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偽性副甲状腺機能低下症〔PHP:pseudohypoparathyroidism〕

1 疾患概要■ 概念・定義副甲状腺ホルモン(PTH)に対する不応性のために、低カルシウム血症、高リン血症などの副甲状腺機能低下症と同様な症状を呈する疾患である。血中PTH濃度は異常高値となる。ホルモン受容機構を構成するオルブライト遺伝性骨ジストロフィー(Albright’s hereditary osteodystrophy:AHO)と呼ばれる症候を合併する病型をIa型、合併しないものをIb型と呼ぶ。■ 疫学わが国における本症の患者数は約400人と推計されている。性差はない。■ 病因PTH受容体はG蛋白カップリング型受容体である。その細胞内シグナルはα、β、γのサブユニットから構成されるGsタンパク質を介して、アデニル酸シクラーゼの活性化によりサイクリックAMP(cAMP)を生成する系に伝えられる。偽性副甲状腺機能低下症のPTH不応性の原因はGsαタンパク質の機能低下である。Gsαタンパク質の発現は組織特異的インプリンティングを受けており、腎近位尿細管、下垂体、甲状腺、性腺などでは母由来アレル優位となっている。一方、骨、脂肪組織を含む他の大部分の組織では、父由来アレルと母由来アレルから同量のGsαタンパク質が産生される。Gsαタンパク質はGNAS遺伝子によってコードされている。組織特異的インプリンティングの維持にはGNAS遺伝子の転写調節領域のCpGメチル化状態が重要であり、アレルの親由来によってその状態が異なっていることが知られている。Ia型は、母由来のGNAS遺伝子アレルに変異が生じて正常なタンパク質が産生されない場合に起こる、常染色体顕性の母系遺伝である。すなわち、PTHの主たる標的組織である腎近位尿細管では、母由来の変異が主に発現するためにPTH不応となって低カルシウム血症、高リン血症を呈している。同様に、母由来アレル優位である甲状腺、下垂体、性腺においても甲状腺刺激ホルモン(TSH)不応による原発性甲状腺機能低下症、ゴナドトロピン不応による原発性性腺機能障害、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)不応による成長ホルモン分泌不全などが発症することがある。AHOは骨や脂肪組織などの非インプリンティング組織の異常であるが、正常Gsαタンパク質発現量の半減(ハプロ不全)によるものと考えられる。実際、父由来のGNAS遺伝子アレル変異の場合、血清カルシウム濃度は正常であるが、AHOを呈し、偽性偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれている。Ib型では、組織特異的インプリンティングに重要なGNAS遺伝子の転写調節領域のメチル化状態における異常(エピジェネティック変異)が関連している。母由来アレルにこの異常が生じると、インプリンティング組織ではGsαタンパク質発現が減少するが、非インプリンティング組織ではこの影響を受けないので、AHOを合併しない。■ 症状1)低カルシウム血症に伴う症状口周囲や手足のしびれ、テタニー、痙攣、意識障害を呈することがある。これらの症状は、小児期以降から成人期に出現することが多く、Ib型の主訴として受診することが多い。2)AHOIa型では、低身長、円形顔貌、肥満、短指趾症、軟部組織の異所性骨化、歯牙低形成、知的障害を特徴とするAHOを認める症例が多く、診断のきっかけになる。3)他のホルモン異常TSH不応性は最も多く認められるホルモン異常で、Ia型の80~90%、Ib型の約40%にみられる。先天性甲状腺機能低下症として、偽性副甲状腺機能低下症より先に診断されることがある。ゴナドトロピン不応性による月経異常、不妊症、GHRH不応性による成長ホルモン分泌不全を呈することがある。以上のホルモン異常は、Ia型での報告が多いが、Ib型でも認められる。■ 予後基本的に低カルシウム血症の治療は、生涯、活性型ビタミンD製剤の服用を必要とする。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症は指定難病に認定されており、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「ホルモン受容機構異常に関する調査研究」班によって作成された診断基準と重症度分類(表)が使用されている。表 診断基準と重症度分類A.症状1.口周囲や手足などのしびれ、錯感覚2.テタニー3.全身痙攣B.検査所見1.低カルシウム血症、正または高リン血症2.eGFR 30mL/min/1.73m2以上3.Intact PTH 30pg/mL以上C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。ビタミンD欠乏症*血清25水酸化ビタミンD(25[OH]D)が15ng/mL以上であってもBの検査所見であること。25(OH)Dが15ng/mL未満の場合には、ビタミンDの補充などによりビタミンDを充足させた後に再検査を行う。D.遺伝学的検査1.GNAS遺伝子の変異2.GNAS遺伝子の転写調節領域のDNAメチル化異常<診断のカテゴリー>Definite:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dのいずれかを満たすもの。Probable:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。Possible:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たすもの。<重症度分類>下記を用いて重症を対象とする。重症:PTH抵抗性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とすることに加え、異所性皮下骨化、短指趾症、知能障害により日常生活に制約があるもの。中等症:PTH抵抗性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とするもの。軽症:とくに治療を必要としないもの。※診断基準および重症度分類の適応における留意事項1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見などに関して、診断基準上に特段の規定がない合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状などであって、確認可能なものに限る)。2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。3.なお、症状の程度が上記の重症度分類などで一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。原発性副甲状腺機能低下症との鑑別が必要な場合や、ビタミンD欠乏症との鑑別が困難な場合にはEllsworth-Howard試験を行う。同試験はPTHに対する腎の反応性(尿中リン酸増加反応とcAMP増加反応)を指標にするものである。尿中cAMP増加反応が正常にもかかわらず尿中リン酸増加反応の低下がある場合、Gタンパク質より下流のシグナル伝達障害に起因するII型偽性副甲状腺機能低下症とする考えがあるが、ビタミンD欠乏症、尿細管障害でも同様の所見がみられるため論議のあるところである。Ia型でAHOを欠いたり、Ib型でもAHOを認めたりする症例があるので、臨床像のみから分子遺伝的異常を断定することは困難である。遺伝学的検査は、指定難病の認定に必須ではないが、両者の分子生物学的診断にはきわめて有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法低カルシウム血症に対しては、Ca補充と活性型ビタミンD製剤投与を行う。血清カルシウム正常化と高カルシウム尿症を来さないようにする。TSH不応性による甲状腺機能低下症を合併する場合には甲状腺ホルモン薬の補充療法、ゴナドトロピン不応症には性ホルモン補充療法、GHRH不応性による成長ホルモン分泌不全を合併する場合には成長ホルモン投与を行う。■ 手術療法異所性皮下骨化は運動制限、生活制限の原因となる場合、外科的切除の適応になることがあるが、同一部位に再発することもある。4 今後の展望臨床的にも分子遺伝学的にも大変興味深い疾患である。インプリンティングの組織特異性を規定する因子、機序は不明である。また、GNAS遺伝子メチル化異常を来す孤発例のエピジェネティック変異の大部分は原因が不明である。さらに、II型の実態は不明で概念的なものにとどまっている。以上の課題に関して、今後の研究の進展が期待される。5 主たる診療科小児科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 偽性副甲状腺機能低下症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)皆川真規. 最新医学. 2016;71:1930-1935.2)佐野伸一朗. 医学のあゆみ. 2017;263:307-312.公開履歴初回2019年3月26日

