般印象度(CGI-S)スコアを用いて、経皮吸収型製剤での治療期間を通じて評価した。その他のエンドポイントは、薬に対する構えの調査票(Drug Attitude Inventory 10:DAI-10)合計スコア、健康関連QOL評価尺度(EuroQol-5 Dimension:EQ-5D)効用値、剤形に関する患者アンケートを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、同意が得られた223例(コホート1:117例、コホート2:106例)であった。・コホート1の117例中108例がブロナンセリンの錠剤で治療を開始し、その後経皮吸収型製剤へ移行した97例について安全性分析が行われた。・コホート2では106例中、ブロナンセリン経皮吸収型製剤で治療された103例について安全性分析を行った。・全体で、男性は91例(45.5%)であった。・平均年齢は43.8歳であった。・治療中止は、コホート1で40例(41.2%)、コホート2で44例(42.7%)であった。・中止理由は、AEが18.6%(コホート1)および11.7%(コホート2)、同意の撤回が13.4%(コホート1)および20.4%(コホート2)、皮膚関連AEは全体で7例であった。・AEは、174例(87.0%)で報告された。重篤なAEは、13件12例(コホート1:6例、コホート2:6例)で認められた。・重篤なAEは、統合失調症関連が6件、その他が7件(衝動制御障害、骨折、鼻出血、喘息、誤嚥性肺炎、ヘモフィルス性肺炎、肺炎)であった。・主なAEは、鼻咽頭炎62例(31.0%)、適用部位紅斑45例(22.5%)、適用部位そう痒感23例(11.5%)、アカシジア20例(10.0%)であった。・AE発生率は、コホート1で84.5%、コホート2で89.3%であり、類似していた。・錐体外路系AEは51例(25.5%)、皮膚関連AEは83例(41.5%)で認められた。・これらのAEは、いずれも重篤ではなかった。・52週目におけるDIEPSS合計スコアのベースラインからの平均変化量は、-0.1±1.55であり、顕著な影響は認められなかった。・併用薬に関しては、抗パーキンソン薬が、コホート1で33.0%(97例中32例)、コホート2で22.3%(103例中23例)に認められた。・皮膚関連AEの大部分は治療初期に発生し、外用療法で適切に管理できた。・ベースライン時に、すべてのC-SSRSカテゴリで「いいえ」と回答した患者129例中、自殺念慮の出現ありと評価された患者は13例(10.1%)であった。・ベースライン時に、すべてのC-SSRS自殺行動カテゴリで「いいえ」と回答した患者172例中、経皮吸収型製剤での治療中に自殺行動が認められた患者は1例(0.6%)であった。・プロラクチンレベル、バイタルサイン、体重、ECG、代謝関連パラメータ、QTc間隔を含む臨床検査値に有意な変化は認められなかった。・体重の平均変化量は、コホート1で-0.04±4.561kg、コホート2で-0.67±6.841kgであった。・52週目におけるPANSS合計スコアのベースラインからの平均変化量は、コホート1で-0.1±11.6、コホート2で-3.4±15.3であった。・PANSSスコアは、コホート1においてブロナンセリンの錠剤から経皮吸収型製剤へ切り替え後も変化することなく、52週間の治療でスコアの低下が認められた。・52週目におけるCGI-Sスコアのベースラインからの平均変化量は、両コホートを合わせて-0.2±1.03であった。・52週間の経皮吸収型製剤での治療後、DAI-10合計スコアは、データが利用可能な129例中82例(63.6%)において、ベースラインと比較し、増加または変化なしであった。・両コホートを合わせた200例におけるintention-to-treat分析では、最終評価時点でのEQ-5Dのベースラインからの平均変化量は、-0.0365±0.17603であった。・ブロナンセリン経皮吸収型製剤に対する患者の印象は、おおむね肯定的であった。 著者らは「ブロナンセリン経皮吸収型製剤は、統合失調症の長期治療に安全かつ効果的に使用できる薬剤である」としている。

4719.

