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末梢動脈疾患ガイドライン、7年ぶりの改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン(2022年改訂版)』が、7年ぶりの改訂となった。2度目の改訂となる今回は、末梢動脈疾患の疾病構造の変化と、それに伴う疾患概念の変遷、新たな診断アルゴリズムや分類法の登場、治療デバイスの進歩、患者背景にある生活習慣病管理やその治療薬の進歩などを踏まえた大幅な改訂となっている。第86回日本循環器学会学術集会(3月11~13日)で、末梢動脈疾患ガイドライン作成の合同研究班班長である東 信良氏(旭川医科大学外科学講座血管外科学分野)が、ガイドライン改訂のポイント、とくに第4章「慢性下肢動脈閉塞(下肢閉塞性動脈硬化症)」について重点的に解説した。末梢動脈疾患ガイドラインでは下肢閉塞性動脈疾患をLEADと区別 末梢動脈疾患ガイドラインで扱う末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease:PAD)は、冠動脈以外の末梢動脈である四肢動脈、頸動脈、腹部内臓動脈、腎動脈、および大動脈の閉塞性疾患を指す。同じくPADと称されている上下肢閉塞性動脈疾患(Peripheral Artery Disease:PAD)との混同を避けるため、末梢動脈疾患ガイドラインでは、下肢閉塞性動脈疾患についてはLEAD、上肢閉塞性動脈疾患についてはUEADと称し、区別している。 末梢動脈疾患ガイドラインは全20章で構成されており、各章・各節の冒頭で、診療の基本となるエッセンスや最も伝えたい概念を「ステートメント」として紹介している。また、Practical Question:PQとして、12個の臨床的話題を取り上げ、実臨床でいまだ明確な方針が示されていない臨床的課題について解説している。 PADの中で最も多くかつ重要な疾患がLEADである。LEADのリスクファクターや背景疾患の管理については、心血管イベントのリスクが高く、動脈硬化の4大因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙の管理が基本となる。末梢動脈疾患ガイドラインでは、とくに脂質異常症について厳しい管理を推奨している。本邦では、腎不全・透析もLEAD発症の独立した危険因子として非常に頻度が高いため、今回の末梢動脈疾患ガイドラインより新たに追加された。LEADの抗血栓療法については、前回のガイドラインに記載されていた抗血小板療法に加え、DOACの登場によって抗凝固療法の項目が新たに追加された。末梢動脈疾患ガイドラインではLEADの症候別アプローチを記載 LEADは、症状や虚血の程度により治療方針が大きく変化する。そのため、末梢動脈疾患ガイドラインでは、無症候性LEAD、間歇性跛行、包括的高度慢性下肢虚血(Chronic Limb-Threatening Ischemia:CLTI)の3つに分類し、診断・治療の症候別アプローチを記載している。【無症候性LEAD】・無症候性LEADは、総じて下肢の予後が良好であるが、潜在的重症下肢虚血が一部含まれるため注意が必要である。下肢動脈病変の予防的血行再建術を行うべきではない(推奨クラスIII Harm)としている。【間歇性跛行】・間歇性跛行を訴える患者には、鑑別診断も兼ねた詳細な問診と身体診察を行う。下肢虚血の程度や間歇性跛行の機序を総合的に判断することが重要になる。病変評価には足関節上腕血圧比(ABI)の測定を行い、安静時のABIに異常を認めない場合は運動後のABI測定も推奨されている。・間歇性跛行の治療について、血行再建の要否は、日常生活で歩行機能の改善を見込めるか、運動を制限する合併疾患(狭心症、心不全、慢性呼吸器障害、筋骨格系の制限や神経障害など)の有無を評価したうえで決定する。保存的治療が優先され、末梢動脈疾患ガイドラインではとくに、運動療法の推奨が詳細に記載されている。・動脈硬化リスクファクターの是正、薬物療法、運動療法の検討を実施していない間歇性跛行患者には血行再建術は推奨されない。しかし、必要であれば次のとおり血行再建術を施行する。大動脈腸骨動脈領域はEVTを第1選択とする。総大腿動脈病変は血栓内膜摘除を第1選択とする。大腿膝窩動脈病変領域は、25cm未満の短~中区域病変はEVT、長区域病変は外科的血行再建を第1選択とする。膝下動脈病変領域では、EVTは推奨されない(推奨クラスIII No benefit)、同様に、人工血管による大腿-下腿動脈バイパスも行うべきではない(推奨クラスIII Harm)としている。【CLTI】・包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)は、下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染などの肢切断リスクがあり、治療介入が必要な下肢を総称する概念だ。これまでは、「重症下肢虚血(Critical Limb Ischemia:CLI)」という用語が使われていたが、背景にある生活習慣病、とくに糖尿病や腎不全の増加といった疾病構造の変化から、高度虚血だけでなく、感染等が原因で肢切断になることもありうるため、近年の実臨床を反映したCLTIという用語が使われている。・CLTIの治療方針を決定する際は、全身のリスク評価、WIfI分類での局所評価、解剖学的評価の3点について、PLANコンセプトに基づくアルゴリズムで総合的に検討する。CLTIへの血行再建を施行する際は、全身リスクと創傷範囲の評価が重要だ。血行再建の推奨は次のとおり。総大腿動脈病変は血栓内膜摘除術を第1選択とする。下腿足部動脈病変は、2年以上の生命予後が期待され、使用可能な自家静脈がある場合は、自家静脈バイパスを行うとしている。・末梢動脈疾患ガイドラインの今回の改訂で、創傷治癒、リハビリテーション、大切断、血行再建術後の薬物療法、血行再建術後の予後と二次予防といった項目が新たに追加された。末梢動脈疾患ガイドラインに動脈硬化症以外のさまざまな疾患 末梢動脈疾患ガイドラインの第6~19章には、動脈硬化症以外の原因によるPADについて、診断や治療に関する解説がなされている。東氏は「欧米のガイドラインではあまり記載されていないものも多く含んでおり、PADには動脈硬化症以外のさまざまな病因・疾患が潜んでいることを今一度振り返っていただき、治療法を誤らないためにも、ぜひ参考にしていただきたい」と、末梢動脈疾患ガイドラインの第4章以外の章の重要性についても強調。 PADは、冠動脈疾患や脳血管疾患に比べてはるかに国民の認知度が低く、予防や早期発見が遅れている。そのため、一般市民への啓発を目的として、末梢動脈疾患ガイドラインには第20章「市民・患者への情報提供」が、今回の改訂で新たに設けられた。本章では、とくに生活習慣病に伴うLEADを中心に概説している。 東氏は、今回の末梢動脈疾患ガイドライン改訂の要点として「主軸は欧米のガイドラインと呼応するように改訂したが、本邦のエビデンスをより多く取り入れ、実情に合う治療方針を目指した。本ガイドラインの英語版も作成中で、とくに民族性や文化が似ているアジア諸国の診断に役立つことを期待している」と発表を締めくくった。

