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日本人統合失調症患者における長時間作用型抗精神病薬の使用と再入院率~全国データベース研究

 統合失調症患者に対する抗精神病薬の長時間作用型持効性注射剤(LAI)について、現在の処方状況および臨床結果を調査することは重要である。国立精神・神経医療研究センターの臼杵 理人氏らは、日本での統合失調症患者に対する抗精神病薬LAIについて、その処方割合と再入院率に関する調査を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2019年12月25日号の報告。 日本のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて、オープンデータセットを作成した。統合失調症の患者レコードを使用した。分析(1)において、2015年2月~2017年3月に精神科施設を受診した外来患者に対する抗精神病薬の処方割合を調査した。分析(2)においては、精神科施設を初回退院後90日以内に抗精神病薬LAIによる治療を受けた患者を対象に、退院後365日間の再入院率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬による治療を受けた統合失調症外来患者のうち、LAIの処方割合は3.5%であった。・再入院率は、統合失調症患者全体で41.0%、定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で36.2%、非定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で23.5%であった。 著者らは「日本での統合失調症治療において、抗精神病薬LAIは、まだ十分に普及していない。非定型抗精神病薬LAIは、定型抗精神病薬LAIと比較し再入院率が低かった。本結果は、今後の研究を行ううえで重要な基本情報となりうるが、集約データベースとデータベースの構造によって一般化可能性が制限されると考えられるため、解釈には注意が必要である」としている。

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新型コロナウイルスのゲノムの特徴/Lancet

 2019年12月に中国・武漢市で患者が報告され、その後、病原体として同定された新型コロナウイルス(2019-nCoV)について、中国疾病予防管理センターのRoujian Lu氏らがゲノム配列を調べた。その結果、2019-nCoVはSARS-CoVとは異なり、ヒトに感染する新たなβコロナウイルスと考えられた。系統解析では、コウモリがこのウイルスの最初の宿主である可能性が示唆されたが、武漢市の海鮮卸売市場で販売されている動物はヒトでのウイルス出現を促進する中間宿主である可能性が示された。さらに構造解析から、2019-nCoVがヒトのアンジオテンシン変換酵素(ACE)2受容体に結合できる可能性が示唆された。Lancet誌オンライン版2020年1月30日号に掲載。 著者らは、入院患者9例(うち8例は海鮮卸売市場を訪れた症例)の気管支肺胞洗浄液サンプルと培養分離株の次世代シークエンシングを行った。これらの症例から全体および部分的な2019-nCoVゲノムシークエンスを取得し、2019-nCoVゲノムとほかのコロナウイルスの系統解析を用いてウイルスの進化について同定し、可能性のある起源を推定した。 主な結果は以下のとおり。・9例から得られた2019-nCoVの10のゲノム配列は非常に類似し、同一性は99.98%以上だった。・2018年に中国東部の舟山で収集された2匹のコウモリ由来の重症急性呼吸器症候群(SARS)様コロナウイルス(bat-SL-CoVZC45、bat-SL-CoVZXC21)は、2019-nCoV と88%の同一性であった。しかし、SARS-CoV(約79%)およびMERS-CoV(約50%)とは同一性は低かった。・系統解析により、2019-nCoVはβコロナウイルス属サルべコウイルス亜属に分類され、最も近縁のbat-SL-CoVZC45およびbat-SL-CoVZXC21より比較的長い分岐長を有し、SARS-CoVとは遺伝的に異なることが認められた。・ホモロジーモデリングから、2019-nCoVはキーである残基におけるアミノ酸変化にもかかわらず、受容体結合ドメイン構造がSARS-CoVと似ていることがわかった。

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3人に1人が臨床試験の結果を公表していなかった(解説:折笠秀樹氏)-1178

 臨床試験を実施しても結果を公表しないのは資源の無駄に当たるとともに、参加された被験者へも無責任ということで、2007年に米国FDAは法律(FDAAA)を取りまとめた。2017年には施行され、2018年1月から完全実施となった。その法律によると、臨床試験は終了後1年以内に登録サイトへ結果を公表しなければならない。米国で登録サイトというと、ほぼすべてが「ClinicalTrials.gov」に当たる。終了とは何かというと、最後の観察測定が取られた時点を指す。いわゆるLPO(Last Patient Out)から1年以内ということであり、データの固定時ではない。 2018年1月に本法律が完全実施されたため、2018年3月~2019年9月に「ClinicalTrials.gov」へ登録された全試験、4,209試験を調査対象とした。終了後1年以内の公表率は40.9%にすぎなかった。1年以降でも公表された割合は63.8%だった。せっかく臨床試験を実施しても、何も公表していないのが3分の1もあった。ヘルシンキ宣言によると、35条に事前登録、36条に結果の公表は研究者の責務と書かれている。これを守っていない研究者が3人に1人もいるという実態が明らかになった。 この法律に違反すると、1日遅れるごとに1万ドル(約100万円)、主宰者(スポンサー)から徴収することになっている。1ヵ月遅れたら3,000万円にもなる。これはFDAによる法律のため、実際には国の認可を求める製薬企業が対象と思われる。そのためか、製薬企業の遵守率(終了1年以内公表率)は高かった。政府主導では31.4%なのに、製薬企業では45~50%程度だった。大企業(ノバルティス、ギリアド、グラクソ・スミスクライン、ファイザー、ロシュ、アストラゼネカ)では、92~100%というほぼ完璧な遵守率だった。 多くの臨床試験を実施しているMD Anderson Cancer CenterやNational Cancer Instituteでも30%程度の遵守率だったが、Sloan Kettering Cancer Centerは91.7%、University of North Carolina at Chapel Hillは81.3%と高い施設もあった。それでも、最終的公表率でみると80%以上だった。また、臨床試験を数多く実施している主宰者では公表率は高く、あまり行っていないところでは低かった。 終了1年以内と最終的公表率の違いをみると、企業主導では50.3%が64.5%へ増えただけなのに、政府主導では31.4%が74.2%へ急増していた。企業主導ではFDAの法律を意識しており、終了1年以内の公表率が高かったのだろう。政府主導では1年以内は守っていないが、最終的には論文化など公表しておかないとグラント申請に影響するため、最終的な公表率は高かったと思われる。

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慢性炎症性皮膚疾患、帯状疱疹リスクと関連

 アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性炎症性皮膚疾患(CISD)と帯状疱疹の関連が示された。米国における横断研究の結果、帯状疱疹ワクチン接種が低年齢層で推奨されているにもかかわらず、多くのCISDで帯状疱疹による入院増大との関連が認められたという。米国・ノースウェスタン大学フェインバーグ医学院のRaj Chovatiya氏らが報告した。CISD患者は、帯状疱疹の潜在的リスク因子を有することが示されていたが、CISDの帯状疱疹リスクについては、ほとんど知られていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究を行い、CISDに特異的なワクチンガイドラインを確立する必要があるだろう」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年1月17日号掲載の報告。 研究グループは、CISDと帯状疱疹の関連を明らかにする目的で、2002~12年の全米入院患者サンプル(Nationwide Inpatient Sample)のデータを用いて、米国の入院患者の代表コホート(小児と成人6,808万8,221例)について解析を行った。 年齢、性別、人種/民族、保険状況、世帯収入、および長期の全身性コルチコステロイド使用を含む多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・帯状疱疹による入院と、アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比[OR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.14~1.68)、乾癬(4.78、2.83~8.08)、天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、類天疱瘡(1.77、1.01~3.12)、菌状息肉症(3.79、2.55~5.65)、皮膚筋炎(7.31、5.27~10.12)、全身性強皮症(1.92、1.47~2.53)、皮膚エリテマトーデス(1.94、1.10~3.44)、白斑(2.00、1.04~3.85)、サルコイドーシス(1.52、1.22~1.90)との関連が認められた。・扁平苔癬(補正前OR:3.01、95%CI:1.36~6.67)、セザリー症候群(12.14、5.20~28.31)、限局性強皮症(2.74、1.36~5.51)、壊疽性膿皮症(2.44、1.16~5.13)は、二変量モデルにおいてのみオッズ比の上昇が示された。・60歳未満および50歳未満の感度解析でも、類似の結果が示された。・CISDにおける帯状疱疹の予測因子は、「女性」「慢性症状がより少ない」「長期にわたるコルチコステロイドの全身使用」などであった。