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統合失調症における向精神薬補助療法の有効性比較

 統合失調症治療では、抗精神病薬に加え向精神薬が用いられるが、これらの向精神薬補助療法の有効性を比較したエビデンスは、ほとんどない。米国・コロンビア大学のT. Scott Stroup氏らは、実臨床における統合失調症に対する向精神薬補助療法の有効性を比較検討した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月20日号の報告。 2001年1月~2010年12月までの全米メディケイドデータを使用し、有効性比較研究を行った。1剤の抗精神病薬で安定して治療されている18~64歳の統合失調症外来患者を対象に、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、気分安定薬、他の抗精神病薬による治療開始後の結果を検討した。データ分析は、2017年1月~2018年6月に実施した。4つの治療群における共変量のバランスをとる傾向スコアを推定するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。治療企図解析(ITT解析)に基づいて365日後の治療転帰を比較するため、加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。主要アウトカムは、精神障害による入院リスク、精神障害による救急受診リスク、すべての原因による死亡リスクとした。 主な結果は以下のとおり。・成人統合失調症外来患者は、8万1,921例(平均年齢40.7±12.4歳、女性:3万7,515例[45.8%])であった。併用薬剤は、抗うつ薬3万1,117例、ベンゾジアゼピン1万1,941例、気分安定薬1万2,849例、他の抗精神病薬2万6,014例であった。・他の抗精神病薬使用患者と比較し、抗うつ薬使用患者は精神科入院リスクが低く(ハザード比[HR]:0.84、95%CI:0.80~0.88)、ベンゾジアゼピン使用患者は精神科入院リスクが高かった(HR:1.08、95%CI:1.02~1.15)。気分安定薬使用患者では、有意な差が認められなかった(HR:0.98、95%CI:0.94~1.03)。・精神科救急受診リスクに関しても、同様の関連性が認められた。抗うつ薬(HR:0.92、95%CI:0.88~0.96)、ベンゾジアゼピン(HR:1.12、95%CI:1.07~1.19)、気分安定薬(HR:0.99、95%CI:0.94~1.04)。・気分安定薬の使用は、死亡リスクの増加との関連が認められた(HR:1.31、95%CI:1.04~1.66)。 著者らは「統合失調症治療において、抗うつ薬補助療法は、他の向精神薬と比較し、精神科入院および救急受診リスクの低下と関連が認められた。ベンゾジアゼピンおよび気分安定薬とアウトカム不良との関連については、臨床的に注意し、さらなる調査が必要とされる」としている。■関連記事統合失調症患者への抗精神病薬と気分安定薬併用、注意すべきポイントは統合失調症患者への抗うつ薬併用、効果はどの程度か統合失調症治療にベンゾ併用は有用なのか?

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心血管イベント抑制を確認、ACLY遺伝子変異/NEJM

 ATPクエン酸塩リアーゼ阻害薬やHMGCR阻害薬(スタチン)と似たような作用を持つ遺伝子変異が確認された。同様の作用メカニズムで血漿LDLコレステロール値を下げると考えられ、心血管疾患のリスクに対しても同様の影響を示すという。英国・ケンブリッジ大学のBrian A. Ference氏らが、メンデルランダム化解析により明らかにした。ATPクエン酸塩リアーゼは、スタチンがターゲットとする3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素(HMGCR)のコレステロール生合成経路の上流に存在する酵素であるが、ATPクエン酸塩リアーゼの遺伝子阻害が有害転帰と関係するのかは不明であった。また、LDLコレステロール値の1単位低下当たりの影響がHMGCRの遺伝子阻害と同様であるのかも明らかになっていなかった。NEJM誌2019年3月14日号掲載の報告。ACLYスコアとHMGCRスコアを作成し、心血管イベントやがんとの関連を評価 研究グループは、ATPクエン酸塩リアーゼ阻害薬とHMGCR阻害薬(スタチン)の作用を模倣する操作変数として、ATPクエン酸塩リアーゼをコードする遺伝子(ACLY)における遺伝子変異と、HMGCRにおける遺伝子変異からなる遺伝子スコアをそれぞれ作成した。 作成したACLYスコアおよびHMGCRスコアと、血漿脂質値、リポ蛋白値との関連を比較し、また、心血管イベントリスクやがんリスクとの関連についても比較した。心血管イベントリスクへの影響は同様 解析には、総計65万4,783例の被験者データが包含された。そのうち10万5,429例が主要心血管イベントを発症した被験者であった。 ACLYスコアとHMGCRスコアは、血漿脂質値およびリポ蛋白値の変化のパターンとの関連が同様であった。また、LDLコレステロール値の10mg/dL低下における心血管イベントリスクへの影響も同様であった。心血管イベントのオッズ比(OR)は、ACLYスコアが0.823(95%信頼区間[CI]:0.78~0.87、p=4.0×10-14)、HMGCRスコアは0.836(95%CI:0.81~0.87、p=3.9×10-19)であった。 ATPクエン酸塩リアーゼおよびHMGCRの生涯性遺伝子阻害はともに、がんリスク増大との関連はみられなかった。

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日本ではC. difficile感染症の多くが見過ごされている?

 Clostridioides(Clostridium) difficileは、先進国における医療関連感染性下痢症の主要な原因である。後ろ向き研究では、日本では欧州や北米よりC. difficile感染症(CDI)の発生率が低いことが示されている。CDI発生率が実際に低いのか、不適切なC. difficile検査によるものかを調べるため、国立感染症研究所の加藤はる氏らが前向き研究を実施した。その結果、臨床的に意義のある下痢症患者を積極的に検査することによって、CDI発生率はわが国における今までの報告より高かった。この結果から、著者らは「日本ではCDI診断のための細菌学的検査が不適切であるため、多くのCDI患者が見過ごされていることを示唆している」と述べている。Anaerobe誌オンライン版2019年3月11日号に掲載。 本研究は、2014年5月~2015年5月に日本の12医療施設(20病棟)で実施されたCDIの前向きコホート研究。24時間以内に3回以上の下痢便(Bristol stool Grade 6~7)が認められた患者が登録された。CDIは、酵素免疫アッセイによる糞便中toxin A/B検出、核酸増幅検査による糞便中toxin B遺伝子検出、または毒素産生性C. difficile培養検査における陽性例と定義した。C. difficile分離株について、PCR-ribotyping(RT)、slpA-sequence typing(slpA-ST)、薬剤感受性試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・CDIの全体の発生率は、7.4 CDI/10,000 patient-days(PD)であった。・発生率は、5つのICU病棟で最も高かった(22.2 CDI/10,000PD、範囲:13.9~75.5)。・検査頻度とCDI発生率は高度に相関していた(R2=0.91)。・分離株146株のうち、RT 018/018''が最も多く(29%)、続いて014(23%)、002(12%)、369(11%)の型が続いた。・15の非ICU病棟のうち、2病棟でCDI発生率が高く(13.0、15.9 CDI/10,000PD)、それぞれRT 018/slpA-ST smz-02および018"/smz-01による患者クラスターが認められた。・RT 018/018"分離株はすべて、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、クリンダマイシン、エリスロマイシンに対して耐性であった。

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高感度心筋トロポニンI、真の99パーセンタイル値は?/BMJ

