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血漿ACE2は生命予後・心血管疾患イベントのリスクマーカーとなりうるのか?(解説:甲斐久史氏)-1307

 2020年は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発見20周年である。その記念すべき年に、期せずして、人類の日々の営みさえ大きく変えようとしているCOVID-19パンデミックの原因ウイルスSARS-CoV-2感染における細胞受容体であることが同定され、ACE2に大きな注目が集まることとなった。ともすればネガティブな悪玉イメージが定着しそうな雲行きのACE2であったが、ここに来て本来の領域(?)でポジティブなニュースが飛び込んできた。 そもそも、ACE2は細胞膜メタロプロテアーゼで、古典的レニン・アンジオテンシン(RA)系における中心的な調節因子アンジオテンシン変換酵素(ACE)のホモローグである。言うまでもなくACEは、アンジオテンシン(ang)IからangIIを産生し、angII1型受容体(AT1R)を介する細胞増殖・肥大、酸化ストレス、血管収縮といった生理学的あるいは病態生理的作用に関与する。それに対して、ACE2はangIおよびangIIをそれぞれang 1-9およびang 1-7に分解、すなわち、angII産生を減少させる。さらに、ang 1-7はmas受容体を活性化してAT1Rの作用を抑制する。すなわち、ACE2は過剰に活性化したRA系に対する内因性抑制機構で、臓器保護的に作用するkey moleculeである。 高血圧や心不全・冠動脈疾患・心房細動といった心血管疾患患者において、血漿ACE2濃度・酵素活性あるいは尿中ACE2濃度が検討されている。これまで、心血管疾患患者を対象としたいくつかの小規模な観察研究において、血漿ACE2活性が高いと心血管疾患アウトカムが悪いことが示唆されていた。そこで、Narulaらは今回、大規模な登録研究コホートを用いて、血漿ACE濃度の規定因子、心血管疾患イベントとの関連を検討した。国際的な一般住民の前向き登録研究Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)に含まれる5大陸14ヵ国1万753例(フォローアップ期間中央値9.42年、IQR:8.74~10.48)を対象にnested case-cohort研究が行われた。 血漿ACE2濃度の規定因子は、性別(男性)、次いで地域(最高は東アジア、最低は南アジア)、高BMI、糖尿病、高年齢、収縮期血圧、喫煙、LDLコレステロール値の順であった。メンデルのランダム化法により臨床的リスク因子と血漿ACE2濃度の関連を検討したところ、肥満と糖尿病において因果関係が示唆された。 血漿ACE2濃度高値は、年齢、性別、地域、古典的心臓リスク因子(収縮期血圧、non-HDLコレステロール値、喫煙、糖尿病)で調整した全死亡リスクの増加と関連した(1SD増加ごとのハザード比:1.35、95%信頼区間:1.29~1.43)。心血管死(1.40、1.27~1.54)および非心血管死(1.34、1.27~1.43)の調整リスク増加のいずれとも関連した。さらに、初発心不全(1.27、1.10~1.46)、心筋梗塞(1.23、1.13~1.33)、脳卒中(1.21、1.10~1.32)、糖尿病(1.44、1.36~1.52)の調整後発症リスクとも関連した。 血漿ACE2濃度の生命予後や心血管イベントの予測能も検討された。血漿ACE2濃度は、補正後の全死亡(p<0.0001)、心血管死(p<0.0001)、非心血管死(p<0.0001)の最も優れた予測因子であった。心筋梗塞(p<0.0001)に対しては喫煙、糖尿病に次いで、心不全(p=0.0032)と脳卒中(p=0.0010)に対しては収縮期血圧、糖尿病に次いで、それぞれ3番目に強い予測因子であった。 大規模な観察研究の結果、血漿ACE2は生命予後や主要な心血管イベントの有用なリスクマーカーとなる可能性が示唆されたわけである。しかしながら、大きな問題が残されている。すなわち、細胞膜結合型ACE2については、細胞増殖・肥大、酸化ストレス、血管収縮などのangII-AT1R系を介する臓器障害に対して、保護的に作用するという多くの基礎研究のエビデンス蓄積がある。一方、遊離ACE2の生理学的・病態生理学的意義は明らかではない。つまり、血中の遊離型ACE2濃度は、ACE2細胞発現、ADAM-17などの酵素による細胞膜からの切断、血漿クリアランスなど多くの影響を受けるが、その機序はほとんど解明されていない。加えて、本検討は横断的観察研究であり、血漿ACE2と死亡、心血管疾患、肥満、糖尿病との関係は、未知の交絡因子や因果の逆転の結果である可能性は否定できない。 著者らは、血漿ACE2はRA系調節異常のバイオマーカーであり、これを踏まえた新しい心血管疾患の診断・治療アプローチの可能性を示唆している。確かに、BNPやNT-proBNPを手にすることで、心不全治療が大きく前進したように、ACE2-guide therapyが実現すれば、循環器領域における大きなブレークスルーにつながるであろう。血漿ACE2が、心血管疾患の予後規定因子であるのか、重症化さらには治療効果の判定マーカーとなりうるかについて、今後の大規模な前向き研究によるエビデンスが待たれる。

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第31回 COVID-19ワクチンはこのままだとインフルエンザワクチンと同じ轍を踏む

第III相試験の被験者集めの完了の便りも飛び交い、今月末には早くも結果さえ判明し始める1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防ワクチンは場当たり的に扱うことなく、安全で効果的なもののみ世に出すと米国FDAは約束しました2,3)。それにワクチンメーカー9社は早まった承認申請はしないという稀にみる珍しい共同声明を発表しています4)。世間が期待するワクチンの効果は明白で、悪くすると死ぬ恐れがあるような重病に陥るのを予防することです5)。専門家の意見も同様で、COVID-19ワクチンが担うべき役割は2つあり、1つは重症になって入院するのを防ぐこと、もう1つは(症状があるかどうかは関係なく)感染を防いでその連鎖を絶つことであると米国・ベイラー医科大学の熱帯病部門のリーダーPeter Hotez氏や感染症/ワクチン専門医師は言っています6,7)。しかし現在進行中のCOVID-19ワクチンの第III相試験はそういう効果を調べるようにはできていません。どの試験も入院・集中治療室(ICU)使用・死亡などの深刻な転帰を減らす効果の検出力はありませんし、症状の有無とは関係なく感染を防いでその伝播を遮断する効果の把握も期待できません8,9)。先月9月の初め、医療情報配信事業Medscapeの編集長にして米国屈指の研究所Scripps Researchの設立者Eric Topol氏はワクチン専門家Paul Offit氏に「重要なことなのではっきりさせたいと思いますが、COVID-19ワクチンの臨床試験で数えられる転帰は軽症のPCR検査陽性ではなく中等~重度の病態という認識で正しいですよね?」と尋ねました。米国FDAの諮問委員に名を連ね、COVID-19ワクチンの承認の是非を判断することになるであろうOffit氏はその問いに紛うこと無く「そうだ(That‘s right)」と答えました10)。しかし公開された第III相試験プロトコールはそうなってはいません11)。咳、喉の痛み、発熱、頭痛などの軽症の陽性診断で主要転帰は積み重なって試験は終了に近づきます。6月のニュースでCOVID-19ワクチンの開発会社の1つModerna(モデルナ)社は入院を試験の重要な副次転帰の1つだと発表しました12)。どうやら勢い余って米国政府も加勢し、Modernaの試験は重度COVID-19を防ぐ効果を調べることが目的の1つで、COVID-19による死亡を防げるかどうかを見極めると聞こえの良いことを言っています13)。ところが内実は違なります。モデルナ社の試験で入院は取り上げないと同社の最高医学責任者(CMO)Tal Zaks氏はBMJに話しており、重症や死亡などの転帰の差を検出する力は同社の試験には実はありません8)。米国では60年も前から65歳以上の高齢者へのインフルエンザワクチン接種が推奨されていますが、いまだにそれで死亡が減るかどうかは不明です。無作為化試験で死亡や入院が調べられたことはありませんし8)、さらにはインフルエンザワクチンの普及と死亡率低下の関連は認められていません14)。尊敬を集める研究者Peter Doshi氏はインフルエンザワクチンのような残念な道をCOVID-19ワクチンが歩むのを防ぐには今こそ行動する必要があると言っています9)。ほとんどのCOVID-19ワクチン試験で小児・免疫不全の人・妊婦が除外されている理由、主要転帰が適切かどうか、安全性判断、SARS-CoV-2に対してあらかじめ備わるT細胞反応の意義といった課題に向き合うように試験方針を変えることは今からでも間に合います。COVID-19ワクチンの試験は意見を取り入れることなく設計されたかもしれないが、幸いそれら試験のプロトコールが早期公開されたことは科学が声を上げて導くまたとない機会であり、手遅れになる前に今すぐ仕事に取り掛かろうとDoshi氏は呼びかけています9)。参考1)Pfizer Investor Day Features Significant Number of Pipeline Advances for COVID-19 Programs and Across Numerous Therapeutic Areas/businesswire2)The FDA’s Scientific and Regulatory Oversight of Vaccines is Vital to Public Health/FDA 3)Dr. Hahn's remarks to the National Consumers League on the vaccine review process/FDA 4)Biopharma Leaders Unite to Stand With Science/businesswire5)What A Nasal Spray Vaccine Against COVID-19 Might Do Even Better Than A Shot/npr6)Those coronavirus vaccines leading the race? Don’t ditch the masks quite yet/The Los Angels Times7)A Vaccine That Stops Covid-19 Won’t Be Enough8)Doshi P.BMJ. 2020 Oct 21;371:m4037.9)Covid-19 vaccine trials cannot tell us if they will save lives/Eurekalert10)Paul Offit's Biggest Concern About COVID Vaccines/Medscape11)Doshi P.BMJ. 2020 Oct 21;371:m4058.12)Moderna Advances Late-Stage Development of its Vaccine (mRNA-1273) Against COVID-19/businesswire13)Phase 3 clinical trial of investigational vaccine for COVID-19 begins/NIH14)Simonsen L,et al. Arch Intern Med. 2005 Feb 14;165:265-72.