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片頭痛に対する抗CGRP抗体の有効性と安全性~メタ解析

 片頭痛治療に対するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とした抗CGRP抗体の有効性および安全性を評価するため、中国・The First Affiliated Hospital of Wannan Medical CollageのTingting Huang氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Brain and Behavior誌オンライン版2022年3月8日号の報告。 各データベース(PubMed、Embase、Cochrane Library、Chinese National Knowledge Infrastructure、WanFang Dataなど)より、片頭痛治療薬である抗CGRP抗体の2021年3月までのランダム化比較試験(RCT)を検索した。スクリーニング後、試験の方法論的質を評価した。メタ解析には、RevMan 5.3 softwareを用いた。 主な結果は以下のとおり。・26件のRCTより、2万1,736例が抽出された。・抗CGRP抗体群1万3,635例および対照群8,101例が含まれた。・メタ解析では、抗CGRP抗体は、対照群と比較し、以下のアウトカム指標で有意な効果と関連していることが示唆された。 ●1ヵ月当たりの平均頭痛日数がベースラインから50%以上低下した患者数(RR:1.50、95%CI:1.39~1.62、p<0.00001) ●抗CGRP抗体投与2時間後での無痛患者の割合(RR:1.98、95%CI:1.77~2.20、p<0.00001) ●投与後2~24時間における無痛持続患者の割合(RR:2.18、95%CI:1.93~2.46、p<0.00001)・抗CGRP抗体群における有害事象は、対照群と比較し、有意に多かった(RR:1.08、95%CI:1.04~1.12、p<0.0001)。 著者らは「抗CGRP抗体は、片頭痛治療において非常に有効であるが、有害事象には注意が必要である。本メタ解析には、研究の量や質に関する制限が含まれているため、より質の高い研究により、内容が検証されるべきであろう」としている。

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無症状の濃厚接触者、「抗原検査が陰性なら出勤」は正しい?

 家庭内感染により自身が濃厚接触者になっても、医療者は抗原検査で陰性が確認されているなどの一定の要件を満たせば出勤することができる1)。ところが抗原検査キットには、有症状の患者データを基に承認されている物2)3)もある。また、海外では無症状者のみを対象にスクリーニングすると感度や特異性が低いとの評判も抗原検査キットにはある。そこで、米国・Weill Cornell MedicineのBradley A. Connor氏らはニューヨークのある企業の従業員をスクリーニングし、無症状者のPCR検査と抗原検査の結果の有効性と推定精度を比較・分析した。その結果、従業員スクリーニングのプログラム参加者に抗原検査を繰り返した場合、新型コロナウイルスのPCR検査で真陽性と判定される推定精度が38%から92%に増加したことが示唆された。JAMA Network Open誌3月18日号のリサーチレターでの報告。無症状者の抗原検査キット、1回目陽性で2回目陰性だった人の95%はPCR陰性 この後ろ向き研究では2020年11月27日~2021年10月21日の期間、訓練を受けた担当者が参加者の中鼻甲介検体をスワブで採取し、抗原検査キットとしてQuidel社のSofia2 SARS Antigen Fluorescent Immunoassay(陽性一致率[PPA]:96.7%、陰性一致率[NPA]:100%)とAbbott 社のLumiraDx(PPA:97.6%、NPA:96.6%)、およびAbbott 社のBinaxNOW(PPA:84.6%、NPA:98.5%)を使用して検査を行った。ただし、新型コロナウイルス感染症の主要な症状をいずれかでも有する者はスクリーニングから除外された。 また、抗原検査結果が陽性だった場合には、最初の検査結果から1時間以内に2回目の抗原検査用に鼻咽頭スワブ検体を提供した。さらに鼻咽頭スワブ検体は、確認用RT-qPCR検査のために、CLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments)認定された検査機関にも送られた。推定精度として、PCR検査も陽性だった2回目の抗原検査陽性の割合を算出した。 無症状者の抗原検査の有効性と推定精度を比較・分析した主な結果は以下のとおり。・抗原検査を受け、分析に含まれたのは17万9,127例で、年齢中央値は36歳(範囲:18~65歳)、男性が58%、女性が36%、6%が性別不明だった。・2020年11月~2021年10月に実施された抗原検査の陽性率は0.35%(623例)で、彼らをPCR検査したところ、38%(238例)が真陽性、62%(385例)が偽陽性だった。・抗原検査の陽性者623例のうち569例(91%)では2回目の抗原検査が行われた。一致した結果が得られた224セット(異なる2つの抗原検査で連続して陽性結果を得た)のうち、PCR検査で陽性だったのは207セット(92%)だった。・最初の抗原検査が陽性で、2回目の抗原検査が陰性だった345例のうち328例(95%)はPCR検査で陰性だった。・2回目の抗原検査の全体的な推定精度は94%だった。

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妊婦への新型コロナワクチン、胎児への悪影響なし/JAMA

 妊娠中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの接種は、非接種者と比べて有害妊娠アウトカムのリスク増大と有意に関連しないことが示された。ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのMaria C. Magnus氏らが、スウェーデンとノルウェーの妊婦約16万人を対象に行った、後ろ向きコホート試験の結果を報告した。結果について著者は「ワクチン接種の大多数は、妊娠第2~3期にmRNAワクチンを使用して行われており、今回の調査結果で考慮すべき点である」と述べている。妊娠中の新型コロナワクチンの安全性に関するデータは限定的であった。JAMA誌オンライン版2022年3月24日号掲載の報告。スウェーデン10万人超、ノルウェー5万人超を対象に試験 研究グループはスウェーデンとノルウェーでレジストリベースの後ろ向きコホート試験を行い、妊娠中の新型コロナワクチン接種後の有害妊娠アウトカムのリスクを調べた。被験者は、スウェーデンで2021年1月1日~2022年1月12日に、またノルウェーで2021年1月1日~2022年1月15日に、妊娠22週以降で単胎児を出産した妊婦15万7,521人(スウェーデン:10万3,409人、ノルウェー:5万4,112人)。 Pregnancy Register in SwedenとMedical Birth Registry of Norwayを、ワクチン接種およびその他のレジストリと結びつけ、ワクチン接種情報や被験者背景に関する情報を入手し解析した。mRNAワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製])および1バイアルベクターワクチン(AZD1222[AstraZeneca製])に関するデータは、全国ワクチンレジストリから得た。 主要評価項目は、早産と死産リスクで、妊娠日齢やワクチン接種(時間依存性曝露)を変数に用いたCox回帰モデルを用いて評価し、低出生体重児、アプガー指数低スコア、新生児入院のリスクは、ロジスティック回帰分析で評価。ランダム効果モデルメタ解析で、2国間の結果を統合した。妊娠中COVID-19ワクチン接種率は18% 被験者の分娩時平均年齢は31歳だった。妊娠中に新型コロナワクチンを接種したのは2万8,506人(18%)で、うちBNT162b2が12.9%、mRNA-1273が4.8%、AZD1222が0.3%だった。接種時期の内訳は、妊娠第1期が0.7%、第2期が8.3%、第3期が9.1%だった。 妊娠中の新型コロナワクチン接種は、早産(非接種群6.2/1万妊娠日vs.接種群4.9/1万妊娠日、補正後ハザード比[aHR]:0.98[95%信頼区間[CI]:0.91~1.05]、I2=0%、異質性のp=0.60)、死産(2.1 vs.2.4/10万妊娠日、aHR:0.86[95%CI:0.63~1.17])、低出生体重児(7.8% vs.8.5%、群間差:-0.6%[95%CI:-1.3~0.2]、補正後オッズ比[aOR]:0.97[95%CI:0.90~1.04])、アプガー指数低スコア(1.5% vs.1.6%、群間差:-0.05%[95%CI:-0.3~0.1]、aOR:0.97[95%CI:0.87~1.08])、新生児入院(8.5% vs.8.5%、群間差:0.003%[95%CI:-0.9~0.9]、aOR:0.97[95%CI:0.86~1.10])の有害妊娠アウトカムについて、いずれもリスク増大との有意な関連は認められなかった。

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過去のものとは言わせない~SU薬の底力~【令和時代の糖尿病診療】第6回