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米国うつ病患者の薬物療法と治療パターン

 ケアの潜在的なギャップを特定するためには、リアルワールドで患者がどのように治療されているか理解することが不可欠である。米国・Janssen Research & DevelopmentのDavid M. Kern氏らは、現在の米国におけるうつ病に対する薬理学的治療パターンについて解析を行った。BMC Psychiatry誌2020年1月3日号の報告。 2014年1月~2019年1月に、4つの大規模な米国レセプトデータベースよりうつ病患者を特定した。対象は2回以上のうつ病診断歴またはうつ病入院患者で、最初のうつ病診断の1年以上前および診断後3年間にデータベースへの登録がある患者を適格とした。対象患者に対する治療パターンは、薬剤クラスレベル(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬、その他の抗うつ薬、抗不安薬、催眠鎮静薬、抗精神病薬)で、利用可能なすべてのフォローアップ期間中に収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象のうつ病患者は、26万9,668例であった。・フォローアップ期間中に、薬理学的治療を行っていなかった患者の割合は29~52%であった。・治療を行っていた患者の約半数は、2つ以上の異なるクラスの薬剤で治療が行われていた。また、3クラス以上の薬剤で治療が行われていた患者は4分の1、4クラス以上の薬剤で治療が行われていた患者は10%以上であった。・最も一般的な第1選択薬はSSRIであったが、多くの患者において抗うつ薬治療前に、抗不安薬、催眠鎮静薬または抗精神病薬による治療が行われていた。・クラス間の併用による治療は、第1選択薬での治療の約20%から第4選択薬での治療の40%の範囲内で認められた。 著者らは「うつ病と診断された多くの患者は治療を受けていない。また、治療を受けていた患者の多くは、最初の治療が抗うつ薬以外の薬剤によって行われていた。半数以上の患者は、フォローアップ期間中に複数のタイプの治療を受けており、多くの患者において初回治療が最適ではなかった可能性が示唆された」としている。

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日焼け止めの有効成分6種、体内吸収後に血中へ/JAMA

 4つの形態の日焼け止め製品に含まれる6種の有効成分について、いずれも体内に吸収されて血中に移行し、さらなる安全性研究に進む基準となる米国食品医薬品局(FDA)の最大血漿中濃度閾値(0.5ng/mL)を上回ることが、米国・FDAのMurali K. Matta氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年1月21日号に掲載された。FDAによる既報のパイロット研究では、日焼け止めの4種の活性成分(アボベンゾン、オキシベンゾン、オクトクリレン、エカムスル)の体内吸収が報告されている。他の活性成分の体内吸収を確認するとともに、FDAの基準値である0.5ng/mLを上回る迅速な体内曝露を評価する研究が求められていた。日焼け止め6種の活性成分を4形態で比較する無作為化試験 研究グループは、日焼け止めの6種の有効成分(アボベンゾン、オキシベンゾン、オクトクリレン、ホモサレート、オクチサレート、オクチノキサート)の体内吸収と薬物動態を評価する目的で、4つの形態(ローション、エアロゾルスプレー、非エアロゾルスプレー、ポンプスプレー)の製品を比較する無作為化試験を実施した(米国FDAの助成による)。 本研究は、2019年1月~2月の期間に単一の施設で行われた。健康な48人を対象とし、4つの形態の日焼け止め製品の塗布を受ける群に、12人ずつ無作為に割り付けられた。 日焼け止め製品は、4日間で13回塗布された。第1日に体表面積の75%に2mg/cm2が塗布され、第2~4日には同じ用量を1日に4回、2時間ごとに塗布された。個々の参加者から21日間で34の血液サンプルを採取し評価した。 主要アウトカムは、第1~21日における日焼け止めの有効成分の1つであるアボベンゾンの最大血漿中濃度とした。副次アウトカムは、第1~21日における日焼け止めの6種の有効成分であるオキシベンゾン、オクトクリレン、ホモサレート、オクチサレート、オクチノキサートの最大血漿中濃度であった。日焼け止めの全活性成分が第1日の単回塗布で閾値を上回る 48人のベースラインの平均年齢は38.7(SD 13.2)歳で、24人(50%)が女性であった。23人(48%)が白人、23人(48%)がアフリカ系米国人、1人(2%)がアジア人、1人は人種/民族が不明だった。 日焼け止めの6種の有効成分の最大血漿中濃度の幾何平均は、いずれも0.5ng/mLを超えており、焼け止めのすべての活性成分単回塗布後の第1日に、このFDAの閾値を上回った。 第1~21日におけるアボベンゾンの最大血漿中濃度幾何平均(変動係数[%])は、ローションが7.1ng/mL(73.9%)、エアロゾルスプレーが3.5ng/mL(70.9%)、非エアロゾルスプレーが3.5ng/mL(73.0%)、ポンプスプレーは3.3ng/mL(47.8%)であった。また、第1日はそれぞれ1.6ng/mL(49.0%)、1.2ng/mL(90.6%)、1.0ng/mL(65.2%)、0.7ng/mL(64.5%)で、第4日は7.1ng/mL(73.9%)、3.5ng/mL(70.9%)、3.5ng/mL(73.0%)、3.1ng/mL(40.3%)だった。 第1~21日のオキシベンゾンの最大血漿中濃度幾何平均(変動係数[%])は、ローションが258.1ng/mL(53.0%)、エアロゾルスプレーが180.1ng/mL(57.3%)であり、オクトクリレンはローションが7.8ng/mL(87.1%)、エアロゾルスプレーが6.6ng/mL(78.1%)、非エアロゾルスプレーが6.6ng/mL(103.9%)で、ホモサレートはエアロゾルスプレーが23.1ng/mL(68.0%)、非エアロゾルスプレーが17.9ng/mL(61.7%)、ポンプスプレーが13.9ng/mL(70.2%)、オクチサレートはエアロゾルスプレーが5.1ng/mL(81.6%)、非エアロゾルスプレーが5.8ng/mL(77.4%)、ポンプスプレーが4.6ng/mL(97.6%)、オクチノキサートは非エアロゾルスプレーが7.9ng/mL(86.5%)、ポンプスプレーが5.2ng/mL(68.2%)であった。 探索的評価では、日焼け止めの4つの形態の製品のすべての活性成分は半減期が長いことが示された(平均値の範囲:27.3~157.4時間)。 日焼け止め成分による重篤な薬剤関連の有害事象の報告はなかった。最も頻度の高い有害事象は皮疹であり、14例に認められた。 著者は、「この結果は、日焼け止めの使用は控えるべきと示唆するものではない」と指摘し、「これらの知見の臨床的意義を検証するために、さらなる検討を要する」としている。

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進行非小細胞肺がんへの初回治療としての免疫治療薬併用療法について(解説:小林英夫氏)-1176