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第28回 研修医マッチング、大学病院より地域の臨床研修病院が選ばれる傾向

<先週の動き>1.研修医マッチング、大学病院より地域の臨床研修病院が選ばれる傾向2.新型コロナ受け入れ病院は全体の2割、多くは実績のある医療機関3.医師免許などの国家資格、マイナンバーでの活用検討4.マイナンバーカードの健康データ、医療・介護研究などへ活用5.オンライン診療の普及促進、デジタル技術を用いた新たな技術導入へ6.保健所などで働く公衆衛生医師不足があらわに1.研修医マッチング、大学病院より地域の臨床研修病院が選ばれる傾向22日に今年度の医師臨床研修マッチング結果が発表された。2004年度から新たな臨床研修医制度となり、臨床現場に立つ前に医師は2年間以上の初期臨床研修を受けることが必修化され、研修医はマッチングシステムを通して研修病院を選ぶことになっている。今年の全体のマッチ率は92.1%と前年度(92.4%)とほぼ変わらないが、大学病院にマッチしたのは38.1%と前年度(38.9%)からさらに低下した。発足当時には大学病院が55.8%と半数以上を占めていたが、年々大学病院を選ぶ学生が減り、地域の臨床研修病院で研修を希望する研修医が増えている。また、大都市部と地方における医師の需給格差の問題を背景に、東京都などでは募集定員を削減したため、東京都・神奈川県・愛知県・京都府・大阪府・福岡県の6都府県における内定者数は減少していることが明らかとなった。(参考)令和2年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省)2.新型コロナ受け入れ病院は全体の2割、多くは実績のある医療機関厚生労働省は、新型コロナウイルス感染患者の入院を受け入れた病院が全体の2割に止まっていることを21日の「地域医療構想に関するワーキンググループ」で明らかにした。全国8,280医療機関のうち、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)で回答した7,307医療機関において、受け入れ可能と回答したのは23%、そのうち実績ありは19%だった。全体の4%が人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を使う重症患者を扱っていた。新型コロナ患者の受け入れ状況は、医療機関の病床規模が大きいほど割合が大きくなる傾向があり、100床未満の病院では5%程度だった。また、感染患者の受け入れ可能あるいは実績のある医療機関の数は、「公的等」が最も多く、「公立」と「民間」は同程度だった。人口20万人未満の地域医療構想区域では「公立」の割合が最多であり、20万人以上100万人未満の区域では「公的等」、100万人以上では「民間」がそれぞれ最も多いこともわかった。厚労省は、2025年を見据えた5疾病5事業を中心に二次医療圏での医療機関の再編を進めているが、今回の新型コロナ感染拡大を踏まえ、見直しの声が高まっている。(参考)患者受け入れ病院2割のみ 中小で17〜5% 厚労省、病院再編統合を再検討(毎日新聞)新型コロナウイルス感染症を踏まえた地域医療構想の考え方について(第27回 地域医療構想に関するワーキンググループ 資料)3.医師免許などの国家資格、マイナンバーでの活用検討厚労省は、「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会」の第1回を20日に開催した。今後、医療・介護分野での人材不足に対して、国家資格を有する人材の確保などの観点から、ITを活用した有資格者等の掘り起こしや再就職の支援を行うため、各種免許・国家資格、教育などについての情報をマイナンバーに紐付けて、届け出の簡易化を通して効果的な就労支援を目指す。対象とされるのは医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師など31職種。今後、各職能団体に対してマイナンバー制度利活用に関する意向調査を行い、提言を取りまとめる予定。(参考)社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会(第1回) 資料(厚労省)4.マイナンバーカードの健康データ、医療・介護研究などへ活用厚労省は、21日に「第4回 健康・医療・介護情報利活用検討会」「第3回 医療等情報利活用WG」「第2回 健診等情報利活用WG」の合同会議を開催し、新型コロナの感染拡大を反映して、新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて討議を行った。2020年7月のデータヘルス改革に関する閣議決定により、次世代型行政サービスの強力な推進するため、マイナンバーカードを活用して、生まれてから生涯にわたる健康データを一覧性をもって提供できるよう取り組み、さらに健康データの医療・介護研究等への活用に向け検討を行った。今回は「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」「電子処方箋の仕組みの構築」「自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大」の3つのACTIONについて、2021年に必要な法制上の対応を行い、2022年度中に運用開始を目指し、効率的かつ迅速にデータヘルス改革を進めることを確認した。(参考)第4回 健康・医療・介護情報利活用検討会、第3回 医療等情報利活用WGおよび第2回 健診等情報利活用WG 資料データヘルスの集中改革プラン、3つの項目で論点整理 厚労省(ケアマネタイムス)5.オンライン診療の普及促進、デジタル技術を用いた新たな技術導入へ政府・規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループは、19日に第1回目を開催した。初回のテーマは「新規領域における医療機器・医薬品の開発・導入の促進」で、SaMD(Software as a Medical Device)の普及促進についてルールの整備などであったが、21日に開催された第2回では「オンライン診療・オンライン服薬指導の普及促進」について話し合われ、患者の受診機会の確保・医療サービスの効率的な提供を実現する手段としてのオンライン診療・服薬指導の普及・定着に取り組むための議論を行った。これからデジタル技術を使い、医療・介護サービスの充実のために新たな技術導入が進むとみられ、今後の議論展開に注目される。(参考)第1回 医療・介護ワーキング・グループ 議事次第(内閣府)第2回 医療・介護ワーキング・グループ 議事次第(同)6.保健所などで働く公衆衛生医師不足があらわに新型コロナウイルスの拡大に伴い、全国の保健所では医師不足に直面している。2018年末に行政機関に勤める医師は全体の0.6%(1,835人)だが、全国469保健所の所長の1割は兼務であるなど、現場でのニーズは高い。一方、一般病院の臨床医に比べると、給与など待遇面がよくないため、これまであまり注目されていなかった。2017年に始動した社会医学系専門医制度を通して、キャリアパスの周知徹底並びに若手育成を進めている。専攻医の希望者も初年度から100人を超える応募があり、2019年度には350人が研修プログラムに参加しているなど、今後の活躍が期待される。(参考)保健所の医師不足、3割が空席・兼務 学生に認知度低く(朝日新聞)一般社団法人 社会医学系専門医協会 理事長 宇田 英典先生インタビュー(マイナビRESIDENT)

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外傷性脳損傷への入院前トラネキサム酸投与に有益性なし(解説:中川原譲二氏)-1306

