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双極性障害患者の重篤気分調節症とは

 青年期双極性障害集団における重篤気分調節症の表現型(disruptive mood dysregulation disorder phenotype:DMDDP)の有病率や相関について、カナダ・トロント大学のRachel H B Mitchell氏らが調査を行った。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2016年2月4日号の報告。 DMDD基準を変更し、3次医療機関から得られた116例(BD-I:30例、BD-II:46例、非BD者:40例)で検討を行った。診断には、Kiddie Schedule for Affective Disorders and Schizophrenia for School-Aged Children, Present and Lifetime version(KSADS-PL)を用いた。DSM-5のDMDD基準A~Gは、KSADS反抗挑戦性障害(ODD)スクリーニング質問と補足資料、および記録の要旨により導き出した。必要に応じてカイ二乗分析またはt検定を実施し、続いてロジスティック回帰分析を行った。p値は、false discovery rate(FDR)法を用いて調整した。 主な結果は以下のとおり。・ODD補足データの不足により、8例でDMDDP基準を判定できなかった。・残りの25%(108例中27例)は、DMDDP基準を満たした。・DMDDPは、BDのサブタイプまたはBDの家族歴とは関連しなかった。・年齢、性別、人種で調整後の単変量解析では、DMDDPは、機能レベルの低下、家族との衝突の増加、暴行の既往、注意欠如多動症(ADHD)と関連していた(FDR調整後p値はそれぞれ、p<0.0001、p<0.0001、p=0.007、p=0.007)。・生涯物質使用障害と薬物の使用は、有意性がボーダーライン上であった(調整後p=0.05)。・ロジスティック回帰分析では、DMDDPは家族との衝突に関する親からのより多い報告(OR 1.17、CI:1.06~1.30、p=0.001)、機能障害(OR 0.89、CI:0.82~0.97、p=0.006)との独立した関連が認められた。・DMDDPは、ADHDにおいて3倍増と関連していたが、有意差はわずかであった(OR 3.3、CI:0.98~10.94、p=0.05)。 結果を踏まえ、著者らは「DMDDはBDとは表現型、生物学的に異なるにもかかわらず、臨床現場では一般的に重なる。この重なりは、非BDまたは非家族性BDでは説明されない。本研究において、DMDDPとADHDとの関連から、覚醒症状をもともと述べられている重篤気分調節症の表現型としてとどめるべきかどうかという疑問が生じた。この併存疾患の過剰な機能障害を緩和させる戦略が必要である」とまとめている。関連医療ニュース 双極性障害と強迫症、併存率が高い患者の特徴 うつ病と双極性障害を見分けるポイントは 双極性障害患者の約半数が不安障害を併存

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各認知症と尿酸との関連を分析

 血清尿酸(sUA)レベルと認知障害および認知症は関連しうる。この関連性は、認知症のサブタイプによってさまざまで、とくに脳血管性認知症(VaD)とアルツハイマー病(AD)やパーキンソン病関連認知症(PDD)との間では異なる。英国・グラスゴー大学のAamir A Khan氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、sUAと認知障害および認知症との関連についてのすべての公開データを統合することを目的とし、検討を行った。Age (Dordrecht, Netherlands)誌2016年2月号(オンライン版2016年1月28日号)の報告。 検討には、sUAと任意の認知機能測定または認知症の臨床診断との関連を評価した研究が含まれた。AD、VaD、PDD、軽度認知障害(MCI)および混合型または未分化の患者によるサブグループ分析を事前に定義した。許可が得られたデータについて、バイアスリスクと一般化可能性を検討し、研究全般における関連性のプールされた基準を評価するため、メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・4,811件中、46件(1万6,688例)が選択基準を満たした。・対照と比較して、認知症の患者ではsUAが低かった(SDM:-0.33 [95%CI])。・AD(SDM:0.33[95%CI])とPDD(SDM:-0.67 [95%CI])では、認知症サブタイプとの関連性が明確に認められたがが、混合型(SDM:0.19 [95%CI])とVaD(SDM:-0.05 [95%CI])では認められなかった。・Mini-Mental State Examination(MMSE)とsUAレベルとの関連性は、PDD患者(summary r:0.16、p=0.003)を除き、関連が認められなかった(summary r:0.08、p=0.27)。 結果を踏まえ、著者らは「本結論は、臨床的な不均一性と試験のバイアスリスクにより限定的である」としたうえで、「sUAと認知症および認知障害との関連は、すべての認知症グループで一貫しているわけではなく、とくにVaD患者では他のサブタイプと異なる場合がある」とまとめている。関連医療ニュース レビー小体型認知症、認知機能と脳萎縮の関連:大阪市立大学 レビー小体型認知症、パーキンソン診断に有用な方法は 抗認知症薬は何ヵ月効果が持続するか:国内長期大規模研究

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Vol. 4 No. 3 巻頭座談会 脂質管理の今を整理する  循環器医に必要な知識はなにか?