 2018年のノーベル医学賞を受賞された本庶 佑博士が発信されたがん免疫療法は、実地臨床でも急速に普及している。肺がん治療の柱は、手術療法、化学療法(殺細胞性抗悪性腫瘍薬)、放射線療法、さらに1990年代以降に加わった分子標的治療薬の4者が基本である。この分子標的治療薬の中でも腫瘍細胞が宿主免疫機構から逃避する機序を阻害する、そして本来有している免疫応答機能を回復・保持する治療薬が免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫療法)である。治療の4本柱をどのように使い分けるか、またどう組み合わせれば治療効果をより高めるかについて、これまでもそして現在も精力的な検討がなされている。 本論文はがん免疫療法薬の中から、抗PD-1(programmed cell death 1、プログラム細胞死1)抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)と、抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4)抗体であるイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用効果を検討している。両者の併用は他の悪性腫瘍に有効であることがすでに報告されている。結果は、進行非小細胞肺がんの初回治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用群は、白金製剤を主とした化学療法群よりもOS(overall survival、全生存率)が優れることが確認された。ただ、本論文は大規模研究(CheckMate-227)のpart 1報告であるため、設定した対象群や方法のすべてが結果章で記載されておらず、やや消化不良な側面もある。また本報告の要約は、「ニボルマブ+低用量イピリムマブ、NSCLCのOS有意に改善(CheckMate-227)/ESMO2019」(2019年10月22日配信)でもう少し詳しく掲載されている。 本結果の最大の注目点はPD-L1発現レベルの多寡を問わず、化学療法よりも免疫療法併用群が臨床的に意味のあるOS改善を示したことにある。すなわち、有効性を期待できる症例が大きく増加する可能性が示唆されたことが大きな成果であろう。そして、免疫療法薬同士にとどまらず、他の治療法との組み合わせも含めて肺がん治療はまだまだ発展が期待できる。 ちなみに、本研究には日本のデータも含まれているが、現時点では本邦におけるヤーボイは肺がんへの適応は未取得であり、これからの追加取得が待ち遠しい。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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脂肪萎縮症〔lipodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義脂肪萎縮症は、脂肪細胞機能の異常により、脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少・消失し、それに起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)および脂肪肝などを合併する疾患の総称で、エネルギー摂取不良による痩せとは区別される。■ 疫学脂肪萎縮症の有病率についての報告は少ない。わが国においては、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果、2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定される。米国では、100~500万人に1人と推定されている。■ 病因脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が減少・消失する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の身体領域に限局して脂肪組織が減少・消失する部分性脂肪萎縮症に大別される。原因として、遺伝子異常、自己免疫、ウイルス感染、薬剤などが知られている。主に、脂肪細胞の発生・分化や、脂肪組織における脂質蓄積に関わる遺伝子変異が原因であることが知られているが、その詳細は明らかではない。原因遺伝子としては、先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF遺伝子が、家族性部分性脂肪萎縮症ではLMNA、PPARG、AKT2、PLIN1、CIDEC、LIPE遺伝子が報告されている。遺伝性が疑われるが、原因遺伝子が特定されていない症例もある。また、脂肪萎縮を発症しやすい特定の自己免疫疾患やウイルス感染は解明されていない。薬剤性としては、ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬やプロテアーゼ阻害薬などのHIV治療薬による後天性部分性脂肪萎縮症がある。■ 症状先天性全身性脂肪萎縮症では、生下時より全身性の脂肪組織の減少・消失が認められるが、家族性部分性脂肪萎縮症では、乳幼児期の脂肪組織分布は正常で、小児期あるいは思春期に四肢の脂肪組織が減少・消失してくることが多い。また、後天的に脂肪萎縮症を発症する症例の中には、ウイルス感染を契機として、短期間に全身の脂肪萎縮に至る症例もある。脂肪萎縮症では、原因のいかんにかかわらず、糖尿病、高中性脂肪血症などの糖脂質代謝異常および脂肪肝を高頻度に合併する。脂肪萎縮の程度と、代謝異常の重症度は相関するとされている。脂肪萎縮に伴う糖尿病は、とくに「脂肪萎縮性糖尿病」とも呼ばれ、重度のインスリン抵抗性のために従来の経口血糖降下薬は無効であり、インスリンを大量に使用しても十分な血糖コントロールが得られないことがしばしばである。また、黒色表皮腫、女性症例では多嚢胞性卵巣を伴う月経異常が高頻度に認められる。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは著しく低下し、食欲は亢進する。まれに精神発達遅滞、下顎顔面異形成、早老症を合併することもある。■ 分類脂肪萎縮症は、脂肪萎縮の程度や部位により、全身性脂肪萎縮症あるいは部分性脂肪萎縮症に大別される。さらに脂肪萎縮の原因により、それぞれ先天性あるいは後天性に区別されることから、典型的には先天性全身性脂肪萎縮症、後天性全身性脂肪萎縮症、家族性部分性脂肪萎縮症、後天性部分性脂肪萎縮症の4つに分類される。薬剤の皮下注射や皮下脂肪織炎、圧迫などにより、狭い範囲に限局した脂肪萎縮が起こることがあるが、脂肪萎縮に起因する代謝異常の合併はない。■ 予後脂肪萎縮症は、糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などにより、平均寿命は30~40歳ともいわれる予後不良な疾患である。レプチン補充治療は、合併する代謝異常の改善に有効で、予後の改善が期待される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)〔診断基準〕■ 脂肪萎縮症の診断脂肪組織の萎縮の確認低栄養や消耗性疾患などによる痩せの除外病歴聴取による先天性、後天性の判断先天性→遺伝子解析により原因遺伝子に異常を認めた場合には確定後天性→発症原因が明らかである場合には確定インスリン抵抗性高中性脂肪血症脂肪肝※中尾一和・編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社; 2013. より引用■ 脂肪萎縮症を強く示唆する臨床的特徴脂肪萎縮症の主要臨床症候全身あるいは部分的な皮下脂肪の減少または欠損家族性部分性脂肪萎縮症の主要臨床症候思春期以降に発症する四肢や臀部の皮下脂肪の減少(頭頸部や腹部の脂肪は残存もしくは過剰に蓄積)脂肪萎縮症を示唆する臨床的症候1)重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病の存在(1)高用量のインスリン治療を必要とする糖尿病(200単位/日以上、2単位/体重kg/日以上、U-500インスリン製剤の使用など)(2)ケトーシスに陥りにくい糖尿病2)重度のインスリン抵抗性を示唆するその他の所見(1)黒色表皮腫(2)PCOSあるいはPCOS様の症候(高アンドロゲン血症、過少月経、多嚢胞性卵巣など)3)高中性脂肪血症の存在(1)重度の高中性脂肪血症(500mg/dL以上)(2)食事療法などの治療への反応が乏しい(250mg/dL以上)(3)高中性脂肪血症に起因する膵炎の既往4)脂肪肝や脂肪性肝炎の存在(1)明らかな原因(例: ウイルス感染)のない、肝腫大や血中トランスアミナーゼ値の上昇などの非アルコール性脂肪肝に合致する所見(2)脂肪肝の画像所見(超音波検査やCT)5)身体的症候や脂肪組織の減少に関する家族歴6)四肢の著明な筋肥大や静脈の怒張7)体格に見合わない過食(食事を止められない、空腹で目が覚める、食欲と葛藤しているなど)8)2次性の性腺機能低下(男性)、原発性あるいは2次性の無月経(女性)※米国臨床内分泌学会[AACE]のコンセンサスステートメントより引用3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脂肪萎縮症の治療は、脂肪萎縮に対する治療と脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療に大別される。最近承認されたレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する合併症を改善させる。■ 脂肪萎縮に対する治療現時点では、脂肪萎縮に対する根本的な治療法はない。後天性の脂肪萎縮については、原因疾患の治療、すなわち皮下脂肪織炎の治療、自己免疫異常の治療、HIV関連脂肪萎縮症ではHIV感染によるものと治療薬によるものを区別して治療する必要がある。脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγを活性化させるチアゾリジン誘導体は、全身性脂肪萎縮症では無効、部分性脂肪萎縮症では残存脂肪組織を肥大させたのみで脂肪分布異常を改善しなかったと報告されている。また、後述するレプチン補充治療によっても、脂肪萎縮は改善しない。■ 脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療従来は、低脂肪食を中心とした食事療法や運動療法のみであった。わが国ではIGF-I製剤による治療が試みられたが、その治療効果は限定的である。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンが欠乏しており、生理量のレプチン(商品名: メトレレプチン)を補充するレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)、脂肪肝などの合併症を改善させる。さらに、亢進した食欲を抑制し、食事療法を行いやすくする。レプチン補充治療は、2013年に世界で初めてわが国で承認され、2014年には米国でも承認された。4 今後の展望今後、脂肪萎縮に対する根本的な治療法の開発が期待される。とくに原因遺伝子が同定されている脂肪萎縮症については、脂肪萎縮の発症機序を明らかにすることで、脂肪の再生治療を含めた、新規治療法が開発される可能性がある。また、最近、少数例ではあるが、全身性あるいは部分性の脂肪萎縮とともに付随する特徴的な身体徴候(早老症様顔貌、皮膚病変、骨病変など)を呈する疾患群が報告されてきており、典型例とは区別する必要がある。5 主たる診療科内分泌代謝内科、糖尿病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脂肪萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)認定NPO法人日本ホルモンステーション 脂肪萎縮症委員会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Garg A. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:3313-3325.2)海老原健ほか.肥満研究. 日本肥満学会. 2011;17:15-20.3)中尾一和 編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社;2013.4)Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013;19:107-116.5)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.6)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:4500-4511.7)日本内分泌学会. 脂肪萎縮症診療ガイドライン. 2018;94:1-31.公開履歴初回2015年02月12日更新2020年02月03日

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アルポート症候群〔AS:Alport syndrome〕