 大学病院で血液検査を実施した入院および外来の全連続症例2万例において、20例に1例は、高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)値が、推奨基準値上限(ULN)を超えていたという。英国・サウサンプトン大学病院 NHS Foundation TrustのMark Mariathas氏らが、hs-cTnIの99パーセンタイル値を明らかにすることを目的とした前向き観察コホート研究の結果を報告した。現行ガイドラインでは、急性心筋梗塞の診断/除外診断にトロポニン測定を推奨しているが、年齢、性別、腎機能等のさまざまな臨床要因がトロポニン値に影響を与えている。病院の全患者集団におけるトロポニン値の真の分布についてはほとんど知られていなかった。結果を受けて著者は、「急性心筋梗塞の診断における推奨ULN値の適用に当たっては、とくに心筋梗塞の臨床症状がない場合、誤診を避けるためhs-cTnIを注意深く解釈する必要がある、ということが浮き彫りなった」とまとめている。BMJ誌2019年3月13日号掲載の報告。入院/外来患者2万例でhs-cTnI濃度の99パーセンタイル値を解析 研究グループは、2017年6月~8月の間に、サウサンプトン大学病院 NHS Foundation Trustにおいて、臨床所見に対する医学的判断のために血液検査を実施したすべての入院/外来連続症例2万例を対象に、hs-cTnIを測定し評価を行った。 主要評価項目は、全患者におけるhs-cTnIの分布、とくに99パーセンタイル値とし、上級医(supervising doctor)の指示で実施されたhs-cTnI測定は解析から除外した。99パーセンタイル値は約300ng/L、20例中1例は推奨上限値超え 全2万例におけるhs-cTnIの99パーセンタイル値は296ng/Lであった。ULNとして現在臨床的に使用している製造業者の推奨値は40ng/Lで、全患者の20例に1例は40ng/L以上であった。 急性心筋梗塞と診断された患者122例と、医学的判断のためにhs-cTnI測定が指示された患者1,707例を除外した、残りの患者1万8,171例における99パーセンタイル値は189ng/Lであった。 また、99パーセンタイル値は、入院患者4,759例で563ng/L、外来患者9,280例で65ng/L、救急部門の3,706例で215ng/Lであり、225例(6.07%)が推奨ULN値を超えていた。集中治療室の123例中48例(39.02%)、および内科の全入院患者のうち67例(14.16%)のhs-cTnI濃度が、推奨ULN値よりも高値であった。

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喫煙する高血圧患者に厳格血圧管理は有用か~SPRINTの2次分析

 Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)では、収縮期血圧を120mmHg未満に厳格管理することにより、心血管系疾患の罹患率と死亡率が低下することが示された。しかし、厳格血圧管理による全体的なベネフィットがリスクの不均一性をマスクしていないだろうか。今回、マウントサイナイ医科大学のJoseph Scarpa氏らが実施したSPRINTデータの2次分析により、ベースライン時点に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者では、標準治療群より厳格治療群で心血管イベント発生率が高かったことが報告された。JAMA Network Open誌2019年3月8日号に掲載。 本研究は、SPRINTの9,361例のデータにおける、探索的で仮説生成型のアドホック2次分析である。試験データの半分を使用し、潜在するHeterogeneous Treatment Effects(HTE)をランダムフォレストベースの分析を用いて調べ、残りのデータにおいて、Cox比例ハザードモデルにより潜在するHTEを検討した。オリジナルの試験は、2010年11月~2013年3月に米国の102施設で実施され、この分析は2016年11月~2017年8月に実施された。参加者は、目標収縮期血圧について120mmHg未満(厳格治療)もしくは140mmHg未満(標準治療)に割り付けられた。主要な複合心血管アウトカムは、心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管系死因による死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・SPRINTの9,361例のうち、ベースライン時に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者は466例(5.0%)で、うち230例(49.4%)がトレーニングデータセット、236例(50.6%)がテストデータセットに無作為化された。男性は286例(61.4%)、平均年齢(SD)は60.7(7.2)歳であった。・ベースライン時に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者において、3.3年間で1イベント引き起こされるための有害必要数(number needed to harm:NNH)は43.7であったことが、テストデータにおける主要アウトカムに関するCox比例ハザードモデルから明らかになった(標準治療群における主要アウトカムイベントの頻度が4.8%[6/126]に対し、厳格治療群では10.9%[12/110]、ハザード比:10.6、95%CI:1.3~86.1、p=0.03)。・このサブグループは、厳格血圧管理下で急性腎障害を経験する可能性も高かった(標準治療群における急性腎障害イベントの頻度が3.2%[4/126]に対し、厳格治療群で10.0%[11/110]、ハザード比:9.4、95%CI:1.2~77.3、p=0.04)。

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中年期の食事内容は認知症リスクと関連するか/JAMA

 中年期の食事内容とその後の認知症発症リスクに、関連は認められないことが示された。フランス・モンペリエ大学のTasnime N. Akbaraly氏らが、8,000例超を中央値25年間追跡した結果で、JAMA誌2019年3月12日号で発表された。これまでに、食事内容と認知機能との関連が観察試験で示されているものの、その多くは認知症の前臨床期を考慮するには追跡期間が不十分で、エビデンスが確認された介入試験はない。11項目の食事内容の質スコア「AHEI」を3期にわたり評価し、認知症発症者を追跡 研究グループは、1985~88年に住民ベースコホート試験を開始し、1991~93年、1997~99年、2002~04年に食事摂取内容に関する評価を行い、2017年3月まで追跡して認知症発症との関連を調べた。 食事摂取内容の評価は、食事摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:FFQ)から、11項目の食事内容の質スコアを示す代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index:AHEI、スコア範囲:0~110)を導き出した。同スコアとその後の認知症発症リスクとの関連を検証した。 主要アウトカムは、電子カルテで確認された認知症発症とした。11項目のAHEIスコアとも、認知症発症との関連性みられず 1991~93年時点で認知症の認められなかった8,225例を対象に調査を行った。被験者は、平均年齢50.2歳(SD 6.1)、男性が5,686例(69.1%)だった。 中央値24.8年(四分位範囲:24.2~25.1)の追跡期間中に認知症を発症したのは344例だった。1991~93年、1997~99年(追跡期間中央値19.1年)、2002~04年(同13.5年)のAHEIスコア(三分位範囲値)と認知症発症率には、いずれも関連は認められなかった。 1991~93年の、AHEIスコアの最も不良な三分位範囲(食事の質が最も低いことを示す)の認知症発症率は、1.76(95%信頼区間[CI]:1.47~2.12)/1,000人年だったのに対し、中程度の三分位範囲の同発症率の絶対差は0.03(同:-0.43~0.49)/1,000人年、最良の三分位範囲の同差は0.04(同:-0.42~0.51)/1,000人年だった。 1997~99年では、AHEIスコアの最も不良な三分位範囲の認知症発症率は、2.06(95%CI:1.62~2.61)/1,000人年だったのに対し、中程度の三分位範囲の同発症率の絶対差は0.14(同:-0.58~0.86)/1000人年、最良の三分位範囲の同差は0.14(同:-0.58~0.85)/1,000人年だった。 2002~04年についても、AHEIスコアの最も不良な三分位範囲の認知症発症率は3.12(95%CI:2.49~3.92)で、その他の三分位範囲の同発症率の絶対差は、中程度スコアが-0.61(同:-1.56~0.33)/1,000人年、最良スコアが-0.73(同:-1.67~0.22)/1,000人年だった。  多変量解析において、AHEIスコアの1標準偏差増加による認知症発症の補正後ハザード比は、1991~93年、1997~99年、2002~04年それぞれで、0.97(95%CI:0.87~1.08)、0.97(同:0.83~1.12)、0.87(同:0.75~1.00)で、有意性は認められなかった。

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IVIG不応川崎病、シクロスポリン併用が有益/Lancet