 中等度~重度の外傷性脳損傷(TBI)は、外傷性死亡および障害の最重要の原因であるが、早期のトラネキサム酸投与がベネフィットをもたらす可能性が示唆されていた。そこで、米国・オレゴン健康科学大学のSusan E. Rowell氏らが、多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した(JAMA誌2020年9月8日号掲載の報告)。入院前トラネキサム酸投与の有益性を対プラセボで評価 試験は2015年5月~2017年11月に、米国およびカナダの外傷センター20ヵ所と救急医療機関39ヵ所で実施された。適格患者は、Glasgow Coma Scaleスコア12以下および収縮期血圧90mmHg以上である15歳以上のTBI入院前患者(1,280例)で、受傷2時間以内に治療を開始する以下の3つの介入が評価された。(1)入院前にトラネキサム酸(1g)をボーラス投与し、入院後に同薬(1g)を8時間点滴投与(ボーラス継続群、312例)、(2)入院前にトラネキサム酸(2g)をボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(ボーラスのみ群、345例)、(3)入院前にプラセボをボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(プラセボ群、309例)。 主要アウトカムは、複合投与群とプラセボ群での6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア4超[中等度障害または良好な回復])とされた。非対称有意性の閾値は、有益性が0.1、有害性は0.025とされた。副次エンドポイントは18項目で、本論文ではそのうち5つ(28日死亡率、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア[0:障害なし~30:死亡]、頭蓋内出血の進行、発作の発生、血栓塞栓症イベントの発生)が報告された。6ヵ月時の良好なアウトカム、投与群65% vs.プラセボ群62% 参加1,063例のうち、割り付け治療が行われなかった96例とその他1例(登録時に収監)が除外され、解析集団は966例(平均年齢42歳、男性255例[74%]、平均Glasgow Coma Scaleスコア:8)となった。このうち819例(84.8%)について、6ヵ月フォローアップ時の主要アウトカムが解析できた。 主要アウトカムの発生は、投与群65%、プラセボ群62%であった(群間差:3.5%、有益性に関する90%片側信頼区間[CI]:-0.9%[p=0.16]、有害性の97.5%片側CI:10.2%[p=0.84])。副次エンドポイントの28日死亡率(投与群14% vs.プラセボ群17%、群間差:-2.9%[95%CI:-7.9~2.1]、p=0.26)、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア(6.8 vs.7.6、-0.9[-2.5~0.7]、p=0.29)、頭蓋内出血の進行(16% vs.20%、-5.4%[-12.8~2.1]、p=0.16)については、有意差はみられなかった。トラネキサム酸の有効性に関する詳細な分析が必要 本研究では、中等度~重度のTBIに対する受傷2時間以内の入院前トラネキサム酸の投与は、Glasgow Outcome Scale-Extendedスコアで評価された6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカムを有意に改善しなかったと結論された。一般に、中等度~重度のTBIでは、発症早期に頭蓋内出血(硬膜上出血、硬膜下出血、クモ膜下出血、出血性脳挫傷)の増大やびまん性軸索損傷に伴う微小出血などの出血性の頭蓋内病態を軽減することが、転帰の改善につながると想定され、本研究では、発症早期(入院前)に抗線維素溶解薬であるトラネキサム酸を投与することの有効性が検証されたと思われる。しかしながら、中等度~重度のTBIでは、頭蓋内圧亢進や低酸素症、低血圧症など虚血性の頭蓋内病態を引き起こす要因が転帰に大きく影響することが知られており、トラネキサム酸(2g)の入院前投与で、出血性の頭蓋内病態がどの程度軽減されたのか、虚血性の頭蓋内病態が増悪する(長期投与で指摘されている)ことはなかったのか、など詳細について分析する必要があると思われる。 

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猫と語り・猫に学び・猫とたわむれる【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】 第29回

第29回 猫と語り・猫に学び・猫とたわむれる猫、ねこ、ネコ、Cat(キャット:英語)、Chat(シャ:フランス語)、Katze(カッツェ:ドイツ語)、Gatto(ガット:イタリア語)、Gato(ガート:スペイン語)、feles(フェーレース:ラテン語)…世界中で猫は愛されています。「喜歓猫」という中国語を訳すと「猫が好き」となります。中国語でもネコは猫です。今回は、徹底的に猫について語りたいと思います。猫さまが主役として取り上げられた有名な論文をご存じでしょうか。数ある医学雑誌の中でも権威あるNEJM誌に掲載された猫「オスカー」です(NEJM. 2007;357:328-329.)。論文というよりも医療エッセイといったほうが適切かもしれません。「猫オスカーの 1 日」(A Day in the Life of Oscar the Cat)というタイトルです。読みやすい英語ですから、一読してみてはいかがでしょうか。一部分を抜粋してみます。「Slowly, he stretches first backward and then forward.」・・・オスカーが、ゆっくりと後方に前方にとストレッチする姿を描写しています。昼寝から目覚めたばかりの猫が、ストレッチした際に身体が微妙に震えているのだろうな、といった記載されていない猫特有の動きまで眼の前に浮かび上がってきます。オスカーは、老人介護ケア病棟の住人として暮らしています。子猫の時期から、居住者の死亡を予測できるという不思議な能力を持っていました。オスカーは、施設の受け持ちフロアを回診します。診察技法は、触診や聴診ではありません。ベッドに飛び乗り、「くんくん」嗅ぐのです。嗅診です。休診ではありません。嗅診するオスカーに休診日はありません。嗅診の結果、大丈夫と診断すれば病室から静かに立ち去ります。死が差し迫っていると診断した場合は、体を丸めて患者に寄り添うのです。オスカーが丸くなったところの患者は、数時間以内に死亡したといいます。オスカーが寄り添うのであれば、死期が迫った可能性があるとして、家族に連絡することが規則となったそうです。孤独死を防ぐ役割も果たしているオスカーは、不吉な猫ではありません。患者本人だけでなく、家族やスタッフの心に潤いを与える猫としてつづられています。死を迎える方の傍らに静かに寄り添う猫の姿はりりしいです。世の中はコロナ禍もあり、「ペットブーム」に拍車がかかっているようです。テレビからは美味しそうな「キャットフード」や「ドッグフード」のコマーシャルが流れてきます。私が子供の頃にも猫や犬を飼っている家はありましたが、今よりは少なかったです。間違いなく、誰も今ほどペットにお金をかけていませんでした。人間の余り物を与えられても、どの猫や犬も喜んで尻尾をふって食べていました。我が家にも、ご多聞にもれず猫がいます。保護猫を保健所から譲り受けたものです。名前はレオです。虎やライオンなどを含むネコ科の動物に君臨する王者の風格が漂う名前です。雑種のドラ猫であることは、すぐに見抜かれますが、飼い主である私にとっては、血統は問題ではありません。レオがいてくれることが大事なのです。レオがいることにより、何気ない生活の中にも会話が自然に生まれ、人と人の間に割って入り、コミュニケーションや人間関係の潤滑剤になってくれるのです。一人で悩んでいるときにも、いつの間にか猫を撫でながら独り言を言っていたりします。猫とソファの上でくつろぐと、とても暖かくて心地よいまどろみを覚えます。猫が素晴らしい役割を果たしてくれるのは何故でしょうか。過去に何が起こったかは猫にとって、さほど重要なことではない、ということです。 レオは、保健所の檻のなかで生命の危機が迫っていた時間を忘れて、今の我が家での生活に集中しています。猫が、人間よりも現在という瞬間を楽しむ存在であり、それが生きものの課題であると理解しているからです。猫は、死を恐れていないように思われます。死は肉体の苦痛から解放され、死は新しい生への移行であると知っているのです。猫は、なぜ猫という身体を選んで生まれてきたのか、なぜ今の飼主と一緒に暮らすことを選んだのか、前世はどうだったのかすべてを受容しています。後悔せず、今を生きるのです。猫は、人間よりはるかに輪廻転生という悟りの境地にいます。さすが猫さまです。入門します、弟子にしてください!読者の中にも猫と一緒に暮らす方々もおられることでしょう。小生が大好きな猫との遊び方をお伝えします。箱座りしている猫の背中の毛を引っ張ってみてください。肩甲骨付近で、背骨の真上あたりの、跳ねた毛を一本だけ引っ張るのがコツです。たくさんの毛束を引っ張っても何も起きません。眼を閉じて眠らんとするタイミングで不意打ちをかけてください。猫がビックリして、背中全体が「ザワザワ」とザワメクように動く様は一見の価値があります。騙されたと思って、たわむれてみてください。猫ライフの充実をお約束します。

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植物由来VLPワクチン、インフル予防に有効な可能性/Lancet