1 疾患概要1-3)■ 概念・定義アルポート症候群(Alport syndrome:AS)は、古典的には進行性の遺伝性腎症(しばしば腎炎とも呼ばれる)に難聴を伴う症候群をさすが、近年ではIV型コラーゲン遺伝子バリアントによるものとするのが一般的である2、3)。■ 疫学約8割がX連鎖型であるが、常染色体劣性・優性のものもある。頻度は欧米の報告では1/5,000~1/10,000で、人種差や地域差はないと考えられている。また、約50,000出生に1例との報告がある。■ 病因1,3)ASの原因は、IV型コラーゲンの遺伝子バリアントである。1)IV型コラーゲンとα鎖IV型コラーゲンの網目状ネットワークを形成する基本分子はモノマーと呼ばれ、3本のα鎖がらせんを巻いた構造をしている。α鎖はN末端側のGly-X-Yの繰り返し構造をもつ約1,400残基のコラーゲンドメイン(collagenous domain)と、C末端側の約230残基の非コラーゲンドメイン(NC domain)からなる。IV型コラーゲンの構成鎖はαl〜α6鎖が知られているが、α6鎖は糸球体基底膜には存在しない。生体においてらせんを形成する3本のα鎖の組み合わせは、(1)αl-α1-α2、(2)α3-α4-α5、(3)α5-α5-α6の3種類である。2つのモノマーがC末端側の非コラーゲンドメインで結合してダイマー、4つのモノマーがN末端側のコラーゲンドメインで結合してテトラマーを形成する。モノマー、テトラマーが互いに絡み合い、かつ側面で結合しIV型コラーゲンのネットワーク構造を形成する。α1、α2鎖は糸球体基底膜以外にもメサンギウム基質、尿細管基底膜、血管基底膜など、腎組織に広範に存在する。一方、α3、α4、α5鎖は糸球体基底膜、ボーマン嚢、一部の尿細管基底膜に限局して存在する。α6鎖は糸球体基底膜には存在せずボーマン嚢に発現している。2)IV型コラーゲン遺伝子1,3)IV型コラーゲン遺伝子はいずれも非常に大きく約250kbある。αl、α2鎖をコードするCOL4A1、COL4A2遺伝子は13番染色体上に、α3、α4鎖をコードするCOL4A3、COL4A4遺伝子は2番染色体上に、α5、α6鎖をコードするCOL4A5、COL4A6遺伝子はX染色体上に存在する。したがって、大部分を占めるX連鎖型ではα5鎖、常染色体性ではα3またはα4鎖の遺伝子バリアントが原因である。これらの遺伝子バリアントにより、糸球体基底膜に存在するIV型コラーゲン分子のネットワークの破綻が引き起こされる。■ 症状3)病初期には血尿が唯一の所見となる。血尿は持続性の顕微鏡的血尿に、発熱時などに肉眼的血尿を伴うことが多い。タンパク尿は進行とともに増加していき、ネフローゼ症候群を呈することもよくある。発熱時の肉眼的血尿はIgA腎症でもしばしばみられることがよく知られているが、ASでも珍しくないことに留意が必要である。特徴的な難聴や眼病変がみられれば診断上有用である。難聴は神経性(感音性)難聴で、7~10歳頃両側性に出現し、まず高周波領域における聴力低下が起こり、進行性に増悪していく。患者の約1/3に難聴がみられるが、男児に多く、女児にはまれである。本人、家族に難聴がみられなくても、本症であることがしばしばあり、注意が必要となる。眼病変としてはanterior lenticonus、posterior subcapsular cataract、posterior polymorphous dystrophy、retinal flecksなどがある。びまん性平滑筋腫症(diffuse leiomyomatosis)の合併が認められることがある。本症は良性の平滑筋細胞の増殖で、食道での報告が多い。本症合併例ではCOL4A5遺伝子5'端とCOL4A6遺伝子5'端を含む欠失が報告されており、食道にはα6鎖が多く発現していることから、本症責任遺伝子はα6鎖遺伝子と考えられている。■ 分類先述の通り、遺伝形式は80%がX連鎖型であるが、常染色体劣性(15%)・優性(5%)のものもある。常染色体優性遺伝形式を示し、複数世代で血尿を認めるが腎不全に進行しない家系において、臨床的に良性家族性血尿と呼ばれてきた。しかし、遺伝子解析の進歩・普及により、これらにおいてIV型コラーゲン遺伝子バリアントが原因となることが明らかになり、これらの家系のバリアントがペアとなって遺伝した場合に、常染色体劣性型ASになる。さらに、片方のアリルのバリアントのみでもまれに末期腎不全に進行する場合があり、この患者は常染色体優性型ASということになる。したがって、近年ではASと良性家族性血尿の境界は曖昧である2,3)。■ 予後ASの重症度は、腎機能、難聴の程度、視力により規定される。本症候群は進行性の慢性腎症であるが小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至る例が多い。腎保護薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は、X連鎖型男性患者で25歳までに50%、42歳までに90%とされる。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは少ないと考えられていたが、近年ではX連鎖型女性患者でも中年期以降腎不全に進行することも珍しくなく、蛋白尿が持続する症例では注意がいる。X連鎖型女性に関しては、40歳までに12%、60歳以降に30~40%が末期腎不全に進行するということが判明している。一方、X連鎖型では原因遺伝子バリアントを有するが無徴候の女性例が約10%存在し、本人はまったく正常であっても子供に発症する場合がある。この場合、家系内で世代間に隔たりがあるようにみえるが、それにより本症候群を否定してはいけない。また、X連鎖型女性患者が男性と同様に重症で、10代後半に末期腎不全に進行することもある。このようにX連鎖型女性患者の重症度はバリエーションに富んでおり、胎児期早期に起きるX染色体の不活化によるものと推測されている。一方、男性患者の重症度は遺伝子バリアントパターンによるところが大きい。常染色体性ASでは、症状に男女差はなく予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)3)ASの診断基準を表に示す。血尿患者をみたときに、患者やその家族が積極的に家族の検尿異常を述べるとは限らないので、必ずできる限り詳細に家族歴を聴取し、家族性の尿異常をもらさないことが重要である。家族に尿異常者がある場合は、腎不全の有無を詳細に確認し、腎不全の家族歴がある場合は腎生検を施行する。表 アルポート症候群診断基準(平成27年2月改訂)●主項目に加えて副項目の1項目以上を満たすもの。●主項目のみで副項目がない場合、参考項目の2つ以上を満たすもの。※主項目のみで家族が本症候群と診断されている場合は「疑い例」とする。※無症候性キャリアは副項目のIV型コラーゲン所見(II-1かII-2)1項目のみで診断可能である。※いずれの徴候においても、他疾患によるものは除く。たとえば、糖尿病による腎不全の家族歴や老人性難聴など。タイトルI.主項目:I-1 持続的血尿 *1II 副項目:II-1IV型コラーゲン遺伝子変異 *2II-2IV型コラーゲン免疫組織化学的異常 *3II-3糸球体基底膜特異的電顕所見 *4III 参考項目:III-1腎炎・腎不全の家族歴III-2両側感音性難聴III-3特異的眼所見 *5III-4びまん性平滑筋腫症厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」班*1 3ヵ月は持続していることを少なくとも2回の検尿で確認する。まれな状況として、疾患晩期で腎不全が進行した時期には血尿が消失する可能性があり、その場合は腎不全などのしかるべき徴候を確認する。*2 IV型コラーゲン遺伝子変異:COL4A3またはCOL4A4のホモ接合体またはヘテロ接合体変異、またはCOL4A5遺伝子のヘミ接合体(男性)またはヘテロ接合体(女性)変異をさす。*3 IV型コラーゲン免疫組織化学的異常:IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型アルポート症候群の男性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜は一部が染色される。常染色体劣性アルポート症候群ではα3、4、5鎖が糸球体基底膜ではまったく染色されず、一方、ボーマン嚢と皮膚ではα5鎖が正常に染色される。注意点は、上述は典型的パターンであり非典型的パターンも存在する。また、まったく正常でも本症候群は否定できない。*4 糸球体基底膜の特異的電顕所見:糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化により診 断可能である。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意を要する。この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高い。また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できる。*5 特異的眼所見:前円錐水晶体(anterior lenticonus)、後嚢下白内障(posterior subcapsular cataract)、後部多形性角膜変性症(posterior polymorphous dystrophy)、斑点網膜(retinal flecks)など。ASがIV型コラーゲン異常によるものであることが判明し、特徴的な糸球体基底膜の電子顕微鏡所見やIV型コラーゲン異常が証明されれば、家族歴や難聴は診断に必須ではない。したがって、家族歴のない例ではASを念頭に置かないと正しく診断できないことがあり、注意を要する。すなわち、家族歴のない血尿症例においても突然変異例が含まれるので、原則的に血尿がみられる疾患はすべて鑑別疾患となる。したがって、非家族性血尿の症例においても腎生検をする場合には、電顕による糸球体基底膜の観察が重要である。小児期、特に10歳以下の症例では血尿が唯一の症状であることが多く、腎不全の家族歴が明らかでない場合、鑑別は困難である。家族性に血尿がみられるが腎不全の家族歴がない場合、その血尿患者の腎生検の適応は通常の腎生検の適応と同じであるが、経過中に腎不全の家族歴が確認された場合や本人に病的タンパク尿が持続するときは腎生検を施行し、糸球体基底膜の電顕による観察により鑑別することが重要である。1)ASの腎病理所見1,3)光学顕微鏡所見は非特異的である。泡沫細胞は高度タンパク尿によるもので、本症候群に特異的というわけではないが診断上参考になる。電子顕微鏡所見は特異的で、糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化がみられれば本症候群と診断できる。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ注意を要する。糸球体基底膜の厚さは正常では300nm以上あるが、良性家族性血尿や本症候群では150〜200nmと異常に薄い場合がみられ、糸球体基底膜が断裂して糸球体上皮細胞と内皮細胞が直接接触していることもある。本症候群の糸球体基底膜は、網目状変化のために肥厚した部分、異常に薄い部分、正常な部分が混在する。疾患の進行に伴い糸球体基底膜は肥厚し、薄い部分、正常な部分は減少していく。正確に評価された腎電顕所見により家族歴や難聴等の無い場合でも診断が可能である。2)免疫組織学的検索による診断1,3,4)IV型コラーゲン遺伝子バリアントの影響を蛋白レベル、すなわちα鎖の発現を検索し、本症候群の確定診断可能な場合がある。IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚上皮基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型ASの男性患者の糸球体、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、皮膚基底膜は一部が染色される。X連鎖型ASの男性患者の糸球体基底膜は正常では存在するα3鎖とα4鎖も欠損し、かつ疾患の重症度と関係を認める。注意を要する点は、上述は典型的パターンであり、非典型的パターンも存在する。また、抗α5鎖抗体を用いた染色が正常でも本症候群は否定できない。X連鎖AS男性患者の糸球体基底膜では、患者の一部にα5鎖が発現している例があり、これらの患者は非発現例と比較して、軽症例であることが明らかになっている5)。3)遺伝子診断1-3)確定診断のためα3〜α5鎖遺伝子のバリアントが検索されている。ゲノムDNAを用いてすべてのエクソンとプロモーター領域をPCRで増幅し、ダイレクトシークエンスを行うことで80%を超える遺伝子バリアントの検出率が得られる。さらに、RNAを使用する方法やMLPA法(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)などによりほぼ100%原因遺伝子バリアントが検出できる。近年では、次世代シーケンサを用いたパネル解析が有用である。ASの遺伝子診断について、原因遺伝子が大きくホットスポットもなく、現時点で労力とコストの面から考えて容易とは言えないが、遺伝子解析技術の進歩に伴い診断における意義が高まると考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)3)現時点では疾患特異的治療はなく、対症療法が中心である。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与により、腎機能障害進行阻止が可能となり、末期腎不全への進行年齢を遅らせられていることが報告されている。ただし、一般的にACEIやARB使用中は容易な脱水から腎機能低下を引き起こすので、水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。これまでの知見では、AS患者の透析導入後および腎移植後の予後は、他疾患に存在する腎予後に影響する併存合併症が少ないために良好であると考えられる。そのため、ASに対する腎代替療法を特別視することなく、他の慢性腎臓病と同様の腎代替療法導入基準・適応でよいと考えられる。各腎代替療法における注意事項としては、血液透析ではASに特異的な注意事項はないと考えられる。腹膜透析では血管基底膜への影響により被嚢性腹膜硬化症が増加するのではないかという可能性を論じた報告があるが推測の域を出ず、大規模データの予後結果を踏まえると、腹膜透析を避ける根拠にはならないと考えられる。腎移植においては、遺伝性疾患であるため生体腎移植時の腎提供者(ドナー)の問題、また、腎移植後の再発性腎炎(新規抗糸球体基底膜抗体腎炎)の問題が存在する。4 今後の展望■ 薬物療法近年、バルドキソロンメチルの治験がASで実施され、eGFRの改善において有効な結果が示されている(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03019185: A Phase 2/3 Trial of the Efficacy and Safety of Bardoxolone Methyl in Patients With Alport Syndrome – CARDINAL.■ 遺伝子治療遺伝子治療の1つとして、神戸大学小児科を中心にエクソンスキッピング療法の開発が進行中である(AMED:希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究薬事承認を目指すシーズ探索研究(ステップ0)「Alport症候群に対する新規治療法の開発」)。5 主たる診療科腎臓専門医(小児科、内科)、耳鼻科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 慢性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アルポート症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alport Syndrome Foundationホームページ(日本語の選択も可能)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nozu K, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:158-168.2)Kashtan CE, et al. Kidney Int.2018;93:1045-1051.3)日本小児腎臓病学会編集. アルポート症候群診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.p.1-85.4)Nakanishi K, et al. Kidney Int. 1994;46:1413-1421.5)Hashimura Y, et al. Kidney Int.2014;85:1208-1213.公開履歴初回2020年02月10日