小児がんサバイバー、心臓放射線照射減少でCADリスク減/BMJ

 小児がんの成人サバイバーでは、心臓放射線照射への曝露の歴史的な減少により、冠動脈疾患のリスクの低減がもたらされたことが、米国・セントジュード小児研究病院のDaniel A. Mulrooney氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年1月15日号に掲載された。小児がんの成人サバイバーは過去の治療に関連した合併症を有し、心筋症、心臓不整脈、冠動脈や弁膜、心膜の疾患などの心血管疾患は、晩期の健康アウトカム負担の主要な寄与因子とされる。一方、心毒性を有する治療への曝露パターンは時代とともに変化しており、現在のがん治療プロトコールは治癒率の改善に重点を置きつつ、長期的な有害作用の最小化に注力しているという。治療プロトコールが心アウトカムに及ぼす影響を評価するコホート研究 研究グループは、心毒性への曝露を最小化し長期的な健康を保持するようデザインされた現在のがん治療プロトコールの経時的な修正が、小児がんの成人サバイバーの重篤な心アウトカムに及ぼす影響を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 1970年1月1日~1999年12月31日の期間に、21歳未満で、白血病、脳腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、腎腫瘍、神経芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫と診断され、5年生存を達成した患者2万3,462人(1970年代に治療を受けた患者6,193人[26.4%]、1980年代に治療を受けた患者9,363人[39.9%]、1990年代に治療を受けた患者7,906人[33.6%])が、解析の対象となった。診断時の年齢中央値は6.1歳(範囲0~20.9)で、最終フォローアップ時の年齢中央値は27.7歳(8.2~58.3)であった。比較群として、がんサバイバーの同胞5,057人を含めた。 10年の治療時期別の心不全、冠動脈疾患、心臓弁膜症、心膜疾患、不整脈の累積発生率と95%信頼区間(CI)を算出した。イベントの重症度判定は、NCIのCTCAE基準に準拠した。多変量部分分布ハザードモデルを用いて10年ごとのハザード比(HR)を推算し、媒介分析で心毒性治療への曝露の有無別のリスクを評価した。とくにホジキンリンパ腫サバイバーで冠動脈疾患リスク低減 全体として、がんの診断から15年間の心不全の累積発生率は、1970年代(0.69%)および1980年代(0.74%)と比較して、1990年代(0.54%、いずれもp=0.01)で有意に低下した。また、がんの診断から20年間の冠動脈疾患の発生率も同様に、3つの年代を通じて低下した(1970年代0.38%、1980年代0.24%、1990年代0.19%、1970 vs.1980年代のp=0.02、1970 vs.1990年代のp=0.01)。 一方、心臓弁膜症(1970年代0.06%、1980年代0.06%、1990年代0.05%)、心膜疾患(0.04%、0.02%、0.03%)、不整脈(0.08%、0.09%、0.13%)の累積発生率には、年代による有意な変化は認められなかった。 1970年代に診断を受けたサバイバーに比べ、1980年代および1990年代に診断を受けたサバイバーは、心不全、冠動脈疾患、心臓弁膜症の発生率が低下したが、有意差が認められたのは冠動脈疾患のみであった(1970 vs.1980年代のハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.45~0.92、1970 vs.1990年代のHR:0.53、95%CI:0.36~0.77)。 全体の冠動脈疾患のリスクは、心臓放射線照射で補正すると低下する傾向がみられ(HR:0.90、95%CI:0.78~1.05)、とくにホジキンリンパ腫のサバイバーでリスクが低減した(補正前HR:0.77、95%CI:0.66~0.89、心臓放射線照射で補正後HR:0.87、95%CI:0.69~1.10)。 著者は、「小児がんの治療を適切に修正し、健康調査を進める取り組みが、サバイバーに利益をもたらすことが示されつつある」と指摘し、「他の心臓アウトカムのリスク低下を評価するには、さらなるフォローアップを要する」としている。

4720.