第6回 過去のものとは言わせない~SU薬の底力~最近、新薬に押されてめっきりと処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなど罵詈雑言を並べ立てられ、以前はあれほど活躍していたのにもかかわらず、いまや悪者扱いされている。私が研修医のころは、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、加えて経口薬とインスリンの併用などはご法度だった時代である。同じような時代を生きてきた先生方にこのコラムを読んでいただけるか不安だが、今回はSU薬をテーマに熟年パワーを披露してみたい。最近の若手医師はこの薬剤をほとんど使用しなくなり、臨床的な手応えを知らないケースも多いだろう。ぜひ、つまらない記事と思わずに読んでいただきたい。もしかしたら考え方が変わるかもしれない。SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたというユニークな経緯を持つ。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドである。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進する。血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されている。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンスが最も良好な薬剤かと思われる。まずはこの一例を見ていただきたい。75歳男性。罹病歴29年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症および肺非結核性抗酸菌症。三大合併症は認めていない。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。そこで主治医は、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまった。症例:血糖コントロール(HbA1c)および体重の推移この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したケースである。このような症例に出くわすことは、同世代の先生方には十分理解してもらえるだろう。いわゆる「由緒正しき日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低い患者である。これを読んでも、あえてSU薬を使う必要があるのかという反論もあろう。新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要だが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきているではないか。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすい。確かにそのとおりなのだが、エビデンスでいうとSU薬も負けてはいないのだ。次に説明する。最近の報告も踏まえたSU薬のエビデンス手前みそにはなるが、まずはわれわれの報告1)から紹介させていただく。2型糖尿病患者における経口血糖降下薬の左室心筋重量への影響画像を拡大するネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だった(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られている。このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させた2)。これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられる。また、Talip E. Eroglu氏らのReal-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、Tina K. Schramm氏らのnationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もある。過去のものとは言わせない~SU薬の底力~以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについても注目すべきだろう。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されている。結論として、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だと理解できたかと思う。また、私見ではあるが、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考える。おまけに、とても安価である。決してお払い箱の薬剤ではないことも付け加えさせていただく!1)Ida S, et al. Cardiovasc Diabetol. 2018;17:129.2)Ida S, et al. Journal of Diabetes Research & Clinical Metabolism. 2018;7:1. doi:10.7243/2050-0866-7-1.3)Eroglu TE, et al. Br J Clin Pharmacol. 2021;87:3588-3598.4)Schramm TK, et al. Eur Heart J. 2011;32:1900-1908.

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FDAがFGFR阻害薬futibatinibを胆管がんの優先審査に指定/大鵬薬品

 大鵬薬品とその米国子会社のTaiho Oncologyは、2022年3月30日、前治療歴を有するFGFR2遺伝子再構成(融合遺伝子を含む)を伴う進行胆管がんを対象とした共有結合型FGFR阻害薬futibatinib(TAS-120)の新薬承認申請を、米国食品医薬品局(FDA)が優先審査指定で受理したと発表。 米国における同剤の申請は、FGFR2遺伝子融合またはその他の再構成を有する切除不能な局所進行・転移肝内胆管がん患者103例を対象とした第IIb相試験であるFOENIX-CCA2試験データに基づくもの。 胆管がん(肝内、肝外含む)は、米国では毎年約8,000例が新たに診断され、全世界では10万人あたり0.3~6人が胆管がんに罹患している。主に65歳以上に多く、治療選択肢は限られており、10~16%に腫瘍特異的に発現しハイブリッド遺伝子を形成するFGFR2遺伝子再構成(融合遺伝子を含む)が認められる。 futibatinibは、FGFR1、2、3、4を不可逆的かつ選択的に阻害する経口チロシンキナーゼ阻害薬である。FGFR1-4のATP結合部位に結合し、シグナル伝達経路を阻害することで腫瘍細胞の増殖を抑制し細胞死を誘導する。胆管がん治療薬として、2018年5月にFDAのオーファンドラッグ指定を、また2021年4月に前治療歴を有するFGFR2遺伝子再構成を伴う進行胆管がんに対するブレイクスルーセラピー指定を受けていた。

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医学生の燃え尽きとアイデンティティの関連/BMJ

 医学生が経験する不当な扱いは、燃え尽き症候群(burnout)と関連することが指摘されている。米国・イェール大学公衆衛生大学院のBethelehem G. Teshome氏らは、医学生のアイデンティティの複数の側面(性・人種/民族・性的指向)を考慮して、その不当な扱いや差別との関連を検討し、複数の周縁化されたアイデンティティを持つ医学生は、在学中に不当な扱いや差別を受けることが多く、それが燃え尽き症候群と関連する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2022年3月22日号に掲載された。米国の3万人の学生の後ろ向きコホート研究 研究グループは、学部教育における医学生への不当な扱い、燃え尽き症候群、複数の周縁化されたアイデンティティの関連を評価する目的で、横断的調査と後ろ向きコホート研究を行った(米国国立一般医科学研究所[NIGMS]などの助成を受けた)。 対象は、米国医学校協会(AAMC)の認定を受けた米国の140の医学校を、2016年と2017年に卒業した3万651人であった。 歴史的に周縁化されたアイデンティティの個々の組み合わせに基づいて、自己申告による性、人種/民族、性的指向の違いによるグループ別の検討が行われた。多変量線形回帰モデルを用い、Oldenburg Burnout Inventory for Medical Students(16項目)で評価された燃え尽き症候群の2つのディメンション(疲労、離脱)に関して、不当な扱いと差別を考慮しつつ、固有のアイデンティティを持つグループと燃え尽き症候群との関連が解析された。不当な扱いと差別は、LGBの非白人女性で最も多い 3つの周縁化されたアイデンティティ(女性、非白人、レスビアン/ゲイ/バイセクシュアル[LGB])を持つ学生で、複数の種類の不当な扱いを繰り返し経験したとの回答(299人中88人[29.3%]、p<0.001)および複数の種類の差別を繰り返し経験したとの回答(299人中92人[30.6%]、p<0.001)の割合が最も高かったのに対し、異性愛の白人男性の学生では前者が7.8%、後者は1.8%といずれも最も低かった。 また、疲労は、周縁化されたアイデンティティの数が増えるほど平均スコアが高くなった。さらに、LGBの非白人女性は、異性愛の白人男性と比較した場合の不当な扱いや差別による疲労の平均スコアの差が最も大きかった(補正後平均差:1.96、95%信頼区間[CI]:1.47~2.44)。 不当な扱いや差別は、すべてのアイデンティティ・グループで疲労の程度を高めたが、個々のアイデンティティ・グループと燃え尽き症候群との関連を完全に説明することはできなかった。 一方、離脱の平均スコアは、不当な扱いや差別により、非白人の学生は白人の学生に比べて高く(補正後平均差:0.28、95%CI:0.19~0.37)、LGBの学生は異性愛の学生よりも高かった(0.73、0.52~0.94)。対照的に、女性の学生は、他の周縁化されたアイデンティティの有無にかかわらず、離脱の平均スコアが低かった(例:男性と比較した女性の補正後平均差:-0.76[95%CI:-0.85~-0.68]、異性愛の白人男性と比較した異性愛の非白人女性の補正後平均差:-0.41[-0.54~-0.29]など)。 女性の学生で不当な扱いと差別の補正を行うと、女性の学生における効果が大きくなったことから、負の交絡との関連性が示唆された。 著者は、「これらの知見は、周縁化されたアイデンティティに対する不当な扱いや差別が燃え尽き症候群の発現に一定の影響を及ぼしている可能性を示唆する。また、アイデンティティの一面にのみ注目すると、複数の周縁化されたアイデンティティを持つ学生が学習環境で経験する被害の程度を過小評価する可能性も示された」とまとめている。