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ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

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自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

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全身性強皮症〔SSc:systemic sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は、指趾から左右対称性に中枢側へと及ぶ線維性皮膚硬化を主徴とし、しばしば内臓(肺、食道病変の頻度が高い)にも線維性硬化を伴う慢性疾患である。■ 疫学わが国では約2万人が特定疾患として認定されている。しかし、見逃されている症例や他の膠原病とされている症例、軽症例では患者自身が受診していないことも多く、正確な患者数は不明である。男女比は1:12で、30~50歳代の女性に好発する。まれに、幼児期~小児期、70歳以降の高齢者に発症することもある。■ 病因SScの病因は不明である。本症は、(1)線維性硬化(皮膚におけるコラーゲンの過剰蓄積。内臓病変では臓器傷害部位をコラーゲンが置換する)、(2)末梢循環障害(レイノー現象、指趾潰瘍など)、(3)免疫異常(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体などの自己抗体産生)の3要素によって特徴付けることができる。ただし、自己抗体そのものが疾患を惹起しているわけではなく、SSc特異的自己抗体を産生しやすい遺伝的背景とSScを発症させる疾患感受性の遺伝的背景とが密接にリンクしていると考えられる。■ 症状初発症状としてはレイノー現象(典型例では、寒冷刺激などによって手指が白色、紫藍色、赤色の3相性に変化する。図1)、手指の腫脹・こわばり(図2)が多い。その後、強指症に代表される皮膚硬化が明確となり、皮膚潰瘍・壊疽、肺線維症(図3)、逆流性食道炎をしばしば伴う。手指の屈曲拘縮、肺高血圧症、心外膜炎、不整脈、右心不全、腎クリーゼ(乏尿と高血圧)、関節炎、筋炎、偽性イレウス(腸閉塞)(図4)、吸収不良、便秘、下痢など合併することがある。図1 レイノー現象による手指の蒼白化画像を拡大する図2 手指の浮腫性硬化画像を拡大する図3 肺線維症画像を拡大する図4 偽性イレウス画像を拡大する■ 分類強皮症にはSScと限局性強皮症(Localized scleroderma)とがある。SScは皮膚硬化が肘・膝を超えるびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous type SSc)と肘・膝より遠位側に留まる限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とに分類される。びまん皮膚硬化型は内臓病変が重症である確率が高い。びまん皮膚硬化型では、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の陽性率が高く、内臓病変は重症化しやすい。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体の陽性率が高く、生命予後に関わる内臓病変として肺高血圧症がある。SSc特異的自己抗体の有無は病型判別に役立つ。なお、皮膚硬化が部分的に生じる限局性強皮症(localized scleroderma)とSScの限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とは別疾患であり、混同してはならない。■ 予後日本人の成人発症SSc患者の10年生存率は88%である。先に述べたように、びまん皮膚硬化型SScでは内臓病変が重症化しやすく、内臓病変が生命予後を左右する。内臓病変は慢性に進行するわけではなく、重症例は発症5、6年以内に急速に進行することが多い。このような症例を正確に見極め、できるかぎり早期に治療を開始して組織破壊を抑制し、組織損傷を軽減することが重要である。一方、限局皮膚硬化型SScでは、肺高血圧症以外に重篤な内臓病変を合併することは少なく、生命予後について過度の心配は不要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SScは、症例毎に多彩な症状を呈するため、診断に際しては皮膚病変、内臓病変の正確な評価が不可欠である。分類(診断)基準案として厚生労働省研究班(表1)のものと、欧米リウマチ学会のもの(表2)を示す。表2はポイント制であり、早期例の診断に有用性が高い。特に、爪上皮の出血、後爪郭部毛細血管異常は早期診断には重要である(図5)鑑別すべき疾患として、腎性全身性線維症(造影剤を使用された腎不全患者に発症)、汎発型限局性強皮症(斑状強皮症、帯状強皮症などの限局性病変が多発したもの)、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群などが挙げられる(表1)。表1 全身性強皮症診断基準(厚生労働省研究班,2014)◎大基準両側性の手指を超える皮膚硬化◎小基準(1)手指に限局する皮膚硬化*1(2)爪郭部毛細血管異常*2(3)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指尖潰瘍*3(4)両側下肺野の間質性陰影(5)抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の何れかが陽性◎除外基準以下の疾患を除外すること腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群【診断の判定】大基準、あるいは小基準(1)および(2)~(5)のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する【注釈】*1:MCP関節よりも遠位に留まり、かつPIP関節よりも近位に及ぶものに限る*2:肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる、またはcapillaroscopyあるいはdermoscopyで全身性強皮症に特徴的な所見が認められる*3:手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く表2 アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類(診断)基準(2013)画像を拡大する図5 後爪郭部の毛細血管拡張と爪上皮内の点状出血画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点でSScを完治させる、あるいは進行を完全に抑制できる薬剤はない。しかし、ある程度の効果が期待できる治療薬は揃いつつある。(1)皮膚硬化に対する副腎皮質ステロイド(少量内服、20mg/日以下)(2)肺線維症(間質性肺炎)に対するシクロフォスファミド・パルス療法(点滴静注を1回/月、6回)(3)逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬(内服)(4)末梢循環障害に対するプロスタサイクリンなど(5)肺高血圧症、手指潰瘍再発に対するエンドセリン受容体拮抗薬(内服)(6)腎クリーゼに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(内服)4 今後の展望強皮症を含む自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序は不明である。近年の研究成果からは、自然免疫(innate immunity)の制御異常が注目されている。自然免疫は獲得免疫(acquired immunity)が成立するまでの期間に働く生体防御システムであり、外来性病原体に由来する、あるいは我々自身の体細胞に由来する物質の刺激によって始動する。これらの物質は生体の恒常性を破綻させる可能性があるため、自然免疫システムは炎症を起こしてこれら物質を排除しようとする。この炎症が上手くコントロールされて適切な段階で終息すれば正常状態であるが、炎症が遷延化して臓器損傷が慢性に進行するのが異常状態であり、これこそが自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序ではないかと推測されている。したがって、最初にスイッチオンする物質の種類、その後の自然免疫による炎症の強弱によって患者さんごとの多様な病態が形成されると考えられる。根本治療薬の開発は、発症機序の解明を待たねばならないが、炎症制御に関わるさまざまな生体物質を制御する薬剤(分子標的薬)の探索へと向かうであろう。5 主たる診療科皮膚科、膠原病内科(SScを専門とする医師がいることが望ましい)。罹患臓器の重症度によって呼吸器内科、循環器内科、消化器内科などに診療する。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター全身性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)平成26年度厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診断ガイドライン作成事業」(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