 開発中の植物由来4価ウイルス様粒子(QVLP)インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスに起因する呼吸器疾患およびインフルエンザ様疾患を、実質的に予防する可能性があり忍容性も良好であることが、カナダ・MedicagoのBrian J. Ward氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年10月13日号に掲載された。季節性インフルエンザは、予防策として孵化鶏卵由来のワクチンなどが使用されているが、依然として公衆衛生上の大きな脅威となっている。植物をベースとするワクチン製造法は、生産性の向上や製造過程の迅速化など、現在のワクチンの限界のいくつかを解決する可能性があるという。18~64歳と、65歳以上が対象の2つの無作為化試験 研究グループは、植物から製造された遺伝子組み換えQVLPインフルエンザワクチンに関して、2017~2018年(18-64試験)と2018~2019年(65-plus試験)のインフルエンザ流行期に、北半球においてこれら2つの多施設共同無作為化臨床試験を行った(Medicagoの助成による)。 18-64試験には、アジア、欧州、北米の73施設が、65-plus試験には同地域の104施設が参加した。18-64試験は、スクリーニング時にBMI<40、年齢18~64歳で、健康状態が良好な集団を、65-plus試験は、スクリーニング時にBMI≦35、年齢65歳以上で、リハビリテーション施設や介護施設に入居しておらず、急性期または進行中の医学的な問題のない集団を対象とした。 18-64試験の参加者は、QVLPワクチン(ウイルス株当たり30μgのヘマグルチニン)またはプラセボを接種する群に、65-plus試験の参加者は、QVLPワクチン(ウイルス株当たり30μgのヘマグルチニン)または4価不活化ワクチン(QIV、ウイルス株当たり15μgのヘマグルチニン)を接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、18-64試験では、抗原性でマッチさせたインフルエンザウイルス株に起因する呼吸器疾患(検査で確定)の予防におけるワクチンの絶対効果(absolute vaccine efficacy)とし、達成率70%以上(95%信頼区間[CI]下限値が40%超)を目標とした。65-plus試験の主要アウトカムは、インフルエンザウイルス株に起因するインフルエンザ様疾患(検査で確定)の予防におけるワクチンの相対効果(relative vaccine efficacy)とし、非劣性(95%CI下限値が-20%超)の検証を行った。主解析はper-protocol集団で行い、安全性は治療を受けたすべての参加者で評価した。潜在的な利点がどの程度実現されるかは、承認後の研究で 18-64試験では、2017年8月30日~2018年1月15日の期間に1万160例が、QVLP群(5,077例)またはプラセボ群(5,083例)に割り付けられた。実際に治療を受けた1万136例の平均年齢は44.6(SD 13.7)歳であった。per-protocol集団は、QVLP群が4,814例、プラセボ群は4,812例だった。 抗原性でマッチさせたウイルス株に起因する呼吸器疾患の予防におけるQVLPワクチンの絶対効果は35.1%(95%CI:17.9~48.7)であり、70%以上という目標は達成されなかった。事後解析では、インフルエンザウイルスの感染力は19週間持続したが、QVLPワクチンの有効性は最長180日間持続しており、3つの期間(14~60日、61~120日、121~180日)で効果の差は認められなかった。 重篤な有害事象は、QVLP群が5,064例中55例(1.1%)で、プラセボ群は5,072例中51例(1.0%)で認められた。また、試験治療下で発現した重度の治療関連有害事象は、それぞれ4例(0.1%)および6例(0.1%)でみられた。 一方、65-plus試験では、2018年9月18日~2019年2月22日の期間に1万2,794例が、QVLP群(6,396例)またはQIV群(6,398例)に割り付けられた。実際に治療を受けた1万2,738例の平均年齢は72.2(SD 5.7)歳であった。per-protocol集団は、QVLP群が5,996例、QIV群は6,026例だった。 すべてのウイルス株に起因するインフルエンザ様疾患の予防におけるQVLPワクチンの相対効果は8.8%(95%CI:-16.7~28.7)であり、主要非劣性エンドポイントを満たした。75歳以上では、全体と比較して、相対効果が良好な傾向がみられ、インフルエンザ様疾患で38.3%(-5.2~63.9、p=0.102)、呼吸器疾患は33.4%(-3.3~57.1、p=0.241)であった。 重篤な有害事象は、QVLP群が6,352例中263例(4.1%)で、QIV群は6,366例中266例(4.2%)でみられた。このうち治療関連と判定されたのはそれぞれ1例(<0.1%)および2例(<0.1%)であった。試験治療下で発現した重度の治療関連有害事象は、1例(<0.1%)および3例(<0.1%)であった。 著者は、「これら2つの効果に関する重要な試験のデータは有望であるが、植物由来のウイルス様粒子ワクチンの潜在的な利点がどの程度実現されるかは、ヒトでの使用が承認された後に、何度かの流行期を経て広く使用されて初めて明らかになるだろう」としている。

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SGLT2阻害薬でも糖尿病患者の心血管イベントは抑制されない?(解説:吉岡成人氏)-1304

 糖尿病患者における心血管疾患のリスクを低減するためにSGLT2阻害薬が有用であると喧伝されている。米国糖尿病学会(ADA)では心血管疾患、慢性腎臓病(CKD)、心不全の既往のある患者やハイリスク患者では、血糖の管理状況にかかわらずGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬を第一選択薬であるメトホルミンと併用することが推奨されている。欧州心臓病学会(ESC)と欧州糖尿病学会(EASD)による心血管疾患の診療ガイドラインでは、心血管リスクが高い患者での第一選択薬としてSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬を用いることも選択肢の一つであるとしている。 日本においても、循環器学会と糖尿病学会が「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」が公表され、糖尿病患者は心血管疾患のハイリスク群であり、心不全の合併が多いことが記されている。日本人においても欧米同様にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を推奨すべきかの結論は得られていないというコメントはあるが、心不全ないしは心不全の高リスク患者ではSGLT2阻害薬の使用が推奨されている。 そのような背景の中、2020年6月にWebで開催されたADAにおいてSGLT2阻害薬であっても心血管イベントの抑制効果が認められない薬剤があることが報告された。日本では未発売のSGLT2阻害薬であるertugliflozinの心血管イベント抑制効果に関する臨床試験(Evaluation of Ertugliflozin Efficacy and Safety Cardiovascular Outcomes Trial:VERTIS-CV)であり、その詳細が、2020年9月23日のNEJM誌に掲載されている。 VERTIS試験の対象は冠動脈、脳血管、末梢動脈の少なくともいずれかにアテローム動脈硬化性疾患を持つ8,246例であり、平均年齢は64歳、88%が白人で糖尿病の罹病期間は平均で13年、ベースラインにおけるHbA1cは8.2%であった。平均で3.5年の追跡期間における1次評価項目(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発生率は実薬群、プラセボ群ともに11.9%、100人年当たりの発生率は実薬群3.9、プラセボ群4.0であり差がなかった。EMPA-REG試験においても1次評価項目はVERTIS試験とまったく同じであり、100人年当たりの発生率は、実薬群3.74、プラセボ群4.39であった。2次評価項目である心血管死、心不全での入院についても差はなかったものの、心不全での入院のみで比較をするとプラセボ群3.6%(1.1/100人年)、実薬群2.5%(0.7/100人年)であり統計学的に有意な差(ハザード比0.70、信頼区間:0.54~0.90)があった。腎関連の評価項目(腎死、腎代替療法、クレアチニンの倍加)にも有意差は認められなかった。プラセボ群との非劣性を確認するための臨床試験とはいえ、SGLT2阻害薬として従来報告されていた心血管イベントに対する抑制効果が疑問視される結果であった。なぜ、ertugliflozinでほかのSGLT2阻害薬で確認された臨床効果が認められなかったのか、単なる薬剤による違いなのかは判然としない。 ともあれ、欧米の糖尿病患者と日本の糖尿病患者では臨床的な背景も、病態も異なっている。日本人における高齢率は28%であり2型糖尿病の平均年齢は65歳を超え、死因の38%は悪性腫瘍、11%が心疾患である(中村二郎ほか. 糖尿病. 2016;59:667-684.)。一方、米国での高齢化率は14.5%にすぎず、糖尿病患者の死因の第1位は心血管疾患で34%、悪性腫瘍は20%である(Gregg EW, et al. Lancet. 2018;391:2430-2440.)。欧米のガイドラインや臨床試験の結果を日本の臨床の現場に応用する場合には、一定の距離感を保ちつつ十分に吟味する必要があると思われる。

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トリプルネガティブ乳がん術前治療における免疫チェックポイント阻害剤併用(解説:下村昭彦氏)-1305