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第106回 非オピオイド鎮痛薬の臨床試験で有望な効果あり

効果は間違いないものの呼吸抑制等の副作用や依存が厄介なオピオイドの代わりとなりうる経口薬が第II相試験2つで有望な急性痛治療効果を示し、承認申請前の大詰めの第III相試験に進むことが決まりました1,2)。第II相試験の1つは外反母趾手術、もう1つは腹部脂肪切除(腹壁形成)手術の患者を募って実施され、米国マサチューセッツ州ボストン拠点バイオテックVertex Pharmaceuticals社の経口薬VX-548高用量の術後痛治療効果がどちらの試験でもプラセボを有意に上回りました。効果は上々で副作用は大したことなく、オピオイドの代わりを見つける試みにはそれら試験の成功で大いに前進したとUniversity College Londonの神経生物学専門家John Wood氏は言っています2)。痛みに携わる神経細胞表面にあり、それら神経細胞に電気信号を放たせるナトリウム(Na)チャネルの研究を背景にVX-548は誕生しました。VX-548はそれらNaチャネルの1つNav1.8を選択的に阻害します。Nav1.8は全身の神経から脊髄への痛み信号の受け渡しに不可欠で、その働き過ぎは痛みをより発生させます。たとえばNav1.8を過活動にする遺伝子変異がある人は傷を負わずとも痛みを被りうることが10年ほど前の研究で判明しています3)。しかしNav1.8や他のNaチャネルNav1.7に限った阻害の鎮痛の実現は困難でした。困難の1つはそれらの構造が心臓、筋肉、脳の機能を担う他のNaチャネルとよく似ていることに端を発します。安全を期すにはそれら臓器の働きに不可欠なNaチャネルにちょっかいを出さすことなく目当てのNaチャネルのみを相手する化合物を仕立てる必要があります。Nav1.8だけを阻害する化合物の実現の困難さはVertex社のこれまでの開発の道のりからも見て取れます。Vertex社にとってVX-548は4度目の正直のようなもので、先立つ3つのNaV1.8阻害薬が臨床開発の道半ばで倒れています。その1つVX-150は3つの第II相試験で好成績を収めたにもかかわらず第III相試験に進んでいません。必要な用量が多すぎて実用には不向きというのがその開発頓挫の一因です。Vertex社はもっと働きが良い化合物を求め、とうとう今回の第II相試験2つの成功に漕ぎ着けました。その1つには外反母趾手術患者274人が参加し、VX-548、プラセボ、オピオイド(ヒドロコドン)含有薬のいずれかの投与群に割り振られ、VX-548高用量投与群の48時間の痛さがプラセボ群に比べて有意に少なく済みました。腹壁形成手術患者303人が参加したもう1つの第II相試験でもVX-548高用量は同様にプラセボに勝りました。VX-548高用量群の痛み減少はヒドロコドン含有薬群も見た目上回りましたが、今回の試験は取るに足る比較ができるほど大規模ではありませんでした2)。VX-548の低用量と中用量の効果は残念ながらプラセボを上回りませんでした。外反母趾手術患者が参加した第II相試験ではVX-548の用量が多いほど有効という傾向はなく、気がかりなことにVX-548中用量の効果はVX-548低用量もプラセボも一見下回っていました1,4)。ともあれVertex社は高用量の効果が認められたことで良しとし、重篤な有害事象は幸いにして生じず中~高用量群の患者の脱落がプラセボやヒドロコドン投与群より少なくて済んだVX-548の急な痛みの治療効果を調べる第III相試験を間もなく今年後半に始めるつもりです。糖尿病性神経障害の痛みや炎症による痛みなどの複雑な事態を含む慢性痛へのVX-548の効果は未知数です。しかし幸先が良いことに神経障害の幾つかや炎症性の痛みでVX-548の標的Nav1.8が重責を担うことがすでに分かっています2)。参考1)Vertex Announces Statistically Significant and Clinically Meaningful Results From Two Phase 2 Proof-of-Concept Studies of VX-548 for the Treatment of Acute Pain / BUSINESS WIRE2)Non-opioid pain pill shows promise in clinical trials / Science3)Gain-of-function Nav1.8 mutations in painful neuropathy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Nov 204)Vertex claims success with its fourth shot at acute pain / Evaluate

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lecanemabの最新知見をアルツハイマー・パーキンソン病学会で発表/バイオジェン

 エーザイ株式会社とバイオジェン・インクは、早期アルツハイマー病(AD)の治療薬として開発中の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabに関する最新の知見を、3月15日から20日までスペイン・バルセロナおよびバーチャルで開催された「第16回アルツハイマー・パーキンソン病学会(International Conference on Alzheimer’s and Parkinson’s Diseases:AD/PDTM 2022)のシンポジウム「ADにおけるAβ標的治療法2」で発表した。lecanemabをaducanumabとgantenerumabの特許を基に作製した抗体と比較 lecanemabに関する最新の知見の主な発表内容は以下の通り。・lecanemabの結合プロファイルを調べた結果では、aducanumabとgantenerumabの特許に記載された配列を基に作製した抗体と比較して、lecanemabはAβに対し最も強力な結合力を示し、プロトフィブリルに対して高い親和性を示した。・早期ADを対象としたlecanemab臨床IIb相試験(201試験)および非盲検長期投与試験(OLE試験)より、lecanemabの最も有効な用量として10mg/kg biweekly投与を決定した。・201試験より、lecanemab投与後18ヵ月後のアミロイドPET SUVrと血漿Aβ42/40比、血漿P-Tau181のベースラインからの変化量に相関が認められた。・早期ADにおけるlecanemabの臨床効果と安全性を最適に検証する臨床第III相Clarity AD試験を設計し、グローバルで1,795例の被験者登録を完了した。主要評価データは2022年の秋に取得が予定されている。・プレクリニカルADを対象とした臨床第III相AHEAD 3-45試験に関して、2022年3月の時点で2,900例以上のスクリーニングが行われ、287例が登録された。 lecanemabは、米国食品医薬品局(FDA)から2021年6月にBreakthrough Therapy、12月にFast Trackの指定を受けている。また、2022年3月、日本においてlecanemabの早期承認取得を目指し、医薬品事前評価相談制度に基づいて独立行政法人医薬医療機器総合機構(PMDA)に対して申請データの提出を開始した。

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REAL-CADサブ解析で日本人の2次予防に最適なLDL-C値が明らかに/日本循環器学会