骨髄異形成症候群〔MDS : myelodysplastic syndromes〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS)は、造血幹細胞のクローン性の後天的な疾患で、造血細胞(リンパ球を除く)の異形成と呼ばれる形態異常を特徴とする。末梢血ではさまざまな程度の血球減少を来すが、(1)1血球系統以上に10%以上の異形成像が見られる、(2)特徴的な染色体異常を有する、(3)骨髄での芽球比率は20%未満の、いずれかあるいは1つ以上を認めるものと定義される。■ 疫学1)MDSの発症頻度わが国では発病者数は年間に10万人あたり3~10人とされ、患者数は平成10年の厚生労働省の特発性造血障害調査研究班の報告では7,100人で、年齢の中央値は欧米と比較して若干若年層に多く、64歳である。男女比は1.9:1。2)MDSの病型MDSは一般的に骨髄の芽球比率および異形成により分類される(表1、変更点は後述)。わが国での特徴的なところは「単独del(5q)の骨髄異形成症候群」および「環状鉄芽球を伴う不応性貧血」とWHO分類で定義されている病型が欧米に比べ少ない点である。画像を拡大する■ 病因最近までMDSの原因は不明とされてきたが、ゲノム解析により病型に偏った遺伝子変化が報告されつつあり、たとえば「環状鉄芽球を伴う不応性貧血」におけるSF3B1やMDSの白血病化に伴うSETBP1の変化が知られつつある。一般的には表2に示すように、エピジェネテイックな変化に関係する遺伝子変化が、MDS発症と深くかかわっていることが知られつつある。また、染色体変化は予後を推定する重要な因子である。画像を拡大する■ 症状血球減少による症状が中心であり、貧血はほぼ必発で、48%は汎血球減少、18%が貧血+血小板減少、17%が貧血+白血球減少、13%は貧血のみである。血球減少により、出血傾向(血小板減少)、易感染(好中球減少)、貧血症状(赤血球減少)がさまざまな程度でみられる。■ 分類MDSの分類は骨髄での芽球比率、環状鉄芽球の頻度および異形成が多血球系統に及ぶか否かにより分類されるが、異形成の頻度は血液専門家によっても判読が異なることがある。単独del(5q)の骨髄異形成症候群は5q-染色体異常による。従来の分類からの名称変更は以下の通りである。従来のWHO-2008からの名称変更点は、RCUDはMDS-SLD(MDS with single lineage dysplasia)、RCMDはMDS-MLD(MDS with multi-lineage dysplasia)、RAEBはMDS-EB(MDS with excess blasts)に変更され、暫定病型として小児不応性血球減少症が設定された。これにより、2008年WHO分類のRCUDの一部はMDS-RSとして判定される例がある(表1、3)。これらのMDS分類とは別に、放射線治療や他の悪性腫瘍などに対する抗がん剤投与後にみられるものは治療関連骨髄系腫瘍として急性骨髄性白血病の分類として扱われる。画像を拡大する■ 予後予後は減少血球数、骨髄での芽球比率、染色体異常の様式による(表4)。なお、簡便にMDS FoundationのHP(http://www.mds-foundation.org/ipss-r-calculator/)にて計算できる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血球減少、とくに貧血がみられた場合にはMDSも念頭に置く。通常、軽度の高色素性大球性貧血を呈し、さまざまな頻度で好中球減少や血小板減少を伴う。MDSが疑われたならば、骨髄穿刺にて血球の異形成像および芽球比率を検討し病型診断を行うとともに(表1)、染色体異常を調べ、予後を検討する。さらに、MDSの診断基準を満たさない血球減少については最近提唱されている分類も参考にする(表5)。従来用いられていたIPSSでは、治療選択に重要な役割を持つことを期待して考案されたが、2012年に提唱されたIPSS-R(表4)では、個々の患者における予後がより詳細に検討できる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は従来のIPSSによる大まかな治療方針が推奨される。IPSSのLowおよびIntermediate-1は低リスクMDSとして、Intermediate-2およびHighは高リスクMDSの治療が行われる(図1、2)。低リスクMDSにおける造血幹細胞移植術は、反復する感染症や輸血依存の患者が対象となる。治療は従来のIPSSによる大まかな治療方針が推奨される。IPSSのLowおよびIntermediate-1、IPSS-RではVery Low、LowおよびIntermediateは低リスクMDSとして、高リスクMDSはIPSSでIntermediate-2およびHigh、IPSS-RではIntermediate、High、Very Highの分類に基づき治療が行われる(図1、2)。IPSS-R Intermediate に分類された患者については、年齢、performance status、血清フェリチン値、血清LDH値などの追加の予後因子を評価することにより、2つのリスク群のどちらで管理してもよい。低リスクMDSにおける造血幹細胞移植術は、反復する感染症や輸血依存の患者が対象となる。■ 低リスクMDSに対する治療(図1)この群では5q-染色体異常がみられたならば免疫調整薬であるレナリドミド(商品名:レブラミド)が第1選択となる。単独の5q-MDSに対しては貧血の改善は90%以上が期待され、さらに一部の患者では染色体異常の消失を含む寛解が望める。血清エリスロポエチン濃度が500mU/mL 未満の患者ではエリスロポエチン投与も効果が期待される。また、免疫抑制剤のシクロスポリンの有効性も確認されている(保険適用外)。これらの治療に無効で輸血依存の場合は脱メチル化薬であるアザシチジン(同:ビダーザ)も考慮される。低リスク患者の治療目標は輸血依存からの回避である。画像を拡大する■ 高リスクMDSに対する治療(図2)この群の治療では、造血幹細胞移植術の適応となるか(一般的に65歳未満)、強力化学療法が可能であるかにより、治療法が設計される。これら以外および移植後の再発に対してアザシチジンを用いることもある。MDSの輸血依存例では、鉄過剰症の治療として血清フェリチンおよび輸血量を勘案し、腎機能が許す範囲で経口除鉄剤が用いられる。貧血および血小板減少例では、その程度(年齢による違いあり)により適宜輸血療法が行われ、低リスクMDS患者で好中球減少に伴う感染症に対し顆粒球コロニー刺激因子を用いることもある。治験段階として免疫療法であるWT1ワクチン療法が行われているが、HLA抗原が一致しないと用いることができない。高リスク患者の治療目標は白血病移行からの回避(あるいは無白血病期間の延長)である。画像を拡大する4 今後の展望一般的にMDS患者は高齢者が多い。徐々に骨髄非破壊的造血幹細胞移植術を用いた移植が比較的高齢者にも試みられているが、感染症を含む移植合併症や再発を克服する試みもある。また、アザシチジン無効例に対する新たな治療薬や経口アザシチジンの開発も進められ、さらなる治療法の開拓が期待される疾患である。2012年に発表されたIPSS-Rによる個別化治療が推進されるとともに、病型の進展に伴う遺伝子変化が次々と報告され、これらの遺伝子変化を標的とする治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科あるいは血液腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サービス 骨髄異形成症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報Japan MDS Patient Support Group(患者とその家族および支援者の会)1)NCCN guideline. Myelodysplastic Syndromes V.2. 2018.骨髄異形成症候群(日本語版PDF)公開履歴初回2013年02月28日更新2020年01月28日mds_00

検索結果 合計:10329件 表示位置:4701 - 4720