 免疫グロブリン療法(IVIG)不応例である川崎病患者に対し、シクロスポリンの併用は、安全かつ有効であることが確認された。東京女子医科大学 八千代医療センターの濱田 洋通氏らが、日本全国22ヵ所の病院を通じて行った、第III相非盲検無作為化エンドポイントブラインド試験「KAICA trial」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年3月7日号で発表した。遺伝学的研究で、川崎病に関与する遺伝子変異が特定され、それらがIVIG不応例患者のリスクである冠動脈異常に関与するのではないかと考えられていた。研究グループはこの所見を踏まえて、川崎病の病態生理の基礎をなすカルシウム-活性化T細胞核内因子(NFAT)経路の上方制御が、有望な治療になりうると仮定し、シクロスポリン併用の有効性と安全性を評価する試験を実施した。冠動脈異常を心エコーで中央判定 研究グループは2014年5月29日~2016年12月27日にかけて、日本全国22ヵ所の病院を通じ、IVIG抵抗性のリスクが高いと予測された川崎病患者(175例)を適格とし試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはIVIG+シクロスポリン(5mg/kgを5日間、併用群)を、もう一方にはIVIGのみを行った(単独群)。被験者について、リスクスコア、年齢、性別で階層化した。 主要エンドポイントは、試験期間である12週中の冠動脈異常発生率で、心エコー検査で日本の厚生労働省が定める基準に基づき中央にて判定した。分析対象としたのは、試験期間中に、試験薬を1回以上投与し、評価のために1回以上受診した患者だった。併用群vs.単独群、冠動脈異常リスク比0.46 被験者のうち、1例は登録後に試験参加の同意を取り下げ、また1例は最終の心エコー検査結果が得られず分析から除外した。解析集団は、併用群86例、単独群87例。 12週中の冠動脈異常発生率は、単独群31%(27/87例)に対し、併用群は14%(12/86例)と有意に低かった(リスク比:0.46、95%信頼区間:0.25~0.86、p=0.010)。 有害事象の発生率は、群間で差は認められなかった(併用群9% vs.単独群7%、p=0.78)。

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アトピー性皮膚炎、睡眠の質に影響

 睡眠の時間と質は全年代の健康に関するトピックの1つである。しかし、アトピー性皮膚炎(AD)の特徴であるそう痒は、睡眠を妨害すると考えられているものの詳細は知られていない。米国・カリフォルニア大学のFaustine D. Ramirez氏らは、英国の出生コホートを用いた縦断研究において、ADと睡眠の質の低下が小児期から関連していることを明らかにした。この結果を踏まえて著者は、「医師はすべての小児AD、とくに喘息またはアレルギー性鼻炎を併存している症例や重症例については、睡眠の質を考慮すべきであり、それを改善するための介入が必要である」とまとめている。JAMA Pediatrics誌オンライン版2019年3月4日号掲載の報告。 研究グループは、活動性のADを有する小児において、睡眠持続時間と睡眠の質が妨害されているかどうか、また、重症度が睡眠アウトカムに影響を及ぼすかどうかを明らかにする目的で、英国・エイボン州の出生コホート研究として「Avon Longitudinal Study of Parents and Children」に登録されているデータを用いて解析した。 1歳児1万3,988例を対象とし、ADと睡眠についての自己申告による評価を16歳まで繰り返した。本研究では、1990~2008年に収集されたデータを基に、2017年9月~2018年9月に解析を行った。主要評価項目は、睡眠時間と睡眠の質(夜間中途覚醒、早朝早期覚醒、熟眠困難、悪夢など)の複合で、2~16歳の間に繰り返し測定された。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は、11年(四分位範囲[IQR]:5~14年)であった。・1万3,988例(男児7,220例[51.9%])のうち4,938例(35.3%)が、2~16歳の間にADの定義を満たしていた。・活動性の小児AD患者とADのない小児の総睡眠時間は、すべての年齢層において同様だった。また、小児期の差の平均は、小児AD患者で-2分/日と臨床的に無視できるものだった(95%信頼区間[CI]:-4~0分)。・対照的に、活動性の小児AD患者の睡眠の質は、すべての評価時点において不良との報告が多く、睡眠の妨害を経験する確率が約50%高かった(補正後オッズ比[aOR]:1.48、95%CI:1.33~1.66)。・睡眠の質は、重症AD(きわめて悪い/非常に悪い、aOR:1.68、95%CI:1.42~1.98)、喘息またはアレルギー性鼻炎の併発あり(aOR:1.79、95%CI:1.54~2.09)の症例で、より悪かった。・しかしながら、ADの重症度が、軽症AD(OR:1.40、95%CI:1.27~1.54)、または非活動性のAD(OR:1.41、95%CI:1.28~1.55)であっても、睡眠の質を損なう可能性が統計学的に有意に高かった。

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外傷性脳損傷に対するSB623の第II相試験の結果を米国脳神経外科学会で発表/サンバイオ

 サンバイオ株式会社およびその子会社である SanBio, Inc.は、2019年3月6日、現地時間 2019 年4月13日~17日に米国サンディエゴで行われる米国脳神経外科学会(American Association of Neurological Surgeons)の年次総会にて、同グループが日米グローバルで行ったSB623の外傷性脳損傷を対象にした第II相試験(STEMTRA試験)の結果を発表する予定であると発表した。 STEMTRA試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」という良好な結果を得た。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件および期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指している。■関連記事【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)

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閉経後のホルモン補充療法でアルツハイマー症リスク増加か/BMJ