 2020年9月19日から欧州臨床腫瘍学会(ESMO)がバーチャル開催され、多数の重要演題が発表された。IMpassion031試験もその1つであり、同日Lancet誌に論文掲載となっている。IMpassion031試験はトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の術前化学療法としてアルブミン結合パクリタキセル(nab-PTX)とAC(ドキソルビシン+シクロホスファミド)療法に、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブを上乗せすることにより病理学的完全奏効(pCR)率が向上するかどうかを検証したランダム化比較第III相試験である。アテゾリズマブ群で17%のpCR率改善を認め、アテゾリズマブのpCR率に対する効果が統計学的有意に示された。PD-L1陽性(1%以上)・陰性のいずれでもpCR率の改善傾向を認めたが、サブグループでは統計学的有意差は認めなかった。同様の試験として抗PD-1抗体であるペムブロリズマブを用いたKEYNOTE-522試験(CBDCA+PTX f/b AC療法へのペムブロリズマブの上乗せを検証)があり、こちらも全体集団でペムブロリズマブによるpCR率改善が示されており、その傾向はPD-L1ステータスにより変わらなかった。 一方、転移乳がんを対象とした試験では明暗を分けている。転移TNBC 1次治療を対象として、3つの試験の結果がすでに発表されている。IMpassion130試験はnab-PTXへのアテゾリズマブの上乗せを、無増悪生存期間(PFS)をエンドポイントとして検証した試験である。ITT集団で上乗せ効果があり、PD-L1陽性集団でより強く効果を認めたものの、PD-L1陰性集団ではまったく上乗せ効果が認められなかった。PD-L1陽性集団では全生存期間(OS)においても改善が期待される結果であった。一方、同じセッティングでPTXへの上乗せを検証したIMpassion131試験ではアテゾリズマブのPFSに対する上乗せ効果が認められず、むしろOSにおいてはアテゾリズマブ群で悪い傾向にあった(有意差なし)。この相反する結果に対しては、PTXでは前処置としてステロイドが毎回投与されること、nab-PTXとPTXではパクリタキセルとしての薬剤の量が異なること、実際に試験に参加した患者の背景が異なることなどが原因として議論されている。同様の対象でタキサン(PTX/nab-PTX)もしくはCBDCA+GEMへのペムブロリズマブの上乗せを検証したKEYNOTE-355試験ではPD-L1陽性集団において上乗せ効果が示され、タキサンでより良い傾向を示したことから、アテゾリズマブとペムブロリズマブの薬剤としての違いもディスカッションに挙げられている。 早期TNBCに戻って考えてみると、早期がんではPD-L1ステータス、薬剤の種類にかかわらず免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の上乗せ効果を認めている。早期乳がんと転移乳がんでバイオマーカーが異なる可能性も指摘されているが、大きな違いとしてはAC療法が行われているかどうか、ということである。AC療法によりがん細胞が破壊されることによりがん特異抗原やサイトカインが放出され、免疫のプライミングが惹起されることなどが原因として指摘されている。その傍証の1つが、NeoTRIP試験(nab-PTX+CBDCAへのアテゾリズマブの上乗せを、pCRをエンドポイントとしてみた試験、AC療法は術後に行われた)ではpCRの改善がほとんどみられなかったことである。併用化学療法の影響は大きいと考えるべきであろう。 さらに、免疫チェックポイント阻害剤を術前化学療法に併用した場合に問題となるのが、non-pCRの際の術後化学療法である。TNBCでnon-pCRだった場合には術後にカペシタビンの半年間の投与(国内未承認)が無病生存期間(DFS)ならびにOSを改善することが示されているが、ICIの試験では術後にICIを継続されている。non-pCRの場合にカペシタビンへ変更するのか、それともICI+カペシタビンの治療を行うのか、今後明らかにしていく必要がある。

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生物学的DMARD抵抗性RA、ウパダシチニブvs.アバタセプト/NEJM

 生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)に抵抗性の関節リウマチ患者において、ウパダシチニブはアバタセプトと比較し、12週時の疾患活動性スコア(DAS28-CRP)のベースラインからの変化量および臨床的寛解率に関して優越性が認められた。ただし、重篤な有害事象の発現率は高かった。スイス・Cantonal Clinic St. GallenのAndrea Rubbert-Roth氏らが、24週間の多施設共同無作為化二重盲検実薬対照第III相試験「SELECT-CHOICE試験」の結果を報告した。ウパダシチニブは経口選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬で、関節リウマチの治療薬として用いられているが、bDMARD抵抗性の関節リウマチ患者において、T細胞選択的共刺激調節薬のアバタセプトと直接比較したウパダシチニブの有効性および安全性は不明であった。NEJM誌2020年10月15日号掲載の報告。ウパダシチニブの有効性と安全性をアバタセプトと直接比較 研究グループは、2017年5月~2019年9月の期間に、bDMARDで効果不十分または不耐容の中等度~重度の活動性関節リウマチ患者を、ウパダシチニブ(1日1回15mg経口投与)群、またはアバタセプト(静脈内投与)群に1対1の割合で無作為に割り付け、いずれも従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)と併用投与した。 主要評価項目は、12週時の28関節とC-反応性蛋白(CRP)を用いて評価する疾患活動性スコア(DAS28-CRP:0~9.4、スコアが高いほど活動性が高いことを示す)のベースラインからの変化量の非劣性である。また、重要な副次評価項目は、12週時のDAS28-CRPのベースラインからの変化量、ならびに12週時の臨床的寛解率(DAS28-CRPが2.6未満を達成した患者の割合)の、アバタセプトに対するウパダシチニブの優越性とした。ウパダシチニブ、主要評価項目および重要な副次評価項目を達成 合計ウパダシチニブ群303例、アバタセプト群309例において、ベースラインのDAS28-CRPはそれぞれ5.70、5.88であった。 12週時のDAS28-CRPのベースラインからの平均変化量は、ウパダシチニブ群-2.52、アバタセプト群-2.00であり、アバタセプト群に対するウパダシチニブ群の非劣性および優越性が検証された(群間差:-0.52点、95%信頼区間[CI]:-0.69~-0.35、非劣性のp<0.001、優越性のp<0.001)。また、12週時の臨床的寛解率は、ウパダシチニブ群30.0%、アバタセプト群13.3%であった(群間差:16.8ポイント、95%CI:10.4~23.2、優越性のp<0.001)。 24週間の投与期間中にウパダシチニブ群で死亡1例、非致死的脳卒中1例、静脈血栓塞栓症2例が報告された。肝機能異常(アミノトランスフェラーゼ値上昇)を認めた患者は、ウパダシチニブ群がアバタセプト群より多かった。 結果を踏まえて著者は、「関節リウマチ患者におけるウパダシチニブの有効性および安全性を検証するため、より長期で大規模な臨床試験が必要である」とまとめている。

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最適な血行再建術を選択する新SYNTAXスコアを開発・検証/Lancet

 10年死亡ならびに5年主要心血管イベントを予測するSYNTAXスコアII 2020は、冠動脈バイパス術(CABG)または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の恩恵を得られる個人の特定に役立ち、心臓チーム、患者およびその家族が最適な血行再建術を選択するのを支援可能であることが示された。オランダ・アムステルダム大学のKuniaki Takahashi氏らが「SYNTAXES試験」の副次解析結果を報告した。無作為化比較試験は新たな治療法の有効性を検証するゴールドスタンダードで、一般的には平均的な治療効果を示すものであるが、治療効果は患者によって異なる可能性があり、個々の患者の治療を平均的な治療効果に基づいて決定することは最適ではない可能性がある。そこで著者らは、複雑な冠動脈疾患患者において最適な血行再建術を選択する個別意思決定ツールとしてSYNTAXスコアII 2020を開発し検証した。Lancet誌オンライン版2020年10月8日号掲載の報告。10年死亡と5年主要心血管イベントを予測するSYNTAXスコアII 2020を開発 SYNTAXES試験は、2005年3月~2007年4月に北米および欧州の18ヵ国85施設で実施された医師主導型多施設共同無作為化比較試験(SYNTAX試験)の10年追跡試験である。新規の3枝または左主幹部病変を有する患者を、PCI群またはCABG群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。主要評価項目は10年全死因死亡であった。 研究グループは、SYNTAXES試験のデータからCox回帰法を用いて10年全死因死亡を予測する臨床予後指標を開発した後、治療の割り付け(PCI/CABG)と、これまでのエビデンスに基づいて選択された事前に規定した2つの効果修飾因子(病変の種類[3枝病変か左主幹部病変]、解剖学的SYNTAXスコア)も組み合わせたCoxモデルを開発。また、同様の方法を用いて、PCI/CABGを受けた患者の主要心血管イベント(全死因死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合)の5年リスク予測モデルを開発した。 次に、両モデルについて、SYNTAX試験で交差検証(1,800例)を行うとともに、FREEDOM試験、BEST試験およびPRECOMBAT試験の併合集団(3,380例)で外部検証を行い、両モデルの予測能とその差(2つの治療群の絶対リスク差を算出し、CABGとPCIの推定利益を比較)の検討を行った。C統計量を用いて識別能を、較正プロットを用いて予測と観察の一致度を評価した。SYNTAXスコアII 2020は5年主要心血管イベントの予測に関して有用な識別能 交差検証において、新たに開発されたSYNTAXスコアII 2020は、10年全死因死亡と5年主要心血管イベントの予測に関して2つの治療群で有用な識別能を示した。10年全死因死亡のC統計量は、PCIで0.73(95%信頼区間[CI]:0.69~0.76)、CABGで0.73(0.69~0.76)、5年主要心血管イベントのC統計量は、それぞれ0.65(0.61~0.69)、0.71(0.67~0.75)であった。 外部検証においても、SYNTAXスコアII 2020は5年主要心血管イベントの予測に関して、有用な識別能(PCIのC統計量は0.67[95%CI:0.63~0.70]、CABGは0.62[0.58~0.66])と良好な較正を示した。 PCIを上回ると推定されたCABGの治療有益性は試験集団の患者間で大きく異なっており、有益性の予測は良好に調整されていた。