宮内 克己 氏順天堂大学大学院 医学研究科循環器内科森野 禎浩 氏岩手医科大学 内科学講座循環器内科分野2013年秋にACC/AHAが発表したコレステロール管理ガイドラインは、臨床現場に大きな議論をもたらした。LDLコレステロールの治療目標はどうあるべきか?treat to targetか? fire and forgetか?the lower, the betterの解釈は?最近のエビデンスも踏まえ、現時点の脂質管理のあり方を整理する。LDL-C高値による心血管疾患の発症リスク森野: 冠動脈疾患患者の2次予防において、脂質管理は重要な課題です。1989年に初のスタチン、2000年にストロングスタチンが登場したことで、われわれの脂質管理は大きく変化しました。一方、スタチンで抑制できない残存リスクも明らかとなり、新しい脂質異常症治療薬の開発も進んでいます。本誌の読者はすでに脂質管理について十分な知識をおもちと思いますが、そのうえで脂質管理をどう行うべきかについて、オピニオンリーダーとして多くのエビデンスを発信されている宮内先生にお話をうかがいながら、知識を深めていきたいと思います。宮内先生、よろしくお願いいたします。はじめにLDLコレステロール(LDL-C)に関する研究や考え方についてまとめていただけますでしょうか。宮内: LDL-Cが高ければ予後が悪く、下げれば予後が改善するというLDL-C仮説は、もともと高LDL-C血症が心筋梗塞のリスクであるという疫学研究、家族性高コレステロール血症(FH)では早発性の心筋梗塞が認められるという臨床的観察、動物にコレステロールを負荷すると粥状硬化が認められるという実験の3つが根拠となっています。ここでもう一度、近年の研究について見直してみます。疫学研究については、20代男子大学生約1,000人を30~40年追跡した米国の調査で、総コレステロール高値が心血管イベントに関与することが1993年に報告されました1)。この研究で注目されるのは、追跡後15~20年以降にイベント発現の差がみられ始めた点です。つまり、コレステロール高値が何年つづいているかの“積分”が重要であることを意味しています。このことは、家族性高コレステロール血症をみるとよくわかると思います。未治療の場合、非FHの脂質異常症では55歳で累積LDL-Cが心血管イベント発症閾値に達するのに対し、ヘテロ接合体FHでは35歳、ホモ接合体FHでは12.5歳で到達すると推定されています2)。日本の疫学調査としては、心血管疾患の既往歴のない一般住民を22年間追跡したCIRCS研究において、冠動脈疾患発症リスクが有意に増加するLDL-Cの閾値は80mg/dLであることが示されています3)。LDL-Cはthe lower, the better宮内: 次に、これまでのスタチンを用いた介入試験の結果をまとめると、2次予防も1次予防もイベント減少はLDL-C低下と相関していることは明らかです(図)4,5)。2次予防は70mg/dL、1次予防は100mg/dLまでのエビデンスが構築されています。CTT(Cholesterol Treatment Trialists')の2010年のメタ解析では、介入前のLDL-Cにかかわらずスタチンは心血管イベンの相対リスクを22%減少させることが認められました6)。急性冠症候群(ACS)は発症後早期からアトルバスタチン80mgを投与することで、非投与群に比べ心血管イベントが有意に低下することもMIRACL試験で示されています7)。こうしたことから、2012年のESC/EAS(欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会)脂質異常症管理ガイドラインでは「ハイリスク患者はLDL-C 100mg/dL以下、 2次予防ハイリスク患者はLDL-C 70mg/dL以下、ACSは入院中にストロングスタチン高用量をLDL-C値に関係なく早期に使用すること」が推奨されることになったわけです。そして、2013年、ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease : ASCVD)予防のためのコレステロール管理ガイドラインを発表し、スタチンの有用性が期待できる4つの患者群を示したうえで、ASCVD患者にはストロングスタチンを高用量で使用すべきと、いわゆる“fire and forget”の概念を提唱したのです。森野: この、fire and forgetの考え方はさまざまな議論を呼びましたね。宮内: これまでの研究で、LDL-C値は70mg/dL以下にすべきことはわかってきたけれども、それをターゲットにすることは、裏を返せば70mg/dL以下は介入しなくてよいということになります。しかしそのようなエビデンス、つまりどこまで下げればリスクが最も小さくなるかというエビデンスはないわけです。一方で、スタチンによりLDL-Cを下げすぎても死亡率は増加しないというデータはあります。こうしたことから、目標値は設定しないという考え方がでてきたのだと思います。英国のコホート研究でも、急性心筋梗塞(AMI)発症後にスタチンを中止すると、AMI前後ともスタチン未使用者より予後が有意に悪いことが示されています8)。この結果は、まさにfire and forgetの重要性を示唆していると思います。森野: 日本では、既往があればLDL-Cに関係なく高用量スタチンを投与するという欧米の考え方に違和感をおもちの先生方は少なくないと思いますが、その背景をあらためて振り返ってみると理解しやすいですね。宮内: LDL-Cは“lipid-modifying treatment、the lower, the better”が世界の潮流となっています。図 LDL-C値と冠動脈疾患イベント発症率の関係画像を拡大する超ハイリスク患者ではLDL-Cが低下してもスタチン継続を森野: そうしますと、2次予防ではLDL-Cが正常値でも介入が必要ということでしょうか。宮内: 2012年のCTTメタ解析では、5年間で起きる心血管イベントリスクで5群に分けてみても、リスクに関係なくスタチンによるLDL-C低下に比例して心血管イベントが減少することが示されました9)。どの群でも、心血管イベント数の減少率は同じです。しかしよくみると、絶対数は、当然ながらリスクが高いほど大きいことがわかります。また、最近、IMPROVE-IT試験の結果が発表され、ACSによる入院10日以内のハイリスク患者はスタチン+エゼチミブでLDL-C値を約55mg/dLに低下させると、スタチンのみで約70mg/dLに低下させた場合に比べ、心血管イベントのリスクが7年間で6.4%減少と、軽度ながら有意差が認められました10)。この試験は、スタチンにスタチン以外の薬剤を併用することでさらなるLDL-C低下をめざした治療の有効性が示された点で、たいへん注目されています。ただし、どのような患者群で脂質低下によるイベント減少効果が大きかったかを層別解析でみてみると、有意差が認められたのは糖尿病群と非糖尿病群の間だけでした。つまり、ACSかつ糖尿病という超ハイリスク患者ではthe lower, the betterが証明されたということです。実際は、全体でみても今回の結果はこれまでの臨床試験で示されているLDL-C低下と心血管イベント低下の直線上に乗っており、the lower, the betterを示した点で非常に価値の高い試験といえます。また、この結果を導いたのが特に超ハイリスク患者であることに大きな意義があると思います。森野: 見事にほぼ直線ですね。日本人でも、このthe lower, the betterがあてはまるでしょうか。宮内: 傾きは違うと思いますが、ほぼ直線になるという印象はもっています。これまで日本人でハードエンドポイントをめざした大規模臨床試験はありませんでしたが、現在、慢性冠動脈疾患患者を対象に積極的脂質低下療法と通常療法を比較するREAL-CAD試験が行われており、その結果が出ればはっきりすると思います。日本人でも超ハイリスク患者はthe lower, the better森野: 実際のところ、日本人の場合、LDL-Cの管理はどうすべきとお考えですか。宮内: 日本人のエビデンスには、ESTABLISH、JAPAN-ACS、COSMOS試験などがあります。前2者がACS、後者が安定型冠動脈疾患を対象に、冠動脈プラークの進展・退縮を検討した試験ですが、いずれも日本で使用可能なストロングスタチンの最大用量によりLDL-C値は80mg/dLまで低下し、プラーク退縮が認められました。代替エンドポイントですが、プラーク退縮に依存してイベントが減少することが示されており、2次予防ではスタチンの最大用量を少なくともある一定期間は用いたほうがよいと考えています。森野: 実地医家の多くが最大用量は使っていないのが現状ですね。宮内: 日本人のエビデンスがないからだと思います。森野: JAPAN-ACSでは、糖尿病群でプラークの退縮率が悪かったという結果でしたね。宮内: はい。おっしゃるとおり、糖尿病患者も非糖尿病患者もLDL-Cの低下はほぼ同じでしたが、プラーク退縮率は13%および19%で、糖尿病群が低値でした。そこで当院では、より大きなLDL-C低下により退縮率がどうなるかを検討するため、ACS患者を対象にスタチン+エゼチミブ併用療法とスタチン単独を比較するZEUS(eZEtimibe Ultrasound Study)を行いました。IMPROVE-IT試験が発表される前のことです。結果は、LDL-Cの低下は糖尿病の有無にかかわらず併用群で大きかったのですが、プラーク退縮率は非糖尿病患者では単独群と併用群で差はなかったのに対し、糖尿病患者では併用群のほうが有意に大きいことが認められました11)。森野: ACSや糖尿病患者では、より厳格なLDL-C低下をめざすことで大きなベネフィットが得られるということですね。宮内: はい。ZEUSの結果が意味するところはIMPROVE-IT試験と同じであり、日本人でも超ハイリスク患者ではthe lower, the betterといえるのではないかと思っています。さらなるLDL-Cの低下をめざして森野: the lower, the betterということは、いったいどこまで下げればよいのでしょうか。宮内: 胎児レベルまでLDL-Cを低下させると心血管イベントを減少できるのではないかと考えられています。つまり、イベントがゼロになるLDL-Cのポイントがあって、それが胎児の値の25~29mg/dLといわれています12, 13)。そこで、LDL-Cを約30mg/dLまで低下させたらどうなるかという仮説のもと、盛んに研究が行われています。そのなかで注目されているのが、LDL-C受容体とPCSK9です。PCSK9は、周知のとおり2003年にFHの原因遺伝子として同定されたプロテアーゼで、LDL受容体と結合しこれを分解します。PCSK9があるとLDL-Cは肝臓表面のLDL受容体に結合し受容体ごと貪食されるため、LDL受容体のリサイクルが障害され血中からのLDL-C取り込みが低下、すなわちLDL-C値が増加しますが、PCSK9がないとLDL-Cのみが貪食されLDL受容体はリサイクルされて肝臓表面に戻るため血中からのLDL-C取り込みが高まり、LDL-C値が低下します。このメカニズムに着目して開発されたのがPCSK9阻害薬です。日本でも抗PCSK9モノクローナル抗体製剤の臨床開発が進んでいます。evolocumabはすでに2015年3月に承認申請がなされ、alirocumabは第III相試験を終了し、ほかにbococizumabとLY3015014はそれぞれ第II/III相および第II相試験が行われているところだと思います(CareNet.com編集部注:本記事は2015年9月発行誌より転載)。最近、evolocumabとalirocumabの長期成績が発表され、どちらもスタチンに併用することでLDL-Cを低下させ、心血管イベントを減少させることが示唆されました。この2剤の臨床試験24件、合計約1万例のメタ解析でも、全死亡、心血管死、心筋梗塞ともに約50%リスクを減少すると報告されています14)。森野: ここまでのところをまとめますと、LDL-Cの高さと持続期間の積分が重要という概念は理解しやすく、介入後もやはり10年、15年というスパンで考えなくてはならないことがよくわかりました。将来的にはストロングスタチンよりさらに強力にLDL-Cをコントロールできる時代が来ると思われますが、いまは高用量のストロングスタチンがベストセラピーであり、若年者ほどより早期に介入されるべきということですね。宮内: はい。若年といっても2次予防の患者さんは40代、30代後半になると思いますが、LDL-C値に関係なく積極的に介入すべきだと考えています。HDL-Cを増やしても心血管リスクは減らない森野: 次にHDLコレステロール(HDL-C)の話題に移りたいと思います。一般的に若年者はHDL-Cが低くLDL-Cはそれほど高くないので、薬物介入が難しいのが現状です。宮内: そうですね、特に若年者ではHDL低値が非常に影響することは事実だと思います。日本人を対象とした調査では、HDL-Cが40mg/dL以下で虚血性心疾患、脳梗塞の合併率が高いことが示されています。森野: 残存リスクとしてHDL-Cはやはり重要なのでしょうか。つまり、スタチンを十分使っていてもHDL-C低値はイベントリスクに関与するんでしょうか。宮内: その点について非常に重要な示唆を与えてくれるのが、TNT試験の事後解析です。LDL-Cで層別化した場合、70mg/dL未満であってもHDL-Cが最低5分位群は最高5分位群より心血管疾患リスクが高いことが示されました15)。やはりカットオフ40mg/dLを境に、HDLが低くなるとイベントが多くなることが明らかになっています。森野: そうすると、次のステップは介入ということになりますが、その方法はありますか。宮内: HDL-Cの増加にはコレステリルエステル転送タンパク(CETP)が重要と考えられています。簡単にいえば、HDL-CはCETPによって分解されるので、これを阻害すればHDL-Cが増え、LDL-Cを引き抜いてくれるだろうという理論になるわけです。実際、CETP阻害薬としてdalcetrapib、torcetrapib、anacetrapib、evacetrapibなどの開発が進められています。しかし残念ながら、dalcetrapibはHDL-Cが30~40%増加したものの心血管イベント抑制効果は認められず、torcetrapibもHDL-Cが増加しLDL-Cが減少したものの全死亡と心血管死が増加し、いずれも開発中止となりました。そのほか、ナイアシンやフィブラート系薬でも検討されていますが、いずれにおいても心血管イベント低下は示されていません。HDL-C低値は、確かに悪影響を及ぼしているけれども、薬物介入によってHDL-Cを増加させてもポジティブな結果は得られていない、というのが現状です。森野: CETP阻害薬の場合、HDLはmg/dLという量でみると増えていますが、働く粒子の数はむしろ減っているのではないかという議論がありますね。宮内: 賛否両論があって、現時点でははっきりした結論は出ていません。森野: LDL-Cをターゲットにして、結果としてHDL-Cが増加することがあると思いますが、それはどうなのでしょうか。宮内: 最近、スタチンやナイアシン投与によりHDL-Cが有意に増加するけれども、メタ回帰分析を行うとLDL-Cで調整したHDL-C増加はイベントリスクと関連していないことが報告されています16)。森野: ということは、スタチンで副次的にHDL-Cが増えることは意味がないと。宮内: はい。もともとその増加量は絶対値でみるとわずかですから、ポジティブな結果は出ないと思います。中性脂肪も介入の効果は確立されていない森野: 中性脂肪の管理についてはいかがでしょうか。LDL-Cと中性脂肪の両方が高い場合はどうするか、いまだに悩ましい問題です。宮内: 中性脂肪が残存リスクであることは間違いありません。当院で1984~1992年に血行再建を行った連続症例を約11年追跡したところ、試験開始時の空腹時中性脂肪値が心血管死と有意に関連しており17)、200mg/dLがカットオフであることが推察されました。実はPROVE IT-TIMI22試験の事後解析でも、LDL-C 70mg/dL未満の症例のみでは中性脂肪200mg/dL以上で200mg/dL未満よりACS後30日以内の心血管イベントリスクが有意に高いことが報告されています18)。これらの結果から、2次予防における中性脂肪のカットオフ値は200mg/dLと考えられます。ただし、介入試験のデータはほとんどないのが現状です。唯一、ポジティブな結果が得られているのは高リスク2型糖尿病患者を対象としたACCORD試験で、中性脂肪204mg/dL以上かつHDL-C 34mg/dL以下の患者のみフィブラート併用の有効性が認められました19)。森野: そうしますと、HDL-Cも中性脂肪も残存リスクとしての価値があることはわかっているけれども、薬物介入の有効性は証明できていないので、脂質管理において重要なのは、やはりスタチン高用量といえるわけですね。宮内: ええ。ただし、運動と食事療法が重要であることはいうまでもありません。脂肪酸の重要性と介入の可能性森野: 食事療法といえば、最近は脂肪酸がたいへん注目されています。現在、宮内先生が中心となり大規模介入試験も進行中ですが、その話題も含め脂肪酸に関する知見をまとめていただけますか。宮内: 脂肪酸が注目されるきっかけになったのは、全国11保健所を拠点に多くの医療機関が共同で行っている長期コホート研究(JPHC研究)です。この研究は、心血管疾患と癌の既往のない40~59歳の日本人約41,000人を1990年~2001年まで追跡したもので、魚食に由来するn-3系脂肪酸摂取が2.1g/日と多い群は、少ない群(0.3g/日)に比べCHD発症リスクが有意に低いことが示されました20)。興味深いことに、血中EPA・DHA濃度が高い方は脂質コアが小さくて線維性皮膜が厚く、プラーク破綻を生じにくい性状であることもわかってきました。また、久山町研究でも、血清EPA/AA比は心血管疾患発症や死亡の有意な危険因子であることが示されました。血清EPA/AA比はEPA摂取量に依存することから、やはりEPAを多く摂取するとイベントが少ないといえると思います。では介入したらどうなるか。動物実験では、ApoE欠損マウスに西洋食または西洋食+EPAを13週間投与すると、動脈硬化病変は後者が前者の1/3と有意に少ないことが認められました。経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した脂質異常を合併する安定狭心症またはACS患者を対象にスタチンまたはスタチン+高純度EPAを投与しプラークの性状を検討した報告では、9か月後、スタチン単独群に比べEPA併用群で線維性被膜厚の有意な増加、脂質性プラークの角度と長さの有意な減少が認められ、EPAは不安定プラークを安定化することが示されています。さらに、JELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)でも、冠動脈疾患の既往歴のある患者はスタチン+EPA併用により非併用と比べ心血管イベントが19%有意に減少することが認められ、その後の解析でも血漿EPA/AA比が高い群ほど冠動脈イベントの発症リスクは低く、1番高い群(血漿EPA/AA比1.06以上)は1番低い群(血漿EPA/AA比0.55以下)に比べ、突然心臓死または心筋梗塞の発症リスクが42%有意に低下することが示されました。これらの結果を踏まえ、現在、RESPECT-EPA試験が行われています。慢性冠動脈疾患患者約4,000例を対象に、対照群(通常治療)とEPA群(通常治療+高純度EPA製剤追加投与)にランダムに割り付けし、心血管イベント抑制効果を比較検討するもので、EPA/AA比とイベント発症との関連も検証する予定です。森野: たいへん興味深い試験で、結果が楽しみです。いまおっしゃったようなデータに基づいて考えると、魚を食べるという日本の食習慣が変化してきていることに危惧を感じますね。これは食育という学校教育の課題ではないかと常々思っています。宮内: 私も同じ意見です。教育、文化の見直しは非常に重要だと感じています。脂質管理で重要なのはー今後の課題森野: 最後に、循環器医に必要な知識としてなにかメッセージをお願いいたします。宮内: わが国における現在の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、2次予防におけるLDL-Cの管理目標値が100mg/dL未満と設定されていますが、根拠となる国内の大規模臨床試験はありませんし、しかも層別化されていないので不十分だと考えています。また、1次予防でいうところのハイリスク、すなわち糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患については特に考慮すべきと思います。これらハイリスク群は、1次予防においてLDL-C 120mg/dL未満と設定されていますが、2次予防と同じように扱い、スタチンの使用や生活習慣の改善に対する介入が大切だと思います。こうしてあらためて振り返ってみますと、繰り返しになりますが、食育をはじめとした教育の問題が重要で、今後は若い人に対してどのように啓発していくかも大きな課題といえるでしょうね。森野: 本日は「脂質管理のいまを整理する」というテーマで宮内先生とお話をしてきました。LDL-C、HDL-C、中性脂肪、そして脂肪酸と幅広くレビューしていただき、脂質管理についての知識を整理するとともに、現在のわが国における脂質管理の問題点や課題も認識できたのではないかと思います。宮内先生、ありがとうございました。文献1)Klag MJ et al. N Engl J Med 1993; 328: 313-318.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013; 34: 3478-3490a.3)Imano H et al. Prev Med 2011; 52: 381-386.4)Rosenson RS. Exp Opin Emerg Drugs 2004; 9: 269-279.5)LaRosa JC et al. N Engl J Med 2005; 352: 1425-1435.6)CTT Collaboration. Lancet 2010; 376: 1670-1681.7)Schwartz GG et al. JAMA 2001; 285: 1711-1718.8)Daskalopoulou SS et al. Eur Heart J 2008; 29: 2083-2091.9)CTT Collaboration. Lancet 2012; 380: 581-590.10)Cannon CP et al. N Engl J Med 2015; 372: 2387-2397.11)Nakajima N et al. IJC Metab Endocr & Endocrine 2014; 3: 8-13.12)清島 満ほか. 臨床病理 1988; 36: 918-922.13)Blum CB et al. J Lipid Res 1985; 26: 755-760.14)Navarese EP et al. Ann Intern Med 2015; 163: 40-51.15)Falk E et al. N Engl J Med 2007; 357: 1301-1310.16)Hourcade-Potelleret F et al. Heart 2015; 101: 847-853.17)Kasai T et al. Heart 2013; 99: 22-29.18)Miller M et al. J Am Coll Cardiol 2008; 51: 724-730.19)ACCORD Study Group. N Engl J Med 2010; 362: 1563-1574.20)Iso H et al. 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日本人統合失調症患者のMets有病率を調査:新潟大学