 閉経後女性への全身ホルモン補充療法では、エストロゲンと併用する黄体ホルモン製剤の種類や開始年齢にかかわらず、長期の投与によりアルツハイマー病のリスクが増大する可能性が、フィンランド・ヘルシンキ大学のHanna Savolainen-Peltonen氏らの検討で示された。ただし、膣内エストラジオール療法ではこのようなリスク上昇はなかった。研究の成果は、BMJ誌2019年3月6日号に掲載された。いくつかの観察研究により、ホルモン補充療法はアルツハイマー病のリスクに対し防御的な作用を有する可能性が示唆されているが、この知見はプラセボを対照とするWomen's Health Initiative Memory Study(WHIMS)では支持されていない。WHIMSでは実臨床とは異なり、ホルモン補充療法は65歳以上で開始されていることから、エストロゲンが神経保護的に働くのは、閉経が始まってすぐの時期に投与が開始された場合に限られるとの仮説が提唱されていた。フィンランドの約17万人の閉経後女性の症例対照研究 研究グループは、フィンランド人の閉経後女性において、ホルモン補充療法はアルツハイマー病のリスクに影響を及ぼすか、また、このリスクは治療開始年齢や治療期間と関連するかを検討する目的で、全国的な症例対照研究を実施した(ヘルシンキ大学病院などの助成による)。 1999~2013年のフィンランドの全国的な住民薬剤登録から、神経科医または老年病医によりアルツハイマー病の診断を受けた閉経後女性8万4,739例のデータを抽出した。対照として、フィンランドの全国的な住民登録から、年齢および病院の所在地域をマッチさせたアルツハイマー病の診断を受けていない閉経後女性8万4,739例のデータを得た。 条件付きロジスティック回帰分析を用いて、アルツハイマー病のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。リスクが9~17%増加、開始年齢は決定因子ではない アルツハイマー病と診断された女性では、8万3,688例(98.8%)が60歳以上であり、4万7,239例(55.7%)は80歳以上であった。アルツハイマー病女性のうち、5万8,186例(68.7%)はホルモン補充療法を受けておらず、1万5,768例(18.6%)が全身療法(エストラジオール単剤、エストロゲンと黄体ホルモン製剤[酢酸ノルエチステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、その他の製剤または配合薬]の併用など)を、1万785例(12.7%)が膣内エストラジオール療法を受けていた。 アルツハイマー病群は対照群に比べ、全身ホルモン補充療法を受けている女性の割合が有意に高く(18.6% vs.17.0%、p<0.001)、膣内エストラジオール療法を受けている女性の割合は有意に低かった(12.7% vs.13.2%、p=0.005)。両群間で、全身ホルモン補充療法の施行期間に有意な差はなかった。 全身ホルモン補充療法の使用により、アルツハイマー病のリスクは9~17%増加した。全身ホルモン補充療法のうち、エストラジオール単剤(OR:1.09、95%CI:1.05~1.14)とエストロゲン+黄体ホルモン製剤併用(1.17、1.13~1.21)で、リスクに差はなかった。エストロゲン+黄体ホルモン製剤併用療法におけるアルツハイマー病のリスク上昇には、個々の黄体ホルモン製剤の種類による差はなく、いずれの薬剤でも有意にリスクが高かった。 一方、治療開始年齢が60歳未満の女性では、投与期間が10年以上に及ぶと、リスクが有意に上昇した(エストラジオール単剤のOR:1.07、1.00~1.15、p=0.04、エストロゲン+黄体ホルモン製剤1.20、1.13~1.26、p<0.005)。また、全身ホルモン補充療法の開始年齢はアルツハイマー病のリスク上昇の確固たる決定因子ではなかった。さらに、膣内エストラジオール療法を専用した場合、リスクへの影響は認めなかった(OR:0.99、95%CI:0.96~1.01)。 アルツハイマー病群では、全身ホルモン補充療法を受けた女性は、膣内エストラジオール療法を受けた女性や、ホルモン補充療法を受けていない女性に比べ、アルツハイマー病の発症時期がより早期であった。 著者は、「絶対値として、ホルモン補充療法を受けている70~80歳の女性1万人当たり、受けていない場合に比べアルツハイマー病の診断が年に9~18件多くなり(発症率:105件/1万人年)、とくに投与を10年以上継続している女性ではリスクが高いと推測される」とまとめ、「ホルモン補充療法の使用者には、アルツハイマー病の絶対リスクの上昇が小さくても、長期の使用に伴うリスクの可能性はあると伝えるべきだろう」としている。

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スコットランドにおける双極性障害に対する処方変化

 双極性障害患者は、一般的にうつや躁状態を予防するために、長期の薬理学的治療が必要とされる。しかし、エビデンスに基づくガイドラインは、しばしば従われておらず、一部の国では、リチウムの処方量は減少している。また、多剤併用も双極性障害の治療において一般的に認められる。英国・グラスゴー大学のLaura M. Lyall氏らは、2009~16年のスコットランドにおける双極性障害治療のための処方パターンについて、データリンケージアプローチを用いて評価した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2019年2月28日号の報告。 Scottish Morbidity Recordの処方データより、2009~16年に向精神薬を処方された双極性障害患者2万3,135例を特定し、6つの薬物カテゴリについて、処方された患者割合の傾向を調査した。何年にもわたる処方の変化は、ランダム効果ロジスティックモデルを用いて調べた。 主な結果は以下のとおり。・最も一般的な治療法は、抗うつ薬単独療法で24.96%であった。一方、リチウム単独療法は、5.90%であった。・2009~16年で、抗精神病薬(オッズ比[OR]:1.16、95%CI:1.15~1.18)および抗てんかん薬(OR:1.34、95%CI:1.32~1.36)の処方は増加していた。一方、リチウム(OR:0.83、95%CI:0.82~0.85)の処方は減少していた。・2009~16年で、バルプロ酸の処方は、女性(OR:0.93、95%CI:0.90~0.97)で減少したが、男性(OR:1.11、95%CI:1.04~1.18)で増加していた。 著者らは「スコットランドでは、抗うつ薬単独療法が双極性障害の最も一般的な治療法であり、リチウムの処方は、2009~16年にかけて減少していた。本調査結果より、治療ガイドラインと臨床診療におけるギャップが明らかとなった」としている。■関連記事双極性障害治療における新規非定型抗精神病薬の薬理学的および臨床的プロファイル双極性障害、リチウムは最良の選択か双極性障害治療、10年間の変遷は

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誤解されやすいが重要な研究(解説:野間重孝氏)-1019

 多くの忙しい医師たちは論文を熟読するよりabstract部分をチェックして、自分が本当に興味のあるものならば熟読するし、そう思えなかった場合はすぐに次の論文のチェックに移っていくというのが実情なのではないかと思う。そう考えると、バッグマスクによる陽圧換気が誤嚥リスクを増大させるのではないかという問題にあまり関心がない医師がこの論文を読んだ場合、低酸素血症の発生頻度がバッグマスクによる陽圧換気群で低かったという一見当たり前の結論のほうばかりに目が行ってしまい、著者らの研究の真意が伝わらなかった可能性が懸念される。著者らが言いたかったことは結論の後半部分で、バッグマスク陽圧呼吸は誤嚥を増加させなかったというほうなのである。 酸素飽和度のほうにばかり関心が向いてしまった読者には、挿管後2分間に観察された最低酸素飽和度や酸素飽和度80%未満低下というのはsurrogate endpointでtrue endpointは心停止や低酸素脳症などの重篤な合併症なのであり、実際この研究中に心停止事故などは発生していないのだから、この程度の一時的な酸素飽和度の低下の有無に意味があるのか、と考えてしまう可能性がある。そうではなく、著者らはバッグマスク陽圧呼吸の安全性を検証してみせたのである。これは重要な検証である。なぜなら、誤嚥の発生リスクを増大させないならば、バッグマスクによる陽圧換気を行ったほうが安全に決まっているからである。 ちょうどこの論文評を書いている時に、日本医療安全調査機構の『医療事故の再発防止に向けた提言 第7号』が配達された。この提言はNPPV、TPPV療法中の患者に緊急事態が起こった場合の対処法を議論しているため、本研究の趣旨とは少しずれるが、NPPV装着患者の緊急時にはバッグマスクを用いた用手呼吸を行うことが適当であること、さらにその際パルスオキシメータによるモニターを行うべきであるとしている。この提言がバッグマスクによる陽圧換気の安全性を前提としていることは言うまでもないことで、その意味でも本研究の重要さが理解できよう。なお日本麻酔科学会、救急医学会などのマニュアルでも合併症として誤嚥性肺炎の記述はあるものの、バッグマスクによる陽圧換気は当然のように記載されていることは皆さんご存じのとおりである。ただ、一般にわが国のマニュアルでは大抵バッグマスクの使用と救急蘇生における合併症は切り離したかたちで記載されているため、バッグマスク使用そのものの合併症として誤嚥が問題になると認識している医師が少ない可能性は指摘されなければならないだろう。 論文に戻って不満点を言えば、どのような患者を対象としたのかが明示されていない点が挙げられる。対象についてはSupplementary Appendixの中で示されているが、抽象的で定義として不十分ではないかと思われた。こうした研究ではdouble blind化ができないだけに主治医の判断の自由度が大きくなり過ぎる懸念があるからだ。もっとも救急の場面を対象とした7施設共同による臨床研究では、そこまで縛りをきつくすることはできなかったのだろう。もう1点挙げるならば、401例という症例数が統計学的に妥当であるかどうかという点だろう。著者らはもちろんこの問題にdiscussion部分で触れているが、十分な説明になっていないと感じられた。 臨床研究では一見当たり前のように見える事柄が検証されるケースが多々ある。評者は臨床研究では一見当たり前に見えるような事柄を検証することが重要であることを以前から強調してきたが、本論文もそうした範疇に入るものであると考える。それだけに、論文全体の筆致が読者にこの研究の目的について誤解を与えかねないものである点が残念に感じられた。

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日本は職業階層が高いと冠動脈疾患リスク高い?