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「患者力」を上げるため、医師ができること

 ネット上の情報に振り回され、代替医療に頼ろうとする患者、自分で何も考えようとせず、すべてお任せの患者、どんな治療も拒否する患者…。本人がそう言うならば仕方がないとあきらめる前に、医師にできることはあるのか。2020年1月12~13日、「第1回医療者がリードする患者力向上ワークショップ」(主催:オンコロジー推進プロジェクト、共催:Educational Solution Seminar、アストラゼネカ)が開催された。本稿では、東 光久氏(福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)、上野 直人氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)、守田 亮氏(秋田厚生医療センター)による講演の内容を紹介する。まず患者の自己解決力を信じ、自信を与え、力をつける手伝いをする 「患者力を高める」、「患者をエンパワメントすべき」。近年よく耳にするようになったこれらの言葉だが、具体的に何を指すのか。東氏はまず、この2つの言葉について以下のようにまとめた。「患者力」とは 自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、いろいろな知識を習得したり、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢「Patient Empowerment」とは 患者が、患者力を自主的に発揮できるように、医療者が援助すること「前回何を話したか覚えていますか?」から診察をスタートしてみる 自身もがんを経験した上野氏は、「振り返ると私自身も決して高い“患者力”を持った患者ではなかった」と話す。専門医の自分でさえ難しかった感情のコントロールや後悔のない選択を、医療従事者はどうやってサポートしていけばよいのか。同氏は患者力を高めるために重要なスキルを、「コミュニケーション」「情報の吟味」「自己主張」の3つに分けて、患者力向上に向けて医療者ができることについて具体的に整理した。コミュニケーション・焦らせない、慢性疾患のスタンスで接する(決断を急がせない/急かす態度をとらない/パソコンをいじりながら話さない):同氏は、医師の中には「早く決めてほしい」という気持ちが顔に出ている人もいると指摘。・医師が話した内容を取得させる(録音・録画・同伴者と来院することを推奨):医師のほうから、録音の準備をしてきたらどうですか?と声がけする。・質問上手にさせる(質問をあらかじめ準備させる/質問のために別の時間を設定/質問を評価する):質問票を作ってくるように言って、質問が明確でないときはどこが明確でないのかを指摘する=ともにスキルアップ。情報の吟味・話す内容をできる限り分かりやすくする(専門用語は原則禁止だが、キーワードは専門用語と一般用語を両方伝える/図を多用):専門用語を正しく伝えることで、検索したときにヒットする情報が大きく変わる。・医師が話した内容を消化させる(医療者に説明してみてもらう←間違いや勘違いがあれば指摘/家族や友人に自分で説明してもらう):毎回診察のはじめに、前回何を話したか覚えているかを確認する。・標準治療の意味を理解させる(標準治療かそうでないかを説明/標準治療でない場合は、その理由をていねいに説明/臨床試験とは何かを説明):あらかじめ優良なサイトを紹介する、気になった情報があればプリントアウトして持ってきてほしいと伝えることも重要。自己主張・治療法を自分で選べるようにサポート(選択肢を数多く与えるだけではなく、優先順位とともに伝える):なぜその優先順位なのかを説明する。・自分の希望を伝えられるようサポート(価値観・職歴・趣味を知る努力):価値観は常に変化するので、治療開始直後の希望が変化していないとはかぎらない。医療者は常に患者から情報を引き出す努力が必要。・恐れないチャレンジをサポート(標準治療と臨床試験の違いを教育/臨床試験のオプションを提示/セカンドオピニオンについての教育と提示):ただし、人には詳しく聞きたい気分のときと聞きたくない気分のときがある。最初に「今日は詳しく聞きたいですか?」と尋ねるのも一手。劇的な治療効果が、医師の目を曇らせている? 「先生、皮膚にボツボツができて辛いです…」「この薬を使うと出る患者さんが多いんです。これだけ治療効果があるので、やめるのはもったいないですよ」。こんな診察風景に覚えはないだろうか。守田氏は、近年分子標的薬による治療の進歩が著しい肺がん領域を例に、医師と患者が感じる副作用のギャップについて講演した。 肺がん領域で使われるEGFR-TKIの副作用で多くみられるのが下痢や皮疹、爪の異常だが、生存に大きな影響は及ぼさないという点で医師は治療効果をどうしても優先させがちになる。しかし、がん患者が感じる副作用の“つらさ”についてのアンケート1)では、皮膚や爪の異常に対して感じるつらさは決して小さくなかった。さらにそのつらさを医療者に伝えたかという問いに対して、4割が伝えていないと答えていた。 また、同アンケートで約8割以上の人が「医療者に伝えられなかった」と答えたのが、“経済的なつらさ”だった。同氏が診療に従事する秋田県では農業従事者が多く、ある時期は集中的に働かないと年間収入が激減するので、その期間中は抗がん剤を休みたいという申し出があったという。治療効果という観点ではマイナスであっても、治療を続けていく患者自身にとっては譲れない点であるケースもありうる。そして、医師が真摯に「治すために」と強調するほど、経済的な問題点は言い出しにくくなってしまう。 医師は臨床試験における担当医判断による有害事象の発生状況を判断基準とすることが多いが、客観的評価であるCTCAEと患者自身の主観的な訴え(patient report)の間には差があることが報告されている2)。守田氏は、この隙間を埋めるために、医師のほか各職種がそれぞれの専門性を生かして患者力向上に取り組んでいくことが重要として、講演を締めくくった。