 LDLコレステロール(LDL-C)値について、“The lower, the better(低ければ低いほど良い)”という考え方があるが、日本人の冠動脈疾患(CAD)患者には必ずしも当てはまらないかもしれない。今回、日本人の安定CAD患者における最適なLDL-C目標値を検討すべく、REAL-CADの新たなサブ解析を行った結果を、第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11~13日)で佐久間 理吏氏(獨協医科大学病院 心臓・血管内科/循環器内科)が発表した。REAL-CADサブ解析により“The lower, The better”がアジア人で初めて検証 REAL-CADは、2010年1月31日~2013年3月31日に登録された20~80歳の日本人安定CAD患者の男女1万1,105例を対象に、ピタバスタチンによる積極的脂質低下療法と通常療法を比較したランダム化試験。ピタバスタチン1mg/日を1ヵ月以上服用するrun-in期間後、LDL-C値120mg/dL未満の参加者をピタバスタチン1mg群と4mg群に1:1でランダム化し、6ヵ月後のLDL-C値と5年間の心血管アウトカムを評価した。1次エンドポイントは、心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、緊急入院を要する不安定狭心症のいずれか)の発生。REAL-CAD試験により、ピタバスタチン4mg投与による積極的治療のイベント抑制効果が認められ、アジア人において“The lower, The better”が検証された初のエビデンスとなった。 今回のREAL-CADの新たなサブ解析では、欧米人に比べて日本人の安定CAD患者は心血管リスクが低く、心血管イベント発生率も低いことを踏まえ、LDL-C値をそれ以上下げても心血管イベントの発症に影響しない最適な目標値、すなわち「閾値」の調査が行われた。今回のREAL-CADサブ解析では、人為的な閾値(LDL-C:0mg/dL)を共変量に含めた多変量Coxモデルを用いて、ハザード比(HR)が一定とされるLDL-C値の閾値を40~100mg/dLまで10mg/dL刻みで設定して分析を行い、モデルの適合性を対数尤度で評価した。 REAL-CADサブ解析で“The lower, The better”を検証した主な結果は以下のとおり。・ベースラインの年齢中央値は68.1±8.3歳、男性が82.8%、65歳以上が67.7%を占めた。・平均LDL-C値は、ベースラインで87.8±18.8mg/dL、6ヵ月後で81.1±21.6mg/dL(ベースラインから-6.6±19.1mg/dL)だった。・1次エンドポイント(心血管イベントの複合発生率)では、LDL-Cの閾値を70mg/dLと設定したときモデルの適合度が最も良好であった。このモデルにおいて、LDL-Cが10mg/dL増加した場合の調整HRは1.07(95%信頼区間:1.01~1.13)だった。・上記モデルによって標準化された1次エンドポイントの5年リスクは、LDL-C値が70mg/dLに低下するまでは単調に減少し、それ以下になるとLDL-C値とは無関係に減少することが明らかになった。 日本人の安定CAD患者において、心血管イベントの2次予防のためにスタチンを投与する場合、LDL-Cの閾値は70mg/dLが適切である可能性が示された。佐久間氏は「本結果は、新しい脂質低下戦略を提供するかもしれない」と発表を締めくくった。

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オミクロン株への感染で他の変異株への感染を防げるか/NEJM

 新型コロナウイルスにおけるオミクロン株感染後の中和抗体プロファイルについては、ほとんどわかってない。オーストリア・Medical University of InnsbruckのAnnika Rossler氏らは、オミクロンBA.1株に感染した人の回復後の血清サンプルについて6つの変異株に対する中和抗体価を分析し、他の株への感染歴やワクチン接種歴別に検討した。その結果、オミクロンBA.1株にのみ感染したワクチン未接種者は、オミクロンBA.1株以外の株による感染を予防できない可能性があることが示唆された。NEJM誌オンライン版2022年3月23日号のCORRESPONDENCEに掲載。オミクロン株のみの感染後は他の株に対する中和抗体がほとんど含まれていなかった 本研究は後ろ向き研究で、BA.1株に感染しPCR検査陽性となった日の5〜42日後に血清サンプルを採取。BA.1株に感染する前に、他の新型コロナ感染歴なしのワクチン接種者(15例)、他の新型コロナ感染歴なしのワクチン未接種者(18例)、野生株またはアルファ株またはデルタ株への感染歴ありのワクチン接種者(11例)、野生株またはアルファ株またはデルタ株への感染歴ありのワクチン未接種者(15例)の4群で検討した。野生株、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロンBA.1株に対する中和抗体価を分析した。 オミクロン株感染後の中和抗体価を分析した主な結果は以下のとおり。・オミクロンBA.1株に感染したワクチン接種者と、オミクロンBA.1株感染前に野生株またはアルファ株またはデルタ株に感染歴のあるワクチン接種者またはワクチン未接種者において、すべての株に対する中和抗体価が高かった。・ワクチン接種者でのオミクロンBA.1株に対する中和抗体価の平均は、他の株に対する中和抗体価の平均より低かったが、オミクロンBA.1株感染前に野生株またはアルファ株またはデルタ株への感染歴のあるワクチン未接種者での他の株に対する中和抗体価の平均と同等だった。・オミクロンBA.1株感染前に新型コロナ感染歴のないワクチン未接種者から得られた血清サンプルでは、大部分がオミクロンBA.1株に対する中和抗体で、他の株に対する中和抗体はほとんど含まれていなかった。 著者らは、「本研究にはサンプル数の少なさ、後ろ向き研究といった限界はあるが、オミクロンBA.1株が強力に免疫を回避し、他の株との交差反応性がほとんどないという仮説を支持している。したがって、ワクチン未接種で、以前の株の感染歴がなくオミクロンBA.1株にのみ感染した人は、オミクロンBA.1株以外の株による感染を十分に予防できない可能性があり、完全に予防するにはワクチン接種が必要」と考察している。

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後ろ向きコホート研究による薬剤間の効果の差の比較は疑問ですね(解説:後藤信哉氏)

 筆者は全症例をカバーする大規模な臨床データベースの構築に価値があると考える(日本の保健医療データベースも経済データでなく臨床データベースとして使用するのがよい)。本研究は米国の公的保険Medicareと2つの私的保険のデータベースである。抗凝固薬を90日以上処方されていた静脈血栓症6万4,642例のデータベースには価値がある。単純に6万4,642例を記述する研究であれば、「90日以上抗凝固薬を服用している静脈血栓症のリスク因子、治療、予後の実態」論文として価値のある研究であったと思う。残念ながら、本研究ではリスク因子と予後をアピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンに分けて解析してしまっている。個別の医師におけるこれらの薬剤の選択バイアスはいかなる統計方法を用いても調整できないと思う。 いわゆるDOACは猛烈に宣伝されているが、米国の実臨床では6万4,642例中4万3,007例がワルファリン治療を受けていた。Table 1ではアピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリン服用例のbaseline characteristicsが記載されている。一見して大きな差異はない。薬剤選択を規定した因子はやはり個別の医師と患者の判断なのだと思う。90日以上抗凝固薬を服用している静脈血栓症の症例では死亡、血栓・出血による入院・死亡のリスクが最も高く、いずれの薬剤服用下でも年率5%程度である。静脈血栓症の再発率は1%前後と低いが、薬剤間に差異があったと強調されている。私が論文を書くとなれば「90日以上抗凝固薬を服用している静脈血栓症ではワルファリン使用者が多く、いずれの抗血栓薬を使用した場合でも死亡リスクが高い」ことを結論とする。しかし、本論文ではアピキサバン使用例における静脈血栓症発症の低さが強調されている。本研究は製薬企業の直接のスポンサーではない。研究資金はPatient-centered outcomes research institute由来であった。PCORIのホームページを読んでも筆者には実態はわからなかった。 若手の読者がいたらベン・ゴールドエイカー著『悪の製薬―製薬業界と新薬開発がわたしたちにしていること』を勧めたい。資本主義の国にて、巨大資本の影響力は計り知れない。論文を読むときには中身を十分に読んで、数値データに基づいて自ら考えることを勧めたい。

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aducanumabの第III相試験結果に関する査読付き論文を発表/バイオジェン