 統合失調症患者はメタボリックシンドローム(Mets)リスクが高いが、Mets有病率は民族間で異なる。また、Metsの誘因となる運動不足や偏食などの環境的要因は、統合失調症の入院患者と外来患者とでは異なる可能性がある。日本のメンタルヘルスケアシステムは他国とは異なるが、これまで、日本人統合失調症患者におけるMets有病率の調査はほとんどなかった。新潟大学の須貝 拓朗氏らは、入院および外来の日本人統合失調症患者におけるMetsの有病率を明らかにするため全国調査を行った。Schizophrenia research誌オンライン版2016年1月22日号の報告。 外来施設520ヵ所、入院施設247ヵ所へのアンケートにより、Metsリスクの検討を行った。対象となった統合失調症患者は外来患者7,655例、入院患者1万5,461例であった。Metsの有病率は、National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III(ATP III-A)、日本肥満学会(JASSO)の定義に基づいた。 主な結果は以下のとおり。・ATP III-Aの定義によるMets有病率は、外来患者で34.2%(男性:37.8%、女性:29.4%)、入院患者で13.0%(男性:12.3%、女性:13.9%)であった。・外来患者におけるMets有病率は、入院患者よりも約2~3倍高かった。 結果を踏まえ、著者らは「日本人統合失調症の外来患者におけるMetsの有病率は、入院患者よりも約3倍高い。このことから、外来患者と入院患者の健康特性の違いを考慮したうえで、統合失調症患者の身体疾患のリスクにもっと注意を払う必要がある」とまとめている。関連医療ニュース 日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学 非定型抗精神病薬による体重増加・脂質異常のメカニズム解明か 第二世代抗精神病薬、QT延長に及ぼす影響:新潟大学