 欧米では、職業階層が高い(専門職や管理職)ほど、冠動脈疾患(CHD)や脳卒中を含む心血管疾患リスクが低いと報告されているが、日本では明らかになっていない。今回、東京大学/Harvard T.H. Chan School of Public Healthの財津 將嘉氏らが実施した病院ベースの症例対照研究の結果、日本では職業階層が高いほどCHDリスクが高く、脳卒中リスクは低いことが報告された。著者らは、「心血管疾患における職業による“勾配”(地位の高い仕事に就業している人ほど低リスク)は普遍的ではなく、現代の日本社会では、管理職や専門職のCHDリスクは高い可能性がある」と指摘している。Journal of the American Heart Association誌2019年3月19日号に掲載。 本研究は、日本の全国的な多施設の入院患者データ(1984~2016年)を使用し、約110万例の被験者を対象とした症例対照研究。国内の標準的分類に基づいて、それぞれの産業分野(ブルーカラー産業、サービス産業、ホワイトカラー産業)の中で、最も長く就業している職業階層(ブルーカラー、サービス、専門職、管理職)により患者をコード化した。オッズ比と95%信頼区間(95%CI)は、ブルーカラー産業のブルーカラーの労働者を基準とし、性別・年齢・入院日・入院病院を調整して、多重代入法を用いた条件付きロジスティック回帰によって推定した。さらに喫煙と飲酒について調整した。 主な結果は以下のとおり。・職業階層が高い(専門職および管理職)ほど、CHDの過剰リスクと関連していた。喫煙・飲酒の調整後も、すべての産業で過剰オッズはCHDと有意に関連し、サービス産業の管理職で最も顕著だった(オッズ比:1.19、95%CI:1.08~1.31)。・一方、高い職業階層におけるCHDの過剰リスクは、低い脳卒中リスク(例:ブルーカラー産業における専門職のオッズ比:0.77、95%CI:0.70~0.85)で代償されていた。

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せん妄のマネジメントと予防のための薬理学的介入~メタ解析

 せん妄に対する薬理学的介入については、さまざまな調査が行われているが、全体的なベネフィットや安全性はよくわかっていない。台湾・林口長庚紀念医院のYi-Cheng Wu氏らは、せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入に関するエビデンスの評価を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月27日号の報告。 せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入を検討した、2018年5月17日までのランダム化臨床試験(RCT)を、各種データベース(PubMed、Embase、ProQuest、ScienceDirect、Cochrane Central、Web of Science、ClinicalKey、ClinicalTrials.gov)より検索した。事前リストに従いデータを抽出した。PRISMA(システマティックレビューおよびメタ解析のための優先的報告項目)ガイドラインを適用し、すべてのメタ解析は、ランダム効果モデルを用いて行った。主要アウトカムは、せん妄患者の治療反応およびせん妄リスクのある患者におけるせん妄発生率とした。 主な結果は以下のとおり。・合計58件のRCTが抽出された。内訳は、治療アウトカムを比較したRCTが20件(1,435例、平均年齢:63.5歳、男性の割合:65.1%)、予防を検討したRCTが38件(8,168例、平均年齢:70.2歳、男性の割合:53.4%)であった。・ネットワークメタ解析では、ハロペリドールとロラゼパムの併用が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の治療に最も高い奏効率を示した(オッズ比[OR]:28.13、95%CI:2.38~333.08)。・せん妄の予防については、ラメルテオン(OR:0.07、95%CI:0.01~0.66)、オランザピン(OR:0.25、95%CI:0.09~0.69)、リスペリドン(OR:0.27、95%CI:0.07~0.99)、デクスメデトミジン塩酸塩(OR:0.50、95%CI:0.31~0.80)が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の発生率を有意に低下させた。・いずれの薬理学的介入も、プラセボや対照群と比較し、すべての原因による死亡リスクと有意な関連は認められなかった。 著者らは「せん妄の薬理学的介入において、治療にはハロペリドールとロラゼパムの併用、予防にはラメルテオンが最良の選択肢である可能性が示唆された。また、せん妄の治療および予防に対するいずれの薬理学的介入も、すべての原因による死亡率を上昇させなかった」としている。■関連記事せん妄に対する薬物治療、日本の専門家はどう考えているかせん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大せん妄ケアの重要性、死亡率への影響を検証

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正常眼圧緑内障にも遺伝子変異の関与が示唆

 原因が特定されていない正常眼圧緑内障(NTG)について、ミオシリン(MYOC)遺伝子変異にp.Gln368Terが関与しているとの知見が報告された。MYOC遺伝子変異は、原発開放隅角緑内障における緑内障遺伝子として同定されている。今回、米国・アイオワ大学のWallace L. M. Alward氏らは2つの症例対照研究を行い、p.Gln368Terの関連を調査。その結果、NTG患者への関連頻度は、既報の高眼圧(IOP)患者のそれよりは低かったものの認められることを報告した。p.Gln368Terについては、これまでに最大30mmHg以上のIOPの原発開放隅角緑内障患者で1.6%の関連が報告されている。一方、眼圧21mmHg以下のNTG患者での関連は不明であった。著者は、「IOP患者と同様、21mmHg以下の正常眼圧患者においても、p.Gln368Terが緑内障と関連している可能性が示唆された」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2019年2月28日号掲載の報告。 研究グループは、NTG患者のMYOC遺伝子変異におけるp.Gln368Terの役割を評価する目的で、症例対照研究を実施。コホート1は、米国(アイオワ、ミネソタおよびニューヨーク)およびイギリスのNTG患者772例と対照者2,152例。コホート2には、Massachusetts Eye and Ear InfirmaryとNEIGHBORHOOD consortiumのNTG患者561例と対照者2,606例が含まれていた。 ジェノタイピングには、リアルタイムPCR(サンガー法)、imputation法によるゲノムワイド関連解析(GWAS)または全エクソーム解析(WES)を用いた。解析期間は2007年4月~2018年4月、主要評価項目はNGTのMYOC遺伝子変異におけるp.Gln368Terの発現頻度で、フィッシャーの直接確率検定により対照群と比較した。 主な結果は以下のとおり。・全解析対象6,091例中、女性が3,346例(54.9%)、白人が5,799例(95.2%)であった。・p.Gln368Terの発現頻度は、コホート1:NTG患者群0.91%(7/772例)、対照群0.33%(7/2,152例、p=0.03)、コホート2:0.71%(4/561例)、0.38%(10/2,606例、p=0.15)であった。・両コホートを合わせると、p.Gln368Terの発現頻度はNTGと関連していた(オッズ比:2.3、95%信頼区間[CI]:0.98~5.3、p=0.04)。