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第40回 降圧薬は就寝時服用でより心血管イベントリスクを低減の報告【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 痒みなどのアレルギー症状や喘息発作、片頭痛発作など、特定の時間に症状が出やすい疾患では、日内リズムや薬物の時間薬理学的特徴に応じて薬剤の服用タイミングが設定されることがあります。血圧にも日内変動がありますが、こうした時間治療(chronotherapy)は高血圧に対しても有用なのでしょうか。今回は、降圧薬の服用タイミングと心血管イベントについて検討したHygia Chronotherapy Trial1)を紹介します。対象は、スペイン在住の18歳以上の白人で、普段は日中に活動して夜間は就寝し、1剤以上の降圧薬を服用している高血圧患者1万9,084例(男性1万614例、女性約8,470例、平均年齢60.5歳)です。夜勤のある人やほかの人種では結果が変わるかもしれない点には注意が必要です。降圧薬を就寝時に服用する群9,552例、起床時に服用する群9,532例に分け、中央値6.3年追跡しています。ランダム化の方法は厳密には本文からは読み取れませんが、結果的に振り分けられたベースラインでの群間の特徴は似通っているため、おおむね平等な比較とみてよいかと思います。試験期間を通して定期的な血圧測定を行い、さらに年に1回は2日間にわたり携帯型の自動血圧計を装着して、自由行動下の24時間血圧も測定しています。服用薬の内訳は、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬で、評価者のみを盲検化するPROBE(Prospective Randomised Open Blinded-Endpoint)法を用いて評価しています。アウトカムは、主要なCVDイベント(CVDによる死亡、心筋梗塞、冠動脈再建術、心不全、脳卒中)の発生でした。医師と患者のいずれも治療内容を知っているためバイアスは避けられませんが、実臨床に近いセッティングともいえるでしょう。判断に揺らぎが出やすいアウトカムだと評価者の判断が影響を受けかねませんが、心筋梗塞や死亡など明確な場合は問題になりづらいと思われます。結果としては、追跡調査期間中に、1,752例で主要なCVDイベントがあり、就寝時服薬群の起床時服薬群と比較してのハザード比は次のとおりでした。 心血管イベントの複合エンドポイント 0.55(95%信頼区間[CI]: 0.50-0.61) 心血管死亡 0.44(95%CI:0.34~0.56) 心筋梗塞 0.66(95%CI:0.52~0.84) 冠動脈再建術 0.60(95%CI:0.47~0.75) 心不全 0.58(95%CI:0.49~0.70) 脳卒中 0.51(95%CI:0.41~0.63)降圧薬を起床時に服用した群と比べて、就寝時に服用した群では、心血管死亡リスクは56%、心筋梗塞リスクは34%、血行再建術の施行リスクは40%、心不全リスクは42%、脳卒中リスクは49%、これらのイベントを併せた複合アウトカムの発症リスクは45%と、それぞれ有意に低いという結果でした。これらの結果は、性別や年齢、糖尿病や腎臓病といったリスク因子の有無にかかわらず一貫しています。就寝時服薬群は24時間血圧で夜間の血圧が低下本文では著者らは相対ハザード比のみを報告し、絶対リスク減少率(ARR)や必要治療数(NNT)を報告していませんでしたが、批判を受けたためコメント欄に補足する形で各アウトカムのARRとNNTを追記しています。それによると、全CVDイベントは起床時服用群で1,566、就寝時服用群で888、ARRは 7.08(95%CI:6.13~8.02)、NNTは14.13(95%CI:12.46~16.30)でした。24時間血圧の測定値からも、就寝時服用群では睡眠中の血圧値が有意に低いこともわかっており、心筋梗塞や脳卒中のリスク因子である夜間高血圧の改善が結果に寄与したのではないかと仮説が述べられています。現時点では高血圧症診療ガイドラインに服用タイミングについて明確な言及はありませんが、就寝時の処方が増えてもおかしくない結果ではないでしょうか。もちろん、夜間の血圧が昼間に比べ20%以上低くなるようなextreme-dipper型などでは注意が必要です。利尿薬を夜に服用することを避けたいという患者さんもいれば、一部のCa拮抗薬は朝食後服用となっているものもあります。そうした個別の事情を踏まえつつ、用法提案の1つの選択肢として覚えておいて損はないかと思います。1)Hermida RC, et al. Eur Heart J. 2019; ehz754.

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新型コロナ流行時に喘息入院が減少、生活様式の変化が奏功か

 COVID-19を巡っては、呼吸器系疾患を有する人で重症化しやすいことがこれまでの研究で明らかになっており、COVID-19流行当初、喘息の入院患者数が増加する可能性が危惧されていた。ところが実際は、国内におけるCOVID-19流行期間の喘息入院患者数が例年よりも大きく減少していたことがわかった。東京大学の宮脇 敦士氏らの研究チームが、メディカル・データ・ビジョンの保有する大規模診療データベースを用い、同社の中村 正樹氏、慶應義塾大学のニ宮 英樹氏との共同研究から明らかにした。研究をまとめた論文は、2020年10月13日付(日本時間)でThe Journal of Allergy and Clinical Immunology:In Practice誌オンライン版に掲載された。 本研究では、2017年1月〜2020年5月、喘息による入院患者数の週ごとの推移が継続的に観察できた全国272のDPC病院を対象に調査を実施した。その結果、例年春先(第9週=3月上旬以降)から初夏にかけて、喘息の入院患者数は増加する傾向にあるにもかかわらず、今年は逆に減少する傾向だったことが認められた。年および週によるトレンドを統計学的に調整した分析では、2020年第9週以降の喘息による平均入院患者数は、2017年から2019年の同時期と比べ0.45倍(95%信頼区間:0.37~0.55、p<0.001)だった。この傾向は18歳未満の子ども、成人共に認められた。 本結果の分析として、COVID-19感染を防ぐための個人レベルの衛生対策(外出時のマスク装着など)が、呼吸器のウイルス感染や花粉などのアレルゲンおよび大気汚染物質など喘息増悪の強力な要因への曝露を減らした可能性を挙げている。また、COVID-19の蔓延が喘息発作を増加させる可能性があるという当初の懸念は、禁煙やアドヒアランスの向上、アレルゲンを除去するための掃除頻度の向上など、予防行動を促進したのではないかと指摘している。さらに、地域レベルの予防策(学校閉鎖、大規模な集会の中止、在宅勤務の促進)や、経済的閉鎖に関連した大気汚染の減少も奏功した可能性があるという。 著者らは、本研究について、個人や社会が生活様式を変えることにより喘息入院の大部分を予防できる可能性を示唆しており、喘息の良好なコントロールのために予防行動や生活環境への配慮が重要であることが再認識されたと述べている。