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喫煙者のQOL低下、中枢気道虚脱が関連/JAMA

 喫煙者(元喫煙者も含む)では、呼気時の中枢気道虚脱(ECAC)が呼吸器QOLの悪化と関連していることを、米国・アラバマ大学のSurya P. Bhatt氏らが、COPDGene研究で得られた呼気・吸気CT画像を解析し、明らかにした。ECACは、呼気時に気道が50%以上狭窄する病態として定義され、気管軟骨の脆弱化や気管後壁(膜性壁)の過伸展により生じる。喫煙や慢性閉塞性肺疾患(COPD)と関連するといわれているが、ECACの有病率や臨床的意義はわかっていなかった。JAMA誌オンライン版2016年2月2日号掲載報告。喫煙者約9,000例の吸気呼気CT画像を評価、ECACと呼吸器QOLとの関連を解析 研究グループは、米国21施設で実施されている大規模多施設観察研究COPDGeneに登録された45~80歳の現喫煙者および元喫煙者(COPDと喘息以外の肺疾患を有する人は除外)計8,820例について、ベースラインの吸気呼気CT画像を解析し、基礎肺疾患とは独立してECACの存在が呼吸器QOLなどと関連しているかどうか検討した。登録期間は2008年1月~11年6月で、14年10月まで、3~6ヵ月ごとに自動通信システムによるアンケート調査にて追跡調査を行った。 ECACの評価は、まず研究者が盲検下でベースラインのCT画像から気道の短軸径(大動脈弓部、気管分岐部、中間気管支幹の3ヵ所)を測定し、吸気から呼気終末までに30%以上減少(気道断面積の50%減少に相当とみなす)している患者をECAC陽性患者とした。さらにこの陽性患者のCT画像を胸部放射線科医2人と呼吸器科医1人が評価し、ECAC患者を確定した。 主要評価項目は、ベースラインの呼吸器QOLで、疾患特異的な健康関連QOL評価尺度St George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いて評価した(SGRQスコアの範囲:0~100、臨床的に意味のある最少差[MCID]は4)。副次評価項目は、ベースラインにおける息切れ(修正MRC[mMRC]息切れスケール質問票による評価:範囲0~4、MCIDは0.7)、6分間歩行距離(American Thoracic Societyガイドラインに基づく評価:MCIDは30m)、および追跡期間中の増悪頻度(件/100人年)とした。ECACの存在と、呼吸器QOL低下および息切れの強さが有意に関連 8,820例(平均年齢59.7歳、男性56.7%、現在喫煙51.7%)中、443例でECACが確認された(有病率5.0%)。ECAC患者は非ECAC患者と比較して、ベースラインのSGRQスコアが悪かった(30.9 vs.26.5、p<0.001、絶対差:4.4、95%CI:2.2~6.6)。ベースラインのmMRCスコア(平均±SD値:1.7±1.5 vs.1.3±1.4、絶対差:0.4、95%CI:0.2~0.6、p<0.001/中央値:2.0 vs.1.0)、6分間歩行距離(399m vs.417m、絶対差:18m、95%CI:6~30、p=0.003)もECAC患者で不良であった。 年齢、性別、人種、BMI、FEV1(1秒量)、喫煙量(箱・年)、肺気腫で補正した多変量解析の結果、ECACは呼吸器QOL悪化および息切れの強さと有意に関連していた(いずれもp=0.002)。一方、6分間歩行距離低値との関連は認められなかった(p=0.30)。 追跡データが得られたのは7,456例(ECAC患者443例中413例[93%]、非ECAC患者8,377例中7,043例[84%])で、追跡期間中央値4.3年(範囲:0.2~6.7年)において、ECAC患者で非ECAC患者と比較し増悪頻度(58 vs.35件/100人年、発症率比[IRR]:1.49、95%CI:1.29~1.72、p<0.001)、および入院を要する重篤な増悪の頻度(17 vs.10件/100人年、IRR:1.83、95%CI:1.51~2.21、p<0.001)が増加した。 著者は、「喫煙者における呼気時のECACと呼吸器QOL悪化について、さらなる研究で長期的な臨床転帰との関連を評価する必要がある」とまとめている。