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第15回 アナタの心電図は“男女”どっち?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第15回:アナタの心電図は“男女”どっち?皆さんは心電図に「性差」があるのをご存知ですか? 男性と女性では、波形にいくつかの違いがあるのです。今回は、それを見極めるために、ST部分の“男女差”についてDr.ヒロが解説します。症例提示81歳、男性。糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群(CPAP治療中)で通院中。以前から徐脈を指摘されており、不定期にめまいを認める。以下に定期外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)の所見として誤っているものはどれか。1)洞(性)徐脈2)時計回転3)ST低下4)右軸偏位5)陰性T波解答はこちら4)解説はこちらいつ・どんな時でも系統的な判読が大事です(第1回)。1)○:“レーサー(R3)・チェック”をしましょう。R-R間隔は整、心拍数は42/分(検脈法:10秒)です。遅くてもP波はコンスタントで、向きも“イチニエフの法則”を満たします。「めまい」は徐脈に関連した症状かもしれず、精査対象となる可能性があります。2)○:「回転」は移行帯の異常です。胸部誘導の上からR波(上向き)とS波(下向き)のバランスを見ていきます。「R>S」となるのがV5とV6誘導の間であり、「時計回転」の診断でOKです。3)○:ST偏位は、J点に着目して、基線(T-Pライン)からのズレを見るのでした(第14回)。V5、V6誘導で「ST低下」があります(水平型)。4)×:I誘導:上向き、aVF(またはII)誘導:下向きは「左軸偏位」でしたね(第8回)。具体的な数値は、“トントン法Neo”を利用すると「-40°」です(トントン・ポイントは-aVRとIIの間で後者寄りです)。5)○:T波の「向き」を“スタート”の“ト”でチェックします。aVR誘導以外は上向きなのが基本です。全体をくまなく見渡して、aVL、V5、V6誘導で「陰性T波」を指摘して下さい。問題を続けましょう。次が今回の本題、男女に特徴的なST部分の“型”に関する問いです。【問題2】この高齢男性のST部分は男性型か、女性型か述べよ。解答はこちら女性型解説はこちら「ST部分」には、明確な性差が存在します。つまり男女で波形が異なる訳です。ただし、生物学的な“男・女”と100%完全には一致しません。前回扱った若年男性の心電図は、「男性型」の典型で、V1~V4誘導の“猛々しい”「ST上昇」が特徴です(この所見は女性では珍しい)。ただ、加齢と共に低下傾向を示し、高齢になると「女性型」を示すこともまれではありません。このST部分の性差について理解しておきましょう。皆さんは、心電図波形に「性差」があるって知っていましたか?…実際、男性か女性かまで意識して心電図を読んでいる方は、あまり多くないのではと推察します。しかし、純然たる“違い”があることが古くから知られており、とりわけ「ST部分」に現れやすいとされています*1。はじめに言っておくと、今回の話もあくまでも“雑談”です。細部まで逐一暗記しようとせず、『ふーん、そうなのかぁ』程度に思ってもらえば大丈夫。注目するのはV1~V4(前胸部)誘導のJ点とST角度(ST angle)の2点。「J点」はQRS波の“おわり”で、いわゆる“変曲点”です(第14回)。もう一つの「ST角度」という名前は聞き慣れないかもしれないので、図2で説明しましょう。(図2)J点とST角度の関係画像を拡大する男女別のST部分の差を3つに分類したSurawicz先生によると、J点を認識し、そこを通り基線に平行な線Aを引きます。次に、J点と点B(J点から60ms[1.5mm]先のST部分で“ST60”と称される)を結ぶ線がなす角度(図中のC)を表します。ST部分の“傾き”と理解すれば良いでしょう。では、この2つを用いてST部分を1)女性型(F型)、2)男性型(M型)、3)不定型(I型)の3つに分類する方法*2を紹介します(図3)。(図3)J点・ST角度によるST型分類画像を拡大するまずは、V1~V4誘導でJ点レベルが最高となる誘導に注目します。V1~V4誘導のいずれでもJ点が「0.1mV」、つまり、基線からの上昇が1mm未満なのが「F型」(ST角度は不問)です。今回の心電図(図1)も、これに相当します。残る2つ(M型、I型)では、4誘導のどこかで1mm以上のST上昇(J点)があるわけですが、今度は「ST角度」も見渡してみて下さい。角度が一番キツい(最大となる)誘導で、その角度が20°以上だったら「M型」、それ未満なら「I型」とします。具体的な数値は忘れてかまいませんが、若年男性ほど角度が急峻、つまり「M型」となる傾向なんです。ボクの経験上、ST角度はおおむねT波高が一番のところで最大となるため、ざっと見てJ点が1mm以上であれば、T波が最も高くツンと立った誘導を使ってST角度を調べるスタンスでOKです。『そんなこと言われても、どれを選ぶか悩むよなぁ~』というアナタ!…ならエイヤッとV2誘導の“一択”でJ点レベルとST角度を調べる感じで大丈夫かも(前回学んだように、多くのケースでJ点(ST)レベルが最大となりますから)。性別によってST部分に差があって、こうやって見るんだと知ってもらえたらボク的には十分。あくまでも厳格な心電図診断というよりは、“趣味”の世界みたいなものなので、がんじがらめにならずに楽しみましょう!この分類法のルールさえわかったら、皆さんも心電図を見て、どの型になるか言えますでしょ? 上記で説明したそれぞれのST型を以下に示したので、作図法も確認してみて下さい(図4)。I型とM型ではいずれもV3誘導でT波高が最大に見えるため、そこにフォーカスしてST角度を測りました。(図4)SurawiczらによるST型の3区分を作図画像を拡大するさて、現実にはどの型が多いのでしょうか?…Circulationという有名誌に前述のSurawicz先生が年齢・性別ごとの違いを報告しているので、そのグラフを以下に示します(図5)。(図5)性別・年齢によるSTパターン画像を拡大するまず、女性のほうはシンプル。全年代にわたって8割方がF型です。残り2割、成人の場合ではM型とI型が半分ずつ占めています。一方の男性はどうでしょう? 思春期以降、40歳くらいまではM型ないしI型で9割近くを占め、“若さ”の象徴的な「ST上昇」が目立ちます。ただ、よーく見ると、成人以降、M型は徐々に減り、代わりにF型がぐんぐん増えてきます(I型は1~2割のままほぼ一定)。50歳前後でF型はM型を凌駕し、最終的に今回の症例のような高齢男性では、7割がF型となる様子が読み取れます。心電図が年をとった結果、生物学的には男性でも、心電図は“女性”…そんなことが珍しくないというワケ。この“理由”はと言えば、皆さんお察しの通り「性ホルモン」の影響が強いようです。“力こぶ”を連想させるST-T部分はテストステロンの影響を受けるため、加齢によって“更年期”を迎え、最終的には枯渇してゆく…。そんな様子には、はかなさすら漂います…。ですから、STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断を考えた場合、F型が増加するのは嬉しいです(つくづく、うまくできてるなぁと思います)。でも、高齢でも2~3割の男性はM型ないしI型ですから、注意が必要ですね。最後に、こうしたST型の分類は、あくまでも正常QRS-T波形を想定したもので、脚ブロックや心室肥大などのいわゆる「二次性ST変化」をきたす波形には適用できないので、ご注意あれ!今回は、あまり真面目に語られることのない、性別による心電図波形の違いについて扱いました。やや雑学的はハナシですが、ボクが医学生の頃、友達と面白いなぁと話した日々を懐かしく思いました。Take-home MessageJ点(STレベル)とST角度には性差が現れやすい(3つの区分あり)男性に特徴的な加齢に伴うST型の変化を知っておこう1)Bidoggia H, et al. Am Heart J. 2000;140:430–436.2)Surawicz B, et al. J Am Coll Cardiol. 2002;40:1870–1876.【古都のこと~南禅寺水路閣】時は明治、東京遷都で意気消沈した京都リバイバルのカギであった琵琶湖疎水事業。施工責任者は田邉朔郎(さくろう)。史上初ジャパン・オリジナルの大規模土木建設の重積が、大卒間もない一青年*の肩にいかほどに感じられたか…。南禅寺(左京区)の敷地内に同居する水路閣もその一部。赤レンガ・花崗岩によるモダンな風貌、アーチ型橋脚の見事な曲線美に圧倒されました。老朽化が叫ばれていますが、130年たった今でも文明開化当時の“勢い”が感じられるボクのお気に入りスポットです。*:後に東京・京都帝国大学の教授となった

