閉経後のホルモン補充療法でアルツハイマー症リスク増加か/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2019/03/20

 

 閉経後女性への全身ホルモン補充療法では、エストロゲンと併用する黄体ホルモン製剤の種類や開始年齢にかかわらず、長期の投与によりアルツハイマー病のリスクが増大する可能性が、フィンランド・ヘルシンキ大学のHanna Savolainen-Peltonen氏らの検討で示された。ただし、膣内エストラジオール療法ではこのようなリスク上昇はなかった。研究の成果は、BMJ誌2019年3月6日号に掲載された。いくつかの観察研究により、ホルモン補充療法はアルツハイマー病のリスクに対し防御的な作用を有する可能性が示唆されているが、この知見はプラセボを対照とするWomen's Health Initiative Memory Study(WHIMS)では支持されていない。WHIMSでは実臨床とは異なり、ホルモン補充療法は65歳以上で開始されていることから、エストロゲンが神経保護的に働くのは、閉経が始まってすぐの時期に投与が開始された場合に限られるとの仮説が提唱されていた。

フィンランドの約17万人の閉経後女性の症例対照研究
 研究グループは、フィンランド人の閉経後女性において、ホルモン補充療法はアルツハイマー病のリスクに影響を及ぼすか、また、このリスクは治療開始年齢や治療期間と関連するかを検討する目的で、全国的な症例対照研究を実施した(ヘルシンキ大学病院などの助成による)。

 1999~2013年のフィンランドの全国的な住民薬剤登録から、神経科医または老年病医によりアルツハイマー病の診断を受けた閉経後女性8万4,739例のデータを抽出した。対照として、フィンランドの全国的な住民登録から、年齢および病院の所在地域をマッチさせたアルツハイマー病の診断を受けていない閉経後女性8万4,739例のデータを得た。

 条件付きロジスティック回帰分析を用いて、アルツハイマー病のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。

リスクが9~17%増加、開始年齢は決定因子ではない
 アルツハイマー病と診断された女性では、8万3,688例(98.8%)が60歳以上であり、4万7,239例(55.7%)は80歳以上であった。アルツハイマー病女性のうち、5万8,186例(68.7%)はホルモン補充療法を受けておらず、1万5,768例(18.6%)が全身療法(エストラジオール単剤、エストロゲンと黄体ホルモン製剤[酢酸ノルエチステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、その他の製剤または配合薬]の併用など)を、1万785例(12.7%)が膣内エストラジオール療法を受けていた。

 アルツハイマー病群は対照群に比べ、全身ホルモン補充療法を受けている女性の割合が有意に高く(18.6% vs.17.0%、p<0.001)、膣内エストラジオール療法を受けている女性の割合は有意に低かった(12.7% vs.13.2%、p=0.005)。両群間で、全身ホルモン補充療法の施行期間に有意な差はなかった。

 全身ホルモン補充療法の使用により、アルツハイマー病のリスクは9~17%増加した。全身ホルモン補充療法のうち、エストラジオール単剤(OR:1.09、95%CI:1.05~1.14)とエストロゲン+黄体ホルモン製剤併用(1.17、1.13~1.21)で、リスクに差はなかった。エストロゲン+黄体ホルモン製剤併用療法におけるアルツハイマー病のリスク上昇には、個々の黄体ホルモン製剤の種類による差はなく、いずれの薬剤でも有意にリスクが高かった。

 一方、治療開始年齢が60歳未満の女性では、投与期間が10年以上に及ぶと、リスクが有意に上昇した(エストラジオール単剤のOR:1.07、1.00~1.15、p=0.04、エストロゲン+黄体ホルモン製剤1.20、1.13~1.26、p<0.005)。また、全身ホルモン補充療法の開始年齢はアルツハイマー病のリスク上昇の確固たる決定因子ではなかった。さらに、膣内エストラジオール療法を専用した場合、リスクへの影響は認めなかった(OR:0.99、95%CI:0.96~1.01)。

 アルツハイマー病群では、全身ホルモン補充療法を受けた女性は、膣内エストラジオール療法を受けた女性や、ホルモン補充療法を受けていない女性に比べ、アルツハイマー病の発症時期がより早期であった。

 著者は、「絶対値として、ホルモン補充療法を受けている70~80歳の女性1万人当たり、受けていない場合に比べアルツハイマー病の診断が年に9~18件多くなり(発症率:105件/1万人年)、とくに投与を10年以上継続している女性ではリスクが高いと推測される」とまとめ、「ホルモン補充療法の使用者には、アルツハイマー病の絶対リスクの上昇が小さくても、長期の使用に伴うリスクの可能性はあると伝えるべきだろう」としている。

(医学ライター 菅野 守)