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肥満イコール不健康ではない

 BMIで肥満であることが必ずしも不健康であるとは言えないようだ。今回、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のA. Janet Tomiyama氏らが報告した研究によって、BMIは心血管代謝の健康と相関するものではないことが明らかになった。International Journal of Obesity誌オンライン版2016年2月4日号に掲載。 本研究では、2005~12年に米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した18歳以上の成人4万420例を対象に、血圧、トリグリセライド、コレステロール、グルコース、インスリン抵抗性、C反応性蛋白の値を用いて代謝的に健康な人と不健康な人の集団内頻度と割合を算出し、BMIにより層別化した。 結果は以下のとおり。・過体重者の約半数、肥満者の29%、さらに肥満度II~IIIの肥満者の16%が代謝的に健康であった。・正常体重者の30%超で、心血管代謝が不健康であった。・人種とBMIの有意な交互作用は見られなかったが、性別とBMIの有意な交互作用が認められた(F(4,64)=3.812、p=0.008)。

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ベーチェット病〔BD: Behcet’s disease〕

※疾患名にある「Behcet's」は「」が正しい綴りですが、WEB上では正しく表示されない場合があるため、本ページでは「Behcet's」としています。1 疾患概要■ 概念・定義ベーチェット病(BD)は、多臓器侵襲性の非肉芽腫性炎症性疾患であり、病因はいまだ不明の多因子疾患で、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍を4主病変として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする疾患である。病名の由来は、1937年、トルコのイスタンブール大学皮膚科のベーチェット教授の報告に基づく。近年、新患症例の減少と病態の軽症化が指摘されている。■ 疫学1972(昭和47)年にスモン、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)とともに最初に厚生労働省(当時は厚生省)の特定疾患の治療研究事業対象疾患として指定された。疾患の伝播経路から「シルクロード病」ともいわれる。特定疾患医療受給者数は、2万35人で(2015年3月末現在の特定疾患医療受給者数は1万9,147人)、男女比はほぼ同数だが特殊型や重症型は男性に多い。■ 病因(図1)遺伝的にはHLA-B51やHLA-A26との関連、環境因子としてS.sanguinisや熱ショック蛋白(HSP)との関連などが報告されている。近年では、IL-10、IL23R/IL12RB2のほか、ERAP-1(Endoplasmic reticulum aminopeptidase 1)、TLR-4(Toll-like receptor 4)、NOD2(Nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein 2)およびMEFV(Mediterranean fever)などの関与も報告されているが、病因はいまだ不明の多因子疾患である。近年、MEFVの関与を含め、臨床所見やコルヒチン(商品名:コルヒチン[わが国ではベーチェット病・同ぶどう膜炎に対しては未承認])に対する有効性などの類似所見から家族性地中海熱などの範疇である自己炎症症候群との関連が報告されている。画像を拡大するBDの病態は、獲得免疫および自然免疫の双方から説明される。獲得免疫では、IL-12などが関与するTh1型の免疫反応が生じることが報告されている(IL-10はTh1型の免疫反応には抑制的)。それらの過程にHLA-B51、HLA-A26などのMHCクラスⅠ遺伝子の関与が推測されているが、近年、BDにMHCに付与するペプチドをトリミングする網内系アミノぺプチダーゼ(ERAP)のSNPが疾患感受性遺伝子として報告され、BD発症におけるHLA-B51陽性との相乗効果が示唆されている。自然免疫では、臨床所見の類似性などから家族性地中海熱などの自己炎症症候群との関連が指摘されていたが、近年、家族性地中海熱の原因遺伝子MEFV M694Vが疾患感受性遺伝子であることが報告された。実際に、それらの疾患に過剰に産生される炎症性サイトカイン(IL-1、TNF)はBDの治療標的でもある。また、Toll様受容体4(TLR-4)およびヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の異常も指摘されていたが、近年の遺伝学的解析により、TLR4やNOD2も疾患感受性遺伝子として同定された。炎症性サイトカインの分子標的治療に加えて、将来、IL-10、HO-1、ERAPおよび細菌を標的とした治療の開発も期待できる。(田中良哉編. 免疫・アレルギー疾患の分子標的と治療薬事典. 羊土社; 2013. p. 230. より改変)■ 症状(図2)口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、毛嚢炎様皮疹、結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、外陰部潰瘍などの粘膜皮膚病変および虹彩毛様体炎、ぶどう膜炎などの眼病変を主病変とする。また、大関節を主とする関節炎や副睾丸炎、さらには、生命予後にも影響を与える腸管、神経、血管病変を副病変とする。画像を拡大する■ 分類(表1)口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変すべてを併せ持つ完全型、および4主病変と5副病変(関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変)の組み合わせにより、不全型(3主病変 or 2主病変+2副病変 or 眼病変+1主病変または2副病変)、疑い(主病変の一部のみ)、その他に分類される。また、副病変のうち、生命に関わるもの、あるいは後遺症を残す腸管、血管、神経病変が主病変で、不全型以上のものは特殊型として分類されている。画像を拡大する■ 予後重症の眼病変は日常生活動作を著しく障害するが、概して、特殊型を除き生命予後はよい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)BDには疾患特異的な組織像やバイオマーカーがなく、経過を通じての再発性アフタ性潰瘍炎、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変、関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変などの5副病変の臨床症状の組み合わせにより診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)(表2)病因が不明で特異的な治療法はなく、一般的な生活指導のほかに、局所療法をはじめとした対症療法が主体となる。2007年1月に世界に先駆けて保険収載(効能追加)された難治性ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ(商品名:レミケード)や、シクロスポリン(同:サンディミュンほか)および眼症状、皮膚粘膜症状、関節炎などに対するコルヒチン(未承認)は効果が認められている。消化器病変、血管病変、中枢神経病変の特殊型には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が有効な場合があるが、2013年5月、腸管BDにアダリムマブ(同:ヒュミラ)が、2015年8月には特殊型3型(腸管、血管、神経)のすべてにインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。画像を拡大する4 今後の展望近年、病態の軽症化が指摘されている。理由は不明だが、その1つとしてインフラ整備の影響が考えられる。また、BDはTh1型の疾病であるが、Th2型の疾病であるアレルギー体質の増加なども指摘されている(シーソー現象)。病因に関しては、主として自然免疫系が関与する自己炎症症候群に分類する試みがあるが、BD患者には有意にHLA-B51が多いことから、自然免疫、獲得免疫の双方の関与が示唆される。さらに、近年の遺伝子学的研究により、IL-10、IL23R/IL12RB2、ERAP-1、TLR-4、NOD2、MEFVなどの疾患感受性遺伝子が新たに発見されており、今後、それらの機能解析によりさらなる進歩が期待できる。なお、厚生労働省ベーチェット病研究班では、世界的な診断、治療の標準化を目指して、特殊型の診療ガイドライン、眼病変の診療ガイドラインを報告しているが、平成28年度をめどにCQを含む新たなガイドライン作成のために厚労省BD班を中心として検証中である。治療面では、難治性ぶどう膜炎にインフリキシマブ、腸管BDに対してアダリムマブ、特殊型(腸管、血管、神経)に対してインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。現在も、アプレミラストをはじめ、多くの臨床治験が施行中であり、さらなる治療の選択肢の増加が期待される。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、眼科、皮膚科、その他の内科(消化器内科、神経内科、血管内科、循環器内科)、外科(血管外科、消化器外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ISBD(International Society For Behcet’s Disease)(国際ベーチェット病協会の英文での疾患説明)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金 ベーチェット病に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病ドットコム ベーチェット病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ベーチェット病友の会(ベーチェット病患者と患者家族の会)NPO法人 海外たすけあいロービジョンネットワーク(眼炎症スタディーグループより改名)(眼炎症患者と患者家族の会)1)腸管ベーチェット病診療ガイドライン平成21年度案 ~コンセンサス・ステートメントに基づく~. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書.研究代表者 石ヶ坪良明). 2011 ; p.231-234.2)腸管ベーチェット病診療コンセンサス・ステートメント案(2012). ベーチェット病に関する調査研究 平成24年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2013; p.149-154.3)神経ベーチェット病の診断予備基準. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.239-234.4)ベーチェット病眼病変診療ガイドライン. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.197-226.5)Yoshiaki Ishigatsubo,editor. Behcet's Disease From Genetics to Therapies.Tokyo:Springer;2015.公開履歴初回2013年08月22日更新2016年02月16日