 バイオジェン・インクは2022年3月16日、The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease(JPAD)誌が、早期アルツハイマー病治療薬であるaducanumab(米国での商品名:Aduhelm)点滴静注100mg/mLについて、第III相EMERGE/ENGAGE試験の詳細データに関する査読付き論文を掲載したことを発表した。このaducanumabの論文には臨床試験における主要、副次、3次評価項目をはじめ、安全性情報およびバイオマーカーに関するサブ試験の結果が含まれる。aducanumab、EMERGE試験の高用量投与群で臨床症状悪化を有意に抑制 EMERGE/ENGAGE試験は50~85歳までの軽度認知障害あるいは軽度認知症の患者を対象に実施され、最終的にEMERGE試験では1,638人、ENGAGE試験では1,647人の患者のデータを用いてaducanumabについて試験結果が解析された。EMERGE/ENGAGE試験の主要評価項目にはClinical Dementia Rating-Sum of Boxes(CDR-SB)、副次評価項目にはMini-Mental State Examination (MMSE)、Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale-13 items(ADAS-Cog13)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living Inventory-Mild Cognitive Impairment(ADCS-ADL-MCI)、3次評価項目にはNeuropsychiatric Inventory-10(NPI-10)が設定された。 aducanumabは、ENGAGE試験においては主要評価項目を達成しなかったが、EMERGE試験においては高用量投与群において78週でのベースラインからのCDR-SBスコア変化量が-0.39であり、プラセボ投与群と比較して臨床症状悪化を統計学的に有意に抑制した(22%抑制、p=0.012)。副次評価項目についても、aducanumabの高用量投与群ではプラセボ投与群と比較して、MMSEが18%抑制(p=0.049)、ADAS-Cog13が27%抑制(p=0.01)、ADCS-ADL-MCIが40%抑制(p<0.001)と、それぞれ抑制傾向を示した。また、aducanumabは3次評価項目であるNPI-10もプラセボ投与群と比較して87%抑制した(p=0.022)。さらに、EMERGE試験とENGAGE試験の両方において、aducanumab投与群ではプラセボ投与群と比較して、アルツハイマー病のバイオマーカーとされる血漿中のリン酸化タウを用量および時間依存的に有意に低下させた。両試験において最も多くみられたaducanumabの有害事象はアミロイド関連画像異常(ARIA-E(浮腫))であった。 論文の著者の一人である、南カリフォルニア大学Alzheimer’s Therapeutic Research InstituteのPaul Aisen氏は、「これらデータの査読付き論文が発表されたことは、サイエンス領域ならびにアルツハイマー病コミュニティにとってこの知見が重要であることを示している。アルツハイマー病はきわめて複雑な病態であり、これら一連のデータが第III相試験結果への理解を促進するために非常に重要である」とコメントしている。

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ICU入室COVID-19重篤例、抗血小板療法は有効か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重篤例では、抗血小板薬による治療はこれを使用しない場合と比較して、集中治療室(ICU)で呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けない生存日数が延長される可能性は低く、生存退院例の割合も改善されないことが、英国・ブリストル大学のCharlotte A. Bradbury氏らREMAP-CAP Writing Committee for the REMAP-CAP Investigatorsが実施した「REMAP-CAP試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2022年3月22日号で報告された。8ヵ国105施設の適応プラットフォーム試験 本研究は、重度の肺炎患者における最良の治療法を確立するために、複数の介入を反復的に検証する適応プラットフォーム試験で、COVID-19患者ではこれまでにコルチコステロイド、抗凝固薬、抗ウイルス薬、IL-6受容体拮抗薬、回復期患者血漿の研究結果が報告されており、今回は抗血小板療法の有用性について検討が行われた(欧州連合のPlatform for European Preparedness Against[Re-]Emerging Epidemics[PREPARE]などの助成を受けた)。 この試験では、2020年10月30日~2021年6月23日の期間に8ヵ国105施設で患者の登録が行われ、90日間追跡された(最終追跡終了日2021年7月26日)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的にCOVID-19が疑われるか微生物学的に確定され、ICUに入室して呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けている患者であった。呼吸器系臓器補助は侵襲的または非侵襲的な機械的人工換気の導入、心血管系臓器補助は昇圧薬または強心薬の投与と定義された。 被験者は、非盲検下にアスピリン、P2Y12阻害薬、抗血小板療法なし(対照群)の3つの群に無作為に割り付けられた。標準治療として抗凝固薬による血栓予防療法が施行され、これとの併用で最長14日間、院内での介入が行われた。 主要エンドポイントは、21日間における臓器補助不要期間(ICUで呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けない生存日数)とされた。院内死亡を-1、臓器補助なしでの21日間の生存を22とし、この範囲内で評価が行われた。主解析では、累積ロジスティックモデルのベイズ解析が用いられ、オッズ比が1を超える場合に改善と判定された。無益性により患者登録は中止に アスピリン群とP2Y12阻害薬群は、適応解析で事前に規定された同等性の基準を満たし、次の段階の解析のために抗血小板薬群として統計学的に統合された。また、事前に規定された無益性による中止基準を満たしたため、2021年6月24日、本試験の患者登録は中止された。 全体で1,549例(年齢中央値57歳、女性521例[33.6%])が登録され、アスピリン群に565例、P2Y12阻害薬群に455例、対照群に529例が割り付けられた。 臓器補助不要期間中央値は、抗血小板薬群および対照群ともに7(IQR:-1~16)であった。抗血小板薬群の対照群に対する有効性の補正オッズ比中央値は1.02(95%信用区間[CrI]:0.86~1.23)で、無益性の事後確率は95.7%であり、無益性が確認された(オッズ比が1.2未満となる無益性の事後確率が、95%を超える場合に無益性ありと判定)。また、生存例における臓器補助不要期間中央値は、両群とも14だった。 生存退院患者の割合は、抗血小板薬群が71.5%(723/1,011例)、対照群は67.9%(354/521例)であった。補正後オッズ比中央値は1.27(95%CrI:0.99~1.62)、補正後絶対群間差は5%(95%CrI:-0.2~9.5)で、有効性の事後確率は97%であり、有効性は示されなかった(オッズ比が1を超える有効性の事後確率が、99%を超える場合に有効性ありと判定)。 大出血は、抗血小板薬群が2.1%、対照群は0.4%で発生した。補正後オッズ比は2.97(95%CrI:1.23~8.28)、補正後絶対リスク増加は0.8%(95%CrI:0.1~2.7)で、有害性の事後確率は99.4%であった。 著者は、「抗血小板薬は、臓器補助不要期間に関して無益性が確認されたが、生存退院を改善する確率は97%で、死亡を5%低減し、90日間の解析では生存を改善する確率は99.7%であった。本試験に参加した8ヵ国では、抗血小板薬は安価で広範に入手可能で、投与も容易であることから、世界規模での適用が可能かもしれない」と考察している。

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うつ病の早期寛解の予測因子

 抗うつ薬による治療反応は、患者ごとに大きく異なり、治療前に予測することは困難である。NTT西日本九州健康管理センタの阿竹 聖和氏らは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)およびミルタザピンの治療反応と相関するサイトカイン、これらサイトカインが各抗うつ薬治療による寛解の予測因子となりうるかについて、調査を行った。The World Journal of Biological Psychiatry誌オンライン版2022年3月9日号の報告。 抗うつ薬治療前の患者95例を対象に、酵素結合免疫吸着測定法を用いて、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン(IL)-1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の分析を行った。うつ症状の評価は、ハミルトンうつ病評価尺度を用いて4週間調査した。 主な結果は以下のとおり。・SSRI治療群では、非寛解者よりも寛解者において、ベースライン時のGM-CSFレベルが有意に高かった(p=0.022)。・ミルタザピン治療群では、非寛解者よりも寛解者において、ベースライン時のTNF-αレベルが有意に高く(p=0.39)、IL-2レベルは有意に低かった(p=0.32)。・ミルタザピン治療群では、ROC曲線で算出されたTNF-α(10.035 pg/mL)およびIL-2(1.170 pg/mL)のカットオフ値が寛解率を予測する因子であることが示唆され、寛解率はそれぞれ31.3%から60.0%および50.0%に増加することが推定された。・SSRI治療群では、GM-CSF(0.205 pg/mL)をカットオフ値として用いることで、寛解率が37.0%から70%と約2倍に増加することが推定された。 著者らは「抗うつ薬治療前のTNF-α、IL-2、GM-CSFの血漿濃度は、SSRIまたはミルタザピンによる寛解率を予測する因子である可能性が示唆された」としている。