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PCI後プラスグレルのde-escalation法、出血リスクを半減/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った急性冠症候群(ACS)患者に対し、術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日を投与した後、5mg/日に減量する、プラスグレルをベースにしたde-escalation法は、1年間のネット有害臨床イベントを低減することが、韓国・ソウル大学病院のHyo-Soo Kim氏らが同国35病院2,338例を対象に行った「HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験」の結果、示された。イベントリスクの低減は、主に虚血の増大のない出血リスクの減少によるものであった。PCI後のACS患者には1年間、強力なP2Y12阻害薬ベースの抗血小板2剤併用療法(DAPT)が推奨されている。同療法では早期の段階において薬剤の最大の利点が認められる一方、その後の投与期には出血の過剰リスクが続くことが知られており、研究グループは、抗血小板薬のde-escalation法が虚血と出血のバランスを均衡させる可能性があるとして本検討を行った。Lancet誌2020年10月10日号掲載の報告。韓国35病院で2,338例を無作為化、有害臨床イベント発生を比較 HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験は、韓国35病院で行われた多施設共同無作為化非盲検非劣性試験。PCIを実施したACS患者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、全例に術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日+アスピリン100mg/日を投与した後、一方の群ではプラスグレルを5mg/日に減量(de-escalation群)、もう一方の群には10mg/日を継続投与した(対照群)。 主要エンドポイントは、1年時点のネット有害臨床イベント(総死亡、非致死的心筋梗塞、ステント血栓症、血行再建術の再施行、脳卒中、BARC出血基準2以上の出血)の発生で、絶対非劣性マージンは2.5%とした。 主な副次エンドポイントは、有効性アウトカム(心血管死、心筋梗塞、ステント血栓症、虚血性脳卒中)と安全性アウトカム(BARC出血基準2以上の出血)だった。de-escalation群、虚血リスクの増大なし、出血リスクは半減 2014年9月30日~2018年12月18日に3,429例がスクリーニングを受け、うち1,075例がプラスグレル適応基準を満たさず、16例が無作為化エラーにより除外され、2,338例がde-escalation群(1,170例)、対照群(1,168例)に割り付けられた。 ネット有害臨床イベントの発生は、de-escalation群82例(Kaplan-Meier法による予測値:7.2%)、対照群116例(10.1%)で、de-escalation群の非劣性が示された(絶対リスク差:-2.9%、非劣性のp<0.0001、ハザード比[HR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.52~0.92]、同等性のp=0.012)。 de-escalation群は対照群に比べ、虚血のリスク増大はみられず(HR:0.76、95%CI:0.40~1.45、p=0.40)、出血イベントリスクは有意に減少した(0.48、0.32~0.73、p=0.0007)。

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カナグリフロジンと下肢切断リスク(解説:住谷哲氏)-1303

 最新のADA/EASD高血糖管理ガイドラインにおいて、SGLT2阻害薬は心不全またはCKDが問題となる2型糖尿病患者に対して、HbA1cの個別目標値とは切り離してメトホルミンに追加すべき薬剤と位置付けられている。糖尿病ケトアシドーシス、性器感染症の増加はすべてのSGLT2阻害薬に共通の有害事象であるが、下肢切断リスクの増加はカナグリフロジンに特異的と考えられている。これは、これまで報告されたエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、ertugliflozinのCVOTのなかで、唯一下肢切断リスクの増加がカナグリフロジンのCANVAS programで報告されたことによる。しかしその後に報告されたカナグリフロジンのCREDENCEでは下肢切断リスクの増加は認められなかった。つまり本当にカナグリフロジン特異的に下肢切断リスクが増加するか否かについては、はっきりしていない。 カナグリフロジンの使用が多い米国で、カナグリフロジンまたはGLP-1受容体作動薬のいずれかが新たに投与された患者における下肢切断リスクを比較検討したのが本論文である。対照としてGLP-1受容体作動薬が選択されたのは、ほぼ同程度のASCVDリスクを有する患者に両薬剤のいずれかが選択されることが多いことによる。さらに、下肢切断リスクは高齢患者、ASCVD既往のある患者のリスクが高いことが知られているので、この両因子で層別した解析を実施した。結果として、カナグリフロジン投与により下肢切断リスクが増加するのは、ASCVD既往のある65歳以上の高齢者に限定されており、そのNNTは556人/0.5年であった。 実臨床では今回明らかにされた「ASCVD既往を有する65歳以上の高リスク患者」に対してSGLT2阻害薬を選択することが多い。その際はカナグリフロジンではなくほかのSGLT2阻害薬を投与すればよいのだろうか? カナグリフロジンの使用がほとんどない北欧からの報告(対象患者における投与薬剤の比率はダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)では、本論文と同様にGLP-1受容体作動薬を対照として、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンともに下肢切断リスクの増加を認めている1)。さらに複数あるSGLT2阻害薬のなかで、カナグリフロジンのみが下肢切断リスクを増加させるメカニズムとしていくつかの仮説が提唱されているが、はたしてそれが正しいのか否かは明らかでない。筆者はSGLT2阻害薬による下肢切断リスクの増加は、存在するとしてもおそらくclass effectだろうと考えている。CREDENCEの結果に基づくと、ESKDへの移行阻止のNNTは43人/2.5年である。したがって、ここでも個別の患者のrisk-benefitを慎重に考慮したうえで、EBMのStep4「情報の患者への適用」を悩みながら実践することが求められる。

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心アミロイドーシス患者における心臓デバイス後のフォローアップ【Dr.河田pick up】

 アミロイドーシスは不溶性のアミロイド細繊維が細胞外に沈着し、様々な臓器障害を引き起こす。心アミロイドーシスは心臓の間質にアミロイド線維沈着し、その病態がより一層知られるようになってきている。徐脈および頻脈は、心アミロイドーシスの患者でよく見られ、心アミロイドーシスの診断につながることがあるが、心アミロイドーシス患者における伝導障害が発生した後の経過については知られていない。この研究は、米国・デューク大学のMichael R. Rehorn氏ら研究グループが、心アミロイドーシス患者と伝導障害の関係について、心臓植込み型デバイスを通して経年的に観察したものである。JACC clinical Electrophysiology誌2020年9月6日号での報告。経年的に心臓デバイスが植込まれた心アミロイドーシス患者をフォロー 本研究では、心アミロイドーシス(トランスサイレチン型アミロイドーシス心筋症[ATTR-CM]および軽鎖アミロイドーシス[AL-CA])と診断され、心臓デバイスを植込まれた患者をデューク大学のデータベースから抽出。植込み時の患者の特徴(人口動態、心アミロイドーシスの診断と関連したデータ、心臓に関する画像、心臓デバイスの種類)が記録された。心臓デバイスのデータ解析には、ペーシング、心房細動(AF)の頻度、活動レベル、リードに関する値、心室性不整脈の発生やそれらに対する治療の情報が用いられた。5年後には右室ペーシング率が96%、AFは平均17時間/日 本研究に登録されたのは、心サルコイドーシスの患者34例(ATTR-CM:7例、AL-CA:27例)。平均年齢(中央値)は75歳、平均の左心駆出率は42±13%、徐脈に対する植込みが65%、突然死の予防に対する植込みが35%であった。このうち14例(41%)については、心サルコイドーシスの診断に先行して心臓デバイスの植込みが行われていた。 3.1±4.0年のフォローアップ期間で、右室波高は減少したが、不具合にまでは至っていなかった。リードの抵抗値、ペーシング閾値には変化が見られなかった。植込み後1~5年の間に平均の心室ペーシング率は56±9%から96±1%(p=0.003)に増加し、AFの頻度は1日当たり2±1.3時間から17±3時間(p=0.0002)に増加していた。心室不整脈は、高頻度(ATTR-CM:6.7±2.3/年、AL-CA:5.1±3.2/年)に認められたが、主に非持続性の心室頻拍であった。ATTR-CMの1例のみICD(植込み型除細動器)治療を必要とした。心アミロイドーシスではデバイス植込み後も伝導障害が進行、AF頻度が有意に増加 本研究では、心臓デバイスの経年的なフォローアップにより、心アミロイドーシス患者では伝導障害が進行。AF頻度が増加し、心室ペーシングへの依存度が増すことがわかったが、リードに関する数値は安定していた。心室不整脈はよく認められるが、主に非持続性心室頻拍であった。 心アミロイドーシスそのもので心機能が低下することもあるが、さらに右室ペーシング率が高いとペーシングに伴う心筋症が起こりうる。この結果を踏まえると、心室機能が低下している場合には、当初から右室ペーシングでなく、両心室ペーシングを植込むことが検討されるべきと考える。(Oregon Heart and Vascular Institute  河田 宏)■関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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RCTの評価はどこで行うか? ELDERCARE-AF試験の場合(解説:香坂俊氏)-1302

今回解説させていただくELDERCARE-AFはわが国で実施された試験であるが、出血ハイリスクの心房細動患者に対して抗凝固療法(ただし低用量)の有用性を確立させたという点で画期的であった。高齢者で基礎疾患のある心房細動患者には抗凝固療法(最近ではワルファリンよりもNOACと呼ばれるクラスの薬剤が使われることが多くなっている)を用いた脳梗塞予防が広く行われているが、抗凝固を行えばそれだけ出血するリスクも高くなるわけであり、そこのバランスをどう保つかということは大きな課題であった。この試験では従来からの基準ではNOACを用いることができない「出血ハイリスク」患者を対象として、何もしないか(プラセボ投与)あるいは低用量のエドキサバン(NOACの1つ、通常の1日量が60㎎ 1xであるところを15mg 1xとして用いた)を用いるかというところの比較を行った。出血ハイリスクというところをどう規定するかというところに工夫があり、この試験では80歳以上ということをまず組み入れ基準とし、そのうえで以下のうちのいずれか1つ以上を満たす患者を対象とするとした(かなり条件は厳しい):・低腎機能(creatinine clearanceが15から30mL/min)・出血の既往・低体重(45kg以下)・NSAIDを使用・抗血小板剤を使用ただこの条件の設定の仕方はなかなか見事であり、これならば誰もが「出血ハイリスク」であることに納得がいき、かつ現場で抗凝固薬の処方をためらうというところに異論がないのではないかと思われる([1])。試験の結果として、脳卒中/全身性塞栓症の発生は低用量のエドキサバン群で少なく(the annualized rate of stroke or systemic embolism was 2.3% in the edoxaban group and 6.7% in the placebo group (hazard ratio, 0.34; 95% confidence interval [CI], 0.19 to 0.61; P