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若者に対する抗精神病薬、リスクを最小限にするためには

 抗精神病薬は若者に対し、非精神病や適応外での使用が増えており、心血管代謝系副作用、とくに2型糖尿病に対する懸念が問題となる。米国・ザッカーヒルサイド病院のBritta Galling氏らは、若者に対する抗精神病薬治療に伴う2型糖尿病リスクを評価した。JAMA psychiatry誌オンライン版2016年1月20日号の報告。 創設から2015年5月4日までのデータベース(PubMed、PsycINFO)より、言語制限なしで、系統的文献検索を行った。データ分析は2015年7月に実施し、追加分析を2015年11月に行った。文献の選択は、少なくとも3ヵ月間抗精神病薬を投与された2~24歳の若者における2型糖尿病発症率に関する縦断研究報告とした。2人の独立した研究者により、2型糖尿病リスクのランダム効果メタ分析とメタ回帰の研究レベルのデータを抽出した。主要評価項目は、患者年当たりの累積2型糖尿病リスクまたは2型糖尿病発症率と定義した。副次的評価項目には、抗精神病薬治療を受けていない患者(精神対照群)または健常対照群との主要評価項目の比較が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・13件の研究から、抗精神病薬を投与された若者18万5,105人、31万438人年当たりが抽出された。・患者の平均年齢は14.1歳(SD:2.1)、男性が59.5%、平均フォローアップ期間は、1.7年(SD:2.3)であった。・このうち、7件の研究は精神対照群(134万2,121人、207万1,135人年当たり)を、8件の研究は健常対照群(29万8,803人、46万3,084人年当たり)を含んでいた。・抗精神病薬を投与された若者の累積2型糖尿病リスクは1,000人当たり5.72(95%CI:3.45~9.48)、発症率は1,000人年当たり3.09(95%CI:2.35~3.82)であった。・健常対照群と比較し、抗精神病薬を投与された若者の累積2型糖尿病リスク(OR:2.58.95%CI:1.56~4.24、p<0.0001)と罹患率比(IRR:3.02、95%CI:1.71~5.35、p<0.0001)は有意に高かった。・精神対照群との比較も同様に、抗精神病薬を投与された若者の累積2型糖尿病リスク(OR:2.09.95%CI:1.50~52.90、p<0.0001)と罹患率比(IRR:1.79、95%CI:1.31~2.44、p<0.0001)は有意に高かった。・10件の研究の多変量メタ回帰分析では、より大きな累積2型糖尿病リスクは、より長いフォローアップ期間(p<0.001)、オランザピン処方(p<0.001)、男性(p=0.002)と関連していた(r2=1.00、p<0.001)。・より大きな2型糖尿病発症率は、第2世代抗精神病薬処方(p≦0.050)、より少ない自閉症スペクトラム障害の診断(p=0.048)と関連していた(r2=0.21、p=0.044)。 結果を踏まえ、著者らは「抗精神病薬を投与された若者の2型糖尿病リスクはまれだと思われるが、累積リスクや暴露調整発症率、罹患率比は、健常対照群や精神対照群よりも有意に高かった。オランザピン治療や抗精神病薬暴露期間は、抗精神病薬を投与された若者の2型糖尿病発症に対する修正可能な危険因子であった。抗精神病薬は、慎重かつできるだけ短い期間の使用にとどめるべきであり、その有効性および安全性を積極的に管理する必要がある」とまとめている。関連医療ニュース 小児に対する抗精神病薬、心臓への影響は 未治療小児患者への抗精神病薬投与、その影響は 第2世代抗精神病薬、小児患者の至適治療域を模索

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「シンバイオティクス」がアトピー性皮膚炎治療に有望

 アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患に罹患しやすい免疫環境を助長する腸内細菌叢の変化と関連している可能性があることから、アトピー性皮膚炎の予防と治療に、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスが用いられるようになってきた。台湾・国立陽明大学のYung-Sen Chang氏らによるメタ解析の結果、シンバイオティクスは、とくに混合細菌を用いた場合と1歳以上の小児に用いた場合に、治療効果が認められることを報告した。ただし、アトピー性皮膚炎の1次予防効果に関しては、さらなる研究が必要だとまとめている。JAMA Pediatrics誌オンライン版2016年1月25日号の掲載報告。 研究グループは、PubMed、MEDLINE、EMBASE、Cochran-e Central Register of Controlled TrialsおよびCAB Abstracts Archiveを用い、2015年10月15日までに発表されたアトピー性皮膚炎に対するシンバイオティクスの予防および治療効果を検討した無作為化比較試験の論文について、言語を問わず検索した。選択基準は、シンバイオティクスの経口投与による介入が行われ、アトピー性皮膚炎の疾患重症度評価(Scoring Atopic Dermatitis[SCORAD]指標)および予後評価(発症頻度)がなされているものとした。 主要評価項目は、治療効果検討試験ではSCORAD、発症予防効果検討試験ではアトピー性皮膚炎の相対リスクとした。 主な結果は以下のとおり。・検索で確認された257試験のうち、選択基準を満たした8試験(治療効果検討試験6件;0ヵ月~14歳の小児369例、予防効果検討試験2件;6ヵ月までの乳児が対象の1件と生後3日未満の新生児が対象の1件、計1,320例)を解析に組み込んだ。・治療効果については、6試験のメタ解析の結果、治療8週時のSCORAD変化量は-6.56(95%信頼区間[CI]:-11.43~-1.68、p=0.008)で、有意に低下した。・サブグループ解析の結果、有意な治療効果が認められたのは、混合細菌使用時(加重平均差:-7.32、95%CI:-13.98~-0.66、p=0.03)、および1歳以上の小児(同:-7.37、-14.66~-0.07、p=0.048)であった。・予防効果については、プラセボと比較したシンバイオティクス投与によるアトピー性皮膚炎の相対リスク比は、0.44(95%CI:0.11~1.83、p=0.26)であった。

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統合失調症、大脳皮質下領域の新発見:東京大学

 大脳辺縁系の基底神経節および基底部を含む大脳皮質下領域構造は、学習、運動制御、感情などの重要な役割を担っているだけでなく、高次の実行機能にも寄与する。これまでの研究では、統合失調症患者において、大脳皮質下領域での体積変化が報告されていた。しかし、報告された結果は、時に不均一であり、大規模研究はほとんど行われていなかった。さらに、統合失調症における大脳皮質下体積の非対称性が評価する大規模研究はほとんどなかった。そこで、東京大学の岡田 直大氏らは、ENIGMAコンソーシアムによって行われた研究と完全に独立し、統合失調症患者と健康成人の大脳皮質下体積の差を検討する大規模多施設研究を行った。また、特徴的な共通点と相違点を同定するため、大脳皮質下領域の左右差を検討した。Molecular psychiatry誌オンライン版2016年1月19日号の報告。 統合失調症患者884例、健康成人1,680例から得られたT1強調画像をFreeSurferで処理を行った(11施設、15画像プロトコル)。群間差は、各プロトコルおよびメタ分析により割り出した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健康成人より大きいことが実証された。・本研究では、ENIGMAコンソーシアムによって報告されていた統合失調症患者における大脳皮質下体積変化の効果量順を再現していた。・左右差の検討では、健康成人および統合失調症患者の両方において、視床、側脳室、尾状核、被殻で左側優位、扁桃体、海馬で右側優位であることを明らかにした。・また、淡蒼球体積については、統合失調症患者における左側優位の非対称性を実証した。・本研究結果は、統合失調症の脳内神経回路と結合パターンにおける左右差の異常が淡蒼球に関連することを示唆している。関連医療ニュース 統合失調症の同胞研究、発症と関連する脳の異常 統合失調症患者の脳ゲノムを解析:新潟大学 ドパミンD2/3受容体拮抗薬、統合失調症患者の脳白質を改善