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気候変動と認知症入院リスクとの関連

 人間が引き起こす気候変動がここ数十年で加速しており、健康への悪影響が懸念されている。しかし、高齢者の神経疾患に対する気候変動の影響は、まだよくわかっていない。米国・ハーバード公衆衛生大学院のYaguang Wei氏らは、ニューイングランドにおける認知症の入院と夏季、冬季の平均気温および気温変動との関連について検討を行った。Environment International誌オンライン版2019年2月26日号の報告。 認知症の入院と夏季、冬季の平均気温および気温変動との関連を推定するため、時間依存共変量Cox比例ハザードを用いた。各地域の気温は、衛星画像データを利用した予測モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・夏季(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.96~1.00)または冬季(HR:0.97、95%CI:0.94~0.99)の気温が平均よりも高かったとき、認知症関連入院リスクは低下した。一方、気温変動の大きい地域の高齢者では、認知症関連入院リスクが上昇した。・性別、人種、年齢、メディケア二重資格による交互作用(Effect modification)は、サブグループにおける脆弱性を調査するために考慮された。 著者らは「本結果より、平均気温より低いとき、および気温変動が大きいときに、認知症関連入院リスクの上昇が示唆された。気候変動は、認知症の進行やそれに伴う入院コストに影響を及ぼす可能性がある」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか統合失調症患者の入院、1日の気温差が影響気温31℃超で気分症状が再発!入院も増加(3月18日 記事の一部を修正いたしました)

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テストステロンが血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞に関連/BMJ

 JMJD1C遺伝子変異で予測した遺伝的内因性テストステロンは、とくに男性において、血栓塞栓症、心不全および心筋梗塞にとって有害であることを、中国・香港大学のShan Luo氏らが、UK Biobankのデータを用いたメンデル無作為化試験の結果、明らかにした。テストステロン補充療法は世界的に増大しているが、心血管疾患でどのような役割を果たすのか、エビデンスは示されていない。そうした中、最近行われたメンデル無作為化試験で、遺伝的予測の内因性テストステロンが、虚血性心疾患や虚血性脳卒中と、とくに男性において関連していることが示されていた。検討の結果を踏まえて著者は、「内因性テストステロンは、現在の治療法でコントロール可能であり、血栓塞栓症や心不全のリスク因子は修正可能である」と述べている。BMJ誌2019年3月6日号掲載の報告。UK Biobank40~69歳の英国人男女39万2,038例のデータを用いて評価 研究グループは、内因性テストステロンが血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞と因果関係を有するのかを明らかにするため、無作為化試験「Reduction by Dutasteride of Prostate Cancer Events(REDUCE)」の被験者から遺伝的予測の内因性テストステロンを入手。UK Biobankのデータを用いて、それらテストステロンと血栓塞栓症、心不全および心筋梗塞との関連性を評価し、「CARDIoGRAMplusC4D 1000 Genomes」でゲノムワイドベースの関連性検証試験を行った。 被験者数は、REDUCE試験は50~75歳の欧州系の男性3,225例、UK Biobankは40~69歳の英国人男女39万2,038例、CARDIoGRAMplusC4D 1000 Genomesは17万1,875例(約77%が欧州直系)であった。 主要評価項目は、自己申告と、病院エピソードおよび死亡記録に基づく血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞の発生であった。JMJD1C遺伝子変異を活用、女性では関連性認められず UK Biobankの被験者のうち、血栓塞栓症の発生は1万3,691例(男性6,208例、女性7,483例)、心不全は1,688例(それぞれ1,186例、502例)、心筋梗塞は1万2,882例(1万136例、2,746例)であった。 男性において、JMJD1C遺伝子変異で予測した遺伝的内因性テストステロンは、血栓塞栓症(対数変換テストステロン値[nmol/L]の単位増加当たりのオッズ比[OR]:2.09、95%信頼区間[CI]:1.27~3.46、p=0.004)、心不全(7.81、2.56~23.81、p=0.001)と明らかな関連性が認められたが、心筋梗塞との関連性は認められなかった(1.17、0.78~1.75、p=0.44)。ただし検証試験では、被験者全体において、JMJD1C遺伝子変異による遺伝的予測の内因性テストステロンと心筋梗塞の、明らかな関連性が認められた(1.37、1.03~1.82、p=0.03)。 女性においては、いずれも明らかな関連性はみられなかった(ORは血栓塞栓症:1.49[p=0.09]、心不全:0.53[p=0.47]、心筋梗塞:0.91[p=0.80])。 アウトカムと関連する遺伝子変異において、過剰な不均一性は観察されなかった。一方で、潜在的なSHBG遺伝子多面的変異で予測した遺伝的内因性テストステロンが、アウトカムと関連しないことも示された。

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女性で研究助成採択率が低いのは、研究レベルが低いわけではなかった(解説:折笠秀樹氏)-1017

 研究助成の採択率は、男性研究者のほうが高いといわれていた。それを大規模な調査で裏付けた結果が得られた。それ以上に、どうして女性研究者の採択率が低くなるか、その原因の一端も見えた気がする。 カナダ政府へのグラント申請2万3,918件について、その中身を調べた。全体の採択率は、男性で16.4%、女性で14.6%であった。その差は1.8%だが、年齢や研究分野で合わせると、その実質差は0.9%であった。男女差は意外に小さいなという印象を持った。 カナダ政府のグラントには、FoundationグラントとProjectグラントの2種類あるそうだ。Foundationグラントは、たぶん基盤整備などへの研究助成であり、Projectグラントは具体的な研究へのグラントなのだろう。Foundationグラントでは、申請者の研究実績(論文など)の資質を審査するだけのようである。言ってみれば、研究者の人物評価が主のようである。一方、Projectグラントでは、それよりも研究内容の評価が主のようである。 人物評価によるFoundationグラントでは、男性の採択率13.9%に対して、女性の採択率は9.2%であった。一方、研究内容評価によるProjectグラントでは、男性の採択率13.5%に対して、女性の採択率は12.0%であった。論文などの実績だけで評価すると男性優位だが、研究内容で評価するとその差はほぼなくなっていた。「臨床」分野に限ると、むしろ女性研究者の採択率のほうが高かった(女性12.1%、男性10.4%)。 これは何を意味しているのだろうか。女性はどうしても研究空白期などが多いため、男性研究者に比べて研究実績は少なくなる。しかしながら、女性のほうが研究テーマの提案で劣るということは決してなかったということだろう。若手研究者も同じように研究実績は少ない。若手研究者のためのグラントは別途設けられていることが多いが、女性研究者などのマイノリティーについても別枠を設けたほうが、もっと素晴らしい研究が世に出てくるのではないだろうか。

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