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慢性膵炎の疼痛緩和、早期外科治療vs.内視鏡/JAMA

 慢性膵炎患者の治療では、早期の外科治療は内視鏡による初期治療と比較して、1.5年の期間を通じて疼痛の緩和効果が優れることが、オランダ・アムステルダム大学のYama Issa氏らDutch Pancreatitis Study Groupが行った「ESCAPE試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年1月21日号に掲載された。疼痛を伴う慢性膵炎患者では、薬物治療および内視鏡治療が不成功となるまで、外科治療は延期される。一方、観察研究では、より早期の外科治療によって、疾患の進行が抑制され、より良好な疼痛管理と膵機能の保持が可能と報告されている。疼痛緩和効果を評価するオランダの無作為化試験 本研究は、オランダの30施設が参加した無作為化優越性試験であり、2011年4月~2016年9月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構などの助成による)。 対象は、膵管拡張を伴う閉塞性慢性膵炎による重度の疼痛がみられ、非オピオイド鎮痛薬では疼痛の進行を抑制できないため、オピオイド鎮痛薬の使用(強オピオイド≦2ヵ月、弱オピオイド≦6ヵ月)を開始した成人患者であった。 被験者は、無作為割り付けから6週間以内に外科的ドレナージ術を行う早期外科治療群、または至適な薬物療法が無効または許容できない有害事象が発現したため、内視鏡による初期治療を行う群(必要に応じて、体外衝撃波結石破砕術や外科治療を併用)に割り付けられた。 主要アウトカムは、18ヵ月間の追跡期間におけるIzbicki疼痛スコア(0~100点、点数が高いほど疼痛の重症度が高い)とした。副次アウトカムは、追跡期間終了時の疼痛消失、介入・合併症・入院の回数、膵機能、QOL(36-Item Short Form Health Survey[SF-36])、死亡であった。18ヵ月間の平均Izbicki疼痛スコア:37点vs.49点 88例(平均年齢52歳、女性21例[24%]、早期外科治療群44例、内視鏡治療群44例)が登録され、85例(97%)が試験を完遂した。ベースラインの平均年齢は早期外科治療群が7歳若かった(49歳、56歳)。全体の膵管径中央値は8mm(IQR:6~10)であり、16%で膵石と膵管狭窄が、74%で膵石のみ、10%で膵管狭窄のみが認められた。 早期外科治療群の44例中41例が手術を受けた(割り付けから手術までの期間中央値40日[IQR:32~65])。一方、内視鏡治療群の44例中2例で薬物療法が成功し、42例は成功しなかった。このうち39例(89%)が内視鏡治療を受け(施行回数中央値3回[1~4])、24例(62%)は不成功であった。22例で体外衝撃波結石破砕術が行われ、13例(30%)が外科治療を受けた。 18ヵ月の追跡期間中の平均Izbicki疼痛スコアは、早期外科治療群が37点と、内視鏡治療群の49点に比べ有意に低かった(群間差:-12点、95%信頼区間[CI]:-22~-2、p=0.02)。 追跡期間終了時に、疼痛の完全消失(Izbicki疼痛スコア≦10点)または部分消失(同>10点、かつベースラインに比べ50%以上の低下)は、早期外科治療群が40例中23例(58%)、内視鏡治療群は41例中16例(39%)で達成され、両群間に有意な差はなかった(群間差:19%、95%CI:-4~41、p=0.10)。 介入の回数は早期外科治療群で少なかった(群間差:-2回、95%CI:-3~-1、p<0.001)。一方、死亡(0%、0~0)、入院回数(0、-1~0、p=0.15)、膵外分泌機能不全(3、-10~15、p>0.99)、膵内分泌機能不全(-16、-36~4、p=0.12)、QOL(身体機能:3、-2~8、p=0.21、心の健康:3、-2~8、p=0.21)には、両群間に有意な差はみられなかった。 有害事象は、早期外科治療群で12例(27%)、内視鏡治療群では11例(25%)に認められた。早期外科治療群の有害事象はすべて術後の合併症であり、内視鏡治療群は7例(16%)が内視鏡治療後の合併症で、5例(38%)は外科治療後の合併症だった。 著者は、「この差の長期の持続性を評価し、これらの知見の再現性を確認するために、さらなる検討を行う必要がある」としている。

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企業による資金提供は、患者会に影響を及ぼすか/BMJ

 患者会への企業による資金提供は一般的に行われており、企業からの財政支援を抑制する指針を持つ患者会は少なく、資金提供に関する透明性も不十分であり、資金提供を受けた患者会は出資企業にとって有利となる立場を取る傾向があることが、オーストラリア・シドニー大学のAlice Fabbri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年1月22日号に掲載された。患者会は、保健医療(消費者教育、医学研究助成、薬剤や治療法の承認および公的保障に関する決定への寄与)において重要な役割を担うが、製薬企業や医療機器製造企業を含む複数の財政支援源に依拠することが多い。利益相反および患者会の品位や独立性に関する潜在的な脅威があるため、企業と患者会の財政上の関係への関心が高まっているという。患者会への資金提供の影響をメタ解析で評価 研究グループは、製薬企業および医療機器製造企業による患者会への資金提供の影響について調査する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2018年1月までに医学データベース(Ovid Medline、Embase、Web of Science、Scopus、Google Scholar)に登録された文献を検索した。また、選択基準を満たした論文の参考文献を調査するとともに、この分野の専門家に連絡を取って情報を収集した。 対象は、患者会に関する横断研究、コホート研究、症例対照研究、分割時系列解析、前後比較研究を含む観察研究であり、以下のアウトカムのうち1つ以上を報告している研究とした。(1)企業から資金提供を受けている患者会の割合、(2)企業から資金提供を受け、当該の資金に関する情報を公開している患者会の割合、(3)企業からの資金提供と、健康や施策の問題に関する組織の立場の関係。言語や出版形態は問われなかった。 複数の研究者が独立にデータの抽出を行い、2人のレビュアーが独立に個々のアウトカムに関するエビデンスの確実性を評価した。エビデンスの質はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)システムで評価した。出資企業の利益を誘導するバイアスを防ぐ戦略が必要 2003~18年に発表された26件の研究(27論文、すべて横断研究)が解析に含まれた。ほとんどの研究は、複数の疾患領域の患者会を含んでおり、主に欧米の高所得国で行われた研究であった。 26件の研究のうち15件で、企業から資金提供を受けている患者会の割合が報告されていた。その割合は20%(12/61組織)から83%(86/104組織)にわたっていた。 企業から資金提供を受けている患者組織のうち、27%(175/642組織、95%信頼区間[CI]:24~31)がウェブサイト上で情報を開示していた。米国政府機関との協議における開示率は、2つの研究で大きく異なっており(米国疾病予防管理センター[CDC]:0%、米国食品医薬品局[FDA]:91%)、関連する政府機関の開示要項の違いを反映していることが示された。 企業による財政支援を抑制する組織方針を持つ患者会の割合は、2%(2/125組織)から64%(175/274組織)にわたっていた。 4つの研究が、議論の多いさまざまな問題に関して、企業からの資金提供と組織の立場の関係を解析しており、企業から資金提供を受けている患者会は受けていない患者会に比べ、全般的に出資企業の利益を支持していた。 潜在的な有害性に関する情報の包括性を評価した研究では、情報の項目数は、企業から資金提供を受けている患者会が3.7項目(標準偏差:3.7)、受けていない患者会は10項目(同4.2)であり、統計学的に有意な差は認められなかった(Mann-Whitney検定のp=0.1)。 著者は、「主要なアウトカムに関するデータの質が低いため、これらの結論は限定的なものとなる」と指摘し、「患者会は、患者支援や教育、研究において重要な役割を担うため、出資企業の利益に有利となるバイアスを防ぐための戦略が必要と考えられる」としている。

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限局性前立腺癌、治療法に対するQOL調査:各治療に伴う機能的な差は治療5年で目立たなくなる(解説:宮嶋哲氏)-1174

 本研究は、2011~12年に限局性前立腺がんの診断がなされ、2017年9月までに観察可能であったfavorable risk 1,386例とunfavorable risk 619例を対象としたprospective, population-based study(CEASAR study)である。 対象となった治療方法は、favorable risk患者では経過観察(active surveillance)、神経温存前立腺全摘除術、放射線外照射、低線量小線源療法であった。一方、unfavorable risk患者には前立腺全摘除術、アンドロゲン除去療法併用放射線外照射であった。各種治療に伴う機能的アウトカムをExpanded Prostate Index Composite(EPIC)で機能評価したところ、治療に伴う合併症(腸管ならびに性機能)の差異は、5年間の経過で減弱していく傾向を認めた。ただし、手術(前立腺全摘除術)がもたらす尿禁制と性機能の低下は5年経過しても他治療に比べ顕著であった。ただし、対象が限局性前立腺がんの患者のみである点、さまざまな習熟度の術者による手術が含まれている点、前立腺容量が検討に含まれていないなどlimitationも少なくない。 前立腺がんの診断後、その治療選択肢が多く治療特有のメリット・デメリットがあるために治療方針選択に難渋する患者は少なくない。そうした疑問に答えるべく、これまで同様の検討がなされてきた(Sanda MG, et al. N Engl J Med. 2008;358:1250-1261., Hamdy FC, et al. N Engl J Med. 2016;375:1415-1424.)。しかし、今回の研究は従来の検討と異なり、ロボット支援手術、IMRTを用いた外照射療法、低線量小線源療法と、最新の治療モダリティを対象としたコホートでの検討である点が目新しく興味深い。