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DPP-4阻害薬の動脈硬化抑制、インスリン治療患者でも

 順天堂大学の三田 智也氏らは、2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬(アログリプチン)投与による動脈硬化進展抑制をすでに報告している(Diabetes Care. 2016;39:139-48)。今回、同氏らは、動脈硬化が進展していると考えられるインスリン治療中の2型糖尿病患者でのDPP-4阻害薬の影響を検証するため、シタグリプチン併用による頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)への影響を評価した。その結果、シタグリプチンが通常治療に比べて頸動脈IMTの進展を抑制させることが認められた。Diabetes Care誌オンライン版2016年1月28日号に掲載。 本試験(SPIKE試験:Sitagliptin Preventive Study of Intima-Media Thickness Evaluation)は前向き、無作為化、オープン、エンドポイントブラインド、多施設、並行群間比較研究である。12施設で募集した、心血管疾患の既往がないインスリン治療下の2型糖尿病患者282例を、シタグリプチン併用群(142例)と通常治療群(140例)にランダムに割り付けた。主要アウトカムは、治療開始104週後における超音波検査による頸動脈の平均IMTと最大IMTの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・シタグリプチン併用群では、通常治療群と比較して、低血糖エピソードや体重増加を伴うことなく、より強力な血糖降下作用が認められた(-0.5±1.0% vs.-0.2±0.9%、p=0.004)。・平均IMTと左の最大IMTの変化量は、シタグリプチン併用群が通常治療群と比較し、有意に大きかった(平均IMT:-0.029 [SE 0.013] vs.0.024 [0.013]mm、p=0.005、左の最大IMT:-0.065[0.027] vs.0.022[0.026]mm、p=0.021)。右の最大IMTについては有意ではなかった(-0.007[0.031] vs. 0.027[0.031]mm、p=0.45)。・シタグリプチン併用群では、平均IMTと左の最大IMTについて、104週にわたって、ベースラインに対して有意に減少した。

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陰性症状の重症度と表情認知との関連を検証

 統合失調症の陰性症状における相手の顔の表情に関する、selective attention(脳の情報処理において、複数の刺激から特定の刺激だけを選択すること)のバイアスと事後記憶(subsequent memory)への影響を、韓国・高麗大学のSeon-Kyeong Jang氏らが評価した。Cognitive neuropsychiatry誌オンライン版2016年1月20日号の報告。 陰性症状レベルが高いまたは低い統合失調症患者30例(各15例)と健常対照者21例を対象に、ビジュアルプローブ検出法によりselective attentionバイアスを調査した(幸せ、悲しみ、怒りの表情がランダムに50、500、1000ミリ秒表示)。表情記憶課題に対する諾否を収集した。attentionバイアススコアと認識エラーを計算した。 主な結果は以下のとおり。・valence(ポジティブまたはネガティブな感情)に関係なく、表情が500ミリ秒表示されたとき、陰性症状レベルが高いと自然な表情に対して感情的な表情の認識が低下し、陰性症状レベルが低いと逆パターンが示された。・陰性症状レベルが高い患者では、健常対照者と比較し、幸せな表情に対する記憶課題の誤りがより多かった。・統合失調症患者のみにおいて、ビジュアルプローブ検出法による感情的な表情の認知減少は、喜びや意欲の少なさ、幸せな表情のより多い認識エラーと有意に相関していた。・比較的初期のアテンショナルプロセスやポジティブ記憶の減少に付随する感情的な情報へのattentionバイアスは、陰性症状による病理学的メカニズムと関連していると考えられる。関連医療ニュース 精神疾患患者の認知機能と炎症マーカーとの関連が明らかに 第1世代と第2世代抗精神病薬、認知機能への影響の違いは チェリージュースで認知機能が改善

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睡眠時無呼吸症候群、緑内障リスクを増大

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は緑内障のリスク因子であることを、中国・重慶医科大学附属第一医院のLiu Shulin氏らはメタ解析の結果、報告した。これまでの研究で、OSAが緑内障と関連していることは示唆されていたが、データ的には議論の的となっていた。著者は、「今後、OSAが緑内障に関与するメカニズムを解明するためにさらなる研究が必要である」とまとめている。Journal of Glaucoma誌2016年1月号の掲載報告。 研究グループは、PubMed、Embase、Cochrane library、Web of ScienceおよびChinese BioMedical Literature Databaseにて、2014年11月20日までに発表された論文を検索。緑内障とOSAとの関連について、オッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・コホート研究3件、症例対照研究3件、計6件の研究(228万8,701例)のデータが組み込まれた。・OSAは緑内障と有意に関連していることが認められた。・症例対照研究に関する補正後効果要約ORは2.46(95%CI:1.32~4.59、p=0.005)。・コホート研究に関する補正後効果要約ORは1.43(同:1.21~1.69、p=0.000)。・有意な出版バイアスはみられなかった。

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悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。 こうした中、中皮腫において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆され、2010年以降いくつかの試験が実施された。そこで、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬ベバシズマブの上乗せ効果について、Zalcman氏らによる本検討(第III相試験)が実施された。その結果、彼らは「循環器系の有害事象が増えるものの予想範囲内のものであり、ベバシズマブ上乗せは全生存期間(OS)を有意に改善する」とまとめている。Appendixを閲覧すると循環器系有害事象のほとんどは高血圧であった。 本研究デザインは、フランスの73病院において、18~75歳の切除不能悪性胸膜中皮腫、化学療法未治療、Eastern Cooperative Oncology Group PSスコア0~2、重大な心血管疾患の併存なし、CTで評価可能病変が少なくとも1つあり、余命12週超の症例が対象である。除外基準は、脳転移、抗血小板薬使用中、ビタミンK拮抗薬・ヘパリン・非ステロイド性抗炎症薬の投与中などであった。被験者は、ペメトレキセド+シスプラチン+ベバシズマブ投与のPCB群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与するPC群に無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで投与した。主要アウトカムはOSである。 計448例が無作為化され、PCB群223例、PC群225例、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型中皮腫81%であった。6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムであるOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。なお、PFS(無増悪生存)もPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象は、PCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%]vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。 これまで進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン療法効果は、OS中央値は約12ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値は約6ヵ月、とされていた。抗血管新生治療の上乗せ効果は期待できそうだが、それでも5年生存率は20%弱であり、さらなる検討が望まれる。また、血清VEGF値により治療効果に差が生じる可能性も示唆されており、今後、中皮腫のバイオマーカーとして活用していくことも考慮される。 悪性胸膜中皮腫の臨床試験は、現在本邦で4試験が実施されている。免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ、がん抑制遺伝子アデノウイルスベクター、シスプラチン+ペメトレキセド+Napabucasin、アネツマブ・ラブタンシン、の第I、II相試験であり、どのような結果が得られるのか注視していきたい。なお、胸膜腫瘍WHO分類は2015年に改訂され、Journal of thoracic oncology誌2016年2月号(オンライン版2015年12月22日号)1)で発表されている。

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救急の“裏”ABC【Dr. 中島の 新・徒然草】(105)

百五の段 救急の“裏”ABC遠い昔、病院で隣の席におられた救急の先生が人事異動で去っていかれました。「あの先生も去ってしまったんだなあ」残された机の周囲のガランとした空間を眺めながら感慨にふけっていると…。パーティションに1枚のメモが留めてありました。そこに書かれていたのはこんな英語です。Avoid the situation.Behind the curtain.Call another doctor.Deny your responsibility.Escape quickly.思わず苦笑い。同業者の皆さまには説明不要だと思いますが敢えて意訳してみましょう。危なそうな状況には近づくな。カーテンの後ろに隠れておけ。他のドクターも呼ぶんだ。自分の責任はとことん否定せよ。隙を見てとっとと逃げろ。ABCDEと綺麗に並べられているところを見ると、「救急の裏ABC」とも言うべき格言のようです。同僚と2人で大笑い。中島「よくできているなあ、この格言は」同僚「誰でも考えることは一緒かよ」中島「真面目にやっている奴ほど身に覚えがあるよな」同僚「このギャグはたぶん世界中で通じるぞ」中島「そういや救急の正式ABCは何やったかな?」で、思い出そうとしたのですが、正式のABCがなかなか出てきません。Airway、Breathing、Circulation 、まではすぐ出ますが、D が何だったかな?研修医の頃に Drug と学んだような気もします。調べてみると dysfunction of CNS(中枢神経機能不全)が出てきました。裏は出てくるのに、正式が出てこないとは本末転倒もはなはだしい!何に役立つかよくわからない「救急の裏ABC」ですが、諸外国のお医者さんと酒を飲むことがあったら披露してみてはいかがでしょうか?必ずウケることと思います。最後に1句ABC たまに確認 思い出せ