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乳がん検診10年の偽陽性リスク、乳房トモシンセシスvs.デジタルマンモグラフィ

 デジタル乳房トモシンセシスによる乳がん検診は、デジタルマンモグラフィより偽陽性率が低い可能性がある。米国・カリフォルニア大学デービス校のThao-Quyen H. Ho氏らは、デジタル乳房トモシンセシスまたはデジタルマンモグラフィによる10年間の検診で、偽陽性の累積リスクを推定した結果、デジタル乳房トモシンセシスのほうが低く、また、モダリティの違いよりも隔年検診・高齢・非高濃度乳房が偽陽性率の大幅な低下と関連することが示された。JAMA Network Open誌2022年3月1日号に掲載。 本研究は、Breast Cancer Surveillance Consortiumの126の放射線施設において、2005年1月1日~2018年12月31日に前向きに収集したデータを用いた効果比較研究で、40~79歳の90万3,495人の結果を2021年2月9日から9月7日まで分析。乳がん診断と死亡の競合リスクを考慮し、年1回もしくは隔年でデジタル乳房トモシンセシスまたはデジタルマンモグラフィで10年間検診後、追加画像診断・短い間隔での経過観察の推奨・生検の推奨について1回以上の偽陽性リコールの累積リスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・90万3,495人の女性における296万9,055回の検診(初回検診を除く)の画像を、放射線科医699人が読影した。・検診時の平均年齢(SD)は57.6(9.9)歳、60歳未満での検診が58%、高濃度乳房は46%、トモシンセシスでの検診が15%だった。・年1回の検診では、10年間における1回以上の偽陽性の累積確率はデジタルマンモグラフィに比べトモシンセシスで有意に低かった。全リコールは49.6% vs.56.3%(差:-6.7、95%CI:-7.4~-6.1)、短い間隔での経過観察の推奨で16.6% vs.17.8%(差:-1.1、95%CI:-1.7~-0.6)、生検の推奨で11.2% xs.11.7%(差:-0.5、95%CI:-1.0~-0.1)だった。・隔年の検診でも、偽陽性の累積確率は、デジタルマンモグラフィに比べトモシンセシスで有意に低かった(35.7% vs.38.1%、差:-2.4、95%CI:-3.4~-1.5)が、短い間隔での経過観察の推奨(10.3% vs.10.5%、差:-0.1、95%CI:-0.7~0.5)、生検の推奨(6.6% vs.6.7%、差:-0.1、95%CI:-0.5~0.4)では有意な差はなかった。・デジタルマンモグラフィに対するトモシンセシスでの偽陽性の累積確率の減少は、年1回検診した非高濃度乳房の女性で最も大きかった。・モダリティにかかわらず、偽陽性の累積確率は、年1回の検診より隔年の検診、年齢が若い患者より高い患者、extremely dense breastの女性よりentirely fattyの女性で大幅に低かった。

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NK1受容体拮抗型制吐薬ホスネツピタント承認 /大鵬薬品

 大鵬薬品とヘルシングループは、2022年3月28日、NK1受容体拮抗型制吐薬ホスネツピタント(製品名:アロカリス)について、抗悪性腫瘍薬(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む)の効能・効果で製造販売承認を取得した。NK1受容体拮抗型制吐薬ホスネツピタント、ホスアプレピタントとの有効性を比較 化学療法に伴い発現する悪心・ 嘔吐は、患者のQOLに負の影響をおよぼし、化学療法の施行を妨げる原因となる。ガイドラインでも積極的な予防対策が推奨されている。  今回のNK1受容体拮抗型制吐薬ホスネツピタントの承認は、高度催吐性抗悪性腫瘍薬(シスプラチン)投与患者を対象に、パロノセトロンおよびデキサメタゾン併用下で、NK1受容体拮抗型制吐薬ホスネツピタントとホスアプレピタントの有効性および安全性を比較した第III相試験(CONSOLE6) の結果に基づいたもの。本試験成績は、Journal of Clinical Oncology に掲載された。

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医療従事者への4回目接種、その効果は?/NEJM

 イスラエルの医療従事者を対象に、3回目接種から4ヵ月後にファイザー製およびモデルナ製の新型コロナワクチンを投与した結果、4回目接種後の中和抗体価は投与前の9~10倍に増加した。一方で3回目接種後のピーク反応との比較から、著者らはmRNAワクチンの免疫原性は3回の接種で最大となる可能性が示唆されたとしている。イスラエル・Sheba Medical CenterのGili Regev-Yochay氏らによる非盲検非無作為化臨床試験の結果が、NEJM誌オンライン版2022年3月16日号のCORRESPONDENCEに掲載された。医療従事者への4回目接種による効果、感染予防より発症予防のほうがより高い Sheba HCW COVID-19コホートに登録された適格な医療従事者1,250人のうち、154人が3回目接種から4ヵ月後にBNT162b2(ファイザー製)の4回目の投与を受け、その1週間後に120人がmRNA-1273(モデルナ製)を投与された。それぞれの参加者について、残りの参加者の中から年齢をマッチさせた2人の対照者が選定された。 研究期間はBNT162b2投与群が2021年12月27日~2022年1月30日、mRNA-1273投与群が2022年1月5日~2022年1月30日。同期間は感染率が極めて高く、毎週PCR検査による綿密なアクティブサーベイランスが行われていたため、ポアソン回帰モデルによりワクチンの有効性も評価された。期間中分離された株の100%がオミクロン株であった。 医療従事者への4回目接種の効果を研究した主な結果は以下のとおり。・BNT162b2投与群の平均年齢は59.0(30~85)歳、mRNA-1273投与群の平均年齢は55.1(29~87)歳だった。・医療従事者への4回目接種後、どちらのmRNAワクチンもSARS-CoV-2受容体結合ドメインに対するIgG抗体を誘導し、中和抗体価が上昇した。・4回目接種後の各測定値は9~10倍に増加し、3回目の投与後に達成された抗体価よりもわずかに高くなり、2つのワクチン間に有意差はなかった。・両ワクチンとも、オミクロン株およびその他のウイルス株(デルタ株、野生株)に対する中和能が約10倍に増加し、3回目の投与後の反応と同様であった。・4回目接種後、多くの接種者で軽度の全身および局所症状が報告されたものの、実質的な有害事象の報告はなかった。・試験期間中、対照群では25.0%がオミクロン株に感染していたのに対し、4回目接種のBNT162b2群では18.3%、mRNA-1273群では20.7%だった。・SARS-CoV-2感染に対する4回目接種によるワクチン有効性は、BNT162b2では30%(95%信頼区間[CI]:-9~55)、mRNA-1273では11%(95%CI:-43~44)だった。・感染した医療従事者の多くは、対照群、介入群ともに、ごく軽度の症状を訴えた。しかし多くは、比較的高いウイルス量(Ct値≤25)を有していた。・また、4回目接種によるワクチンの効果は発症予防効果のほうがより高いと推定された(BNT162b2群で43%、mRNA-1273群で31%)。 著者らは、本データは4回目のmRNAワクチン接種が、免疫原性、安全性、およびある程度の有効性(主に症候性疾患に対して)を有することを示すとした一方、4回目接種による初期反応と3回目接種によるピーク反応を比較したところ、体液性反応やオミクロン特異的中和抗体のレベルには大きな違いは見られなかった。 これらの結果から、mRNAワクチンの免疫原性は3回の接種で最大になり、4回目の接種で抗体レベルが回復する可能性が示唆されたとし、医療従事者の感染に対するワクチン有効性は低く、ウイルス量が比較的多いことから、感染者が感染能を有することがわかった。高齢者や脆弱な集団に対する評価は行われていないが、健康な若い医療従事者への4回目のワクチン接種は、わずかな利益しか得られない可能性があるとしている。