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第30回 経口液剤AMX0035でALS患者の生存も改善

世界保健機関(WHO)主催の世界30ヵ国以上での無作為化試験(Solidarity)の査読前報告が先週木曜日15日にmedRxivに掲載され1,2)、残念ながらギリアド社のベクルリー(Remdesivir、レムデシビル)やその他3つの抗ウイルス薬・ヒドロキシクロロキン、カレトラ(lopinavir/ritonavir)、インターフェロン(Interferon-β1a)はどれもCOVID-19入院患者の死亡を減らしませんでした。たとえばレムデシビル投与群の28日間の死亡率は非投与対照群の11.2%(303/2,708人)とほとんど同じ11%(301/2,743人)であり1,3)、その差は有意ではありませんでした(p=0.50)。そんなSolidarity試験とは対照的に、その発表の翌16日、脳や脊髄の運動神経が死ぬことで生じる難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬候補の良いニュースがありました4-6)。先月9月初めにNEJM誌に掲載されたプラセボ対照第II相試験(CENTAUR)でALS進行を有意に抑制した神経死抑制剤AMX0035がその試験と一続きの非盲検継続(OLE)試験で今度は有意な生存延長をもたらしたのです。米国マサチューセッツ州ケンブリッジ拠点のAmylyx社が開発しているAMX0035は昔からある成分2つが溶けた経口の液剤です。成分の1つはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬・フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)、もう1つは胆汁酸・タウルソジオール(Taurursodiol)です7)。今回発表されたOLE試験に先立つCENTAUR試験にはALS患者137人が参加し、それらのうち3人に1人はプラセボ、あとの3人に2人はAMX0035を6ヵ月間服用しました。NEJM誌報告によると6ヵ月間のAMX0035服用群の体の不自由さの進行はプラセボに比べてよりゆっくりでした7)。また、AMX0035服用は腕の筋力低下も抑制しました。今回のOLE試験にはCENTAUR試験から継続して90人が参加し、全員がAMX0035を服用し、CENTAUR試験の始まりから数えて最大約3年間(35ヵ月間)追跡されました。その結果、生存期間中央値はAMX0035を最初から服用し続けた患者(56人)では25ヵ月、当初プラセボを服用した患者では18.5ヵ月であり(p=0.023)、最初からのAMX0035服用患者は当初プラセボを服用した患者に比べて有意に半年以上(6.5ヵ月)生存が延長されました8)。細胞内小器官・小胞体(ER)へのストレスや機能障害、それにミトコンドリアの機能や構造の欠損がALSの発病要因と目されており、AMX0035に含まれるフェニル酪酸ナトリウムはERがストレスを受けて誘発する毒性を緩和し、もう1つの成分タウルソジオールはミトコンドリアを助けて細胞を死に難くします7)。米国ワシントン D.C.の隣街アーリントンを本拠とするALS患者の会・ALS Association等はAMX0035をALS患者ができるだけ早く使えるようにする請願活動を先月初めに開始しており、16日のニュースによると5万人近く(4万7,000人以上)が請願に署名しています4)。参考1)Repurposed antiviral drugs for COVID-19; interim WHO SOLIDARITY trial results. medRxiv. October 15, 2020.2)Solidarity Therapeutics Trial produces conclusive evidence on the effectiveness of repurposed drugs for COVID-19 in record time / WHO 3)Remdesivir and interferon fall flat in WHO’s megastudy of COVID-19 treatments / Science4)AMX0035 Survivability Data Adds to Urgency to Make Drug Available / ALS Association5)Amylyx Pharmaceuticals Announces Publication of CENTAUR Survival Data Demonstrating Statistically Significant Survival Benefit of AMX0035 for People with ALS / BUSINESS WIRE6)Investigational ALS drug prolongs patient survival in clinical trial / Eurekalert7)Paganoni S,et al. N Engl J Med. 2020 Sep 3;383:919-930.8)Paganoni S,et al. Muscle & Nerve. 16 October 2020. [Epub ahead of print]

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ストレスに対するSNS利用の影響~日本理学療法士協会の学生調査

 藍野大学の本田 寛人氏らは、理学療法を学んでいる日本の大学生におけるインターネット依存と心理的ストレスに対するスマートフォンを用いたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の影響を調査した。Journal of Physical Therapy Science誌2020年9月号の報告。 2~4年生の理学療法を学ぶ学生247人(19~22歳)を対象に、単一大学横断的研究を実施した。毎日のスマートフォン利用時間、スマートフォンを用いたSNS利用時間、授業以外での自己学習時間に関する情報を、自己記入式アンケートにより収集した。インターネット依存と心理的ストレスの評価には、インターネット依存度テスト(IAT)と心理的ストレス反応尺度(SRS-18)を用いた。12人を除外した235人のデータを分析した。 主な結果は以下のとおり。・重回帰分析では、IATスコアと性別(男性)および毎日のスマートフォン利用時間との関連が示唆された。・SNS利用目的の一つである「目的のないネットサーフィン」およびIATスコアとSRS-18スコアとの関連が認められた。・その他の変数とIATスコアまたはSRS-18スコアとの関連は認められなかった。 著者らは「大学生のインターネット依存または心理的ストレスに対し、男性、毎日のスマートフォン利用時間または受動的なSNS利用が関連している可能性が示唆された」としている。

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乳がん術前/術後化学療法時の頭皮冷却が毛髪回復を早める/日本乳癌学会

 乳がんの術前/術後化学療法時に脱毛抑制のためにPaxman Scalp Coolingシステムで頭皮冷却した後の毛髪回復状況を長期間、前向きに調査した結果から、化学療法時の頭皮冷却は脱毛を軽減するだけでなく、毛髪の回復を早め、さらに永久脱毛をほとんどなくす可能性が示唆された。国立病院機構四国がんセンターの大住 省三氏が第28回日本乳癌学会学術総会で発表した。 本研究の対象は、Paxman Scalp Coolingシステムによる術前/術後化学療法時の脱毛研究に参加し、頭皮冷却を1回以上受け、予定していた化学療法を完遂し、脱毛状況の評価が可能だった乳がん患者122例。最後の化学療法後1、4、7、10、13ヵ月時の頭髪状況について、客観的評価(5方向からの撮影写真を医師と看護師2名で評価)でのGrade(0:まったく脱毛なし、1:1~25%脱毛、2:26~50%脱毛、3:>50%脱毛)および主観的評価(患者にかつらまたは帽子の使用を質問)でのGrade(0:まったく使っていない、1:時々使用、2:ほとんど常に使用)で分類した。全例での評価のほか、頭皮冷却を全サイクルで完遂した患者79例(A群)と、途中で頭皮冷却を中止した43例(ほとんどは1サイクルで中止)(B群)の結果を比較した。 主な結果は以下のとおり。・122例での客観的評価における各時点でのGradeは10ヵ月時までは改善がみられたが、その後は改善がみられなかった。13ヵ月時に回復していない症例(永久脱毛と定義)は9例(7.8%)であった。・122例での主観的評価における各時点でのGradeは、客観的評価と異なり10ヵ月時と13ヵ月時の間でも改善がみられた。しかし、13ヵ月時でも19例(16.5%)はかつらあるいは帽子を使用していた。・A群とB群を客観的評価で比較すると、観察期間中、終始A群の脱毛の程度が有意に軽く、また回復も早かった。13ヵ月時に永久脱毛がみられた症例はA群で2例(2.6%)に対し、B群では7例(18.4%)と有意差が認められた。・主観的評価の比較でも、A群のほうが終始、かつらあるいは帽子を使用していた症例の割合が低く、頻度も低かった(4ヵ月時と7ヵ月時で有意差あり)。・1ヵ月時点で客観的評価がGrade3だった症例のみに限定しても、A群はB群より回復が速い傾向にあり(4ヵ月時と10ヵ月時で有意差あり)、化学療法中に脱毛が起こっても頭皮冷却を続ける意義は大きいと考えられる。一方、同じ症例(1ヵ月時点で客観的評価がGrade3)で主観的評価の経時的な結果を比較した場合、両群間で差はみられなかった。

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