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抑うつ症状は認知症の予測因子となりうるのか

 抑うつ症状は、健忘型軽度認知機能障害(aMCI)においてもよく見られる症状である。抑うつ症状と認知症への転換との関連はまだ明らかになっていない。ベルギー・ブリュッセル自由大学のEllen De Roeck氏らは、aMCI患者における抑うつ症状が認知症への転換を予測するかを確認するため、縦断的研究を行った。International psychogeriatrics誌オンライン版2016年1月18日号の報告。 本研究にはaMCI患者35例が参加した。すべての参加者について、認知機能検査を行い、抑うつ症状の有無を確認するため高齢者用うつ尺度(GDS)を用いて評価した。GDSスコア11以上を、有意な抑うつ症状ありのカットオフ値とした。認知症への転換は、1.5、4、10年後のフォローアップ訪問にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・31.4%の患者は、ベースライン時に抑うつ症状が認められた。・ベースライン時のいずれの認知機能検査においても、うつ症状の有無による有意差は認められなかった。・1.5、4、10年後に認知症へ転換した患者は、それぞれ6、14、23例であった。・ベースライン時のGDSスコアは認知症への転換を予測しなかったが、認知機能検査、具体的には手がかり再生検査(記憶障害スケールを含む)は転換の良好な予測因子であった。・今回の対象者において、MCI患者における抑うつ症状は、認知症への転換を予測する因子とは言えなかった。関連医療ニュース 軽度認知障害からの進行を予測する新リスク指標 アルツハイマー病、進行前の早期発見が可能となるか 認知症、早期介入は予後改善につながるか

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大腸がんは肥満・高血圧・糖尿病と関連

 大腸新生物とアテローム性動脈硬化はどちらも内臓脂肪蓄積によって生じうる。しかし、進行期大腸がんと心血管/脳血管疾患との関連は不明である。東京大学の山地 裕氏らは、わが国における入院患者の全国データベースを用いて、肥満・代謝性疾患との関連からみた大腸がんと血管疾患との関連性を、非心臓性の胃がん患者(肥満・代謝性疾患に関連がないと考えられる)を基準として検討した。その結果、肥満と代謝性疾患は、胃がんと比べて大腸がんとの関連が強かったが、冠動脈疾患は大腸がんと逆相関していた。Digestive Diseases and Sciences誌オンライン版2016年2月1日号に掲載。 著者らは、DPC(Diagnosis Procedure Combination)データから大腸がん5万4,591例、胃がん1万9,565例の患者を同定した。本データは、性別、年齢、BMI、喫煙状況、併存疾患、薬物治療データ(高血圧、糖尿病、高脂血症、冠動脈疾患、脳卒中)を含んでおり、これらの横断的なデータを多変量解析により比較した。 主な結果は以下のとおり。・女性、BMI高値、高血圧(オッズ比[OR] 1.11、95%CI:1.07~1.15、p<0.0001)、糖尿病(OR 1.17、95%CI:1.12~1.23、p<0.0001)は、胃がんに比べて大腸がんとの関連が強いことが、多変量ロジスティック回帰分析で示された。・喫煙、アスピリン使用(OR 0.85、95%CI:0.79~0.92、p<0.0001)、冠動脈疾患(OR 0.90、95%CI:0.86~0.95、p=0.0001)は、大腸がんと逆相関していた。

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“the lower, the better”だけならば、苦労はない(解説:石上 友章 氏)-477

 降圧治療についての、Ettehad氏らのシステマティック・レビュー(SR)/メタ解析の論文1)は、米国心臓協会(AHA)学術会議での発表と同時にNew England Journal of Medicineに掲載された、“鳴り物入り”のSPRINT試験2)同様に、降圧治療における、いわゆる“the lower, the better”戦略の正当性を証明する重要な研究成果である。 本研究のように確度の高い臨床試験の結果は、ガイドラインの記述に大きな影響を与え、一国のヘルスプロモーション政策にも重大な変更をもたらしうることから、大いに注目される。この一連の研究成果からは、一見すると、アンチ“the lower, the better”派に逆風が吹いているようにも思える。2014年前後に相次いで公表された各国の高血圧ガイドラインでは、ACCORD-BP試験3)の結果や、元来エビデンスに乏しく、演繹的に設定された降圧目標値について高く設定し直した経緯があり、本研究とSPRINT試験の結果を合わせると、確実に振り子のゆり戻しのような現象が起こるのではないかと予想される。 降圧治療における“the lower, the better”戦略については、疫学研究による証明4)や、Staessen氏らのメタ解析5)の結果から、その正当性が支持されている。それに対して、古くはCruickshankの解析6)であるとか、近年ではMesserli氏らによるINVEST試験のpost-hoc解析7)や、ONTARGET試験のpost-hoc解析8)からは、過降圧によるJカーブ現象の存在が示唆されていた。ここに一見すると相反するデータがあり、長年にわたって研究者だけでなく、多くの臨床家の注目の的になっていた。 しかし、多くの日本の臨床家は実のところ、この2つの治療戦略が、相反するものではなく、共存するものであることに気付いているのではないか9)。 ガイドラインの記述は、エビデンスに基づくことだけではなく、わかりやすさを求められることから、ややもすると短いセンテンスが一人歩きしてしまうことがあるように思える。Staessenのメタ解析5)にしても、Ettehad氏らのメタ解析1)にしても、さらには解析対象の多くが重複すると考えられる、2009年のLaw氏らのメタ解析10)にしても、治療前血圧に依存せずに、一定の降圧治療に治療効果があることを示してはいても、“一律”の降圧目標を支持しているわけではない(EBMがもたらした、究極の“心血管イベント抑制”薬ポリピルは、実現するか[参照])。SPRINT試験の成果は、研究者の名誉を満たす一大快挙であるが、過去の臨床試験の結果を基に、対象患者を絞った末の“狙った”結果である。 2014年に発表された、本邦のHONEST試験の結果を示したい11)。2年間の観察試験の結果で、限定的ではあるが、相対リスクが1になる早朝家庭血圧144~124を示した患者と、124未満の患者において、そのリスクが同等ではないことを読み取ることができる。SPRINT試験の積極的降圧療法群にあっては、低血圧・急性腎障害などの重篤な有害事象や電解質異常が多く認められたと報告されている2)。こうした患者は、潜在的に降圧治療によるリスクが高い群であり、HONEST試験でいえば95%CIでみた相対リスクの高い患者群に該当する。このことは、高血圧を対象にした試験でありながら、降圧値のみを治療効果指標とするならば、こうした群のリスクを完全には回避することができないことを示している。1)Ettehad D, et al. Lancet. 2015 Dec 23.[Epub ahead of print]2)SPRINT Research Group, et al. N Engl J Med. 2015;373:2103-2116.3)ACCORD Study Group, et al. N Engl J Med. 2010;362:1575-1585.4)Lewington S, et al. Lancet. 2002;360:1903-1913.5)Staessen JA, et al. Lancet. 2001;358:1305-1315.6)Cruickshank JM. BMJ. 1988;297:1227-1230.7)Messerli FH, et al. Ann Intern Med. 2006;144:884-893.8)Deleon E, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009;50:1360-1365.9)Bhatt DL, et al. JAMA. 2010;304:1350-1357.10)Law MR, et al. BMJ. 2009;338:b1665.11)Kario K, et al. Hypertension. 2014;64:989-996.

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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