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J&J製ワクチン、第III相試験で重症化・死亡に対する有効性確認/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のAd26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson製)単回接種は、ベータ変異株およびデルタ変異株のいずれにおいても重症COVID-19およびワクチン接種後のCOVID-19関連死に対して有効であることが認められた。南アフリカ共和国・Desmond Tutu HIV CentreのLinda-Gail Bekker氏らが、医療従事者を対象とした単群非盲検第IIIB相試験「Sisonke試験」の結果を報告した。Lancet誌2022年3月19日号掲載の報告。南アフリカ共和国の医療従事者約48万人で検証 研究グループは、南アフリカ共和国の18歳以上の医療従事者を全国のワクチン接種会場122施設のいずれかに招待し、Ad26.COV2.Sワクチン(ウイルス粒子量5×1010)単回接種を実施した。ワクチンの有効性を評価するため、2つの大規模な医療保険組織またはマネジドケア組織(Discovery Healthが管理する医療制度[A]と、Government Employees Medical SchemeおよびMedSchemeが管理する医療制度[B])の個人データを用い、ワクチン接種済みの医療従事者を一般集団のワクチン未接種者とマッチングさせた。 主要評価項目は、一般集団と比較した重症COVID-19(COVID-19関連の入院、救命救急または集中治療を必要とする入院、死亡と定義)に対するワクチンの有効性で、ワクチン接種またはマッチングから28日以降のデータカットオフ日まで評価した。 2021年2月17日~5月17日の期間に、医療従事者47万7,102例が登録されワクチン接種を受けた。女性が35万7,401例(74.9%)、男性が11万9,701例(25.1%)、年齢中央値42歳(IQR:33.0~51.0)であった。このうちワクチン接種者21万5,813例を、ワクチン未接種者21万5,813例とマッチングし分析した。COVID-19関連死の予防効果は83%、COVID-19関連入院の予防効果は67% データカットオフ日(2021年7月17日)時点で、マッチングされた全コホートにおけるワクチンの有効性は、COVID-19関連死の予防が83%(95%信頼区間[CI]:75~89)、救命救急または集中治療を必要とするCOVID-19関連入院の予防が75%(69~82)、COVID-19関連入院の予防が67%(62~71)であった。 3つの評価項目に対するワクチンの有効性は、A制度とB制度で一貫していた。また、ワクチンの有効性は、高齢の医療従事者やHIV感染症を含む併存疾患を有する医療従事者においても維持されていた。 本試験の期間中にベータ変異株(B.1.351)、その後、デルタ変異株(B.1.617.2)が流行したが、ワクチンの有効性は一貫しており、全コホートのCOVID-19関連入院に対する有効性はベータ変異株流行中で62%(95%CI:42~76)、デルタ変異株流行中で67%(62~71)、COVID-19関連死に対する有効性は、ベータ変異株流行中で86%(57~100)、デルタ変異株流行中で82%(74~89)であった。

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心毒性リスク、どんな薬剤に注意している?―アンケート結果(中編)【見落とさない!がんの心毒性】第10回

今回は、腫瘍科医の皆さまへ心毒性に関し注意している(困っている)薬剤について、がん種別にご紹介いたします。しかし、腫瘍科医の皆さま以上にお困りなのは循環器科医の皆さまではないでしょうか。日々進歩し増加する抗がん剤において、それぞれ異なる機序により出現する心毒性へ対応するための情報を集めて整理することは、循環器科医にとって最も頭の痛い問題の一つとなっているからです。さらに、最近のトピックとして臓器横断的な治療薬の登場が挙げられます。これらの心毒性へ対応するためには、ゲノム関連も含め複数の関連する科の協力と参加が必要となっています(こちらは、次回[後編]でご紹介する予定です)。CareNet.comにて行ったアンケートの結果画像を拡大する(表1)上記を基に向井氏が作成画像を拡大する心毒性は、多くのがん治療、そしてほとんどの抗がん剤で出現すると言っても過言ではありません。(表2)に主ながん治療に伴う循環器合併症[心毒性]を示します。(表2)主ながん治療に伴う循環器合併症[心毒性]画像を拡大するこの結果では、読者の皆さまが注意している薬剤として、“細胞障害性抗がん剤”が第一に挙げられています。使用頻度から言ってもやはりという結果で、前編のアントラサイクリン系抗がん剤に加え、シクロフォスファミド、タキサン系、プラチナ製剤などは重要な薬剤ですが、これらの心毒性のエビデンスはすでに確立しており、多くのガイドラインにも記載されています。ところが、実臨床での対応は決して十分とは言えない状況のようです。次に、分子標的薬、多標的チロシンキナーゼ阻害薬による頻度が高くなっています。第4回VEGFR -TKIの心毒性(草場 仁志氏・森山 祥平氏)で解説した血管新生阻害薬が心毒性の中心的存在となっています。血管新生阻害薬の心毒性には、用量依存性と時間依存性が認められており、一旦出現すると急速に進展し重篤化することが多いため、その対応には、腫瘍科医のみならず循環器科医の早期からの参加が必要と考えられています。(表3)血管新生阻害薬の投与用量/時間による血管毒性の変化画像を拡大するこのように分子標的薬は、細胞障害性抗がん剤による従来の化学療法とは大きく異なる心毒性、とくに血管毒性、腎毒性などが出現しやすく、腫瘍科医の皆さまが手強い合併症を多く経験する傾向にあるのが特徴です。また、近年開発された分子標的薬において不整脈毒性を認める薬剤が増加しています。中でもQT延長に伴う致死的不整脈や心房細動などの重篤な不整脈の管理には循環器科医の協力が必須となっています。しかしながら、これらの新しい標的に対する薬剤での心毒性発症の機序には不明な点が多く、その対応に苦慮することが少なくありません。さらに、循環器疾患に大きく影響する糖尿病などを含む代謝毒性は、免疫チェックポイント阻害薬の内分泌系irAEに加えmTOR阻害薬やPI3K阻害薬など代謝系に作用する抗がん剤を投与する際に、脂質異常症などと合わせて注意が必要です。その他、第6回新治療が心臓にやさしいとは限らない(大倉 裕二氏)で解説したように、がん治療では多種多様の薬剤が併用投与されており、支持療法に用いられる薬剤も含めそれぞれ心毒性が存在しており、添付文書に記載してある「警告」に対しては十分な注意が必要です。QT時間は心電図により容易に反復した計測が可能であり、古くから心毒性の有無を判断する指標として、CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events、有害事象共通用語規準)にも用いられてまいりました。しかし、実臨床で実際のQT時間延長の意義、QTc時間(心拍数補正)などについて、不安を抱えていらっしゃる腫瘍科医はどのくらいおられるでしょうか。この点を正しく理解いただき不安を払拭してもらうためにも、ぜひとも第二部(症例編)で取り上げ解説したいと思います。講師紹介

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