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統合失調症患者の多遺伝子リスクスコア

 統合失調症の遺伝的病因は、他の主要な精神疾患の遺伝的病因と重複していることが、欧州系サンプルにおいて報告されている。金沢医科大学の大井 一高氏らは、日本人統合失調症患者または発症していない第1度近親者と主要な精神疾患を有する欧州患者における民族を超えた遺伝的特徴を調査するため、多遺伝子リスクスコア(PRS)分析を実施した。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2020年1月4日号の報告。 5つの精神疾患(統合失調症、双極性障害、うつ病、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症)および統合失調症と双極性障害を区別するPRSを算出するため、大規模欧州ゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータセットをディスカバリーサンプルとして用いた。これらのGWASから得られたPRSは、日本人対象者335例について算出された。欧州精神疾患患者のPRSを入手し、日本人統合失調症患者および発症していない第1度近親者におけるリスクへの影響を調査した。 主な結果は以下のとおり。・欧州の統合失調症および双極性障害患者のPRSは、日本人健康対照者よりも、日本人統合失調症患者で高かった。・統合失調症患者と欧州の双極性障害患者を区別するPRSは、日本人健康対照者よりも、日本人統合失調症患者で高かった。・欧州の自閉スペクトラム症に関連するPRSは、日本人健康対照者または統合失調症患者よりも、発症していない第1度近親者で低かった。・自閉スペクトラム症のPRSは、統合失調症の発症年齢の若さと正の相関が認められた。 著者らは「日本人の統合失調症リスクを検討する際、欧州の統合失調症と双極性障害に関連する多遺伝子情報は、民族を超えて利用可能であると考えられる。さらに、統合失調症を発症していない統合失調症患者の第1度近親者において、自閉スペクトラム症関連の遺伝子レベルを低下させることが、統合失調症の発症予防につながる可能性が示唆された」としている。

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ClinicalTrials.govへの結果報告、順守率は4割/Lancet

 ClinicalTrials.govへの試験結果の報告に関するコンプライアンスを評価したコホート研究の結果、2007年FDA改正法(Food and Drug Administration Amendments Act of 2007:FDAAA)の順守率は低いままで改善はされていないことが、英国・オックスフォード大学のNicholas J. DeVito氏らにより報告された。臨床試験の結果報告の不履行は、臨床診療のエビデンスの基礎を歪曲する可能性があり、被験者に対する研究者の倫理的義務違反や、重要な研究資源を無駄にすることを意味する。FDAAA 2007では、臨床試験のスポンサーが試験完了1年以内にClinicalTrials.govへ直接結果を報告するよう求めており、今回の改正のFinal Ruleの対象となる最初の試験は、2018年1月に結果報告書を公開することとなっていた。Lancet誌オンライン版2020年1月17日号掲載の報告。FDAAA 2007に基づく結果報告について分析 研究グループは2018年3月~2019年9月の間、毎月、ClinicalTrials.govに登録された全臨床試験のデータをダウンロードした。2019年9月16日にClinicalTrials.govから抽出したデータに関して横断分析を実施し、2018年3月~2019年9月の期間で毎月15日に最も近いアーカイブデータを使用して毎月の傾向分析を行った。 本研究では、FDAAAに基づき結果を報告すべきすべての臨床試験を組み入れ、該当しない臨床試験、報告期限前の臨床試験および報告延期の許可証明が与えられた臨床試験は解析から除外した。試験結果が提出され、ClinicalTrials.govで公開または品質管理審査中の場合は、報告されたものと見なした。法律に準じて主要な試験の完了日から1年以内に結果が提出された場合は、FDAAA 2007 Final Ruleを順守しているものとした。期限である試験完了後1年以内に結果報告がなされた臨床試験は40.9% 結果を報告すべき臨床試験は4,209件で、このうち1,722件(40.9%、95%信頼区間[CI]:39.4~42.2)は1年の期限内に結果を報告しており、2,686件(63.8%、62.4~65.3)は随時結果を提出していた。 順守率は2018年7月から改善していなかった。企業がスポンサーの場合は非企業や米国政府がスポンサーの場合に比べ(オッズ比[OR]:3.08、95%CI:2.52~3.77)、同様に多くの臨床試験を実施しているスポンサーは小規模のスポンサーに比べ(11.84、9.36~14.99)、順守する傾向が有意に高かった。提出期限の主要な試験の完了日から提出日までの期間は、中央値424日(95%CI:412~435)であり、法的報告要件である1年よりも59日遅れていた。 本研究はFDAAA 2007 Final Ruleの順守率を詳細に評価した最初の研究であり、著者は、「順守率の低さは、規制当局による強制力の欠如を反映しているものと考えられる。スポンサーの実効と行動が必要であり、各スポンサーがコンプライアンスに関する監査を公開することが有用であろう」としたうえで、「各スポンサーおよび臨床試験に関するコンプライアンスデータを、ウェブサイトfdaaa.trialstracker.net.で更新し続けていく予定である」と述べている。

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卵巣がん初回治療後の維持療法でオラパリブ+ベバシズマブはPFSを延長も、日本の臨床現場への適応は一部施設に限るか(解説:前田裕斗氏)-1173

 進行期IIIまたはIVの進行卵巣がんにおける、初回治療(腫瘍減量術などの手術+プラチナ・タキサン[TC]・ベバシズマブ[以後Bevと表記])後の維持療法について、Bev単独とBev+オラパリブ(以後Olaと表記)を比較したRCTである。結果はprogression-free survival(無増悪生存期間、PFS)についてBev+Ola群で有意に長いという結果が出た(中央値、22.9ヵ月vs.16.6ヵ月)。 現在日本での進行卵巣がん初回治療における化学療法としては、dose-dense TC(TC療法のやり方の1つ)またはTC+Bevが行われることが多い。一方、初回治療後に行う維持化学療法には従来はBevという選択肢しかなかったが、SOLO1試験においてプラチナ製剤使用後にBRCA遺伝子に異常がある群でOlaのPFS改善効果が非常に高かったことから、日本でも初回治療の際にBRCA遺伝子変異を調べ、陽性の場合TC→Olaを行う施設も増えてきている。つまり、維持療法まで視野に入れると現状日本ではTC+Bev→BevまたはTC→Olaの2つの選択肢があることになる。 こうした日本の現状を考えると、今回のPAOLA-1試験はTC+Bevに対するOlaの上乗せ効果をみたものであり、TC→Olaを行った群がないことから日本の臨床現場において今回の結果がどのように利用されるかは未知数である。少なくともTC+Bev→Bevを採用している施設ではOlaを上乗せする選択肢を検討することになるだろう。その場合の注意点として、あくまで延長しているのはPFSであり、Overall Survival(全生存期間、OS)でないこと、そして新規薬剤の上乗せによくある話だが、医療費がかかることは考慮する必要がある。 また、BRCA変異が陰性でhomologous-recombination deficiency(相同組み換え修復異常、HRD)も陰性またはステータス不明の群ではBev+OlaのPFS延長効果は認められなかった。HRDについては臨床現場ベースで使用にたえうる検査は少なくとも日本では存在せず、一般に利用不可能であることを考えると、HRDの日本における頻度を調査する研究か、実際に日本でTC+Bev→Bev+Olaの効果をみた研究が待たれる。PARP阻害剤には今回のOlaparibの他にも多様な薬剤が存在するほか、免疫チェックポイント阻害剤を用いた臨床試験も進んでおり、薬剤によってはHRD陰性のサブグループでも疾患増悪または死亡リスクが有意に低くなるという結果も報告されている。上記のように卵巣癌の化学療法は現在研究が進むホットな分野である一方、OSの延長効果はなく、副作用や、医療費の問題があり、バランスをとることも求められる。今後も展開に目が離せない領域と言えるだろう。

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